7/20のチャットネタ
「ついに完璧なる成功ですよ!」
僕らの素敵なマッド★サイエンティスト・変態科学者・グンマのお守り(保護者)・鼻血・・・・・・・・・・・・・まあ色々言われ方はあるが、
彼、Dr.高松は今日も飽きずに研究室に引きこもり怪しげな笑いを洩らしながら、更に怪しげな研究に心血を注いでいた。
誰も居ないのにビシッ!と片手に物体Mを高々とぶら下げて高笑いを始める。
こんな姿と物体Mを見たら、小さな子どもは泣き出すだろう。
大きな大人は腰を抜かすだろう。
「さあ、貴方の名前を決めましょうねv」
物体Mを愛しそうに見つめ、話しかける。
その度物体Mは、暇なのか足をゆらゆらと動かしていた。
「ケンタッキー、ホワイトフィッシュ、マンダーラガンダーラ、クララ、春巻き・・・おやおや気に入らないんですか?」
次々と物体Mにいい名を授けようと並べてみるがどうもその中のどれも嫌だと、足をバタつかせて訴えている。
何故最後だけカタカナじゃないのかは謎だった。
次々とあげていった名前に一貫性がないのは更に謎だった。
「それじゃあ―――」
「朝練はここまでにしとこーぜ!」
「シンタロー、まだ一時間しかやってないっちゃ」
「馬ー鹿!今日は筆記テストがあんだろ。言っとくが力があるだけじゃガンマ団では生き残れないぜ?」
「すっかり忘れてたべ!」
「なぁーに!当たって砕けろじゃけんのぉ!!」
「そないな事言うて・・・ほんまに砕けたら意味ないでっせ?」
ゴンッ
見事にシンタロー+ローカル三人衆の拳骨が、朝っぱらから不吉なことを言った京都人の頭に同時にHITした。
根暗な京都人は地に沈んだ。
「さーて!少しでも勉強しとくか!」
シンタロー達は年齢で言えば高校生。
普通の高校ではなく、ガンマ団の訓練校でもテストからは逃れられないのだ。
必死に詰め込めるだけ知識を詰め込んで迎えたガンマ団特別筆記テスト。
しかし誰も一問も解けなかった。
とりあえず成績TOP(らしい)グンマですら分からない箇所が多過ぎだ。
それにも呆然としたが、目の前の【転校生】を紹介され、勉強し過ぎて頭がイカレてしまったのかと皆は思った。
「転校生だ!気にするな」と涙目で言ったガンマ団員(筆記テスト監視者)に紹介された転校生は、
「大根だべ」
「人参にも見えるべ」
「・・・Dr.高松に押し付けられ―――・・・今日から入れて欲しいと頼まれた、新しい諸君の仲間、名前は股んGO!君だ。
何でも朝鮮人参と練馬大根で出来たDrの最高傑作らしい」
気にするなと言われても無理だ。
朝鮮人参と練馬大根で出来たこの物体を仲間だ転校生だの言われても。
しかも
「筆記テスト受けとるどす・・・」
与えられた机にどっかりと座り、テスト開始の合図と共に手らしき部分で鉛筆を握りざっざかと問題を解き始めた。
しかもこんな難し過ぎる問題に臆することもなく鉛筆を進めていく。
―――高松が作ってたのってこれ?
―――あんのマッドサイエンティスト!!
―――大根のクセに問題解くの早いっちゃね!
―――人参じゃなかったべ。
―――シャーペンじゃないんじゃのう。
―――友達になってくれるでっしゃろか?
そんな事考えてる暇があったら手元の問題をさっさと解こうとすればいいのだが。
一週間後の結果は皆、悲惨なものだった。
常に95点以上はキープするグンマですら50点である(それでも高得点の方)。
何と平均点5点である。
「情けないですねぇ、グンマ様はともかく」
馬鹿にした溜息をわざと洩らしながら近づいてくるのは股んGO!の生みの親・高松。隣には噂の股んGO!が控えていた。
しかもちゃんと服も装着済み。
「こんな内容習った記憶がねえよ!」
テストをビシッ!と突き出す。
「4点ですか。平均点いってないじゃないですか。股んGO!なんて100点ですよ」
ぴしっ
空気が凍った。
「まあ、あったま悪い君達には難しかったですかね。
何せ担当と交渉して今回のテスト内容は英国の一流大学の医療関係に関するテスト問題に変えさせていただきましたから」
―――解ける筈ないじゃねーか(だべ・だっちゃ・じゃけん・どす)!!!!!
