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 夜中に喉の渇きを覚えたキンタローは部屋に備え付けの冷蔵庫を開けたが、あいにく中に飲み物は入っていなかった。どうしようか一瞬迷ったが、ないとわかるとよけいに喉が乾き、結局ダイニングに飲み物を求めに行くことにした。
 生あくびをしながら誰もいないであろうドアを開けると、意外なことにそこにはシンタローがいた。奥のキッチンにはマジックもいて、後はもう寝るだけだというのに忙しく料理を作っている。
「おう、キンタロー。どうした?」
「いや、喉が渇いたのだが…」
 状況が把握できずにぼうっと立ち尽くすキンタローにシンタローが笑いかけると、とにかく座るように促された。ダイニングの自分の席につくとマジックがミネラルウォーターの入ったグラスを持ってきてくれる。
「ごめんね~。せわしないことしてて」
「いや」
 マジックはニッコリ笑うと鍋の火加減を見にキッチンに戻った。ダイニングのテーブルではシンタローがホイッパーを片手に何かを懸命に混ぜている。
「それは、何をしているんだ?」
 好奇心にかられて聞いてみるとシンタローは手を休めることなく、ケーキを作っているのだ、と応えて言った。
「こんな時間にか?」
「ああ。明日はグンマの誕生日だからな」
「誕生日だとケーキを作るのか?」
「そういうわけじゃないけどよ。久しぶりに誕生祝でもしてやろうかと思ってよ」
「シンちゃんってばひどいんだよ」
 料理の仕込みをしているのだろうか、マジックが包丁を片手に話に混じってきた。
「パパにも内緒で誕生パーティしようとしてたんだよ! ハーレムが連絡くれなかったらパパなんにも知らないところだったよ」
 そうなのか?とキンタローが見ると、シンタローは苦笑しながら手を止めた。
「だってよ、ケーキと簡単な料理ぐらいしか用意するつもりなかったんだよ」
「でもそれじゃ寂しいでしょ~。久しぶりだし」
「久しぶり、とは?」
「二人が士官学校に入るまでは毎年してたんだけどね」
「10代も後半になった男が誕生パーティなんて普通しねーよ」
 どこか恥ずかしそうに言い捨てて再びホイッパーを動かしだす。
「誕生日とはパーティをするものなのか」
 素直なキンタローの言葉にマジックとシンタローが顔を見合わせる。これは話の仕方が拙かったか、とお互いに反省した。キンタローはまだ体こそシンタローと変わらないが、小さな子供と同じなのだ。
「何かおかしなことを言ったか?」
 不思議そうに首を傾げるキンタローにマジックは目元を和ませ、かつてシンタローにそうしていたように優しい口調で言う。
「おかしくはないよ。確かに誕生日にパーティをするからね。でも、誕生日はパーティをする日じゃないんだよ」
「では、どういう日なんだ?」
「生まれてきたことを感謝する日さ。キミがこの世に生を受けて、生まれてきてくれてありがとう、と。そして祝うんだ」
「祝う…」
「そう。その形がパーティだったり、プレゼントだったりするだけだよ」
 なるほど、とキンタローは思った。それはとても温かい風習のように思える。そしてそんなふうに祝ってもらえるグンマが、正直言って羨ましかった。だからつい口に出たのかもしれない。
「俺にもあるのだろうか、そんな日が…」
「もちろんあるとも! シンちゃんと同じ24日さ!」
「お前の時も俺がケーキ作ってやるよ」
「だーめ! シンちゃんのお祝いもするんだから」
「俺はいいよ」
「ダメダメ!」
 テレて笑うシンタローにいつもどおり我を張るマジック。初めはコミュニケーションでもそのうち押し問答になり、やがて親子喧嘩に発展する。今回も険悪なムードになりそうなところを察したキンタローがさりげなく制止をかけた。
「マジック」
「ん? なに、キンちゃん」
「焦げ臭い」
「…あ! お鍋を火にかけっぱなし!」
 慌ててキッチンに戻るマジックにシンタローが、バーカ、とからかいながら舌を出す。そんな姿を見て、仲のいい親子だ、と思うが口にはしない。シンタローがムキになって怒るからだ。
 改めて作業に戻るシンタローにキンタローがたずねた。
「俺も何か手伝うか?」
「いや、手は足りているから。もう休め」
「だが」
「そうだな、明日起きたら部屋の飾り付けを手伝ってくれよ。そこまではたぶん手がまわらねーから」
「わかった」
 素直にひとつうなずくとグラスに残ったミネラルウォーターを飲み干して席を立った。ダイニングを出て行こうとしたその時、ふと思い立ってドアの前で振り返った。
「シンタロー。ひとつ聞きたいのだが」
「なんだ?」
「グンマに内緒でパーティをすると言っていたが、今夜グンマがダイニングに来たらどうするつもりだったんだ?」
 例えば今の自分のように、喉が乾いた、という理由で偶然ダイニングに姿をあらわすということもあるかもしれないだろうに。
「ありえねぇよ」
「その根拠は?」
「晩飯に一服盛ったからな。昼までぐっすりだ」
 まったく、あきれてものも言えない。自分がされたら烈火の如く怒るくせに、人にはしれっとやってのける。所詮シンタローも一族ということか。
 目を丸くして言葉もないキンタローにシンタローはにやりと笑うと、まるで追い払うように手を振った。
「ホレホレ。さっさと寝た寝た! 計画を知ったからにはお前にも一枚かんでもらうぜ。明日は準備にたたき起こすからな!」
「了解した」
 肩をすくめて喉で笑うとダイニングを後にした。


