この世界は光か闇か
「……別に、この世界をどうこうしようなんて、思っちゃいないよ」
はるか昔から現在に至るまで、世界を変えられた奴なんかいない。世界を良くした奴もいないし、悪くした奴もいない。人は悪くなったと思いたがるみたいだけど、それが事実だ。世界は、今のままで十分に完成されているんだ。
「俺は世界を良くしたいんじゃない。それは不可能な話だ。俺は、ただ……このありのままの世界を笑って受け入れる人が増えてくれればいいと願っている。それだけなんだ」
どこか遠くを見るような目で、甥は言う。その美しくも清澄な瞳は、実際私の親友の決して持たざるものであり、この世界で前を見て生きていかねばならない者の、強さと確かさを備えていた。
「……私はいつでも、どんなことがあっても、お前の味方だよ、シンタロー」
私は微笑みながら言う。甥よりも幾分か長い年月を生きている私には、甥が覚悟しているよりもはるかにその道則が困難であろうことが見えていた。だが、今この場でそのことを口にして、甥の意気を挫くこともない。未知の領域に乗り出そうとしている甥の不安が、私の同意ごときでいくらかは解消されるのなら、それで十分なのだろうから。
「……ありがとう、サービス叔父さん」
甥は、蕾が花開くようにあでやかに笑った。私ももう一度優しく微笑んで、甥の額に祝福の口づけを落とした。
半ば《青の一族》でありながら、その負の部分を全く受け継がない甥が、羨ましくも、誇らしくもある。この子は絶対に、我々兄弟のような過ちを犯すことはないのだろう。
それと同時に、私のような──我々のような《古い青の一族》の人間は、もう必要がないのだろうと──そうならなければいけないのだと思い、一抹の寂しさを覚えた。
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(07.04.14.)
「……別に、この世界をどうこうしようなんて、思っちゃいないよ」
はるか昔から現在に至るまで、世界を変えられた奴なんかいない。世界を良くした奴もいないし、悪くした奴もいない。人は悪くなったと思いたがるみたいだけど、それが事実だ。世界は、今のままで十分に完成されているんだ。
「俺は世界を良くしたいんじゃない。それは不可能な話だ。俺は、ただ……このありのままの世界を笑って受け入れる人が増えてくれればいいと願っている。それだけなんだ」
どこか遠くを見るような目で、甥は言う。その美しくも清澄な瞳は、実際私の親友の決して持たざるものであり、この世界で前を見て生きていかねばならない者の、強さと確かさを備えていた。
「……私はいつでも、どんなことがあっても、お前の味方だよ、シンタロー」
私は微笑みながら言う。甥よりも幾分か長い年月を生きている私には、甥が覚悟しているよりもはるかにその道則が困難であろうことが見えていた。だが、今この場でそのことを口にして、甥の意気を挫くこともない。未知の領域に乗り出そうとしている甥の不安が、私の同意ごときでいくらかは解消されるのなら、それで十分なのだろうから。
「……ありがとう、サービス叔父さん」
甥は、蕾が花開くようにあでやかに笑った。私ももう一度優しく微笑んで、甥の額に祝福の口づけを落とした。
半ば《青の一族》でありながら、その負の部分を全く受け継がない甥が、羨ましくも、誇らしくもある。この子は絶対に、我々兄弟のような過ちを犯すことはないのだろう。
それと同時に、私のような──我々のような《古い青の一族》の人間は、もう必要がないのだろうと──そうならなければいけないのだと思い、一抹の寂しさを覚えた。
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(07.04.14.)
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7/20のチャットネタ
「ついに完璧なる成功ですよ!」
僕らの素敵なマッド★サイエンティスト・変態科学者・グンマのお守り(保護者)・鼻血・・・・・・・・・・・・・まあ色々言われ方はあるが、
彼、Dr.高松は今日も飽きずに研究室に引きこもり怪しげな笑いを洩らしながら、更に怪しげな研究に心血を注いでいた。
誰も居ないのにビシッ!と片手に物体Mを高々とぶら下げて高笑いを始める。
こんな姿と物体Mを見たら、小さな子どもは泣き出すだろう。
大きな大人は腰を抜かすだろう。
「さあ、貴方の名前を決めましょうねv」
物体Mを愛しそうに見つめ、話しかける。
その度物体Mは、暇なのか足をゆらゆらと動かしていた。
「ケンタッキー、ホワイトフィッシュ、マンダーラガンダーラ、クララ、春巻き・・・おやおや気に入らないんですか?」
次々と物体Mにいい名を授けようと並べてみるがどうもその中のどれも嫌だと、足をバタつかせて訴えている。
何故最後だけカタカナじゃないのかは謎だった。
次々とあげていった名前に一貫性がないのは更に謎だった。
「それじゃあ―――」
「朝練はここまでにしとこーぜ!」
「シンタロー、まだ一時間しかやってないっちゃ」
「馬ー鹿!今日は筆記テストがあんだろ。言っとくが力があるだけじゃガンマ団では生き残れないぜ?」
「すっかり忘れてたべ!」
「なぁーに!当たって砕けろじゃけんのぉ!!」
「そないな事言うて・・・ほんまに砕けたら意味ないでっせ?」
ゴンッ
見事にシンタロー+ローカル三人衆の拳骨が、朝っぱらから不吉なことを言った京都人の頭に同時にHITした。
根暗な京都人は地に沈んだ。
「さーて!少しでも勉強しとくか!」
シンタロー達は年齢で言えば高校生。
普通の高校ではなく、ガンマ団の訓練校でもテストからは逃れられないのだ。
必死に詰め込めるだけ知識を詰め込んで迎えたガンマ団特別筆記テスト。
しかし誰も一問も解けなかった。
とりあえず成績TOP(らしい)グンマですら分からない箇所が多過ぎだ。
それにも呆然としたが、目の前の【転校生】を紹介され、勉強し過ぎて頭がイカレてしまったのかと皆は思った。
「転校生だ!気にするな」と涙目で言ったガンマ団員(筆記テスト監視者)に紹介された転校生は、
「大根だべ」
「人参にも見えるべ」
「・・・Dr.高松に押し付けられ―――・・・今日から入れて欲しいと頼まれた、新しい諸君の仲間、名前は股んGO!君だ。
何でも朝鮮人参と練馬大根で出来たDrの最高傑作らしい」
気にするなと言われても無理だ。
朝鮮人参と練馬大根で出来たこの物体を仲間だ転校生だの言われても。
しかも
「筆記テスト受けとるどす・・・」
与えられた机にどっかりと座り、テスト開始の合図と共に手らしき部分で鉛筆を握りざっざかと問題を解き始めた。
しかもこんな難し過ぎる問題に臆することもなく鉛筆を進めていく。
―――高松が作ってたのってこれ?
―――あんのマッドサイエンティスト!!
―――大根のクセに問題解くの早いっちゃね!
―――人参じゃなかったべ。
―――シャーペンじゃないんじゃのう。
―――友達になってくれるでっしゃろか?
そんな事考えてる暇があったら手元の問題をさっさと解こうとすればいいのだが。
一週間後の結果は皆、悲惨なものだった。
常に95点以上はキープするグンマですら50点である(それでも高得点の方)。
何と平均点5点である。
「情けないですねぇ、グンマ様はともかく」
馬鹿にした溜息をわざと洩らしながら近づいてくるのは股んGO!の生みの親・高松。隣には噂の股んGO!が控えていた。
しかもちゃんと服も装着済み。
「こんな内容習った記憶がねえよ!」
テストをビシッ!と突き出す。
「4点ですか。平均点いってないじゃないですか。股んGO!なんて100点ですよ」
ぴしっ
空気が凍った。
「まあ、あったま悪い君達には難しかったですかね。
何せ担当と交渉して今回のテスト内容は英国の一流大学の医療関係に関するテスト問題に変えさせていただきましたから」
―――解ける筈ないじゃねーか(だべ・だっちゃ・じゃけん・どす)!!!!!
まだ習ってないどころか9割以上の内容は、今後も習う予定のない代物であった。
何でもない事のようにさらっととんでもない事を言うDrに並みならぬ殺気を向けるシンタローとカントリーズ。
と、同時に、自分はこんな変態生物(=股んGO!)に劣ったのかとの激しい悔しさが沸き起こり握りこぶしが
ただ行き場をなくして震えていたのだった・・・。
癒しの手
いつも、部下の前では決して少しの弱音も見せない。
僕の叔父様はそんな人―――。
マジック総帥―――僕の叔父様がシンちゃん奪還の為、パプワ島と言う場所に行って来た。
僕は絶対連れて帰ってきてくれると、微塵も疑いはしなかった。
だけど、帰ってきた軍艦をいくら見渡しても大好きな従兄弟の気配すら、なかった―――。
悲しかった。
でも、きっと叔父様は僕以上にガッカリしているんだと思う。
だから責める事なんか出来やしない。その代わり、
「今度は僕にシンちゃんの奪還をさせて」
と頼んだんだ。
戦闘向きではない僕に叔父様は目を丸くし、考え込んでしまったようだ。
―――僕ってそんなに頼りないの・・・?じゃあ僕はガンマ団にとってどんな存在?
必要か、否か。
「・・・そうだね、グンちゃんも優秀なガンマ団員。今すぐには許可を出せないけど、検討してみるよ」
「わ~いvv」
両腕を万歳させて喜ぶ。
子どもっぽいって自分でも思うことはあるけど、昔からの癖というか・・・なかなか直らない。
ふと、叔父様が柔らかい顔になって尋ねた。
「そろそろ戻らないと、高松が心配するんじゃないかな?」
「あ、そうだ!じゃあまたね叔父様!絶対僕、パプワ島に行くからね!」
「分かったよ」
急いで総帥室から出る―――・・・出ようとしたんだ。
「はぁ~・・・疲れたなぁ・・・」
ふと漏らした一言。
何故か強く耳に入った。
居た堪れなくなって踵を返した足を180度ターンさせて、叔父様の元へと戻る。
「どうしたんだい?何か忘れ物でも?」
「ううん、叔父様・・・」
僕は思いっきり背伸びをして、叔父様の頭を何度か撫でた。
「グンちゃん・・・」
「お疲れ様、叔父様」
「ありがとう。本当にグンちゃんは優しいね・・・」
淡く微笑む叔父様に笑みを返して、今度こそ総帥室から退出する。
「おやすみ、叔父様」
「ああ、おやすみ」
帰る廊下で叔父様の言葉がフラッシュバックする。
『ありがとう。本当にグンちゃんは優しいね・・・』
たったあれだけの事なのに、叔父様は僕に優しいと言った。
そしてその時の瞳が強く焼きついて離れない。
人を簡単に死に至らしめる魔性の瞳。
呪われた秘石眼―――。
いつだって自信に満ち溢れていた彼は、一体どれだけの傷を背負っているのだろう?
「シンちゃん・・・早く帰ってきて・・・」
親子喧嘩は絶えずとも、叔父様を本当に癒せるのは君だけなんだから。
「絶対捕まえるからね」
叔父様の為、ガンマ団の為、・・・そして僕の為に。
パパン生誕祝い(注:微マジシン有り)
「本日12/12はマジック先生のお誕生日vよって!今年からこの日は真・心戦組の祝日とする!」
「え~、だったら昨日にでも言ってくれればよかったのに~」
「それにしてもホント、山南さんはマジックが好きなんっすね~」
「敵側の人間に好意を持っているのは大問題なんですけどね、本来」
「愛に敵味方は関係ないよ山崎君vv」
いえ、大有りですから。
口で言ってもどうせ無駄な事は百も承知なので、心中でおもいっっっっきり突っ込みを入れる。
「“愛”って、山南さんってモーホーってヤツなの?」
「やー、ありゃぁ“ミーハー女子高生がアイドルにきゃーきゃー黄色い歓声あげてお熱”って方が近いだろ」
「あの手に持ってるバカデカイ箱って差し入れかな」
サンパチが指差したシュガーピンクの大きな箱からぷぅうんと甘い匂いが漂ってくる。
「これかい?」
ウキウキと箱を指して見せる。
「マジック先生のバースデーケーキだよv今から超特急でガンマ団に届けに行く予定だよvv」
「まさか…手渡しで贈る気じゃないっすよね?」
「手渡しに決まってるじゃないかvv」
いや待てってそこ、敵地だから。
本当に彼はマジックの事となると盲目で、普段の聡明さはどこへ投げてしまうのだろうか。
「今頃ガンマ団で盛大に祝ってる最中でしょう。そんな中に行かれたらどうなるかお考えください」
言葉には『手渡し禁止。どうしても贈りたかったら郵送しろ』が含まれている。
「手渡ししたかったんだけどね~」
「祝いか~、盛大に祝うより青の一族って縦の関係が強烈らしいから、団を上げて祝うより一族内だけで祝うんじゃねーの?」
「祝って嬉しい年じゃないけどね~」
あはははははと酷い台詞をさらりと言う彼らに
「お前達減給」
山南が影を背負って帳簿にマイナス棒を入れていた。
「一族って言うと、あの鼻血いっぱい出した巨大な生き物に乗ってた獅子舞ヘアーの男もそうなんだよね?あとガンマ団現総帥のシンタローでしょー。それから…」
「…シンタロー………?」
一人はしゃぎ回っていた山南の動きがピタリと止まる。
同時にメラメラと炎を燃え上がらせ始め、どんどん大きくなっていく。
「わ!バカ!山南さんの前でシンタローの名はご法度だって!」
「あ、ゴメンッ」
ハジメに言われてシンパチは慌てて口を塞ぐが、出た言葉は戻ってこない。
「シンタロー…マジック先生の愛をフルで受けている男……」
箱のケーキも今頃黒焦げになってるんじゃないのかと山崎が心配せずに思うほど、炎は勢いを増していく。
「嫉妬の鬼と化してるよ~」
「こりゃやべえかも…」
上司の剣幕にシンパチとハジメが冷や汗を背に感じながら後退し始める。
「おのれシンタロー――――――ッッツツツ!!!!!」
ゴウッ!!!
炎の勢いが最大限に達する。
「うわヤバい!!!」
「逃げろッ!!」
「マジック先生が生まれし今日を貴様の命日にしてくれるわッツ!!!」
ゴオオオオオオオオオオオオッッッツツツツ!!!!!!!!!!
「うわ~~~~~~~~!!!!」
「あっちぃ~~~~ッツ!!!!」
「………」
オマエはアラシヤマか!とツッコミが入りそうな勢いで炎が四方八方燃え広がり、山崎たちまでをも巻き込んだ。
山崎だけはどこから用意したのか、完全断熱スーツを着込んでおりいつものポーカーフェイスで小脇に消火器を抱えている。
「見ておれシンタロー!!!」
山崎が消火器を元凶へ発射させるまであと、3秒。
「ん~v今日もパプワ島は快晴だねぇ♪」
洗濯物がよく乾く。
目元を手で覆い影を作り、さんさんと輝く太陽を見上げる爽やかな笑顔。
真・心戦組との戦いや己の安否を知らぬ家族を中心としたガンマ団の事は大きく気掛かりながらも、パプワ島での生活は彼にとって幸せと位置付けられるもの。
毎日が何かと命懸けだが。
ここがきっと一番自分が真っ直ぐにありのままでいられる場所なのだ。
最新技術が詰まった箱の中で書類に埋もれたり憎悪渦巻く戦場で指揮をとるよりも、軍服を脱ぎ捨てラフスタイルで緑溢れる森や透き通る青が輝く海、
そして空の下、この島の一筋縄ではいかない住人達や尊大な態度をとる10歳の少年と過ごすこの日々が、当たり前の日常であると思えてしまう。
何時かはこの島から出なければならない事を知っている。
それを選んだのは誰でもない彼。
何時かまたこの島から離れる日が来てもきっと大丈夫。
親友であるあの子どもは言ってくれたから。
何時でもこの島は自分を受け入れてくれる、と。
そして子どももずっとシンタローと友達だと、口にはしなかったけれども確かに伝えてくれたから。
「シンタローさぁ~ん。今日の夕飯何にします?」
食器を洗い終わったリキッドが大きな籠を背負っている。
「あ~、そうだなぁ…。今の季節、日本なら鍋!ってトコなんだがパプワ島は常夏だしな…」
「ああ、鍋、いいっすねーv」
次の日は雑炊に出来て朝食作りは白米炊くだけですしとは思っても決して口にしない。
もしそんな事言うものならお姑さんからどんな叱咤の嵐が飛んでくるか知れない。
「ボクも鍋でいいぞ」
「じゃ、鍋にすっか」
パプワの一声で鍋に決定。
「んじゃ、何の鍋にするかだなー」
ドドドドドドドドッッ……
遠くで土煙のあがる音が聞こえる。
「肉がたっぷり入ったのがいいっすねーv」
すっかり鍋に夢中な彼らは気付かないというか完全無視をしている。
「野菜も沢山入れろよ」
ドドドドドドドドドドッッツ!!!
音は段々近づいてくる。
「あとはうどんに豆腐にかまぼこに赤身魚にそれと…」
ガサリと葉音が聞こえたと同時に、草の陰から長身の影が刀を振りかざしながら飛び出した。
「シンタロー―――――!!!!!」
…平穏な日常の一コマは打ち破られた。
「出たな!変態マニア!!」
「誰が変態でマニアだ!」
「や、親父マニアかもしれないっすよ」
「ヤツも十分“親父”側だろ」
「じゃあ変態親父マニアの親父か」
「酷い事をあっさり言う野蛮人達めぇ~~~~…」
怒りで肩と拳をふるふる震わせている山南からは以前として炎噴出中だが、これは嫉妬のというより怒りの所為らしい。
「そぉ~れっ!」
ジャバッ
「うわっ!!」
突然バケツいっぱいの水を勢いよくパプワから浴びせられる山南。
「何をする子ども!」
「火事にでもなったら大変だからな」
「そういう貴様は普段から家の中で火を振り回してるだろうが!!」
人の事は言えないと言えないだろうとちみっ子相手に本気で怒りを見せる彼は誰の目からも大人気なかった。(言ってる事は間違ってないが)
「シットロト踊りは神聖なものだからナ。火は欠かせないし使うのはボクだから問題ない」
「理由になるか!大体近頃のガキがああ言えばこう………って待てぇい!シンタロー!!」
「んだよ、うっせえなぁ…」
無関係とばかりにこの場を立ち去ろうとしていたリキッドと同じくらいの大きさがある籠を背負ったシンタロー(withリキッド)が、山南の止めにウザったそうに振り向く。
二人の(一方的な)喧嘩はキリがなくて、これでは日が暮れてしまいそうだ。
まだ他の家事も残っているのだから、早く夕食の材料を集めなくてはならない。
「敵前逃亡する気か!武士道に恥じるヤツめ!」
「や、オレ、武士じゃなくて総帥だし」
現在休職中だけどと心中で付け加える。
一方の山南は聞いちゃいなかった。
「こんな男にマジック先生は…マジック先生はぁあああ!!!」
あああぁぁぁああぁぁぁ!!!!!と絶叫をあげて頭を抱えている。
嫉妬の炎再び。
「で、オッサンは一体何しに来たんだよ」
「オッサン言うな!それを言うなら貴様も28…」
「30まではおにーさんなんだよ」
そうなのか?
思っても口にしないヤンキー20歳。(生きた年数は24歳)
「ちっとも話が先に進みませんね」
どうでも良さ気な山崎の呟きに山南がハッとする。
血圧は上げたまま再び刀を構え、腰を沈めて飛び掛る体勢に入った。
「今日の目出度き日を、シンタロー、貴様の命日としてやる事を有り難く思え!」
「有り難き日ぃ~?」
今日は何かあったっけ?とリキッドとパプワに面を向けるが、二人はさぁ?と首を傾げるだけだった。
「惚けても無駄だよ。その大きな籠が何よりの証拠!」
シンタローとリキッドの両者が背負っている食料調達用の籠を刀で指す。
「この籠が何だってんだよ」
「その籠沢山に美味な食材を詰めて、ご馳走やらケーキやら作ってマジック先生に食べて貰う気だろう!
ご馳走はともかくケーキは!メインのケーキは私がマジック先生にプレゼントするんだよ!」
「二個あってもいいじゃないですか」
「何を言う!例え種類や味が違うものでも同じプレゼントを贈るなどインパクトに欠けるではないかッ」
ぎゃあぎゃあと勝手にあーでもないこうでもないと騒ぐ山々コンビ―――山南が一方的に騒いでるだけに見えるが―――を、
時間も無駄に過ぎていくだけだし、もうこのまま放って置いて鍋の食材集めに行きたかったが、彼らの会話に気になる幾つかの点が気になる。
特に何故マジックにケーキを贈る贈らないの話が出ているのか?
「あのー、この籠は鍋に入れる食材を探しにいくんだけど。今晩のメニューの」
何かを勘違いしているらしい山々コンビに一応の説明をしてあげるリキッドの言葉に山南は
「鍋ケーキ…!?」
気色悪い!そんなものをマジック先生に食べさせる気かと鍋ケーキの見栄えと味を想像して真っ青になった。
「ちっがう!ケーキは関係ねぇよ。鍋!純粋に鍋」
山南の想像に激しい脱力感を覚えながら、すかさずツッコミを忘れないリキッドはすっかりツッコミ役が定着してしまっている。
「つーか、何でオレが親父にケーキをやらなきゃならねーんだよ」
「誕生日と言えばケーキだろう!それともオマエの国ではケーキが誕生日のメインではないのか?」
「そりゃ誕生日って言えばケーキなくちゃ始まらねぇよ」
「だから私はマジック先生がこの世に降臨された今日の日に!」
どんとケーキを突き出す。
確かにそれは冒頭で出てきたケーキ(の箱)だが、あれだけの炎に包まれながら焼け焦げた後が全くないのはお約束か。
「こうして敬愛の心をたっぷり込めた手作りケーキを用意したのだよ!