まだ習ってないどころか9割以上の内容は、今後も習う予定のない代物であった。
何でもない事のようにさらっととんでもない事を言うDrに並みならぬ殺気を向けるシンタローとカントリーズ。
と、同時に、自分はこんな変態生物(=股んGO!)に劣ったのかとの激しい悔しさが沸き起こり握りこぶしが
ただ行き場をなくして震えていたのだった・・・。
癒しの手
いつも、部下の前では決して少しの弱音も見せない。
僕の叔父様はそんな人―――。
マジック総帥―――僕の叔父様がシンちゃん奪還の為、パプワ島と言う場所に行って来た。
僕は絶対連れて帰ってきてくれると、微塵も疑いはしなかった。
だけど、帰ってきた軍艦をいくら見渡しても大好きな従兄弟の気配すら、なかった―――。
悲しかった。
でも、きっと叔父様は僕以上にガッカリしているんだと思う。
だから責める事なんか出来やしない。その代わり、
「今度は僕にシンちゃんの奪還をさせて」
と頼んだんだ。
戦闘向きではない僕に叔父様は目を丸くし、考え込んでしまったようだ。
―――僕ってそんなに頼りないの・・・?じゃあ僕はガンマ団にとってどんな存在?
必要か、否か。
「・・・そうだね、グンちゃんも優秀なガンマ団員。今すぐには許可を出せないけど、検討してみるよ」
「わ~いvv」
両腕を万歳させて喜ぶ。
子どもっぽいって自分でも思うことはあるけど、昔からの癖というか・・・なかなか直らない。
ふと、叔父様が柔らかい顔になって尋ねた。
「そろそろ戻らないと、高松が心配するんじゃないかな?」
「あ、そうだ!じゃあまたね叔父様!絶対僕、パプワ島に行くからね!」
「分かったよ」
急いで総帥室から出る―――・・・出ようとしたんだ。
「はぁ~・・・疲れたなぁ・・・」
ふと漏らした一言。
何故か強く耳に入った。
居た堪れなくなって踵を返した足を180度ターンさせて、叔父様の元へと戻る。
「どうしたんだい?何か忘れ物でも?」
「ううん、叔父様・・・」
僕は思いっきり背伸びをして、叔父様の頭を何度か撫でた。
「グンちゃん・・・」
「お疲れ様、叔父様」
「ありがとう。本当にグンちゃんは優しいね・・・」
淡く微笑む叔父様に笑みを返して、今度こそ総帥室から退出する。
「おやすみ、叔父様」
「ああ、おやすみ」
帰る廊下で叔父様の言葉がフラッシュバックする。
『ありがとう。本当にグンちゃんは優しいね・・・』
たったあれだけの事なのに、叔父様は僕に優しいと言った。
そしてその時の瞳が強く焼きついて離れない。
人を簡単に死に至らしめる魔性の瞳。
呪われた秘石眼―――。
いつだって自信に満ち溢れていた彼は、一体どれだけの傷を背負っているのだろう?