 自室に戻る足取りが妙に軽く感じられる。なんだか意味もなくそわそわしているが、決してその感じが不快ではない。
 明日は早く起きてシンタローとマジックを手伝わなければ。準備の手伝いというよりは、つまらないことですぐに口論を始め作業がお留守になりがちな二人の監視役かもしれないが、それはそれでまた楽しさを感じる。
 そういえばマジックが誕生の感謝を表すことにプレゼントを贈るといっていた。なにか用意をしたほうがいいだろうか。グンマは一体何を喜んでくれるだろう。

 キミがいるということを、キミの生誕を
 言祝ぎ、そして慶ぶという行為。
 なんとすばらしいことであろうか。

 キンタローはベッドにもぐりこみながら、温かいものを胸に感じる。

 キミがある、すばらしき記念。
 キミが生まれた、良き日。
 この喜びを伝えたいから――。



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 空は青く澄みわたり、陽光は穏やか。眼下に群れをなし飛ぶ鳥が見える。
 キンタローは暖かい日差しの差し込む研究室で、なんとなしに外を眺めていた。
 二十四年間、彼は外の世界を知らなかった。だから見るもの聞くものが面白く、興味深い。本を読むことや今のようにただ外の景色を眺めること。それだけのことが彼にとっては意味のあることになる。

 髪を切ったらどうかな?