それなのに貴様も…ッ、よりによって貴様も同じものを贈ったとあってはマジック様の私への感激が薄れてしまうかもしれないだろうが!!」
「親父の誕生日………じゅーにがつじゅーににち…」
そもそも山南は例えケーキでなくとも、マジックの愛を熱烈に受けまくっているシンタローが彼の父親に贈り物をする時点で気に喰わないのだ。
もし、シンタローがマジックにプレゼントを贈ったら―――
『父さん…、誕生日……おめでとな』
『嬉しいよ、シンちゃん』
ちゅv
『んっ…やめろって////』
『パパからの感謝の気持ちだよvそれともシンちゃんはパパのキスは嫌いかい?』
『え…っ、べ、別に嫌いじゃねー…よ。………でも…』
『でも?』
『どうせするなら…唇にして欲しい…』
『大歓迎だよ』
『んん…ッ』
「うがー!!!許すまじシンタロー!!」
「っつーか誰だよソイツ!ゼッテーキスなんかさせねえよオレは!!!」
贈り物から甘い甘い甘過ぎるマジシン妄想を勝手に繰り広げ、勝手に怒り狂っている山南を懇親の力を拳に込めて、シンタローが頭を殴る。
「それがもしも、私とシンタローの両方がケーキを贈ったら……」
デカイタンコブを作りながら感覚は痛みを感じていないのか、山南は更に(被害)妄想を拡大していく。
『マジック先生vお誕生日おめでとうございますvv』
『ああケーキか。しかもこれは手作りだね?…とっても嬉しいよ、山南君』
『マジック先生…』
『山南く『父さん!誕生日のお祝いにケーキ作ってみたぜ♪』
『な…ッ!?貴さ『シンちゃんvv有難うvvvvv』
『あ、でも山南のプレゼントもケーキか…。じゃあオレのは要らない、よな……』
『そんな事はないよ!山南君のケーキは幹部の連中にあげて、パパはシンちゃんのケーキを食べるよ!!』
『え!?ちょ…!マジック先生!!??』
『悪いねー山南君。だって二個もケーキは食べられないから。しかもケーキは長持ちしないし。勿体無いから幹部に連中に配ってきてくれないかな。
私はこれからシンちゃんと二人きりでv私の私室でvvシンちゃんの愛情たっぷりケーキを食べるからvv』
『じゃーな、山南のオッサン!』
『待ってくださいマジック先生ー!!!!!』
『ケーキ後のデザートは勿論シンちゃんだよねv』
『ばーか、ケーキがデザートだろ////』
『シンちゃんの方が甘くて美味しいの、パパ知ってるもんvv』
『エロ親父…』
『はは、今更今更』
『うわッ。開き直りやがった…』
『はははははは』
『あははははは』
『ま…マジック先生―――!!!カムバッ~~~ク!!!!!』
「って言うか今日はマジック様の誕生日だったんですね」
リキッドがへぇ~と声を漏らす。
青の一族ではないリキッドが知らなかったのは当然として、親子であるシンタローがああそうかという風にポンと手を打ってから発せられた言葉はなんとも儚いものだった。
「あ、親父の誕生日って今日だったっけか。すっかり忘れてたぜ」
「忘れてただと…?よりにもよってマジック先生のお誕生日を忘れていたと…?」
「だってよ、12月は忙しいから…うっかりしてたぜ。クリスマスやら大掃除やらあるし、何よりコタローの誕生日もあっからよ」
あはは~と乾いた笑いには罪悪感(大げさな…)は欠片ほどにしか感じない。
「…キリストと弟の誕生日は覚えていて、父親の誕生日は忘れていたと…。
暦に入っていない世の慣わしは覚えていて、マジック先生の誕生日は忘れていたと………?」
肩をふるふると震わせながら呟かれる声色は限りなくグレーだ。
そして
ブチッ!!!
ついに何かが切れる音がした。
冒頭から切れっぱなしだった山南の怒りが臨界点まで達したのだ。
山崎が(努めずとも)冷静な顔で止める間もなく、欠陥をデカデカと浮き出させて刀を振りかざす。
―――マジック先生の寵愛を一心に受けていながらもこの男は…!
「親不孝息子ぉぉぉおおおッッツツツ!!!!」
「なんだよ!オレが親父の誕生日祝おうが忘れていようが、結局気に入らねえんじゃねえかよ!!」
突進してくる山南をギリギリのところで避けながら、手の平に気を集中させる。
「刺身になれッツ!!」
「喰らえ眼魔砲ッツ!!」
気合だけでも吹き飛ばされそうな両者の力と力が激しくぶつかり合い、周囲に爆風が立ち上る。
「何時になったら食材取りに行けるんだ?」
爆風を受けながらも、半目で両者を見守りながらリキッドが呟く。
「アイツらの事は放っておけばいいだろう。お前一人で食材取ってこい」
「ハァ~?なぁパプワ。オマエってシンタローさんには甘いんじゃねぇか?」
オレと比べて、とガックリ頭を垂れ下げる。
確かにパプワとシンタローの絆は深い。
一緒に過ごした時間よりも離れ離れになっていた時間の方が遥かに長くても関係なく。
きっと四年間共に暮らしてきた自分よりも、ずっと。
空しさを感じながら、一人で食材探しに繰り出すことを甘受したリキッドにパプワが投げた言葉は、想像するだけ恐ろしく、
「勿論、食材探しをサボったシンタローはお仕置きだゾ!」
お姑さんに心底同情してしまうのだった。
「パパ!お誕生日おめでとう!!」
「叔父様おめでとうvv」
「おめでとう御座います、マジック様」
「おめでとう、兄さん」
「一応祝ってやるよ、兄貴」
「みんなありがとう。とっても嬉しいよ」
「はいコレ!オレからのプレゼント!!」
「有難うvシンちゃんvv」
「ボクはこれね。ねぇねぇ開けてみて叔父様♪」
「とっても嬉しいよ、グンちゃんv」
「兄貴」
「ん?何だい?まさかハーレムもプレゼントくれるのかい?」
「兄貴」
「…?だから何なんだい、一体」
「起きろよ、マジック兄貴」
「起きる…?」
「兄貴…おい兄貴!こんなトコで寝てると風邪引くぞ!おいコラ!!」
「…ん?……あれ、ハーレム…?」
「折角の日に風邪なんて笑えねぇぞ」
「ここは私の部屋…。………そうか、夢だったのか…」
二十年前ほど昔の、優しい思い出の夢。
寝ていたソファから起き上がり、些か乱れた前髪をかき上げてふぅと溜息を吐いた。
「思い出は…所詮思い出にしかならないのだろうか…」
「ああん?」
突然何を言い出すんだと実兄を訝しげに見やるハーレムの瞳に映し出された彼は、どこか遠くをじっと見つめていた。
「夢を見ていたんだ。ずぅっと昔の夢を。私の誕生日にみんなで祝ってくれた時の思い出がそこにはあったよ」
「だからグンマ達の誘いに乗れば良かったんだよ」
今日がマジックの誕生日だと、グンマを初め、サービスと驚くべき事にあのハーレムですら覚えていてくれた。
…キンタローは忘れていたけれど。
数日前から団をあげてのお祝いパーティを開こうと、実の長子からの申し出があったのだが、それをマジックは丁寧に断った。
例年なら誰かが祝おうと言わずとも、自分からいそいそとパーティの準備をしていた。
けれど今年はお祝いの言葉とプレゼントがマジックの私室にて贈られただけだった。
派手な飾り付けをされた会場も特別なご馳走もない。
せめてものケーキが一切れずつマジックと側近達、それにグンマとハーレムに渡された。
お祝いをして貰う気分になれない理由を、誰もが知っていた。
血の繋がりこそないものの、溺愛していた息子のシンタローは異次元に位置を置く第二のパプワ島に居てここには居ない。
実弟の一人、サービスと実子の末っ子であるコタローは修行中の為やはり不在で。
新たな戦の波も迫っている。
それにコタローは今、マジックがのんびりと私室でまどろんでいる間にも、きっと秘石眼のコントロールを主とした修行に励んでいるのだろう。
まだたったの10歳なのに。
それを思うと、暢気に祝ってもらう気持ちになんてなれっこない。
―――もっとも、私はあの子を4歳の頃に監禁してしまったけどね。
襲い掛かる後悔の波と、それでもまだ戸惑うコタローとの親子の関係。
失われた日々は戻らない。
自分がつけてしまったコタローの心の傷は簡単に癒えるものではない。
コタローを監禁すると決めたあの時の心を今も覚えている。
正しい事とは思わなかったが、他の方法が思いつかなかった。
シンタローの静止の声に敢えて耳を塞いだ。
けれど一歩ずつ、覚束無い足取りながらもコタローに近付こうとしている自分が居るのも確かで。
「来年こそ、みんなにお祝いして貰いたいよ」
今年しなった分、凄いご馳走作る予定だよ、とマジックはふふっと笑った。
「そーだな…」
その時は仕方ねえからオレも参加してやるよ、とハレームも短く笑みを見せた。
ふと視線を向けた窓の外は音もなく静かにゆっくりと雪が舞い降りている。
雪が昔から好きだったシンタローに今年何度目かのこの雪を見せてやりたい。
雪の降らぬ遠い地に居る息子の勝気な笑顔を瞼の裏に映し出した。
きっと彼は元気に暮らしている筈。
何が起きても彼なら大丈夫。
でも
早く帰っておいで。
シンタロー、コタロー。
―――MY LOVEING SONS―――
君が安らげるように ~コタローside~
『待って!待ってよぅ!!』
とっても“大好きな筈の人”が、ボクをココに閉じ込めた。
どうして?
どうしてボクだけ外に出ちゃいけないの?
どうしてボクを一人ぼっちにするの?
ボクの疑問に貴方は「オマエは危険だからだよ」と言った。
ボクは危険な存在なの?
ボクは世界に異質な存在なの?
じゃあ!
じゃあボクは何の為に生まれてきたの!?
『ねえ!答えてよ…ッ』
だけど貴方はもうボクに背を向けて、部屋の外へと歩き出す。
ギギギ…と鈍い音がして、扉が閉められる。
嫌だ!一人ぼっちになるのは嫌だよ…ッ!
扉の隙間は後少ししかなくて、貴方の背中が見えなくなる。
『待って!置いてかいないで!パ―――』
ガバッ!
はっとしてボクは飛び起きた。
はぁはぁと息が激しく乱れていた。
キョロキョロと周囲を見渡すと、ボクを包むのは見慣れた薄い暗闇。
「え…、あ……夢…?」
部屋―――と言っても家に一部屋しかないから家と言ってもイイケド―――に一つある窓から差し込む月明かりのおかげで、少し離れた台所も大体見える。
ボクと赤い服を着た男の人以外何も見えなかった、あの漆黒の暗闇じゃない。
「はぁ…」
安心したからなのか、溜息を吐いて膝に両腕を置いて頭を下げる。
その拍子に額を伝って雫が膝上の掛け布団を濡らした。
びっしょりと嫌な汗をかいていた。
発汗した所為か、酷く喉が渇いている。
お水、欲しい。
「どうした?ロタロー」
声がしたと思ったら、むっくりと隣の影が起き上がった。
「パプワ君。あ、ゴメンね。起こしちゃった?」
眠そうな様子もなくぱっちりとした大きな瞳でボクを見つめる、ボクのきっと初めての友達。
「怖い夢でも見たのか?」
パプワ君はいつも殆ど表情を変えることはないけど、実は結構表情あるんだよ。
よく見てなきゃ気付かないだろうけど。
今も心配そうな顔してる。
その声も、とても優しかった。
コクンと頷くボクの頭に温かい感触が触れる。
「よしよし。大丈夫だぞ。ボクが付いてるからな」
母親が愚図る我が子にするように、パプワ君は背伸びをしてボクの頭を撫でてくれた。
ボクの大好きな温度に心から安心出来る。
もっとその温度を感じたくて、自然にパプワ君に抱きついた。
パプワ君は相変わらず「よしよし」と言いながら頭を撫でてくれる。
時々「安心しろ」とか「大丈夫だぞ」とか言いながら。
「有難う、パプワ君」
どれくらいそうしていたんだろう。
すっかり落ち着いてきたボクはやっと喉の渇きを感じて、水を飲みに行った。
水を溜めている桶は直ぐそこなのに、パプワ君は一緒についてきてくれた。
やっと喉も潤って眠る時、何も言わずボクの手を握ってきた。
「あったかい…」
「ロタローの手もあったかいぞ」
「なら温めあいっこしようねv」
ふふっと笑って少し握る力を強くした。
君がボクにしてくれるように、ボクは君に何が出来るだろう。
ボクは君のような凄い力はないけれど、君がしてくれたようにボクはずっと君の傍に居て、温めてあげたい。
強い君だけど、悲しい時もきっとあるだろうから。
その時は、何があってもこの手を差し出すよ。
だから。
だから、ずっと。
ずっと一緒に―――。
君が安らげるように ~パプワside~
『コタローって誰だ?』
『オレのかっわいーい弟!』
『ブラコン』
『るっせー』
『……シンタロー…』
『んだよ』
『コタローが好きか?』
『そりゃもースッゲー好きだぜ!可愛い可愛い弟だもんなッ』
『…そうか』
『?…なんだ突然。変なヤツ~』
“世界で一番好きなのかと、誰よりも一番好きなのかと、
……ボクよりコタローが好きなのかと、とっても恐くて聞けなかったんだ”
すやすやと穏やかな寝息をたてながら、やっと夢の中へ潜り込んだコタローに、安堵の溜息をほっと吐く。
コイツは夢見が悪くて、よくさっきみたいに真っ青な顔で目を覚ます。
海のような蒼い目に涙を溜めながら。
でもこれでもまだマシになった。
パプワ島に来た頃は毎日その調子だったが、最近では滅多にこんな事は起きない。
時々ふと思い出したように辛い夢を見ている。
ボクはその夢を知っている。
それは夢じゃない、過去の現実だった。
コイツが今は閉まい込んだ、悲しい昔の話。
コイツとコイツの―――そしてシンタローの父親の男とは、四年前に近付いたように見えた。
きっと一歩は近付いたんだ。
でもまだコタローは恐がっている。
あの男を、と言うより、また一人ぼっちになる事を。
コタローは極端に一人になるのを嫌がる。
一歩でも先に進むボクの後をまるで必死についてくる。
大丈夫だぞ、コタロー。
お前とボクは友達なんだ。
お前が何時か、シンタローが居るだろうボクはまだ見ないあの場所へ帰るまでずっと傍にいてやるから。
一人ぼっちの寂しさを、ボクも知っているから。
「ん…、パプワ君……」
起きたのかと顔を覗くと、ただの寝言だったようで、幸せそうな顔で安眠を貪っていた。
安心したようなコイツの様子にほっとする。
シンタローが第一のパプワ島に流れついてからずっと、楽しかったけど何時だって小さな不安がボクの心に付き纏っていた。
シンタローはよく“コタロー”の名を口にした。
大好きだと。可愛いと。会いたいと。
その度に生まれてくるモヤモヤとした気持ちを、最初は正体が分かずただ持て余していた。
初めて感じた感情だったから。
ボクは島のみんな大好きだが、シンタローは特別だった。
初めての人間の友達。
ずっとずっと人間の友達が欲しかった。
その願い事が叶って一年以上共に過ごした日々はとっても楽しかった。
だから余計に楽しい分、コタローを想うシンタローに不安を感じたんだと思う。
コタローという存在が、何時かシンタローを帰してしまう。
そう思うと凄く嫌な気持ちになって、今思えばコタローの事は嫌いじゃなかったけど好きにはなれなかった。
そのコタローと今では友達になって、一緒に暮らしてる。
守ってやりたいと願う。
コタローの事、好きか嫌いかと聞かれたら、ボクは迷わずこう言うぞ。
「大好きだぞ。ボクとコタローは友達だ」
誰からとか何からとかじゃなく、コタローを怯えさせる全てのものを跳ね除けたいって思う。
怖い夢を見たら寝付くまで手を握ってやる。
怖い夢も吹き飛ぶような、お前がまだ知らないもっと楽しい場所にも連れて行ってやるぞ。
だってお前はボクの大好きな友達だから。
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「ついに完璧なる成功ですよ!」
僕らの素敵なマッド★サイエンティスト・変態科学者・グンマのお守り(保護者)・鼻血・・・・・・・・・・・・・まあ色々言われ方はあるが、
彼、Dr.高松は今日も飽きずに研究室に引きこもり怪しげな笑いを洩らしながら、更に怪しげな研究に心血を注いでいた。
誰も居ないのにビシッ!と片手に物体Mを高々とぶら下げて高笑いを始める。
こんな姿と物体Mを見たら、小さな子どもは泣き出すだろう。
大きな大人は腰を抜かすだろう。
「さあ、貴方の名前を決めましょうねv」
物体Mを愛しそうに見つめ、話しかける。
その度物体Mは、暇なのか足をゆらゆらと動かしていた。
「ケンタッキー、ホワイトフィッシュ、マンダーラガンダーラ、クララ、春巻き・・・おやおや気に入らないんですか?」
次々と物体Mにいい名を授けようと並べてみるがどうもその中のどれも嫌だと、足をバタつかせて訴えている。
何故最後だけカタカナじゃないのかは謎だった。
次々とあげていった名前に一貫性がないのは更に謎だった。
「それじゃあ―――」
「朝練はここまでにしとこーぜ!」
「シンタロー、まだ一時間しかやってないっちゃ」
「馬ー鹿!今日は筆記テストがあんだろ。言っとくが力があるだけじゃガンマ団では生き残れないぜ?」
「すっかり忘れてたべ!」
「なぁーに!当たって砕けろじゃけんのぉ!!」
「そないな事言うて・・・ほんまに砕けたら意味ないでっせ?」
ゴンッ
見事にシンタロー+ローカル三人衆の拳骨が、朝っぱらから不吉なことを言った京都人の頭に同時にHITした。
根暗な京都人は地に沈んだ。
「さーて!少しでも勉強しとくか!」
シンタロー達は年齢で言えば高校生。
普通の高校ではなく、ガンマ団の訓練校でもテストからは逃れられないのだ。
必死に詰め込めるだけ知識を詰め込んで迎えたガンマ団特別筆記テスト。
しかし誰も一問も解けなかった。
とりあえず成績TOP(らしい)グンマですら分からない箇所が多過ぎだ。
それにも呆然としたが、目の前の【転校生】を紹介され、勉強し過ぎて頭がイカレてしまったのかと皆は思った。
「転校生だ!気にするな」と涙目で言ったガンマ団員(筆記テスト監視者)に紹介された転校生は、
「大根だべ」
「人参にも見えるべ」
「・・・Dr.高松に押し付けられ―――・・・今日から入れて欲しいと頼まれた、新しい諸君の仲間、名前は股んGO!君だ。
何でも朝鮮人参と練馬大根で出来たDrの最高傑作らしい」
気にするなと言われても無理だ。
朝鮮人参と練馬大根で出来たこの物体を仲間だ転校生だの言われても。
しかも
「筆記テスト受けとるどす・・・」
与えられた机にどっかりと座り、テスト開始の合図と共に手らしき部分で鉛筆を握りざっざかと問題を解き始めた。
しかもこんな難し過ぎる問題に臆することもなく鉛筆を進めていく。
―――高松が作ってたのってこれ?
―――あんのマッドサイエンティスト!!
―――大根のクセに問題解くの早いっちゃね!
―――人参じゃなかったべ。
―――シャーペンじゃないんじゃのう。
―――友達になってくれるでっしゃろか?
そんな事考えてる暇があったら手元の問題をさっさと解こうとすればいいのだが。
一週間後の結果は皆、悲惨なものだった。
常に95点以上はキープするグンマですら50点である(それでも高得点の方)。
何と平均点5点である。
「情けないですねぇ、グンマ様はともかく」
馬鹿にした溜息をわざと洩らしながら近づいてくるのは股んGO!の生みの親・高松。隣には噂の股んGO!が控えていた。
しかもちゃんと服も装着済み。
「こんな内容習った記憶がねえよ!」
テストをビシッ!と突き出す。
「4点ですか。平均点いってないじゃないですか。股んGO!なんて100点ですよ」
ぴしっ
空気が凍った。
「まあ、あったま悪い君達には難しかったですかね。
何せ担当と交渉して今回のテスト内容は英国の一流大学の医療関係に関するテスト問題に変えさせていただきましたから」
―――解ける筈ないじゃねーか(だべ・だっちゃ・じゃけん・どす)!!!!!
まだ習ってないどころか9割以上の内容は、今後も習う予定のない代物であった。
何でもない事のようにさらっととんでもない事を言うDrに並みならぬ殺気を向けるシンタローとカントリーズ。
と、同時に、自分はこんな変態生物(=股んGO!)に劣ったのかとの激しい悔しさが沸き起こり握りこぶしが
ただ行き場をなくして震えていたのだった・・・。
癒しの手
いつも、部下の前では決して少しの弱音も見せない。
僕の叔父様はそんな人―――。
マジック総帥―――僕の叔父様がシンちゃん奪還の為、パプワ島と言う場所に行って来た。
僕は絶対連れて帰ってきてくれると、微塵も疑いはしなかった。
だけど、帰ってきた軍艦をいくら見渡しても大好きな従兄弟の気配すら、なかった―――。
悲しかった。
でも、きっと叔父様は僕以上にガッカリしているんだと思う。
だから責める事なんか出来やしない。その代わり、
「今度は僕にシンちゃんの奪還をさせて」
と頼んだんだ。
戦闘向きではない僕に叔父様は目を丸くし、考え込んでしまったようだ。
―――僕ってそんなに頼りないの・・・?じゃあ僕はガンマ団にとってどんな存在?