「シンちゃん・・・早く帰ってきて・・・」
親子喧嘩は絶えずとも、叔父様を本当に癒せるのは君だけなんだから。
「絶対捕まえるからね」
叔父様の為、ガンマ団の為、・・・そして僕の為に。
パパン生誕祝い(注:微マジシン有り)
「本日12/12はマジック先生のお誕生日vよって!今年からこの日は真・心戦組の祝日とする!」
「え~、だったら昨日にでも言ってくれればよかったのに~」
「それにしてもホント、山南さんはマジックが好きなんっすね~」
「敵側の人間に好意を持っているのは大問題なんですけどね、本来」
「愛に敵味方は関係ないよ山崎君vv」
いえ、大有りですから。
口で言ってもどうせ無駄な事は百も承知なので、心中でおもいっっっっきり突っ込みを入れる。
「“愛”って、山南さんってモーホーってヤツなの?」
「やー、ありゃぁ“ミーハー女子高生がアイドルにきゃーきゃー黄色い歓声あげてお熱”って方が近いだろ」
「あの手に持ってるバカデカイ箱って差し入れかな」
サンパチが指差したシュガーピンクの大きな箱からぷぅうんと甘い匂いが漂ってくる。
「これかい?」
ウキウキと箱を指して見せる。
「マジック先生のバースデーケーキだよv今から超特急でガンマ団に届けに行く予定だよvv」
「まさか…手渡しで贈る気じゃないっすよね?」
「手渡しに決まってるじゃないかvv」
いや待てってそこ、敵地だから。
本当に彼はマジックの事となると盲目で、普段の聡明さはどこへ投げてしまうのだろうか。
「今頃ガンマ団で盛大に祝ってる最中でしょう。そんな中に行かれたらどうなるかお考えください」
言葉には『手渡し禁止。どうしても贈りたかったら郵送しろ』が含まれている。
「手渡ししたかったんだけどね~」
「祝いか~、盛大に祝うより青の一族って縦の関係が強烈らしいから、団を上げて祝うより一族内だけで祝うんじゃねーの?」
「祝って嬉しい年じゃないけどね~」
あはははははと酷い台詞をさらりと言う彼らに
「お前達減給」
山南が影を背負って帳簿にマイナス棒を入れていた。
「一族って言うと、あの鼻血いっぱい出した巨大な生き物に乗ってた獅子舞ヘアーの男もそうなんだよね?あとガンマ団現総帥のシンタローでしょー。それから…」
「…シンタロー………?」
一人はしゃぎ回っていた山南の動きがピタリと止まる。
同時にメラメラと炎を燃え上がらせ始め、どんどん大きくなっていく。
「わ!バカ!山南さんの前でシンタローの名はご法度だって!」
「あ、ゴメンッ」
ハジメに言われてシンパチは慌てて口を塞ぐが、出た言葉は戻ってこない。
「シンタロー…マジック先生の愛をフルで受けている男……」
箱のケーキも今頃黒焦げになってるんじゃないのかと山崎が心配せずに思うほど、炎は勢いを増していく。
「嫉妬の鬼と化してるよ~」
「こりゃやべえかも…」
上司の剣幕にシンパチとハジメが冷や汗を背に感じながら後退し始める。
「おのれシンタロー――――――ッッツツツ!!!!!」
ゴウッ!!!
炎の勢いが最大限に達する。
「うわヤバい!!!」
「逃げろッ!!」
「マジック先生が生まれし今日を貴様の命日にしてくれるわッツ!!!」
ゴオオオオオオオオオオオオッッッツツツツ!!!!!!!!!!
「うわ~~~~~~~~!!!!」
「あっちぃ~~~~ッツ!!!!」
「………」
オマエはアラシヤマか!とツッコミが入りそうな勢いで炎が四方八方燃え広がり、山崎たちまでをも巻き込んだ。
山崎だけはどこから用意したのか、完全断熱スーツを着込んでおりいつものポーカーフェイスで小脇に消火器を抱えている。
「見ておれシンタロー!!!」
山崎が消火器を元凶へ発射させるまであと、3秒。
「ん~v今日もパプワ島は快晴だねぇ♪」
洗濯物がよく乾く。
目元を手で覆い影を作り、さんさんと輝く太陽を見上げる爽やかな笑顔。
真・心戦組との戦いや己の安否を知らぬ家族を中心としたガンマ団の事は大きく気掛かりながらも、パプワ島での生活は彼にとって幸せと位置付けられるもの。
毎日が何かと命懸けだが。
ここがきっと一番自分が真っ直ぐにありのままでいられる場所なのだ。
最新技術が詰まった箱の中で書類に埋もれたり憎悪渦巻く戦場で指揮をとるよりも、軍服を脱ぎ捨てラフスタイルで緑溢れる森や透き通る青が輝く海、
そして空の下、この島の一筋縄ではいかない住人達や尊大な態度をとる10歳の少年と過ごすこの日々が、当たり前の日常であると思えてしまう。
何時かはこの島から出なければならない事を知っている。
それを選んだのは誰でもない彼。
何時かまたこの島から離れる日が来てもきっと大丈夫。
親友であるあの子どもは言ってくれたから。
何時でもこの島は自分を受け入れてくれる、と。
そして子どももずっとシンタローと友達だと、口にはしなかったけれども確かに伝えてくれたから。
「シンタローさぁ~ん。今日の夕飯何にします?」
食器を洗い終わったリキッドが大きな籠を背負っている。
「あ~、そうだなぁ…。今の季節、日本なら鍋!ってトコなんだがパプワ島は常夏だしな…」
「ああ、鍋、いいっすねーv」
次の日は雑炊に出来て朝食作りは白米炊くだけですしとは思っても決して口にしない。
もしそんな事言うものならお姑さんからどんな叱咤の嵐が飛んでくるか知れない。
「ボクも鍋でいいぞ」
「じゃ、鍋にすっか」
パプワの一声で鍋に決定。
「んじゃ、何の鍋にするかだなー」
ドドドドドドドドッッ……
遠くで土煙のあがる音が聞こえる。
「肉がたっぷり入ったのがいいっすねーv」
すっかり鍋に夢中な彼らは気付かないというか完全無視をしている。
「野菜も沢山入れろよ」
ドドドドドドドドドドッッツ!!!
