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「あのさ」







 どうやら雲の中に入ったようだ。
 眠るコタローの様子を見に行き、何事もないのを確認すると、ガタガタと大きく上下に揺れる機内を不安定に、狭い通路を歩いていく。
 通路の小さなアクリル製の窓の外を覗き込むと、瞬間目の前が真っ白になる。と思うといきなり大粒の雨が窓を叩き、ふっと視界が開けた先にある黒々と陰影をつけて続くものが雲影なのだと理解した時点でとっくに風勢で水滴は吹き飛ばされている。

「すげぇ風」

 雲間を縫うように飛んでいるのを理解してまた歩き出す。
 たどり着いた先の重厚なドアが開くと、書斎ぐらいの大きさの部屋の中で、真面目な面持ちでソファに座って、マジックも俺と同じように窓の外を見ていた。
 俺と目が合うと、途端に真面目とかけ離れた破顔一笑。

「シンちゃんようこそおかえりご苦労様!」

 …見なかった事に。
 なんつーかもう手の中の俺に模したヌイグルミ(ンな時にまで持ってきてやがったのか)といい浮かれた調子といいただひたすらムカつくので。
 見てない。俺は何も見てない聞いてない。

 さっきまでの激動がまるで嘘みたいにユルい空気。
    いや、嘘じゃない。パプワ島での俺達の運命は絶対に嘘なんかじゃない。
 無理矢理自分の中の時間を5分ほど前、つまり親父のいなかった状態に戻す。親父のテンションにつきあっていたら永遠に俺の話が進まない。
 こっちは真剣なんだ。

「あのさ」

「ん? なんだい」

 俺のひどく勝手な印象だろうが、コタローが親父の腕の中で気を失った時から、このひとは今まで俺が見てきた中で一番穏やかな顔を、している気がする。いや今のコレとはまた違う顔の話で、だ。そこん所は分かっておいてくれ俺。特に俺。思いこみでいいから。

「あ…」

 駄目だ。
 いきなり理由もなくパニックに陥りそうになる。
 知らないのは怖い。ことこの男に関しては特に。
 すべてを知るほど自分が見ていたとは全然思えない。
 もっとちゃんと見ておけばよかった、後悔もよぎる。
 知ろうとしなかった事がただ悔やまれた。
(だから今のコレとは違う話なんだってば忘れんな俺)
 ああ、もう。
 …こんな事にまで、弱い。
 畜生。
 自信なんか全然ねェよ。
 それでも踏ん張れヨ俺。
 言え。

「アンタの総帥席、俺にくれ」

 よし言ったッ。

「これ? いいよーさぁどうぞ!」

「違ーう」

 俺の言葉にマジックはうきうきと机の向こうにあった本革張りのハイバックチェアを差し出してきて脱力した。
 俺の一大決心をお約束でかわすなッ!

「そうじゃなくて…ガンマ団の、親父が今いるガンマ団の総帥の地位を俺に譲って引退しろって言ってんだ」

 なんとか立て直して、ぎり、と睨みつけて言った。言う事に必死だった。
 俺の言葉を受けても、親父の手元は未だヌイグルミを玩んでいる。
 っつか、どっかに置け。それ。邪魔。俺に向かってヌイグルミで手ェ振ってくンな。

「……本気かい?」

「…俺は本気だ」

 反問されると無性に苛立つ。
 分かれよ、自分勝手に思う。親父の事なんて分かろうともしなかった癖に。
 俺が、本気なんだって。
 分かって欲しい。勝手だ。知ってる。
 でも、分かって欲しいんだ。

「さあて…、急な事だ。   話を聞こうか」

 一段、親父の声のトーンが変わった。
 これは、…これがガンマ団総帥マジックの声だ。
 さっきの、パプワ島で見せた時と同じ。
 餓えた獣と向き合っているような、スキのない、くそ、眼が逸らせない。

「そんなに身構えなくても大丈夫だよ。別にパパはシンタローに反対しているわけじゃない。だけど今は三国相手に仕掛けてる最中だからね。煩雑だよ。色々と」

「戦争は、しない。  殺しはしないんだ。ガンマ団は人殺しの集団じゃなくする」

 瞬きもせず俺が言い切ると、失笑された。
 届かないのか。伝わらないのか。
 まだ俺はアンタの手の中なのか。

「難しいね」

 笑いを収めて俺の目の前に改めて対峙した男に言われて、穴が開いたような失望を覚える。理解してくれと願ってやまない自分に。理解をしない、アンタに。埋まるはずのないものに。
 出来もしない事と。
 俺だって分かるさ。そんなの。
 それでも。それでも。それでも。

「今更そんな風に変えられるかな。…おまえの言うのは夢でしかないよ」

「でも変える」

「どうやって」

 寸分の間もおかずに聞き返されて、言葉に詰まる。

「統制ひとつとった事のないおまえにそれが出来るのかい。それとも殺されかけても平和裏に、そして死ねとでも?」

「ッ…そんな事、出来るわけないだろ!」

 カッと頭に血がのぼった。
 怒鳴り散らしたのだと最初気づけなかった。

「ならどうする」

「   それでも変える。誰でもない俺が決めた」

 大きく深呼吸をして、頭に血が上るのを抑えようとする。
 もう一度、親父の瞳を睨めつける。

「俺は、あそこに、パプワ島に来た事を無駄にしたくないんだ! …そりゃ、分かってるよ。俺一人で出来る事なんてないじゃないか。出来ない癖に誤魔化して力業で、盲打ちでがむしゃらにやっていくしかないんだよ! こんな、今にもアンタにワガママぶつけて八つ当たりしたいのに、そんな大層な事出来るわけがねェ…!」

 それでも。退くな。言っちまえ!

「でも俺は一人じゃない。俺だけで変えるんじゃない。皆で。目の前の、出来る事から始めていく。一個ずつでいいんだ。変えていく。変えていける」

 大丈夫だろうか。
 マジックに語る俺の外側から、客観性が空間を認識しようとする。
 今いる己の立ち位置を。
    泣きそう、かも。俺。情けねェの。

「だから頼むから、」

 弱さが溢れそうになるのを必死で押し隠そうとする。
 駄目だ。引くな。

「頼むからこれ以上、   」

 これ以上あんたが、ひとの命を奪わないでいられるように。
 言わせないでくれ。
 頼む。

「OK。ダーリン   おまえの望むままに」

「……~~~」

 なんかもう、震えた肩を抱きしめられてぽんぽんって背中たたかれて宥められて髪にキスされて、いつもならものすごく不本意な扱いをされてるけど。
 ひとりじゃない。
 だからこんな風に俺が力が抜けてても大丈夫なんだって、信じたい。











































2003.12.17. BGM:リリィ

24歳。パパと対等に近づこうと努力すると
単にワガママ言うてるかんじになるのはどうして。





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