 金髪の従兄弟に薦められ、親代わりの高松も同意したので長い髪を切った。信念があって伸ばしていたわけではないので、そのこと自体にはさほど抵抗はない。不思議だったのは、それまでシンタローに似ていると思っていたのがさほど似て見えなくなった。鏡の前にいる人物は間違いなく自分なのに、まるで違うように見える。「自分」になれた気がした。そんなことが面白く感じられた。
 窓辺で外を眺めていると、研究室のドアが開いた。
「ふあぁぁ。疲れたー。…あ、キンちゃん」
 グンマが両手に資料を抱えて本当に大儀そうに入ってきた。午前中は会議だといっていたので抱えているのは会議資料だろう。それを無造作に机に投げ置くとちょこまかとキンタローのそばによってきた。
「なに見てんの?」
「別に」
「ふぅん」
 グンマといて楽だと思うのはこういう時だ。自分でもわからない行動について事細かに探り出そうとはしない。キンタローが『外を見ている』という行為が彼にとって全く無意味な行動というわけではないのだが、それをどう説明していいかわからない時、無理をして言葉を引き出そうとはしない。それはグンマの心遣いではけっしてない。だからといってグンマ自身が他人に無関心というわけでもない。ただグンマにとってそれが自然な行動なのだ。そのことはキンタローもわかっている。
 グンマがキンタローの隣にやってきて、何が見えるのかなー?とつぶやくと、額と鼻の頭をガラスに押し付けるようにくっつけながら一緒になって外を眺める。
 同じ年だというのに全く稚気の抜けていない従兄弟の横に並んでキンタローも外を見る。
「なぁ、グンマ」
 と、そういいかけた瞬間
「グンマ! キンタロー! いるか!?」
 ものすごい勢いで研究室の扉を開け放たれた。現れたシンタローに違和感を感じたのは、彼がいつもの真っ赤な総帥服ではなく、大き目のシャツにジーンズというラフないでたちだったからだ。
「ど、どうしたの、シンちゃん!?」
「いるな? すぐ出るぞ、来い!」
「え、え~~~??」
 シンタローはグンマの腕を取ると、有無を言わさず引っ張っていく。呆気に取られ呆然と立ち尽くしているキンタローをシンタローが振り返る。
「おい、なにボサッとしてんだ! 早く来い! と、白衣は脱げよ!」
 思い出したかのようにいうとグンマの白衣を剥くように脱がせ、そのままそれを投げ捨てた。キンタローも急かされるままに白衣を脱ぐと、慌ててシンタローの後を追っていった。


 研究室を出てからのシンタローの行動は妙に慎重かつ迅速だった。誰にも見つからないようにプライベートエリアに駆け込んで、まるで逃げるようにエレベータに乗り込み地下の駐車場まで下りていく。
 エレベータを降りると一台の車が目の前に滑り込んできた。
「あ、この車…」
 グンマには見覚えがあるらしいVolkswagenのBeetle。古い車だがよく整備されていてエンジンの音も悪くない。もちろんボディは磨かれていて、新車よりずっと落ち着いたつやを出している。
「総帥~~~」
「お、ごくろうさん」
 運転席から情けない顔をしながら降りてきた年若い団員にシンタローが気軽に声をかける。
「悪かったな、こんな事に加担させて」
「悪いと思うなら俺が手引きしたってこと、秘書室の連中に内緒にしといてくださいよ! バレたら俺、殺される…」
「心配すんな。バレて殺されたら二階級特進させてやるから」
 笑いながらそう言うとグンマを後部座席に、キンタローを助手席に押し込める。
「死んだあとに昇進しても嬉しくないです…! それより早く帰ってきてくださいよ!」
「あー、わかったわかった。盛大に厳粛に団葬してやるから心配すんな」
 嬉しくないですー、と涙を流す団員を尻目に自分は運転席に乗り込むとアクセルを吹かして駐車場を飛び出し、裏門からガンマ団を後にした。
「久しぶりだね、シンちゃんのBeetleに乗るの」
 グンマが後部座席から身を乗り出して話しかけてくる。
「シンタローの車なのか」
「そう。シンちゃんがね、お給料を一生懸命貯めて初めて買った車なんだよ」
 まるで自分のことのようにグンマが自慢げに語る。
「だから僕には絶対触らせてくれなかったんだよね~。かっこよく改造してあげるって言ったのに」
 それは誰だって触らせないだろう、とキンタローは思ったが黙っておく。シンタローも何か言いたそうだったが、あえて黙りこんだ。
「でも、こんなに急いでどこに行くの? 何かあったの?」
「何かあったもナニもよー」
 シンタローが大仰にため息をつく。
「新総帥を就任してからこっち、ティラミスたちが休みなく働かしてくれてよ~。メシの時間も仕事の話、寝る直前までデスクワーク、夢の中でも仕事してて、もうイヤんなるぜ! 『息抜きのため、午後半休』って休暇届書いて決済印押してきてやったぜ!」
「シンちゃんさ~~」
 今度はグンマがあきれ返って深く嘆息する。
「仕官学校時代にも似た事あったよね~。そのたびに僕を巻き添えにしてさ」
 僕は講義受けたかったのにさ~、とブチブチ過去のことに対して文句をたれるグンマを、ルームミラー越しにシンタローがにらみつけながら言った。
「ンだよ、悪かったな。戻りたいんだったら降りてかまわねーぞ」
「ううん。僕も研究が行き詰まっていたし、会議ばっかりでクサってたトコ!」
「よっしゃ! キンタロー、オマエは?」
「サボタージュ。…いわゆるサボりというヤツか」
「イヤか?」
 ここでイヤだといえば、おそらくシンタローはこのままガンマ団に戻るのだろう。だが、このサボタージュという行為自体にキンタローは俄然興味がわいてきた。
「……悪くない」
「上等!」
 風でめちゃくちゃに髪を乱しながらシンタローは破顔するとBeetleのアクセルを思いっきり踏み込んだ。