必要か、否か。
「・・・そうだね、グンちゃんも優秀なガンマ団員。今すぐには許可を出せないけど、検討してみるよ」
「わ~いvv」
両腕を万歳させて喜ぶ。
子どもっぽいって自分でも思うことはあるけど、昔からの癖というか・・・なかなか直らない。
ふと、叔父様が柔らかい顔になって尋ねた。
「そろそろ戻らないと、高松が心配するんじゃないかな?」
「あ、そうだ!じゃあまたね叔父様!絶対僕、パプワ島に行くからね!」
「分かったよ」
急いで総帥室から出る―――・・・出ようとしたんだ。
「はぁ~・・・疲れたなぁ・・・」
ふと漏らした一言。
何故か強く耳に入った。
居た堪れなくなって踵を返した足を180度ターンさせて、叔父様の元へと戻る。
「どうしたんだい?何か忘れ物でも?」
「ううん、叔父様・・・」
僕は思いっきり背伸びをして、叔父様の頭を何度か撫でた。
「グンちゃん・・・」
「お疲れ様、叔父様」
「ありがとう。本当にグンちゃんは優しいね・・・」
淡く微笑む叔父様に笑みを返して、今度こそ総帥室から退出する。
「おやすみ、叔父様」
「ああ、おやすみ」
帰る廊下で叔父様の言葉がフラッシュバックする。
『ありがとう。本当にグンちゃんは優しいね・・・』
たったあれだけの事なのに、叔父様は僕に優しいと言った。
そしてその時の瞳が強く焼きついて離れない。
人を簡単に死に至らしめる魔性の瞳。
呪われた秘石眼―――。
いつだって自信に満ち溢れていた彼は、一体どれだけの傷を背負っているのだろう?
「シンちゃん・・・早く帰ってきて・・・」
親子喧嘩は絶えずとも、叔父様を本当に癒せるのは君だけなんだから。
「絶対捕まえるからね」
叔父様の為、ガンマ団の為、・・・そして僕の為に。
パパン生誕祝い(注:微マジシン有り)
「本日12/12はマジック先生のお誕生日vよって!今年からこの日は真・心戦組の祝日とする!」
「え~、だったら昨日にでも言ってくれればよかったのに~」
「それにしてもホント、山南さんはマジックが好きなんっすね~」
「敵側の人間に好意を持っているのは大問題なんですけどね、本来」
「愛に敵味方は関係ないよ山崎君vv」
いえ、大有りですから。
口で言ってもどうせ無駄な事は百も承知なので、心中でおもいっっっっきり突っ込みを入れる。
「“愛”って、山南さんってモーホーってヤツなの?」
「やー、ありゃぁ“ミーハー女子高生がアイドルにきゃーきゃー黄色い歓声あげてお熱”って方が近いだろ」
「あの手に持ってるバカデカイ箱って差し入れかな」
サンパチが指差したシュガーピンクの大きな箱からぷぅうんと甘い匂いが漂ってくる。
「これかい?」
ウキウキと箱を指して見せる。
「マジック先生のバースデーケーキだよv今から超特急でガンマ団に届けに行く予定だよvv」
「まさか…手渡しで贈る気じゃないっすよね?」
「手渡しに決まってるじゃないかvv」
いや待てってそこ、敵地だから。
本当に彼はマジックの事となると盲目で、普段の聡明さはどこへ投げてしまうのだろうか。
「今頃ガンマ団で盛大に祝ってる最中でしょう。そんな中に行かれたらどうなるかお考えください」
言葉には『手渡し禁止。どうしても贈りたかったら郵送しろ』が含まれている。
「手渡ししたかったんだけどね~」
「祝いか~、盛大に祝うより青の一族って縦の関係が強烈らしいから、団を上げて祝うより一族内だけで祝うんじゃねーの?」
「祝って嬉しい年じゃないけどね~」
あはははははと酷い台詞をさらりと言う彼らに
「お前達減給」
山南が影を背負って帳簿にマイナス棒を入れていた。
「一族って言うと、あの鼻血いっぱい出した巨大な生き物に乗ってた獅子舞ヘアーの男もそうなんだよね?あとガンマ団現総帥のシンタローでしょー。それから…」
「…シンタロー………?」
一人はしゃぎ回っていた山南の動きがピタリと止まる。
同時にメラメラと炎を燃え上がらせ始め、どんどん大きくなっていく。
「わ!バカ!山南さんの前でシンタローの名はご法度だって!」
「あ、ゴメンッ」
ハジメに言われてシンパチは慌てて口を塞ぐが、出た言葉は戻ってこない。
「シンタロー…マジック先生の愛をフルで受けている男……」
箱のケーキも今頃黒焦げになってるんじゃないのかと山崎が心配せずに思うほど、炎は勢いを増していく。
「嫉妬の鬼と化してるよ~」
「こりゃやべえかも…」
上司の剣幕にシンパチとハジメが冷や汗を背に感じながら後退し始める。
「おのれシンタロー――――――ッッツツツ!!!!!」
ゴウッ!!!
炎の勢いが最大限に達する。
「うわヤバい!!!」
「逃げろッ!!」
「マジック先生が生まれし今日を貴様の命日にしてくれるわッツ!!!」
ゴオオオオオオオオオオオオッッッツツツツ!!!!!!!!!!
「うわ~~~~~~~~!!!!」
「あっちぃ~~~~ッツ!!!!」
「………」
オマエはアラシヤマか!とツッコミが入りそうな勢いで炎が四方八方燃え広がり、山崎たちまでをも巻き込んだ。
山崎だけはどこから用意したのか、完全断熱スーツを着込んでおりいつものポーカーフェイスで小脇に消火器を抱えている。
「見ておれシンタロー!!!」
山崎が消火器を元凶へ発射させるまであと、3秒。
「ん~v今日もパプワ島は快晴だねぇ♪」
洗濯物がよく乾く。
目元を手で覆い影を作り、さんさんと輝く太陽を見上げる爽やかな笑顔。
真・心戦組との戦いや己の安否を知らぬ家族を中心としたガンマ団の事は大きく気掛かりながらも、パプワ島での生活は彼にとって幸せと位置付けられるもの。
毎日が何かと命懸けだが。
ここがきっと一番自分が真っ直ぐにありのままでいられる場所なのだ。
最新技術が詰まった箱の中で書類に埋もれたり憎悪渦巻く戦場で指揮をとるよりも、軍服を脱ぎ捨てラフスタイルで緑溢れる森や透き通る青が輝く海、
そして空の下、この島の一筋縄ではいかない住人達や尊大な態度をとる10歳の少年と過ごすこの日々が、当たり前の日常であると思えてしまう。
何時かはこの島から出なければならない事を知っている。
それを選んだのは誰でもない彼。
何時かまたこの島から離れる日が来てもきっと大丈夫。
親友であるあの子どもは言ってくれたから。
何時でもこの島は自分を受け入れてくれる、と。
そして子どももずっとシンタローと友達だと、口にはしなかったけれども確かに伝えてくれたから。
「シンタローさぁ~ん。今日の夕飯何にします?」
食器を洗い終わったリキッドが大きな籠を背負っている。
「あ~、そうだなぁ…。今の季節、日本なら鍋!ってトコなんだがパプワ島は常夏だしな…」
「ああ、鍋、いいっすねーv」
次の日は雑炊に出来て朝食作りは白米炊くだけですしとは思っても決して口にしない。
もしそんな事言うものならお姑さんからどんな叱咤の嵐が飛んでくるか知れない。
「ボクも鍋でいいぞ」
「じゃ、鍋にすっか」
パプワの一声で鍋に決定。
「んじゃ、何の鍋にするかだなー」
ドドドドドドドドッッ……
遠くで土煙のあがる音が聞こえる。
「肉がたっぷり入ったのがいいっすねーv」
すっかり鍋に夢中な彼らは気付かないというか完全無視をしている。
「野菜も沢山入れろよ」
ドドドドドドドドドドッッツ!!!
音は段々近づいてくる。
「あとはうどんに豆腐にかまぼこに赤身魚にそれと…」
ガサリと葉音が聞こえたと同時に、草の陰から長身の影が刀を振りかざしながら飛び出した。
「シンタロー―――――!!!!!」
…平穏な日常の一コマは打ち破られた。
「出たな!変態マニア!!」
「誰が変態でマニアだ!」
「や、親父マニアかもしれないっすよ」
「ヤツも十分“親父”側だろ」
「じゃあ変態親父マニアの親父か」
「酷い事をあっさり言う野蛮人達めぇ~~~~…」
怒りで肩と拳をふるふる震わせている山南からは以前として炎噴出中だが、これは嫉妬のというより怒りの所為らしい。
「そぉ~れっ!」
ジャバッ
「うわっ!!」
突然バケツいっぱいの水を勢いよくパプワから浴びせられる山南。
「何をする子ども!」
「火事にでもなったら大変だからな」
「そういう貴様は普段から家の中で火を振り回してるだろうが!!」
人の事は言えないと言えないだろうとちみっ子相手に本気で怒りを見せる彼は誰の目からも大人気なかった。(言ってる事は間違ってないが)
「シットロト踊りは神聖なものだからナ。火は欠かせないし使うのはボクだから問題ない」
「理由になるか!大体近頃のガキがああ言えばこう………って待てぇい!シンタロー!!」
「んだよ、うっせえなぁ…」
無関係とばかりにこの場を立ち去ろうとしていたリキッドと同じくらいの大きさがある籠を背負ったシンタロー(withリキッド)が、山南の止めにウザったそうに振り向く。
二人の(一方的な)喧嘩はキリがなくて、これでは日が暮れてしまいそうだ。
まだ他の家事も残っているのだから、早く夕食の材料を集めなくてはならない。
「敵前逃亡する気か!武士道に恥じるヤツめ!」
「や、オレ、武士じゃなくて総帥だし」
現在休職中だけどと心中で付け加える。
一方の山南は聞いちゃいなかった。
「こんな男にマジック先生は…マジック先生はぁあああ!!!」
あああぁぁぁああぁぁぁ!!!!!と絶叫をあげて頭を抱えている。
嫉妬の炎再び。
「で、オッサンは一体何しに来たんだよ」
「オッサン言うな!それを言うなら貴様も28…」
「30まではおにーさんなんだよ」
そうなのか?
思っても口にしないヤンキー20歳。(生きた年数は24歳)
「ちっとも話が先に進みませんね」
どうでも良さ気な山崎の呟きに山南がハッとする。
血圧は上げたまま再び刀を構え、腰を沈めて飛び掛る体勢に入った。
「今日の目出度き日を、シンタロー、貴様の命日としてやる事を有り難く思え!」
「有り難き日ぃ~?」
今日は何かあったっけ?とリキッドとパプワに面を向けるが、二人はさぁ?と首を傾げるだけだった。
「惚けても無駄だよ。その大きな籠が何よりの証拠!」
シンタローとリキッドの両者が背負っている食料調達用の籠を刀で指す。
「この籠が何だってんだよ」
「その籠沢山に美味な食材を詰めて、ご馳走やらケーキやら作ってマジック先生に食べて貰う気だろう!
ご馳走はともかくケーキは!メインのケーキは私がマジック先生にプレゼントするんだよ!」
「二個あってもいいじゃないですか」
「何を言う!例え種類や味が違うものでも同じプレゼントを贈るなどインパクトに欠けるではないかッ」
ぎゃあぎゃあと勝手にあーでもないこうでもないと騒ぐ山々コンビ―――山南が一方的に騒いでるだけに見えるが―――を、
時間も無駄に過ぎていくだけだし、もうこのまま放って置いて鍋の食材集めに行きたかったが、彼らの会話に気になる幾つかの点が気になる。
特に何故マジックにケーキを贈る贈らないの話が出ているのか?
「あのー、この籠は鍋に入れる食材を探しにいくんだけど。今晩のメニューの」
何かを勘違いしているらしい山々コンビに一応の説明をしてあげるリキッドの言葉に山南は
「鍋ケーキ…!?」
気色悪い!そんなものをマジック先生に食べさせる気かと鍋ケーキの見栄えと味を想像して真っ青になった。
「ちっがう!ケーキは関係ねぇよ。鍋!純粋に鍋」
山南の想像に激しい脱力感を覚えながら、すかさずツッコミを忘れないリキッドはすっかりツッコミ役が定着してしまっている。
「つーか、何でオレが親父にケーキをやらなきゃならねーんだよ」
「誕生日と言えばケーキだろう!それともオマエの国ではケーキが誕生日のメインではないのか?」
「そりゃ誕生日って言えばケーキなくちゃ始まらねぇよ」
「だから私はマジック先生がこの世に降臨された今日の日に!」
どんとケーキを突き出す。
確かにそれは冒頭で出てきたケーキ(の箱)だが、あれだけの炎に包まれながら焼け焦げた後が全くないのはお約束か。
「こうして敬愛の心をたっぷり込めた手作りケーキを用意したのだよ!
それなのに貴様も…ッ、よりによって貴様も同じものを贈ったとあってはマジック様の私への感激が薄れてしまうかもしれないだろうが!!」
「親父の誕生日………じゅーにがつじゅーににち…」
そもそも山南は例えケーキでなくとも、マジックの愛を熱烈に受けまくっているシンタローが彼の父親に贈り物をする時点で気に喰わないのだ。
もし、シンタローがマジックにプレゼントを贈ったら―――
『父さん…、誕生日……おめでとな』
『嬉しいよ、シンちゃん』
ちゅv
『んっ…やめろって////』
『パパからの感謝の気持ちだよvそれともシンちゃんはパパのキスは嫌いかい?』
『え…っ、べ、別に嫌いじゃねー…よ。………でも…』
『でも?』
『どうせするなら…唇にして欲しい…』
『大歓迎だよ』
『んん…ッ』
「うがー!!!許すまじシンタロー!!」
「っつーか誰だよソイツ!ゼッテーキスなんかさせねえよオレは!!!」
贈り物から甘い甘い甘過ぎるマジシン妄想を勝手に繰り広げ、勝手に怒り狂っている山南を懇親の力を拳に込めて、シンタローが頭を殴る。
「それがもしも、私とシンタローの両方がケーキを贈ったら……」
デカイタンコブを作りながら感覚は痛みを感じていないのか、山南は更に(被害)妄想を拡大していく。
『マジック先生vお誕生日おめでとうございますvv』
『ああケーキか。しかもこれは手作りだね?…とっても嬉しいよ、山南君』
『マジック先生…』
『山南く『父さん!誕生日のお祝いにケーキ作ってみたぜ♪』
『な…ッ!?貴さ『シンちゃんvv有難うvvvvv』
『あ、でも山南のプレゼントもケーキか…。じゃあオレのは要らない、よな……』
『そんな事はないよ!山南君のケーキは幹部の連中にあげて、パパはシンちゃんのケーキを食べるよ!!』
『え!?ちょ…!マジック先生!!??』
『悪いねー山南君。だって二個もケーキは食べられないから。しかもケーキは長持ちしないし。勿体無いから幹部に連中に配ってきてくれないかな。
私はこれからシンちゃんと二人きりでv私の私室でvvシンちゃんの愛情たっぷりケーキを食べるからvv』
『じゃーな、山南のオッサン!』
『待ってくださいマジック先生ー!!!!!』
『ケーキ後のデザートは勿論シンちゃんだよねv』
『ばーか、ケーキがデザートだろ////』
『シンちゃんの方が甘くて美味しいの、パパ知ってるもんvv』
『エロ親父…』
『はは、今更今更』
『うわッ。開き直りやがった…』
『はははははは』
『あははははは』
『ま…マジック先生―――!!!カムバッ~~~ク!!!!!』
「って言うか今日はマジック様の誕生日だったんですね」
リキッドがへぇ~と声を漏らす。
青の一族ではないリキッドが知らなかったのは当然として、親子であるシンタローがああそうかという風にポンと手を打ってから発せられた言葉はなんとも儚いものだった。
「あ、親父の誕生日って今日だったっけか。すっかり忘れてたぜ」
「忘れてただと…?よりにもよってマジック先生のお誕生日を忘れていたと…?」
「だってよ、12月は忙しいから…うっかりしてたぜ。クリスマスやら大掃除やらあるし、何よりコタローの誕生日もあっからよ」
あはは~と乾いた笑いには罪悪感(大げさな…)は欠片ほどにしか感じない。
「…キリストと弟の誕生日は覚えていて、父親の誕生日は忘れていたと…。
暦に入っていない世の慣わしは覚えていて、マジック先生の誕生日は忘れていたと………?」
肩をふるふると震わせながら呟かれる声色は限りなくグレーだ。
そして
ブチッ!!!
ついに何かが切れる音がした。
冒頭から切れっぱなしだった山南の怒りが臨界点まで達したのだ。
山崎が(努めずとも)冷静な顔で止める間もなく、欠陥をデカデカと浮き出させて刀を振りかざす。
―――マジック先生の寵愛を一心に受けていながらもこの男は…!
「親不孝息子ぉぉぉおおおッッツツツ!!!!」
「なんだよ!オレが親父の誕生日祝おうが忘れていようが、結局気に入らねえんじゃねえかよ!!」
突進してくる山南をギリギリのところで避けながら、手の平に気を集中させる。
「刺身になれッツ!!」
「喰らえ眼魔砲ッツ!!」
気合だけでも吹き飛ばされそうな両者の力と力が激しくぶつかり合い、周囲に爆風が立ち上る。
「何時になったら食材取りに行けるんだ?」
爆風を受けながらも、半目で両者を見守りながらリキッドが呟く。
「アイツらの事は放っておけばいいだろう。お前一人で食材取ってこい」
「ハァ~?なぁパプワ。オマエってシンタローさんには甘いんじゃねぇか?」
オレと比べて、とガックリ頭を垂れ下げる。
確かにパプワとシンタローの絆は深い。
一緒に過ごした時間よりも離れ離れになっていた時間の方が遥かに長くても関係なく。
きっと四年間共に暮らしてきた自分よりも、ずっと。
空しさを感じながら、一人で食材探しに繰り出すことを甘受したリキッドにパプワが投げた言葉は、想像するだけ恐ろしく、
「勿論、食材探しをサボったシンタローはお仕置きだゾ!」
お姑さんに心底同情してしまうのだった。
「パパ!お誕生日おめでとう!!」
「叔父様おめでとうvv」
「おめでとう御座います、マジック様」
「おめでとう、兄さん」
「一応祝ってやるよ、兄貴」
「みんなありがとう。とっても嬉しいよ」
「はいコレ!オレからのプレゼント!!」
「有難うvシンちゃんvv」
「ボクはこれね。ねぇねぇ開けてみて叔父様♪」
「とっても嬉しいよ、グンちゃんv」
「兄貴」
「ん?何だい?まさかハーレムもプレゼントくれるのかい?」
「兄貴」
「…?だから何なんだい、一体」
「起きろよ、マジック兄貴」
「起きる…?」
「兄貴…おい兄貴!こんなトコで寝てると風邪引くぞ!おいコラ!!」
「…ん?……あれ、ハーレム…?」
「折角の日に風邪なんて笑えねぇぞ」
「ここは私の部屋…。………そうか、夢だったのか…」
二十年前ほど昔の、優しい思い出の夢。
寝ていたソファから起き上がり、些か乱れた前髪をかき上げてふぅと溜息を吐いた。
「思い出は…所詮思い出にしかならないのだろうか…」
「ああん?」
突然何を言い出すんだと実兄を訝しげに見やるハーレムの瞳に映し出された彼は、どこか遠くをじっと見つめていた。
「夢を見ていたんだ。ずぅっと昔の夢を。私の誕生日にみんなで祝ってくれた時の思い出がそこにはあったよ」
「だからグンマ達の誘いに乗れば良かったんだよ」
今日がマジックの誕生日だと、グンマを初め、サービスと驚くべき事にあのハーレムですら覚えていてくれた。
…キンタローは忘れていたけれど。
数日前から団をあげてのお祝いパーティを開こうと、実の長子からの申し出があったのだが、それをマジックは丁寧に断った。
例年なら誰かが祝おうと言わずとも、自分からいそいそとパーティの準備をしていた。
けれど今年はお祝いの言葉とプレゼントがマジックの私室にて贈られただけだった。
派手な飾り付けをされた会場も特別なご馳走もない。
せめてものケーキが一切れずつマジックと側近達、それにグンマとハーレムに渡された。
お祝いをして貰う気分になれない理由を、誰もが知っていた。
血の繋がりこそないものの、溺愛していた息子のシンタローは異次元に位置を置く第二のパプワ島に居てここには居ない。
実弟の一人、サービスと実子の末っ子であるコタローは修行中の為やはり不在で。
新たな戦の波も迫っている。
それにコタローは今、マジックがのんびりと私室でまどろんでいる間にも、きっと秘石眼のコントロールを主とした修行に励んでいるのだろう。
まだたったの10歳なのに。
それを思うと、暢気に祝ってもらう気持ちになんてなれっこない。
―――もっとも、私はあの子を4歳の頃に監禁してしまったけどね。
襲い掛かる後悔の波と、それでもまだ戸惑うコタローとの親子の関係。
失われた日々は戻らない。
自分がつけてしまったコタローの心の傷は簡単に癒えるものではない。
コタローを監禁すると決めたあの時の心を今も覚えている。
正しい事とは思わなかったが、他の方法が思いつかなかった。
シンタローの静止の声に敢えて耳を塞いだ。
けれど一歩ずつ、覚束無い足取りながらもコタローに近付こうとしている自分が居るのも確かで。
「来年こそ、みんなにお祝いして貰いたいよ」
今年しなった分、凄いご馳走作る予定だよ、とマジックはふふっと笑った。
「そーだな…」
その時は仕方ねえからオレも参加してやるよ、とハレームも短く笑みを見せた。
ふと視線を向けた窓の外は音もなく静かにゆっくりと雪が舞い降りている。
雪が昔から好きだったシンタローに今年何度目かのこの雪を見せてやりたい。
雪の降らぬ遠い地に居る息子の勝気な笑顔を瞼の裏に映し出した。
きっと彼は元気に暮らしている筈。
何が起きても彼なら大丈夫。
でも
早く帰っておいで。
シンタロー、コタロー。
―――MY LOVEING SONS―――
君が安らげるように ~コタローside~
『待って!待ってよぅ!!』
とっても“大好きな筈の人”が、ボクをココに閉じ込めた。
どうして?