音は段々近づいてくる。
「あとはうどんに豆腐にかまぼこに赤身魚にそれと…」
ガサリと葉音が聞こえたと同時に、草の陰から長身の影が刀を振りかざしながら飛び出した。
「シンタロー―――――!!!!!」
…平穏な日常の一コマは打ち破られた。
「出たな!変態マニア!!」
「誰が変態でマニアだ!」
「や、親父マニアかもしれないっすよ」
「ヤツも十分“親父”側だろ」
「じゃあ変態親父マニアの親父か」
「酷い事をあっさり言う野蛮人達めぇ~~~~…」
怒りで肩と拳をふるふる震わせている山南からは以前として炎噴出中だが、これは嫉妬のというより怒りの所為らしい。
「そぉ~れっ!」
ジャバッ
「うわっ!!」
突然バケツいっぱいの水を勢いよくパプワから浴びせられる山南。
「何をする子ども!」
「火事にでもなったら大変だからな」
「そういう貴様は普段から家の中で火を振り回してるだろうが!!」
人の事は言えないと言えないだろうとちみっ子相手に本気で怒りを見せる彼は誰の目からも大人気なかった。(言ってる事は間違ってないが)
「シットロト踊りは神聖なものだからナ。火は欠かせないし使うのはボクだから問題ない」
「理由になるか!大体近頃のガキがああ言えばこう………って待てぇい!シンタロー!!」
「んだよ、うっせえなぁ…」
無関係とばかりにこの場を立ち去ろうとしていたリキッドと同じくらいの大きさがある籠を背負ったシンタロー(withリキッド)が、山南の止めにウザったそうに振り向く。
二人の(一方的な)喧嘩はキリがなくて、これでは日が暮れてしまいそうだ。
まだ他の家事も残っているのだから、早く夕食の材料を集めなくてはならない。
「敵前逃亡する気か!武士道に恥じるヤツめ!」
「や、オレ、武士じゃなくて総帥だし」
現在休職中だけどと心中で付け加える。
一方の山南は聞いちゃいなかった。
「こんな男にマジック先生は…マジック先生はぁあああ!!!」
あああぁぁぁああぁぁぁ!!!!!と絶叫をあげて頭を抱えている。
嫉妬の炎再び。
「で、オッサンは一体何しに来たんだよ」
「オッサン言うな!それを言うなら貴様も28…」
「30まではおにーさんなんだよ」
そうなのか?
思っても口にしないヤンキー20歳。(生きた年数は24歳)
「ちっとも話が先に進みませんね」
どうでも良さ気な山崎の呟きに山南がハッとする。
血圧は上げたまま再び刀を構え、腰を沈めて飛び掛る体勢に入った。
「今日の目出度き日を、シンタロー、貴様の命日としてやる事を有り難く思え!」
「有り難き日ぃ~?」
今日は何かあったっけ?とリキッドとパプワに面を向けるが、二人はさぁ?と首を傾げるだけだった。
「惚けても無駄だよ。その大きな籠が何よりの証拠!」
シンタローとリキッドの両者が背負っている食料調達用の籠を刀で指す。
「この籠が何だってんだよ」
「その籠沢山に美味な食材を詰めて、ご馳走やらケーキやら作ってマジック先生に食べて貰う気だろう!