sa
捕われたまま


「シンタロー」

名前を呼ばれるだけで。
彼の声を認識するだけで。
彼という存在を認識するだけで、泣きたくなってしまう。

「何?」
「少し背が伸びたな…髪も、伸びた」

穏やかに微笑む綺麗な貴方。
でも、時折とてつもなく冷たく見える隻眼の笑み。
貴方に嫌われたくないから、ただ笑顔を振りまく。
上辺っ面だけの、汚い笑顔。

「うん。髪伸ばしてるんだ。短いと余計ガキに見えるから」
「そうか…よく似合う」
「ありがとう、叔父さん」

貴方は俺によく似た人を知っていて。
俺は俺によく似たその人を知らない。
俺がそいつに似てるのか。
そいつが俺に似すぎていたのか。

「又すぐにどこかへ行くの?」
「いや、今回は少し滞在するつもりだ」
「そっか。又いろいろ話聞かせてよ」
「あぁ」

いつまでこんな腫れ物にでも触るかのような態度で接するんだろう。
いつまで俺は貴方のご機嫌伺いすれば良いんだろう。

「叔父さん」

それでも。

「好きだよ」

俺はあなたから離れられない。

gs
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超小話

「大丈夫だよ、シンちゃん」
グンマが春の暖かい日差しを思わせるような穏やかな笑顔に言葉をのせる。
「シンちゃんがね、『好きだ』って思っていることは必ず伝わっているよ
僕はシンちゃんのこと大好きだよ。僕の気持ちがシンちゃんにも伝わっていて、だから
シンちゃんも忙しい合間を縫って僕と会ってくれるんだよね?従兄弟って事やガンマ団員って事を抜いてさ」
シンタローはグンマと会うのに理由なんか考えたことも無い。そう自然に、だ。
振り返ってみれば単に馬鹿騒ぎしたいときや、気分が沈んだときグンマの顔を見ると心が軽くなった。
だがそれを素直に認めるのは癪に障る。なにせ能天気と書いてグンマと読むような人間が相手だ。
「……勝手にオマエがここまで押しかけてるんだろ」
一拍置いてそんな事を言っても、それは却ってグンマの言い分を肯定しているようなものだ。
事実、シンタローからグンマに会いに行く割合は半々と行った所だろうか。
従兄弟の照れ屋ぶりを重々承知しているのでグンマはうん。と頷き、知ってた?と続ける。
「僕と一緒にいるときのシンちゃん、間抜けな顔してるでしょ。それ見れるの僕だけだと思うとちょっと自慢」
そんなシンタローには分からないことをいいながらにゅっと両手を伸ばし、人差し指と親指で軽くシンタローの頬を掴むと横へと引っ張る。
「何すんだよっ」
シンタローは珍しくグンマがまじめな顔をして話すものだから油断してあっさりと頬を摘まれた。
青の一族にしては筋肉の付いてない細っこい腕を振り払う。
「ね?」
茶目っ気たっぷりに微笑む。
ふんっと顔を背ける。
「耳、あかいよー」うふふと女の子のような忍び笑いを漏らしながらグンマは素直じゃない従兄弟をからかう。
「うっせ」
横に向いたままのシンタローの頬を両手で挟み、バツが悪そうに目をそらせようとするシンタローの伏目がちな黒い目と無理やり視線を合わた。
「大丈夫だよ」
グンマは繰り返す。
「僕は、僕達は、シンちゃんのことが大好きだから」