どうしてボクだけ外に出ちゃいけないの?
どうしてボクを一人ぼっちにするの?
ボクの疑問に貴方は「オマエは危険だからだよ」と言った。
ボクは危険な存在なの?
ボクは世界に異質な存在なの?
じゃあ!
じゃあボクは何の為に生まれてきたの!?
『ねえ!答えてよ…ッ』
だけど貴方はもうボクに背を向けて、部屋の外へと歩き出す。
ギギギ…と鈍い音がして、扉が閉められる。
嫌だ!一人ぼっちになるのは嫌だよ…ッ!
扉の隙間は後少ししかなくて、貴方の背中が見えなくなる。
『待って!置いてかいないで!パ―――』
ガバッ!
はっとしてボクは飛び起きた。
はぁはぁと息が激しく乱れていた。
キョロキョロと周囲を見渡すと、ボクを包むのは見慣れた薄い暗闇。
「え…、あ……夢…?」
部屋―――と言っても家に一部屋しかないから家と言ってもイイケド―――に一つある窓から差し込む月明かりのおかげで、少し離れた台所も大体見える。
ボクと赤い服を着た男の人以外何も見えなかった、あの漆黒の暗闇じゃない。
「はぁ…」
安心したからなのか、溜息を吐いて膝に両腕を置いて頭を下げる。
その拍子に額を伝って雫が膝上の掛け布団を濡らした。
びっしょりと嫌な汗をかいていた。
発汗した所為か、酷く喉が渇いている。
お水、欲しい。
「どうした?ロタロー」
声がしたと思ったら、むっくりと隣の影が起き上がった。
「パプワ君。あ、ゴメンね。起こしちゃった?」
眠そうな様子もなくぱっちりとした大きな瞳でボクを見つめる、ボクのきっと初めての友達。
「怖い夢でも見たのか?」
パプワ君はいつも殆ど表情を変えることはないけど、実は結構表情あるんだよ。
よく見てなきゃ気付かないだろうけど。
今も心配そうな顔してる。
その声も、とても優しかった。
コクンと頷くボクの頭に温かい感触が触れる。
「よしよし。大丈夫だぞ。ボクが付いてるからな」
母親が愚図る我が子にするように、パプワ君は背伸びをしてボクの頭を撫でてくれた。
ボクの大好きな温度に心から安心出来る。
もっとその温度を感じたくて、自然にパプワ君に抱きついた。
パプワ君は相変わらず「よしよし」と言いながら頭を撫でてくれる。
時々「安心しろ」とか「大丈夫だぞ」とか言いながら。
「有難う、パプワ君」
どれくらいそうしていたんだろう。
すっかり落ち着いてきたボクはやっと喉の渇きを感じて、水を飲みに行った。
水を溜めている桶は直ぐそこなのに、パプワ君は一緒についてきてくれた。
やっと喉も潤って眠る時、何も言わずボクの手を握ってきた。
「あったかい…」
「ロタローの手もあったかいぞ」
「なら温めあいっこしようねv」
ふふっと笑って少し握る力を強くした。
君がボクにしてくれるように、ボクは君に何が出来るだろう。
ボクは君のような凄い力はないけれど、君がしてくれたようにボクはずっと君の傍に居て、温めてあげたい。
強い君だけど、悲しい時もきっとあるだろうから。
その時は、何があってもこの手を差し出すよ。
だから。
だから、ずっと。
ずっと一緒に―――。
君が安らげるように ~パプワside~
『コタローって誰だ?』
『オレのかっわいーい弟!』
『ブラコン』
『るっせー』
『……シンタロー…』
『んだよ』
『コタローが好きか?』
『そりゃもースッゲー好きだぜ!可愛い可愛い弟だもんなッ』
『…そうか』
『?…なんだ突然。変なヤツ~』
“世界で一番好きなのかと、誰よりも一番好きなのかと、
……ボクよりコタローが好きなのかと、とっても恐くて聞けなかったんだ”
すやすやと穏やかな寝息をたてながら、やっと夢の中へ潜り込んだコタローに、安堵の溜息をほっと吐く。
コイツは夢見が悪くて、よくさっきみたいに真っ青な顔で目を覚ます。
海のような蒼い目に涙を溜めながら。
でもこれでもまだマシになった。
パプワ島に来た頃は毎日その調子だったが、最近では滅多にこんな事は起きない。
時々ふと思い出したように辛い夢を見ている。
ボクはその夢を知っている。
それは夢じゃない、過去の現実だった。
コイツが今は閉まい込んだ、悲しい昔の話。
コイツとコイツの―――そしてシンタローの父親の男とは、四年前に近付いたように見えた。
きっと一歩は近付いたんだ。
でもまだコタローは恐がっている。
あの男を、と言うより、また一人ぼっちになる事を。
コタローは極端に一人になるのを嫌がる。
一歩でも先に進むボクの後をまるで必死についてくる。
大丈夫だぞ、コタロー。
お前とボクは友達なんだ。
お前が何時か、シンタローが居るだろうボクはまだ見ないあの場所へ帰るまでずっと傍にいてやるから。
一人ぼっちの寂しさを、ボクも知っているから。
「ん…、パプワ君……」
起きたのかと顔を覗くと、ただの寝言だったようで、幸せそうな顔で安眠を貪っていた。
安心したようなコイツの様子にほっとする。
シンタローが第一のパプワ島に流れついてからずっと、楽しかったけど何時だって小さな不安がボクの心に付き纏っていた。
シンタローはよく“コタロー”の名を口にした。
大好きだと。可愛いと。会いたいと。
その度に生まれてくるモヤモヤとした気持ちを、最初は正体が分かずただ持て余していた。
初めて感じた感情だったから。
ボクは島のみんな大好きだが、シンタローは特別だった。
初めての人間の友達。
ずっとずっと人間の友達が欲しかった。
その願い事が叶って一年以上共に過ごした日々はとっても楽しかった。
だから余計に楽しい分、コタローを想うシンタローに不安を感じたんだと思う。
コタローという存在が、何時かシンタローを帰してしまう。
そう思うと凄く嫌な気持ちになって、今思えばコタローの事は嫌いじゃなかったけど好きにはなれなかった。
そのコタローと今では友達になって、一緒に暮らしてる。
守ってやりたいと願う。
コタローの事、好きか嫌いかと聞かれたら、ボクは迷わずこう言うぞ。
「大好きだぞ。ボクとコタローは友達だ」
誰からとか何からとかじゃなく、コタローを怯えさせる全てのものを跳ね除けたいって思う。
怖い夢を見たら寝付くまで手を握ってやる。
怖い夢も吹き飛ぶような、お前がまだ知らないもっと楽しい場所にも連れて行ってやるぞ。
だってお前はボクの大好きな友達だから。
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父の日記念~グンマ編.2~
コンコン☆★
「はい、開いてますよ」
がちゃ
「たっか松ぅ~vv」
「おや、グンマ様どうなされましたか?」
満面の笑みで高松の研究室に飛び込んできた青年に対し、男は今まで熱心に向かっていた研究レポートから目を離し、
くるうりと回転椅子を青年の方に向けました。
青年は何故か両手を後ろに隠しているようです。
そろりそろりと高松に近付いていきます。
「えへへv今日は父の日でしょう?だから―――」
「ああ“シンちゃんロボット(等身大)”の件ですか。マジック様、さぞかし喜ばれていらっしゃいましたでしょう?」
「それがねー!シンちゃんが眼魔砲で―――って!違うよ!!その話しじゃなくって!」
もぉ~~!と怒って見せますが幼い顔立ちな為か、元々の気質か、迫力というものがありません。
それに怒っているというよりは拗ねているという感じです。
「はいはい、では何の御用でしょうか?」
駄々を捏ねる愛息子を見つめるようなその笑みは、ドクターを知る者ならば目を丸くして驚くのでしょう。
いつもはどこかクセのある笑みを浮かべ、周りからは『マッド・サイエンティスト』とまで呼ばれているのですから。
グンマは後ろに隠していた物を、パッと高松の眼前に差し出しました。
「はいvコレ」
「薔薇・・・ですか・・・?」
見たこともないほどの美しさを称えたその黄薔薇。
これがどうしたんでしょうか?と、状況が攫めない高松は首を傾げます。
「今日は父の日でしょう?」
「はぁ・・・」
さっぱり分かりません。父の日=目の前に突き出された黄薔薇の花束から導き出される答えは・・・?
「だから高松の為に、ぼくが栽培したんだよ♪」
「え・・・?」
まだイマイチ分かっていない高松に少し溜息が出ました。
普段はとっても勘がいいのにこんな時はとても鈍い大事な人。
「だって!ぼくにとって高松はお父さんみたいなものだもの☆★」
「グンマ様・・・」
「だからあげたいの!貰ってくれる?」
「グンマ様・・・!」
そっと震える手で大切な・・・とても大切な黄薔薇を受け取ります。
ふと、温かい水が頬を伝いました。
「高松~ぅ?どうしたの~??」
今度はグンマが分からないと小首を傾げました。
いつでも胸を締め付けるのは復讐に身を任せた結果。
復讐・・・結局それが何になったのたでしょう?
子ども達には何の罪もないのに・・・それを・・・。
結果、良かったものの、一生実の親を実の親と思わず知らずに。
けれどこうして無条件で許してくれる。
温かい手がこうして優しくこの凍った胸を溶かしてくれる―――。
光が、差し込んでくる―――。
「ありがとうございます・・・グンマ様・・・」
込み上げてくるのは真実の言葉。
父の日記念~キンタロー編~
出せ
出せ
出せ・・・。
早くここから、俺を解き放て・・・。
俺が本来居るべき場所へ―――。
消えてしまおうか・・・。
どれ程の月日が流れたのだろう・・・。
暗い闇の中、たった一人きりで、俺は気の狂いそうな時を生きている。
ぼんやりと考えるのはその事だけだ。
それしか俺には何もない。
ニセモノの記憶だけが俺に与えられたもの。
しかし“体験”は入らない。
何も出来ない。
触れない。
そして俺は誰にも知られない。
俺の過ごす筈だった時をニセモノが生きる。
ニセモノすら、俺を知らない。
俺は本来居るべき場所へ行く時を、世界の覇王となる時を待ち、生きている。
しかし・・・もう、どうでもいいと思うようになった。
憎しみの感情はいつしか諦めという感情に鎮圧される。
覇王となる筈だった俺が諦めを知るなどとはな・・・。
少しの微笑。
消えてしまおう。
この身体もニセモノにくれてやる。
待つには疲れた・・・。
消えて・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
―――・・・?・・・何だ・・・?
この闇の中、確かに灯る筈のない光が見えた。
光は男の姿へと形成を果たす。
誰だ?ニセモノから送られる記憶を掘り下げても見知らぬ男。
少しばかりか、俺と似た男だった。
男は微笑んだ。
どこか哀しそうに・・・。
・・・・・・哀しい・・・?哀しいとは何だ・・・?
男は口を開いた。
―――まだこちらに来てはいけない。
なぜ。
―――必ず時が来るのだから。
そんな保障、一体どこにある。どうすれば現の世界へと、居るべき場所へ行けるのか分からないのに。
―――私は知っているから。
何だ?お前は神だとでも言うのか?
―――そんな高貴な生き物ではないさ。敢て言うなら堕天使・・・だろうか。
堕天使・・・?没落した天使か?
―――こちらに来てはいけない。私の分まで幸せになれ。私のたった一人の―――。
何だ?最後の言葉は雑音などない筈のこの空間に、しかしかき消された。
―――いつでも私はお前の事を見守っているよ・・・。
待てっ。お前は誰だ・・・!?
―――いつか、また会おう。
男は光の粒子へとその身を散らす。
お前は・・・誰だ・・・?
そしてこの凍った俺の胸に飛来したこの想いは一体・・・?
「あ!居た居たキンタロー!」
「ああ、シンタローか」
「お前どこ行ってたんだ?朝からいなくなって」
「父さんの墓参りだ」
「ああ・・・今日は父の日だったか。ルーザー……叔父さん……も、さぞかし喜んでいるだろうな♪それで何か墓に備えたか?」
「ああ、勿忘草と生前好んだらしい酒をな」
「勿忘草?」
「その花が好きだと高松から聞いた」
「何か伝えたか?」
シンタローの質問攻めに苦笑いだけ、今度は返しておいた。
あの暗闇で出会った父さん。
そして哀しい別れをした父さん。
まだ、そちらには行けない。
この大地の上、あの時は知り得なかった、父さんが指し示した未来が、俺を導いてくれるるから―――。
* 怠慢心、得することなかれ *
お盆がくる。
お盆がくる前にやらねばならぬ事、それは大掃除。
普段酒瓶中心に散らかりに散らかりまくる特戦部隊の家――――【SISIMAI HOUSE】も、
お盆に備えての準備が行われようとしていた。
「掃除はロッド、おめぇがやれ」
「マジっすか!?つかなんでオレなんですか!そんなのは家事が得意なマーカーとか・・・」
「見て悟れ。オレはお盆料理を作るのに忙しい」
リキッドに負けず劣らずのフリフリが微妙に眩しいマーカーは、
今にも二十分ほど舌が痺れるような熱さで煮たるニシメを掻き混ぜたお玉を右手に光らせている。
投げたろかッと、彼が狙う先は数寸違わずロッドだ。
大掃除までマーカーに押し付けようものなら、確実にお玉投げつけられて、火傷して怯んだ隙に殺られる。
しかし家庭的なことに関しては怠情なロッドは、大掃除なんて面倒極まりない事は絶対にやりたくないのだった。
せめて誰か一緒に手伝ってくれればと内心愚痴る。
「隊長は何すんすか」
何もなければ大掃除を手伝って欲しい。
出来るならば一担に引き受けて欲しい。(まず無理な願い)
二人でやれば1/2楽出来る。
パートナーが自分以上に怠情なハーレムというのは心許無いが。
「あ?オレは酒調達係。最高に上手い酒、かっぱらってきてやんぜ♪」
買うんじゃないのか。と、常識的に突っ込みを入れてくれるものは、【SISIMAI HOUSE】の住人の中で皆無だ。
何故なら食材物品のかっぱらいは、彼らの日常茶飯事。
「オレが調達係になっても・・・」
掃除なんて面倒極まりない事は、やはりやりたくないロッドは取り繕い笑いに手はゴマすりで上司に申し出だ。
「ロッドくぅ~ん。ハーレム隊長様の役割分担決めに文句があるのかなぁぁあ~?」
優しげな笑顔に紳士的な口調にブンブン振り回している鉄球。
潔く掃除しなきゃ、あれ投げつけられて殺されるんだろうなオレーと、半分石化しかけながらも
「モンクナンテないですよ、ははは・・・」
と顔では笑顔、言葉半分カタカナ、心では呪詛を吐きながらも渋々掃除を始めた。
―――あ~、めんどくせぇ。
大掃除開始3分経過しない内に、やらないのと殆ど変わりないほどに掃除のペースが下がっている。
―――どうせまた散らかすんだから片付けたって意味ねぇのに。俺は片付けるより散らかす方が向いてるっての。
大体掃除なんてモンは、マーカーや前はリキッドが…。
長々と脳内で続いた愚痴が一瞬ピタリと止まる。
―――リキッド…?そうだぜ。そうだよな!こういうのはリキッドにやらせりゃぁいいんだ♪オレってあったまいーv
結局は他力大本願ロッド。
哀れリキッド。
そうと決まれば膳は急げだ。
「あの~、隊長ぉ。ちょっとオレ、出掛けてきますね」
「あぁ~?掃除全然終わってねぇじゃねぇか」
やる事やってから遊びに行けと爛々に輝く秘石眼が語る。
「そ、掃除に必要なものなんスよ!ソレを取りに行きたいんですってばっ!!」
「とか言って、ホントはバックレる気だったら承知しねえぜ?」
信用ならないと右手の平に徐々に集まる気が恐喝する。
ちょっとでも失言すれば殺られる危機を背中の冷や汗に感じながらも、手を前で組み、ハーレムに近寄る。
「隊長、オレの瞳を見てください…」
「あぁん?」
彼の瞳はきらきらとお星様を入れたように光り少し潤んで、頬は少し染め、足は内股、(本人意識は)甘い吐息、
背景はピンクの薔薇とバブルトーン、ハーレムとの顔距離は10cm。
少女漫画のヒロインが想い人に勇気を出して告白するシーンによく似ている。
「オレを し・ん・じ・てv」
ウフvと、ポーズは維持したままウインク一つでハートを飛ばす。
可愛い女の子やちみっ子ならされる相手も胸キュンキュンvvな行為も、
いい歳した逞しいマチョメーンではハッキリ言っておぞましい事この上ない。
「~~~~ぁ~、わぁ~った。。。行ってこい!」
少々気持ち悪くなったのと、どうでもよくなってきたのとで、ウザったそうにハーレムは外出許可を出した。
「じゃ☆行ってきますね」
「あ、おい待てよ!一体どこに何を取りに行くんだ?」
やはり部下の目的が気になる。
掃除に必要なものは一通り【SISIMAI HOUSE】に揃っているのに何が他に必要なのか。
「ん~……」
くるりと振り返った笑みは企みさを含んで。
「家事全般秘密兵器ってトコスかぁ~?」
「家政夫は只今貸出禁止中だよ」
「お盆前の大掃除で忙しいからな」
ちみっ子二人に突きつけられた現実は、あまりに無情でした。(ロッド限定)
「えぇー!?」
「自分の家くらい、自分で始末せんか!」
「お盆まで時間ないんだし、帰って早く掃除した方がいいんじゃないのー?」
さっさと帰れよモードで来訪者を冷たくあしらうちみっ子Sの背後で、
早朝からたった一人の大掃除と格闘していた暗雲背負うリキッドが小声で口を挟む。
「…お前らのその台詞、そっくりそのままオレが言いたい事なんですけどね」
「「チャッピー」」
「あぉ~ん!」
ガプッツツ
「ぎゃあああああああああ!!!すみませんすみません失言でしたーーーー!!!!!」
「シミ一つ、埃一つ残ってたらどうなるか」
「「分かってるな、家政夫」」
頭から血飛沫を豪快に噴出し右往左往するリキッドに対し、悪魔っ子の言葉が重なる。
「重々承知ですぅぅぅううぅぅぅ~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!」
「なぁ…、ちょっとだけリキッド貸してくれてもさ~ぁ~~~?」
きっぱり断られてもロッドは引き下がらない。
リキッドを借りれなければ、結局自分があの家(誰かがたまに掃除しなければ通常、普通の家より当社比60%は汚い)
を掃除しなければならない。
それはあまりにめんどくさ過ぎる。
「もー、ホントしつこいなぁ」
「しつこい男は嫌われるゾ、ナンパイタリアン」
「ナンパを軽薄すんなよ。なんたってナンパ出来て一人前の男、なんだぜぇ?」
「お前の脳内世界でか」
パプワの南極気温の突っ込みにも
「全各国男子共通」
自信たっぷり当然だとばかりにキッパリと短く答える。
「えー、それホントなのぉ?」
それでもちみっ子Sはロッドに対しいかにも嘘だろ口から咄嗟に出たでまかせだろと赤青両秘石眼が疑いの眼差しを向ける。
しかしハグ癖持ちイタリアンは少しもたじろがない。
「これは大マジだって。オレはガキの頃から周囲の大人に言われてきたんだよ。
お前らだってナンパの一つや二つ出来なきゃ一人前の男にはなれねぇぜ?」
軽い口調ながらその熱弁ぶりから、どうやらその場任せの嘘八百ではないらしい事は分かる。
「ボクは前にオットコ玉を取ってきたよ。だからナンパしなくたって完全無敵な一人前だもん」
「あれは一人前の“男の子の証”だろ?一人前の“男”の証がナンパ。っつーか、正確には真の男になる為の第一関門ってトコだな」
「へぇ~」
「そもそもナンパってーのはなぁ……」
深々とまではいかないが、興味有り気にロッドの話に耳を傾け始めた二人に、更にあっつく寧ろ暑苦しくナンパの心得を説く。
もう本来の目的はすっかり時の彼方へ忘れ去られている。
十数時間後、ナンパについて語りに語りまくって一種の爽快感を感じながら大掃除の事などすっかり忘れたまま帰宅したロッドが、
邪悪な笑みを浮かべた不機嫌際絶頂ハーレムに瀕死の重症を負わされる羽目になるが、
あまりにグロテスクな内容なのでそこは省略しておく。
ちなみに。
最後まで忘れていたGは、茄子と胡瓜に割り箸を刺し、無表情無言で茄子牛と胡瓜馬を作っていた。
「っておい!Gの仕事はそれだけかよ!?」
全身に酷い傷を作ってボロボロ状態のロッドがバンッ!とテーブルを両手で叩く。
