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sdf

「空っぽなんだろうか…」
 そう呟く視線の先には、自分の従兄弟がいた。
 彼を従兄弟と称することに慣れたのはつい最近のことだけれど、そのポジションを得た男が、それに気付いたのか、落としていた青の瞳をこちらに向けた。
「何がだ?」
 自分の質問の意味が理解できないという表情を素直に顔に出している従兄弟を、じっくりと観察するように眺め、シンタローは唇の端を舐めた。
(空っぽだったらおかしいよなあ)
 さっきまで相手のど真ん中に向けていた視線を空中にほうり投げて、くるりと一回転させる。
 ついでに首もくいっと曲げて、
「もう詰まってるんだろうな」
 そう結論つけてみる。
(ふむ。それが当たり前だろう)
 空っぽのはずがない。
 それならば、相手が黙っているはずがないのだ。 
「……一体何の話だ?」
 その相手は、先ほどから不可思議な言葉をぽんぽんと飛び出させる黒髪の従兄弟に、眉間に皺を寄せ、唇を曲げていた。
 相手の考えが分からないことに苛立っているのだ。
 当然のことだけれど、自分もそうだが、相手もこちらの考えをある程度読み取ることができる。
 同じような物の考えをしているせいだけれど、だからこそ、こういう意思の疎通が出来てないと、金髪の従兄弟殿は、特に不機嫌そうな面になる。
 こちらの考えてることなどわかって当然だという自信をもっているのだから、仕方ない。
 その自信の持ち方に、少しばかり呆れも入ってしまうのだけれど、実際、相手はこちらの考えなどお見通しで、先回りもできる頭脳をもっているおかげで、相手の度肝を抜くなどということは、めったにできないのだけれど、どうやら、今の時点では、それに近いものが出来ているのだろう。
 自然と生まれた笑みは、ニヤリと音立てそうなほど意地の悪いもので、その笑みに、さらに相手が、むっとしたのは放っておいて、
「だから、その中にあった空間は、もう空っぽじゃないだろな、ってことを言ってたんだよ」
 相手の胸の辺りを指差して、肩をすくめて見せた。
「はあ? ――――悪い、シンタロー。俺には、何がなんだか理解できないのだが」
「そうか?」
(頭がいいくせに、想像力が足りん奴だな)
 空っぽは、空っぽだ。
 キンタローの中にある空っぽかもしれない部分といえば、あそこだろう。
「いや、その体って前に俺が使っていたじゃねぇか」
「ああ」
「んでもって、お前は、その中にいただろ?」
「ああ」
「で、俺の代わりにお前がその体を使い始めたんだよな」
「ああ。……シンタロー何がいいたいんだ?」
 まだ、分からないのだろうか。
 困惑気味な表情となってしまった従兄弟に、軽く唇をとがらせる。
「だからさ。元々お前がいた場所っていうのは、空っぽのまま放置されているのかな、って思ったんだよ」
 今のキンタローの身体に自分がいた時は、は気づかなかったが、中にはキンタローという存在がちゃんといて、身体の中の幾分かを占めていたのだ。
 けれど、自分はそこから追い出され、キンタローは、元々自分がいた場所へと出てきてしまった。
 だが、それならば、元いた場所はどうなっているのだろう。
 そんなことをついさっき思いついてしまったのだ。
「――――そう言うことか」
 ようやく納得したと頷いてくれる相手に、こちらは身を乗り出す勢いで、すかさず尋ねた。
「そう言うこと。で、どうなんだ?」
「どう、とは?」
「空っぽか?」
 興味深々という眼差しで、相手を見つめていたのに、出てきた答えは、あまりにもつまらないものだった。
 淡々とした声音で、相手は告げる。
「いや、消えてる」
「消えてる?」
「ないぞ、もう。そんな空間は」
「少しも?」
「少しも」
「ちっとも?」
「ちっとも」
「まったく?」
「まったくだ」
「あっ、そう」
「そう」
「ふ~ん」
(そういうもんなんだ)
 疑問が解決したら、とたんにくだらないものに時間を費やしてしまったと思えてくる。 
 別にたいして悩んでいたわけでもないし、聞きたかったことでもない。ただ、思いついたことだから、答えが得られたとたん、一抹の寂寥感を感じてしまう。
 あっさりと消えてしまった疑問に、心の中にぽっかりと生まれた空間。
「今度は、俺の中に空っぽが生まれたじゃねぇかよ」
 溜息まじりでそうぼやけば、呆れた顔をしたキンタローが、こちらを睨む。
「馬鹿なことを言ってないで、仕事をしろ。いいか、くだらない質問をせずに、真面目に仕事に専念してくれ」
「二度言うなっ! わーってるから」
 まったくつまらないことに時間を費やしてしまった。
 ガリガリと頭を掻いて、仕事へと眼を向ける。
 現実は、目の前に埋まっている。

 空っぽ。
 空っぽ。

 この机の上に盛り上がった書類が全部空っぽだったら、どれだけ楽か。



 ――――――現実はそんなに甘くはありませんってか?

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