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「終わった終わった」
 今日も一日働いて、ようやく帰宅となったシンタローは、リビングルームに入るとバサッ、と重苦しいジャケットを脱ぎ捨てた。上手く、ソファーの背もたれにかかったそれにはもう視線をそらし、ポケットからがさこごとタバコを引っ張り出すと、反射的に開いていた口に放り込み咥え、火をつけた。

 ポッ。

 灯る明かりと同時に、深呼吸するように、それを吸い込む。
 煙が喉から肺へと行き渡り、一回転したぐらいで、再び吐き出した。
 紫煙がゆるゆると天へ上る。ぼぉと緩んだ表情でそれを見つめ、テーブルの上に置かれてあった灰皿を片手に、リビングの床に行儀悪くべたりと座り込んだ。
 ソファーはもちろんあるのだが、すでに先客が床の方に座っていたので、そちらにする。
 その行動に、すでにいた先客はちらりとこちらに視線を走らせた。
 けれど、何も言わない。
 手には、厚い書類の束があって、視線はすぐそちらに戻っていた。
(仕事か?)
 自分の分の仕事は、全て片付けてきた。
 今日は、相手は、研究室の方へ顔を出していたから、たぶん手にしているそれも、それ関係のものだろう。
(俺には、家にまで仕事を持ち帰るなって怒るくせに、自分はいいわけね)
 もちろんそれは自分の身体を気遣っての言葉だと知っているけれど、こちらだって相手を心配するのだということは分かっているのだろうか。
 先客に視線を向けたシンタローは、そんなことを思いつつ、子供のように少し拗ねたような顔をして、彼の後ろを陣取った。
 文句はいいたいが、とりあえずそのまま、ゆっくりとその背を相手の方へと傾けた。
「疲れたぁ~」
 間の抜けた声を出し、相手の背中に乗りかかる。
 自分の体は決して軽いものではない。
 けれど、相手は、しっかりとその重みを受け止めてくれた。
 分かっているから、安心して預けられる。
「お疲れ様」
 そうして返してくれた律儀な返事に、口に咥えていたタバコをはずし、ニヤリと笑みを浮かべる。
「ああ、そっちもお疲れ」
 言葉を投げかけ、シンタローは、タバコを灰皿の上でもみ消した。
 それを察したように、相手の背中がこちらの背中を押して、その反動とともに、こちらを振り返った。
 シンタローも同じタイミングで振り返る。
 不思議なことに、そう言うところは互いに決してはずさない。
 互いに好きな道を歩いているのに、それでもタイミングよく交差し、その点で丁度出会う―――そんな感じで。
 視線がひたりと合わされた。

「お帰り」
「ただいま」

 当然のようにいつもの挨拶を互いに告げて。
 当然のように顔を寄せ合って。
 当然のように唇に触れ。
 当然のようにキスを交わした。






 ―――――けど、キスするタイミングがいつも同じだというのも考えものか?

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