ジ~~~ンと腕を伝い、痛みが回って言葉にならない悲鳴を上げながら痛みにのた打ち回る。
「それだけだ」
「ならオメーが掃除やりゃあ良かったじゃねぇか!!!せめて手伝うとか名乗り出ろよ!」
「手伝う暇などなかった。茄子牛と茄子馬を徹夜して各5万ずつ作ってたからな」
「なんでんなに作る必要があんだよ」
「パプワからのバイトだ。お盆の祭りで使うのだそうだ」
「一個幾らで作ったんだ?」
「一個ではない。十個で五円だ」
「まるで主婦の内職作業だな、ソレ」
特選部隊の輝かしい未来は、まだ当分訪れそうになかった…。(合掌)
* 綺麗にすればするほど汚れるシルク *
パプワ島から脱出不可能となってしまった特選部隊'sはその日の内に、誰が大工さんになったのかしかし
「絶対ハーレムは手伝ってないよね!せいぜい設計図の文句言うくらいだね」
な一軒家を建てて比較的(←ここ重要)のどかに暮らしていた。
先程も他人のの物漁り&いい物があったらもちゃんと無断で盗み、誰か居たら料理はご馳走になるという日課もきちんと済ませてきたし。
とても居心地が悪そうな命名:獅子舞ハウスでは、近所のパプワハウスからかっぱらってきた
やけにデカイ『白●恋人』を溶かしてケーキを作ろうはりきるロッドが、箱ごとお鍋に水を張り火付けを開始した。
箱ごと入れるなんて、どうやらこのイタリア人はカレーすら作った事がないんだろうなぁと容易に予想がされた。
獅子舞ハウスの大黒柱らしからぬ大黒柱ことハーレムは、
同じくかっぱらってきた北海道名産『木彫りの熊』を人喰い熊だ何だと喚きながら胴着に着替えて殺人技を繰り出していた。
何故か口の中に某少年漫画(原作者同じ)の聖獣が居た。
えらくこの熊が気に入ったらしい。
ただの置物の筈の『木彫りの熊』は白目を剥いて泡を口から吹いていたのだが、それは錯覚だと決め付けた。
『木彫りの熊』をかっぱらってきた実の犯人Gは、無言無表情で何かを一心不乱にやっている。
縫い物だった。
しかもあの道産子テディベア(=『木彫りの熊』)に着せるつもり満々で手早く素早く愛情込めて、
背景にバブル乙女トーンを背負って素敵な想像をしながら表情はしっかり崩さず縫っていた。
Gの見た目に全然合わない趣味を知っている仲間は誰も驚きはしないが、
獅子舞ハウス窓から「ストーキング?」と言われても可笑しくはない覗き見をしていた刺客約二名は、
もしちょっとした大ピンチさえ抱えていなければ驚愕のあまり現実逃避しそうだった。
しかもその縫いもの―――服はどう見てもシルクのドレスっぽい。
暫く第三者から見てストーキングもどき行為を行っていた刺客二名は、
刺客の片方の師匠であるマーカーがぽつりと漏らした素敵な一言にメロメロになった為、
すたこらさっさとその場からBボタンダッシュして逃げた。
さわやかな笑顔が素敵だった。
やはり家庭科1っぽいロッドではケーキは作れず、脱退したにも関わらず未だに下っ端として使っている
(彼ら曰く)元同僚である可愛いリキッドにケーキを作らせよう!と皆の腹の虫とよ~く相談し、
リキッドの想いは完全無視の体制で決定された。
訪問する際、彼だけの呼び名・人喰い熊を「リキッドに自慢してやろー♪」と、
よいしょとハーレムは持っていこうと縄を体に巻きつけ引っ張っていった。
絶対リキッドはこんなエセテディベアよりくまのプーさんの方がいい!と主張する事間違いなしですよと
マーカーの脳裏を過っていくが、スルーするに100万点を決定された。
触らぬ神に祟りなし。
関わらぬ獅子舞に祟り(多分)なしだ。
その前にそのエセテディベアや『白●恋人』はリキッドの所からかっぱらってきたのだから、
見せびらかすと言っても「俺達盗んじゃいましたvv」とわざわざ白状しにいくものだと誰も気付かないのはついうっかり☆★である。
(としておこう)
自分がかっぱらった筈の道産子テディベアをうっかりしっかり隊長に持っていかれそうになったGは、
やっと完成したドレスを放り投げて止めたが、溜めなし眼魔砲直撃の前に敗れ去った。
パプワハウスに到着するまでに、瀕死の重傷を負いながらも何とか見える所の傷や血を拭い、
売りにもしているいつものクールフェイスで決めたGだが、先程ストーキングもどきをしていた顔“は”良い刺客二人組みの、
特に大きな筆を持った変なお兄さんの所為で大洪水大地震な一騒ぎが起き、気付いたら『木彫りの熊』は消えてしまった。
代わりにコケシ4体が表れ、日本伝統物には興味ねーよッなGは無表情を貫きながらも、「折角作ったドレスが!」と
悲しみの嵐が心中で暴風中であった。
しかもコケシと言うのは漢字にすると『子消し(=我が子を消す)』から由来されている不吉な代物だった。(本当)
翌日、獅子舞ハウスの台所の隅っこ一角に、とても綺麗なシルクの雑巾が何枚も折り重なる事となる。
* 偽パプより一年以上前に書いたのにパクったみたいで沈むorz *
「ぎゃー!!!」
「もぉ~!どーしてくれるんだよ家政夫!!」
「何年家政夫しとるんだ。お前は」
「俺は本来家政夫じゃねえーッッ!」
チャッピーを頭にぶら下げて―――正確にはチャッピーにガブリと噛まれている―――痛さから来る悲鳴をあげ、
血を迸らせながら室内中を駆け回っているのは、パプワハウスの家政夫ことリキッド。
確か彼はジャンの代わりに赤の秘石の番人として第二のパプワ島に居座っている筈・・・・・・なのだが。
「僕の服、全部洗っちゃったってどういう事さ!」
実際のところ、外敵が“今現在”はいない第二のパプワ島での彼の立場は、完璧に“家政夫”であった。
ぷんすかと高飛車に怒っているコタロー―――現在は訳ありで通称ロタロー―――は何故か大波にでも攫われた後のような濡れ鼠だ。
原因は十数分前に遡る。
今日も一日元気に遊びに熱心だったパプワとコタローそれにチャッピーは、先程まで断崖絶壁付近で鬼ごっこをしていた。
断崖絶壁付近なんてとてつもなく危ないのだが、まだ第二のパプワ島に来たばかりのコタローならばともかく、
すっかりこの島に馴染んだコタローは、パプワと共に行動して早四年ともなるリキッドですら危険だと思う事をパプワと共に気にせず行う。
子どもは順応性が高い。
加えてコタローはパプワを絶対的に信頼している。
出会ったばかりの頃は生贄されていた事すら良き思い出―――と言うより、恨みはしっかりと覚えている彼にすれば珍しく、
すっかりと忘却の彼方のようだ。
今日も自分の興味を最優先し、特に深い意味はなく断崖絶壁で鬼ごっこをしたのだ。
勿論コタローだって断崖絶壁から落ちてしまえば危ない事は百も承知だ。
だからギリギリの所までは近寄らなかったのだが・・・。
「あー!とんだ災難!!」
「あそこは突然ああいう事がよく起こるんだ。今度から気をつけような。ロタロー」
「だったら最初から言ってよぉ。パプワ君~」
「その前に断崖絶壁なんかを遊び場にするんじゃありません!」
すっかり口調がシングルファザーのそれになっている事に、リキッド本人が気付いているかはともかく。
コタローがこのような濡れ鼠状態になってしまった理由は、断崖絶壁から海へと真ッ逆さまに落ちてしまった――――・・・・・・からではない。
秘めたる力を内蔵してはいても、特別鍛えている訳ではない小さな身体があの高さから海へと転落すれば、
海はコンクリートの硬度を持ち待ち構え、悪ければ命がない。
「でもホントビックリした!だって突然の大津波が襲ってきたんだもん」
「でもまあ、波に攫われなかっただけでも良かったな」
「どこが良いんだ――――は・・・・・・クシュッ!!」
大津波に襲われ、その勢いにより後方へと弾き飛ばされたコタローが背後の大岩に激突しかけた時、
見事パプワがロタローをキャッチした為怪我はなかったが、下着まで濡れてしまい非常に気持ちが悪い。
誤って服だけでなく、下着も全て洗ってしまったリキッドに対して悪態をつくコタローが何度目かのくしゃみをした。
濡れた服を着たままでは、いくら熱帯南国でも体温を奪われ風邪を引いてしまう。
服は下着ごと脱ぎ捨てて、とりあえずタオルと毛布で身体を包み込んだ。
「もぉ~!服が乾くまでずっとこうしてろって言うの!?」
まだ日は高い。
もっと遊んでいたいがタオル一枚姿で遊ぶのは如何なものか。
リキッドの服では試すまでもなく合わないし、パプワのは服ではなく腰ミノだ。
パプワは好きでも流石にその格好は拒否したい。
「ワシが丁度良いものを持っておりますが」
「うわっ!どこから沸いてきたんですか近藤さんッ!!」
「まるで人をボウフラのように言わなくともいいでしょうが。リキッドさん」
「ああ・・・、すみませんッス。・・・・・・で、一体何のようなんです?」
「ロタロー君にぴったりの服を持ってますので、お貸し致しましょうかと思いましてなぁ」
「・・・・・・・・・何故ロタローにピッタリの服を近藤さんが持ってるんですか」
心戦組で一番小柄な沖田の服だとしてもコタローにはサイズが大き過ぎる。
コタローに合う=子供服を持っているなんておもいっきり妖しすぎる。
「そんな事は別にどう「近藤さんってば、前々からコタロー君に色々着せてみたいって言ってましたしね」
近藤の台詞を、爽やかなハニーフェイスを持って沖田が遮った。
彼も近藤同様にょっきり生えて・・・・・・・・・・・・・・・・・・もとい、突然前振りも無しの登場だが、本日二度目となれば誰も慌てる事もない。
コホンと一つ咳払いをして本題に戻そうとする近藤。
「まあまあ。とにかくロタロー君の服が乾くまでには時間が掛かるでしょうから、それまでこれを着れば良いでしょう」
「!!!!!……こ、これはッ!!」
またまたどこから取り出したのかコタローの目線に持ってきたその服は、
ふんだんに使われているフリルに胸の部分には可愛らしい大きなリボンと、加えて服の至る所にも小さなリボンが飾られている。
うっすらとピンクに色づいたふわふわなホワイトドレスは正しく、
「ピンクハウス・・・・・・・・・・・・ッスね」
着る趣味はなくともファンシー好きなリキッド。加えて超有名ブランド服だ。
一目見て分かるピンクハウスものだと分かる。
分かるが何故近藤が持っているのかが非常に疑問で――――――・・・・・・はないか。
スクール水着や猫耳メイド服を(沖田に着せようと)購入経験のある彼ならば、
ピンクハウスだろうがゴスロリだろうが所有していても全く不思議でない。
「ソージに着せようと思ったんですが、通販申し込みをする前に知られてしまいましてな」
やはりか、セクハラ親父。
その後は説明を受けるまでもない。
毎度のようにざっくりと頭が胸かを一突きにされ、未遂に終わったのだろう。
沖田が駄目ならと、密かにコタローにも着せてみたいvと目論んでいたらしい。
「末期ッスね」
「ロリコンだな」
「わう~」
リキッド、パプワにチャッピーがやや眉を顰めて漏らした言葉は、近藤の背中にちくちくと刺さる。
それよりも深あぁ~~~く刺さっているのは沖田の愛刀・菊一文字だが。
明らかに即輸血ものの血が床を汚し、血の持ち主である本人は己の血の海に沈んでいる。
今更の光景なので誰も突っ込み入れない。
掃除が大変だな~とリキッドが溜息をついたくらいで。
先程から黙ったままのコタローはと言えば、じ~っとピンクハウス系服と見つめ、少ししてふっと息を漏らす。
「まぁ、しょうがないか。コレでも」
「えッ!いいのかよ!?ロタロー!」
「だってこれしかないんじゃしょうがないでしょ。いつまでもタオル一枚巻いて毛布に包んで動けなのはヤだし。
それに僕ってば女の子の服でも着こなせる程可愛いし、ビジュアル的には何の問題もないよ」
「ロタロー……。前々から一部で噂にはなっていたが、お前って実はオカマの気があるんじゃ―――ゲフッ!!!!」
どこにそんな力があったのか、コタローが片手で投げたちゃぶ台(食器類諸共)がリキッドの顎に炸裂し、
禁句を漏らしたリキッドはお花畑を見た。
明らかに衝撃ショックが引き起こした幻覚だった。
同刻。
パプワ島上空では、見慣れない巨大アザラシが真っ赤なコートを着込んだ可愛い女の子を乗せて飛行中であった。
パプワ島は南国島だ。
対してアザラシは北欧の生き物。
よって女の子とアザラシは≪地上≫からの来訪と直ぐに分かる。
第一、パプワ島で女性と言えばウマ子くらいであるし。
まるでサンタクロースのようなコスチュームの女の子は、正しくサンタクロースの娘であり、パプワ様のお嫁さん候補No.1のくり子。
巨大アザラシはお馴染みのツトム。
しかし≪地上≫からは特別隔離をされたパプワ島に、そう容易くは辿り着けない筈なのだが。
「今日は恋人ならば甘くて熱い夜を二人きりで過ごすメリークリスマスですわvパプワ様vv」
遠距離恋愛中の10歳児の思考回路は相変わらずに逞しかった。
パプワ様vへの愛の力でここまで辿り着いたのであろうか。
アーミン作品の女性は逞しいしネ。
※菊一文字:本家本元である“新撰組”一番隊組長・沖田総司の愛用刀。かなりの名品。
「ですが………まだ156cmになっておりませんので直接会う事は、くり子には許されませんッ!」
パプワハウスから少し離れたポイントに着陸をすると同時に、突然泣きながらレースのハンカチ涙を拭い、
その場に横崩れにしゃがみ込んだ。
どうやら完全に自分の世界へとトリップしているらしい。
しかし復活もすんごい早かった。
「で・す・が!パプワ様に―――も含めて子どもにプレゼントを贈るのはサンタの役目ですわ♪
確かに私はまだサンタクロース見習いの身。
ですからサンタ修行も兼ねましてパプワ様“だけ”にプレゼントをこうして持って来たんですわv」
片手に綺麗にラッピングされたハート型の箱を大きく空に掲げながら、誰も聞いていないのに一人言い訳を述べ始める。
パプワ島に来たのはサンタ修行の為と言ってはいるが、彼女の浮かれモードからしてパプワに会うのが目的なのは明白だ。
本人は全く気付いていないようだが、これだけ大きな声を出していれば
扉もないパプワハウス内には彼女の声はしっかりと聞こえていて当たり前で。
「誰だ?」
「パプワ様!!」
最初に顔を出したのはリキッド。
次いでパプワと後ろにはチャッピー。
その他ぞろぞろ後ろから続くが、くり子にはパプワしか見えていない。
パッと周囲にパステルカラーバブルトーンが広がり、ピンク中心の可憐な花が宙を緩やかに飛び交う。
―――ああ、ますます素敵になられて。その筈ですわ。
最後の往来から四年も経っていますものね………。
外見全く変化のないパプワだが、恋する乙女には当社比60%増しにカッコ良く見えるらしい。
くり子の瞳に映るパプワは何故か等身が実際より1.5倍はあり、硬質の黒髪も落ち着いていて、
さらに瞳は三白眼ではなく少女漫画おなじみのキラキラとして見えている。
ウマ子とは違う、恋する乙女フィルターだ。
「なぁに?パプワ君のお友達なの?」
少し遅れてひょっこりと顔を出したコタローを視界に入れた瞬間、くり子の背後に落雷が落ちた。
漫画でキャラクターの心に衝撃的な事があった時、大きなショックを表すあの雷だ。
「!!!??女の子!?」
パプワとコタローを見るくり子の心境は、まるで恋人の浮気現場を目撃した彼女という表現がピッタリだ。
くり子SWEETDREAMが激しい音を立ててガラガラと崩れ落ちてゆく。
過去三度、くり子は第一のパプワ島を訪れた事があるが、
見覚えは全くないコタローを女の子と勘違いしてしまっているらしいのも無理はなかった。
元々コタローは女顔であり、しかも今はピンクハウスを着ている。
今のコタローはどこからどう見ても、非常に可愛らしく育ちも良さそうなお嬢様そのものだ。
その子が当たり前のようにパプワに寄り添っている。
くり子の胸にふつふつと湧き上がる嫉妬心が爆発するのに時間は全然かからなかった。
「あ………………………………、あんまりですわぁ~~~!!パプワ様ッ」
「くり子?お前156cmになってか「大波に攫われたりお魚さんの群れに押し潰されそうになりながらも
命がけで会いに来ましたのにィー!」
やはりこの島に辿り着くのは非常に困難なものだったらしい。
新生ガンマ団の面子ですら命からがらものだった第二のパプワ島にそれでも辿り着けたのは、パプワを思う乙女心が成せたのだろう。
あと、ツトムの必死の特攻(違)があってこそ。
パプワの問いかけも遮って激しく嘆くくり子の勢いは益々ヒートアップをし、留まる事を知らない。
状況は更に悪化の一途を辿る。
「この四年の空白の時間にパプワ様が浮気をしていましたなんて~ッ!」
「落ち着けく「言い訳なんて聞きたくありませんわ!!くり子はいつでもどこでも何をしていましても
パプワ様の事を想っておりましたのに!!うわああああぁぁん!!!パプワ様の馬鹿ぁ~~~!」
「あ!」
誤解なのだと引きとめようとしたパプワだが、くり子は猛ダッシュをかけ、泣きながら去ってしまった。
後から慌ててツトムがその後を追い掛ける。
「ねぇ。今の女の子誰?何か厄介な誤解をしたみたいだけど追いかけなくていいの?」
「ん~……」
表情こそいつもの無表情だが、かなり困ってしまったらしいパプワにコタローが声を掛ける。
思い込みの激しいくり子だ。
例えコタローが女の子じゃないと理解しても
「パプワ様が同性愛に走ってしまったなんてショックですわ~!!」
とさらに自体をややこしくするだろう事は目に見えている。
それでも、
「取り合えず追いかける」
「僕も行くー」
「えッ!ロタローは行かない方がい「「LET‘S GO!!」」
リキッドのストップを遮り(故意ではない)、くり子の後を追いかけるWちみっ子と一匹の姿はもう見えない。
「ロタローまで行ったら余計誤解を生むんじゃねぇの?原因になってんのがロタローだし」
今更手遅れだろうと仕方なく彼女の件は切り上げ、
未だパプワハウス内で行われている≪沖田の近藤殺人コント≫を何とかしなくちゃなと慣れた風情で家に戻った。
案の定リキッドの予想は大当たりし、十数分後、森の奥から少女の怒鳴り声と鳴き声が絶え間なく響いた。
流星群に 願いを込めて
いつも回りには友達がいる。
チャッピーもじいちゃもいる。
だからその時、じいちゃが言った言葉の意味は分からなかった。
「パプワは寂しいと思った事はないか?」
「さびしい・・・?」
南の丘の大樹の枝にじいちゃとチャッピー座って、 沢山の星の雨を見ていた。
『りゅうせーぐん』って言うらしい、この星の雨は。
「さびしいって何だ?」
「感情の一つじゃ。嬉しいとか悲しいとかのな。 ・・・じゃが、知らなければ、まだいいんじゃよ」
「気になる。じいちゃ」
寂しいっていう感情や、 どうしてじいちゃがこんな事を突然言い出したのかを。
じいちゃは僕の目をじっと見て暫くじっと考えていたみたいだったが、ゆっくりと話してくれた。
「お前には友達が沢山おる。 ・・・しかし・・・お前と同種族は・・・おらん・・・」
僕が人間と言う種族だと言う事は知っている。
チャッピーは犬でじいちゃは梟。
違うけど、自分と同種がいないからってじいちゃが言うさびしいと言う感情は湧いてこない。
同種はいないけど友達はいっぱいいるから。
「さびしくないぞ。じいちゃ」
「・・・なら・・・いいんじゃ」
僕の頭を優しく撫でて、帰ろうと促した。
家への帰り道にじいちゃが空を見上げて言った。
「この流星群に願い事をすれば、 いつかパプワの本当の願い事を叶えてくれるんじゃ」
僕がいい子にしていれば、とじいちゃは言った。
でも僕は特に願い事なんてない。
・・・・・・・・・・・本当に・・・?
「僕と同じ生き物がこの空の下、どこかに居る・・・?」
じいちゃが居る。
チャッピーがいる。
島の仲間はみんな僕の友達だ。
・・・だけど、じいちゃが言う前から僕はきっと本当は欲しかったんだ。
僕と同じ人間の友達が欲しい―――!