ご馳走はともかくケーキは!メインのケーキは私がマジック先生にプレゼントするんだよ!」
「二個あってもいいじゃないですか」
「何を言う!例え種類や味が違うものでも同じプレゼントを贈るなどインパクトに欠けるではないかッ」
ぎゃあぎゃあと勝手にあーでもないこうでもないと騒ぐ山々コンビ―――山南が一方的に騒いでるだけに見えるが―――を、
時間も無駄に過ぎていくだけだし、もうこのまま放って置いて鍋の食材集めに行きたかったが、彼らの会話に気になる幾つかの点が気になる。
特に何故マジックにケーキを贈る贈らないの話が出ているのか?
「あのー、この籠は鍋に入れる食材を探しにいくんだけど。今晩のメニューの」
何かを勘違いしているらしい山々コンビに一応の説明をしてあげるリキッドの言葉に山南は
「鍋ケーキ…!?」
気色悪い!そんなものをマジック先生に食べさせる気かと鍋ケーキの見栄えと味を想像して真っ青になった。
「ちっがう!ケーキは関係ねぇよ。鍋!純粋に鍋」
山南の想像に激しい脱力感を覚えながら、すかさずツッコミを忘れないリキッドはすっかりツッコミ役が定着してしまっている。
「つーか、何でオレが親父にケーキをやらなきゃならねーんだよ」
「誕生日と言えばケーキだろう!それともオマエの国ではケーキが誕生日のメインではないのか?」
「そりゃ誕生日って言えばケーキなくちゃ始まらねぇよ」
「だから私はマジック先生がこの世に降臨された今日の日に!」
どんとケーキを突き出す。
確かにそれは冒頭で出てきたケーキ(の箱)だが、あれだけの炎に包まれながら焼け焦げた後が全くないのはお約束か。
「こうして敬愛の心をたっぷり込めた手作りケーキを用意したのだよ!
それなのに貴様も…ッ、よりによって貴様も同じものを贈ったとあってはマジック様の私への感激が薄れてしまうかもしれないだろうが!!」
「親父の誕生日………じゅーにがつじゅーににち…」
そもそも山南は例えケーキでなくとも、マジックの愛を熱烈に受けまくっているシンタローが彼の父親に贈り物をする時点で気に喰わないのだ。
もし、シンタローがマジックにプレゼントを贈ったら―――
『父さん…、誕生日……おめでとな』
『嬉しいよ、シンちゃん』
ちゅv
『んっ…やめろって////』
『パパからの感謝の気持ちだよvそれともシンちゃんはパパのキスは嫌いかい?』
『え…っ、べ、別に嫌いじゃねー…よ。………でも…』
『でも?』
『どうせするなら…唇にして欲しい…』
『大歓迎だよ』
『んん…ッ』
「うがー!!!許すまじシンタロー!!」
「っつーか誰だよソイツ!ゼッテーキスなんかさせねえよオレは!!!」
贈り物から甘い甘い甘過ぎるマジシン妄想を勝手に繰り広げ、勝手に怒り狂っている山南を懇親の力を拳に込めて、シンタローが頭を殴る。
「それがもしも、私とシンタローの両方がケーキを贈ったら……」
デカイタンコブを作りながら感覚は痛みを感じていないのか、山南は更に(被害)妄想を拡大していく。
『マジック先生vお誕生日おめでとうございますvv』
『ああケーキか。しかもこれは手作りだね?…とっても嬉しいよ、山南君』
『マジック先生…』
『山南く『父さん!誕生日のお祝いにケーキ作ってみたぜ♪』
『な…ッ!?貴さ『シンちゃんvv有難うvvvvv』
『あ、でも山南のプレゼントもケーキか…。じゃあオレのは要らない、よな……』
『そんな事はないよ!山南君のケーキは幹部の連中にあげて、パパはシンちゃんのケーキを食べるよ!!』
『え!?ちょ…!マジック先生!!??』
『悪いねー山南君。だって二個もケーキは食べられないから。しかもケーキは長持ちしないし。勿体無いから幹部に連中に配ってきてくれないかな。