H18.5.22
gs
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○月×日
今日もシンちゃんなぐられた。頭にたんこぶができてしまった。
少しふくらんだそこをそーっとさわるとふにふにしていた。
ぼくはその一言を忘れないようにこうして書く。
シンちゃんは『悪りぃ、いつかわびするよ』と言った。



「グンマぁ、入るぞー?」
シンタローがグンマの研究室を訪れる。
グンマはまだ二十歳にも満たないが専用の研究室をガンマ団本部に持っている。
高松に『僕も高松の様な部屋が欲しいな』と何気ない一言を漏らした翌日、グンマ専用のが出来た。
「遅いよー、シンちゃん。僕待ってたんだからね」
スーツの上に白衣を羽織ったグンマが、休憩用の椅子に座って不満そうに文句を言う。
テーブルの上にはすっかり冷めてしまったであろうお茶とお菓子がのっていた。
「いや、悪いな。練習が伸びちまってよ」
「うん。そうだろうな、とは思っていたんだけど」
グンマの長く伸ばした金色の髪と、くりっと大きな青い目から判るように青の一族だ。
いっぽう、グンマに言われる前に勝手に向いに座ったシンタローは一族の特徴と言われるその色を持たない。
黒の髪は訓練着の襟に掛かるかどうかという長さで、切れ長の瞳に輝くのは意思の強そうな髪と同色の黒だ。
本人はそれをとても気にしているようだかそれを表に出している姿をグンマは見たことはない。
「スーツに着られたグンマがこうして研究室に篭っているってのも慣れねーなぁ」
「いいの。僕、自分専用の研究室欲しかったんだから。だからそれに見合うような格好しているんじゃない」
「まぁ、そんなことはいいか。で、用件って何だ?」
シンタローは自分を呼んだ理由をグンマに訊ねた。

「そうそう!僕、別に世間話する為にシンちゃん呼び出したわけじゃないんだよ!」
力んで言う。すっと立ち上がるとそのままスタスタとなにやら色々機材の置いてある机に向う。
ばらばらと雑多に置いてあるものの中から一冊のノートらしきものを取ると、シンタローの元へと戻る。
が、今度は椅子に腰を落とさず、シンタローを威圧するように仁王立ちになり、
持ってきたノートをシンタローに突きつけた。
「何だよ?」
不審そうに何も説明無しにノートを押し付けたグンマに説明を求める。
「その付箋がある箇所開いてみてよ」
グンマがそういうのでシンタローはまずはそのノートの表紙を見ると毛筆で渋く『日記』と書かれていた。
グンマの日記とはすなわちほぼ恨み言だ。
それを重々承知しているシンタローはげんなりした様子でグンマを見上げる。
グンマは何も言わず無言で早く開け、という視線で応じる。
が、シンタローは再び表紙に視線を落としたままいっこうに開こうとしない。
グンマは「もう」と呟くと、ノートを開こうとしないシンタローの手からそれを取り上げ、
テーブルの上にバンッとその問題の日記を広げ、指差していた。
「シンちゃん! 僕、このときのお詫びまだしてもらってないよっ!!」