コトコト グツグツ
「・・・」
「パプワ、やぁ~と起きたのか。 珍しいな、お前がこんなに遅く起きるなんてよ」
「シンタロー」
あの日、帰り道の密かな願いが目の前に居る。
僕と同じ人間の友達。
コイツが来てから、一気に人間が増えた。
コイツを狙って沢山の人間が―――。
あの日、シンタローを連れてきてくれたのは、あの時じいちゃと見た流星群かもしれない。
だけど、沢山の人間を連れてきてくれたのは目の前のコイツだ。
「ん?どうしたパプワ。早く布団しまっちまえよ。朝食できたぜ☆★」
僕に向けられる笑顔。
その度に胸に湧き上がるこれは、 これも友達の感情?温かな何かが生まれるのが分かる。
「パプワ・・・?具合でも悪いのか?」
「何でもない。それよりめーし飯めし!!」
「はーい。はいはい。早く布団をしまう!」
ふと思い出した。
そうだ今日は流星群。
僕の願いを叶えてくれたあの日の―――。
流星群、どうかずっとシンタローが・・・このまま―――。
けれど夜を待たず、僕の願いは連れ去られてしまった。
消えたシンタロー。
じいちゃ・・・この気持ちがさびしいなのか・・・?
初めてさびしいという感情を覚えた日、僕は今までの胸の熱さの正体を知った。
シンタロー、お前が帰ってきたら―――その時は―――・・・。
津軽ちゃんはぴば(2/6)SS
僕が再びあの組織に呼ばれたのは、まだこれから猛暑がやってくる夏の手前。
ガンマ団員になって、まだ数える程しか属していなかった僕に初めての指令が下されたのは今から約4年前。当時僕はまだ6歳だった。
指令内容は『秘石を持って逃走したガンマ団総帥の息子を倒す事』。
生死については問われなかったけど、指令を出したのがターゲットとなる人の実父なのだから、
生かして倒し、ガンマ団に秘石と一緒に連れ戻してこいという事なんだなって判断出来た。
初めての団員としての仕事は、けれど最後の団員としての仕事になるんだってあの頃は思った。
任務、失敗しちゃったから。
シンタローさんやパプワ君が強かったから、負けを認めたんじゃない。
“今の”シンタロー様の居場所はここなんだって思ったから。
何時かはマジック総帥のもとに戻るんだろうけどって。
実際そう遠くない未来に思った通りになった。
彼は父の後を継いで総帥になったんだ。
趣旨は微妙に変わったらしいけど。
任務が失敗した僕はもうガンマ団には戻れない。
ううん。戻りたくない。
あの組織が嫌なんじゃなくて、シンタロー様と本物のコタロー様に変装したパプワ君の抱擁を見ていたら、急にお母ちゃんに凄く会いたくなったから。
・・・恥ずかしい話けどね、これが一番の任務撤退理由。
故郷に戻った僕は、お母ちゃんと毎日お米を耕して幸せに暮らすようになった。
とっても幸せだったんだ。
「ずっと笑顔なお前が居てくれたら、わは他になも望まないのよ」
何気ない会話から、いつの間にかそんな話に移行した。
稲を刈る手を止めてお母ちゃんが僕の泥だらけな頬をそっと撫でた。
「お前の幸せがあたしの幸せなんだばってら」
「わの幸せも同じ!お母ちゃんとず~っと一緒に居たいんずや!」
何だか無性にその言葉が嬉しくて、興奮気味にお母ちゃんにそう言った。お母ちゃんは僕をそっと抱きしめながら、変わりない穏やかな声で続ける。
「わんつかの時間でも一緒に居られたら良いね」
「うん!」
いつそんな話をお母ちゃんとしたっけ?
そして何で今それを思い出したんだろう?
「津軽君?どうしたんだい、具合でも悪いのかい?」
「何でもないだ。飛行機の乗るのは久し振りでわんつかばし酔いだんだばってもう元気だ。ティラミスさん」
最後と思われていたガンマ団任務は、4年の時を越えて2度目の仕事が与えられた。
任務失敗したあの時に自然消滅したと思っていたガンマ団員の僕は、まだ生きていたらしい。
お母ちゃんと再び離れ離れにはなったけど、そんなに長い間じゃないから、今は寂しくないよ。
でも早く帰りたいな。そしてぎゅうって抱きしめてもらいたい。
まだ、甘えていたい。
昨日の夕方頃、2度目の任務を僕に依頼する為にと迎えにきたのは総帥秘書のティラミスさん。
余程の事がガンマ団にあったのだろう。
いつもは子どもの僕を気遣ってか笑顔でいる人だけど、時折険しい顔も見せる。
青森からガンマ団本部までの移動手段は団の小型飛行機。
機内で僕の任務内容は知らされた。
『コタロー様がお戻りになるまで、コタロー様に成り済ます事。主にシンタロー様の精神安定保持の為』
確かに、あの島でシンタロー様のコタロー様への溺愛っぷりは深く知れた。
居なくなったと知ったらパニックを起こしてしまっても不思議はない。
でも今度もシンタロー様を上手く誤魔化せるだろうか。
4年前は自信あった事が、少し大人に近づけば消極的な考えになっちゃうって本当だね。
ティラミスさんは僕を研究室の方角へ連れて行った。
てっきりマジック様の所へ行くと思っていた僕は少し驚いたんだ。
「マジック様は只今手が放せぬ状態です。ご子息のグンマ様からこれからの説明を受けてください」
そうか。グンマ様がコタロー様の実兄なんだっけ。
色々僕が居なくなっていた間に、団内は回転していったんだね。
手が離せない状態かぁ。
ああそうか、マジック様はコタロー様の事で色々調べたりしているんだよね、きっと。
研究棟の渡り廊下で見知らぬ(殆どの団員の顔知らないんだけど)研究員二人が眉に深い皺を刻みながら話している。
すれ違い様に聞えた会話は―――
「―――と言われているのだろう。コタロー様が逃げたって」
「シンタロー様はご帰還されたのだろう?マジック様は―――」
・・・・・・・・・。
逃げた?
逃げたって、何?
「ティラミスさん」
彼等の姿が曲がり角に吸い込まれたのを見届けてから疑問を口にしてみた。
「さきたのひどだじ、おがしい事ば言うんだべ。逃げたって、コタロー様の家はココなのに」
逃げたなんておかしいでしょう。
コタロー様は、実父のマジック様と今は“本当の親子”になったのでしょう?
「なのに人聞きが悪いだべ。マジック様の耳に入ったらどれだけご立腹なされるか」
自分の子が『逃げた』なんて言葉を言われたら、親がいい気分する筈ないもの。
故郷のお母ちゃんの顔と言葉を思い出す。
「?・・・どしたんだんずな?」
見上げると、ティラミスさんの顔がみるみる青くなって、まるで―――気付かぬ振りを続けていた大罪を、眼前に突きつけられたかのような面。
ねえ、どうしたの?
ねえ、どうしたの?僕は何か可笑しな事を言ったのでしょうか?
ねえ、僕、何か―――。
キンノコトノハヲクチニシマシタカ。
6cmの時間~くり子ちゃんはぴばSS~
3月3日は雛祭り。
そしてある少女のお誕生日であり、“ある事”の確認の日でもある。
ドキドキドキ
期待と不安で、一年に1度の自宅身長測定をする北欧生まれ育ちの女の子。
まだ少女の域を抜け切らない彼女は、天国に一番近い南国の楽園で運命の出会いを果たした。
南国の王者である少年に一目惚れし、156cmになったらお嫁さんにしてくれるという約束までしてもらえた。
ずっと好いた人のもとで暮らしていきたかったが、彼女はまだ幼過ぎた為、父親と共に故郷へと涙ながらに想い人が守護する島から去って行った。
少女の父親はサンタクロース。少
女はサンタクロースの娘で、名前はくり子。
156cmになれば、晴れて彼のもとへ行ける。
今度こそ同じ屋根の下で枕二つに布団はひ・と・つvの暮らしが出来る。
―――やや不純さが見え隠れするが、その日を夢見て、早く156cmになれるように努力してきた。
牛乳を飲んだり、適度な運動をしたり、これは身長が伸びる!と噂が立った物事には何でもチャレンジしてきた。
それもひとえに愛しの未来の旦那様の為に。
その並々でない努力結果を、毎年自分の誕生日の朝に計ってみる。
最初は1日ごとに計っていたのだが、1日では1cmも伸びは見られず、現れない努力結果に落胆しやる気は削がれるので、
【上手なダイエットとは!】の本を見ていた、最近お腹の肉のぶよぶよ感が気になるくり子パパが
「くり子のお誕生日の時にだけ計るようにしてみたらどうかな」
と提案した為、その日から毎年3月3日にはドッキドキの身長検査をするのが通例となった。
あの島にくり子が赴いたのは3度。
あれっきり、彼女は話題には毎日上らせはしても、4度目はなかった。
でも、何時か、165cmになったらきっと―――。
「パパー!」
笑顔で勢い良く父親の胸に飛び込んできたくり子。
数年前は片手で抱えてもそれほど苦ではなかった小さな体も、今では両手持ちでも少し重い。
背に手を廻して答えの見える問いをする。
「どうしたんだい、くり子。ニコニコしていい事でもあったのかい?」
「あのねあのね!身長がね!150cm台にのったの!!」
「・・・そうか。もう直ぐだね、156cm」
楽しみだ。そう口にはするのに、声のトーンが低い父親。
どうしたのかと、不思議そうな瞳で肩に乗せていた頭を下げて視線を合わせる。
ずっとずっと大きかった父親は、今でも大きいけれどあの頃とは目の合わせる角度が違うと今頃気付いたはっとする。
気付いてはいた。
ただ気に留めなかっただけなのだろうけど。
「くり子も何時かは・・・あと6cm背が伸びたら、パパのもとから巣立っていくんだね」
子どもの巣立ちを素直に喜んであげなければいけないのに、それを越えて込み上げてくるのは未来への寂愁。
娘の確かなる成長は親心的には嬉しいけど、やっぱり巣立ちの娘を思うとどうしても。
「うん」
自分との何時かの別れを愁いている事にやっと気付いた。
そう言えば毎年、父はこんな瞳で自分を見ていたのではなかったのか。
156cmになれたら、直ぐにでもあの人のもとへと飛んで行きたい。
早くお嫁さんになりたい。
「だけど」
父親と離れ離れになるのは寂しい。
きっと今までのように一緒には暮らせないのだろう。
くり子パパはサンタクロースの仕事で北欧から離れられない。
あの人は小さな楽園王者であの島から離れられない。
そしてくり子は156cmになったらあの人のもとへ。
永遠ではないけど、あと6cmでくる別れの刻。
嬉しくて、でも寂しいね。
だから、今は―――
「それまではパパの側に居させてねッ」
まだ貴方の子どもで居させてくださいね。
蜜柑よりこんにちはv~高松はぴばSS~
「・・・何ですかねぇ・・・コレは」
研究室の机に置いてある、茶籠に積まれた蜜柑。
蜜柑とはまた微妙に季節外れな。
美味しそうな蜜柑数個が甘酸っぱい香りを室内に漂わせていた。
蜜柑はいい。
蜜柑自体は別にノープログレム。
蜜柑は特別好きという訳でもないが、好きか嫌いかと問われれば「好き」である。
高松の不快さを引き起こしたのは、その蜜柑・・・・・・に描かれているものだ。
「顔のようですが」
顔。
艶やかな蜜柑全部に、似たような顔が油性マジックで描かれていた。
眉毛と唇がやや太い顔。
「何というか・・・。不気味以外の何物でもありませんねぇ」
率直な感想を漏らす。汚いものでも見るかのようなタレ目付きで顔を少し反らせて凝視する。
ずっと見ていると次第に気持ち悪くなってもきた。
「せめて(*^ワ^*)や(‘v’*)など可愛い顔なら、まだマシだったのでしょうけれど」
「どうしたの?高松」
新作ガンボットの資料を抱えながら入室してきたのはグンマ博士。
今回のガンボットこそ今までで最強最高の出来だと当人は公言しているが、必要なネジが4つ取り付け忘れをし、
また一騒ぎ起こすのだがそれは後のお話なので今は省いておく。
「グンマ様。いえ、この蜜柑なんですが・・・」
「みかん星人がどうかしたの?」
「みかんせいじん!?」
「えー、高松知らないの?みかん星人」
「みかん星人・・・」
※みかん星人とは、フジテレビ、ウ●ウゴルーガ(朝7時10分頃?)に出演していた、
縦にガタガタと小刻みに揺れる、パプワ島に出てきても違和感0な程キモ可愛い蜜柑宇宙人である。
YAHOO検索キーワード【みかん星人】で検索すれば一発でみかん星人ファンページが出てくるので、詳細はそこで調べて欲しい。
「僕が蜜柑にみかん星人みたいな顔描いたのv可愛いでしょーvv」
「ええ本当にそっくりに描けてますね。流石私のグンマ様vとっても可愛らしいみかん星人になりましたよv」
「えへへーv僕って絵心あるからさーvv」
―――おいおい、アンタさっき不気味だと言ってただろーが!そっくりって、見た事ないのにそっくりも何もあるのかよッ
と突っ込んでも、所詮は愛は盲目寝耳に水高松にグンマの誤算である。
グンマが白と言ったら、例え黒いものも高松にとっては白なのだ。
先程の嫌~なタレ目付きを慈愛のタレ視線に変えてみかん星人・・・顔の蜜柑を眺めていたドクター高松の脳裏に(彼だけの)名案が浮かび上がった!
「そうですよ!グンマ様!!」
「えっ?何なにどうしたの?」
「ずっと考えていた事が、みかん星人を見て見事解決したのです!」
世紀末の大発見でもしたかのような得意げな顔で、グンマに(彼だけの)名案を語りだす。
「以前シンタロー様に股んGOくんを新しいお体として贈ろうとした事があったでしょう。
まあ、何故かシンタロー様だけでなく、マジック様やサービスまで直後に眼魔砲打ってきましたので未遂に終わりましたが」
「未遂・・・」
犯罪かよ。
「あれは体だけ、シンプル過ぎた為に拒否されたと思うのです。ちゃんと顔を描いてあげれば問題なかった訳で。
そうですね~、今度シンタロー様に新しいお体が必要になった時にご提供致しましょう♪顔はみかん星人の顔をシンタロー様風に。
髪の毛もついでにつけときましょうか。今のようにストレートに伸ばしたままと第一のパプワ島の時のような一つ結い、グンマ様はどちらが良いと思います?
あぁ、二タイプ作るのも良いですねぇ♪」
みかん星人顔したちょっと妖しく根分かれしたバイオ根っこ人間な中身はシンタロー。みかん星人顔・・・。
てか今度って・・・
今度があってたまるかー!!!!!!!!!
ドガガガガガガガガガガガガンッ!!!
「ゲフッ!!!」
グンマの眼魔砲が高松に直撃した。何時の間にグンマ一人で打てるようになったのか、大きな疑問だ。
「高松ぅ~。ホントにそんな事したら、僕怒るからね~?」
「も・・・もう既にお怒りになっていらっし・・・(パタリ)」
キンタローのサポートなしで眼魔砲が打てたグンマの成長を称えながら、高松の意識は薄れていった・・・。
・・・ごめん。やっぱりお誕生日お祝いなのに不幸オチだったヨ。
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焼きたてクッキーおひとつどうぞ♪
宇宙船を作るー!と張り切っているジャン。それに手伝わされているのはグンマとキンタローだ。
高松は色々な事を想像して止めにかかったが、グンマは
「面白そーv」
とヤル気満々。少々今までの研究にマンネリを感じていたところだったのだ。
キンタローは別に乗り気ではなかったのだが、それは何に対してもであって、グンマがしつこく
「キンちゃんもやろー。ねー、やろーよーぉ」
と誘うのでまあいいかと。
同い年とは言え、どうもキンタローにはグンマが手のかかる弟のような存在に感じていたので、
心配な兄弟心もあって同意したのだが。
「あれ・・・、これ何の研究レポートだろう?知ってる?キンちゃん」
「俺よりお前の方がこの施設に居るのは長いだろう」
呆れたような視線を送られるとグッと詰まってしまう。
ちなみに二人が居るのは昔高松が使っていた第三研究所。
ジャンやキンタローまで科学の道に進むという事で研究室の増築が決定された。
それでまだ科学者としては未熟ながら期待あるジャン、キンタローにも研究室が一室ずつ支給され、
三人が宇宙船“ノア”を作ると決定した時、新たにこの第三研究室も与えられた。
ちなみにグンマは既に科学研究には浸かっていたのでちゃんと元から研究室(第六研究室)がある。
「あれ・・・」
「どうした?」
「こんなレポートあったっけ?」
グンマは一番小さいディスクの上に置き去りにされている埃臭い紙の束を見つけた。
ホチキスで止められたとても古いのだろう、かなり保存状態の悪い六ページ分のレポートである。
ここはジャン、キンタローそしてグンマしか使っていない筈。少なくとも自分のレポートではない。
キンタローに問うと知らないと首を左右に振る。とりあえずぱらぱらと中身を捲ってみる。
どうやら何かの薬の作り方らしい。となると、“ノア”作りに夢中のジャンのでもなさそうだ。
興味深げに読みにくいレポート内容を読んでいたグンマだったが、
満足したようにレポートを胸に抱えてキンタローに向き直った。
「よし、これ作ってみようv」
「即決だな。大丈夫か?」
「まっかせて!一度新薬って作ってみたかったし!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
聞いたのはそういう意味ではなく、ちゃんと薬を作れるのかという事だったのだが。
しかし(グンマに対しては)あまり深く追求しない性質なので、まあいいかとその場は流した・・・・・・・・・・・・のが全ての始まりだった・・・・・・。
「どうしたんだ、グンマ。ちっとも“ノア”作りに参加してくれてないけど」
ジャンが不思議そうに問う。白衣姿が意外と様になっている。
キンタローも白衣姿で、カルテらしきものに目を向けたまま答える。
「ああ、何でも『新薬を作る練習するんだー♪』とか言って自分の研究室に篭りっきりだ」
「ふー・・・ん・・・(何か、今のグンマの物真似・・・めちゃくちゃ似てて怖い;)」
「で、何を作っているんだグンマは」
「うっわ!!サービス!」
そこには見目麗しきグンマ&キンタローの叔父が、まるでずっと居たように佇んでいた。
「何でここに・・・」
「ちょっとジャンに用があったんだ。で、グンマは何を作っているのだ、キンタロー」
「知らん」
即答。
「そうか」
「ってオイ!何あっさり納得してんだよ!何か危ない薬でも作ってたらどうすんだよ!?」
「大丈夫だろう。多分な」
マイペースな親友にガックリと肩を落す。付き合いは長いが未だに分からないところだらけな男である。
「そんな事よりジャンに用とは何だ」
“そんな事”と片付けてもいいのかキンタロー。
そう気にするのはジャンだけで、相も変わらず美貌の叔父様は顔色一つ変えず用件を切り出す。
「ジャンに今朝言い忘れた事があってな」
「何?」
「昨晩うっかりお前の背中にキスマークを付けてしまってな。だから人前で服を脱がない方が良いと思」
「うわあああああああああああぁぁぁ!!!!!!!!
こ、子どもの前でその話すんなよぉ――――――――/////////////////!!!!」
ムッとして子どもではないと主張するキンタローは何故かサービスの爆弾発言を全く気にしていなかった。
どうやらこの二人仲はガンマ団では公認らしい。
ちなみにいつもは美貌の叔父様は薄着を好むジャンが嫌がる為、キスマークはつけないで上げているらしい。
(テクニシャンだねv)
一方、こちらは第115研究室ではやっぱり白衣を纏ったグンマが先程のレポートを元に、
『クッキー』を焼いていた。
「出~来たv『若返りの薬入りクッキー!』。かなり時間掛かっちゃったケド」
若返り薬入りクッキーは、それはもう見た目も美味しそうに焼きあがっていた。
グンマは満足そうに天使な笑顔で恐ろしい事を呟く。
「え~~と、誰に試食してもらおうかなー?」
やっぱり高松の教え子である。立派に師匠?と同じく、何のためらいもなく人様を実験台にしようとしている。
可愛く(若返りの薬入り)クッキーをラッピングしながら誰が適任か思案していた。
「滅多な事では死ななそうな人と言えば・・・」
う~~~~~んと唸っていたのは極僅かな時間。ポンッと手を叩き、にぱっvと邪気のない笑顔で微笑む。
「シンちゃんにあげようv」
・・・今回の生贄もやっぱりシンタローだった。
ここは総帥室。日がな一日、新総帥のシンタローはここでデスクワークを行なう。
まだ総帥職務に慣れなく、今も今とて書類処理にスッタモンダ中である。
しかしまだ戦闘の感は失ってはいない。間違いなく遠くからだがこちらに向かってくる足音が耳に響いてくるのをキャッチした。こういうパターンなら息子ラブvのマジックだが、この気配はマジックに似ていて全く違うもの。
ドタドタドタ・・・
子供のように廊下を走ってきた青年は確かに総帥室に向かっていた。
バッタ~~~~~~~~~~~~~~ン!!!!!!!!!!!!
勢いよく総帥室の扉が開かれ、やけに上機嫌なボーイソプラノが響いた。
驚く事もなくシンタローは声の主に視線を向ける。
「シンちゃん♪」
「グンマ、どうした?」
「あのねvクッキー作ったから食べて欲しいんだ♪もうすぐおやつの時間でしょ?」
「・・・もう【おやつの時間】を設ける歳でもないんだが・・・それに俺あんまり甘いものは・・・」
28にもなってなって【おやつの時間】を設けているのはお前だけだ。とシンタローは思った。
「大丈夫♪甘さ控えめだし。いっぱい作っちゃったから食べてねv」
そうまで言われて断れるはずもない。まあ、控えめなら甘いものも好きだし丁度小腹も空いてきたところだ。
「んじゃイタダキマス」
「どうぞv」
一口含む。あの『若返り』入りのクッキーを・・・。
どうなるかなー♪とワクワクしながら目の前の男を楽しそうに観察するグンマの瞳には、全く邪気はなかった。
しかしやってる事は邪悪そのものである。
「結構美味いな」
素直な感想だ。何だかんだ言いながら次々と口に運んでいく。それを聞いてグンマは嬉しそうに返答した。
「でしょ~v隠し味に若返りの薬入れたしv」
「ふ~~~ん・・・若返りの薬入りの・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・って・・・・・・・何だって・・・?