「…………お前さー、コレ何時の事よ?」
「え?」というと、パタンと日記を閉じ、手に取る。
さん然と輝く『日記』の文字のしたには□年、と書かれていた。
「えーっと、□年だから6年前かな?」
グンマはとしれっと当たり前のように答えた。
「なぁ」
シンタローは深いため息と共に言葉を吐き出す。
「なに?」
お詫びってなにしてくれるのかな?と期待に満ち満ちた目でシンタローを見る。
ご褒美をまっている子犬のようにつぶらな瞳だ。
「なんでお前って、そんなどーでも良さそうなことには細かいワケ?」
『どうでも良い』にかなり力を入れている。
「ひっどーい、シンちゃん!」
どうでも良い事、と言い切られグンマは憤慨する。
「どうでもいいことの分けないでしょ?僕、痛かったんだから!あ、いまでも殴られた所触ると痛い」
きっと殴られた箇所であろうところを指で触って痛いと繰り返す。
「んなわけあるかっ! 6年も前ことだろうがっ!!」
「痛いもんっ!!」
珍しくグンマもシンタローに劣らずの怒鳴り声で応じる。
そしてそのままの勢いで叫んだ。「だから看病して!!」
「はぁ~~?」
思い切り胡散臭そうに返事をする。無論承諾では無い。暗に馬鹿?と含ませている。
「何、シンちゃん。その返事」
グンマは頬をぷっくり膨らませて拗ねる。
青年には似合わない子供のような表情だが、グンマにはよく似合う。
その外見の可愛らしさの為だろうか。
「馬鹿らしい。そんな用事なら俺、帰るわ」
シンタローはグンマのそんな表情など見慣れたものなのだろう、チラッと一瞥すると気にも留めずにそう言い放ち腰をうかしかける。
「待ってよ!シンちゃん!」
慌ててシンタローの背後に回り肩に手をかけ椅子に押し戻そうとする。
が、グンマの力ではシンタローを引き止めることは出来ない。
どうしてもシンタローに看病というか、構ってもらいたいのかグンマは食い下がる。
「じゃあ、こうしようよ。僕の生まれてからのこの『日記』にあるシンちゃんの僕に対する
 酷い事したの、全部チャラにしてあげるよ」
「『生まれからの日記』?」
不審そうに呟くとそのままストンと椅子にもう一度座る。
グンマは取り敢えずは聞く体勢に戻ったシンタローにほっと息をつき肩から手を外し、
ごくごく当たり前の事のように答えた。
「そうだよ。0歳からの」
文字どころか感情すら上手くもてなかった赤ちゃんから?
シンタローは、グンマが遂に本当の馬鹿になったのかと思った。
「んなもんあるわけ無いだろうがっ!!」
「あるもん!」
勢いよくビシッと後の本棚を指差す。
そこの一部は日記コーナーになっていた。
シンタローがそちらに目を向けると、確かに、グンマが生まれたその年からの本が並んでいた。
「これ、最近は少しずつデジタル保存しているんだよ」
「……なに、画像読み込んだのか?」
シンタローは聞かずにはいられなかった。
一年は365日ある。1日1ページ、見開きで2日分だと、183ページ。
単純計算で十年で約1830ページ、二十年だとその倍の3660ページ。
それを全部読み込もうというのか、この単純馬鹿な従兄弟は。
その執念深さにあきれ返る。
「違うよ。それじゃあ、検索も出来ないし、容量食うし、見難いじゃない。
 画像を読み込んだらね、文字だけ取り込んでちゃんと文字データにしてくれる
 読み取り機械作ったんだよ。しかも特定の言葉を予め入れていたらそこだけ色もつくよ
 ちなみにキーワードは『シンちゃん』」
シンちゃんという言葉が出てきたら大体僕、苛められた事しかないし
と付け加える。
「…その日記の為だけに?作ったのか?それを?」
「うん」
正真正銘の馬鹿がいた。こいつは頭はいいが馬鹿だ。
シンタローは強く、そう思う。
「そもそもお前が自分でつける前のは誰が書いた?」
「嫌だなぁ、シンちゃん。高松に決まっているじゃない」
「ああ、あの変態。」
グンマ様命と公言して憚らない高松なら、と深く納得する。
「シンちゃん!高松のことそんな風に言わないでよ!」
「変態を変態と言って何がわるい。お前の一挙一動に『グンマ様』って鼻血流してるんだから
 立派な変態じゃないか」
「それ言うならおじさまだって変態じゃない。シンちゃんの事見るたびに鼻血だしてるよ
 しかもお手製のシンちゃん等身大人形をいつも抱いているし。高松はちょっと出血するだけだけど
 おじさまは実の息子をかたどった人形に囲まれて暮らしているんだよ?凄く変だよ」
それで反論したつもりなのか、とシンタローは鼻で笑う。
「ああ。そうだよ。アイツは変態の馬鹿だ」
「シンちゃん」
とグンマは口調を改め真顔で言う。
「高松はね、僕のお父さまのような存在だけど、おじさまはシンちゃんの実のお父さまだよ?」
「いいんだよ。俺はあんなヤツ親父だなんて思っていないからな」
「主観はどーあれ、客観的には立派に血の繋がったお父さまだよ」
「知らん」
一言で切り捨てた。
「あれ?」
グンマは話の流れが違う方向へ行っているのに気がつく。
「シンちゃん!話を逸らそうとしても駄目だからねっ!」
撒けなかったか、というようにちっとシンタローは舌打ちする。
「か・ん・びょ・う」
一字一字強調する。
「お前、元気に話しているじゃん。必要ないだろーが」
「必要なの!して欲しいの!」
シンタローはグンマの真剣に訴える瞳を見つめながら考える。
もし、このまま大人しく言う事を聞いてやれば取り敢えず今までの事は綺麗サッパリ無くなる。
今までの人生の中で、果たしてどれだけグンマに恨みを買っているだろうか?
検討も付かない。本当に些細な事まで書くのだ、コイツは。
ここは一つ、聞いた方が俺の為ではないだろうか?
そう結論づけると観念したように口を開いた。
「わーったよ」
「本当だね?!」
その言葉を聞くと嬉しそうにそう言う。
「で、看病って何すりゃいいんだよ?まさか本当に看病するワケじゃないだろ?
 お前元気だしさ。どっか遊びに行くのやら実験やらに付き合えば言い訳?」
お前の作ったロボットとの対戦ぐらいで済むなら安いもんだよ、と。
グンマは至って元気だ。
「うーん。でも本当の看病と似たようなものかな?」
「は?お前本当に具合悪いの?」
健康的なつやつやとした綺麗な肌。先ほども元気に叫んでいた。
とてもそんな風には見えない。
「ううん。別に病気なんかじゃないよ?それよりちょっと待っててね」
そのままロッカーが置いてある奥まで引っ込む。