若返りの薬・・・?」
「うんvシンちゃんに実験台になってもらおうと思ってvv」
「・・・・・・・・・・・――――!!??」
ガタンッ!!
いきなり立ち上がったシンタローは真っ青な顔で洗面所へ走っていった。
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダジャ――――――――――
その後聞こえた水音。
「どうしんだろ。吐いちゃった?」
「グ~~~~~ン~~~~~マ~~~~~~~」
ごしごしと力なくタオルで口元を拭うシンタローの声色はかなり低い。要するに怒ってまぁ~~すという雰囲気が漂っていた。
ぐいっ
「わぁ!」
「俺の歳を減らしてどないっすーんじゃ~~~~~~~~!!」
グンマの胸倉を掴んでガクガクと揺さぶり尋問する。頭にはデカデカと怒りマークが浮かんでいた。
流石のグンマも引き気味で答える。揺さぶられながら。
答えようにも上手く喋れなく、途切れ途切れに何とか返答する。
「実、け・・・んだ・・・に、シンちゃ・・・がいっ、かなぁ・・・ぁって思っ・・・だけ・・・よぉ~」
「何が『いいかな~』だ!従兄を弟実験台に使おうとか思ってんじゃねーよ!!」
「く・・・苦しいよぉ・・・」
そろそろ離してあげないとグンマの顔がどんどん青くなっていきます。しかしとりあえず若返り薬入りクッキーは吐き出したといえ(吐いたんかい)、そんな薬盛られてたシンタローは気にせず怒りまくる。
「第一なぁ!――――――――――う!?」
「わっ!」
ドスン!
「~~~・・・・・・痛い~~~~~!」
シンタローは突然苦しそな声を出し、グンマから手を離した。
当の本人は揺さぶり+ちょっと首絞めから解放されたがそのまま重力にしたがって後方に身体が崩れ、
強く尻餅をつく。
身体が疼き、熱くなる。身体が変化していくのが分かる。
「うぐっ!!」
ボンッ
「うわぁ!!」
「シンちゃん!?」
煙が立ち、シンタローを乳白色の煙が包む。
―――若返り!!??今若返ったらどうなるんだ!?
未だ苦しい意識の中、嫌な事ばかりが頭を過ぎる。次第にシンタローを包み込んでいた煙が晴れていく。
「けほっけほっ」
シンタローのものだろうが、やけに高い声(咳)。次第に明確に現れるシンタローの姿にグンマは目を丸くした。
一瞬分からなかったがどうやら実験は、
「あ、失敗しちゃったみたい」
あっけらかんとした感想。しかしその手にはノートと思しきものが。それに研究結果を書いている。
流石高松の背を見て育っただけあって同じ事をしている。あくまでマイペースなグンちゃん。
「こぉおおおらぁぁ!!!呑気に研究結果書いてんじゃねー!!――――――――・・・ん?何か俺の声・・・」
「若返りのは失敗しちゃったケド」
はい、と手渡された手鏡で己の姿を繁々と見つめる。少なくとも若返ってはいないが、これは―――――。
「何だよこりゃ~~~~~!!!???」
己の変わり果てた?姿を見て絶叫するシンタローは見事におチビちゃんになってしまって―――はいない。
よく通る声はボーイソプラノではなくアルト。余裕のできた総帥服の上からでは分かり難いが、顔がやや特有の丸みを帯びている。そして決定的に今までと違うのは、見事なまでの胸の膨らみ・・・・・・だった。
「うわあぁぁああああああぁああっ!!!!!!!!!」
「シンちゃん、女の人になっちゃったみたい」
「誰の所為でこうなったと思ってるんだよ!!」
その前にシンタローに使用したのは『若返りの薬』ではなかったか・・・。
と、いう訳でマジックに相談するのは色んな意味で怖いので信頼を置けるサービスに相談した。
グンマに元に戻る薬を作らせようとしたが、
「解毒剤?まだ作ってないよ?これからv」
一発頭のてっぺんをグーで殴った。・・・ってか毒だったんかい。
サービスの部屋には部屋の主以外には、当たり前のようにいるジャン、被害者シンタロー、タンコブが出来て
ピーピー泣いている容疑者(笑)・グンマ、呆れたような瞳で泣いている従兄弟を見やるキンタロー、
そして科学のことなら(本人曰く)おまかせな高松の計六名。
「そう言えば昔もこんな事があったな」
「え?」
あの時の事は思い出したくないと言う高松を無視してサービスが話すには、
シンタローが六歳の頃誤って高松特製『歳増やしの薬』を飲んでしまい、
その解毒剤を作らせ飲んだが副作用なのか女体化した事があると言うのだ。(『薬でドキドキ!!』参照)
ちなみにグンマもシンタローも忘れていて記憶に留めてはいないらしい。
グンマの見つけた『若返りの薬』レポートは、
その時失敗して出来た『女体化の薬』が書き記されているものであった。
「ドクターの所為かぁ!!!!!!!」
「うわっ!落ち着いて下さいシンタローちゃん!」
「ちゃんて何だ!ちゃんって!」
「・・・とりあえず落ち着け、シンタロー」
ぐいっ
「うわっ!」
いきなりキンタローの腕の中に抱きこまれた。
「なっ・・・」
「落ち着いたか?」
「!!??何すんだよ突然!」
離れようと身を思いっきり捩るが筋力が著しく低下した為ビクともしない。
「と、とにかく離せ/////!!」
「離した途端暴れるだろ」
「暴れんから離してくれ//////!!」
気のせいか名残惜しげに手を離すキンタロー。
何故だか妙にドキドキしている鼓動を沈めようと努めるシンタロー。
―――女の身体だとなんかな・・・意識しちまうってゆーか・・・。って!俺にはソッチの趣味はねーけど・・・。
色んな意味で深ぁ~~~い溜息が出てしまう。
「よーするに俺が女体化したのは今回が初めてって事じゃないって事かよ・・・」
ガックリと項垂れるシンタロー。
どうしようか相談に来たのに嫌な過去を掘り起こされてしまい、余計落ち込んだ。
しかし不幸は不幸なヤツのところにやってくるというもので、一難去らずにまた難はやってくる・・・・・・。
バンッ!
ノックもせずに入室してくるサービスの双子の兄。
「サービスあのよぉ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・う・・・?」
最初こそ最愛の弟に向けられた視線だが、
語尾ら辺は真っ赤なブレザーを余裕そうに着込んだ女性に向けられた。
がしっ
「へ?」
小脇に抱えられたシンタローが間抜けな声を出す。
「この姉ちゃん頂いてくぜ!」
「「「「待て」」」」
全員(―シンタロー)の声が見事にハモる。
いきなり抱えられたシンタローは状況把握が出来なかったので反応が遅れた。
「勝手に持っていくんじゃない。ハーレム」
「んだよ。サービスにはジャンがいるだろ」
正直ハーレムとジャンの仲がいいのはかなり気に喰わないが、幾ら言っても無駄。
近頃は内心穏やかとは言い難いが諦めている。サービスが顔色一つ変えずに双子の兄に注意する。
「彼女は・・・・・・・信じられないかもしれないが・・・・・・・・シンタローなんだよ」
「ほー、どおりでそっくりだな」
じぃ~~~~~~~~~~・・・
暫し目踏みでもするかのように女体化シンタローを凝視する。
「まあいいか、とりあえず貰ってくぜ」
「ふっざけんな!降ろせ離せ―――!!」
ジタバタ暴れるが、先程キンタローに抱き込まれたと同じ、ビクともしない。
「いかんなァ、女性がそんな言葉使いしたらぁ」
「うっせー!」
「兄貴がお前のこ~んな姿見たらどう思うかねぇ~~~」
「う゛っ!!」
ピタリ途端石化。
「だから一時かくまってやろってんじゃねーか。俺ってば親切v」
「嘘付け!」
「お前、いつまでもそんなブカブカな服着てる訳にもいかねーだろ。服用意してやるから黙って来い!」
確かに自分を嫌っている(と、シンタローは思っている)ハーレムが自分を襲う訳ないかと思案する。
言葉に嘘はなさそうだし。
確かにこの総帥服のみならず他の普段着でもぶかぶかであろう。当たり前だが女物の服など持っていないし。
何故に自分に対して親切心を起こしたのか知れないがマジックに見つかるよりはマシだろう。
見つかったなら最後、とんでもない服を着せられそうだ。まさか犬猿の仲の二人なのに、シンタローがハーレムの部屋に居るとは考えないだろうし。貸しを作るのは嫌だが、結局シンタローの身柄はハーレムへと渡された。
サービスとハーレムの部屋はそう離れていないのでマジックや重幹部には見つからずに済んだ。
さっき総帥室からサービスのいる部屋まではかなりの距離だったので、
今となってはよく見つからなかったものだと冷や冷やする。
ハーレムの部屋はサービスの部屋より少々成金趣味っぽい部屋だったが、
それでもマジックの私室よりは数段落ち着いている。
―――そう言えばハーレムの部屋って初めて入ったよなぁ・・・。
仲があまり良くなかった所為だろう。サービスの部屋には小さな頃から出入りしていたが。
きょろきょろと物珍しそうに室内に目をやっていた所為だろう。イキナリ投げ寄こされた服に気付かなかった。
ばさっ
「うわっっぷ!」
「それ着ろ」
ぶっきらぼうな口調で投げ寄こされた服を顔から剥がす。
「悪いな」
「いいからさっさと脱衣所で着替えて来い」
頷いて脱衣所の方へ早足でかけて行った。
その背中を見たハーレムの笑みは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・かなり邪悪に満ち溢れていた。
―――甘いな。ぱっと見分からねえがその服は・・・。
やっぱりハーレムはハーレムだったと言う事か。
数分後。
「何だ・・・・・この服・・・・・・」
脱衣所から着替えて出てきたシンタローの顔は恨めしげに叔父を見据えていた。
握り拳がわなわな震えていて今にも殴りかからんとでもしそうである。
「女性総帥服」
「こんなに露出度高いのかよ!!」
びしっ!と自分の胸を指差す。ベージュを基本色としたハーレム曰く“女性総帥服”はスリットがかなり深く
襟元からは胸が大きく開いている、露出度がおもいっきり高い服であった。
「ジャージ系でいい!」
身体は女になろうとも心は男なのだ、まさに気分は女装。そんな趣味はシンタローには更々ない。
「折角俺様が用意してやったんだぞ!!!それを礼はともかく出てくる言葉が文句かよ」
「~~~~~~~~~~~・・・・!!??・・・そう言えば何で女になった俺の体型が分かったんだよ」
「グンマと女になったテメエがコソコソサービスの部屋に向かっているを見たんだよ。
一目見りゃぁ大体分かるぜ」
「!!??」
ドサッ・・・
そう言うが早いか、ハーレムはシンタローをベッドへと押し倒した。
二人分の体重を受けてスプリンクラーが鳴る。
実はもう少し言えば、
グンマが見つけた『若返りの薬』の作り方が記されていたレポートを第三研究室に置いたのはこの男。
シンタローが六歳の頃、
青年化したり女体化したりした事はその頃マジックやサービスから聞いていて知っていた。
当時は特に興味のある話題でもなかったが、今回偶然高松に用があって訪れた研究室で見つけた当時の
レポートを発見し、これをグンマやキンタロー、ジャンなどがよく出入りする第三研究室にでも置いておけば、
そのうちの誰かが興味を持って作るかもしれない。
そしたら毒見として選ばれるのはまずシンタロー。
本当にグンマが作っている事を知り、どうなる事かと見ていたが、
見事『若返りの薬』は女体化の効果をシンタローに発揮。
サービスの所へコソコソの身を寄せようとしているシンタロー(+たんこぶつくって泣きべそかいてるグンマ)を
見、まるでサービスに用があるかの如く何食わぬ顔をし、女体化してしまったシンタロー目的でサービスの
部屋へ。そして自分の部屋へ誘導する。つまり確信犯だったのである。
当初の予想通り、女性になったシンタローはハーレム好みのイイ女だった。
脂肪など元々付かず、引き締まった筋肉は薄れ丸みを帯びながらもほっそりした肢体、すらっと伸びた手足、女性特有の色気に満ち、そして男の時には無かった柔らかい豊満な胸。
それをハーレムが突然鷲掴みした。
途端漏れる声。
「うぁ・・・っ」
「ふぅむ・・・・・・。感度はなかなか・・・」
「やめろっ」
抵抗するがやはりハーレムにはノーダメージだ。暴れれば暴れるほど男の加虐心を高めるだけ。
ニヤニヤとした笑いを濃くし、唇を耳の裏に寄せて囁く。
「こんな状況になってやめられると思うか?折角女になったんだ。覚悟決めな」
「出来るか!―――ふぅ、んっ」
どんなに吼えても妖しい指使いに息が荒くなり、それ以上言葉を紡げなくなる。
―――嘘だろおおぉぉおおおっっ!!!???サービス叔父さん!グンマ!キンタロー!ジャン!
誰でもいいから誰か!!ヘルプ・ミー!!!!!!!!!!!!
このままではハーレムに犯される!心の中でシンタローは大泣きして助けを求めた。
その切なる願いが聞き届けられたのであろうか。
どっか~~~~~~~~~~~~~~~~~~~んっっっ
「そこまでだよ、ハーレム」
「兄貴ぃ!!??」
「親父!!??」
眼魔砲ぶっ放し、ヤレヤレとした口調で男女が濃厚に絡み合っているベッドに歩み寄ってくるマジック。
「サービスから連絡が入ってね。まさかと思って来てみれば・・・、サービスの言った通り、グラマーな美人さんvになったシンちゃんを攫おうとしている実の弟の姿が目の前に、か・・・」
軽い口調に笑顔だが、目と声色は怒ってまぁ~~~~すと言う事をしっかりと伝えていた。
「覚悟はいいね?ハーレムv」
「オイ!兄貴!!何だその構えは!やめんかー!」
「大丈夫vシンちゃんには当たらないようにするからvv」
「全然大丈夫じゃねぇえええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
獅子舞の必死の咆哮虚しく、ハーレムは慢心の力が込められた眼魔砲をプレゼントされた。
ちなみにシンタローはと言えば、無傷で済んでめでたしめでたしv
「ちっともめでたくねぇええぇぇええっっっ!!!!!!」
「シンちゃぁ~~~んvv今夜は寝かせないぞv」
マジックに見事拉致られたとかなんとか。
END♪
★あとがき★
ひさか様より頂きましたWシンちゃんの女体化イラストの返礼小説です♪とは言え、また妖のツボを突きまくりのイラストを7枚も頂いてしましまいましたが(笑)大感謝でございますぅ!!ひそか様(*^0^*)/一時裏行きになりそうになりましたよ(またか)。攻キャラは特に指定なしだったので、総受にしましたvええと、CPとしてはハレシンとマジシン。それから実はキンシンもちこっと・・・。これは賛否激しそうですが。普通キングンが多いですから。でも好きなんですよ~vこのCPもvv
あ、サビジャンが入ったのは妖の趣味です(笑)
(2003・5・3)
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ポイント 福岡 引越し 中途採用 被リンクSEOコンサルティング
宇宙船を作るー!と張り切っているジャン。それに手伝わされているのはグンマとキンタローだ。
高松は色々な事を想像して止めにかかったが、グンマは
「面白そーv」
とヤル気満々。少々今までの研究にマンネリを感じていたところだったのだ。
キンタローは別に乗り気ではなかったのだが、それは何に対してもであって、グンマがしつこく
「キンちゃんもやろー。ねー、やろーよーぉ」
と誘うのでまあいいかと。
同い年とは言え、どうもキンタローにはグンマが手のかかる弟のような存在に感じていたので、
心配な兄弟心もあって同意したのだが。
「あれ・・・、これ何の研究レポートだろう?知ってる?キンちゃん」
「俺よりお前の方がこの施設に居るのは長いだろう」
呆れたような視線を送られるとグッと詰まってしまう。
ちなみに二人が居るのは昔高松が使っていた第三研究所。
ジャンやキンタローまで科学の道に進むという事で研究室の増築が決定された。
それでまだ科学者としては未熟ながら期待あるジャン、キンタローにも研究室が一室ずつ支給され、
三人が宇宙船“ノア”を作ると決定した時、新たにこの第三研究室も与えられた。
ちなみにグンマは既に科学研究には浸かっていたのでちゃんと元から研究室(第六研究室)がある。
「あれ・・・」
「どうした?」
「こんなレポートあったっけ?」
グンマは一番小さいディスクの上に置き去りにされている埃臭い紙の束を見つけた。
ホチキスで止められたとても古いのだろう、かなり保存状態の悪い六ページ分のレポートである。
ここはジャン、キンタローそしてグンマしか使っていない筈。少なくとも自分のレポートではない。
キンタローに問うと知らないと首を左右に振る。とりあえずぱらぱらと中身を捲ってみる。
どうやら何かの薬の作り方らしい。となると、“ノア”作りに夢中のジャンのでもなさそうだ。
興味深げに読みにくいレポート内容を読んでいたグンマだったが、
満足したようにレポートを胸に抱えてキンタローに向き直った。
「よし、これ作ってみようv」
「即決だな。大丈夫か?」
「まっかせて!一度新薬って作ってみたかったし!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
聞いたのはそういう意味ではなく、ちゃんと薬を作れるのかという事だったのだが。
しかし(グンマに対しては)あまり深く追求しない性質なので、まあいいかとその場は流した・・・・・・・・・・・・のが全ての始まりだった・・・・・・。
「どうしたんだ、グンマ。ちっとも“ノア”作りに参加してくれてないけど」
ジャンが不思議そうに問う。白衣姿が意外と様になっている。
キンタローも白衣姿で、カルテらしきものに目を向けたまま答える。
「ああ、何でも『新薬を作る練習するんだー♪』とか言って自分の研究室に篭りっきりだ」
「ふー・・・ん・・・(何か、今のグンマの物真似・・・めちゃくちゃ似てて怖い;)」
「で、何を作っているんだグンマは」
「うっわ!!サービス!」
そこには見目麗しきグンマ&キンタローの叔父が、まるでずっと居たように佇んでいた。
「何でここに・・・」
「ちょっとジャンに用があったんだ。で、グンマは何を作っているのだ、キンタロー」
「知らん」
即答。
「そうか」
「ってオイ!何あっさり納得してんだよ!何か危ない薬でも作ってたらどうすんだよ!?」
「大丈夫だろう。多分な」
マイペースな親友にガックリと肩を落す。付き合いは長いが未だに分からないところだらけな男である。
「そんな事よりジャンに用とは何だ」
“そんな事”と片付けてもいいのかキンタロー。
そう気にするのはジャンだけで、相も変わらず美貌の叔父様は顔色一つ変えず用件を切り出す。
「ジャンに今朝言い忘れた事があってな」
「何?」
「昨晩うっかりお前の背中にキスマークを付けてしまってな。だから人前で服を脱がない方が良いと思」
「うわあああああああああああぁぁぁ!!!!!!!!
こ、子どもの前でその話すんなよぉ――――――――/////////////////!!!!」
ムッとして子どもではないと主張するキンタローは何故かサービスの爆弾発言を全く気にしていなかった。
どうやらこの二人仲はガンマ団では公認らしい。
ちなみにいつもは美貌の叔父様は薄着を好むジャンが嫌がる為、キスマークはつけないで上げているらしい。
(テクニシャンだねv)
一方、こちらは第115研究室ではやっぱり白衣を纏ったグンマが先程のレポートを元に、
『クッキー』を焼いていた。
「出~来たv『若返りの薬入りクッキー!』。かなり時間掛かっちゃったケド」
若返り薬入りクッキーは、それはもう見た目も美味しそうに焼きあがっていた。
グンマは満足そうに天使な笑顔で恐ろしい事を呟く。
「え~~と、誰に試食してもらおうかなー?」
やっぱり高松の教え子である。立派に師匠?と同じく、何のためらいもなく人様を実験台にしようとしている。
可愛く(若返りの薬入り)クッキーをラッピングしながら誰が適任か思案していた。
「滅多な事では死ななそうな人と言えば・・・」
う~~~~~んと唸っていたのは極僅かな時間。ポンッと手を叩き、にぱっvと邪気のない笑顔で微笑む。
「シンちゃんにあげようv」
・・・今回の生贄もやっぱりシンタローだった。
ここは総帥室。日がな一日、新総帥のシンタローはここでデスクワークを行なう。
まだ総帥職務に慣れなく、今も今とて書類処理にスッタモンダ中である。
しかしまだ戦闘の感は失ってはいない。間違いなく遠くからだがこちらに向かってくる足音が耳に響いてくるのをキャッチした。こういうパターンなら息子ラブvのマジックだが、この気配はマジックに似ていて全く違うもの。
ドタドタドタ・・・
子供のように廊下を走ってきた青年は確かに総帥室に向かっていた。
バッタ~~~~~~~~~~~~~~ン!!!!!!!!!!!!
勢いよく総帥室の扉が開かれ、やけに上機嫌なボーイソプラノが響いた。
驚く事もなくシンタローは声の主に視線を向ける。
「シンちゃん♪」
「グンマ、どうした?」
「あのねvクッキー作ったから食べて欲しいんだ♪もうすぐおやつの時間でしょ?」
「・・・もう【おやつの時間】を設ける歳でもないんだが・・・それに俺あんまり甘いものは・・・」
28にもなってなって【おやつの時間】を設けているのはお前だけだ。とシンタローは思った。
「大丈夫♪甘さ控えめだし。いっぱい作っちゃったから食べてねv」
そうまで言われて断れるはずもない。まあ、控えめなら甘いものも好きだし丁度小腹も空いてきたところだ。
「んじゃイタダキマス」
「どうぞv」
一口含む。あの『若返り』入りのクッキーを・・・。
どうなるかなー♪とワクワクしながら目の前の男を楽しそうに観察するグンマの瞳には、全く邪気はなかった。
しかしやってる事は邪悪そのものである。
「結構美味いな」
素直な感想だ。何だかんだ言いながら次々と口に運んでいく。それを聞いてグンマは嬉しそうに返答した。
「でしょ~v隠し味に若返りの薬入れたしv」
「ふ~~~ん・・・若返りの薬入りの・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・って・・・・・・・何だって・・・?
若返りの薬・・・?」
「うんvシンちゃんに実験台になってもらおうと思ってvv」
「・・・・・・・・・・・――――!!??」
ガタンッ!!
いきなり立ち上がったシンタローは真っ青な顔で洗面所へ走っていった。
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダジャ――――――――――
その後聞こえた水音。
「どうしんだろ。吐いちゃった?」
「グ~~~~~ン~~~~~マ~~~~~~~」
ごしごしと力なくタオルで口元を拭うシンタローの声色はかなり低い。要するに怒ってまぁ~~すという雰囲気が漂っていた。
ぐいっ
「わぁ!」
「俺の歳を減らしてどないっすーんじゃ~~~~~~~~!!」
グンマの胸倉を掴んでガクガクと揺さぶり尋問する。頭にはデカデカと怒りマークが浮かんでいた。
流石のグンマも引き気味で答える。揺さぶられながら。
答えようにも上手く喋れなく、途切れ途切れに何とか返答する。
「実、け・・・んだ・・・に、シンちゃ・・・がいっ、かなぁ・・・ぁって思っ・・・だけ・・・よぉ~」
「何が『いいかな~』だ!従兄を弟実験台に使おうとか思ってんじゃねーよ!!」
「く・・・苦しいよぉ・・・」
そろそろ離してあげないとグンマの顔がどんどん青くなっていきます。しかしとりあえず若返り薬入りクッキーは吐き出したといえ(吐いたんかい)、そんな薬盛られてたシンタローは気にせず怒りまくる。
「第一なぁ!――――――――――う!?」
「わっ!」
ドスン!
「~~~・・・・・・痛い~~~~~!」
シンタローは突然苦しそな声を出し、グンマから手を離した。
当の本人は揺さぶり+ちょっと首絞めから解放されたがそのまま重力にしたがって後方に身体が崩れ、
強く尻餅をつく。
身体が疼き、熱くなる。身体が変化していくのが分かる。
「うぐっ!!」
ボンッ
「うわぁ!!」
「シンちゃん!?」
煙が立ち、シンタローを乳白色の煙が包む。
―――若返り!!??今若返ったらどうなるんだ!?
未だ苦しい意識の中、嫌な事ばかりが頭を過ぎる。次第にシンタローを包み込んでいた煙が晴れていく。
「けほっけほっ」
シンタローのものだろうが、やけに高い声(咳)。次第に明確に現れるシンタローの姿にグンマは目を丸くした。
一瞬分からなかったがどうやら実験は、
「あ、失敗しちゃったみたい」
あっけらかんとした感想。しかしその手にはノートと思しきものが。それに研究結果を書いている。
流石高松の背を見て育っただけあって同じ事をしている。あくまでマイペースなグンちゃん。
「こぉおおおらぁぁ!!!呑気に研究結果書いてんじゃねー!!――――――――・・・ん?何か俺の声・・・」
「若返りのは失敗しちゃったケド」
はい、と手渡された手鏡で己の姿を繁々と見つめる。少なくとも若返ってはいないが、これは―――――。
「何だよこりゃ~~~~~!!!???」
己の変わり果てた?姿を見て絶叫するシンタローは見事におチビちゃんになってしまって―――はいない。
よく通る声はボーイソプラノではなくアルト。余裕のできた総帥服の上からでは分かり難いが、顔がやや特有の丸みを帯びている。そして決定的に今までと違うのは、見事なまでの胸の膨らみ・・・・・・だった。
「うわあぁぁああああああぁああっ!!!!!!!!!」
「シンちゃん、女の人になっちゃったみたい」
「誰の所為でこうなったと思ってるんだよ!!」
その前にシンタローに使用したのは『若返りの薬』ではなかったか・・・。
と、いう訳でマジックに相談するのは色んな意味で怖いので信頼を置けるサービスに相談した。
グンマに元に戻る薬を作らせようとしたが、
「解毒剤?まだ作ってないよ?これからv」
一発頭のてっぺんをグーで殴った。・・・ってか毒だったんかい。
サービスの部屋には部屋の主以外には、当たり前のようにいるジャン、被害者シンタロー、タンコブが出来て
ピーピー泣いている容疑者(笑)・グンマ、呆れたような瞳で泣いている従兄弟を見やるキンタロー、
そして科学のことなら(本人曰く)おまかせな高松の計六名。
「そう言えば昔もこんな事があったな」
「え?」
あの時の事は思い出したくないと言う高松を無視してサービスが話すには、
シンタローが六歳の頃誤って高松特製『歳増やしの薬』を飲んでしまい、
その解毒剤を作らせ飲んだが副作用なのか女体化した事があると言うのだ。(『薬でドキドキ!!』参照)
ちなみにグンマもシンタローも忘れていて記憶に留めてはいないらしい。
グンマの見つけた『若返りの薬』レポートは、
その時失敗して出来た『女体化の薬』が書き記されているものであった。
「ドクターの所為かぁ!!!!!!!」
「うわっ!落ち着いて下さいシンタローちゃん!」
「ちゃんて何だ!ちゃんって!」
「・・・とりあえず落ち着け、シンタロー」
ぐいっ
「うわっ!」
いきなりキンタローの腕の中に抱きこまれた。
「なっ・・・」
「落ち着いたか?」
「!!??何すんだよ突然!」
離れようと身を思いっきり捩るが筋力が著しく低下した為ビクともしない。
「と、とにかく離せ/////!!」
「離した途端暴れるだろ」
「暴れんから離してくれ//////!!」
気のせいか名残惜しげに手を離すキンタロー。
何故だか妙にドキドキしている鼓動を沈めようと努めるシンタロー。
―――女の身体だとなんかな・・・意識しちまうってゆーか・・・。って!俺にはソッチの趣味はねーけど・・・。
色んな意味で深ぁ~~~い溜息が出てしまう。
「よーするに俺が女体化したのは今回が初めてって事じゃないって事かよ・・・」
ガックリと項垂れるシンタロー。
どうしようか相談に来たのに嫌な過去を掘り起こされてしまい、余計落ち込んだ。
しかし不幸は不幸なヤツのところにやってくるというもので、一難去らずにまた難はやってくる・・・・・・。
バンッ!
ノックもせずに入室してくるサービスの双子の兄。
「サービスあのよぉ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・う・・・?」
最初こそ最愛の弟に向けられた視線だが、
語尾ら辺は真っ赤なブレザーを余裕そうに着込んだ女性に向けられた。
がしっ
「へ?」
小脇に抱えられたシンタローが間抜けな声を出す。
「この姉ちゃん頂いてくぜ!」
「「「「待て」」」」
全員(―シンタロー)の声が見事にハモる。
いきなり抱えられたシンタローは状況把握が出来なかったので反応が遅れた。
「勝手に持っていくんじゃない。ハーレム」
「んだよ。サービスにはジャンがいるだろ」
正直ハーレムとジャンの仲がいいのはかなり気に喰わないが、幾ら言っても無駄。
近頃は内心穏やかとは言い難いが諦めている。サービスが顔色一つ変えずに双子の兄に注意する。
「彼女は・・・・・・・信じられないかもしれないが・・・・・・・・シンタローなんだよ」
「ほー、どおりでそっくりだな」
じぃ~~~~~~~~~~・・・
暫し目踏みでもするかのように女体化シンタローを凝視する。
「まあいいか、とりあえず貰ってくぜ」
「ふっざけんな!降ろせ離せ―――!!」
ジタバタ暴れるが、先程キンタローに抱き込まれたと同じ、ビクともしない。
「いかんなァ、女性がそんな言葉使いしたらぁ」
「うっせー!」
「兄貴がお前のこ~んな姿見たらどう思うかねぇ~~~」
「う゛っ!!」
ピタリ途端石化。
「だから一時かくまってやろってんじゃねーか。俺ってば親切v」
「嘘付け!」
「お前、いつまでもそんなブカブカな服着てる訳にもいかねーだろ。服用意してやるから黙って来い!」
確かに自分を嫌っている(と、シンタローは思っている)ハーレムが自分を襲う訳ないかと思案する。
言葉に嘘はなさそうだし。
確かにこの総帥服のみならず他の普段着でもぶかぶかであろう。当たり前だが女物の服など持っていないし。
何故に自分に対して親切心を起こしたのか知れないがマジックに見つかるよりはマシだろう。
見つかったなら最後、とんでもない服を着せられそうだ。まさか犬猿の仲の二人なのに、シンタローがハーレムの部屋に居るとは考えないだろうし。貸しを作るのは嫌だが、結局シンタローの身柄はハーレムへと渡された。
サービスとハーレムの部屋はそう離れていないのでマジックや重幹部には見つからずに済んだ。
さっき総帥室からサービスのいる部屋まではかなりの距離だったので、
今となってはよく見つからなかったものだと冷や冷やする。
ハーレムの部屋はサービスの部屋より少々成金趣味っぽい部屋だったが、
それでもマジックの私室よりは数段落ち着いている。
―――そう言えばハーレムの部屋って初めて入ったよなぁ・・・。
仲があまり良くなかった所為だろう。サービスの部屋には小さな頃から出入りしていたが。
きょろきょろと物珍しそうに室内に目をやっていた所為だろう。イキナリ投げ寄こされた服に気付かなかった。
ばさっ
「うわっっぷ!」
「それ着ろ」
ぶっきらぼうな口調で投げ寄こされた服を顔から剥がす。
「悪いな」
「いいからさっさと脱衣所で着替えて来い」
頷いて脱衣所の方へ早足でかけて行った。
その背中を見たハーレムの笑みは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・かなり邪悪に満ち溢れていた。
―――甘いな。ぱっと見分からねえがその服は・・・。
やっぱりハーレムはハーレムだったと言う事か。
数分後。
「何だ・・・・・この服・・・・・・」
脱衣所から着替えて出てきたシンタローの顔は恨めしげに叔父を見据えていた。
握り拳がわなわな震えていて今にも殴りかからんとでもしそうである。
「女性総帥服」
「こんなに露出度高いのかよ!!」
びしっ!と自分の胸を指差す。ベージュを基本色としたハーレム曰く“女性総帥服”はスリットがかなり深く
襟元からは胸が大きく開いている、露出度がおもいっきり高い服であった。
「ジャージ系でいい!」
身体は女になろうとも心は男なのだ、まさに気分は女装。そんな趣味はシンタローには更々ない。
「折角俺様が用意してやったんだぞ!!!それを礼はともかく出てくる言葉が文句かよ」
「~~~~~~~~~~~・・・・!!??・・・そう言えば何で女になった俺の体型が分かったんだよ」
「グンマと女になったテメエがコソコソサービスの部屋に向かっているを見たんだよ。
一目見りゃぁ大体分かるぜ」
「!!??」
ドサッ・・・
そう言うが早いか、ハーレムはシンタローをベッドへと押し倒した。
二人分の体重を受けてスプリンクラーが鳴る。
実はもう少し言えば、
グンマが見つけた『若返りの薬』の作り方が記されていたレポートを第三研究室に置いたのはこの男。
シンタローが六歳の頃、
青年化したり女体化したりした事はその頃マジックやサービスから聞いていて知っていた。
当時は特に興味のある話題でもなかったが、今回偶然高松に用があって訪れた研究室で見つけた当時の
レポートを発見し、これをグンマやキンタロー、ジャンなどがよく出入りする第三研究室にでも置いておけば、
そのうちの誰かが興味を持って作るかもしれない。
そしたら毒見として選ばれるのはまずシンタロー。
本当にグンマが作っている事を知り、どうなる事かと見ていたが、
見事『若返りの薬』は女体化の効果をシンタローに発揮。
サービスの所へコソコソの身を寄せようとしているシンタロー(+たんこぶつくって泣きべそかいてるグンマ)を
見、まるでサービスに用があるかの如く何食わぬ顔をし、女体化してしまったシンタロー目的でサービスの
部屋へ。そして自分の部屋へ誘導する。つまり確信犯だったのである。
当初の予想通り、女性になったシンタローはハーレム好みのイイ女だった。
脂肪など元々付かず、引き締まった筋肉は薄れ丸みを帯びながらもほっそりした肢体、すらっと伸びた手足、女性特有の色気に満ち、そして男の時には無かった柔らかい豊満な胸。
それをハーレムが突然鷲掴みした。
途端漏れる声。
「うぁ・・・っ」
「ふぅむ・・・・・・。感度はなかなか・・・」
「やめろっ」
抵抗するがやはりハーレムにはノーダメージだ。暴れれば暴れるほど男の加虐心を高めるだけ。
ニヤニヤとした笑いを濃くし、唇を耳の裏に寄せて囁く。
「こんな状況になってやめられると思うか?折角女になったんだ。覚悟決めな」
「出来るか!―――ふぅ、んっ」
どんなに吼えても妖しい指使いに息が荒くなり、それ以上言葉を紡げなくなる。
―――嘘だろおおぉぉおおおっっ!!!???サービス叔父さん!グンマ!キンタロー!ジャン!
誰でもいいから誰か!!ヘルプ・ミー!!!!!!!!!!!!
このままではハーレムに犯される!心の中でシンタローは大泣きして助けを求めた。
その切なる願いが聞き届けられたのであろうか。
どっか~~~~~~~~~~~~~~~~~~~んっっっ
「そこまでだよ、ハーレム」
「兄貴ぃ!!??」
「親父!!??」
眼魔砲ぶっ放し、ヤレヤレとした口調で男女が濃厚に絡み合っているベッドに歩み寄ってくるマジック。
「サービスから連絡が入ってね。まさかと思って来てみれば・・・、サービスの言った通り、グラマーな美人さんvになったシンちゃんを攫おうとしている実の弟の姿が目の前に、か・・・」
軽い口調に笑顔だが、目と声色は怒ってまぁ~~~~すと言う事をしっかりと伝えていた。
「覚悟はいいね?ハーレムv」
「オイ!兄貴!!何だその構えは!やめんかー!」
「大丈夫vシンちゃんには当たらないようにするからvv」
「全然大丈夫じゃねぇえええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
獅子舞の必死の咆哮虚しく、ハーレムは慢心の力が込められた眼魔砲をプレゼントされた。
ちなみにシンタローはと言えば、無傷で済んでめでたしめでたしv
「ちっともめでたくねぇええぇぇええっっっ!!!!!!」
「シンちゃぁ~~~んvv今夜は寝かせないぞv」
マジックに見事拉致られたとかなんとか。
END♪
★あとがき★
ひさか様より頂きましたWシンちゃんの女体化イラストの返礼小説です♪とは言え、また妖のツボを突きまくりのイラストを7枚も頂いてしましまいましたが(笑)大感謝でございますぅ!!ひそか様(*^0^*)/一時裏行きになりそうになりましたよ(またか)。攻キャラは特に指定なしだったので、総受にしましたvええと、CPとしてはハレシンとマジシン。それから実はキンシンもちこっと・・・。これは賛否激しそうですが。普通キングンが多いですから。でも好きなんですよ~vこのCPもvv
あ、サビジャンが入ったのは妖の趣味です(笑)
(2003・5・3)
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日記に書き散らした物をサルベージ。
下に行くほど新しいです。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
?→シンタロー_何よりも強い、その眼差しが好ましいと思う。
総帥の座に就いた彼は、常に未来を見つめている。
それは決してあやふやなものではなく、
明確なヴィジョンとして彼の目には映っているのだろう。
彼の瞳には、私の持ち得なかった光がある。
それは羨ましくもあり、疎ましくもある。
相反する感情が私の中でうねる。
それでもその瞳の先にある未来を、ほんの一欠けらでも共に観る事が叶うのならば…。
この命、捧げよう。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ハーレム(若)&マーカー(仔)_どうしようもなく、
何もかも嫌になって。
無気力頂点に達して。
このまま辺り構わず物も、人も、壊してやろうかと薄ぼんやり考えてる時。
小さいくせにひんやりとした手が、やけに大人びた仕草で俺を宥めようと伸びてくる。
『言葉より態度で示せ』
と言った俺の言葉を忠実に果たそうとするその指は、慣れない動きに戸惑っている。
この手は人を癒すものでは無い。
命を奪う、それは美しい焔を紡ぐ手だ。
「私は決して貴方のお側を離れません」
これもまた、覚えたばかりのたどたどしい発音。
何処に連れて行っても恥ずかしくないように、徹底的に叩き込んでいる最中の英国英語。
慣れない事をして、慣れない言葉を話して。
そう、こいつは俺の為に必死に生きている。
何故だか、急にそれまでの言いようのない苛立ちは消えていた。
残ったのは尻の痒くなるような感じだけだ。
「…ありがとよ」
ぶっきらぼうに呟いて、艶々の黒髪を乱暴に撫でた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ハーレム&シンタロー_花火
「花火が見たい」
空調の効いた寝室で、シーツに包まったままシンタローが呟いた。
「…花火って。カーニバルのか?」
花火と言われ俺に思いつくのは、ド派手なカーニバルとバンバン五月蝿い打ち上げ花火。
「いや、日本の打ち上げ花火」
そこで俺は、ああ、と納得する。
この、一族の中でも毛色の違う甥は長いこと日本に居たから。
「何だ~、日本が恋しくなったのか?」
からかうように言ってやれば、小さく「違う」と答える。
そして、ゆっくりと俺の方に寝返りを打つと、軽く微笑んで居る様な、何とも言えない顔をしやがった。
こいつが俺に対してこんな顔をするのは初めてだ。
何時もは小憎たらしい表情しか見せないからな。
そんな風にちょっと驚いてる俺に気付かず、シンタローは何処か遠い目をしてぼそぼそと話し出す。
思い出話ともつかぬ他愛無い話。
しかし、シンタローにとっては大切な部分に触れているのだろう。
俺は途中、口を挟む事無く辛抱良く話を聞く。
大して長くも無い話の最後、シンタローはまた最初のように呟いた。
「あの夜見た花火みたいにさ、ドーンと咲いて、パッと散れたら良いよな…」
シンタローが何を意図してそんな話をしたのか分からない。
分かってやるつもりも無い。
それでも、俺は持てる限りの優しさってヤツでシンタローの頭をぐりぐりと撫でた。
日記に書き散らした物をサルベージ。
下に行くほど新しいです。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
コージ&シンタロー_
あまりに見事な枝振りに、コージの手が思わずのびた。
シンタローが名前を呼ばれ顔を上げる。
其処には、何処から持ってきたのか分からないが、それは見事な枝振りの桜の枝を持ったコージが立っていた。
「おう、調子はどうだ?」
何時も通りの鷹揚な口調でそう尋ねられ、シンタローもつい、
「相変わらずだ」
と普通に答えを返してしまう。
「いや、そうじゃなくて!!」
ペンを投げ出すと、デスクを回ってコージの側に駆け寄る。
「お前、それ何処から持ってきたんだよ!つーか、こんなトコに持って来るなって!!」
シンタローは一気に捲し立てた。
しかし、当のコージはというと、息の上がったシンタローをチラリと見下ろし、
まるで意に介していないように小鼻を掻いている。
そんなコージの態度に、再びシンタローの怒号が響き渡るかと思われたその時、
コージは桜の枝を片腕で持ち変えると、空いた方の手でシンタローの頭をポンポンと軽く撫でた。
予想もしていなかったその行動に、シンタローの動きが止まる。
「シンタロー…。頑張るのも良いが、たまには息抜きせんと!ほれ、綺麗じゃろ?」
「…!いや!だからって…」
「お前さんは忙しい忙しい言うて、遠征以外にゃぁろくに外に行かんじゃろ?
だったらここに持って来るしかなかろう?」
確かにコージの言うとおり、シンタローは仕事以外のことに割く時間を持ち合わせていなかった。
ガンマ団本部の敷地内にはマジックが植えた桜並木がある。
暦の上では既に春になっており、さぞかし桜も美しく咲いているのだろうが、
今のシンタローにそれを楽しむゆとりは無かった。
無茶な理屈ではあるが、コージの不器用な心遣いが、シンタローにとって何より嬉しいのは事実だ。
「の?ほれ、ここに置いて行ってやるから、少しは休め」
「…アリガト」
くるりと背を向け礼を言うシンタローの頬が僅かに染まる。
シンタローは本当に嬉しいとき、素直に有難うと言えずにわざと素っ気無い振りをする。
そんな姿がコージにはとても好ましい。
コージの知るシンタローだからだ。
どんな重圧にも押し潰されることの無いシンタローだが、これからは事情が違う。
ガンマ団と言う巨大な組織の長になったのだ。
シンタローはきっと変わらない。
それは確信に近かったが、それでも不安は完全に拭いきれなかった。
「そうじゃのぅ…。礼は美味い酒と飯でいいぞ?」
「はぁ?見返り要求すんのかよ?!」
まだまだガンマ団でやって行けそうだ。
コージは小さく笑った。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
2006.04~
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