暫くのち、グンマが「お待たせ~」と戻って来た。手に白いものを携えて。
「はい、シンちゃん、これ」
満面の笑みを湛えシンタローにそれを差し出す。
シンタローは素直にそれを受け取り、取り敢えず何か確認しようと広げる。
「……ナース服?」
「そうだよ。大きいサイズだから手に入れるの苦労したんだから」
「で、お前は何をしたいワケ?」
「看護婦さんと病人ごっこ」
グンマはぴっと人差し指を立て、真顔でのたまった。
「…………」
「この間、おじさまに教えてもらったの~。僕、シンちゃんにどーしてもその格好してもらいたいの。
 それで看病してもらいたかったんだ」
本当に嬉しそうに笑う。その筋の人間が見たら一発で陥落するであろうとても綺麗な笑顔だ。
その筋とは違うがグンマ馬鹿に名を連ねる、その筆頭の高松がこの場にいたら
どんな凄惨な事件が起こったのかという惨状になったこと間違い無しだ。
シンタローのそれを纏った姿を想像したのだろうか、グンマの笑顔が更なる輝きを放つ。
それを受け取りぷるぷると震える手で握り締めるその様子に気づかずに。
「新しい思い出が欲しいか、グンマ?」
勢いよくそれを投げ捨てると、グンマによく見えるように拳を固める。
「え?」
見る間にグンマの顔がザァと青ざめる。
過去、眼魔砲を食らったその悪夢が走馬灯の様によぎる。
「シ、シンちゃんの嘘つきーーーっっ」
魂の悲鳴が木霊した。



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