私はこれからシンちゃんと二人きりでv私の私室でvvシンちゃんの愛情たっぷりケーキを食べるからvv』
『じゃーな、山南のオッサン!』
『待ってくださいマジック先生ー!!!!!』
『ケーキ後のデザートは勿論シンちゃんだよねv』
『ばーか、ケーキがデザートだろ////』
『シンちゃんの方が甘くて美味しいの、パパ知ってるもんvv』
『エロ親父…』
『はは、今更今更』
『うわッ。開き直りやがった…』
『はははははは』
『あははははは』
『ま…マジック先生―――!!!カムバッ~~~ク!!!!!』
「って言うか今日はマジック様の誕生日だったんですね」
リキッドがへぇ~と声を漏らす。
青の一族ではないリキッドが知らなかったのは当然として、親子であるシンタローがああそうかという風にポンと手を打ってから発せられた言葉はなんとも儚いものだった。
「あ、親父の誕生日って今日だったっけか。すっかり忘れてたぜ」
「忘れてただと…?よりにもよってマジック先生のお誕生日を忘れていたと…?」
「だってよ、12月は忙しいから…うっかりしてたぜ。クリスマスやら大掃除やらあるし、何よりコタローの誕生日もあっからよ」
あはは~と乾いた笑いには罪悪感(大げさな…)は欠片ほどにしか感じない。
「…キリストと弟の誕生日は覚えていて、父親の誕生日は忘れていたと…。
暦に入っていない世の慣わしは覚えていて、マジック先生の誕生日は忘れていたと………?」
肩をふるふると震わせながら呟かれる声色は限りなくグレーだ。
そして
ブチッ!!!
ついに何かが切れる音がした。
冒頭から切れっぱなしだった山南の怒りが臨界点まで達したのだ。
山崎が(努めずとも)冷静な顔で止める間もなく、欠陥をデカデカと浮き出させて刀を振りかざす。
―――マジック先生の寵愛を一心に受けていながらもこの男は…!
「親不孝息子ぉぉぉおおおッッツツツ!!!!」
「なんだよ!オレが親父の誕生日祝おうが忘れていようが、結局気に入らねえんじゃねえかよ!!」
突進してくる山南をギリギリのところで避けながら、手の平に気を集中させる。
「刺身になれッツ!!」
「喰らえ眼魔砲ッツ!!」
気合だけでも吹き飛ばされそうな両者の力と力が激しくぶつかり合い、周囲に爆風が立ち上る。
「何時になったら食材取りに行けるんだ?」
爆風を受けながらも、半目で両者を見守りながらリキッドが呟く。
「アイツらの事は放っておけばいいだろう。お前一人で食材取ってこい」
「ハァ~?なぁパプワ。オマエってシンタローさんには甘いんじゃねぇか?」
オレと比べて、とガックリ頭を垂れ下げる。
確かにパプワとシンタローの絆は深い。
一緒に過ごした時間よりも離れ離れになっていた時間の方が遥かに長くても関係なく。
きっと四年間共に暮らしてきた自分よりも、ずっと。
空しさを感じながら、一人で食材探しに繰り出すことを甘受したリキッドにパプワが投げた言葉は、想像するだけ恐ろしく、
「勿論、食材探しをサボったシンタローはお仕置きだゾ!」
お姑さんに心底同情してしまうのだった。
「パパ!お誕生日おめでとう!!」
「叔父様おめでとうvv」
「おめでとう御座います、マジック様」
「おめでとう、兄さん」
「一応祝ってやるよ、兄貴」
「みんなありがとう。とっても嬉しいよ」
「はいコレ!オレからのプレゼント!!」
「有難うvシンちゃんvv」
「ボクはこれね。ねぇねぇ開けてみて叔父様♪」
「とっても嬉しいよ、グンちゃんv」
「兄貴」
「ん?何だい?まさかハーレムもプレゼントくれるのかい?」
「兄貴」
「…?だから何なんだい、一体」
「起きろよ、マジック兄貴」
「起きる…?」
「兄貴…おい兄貴!こんなトコで寝てると風邪引くぞ!おいコラ!!」
「…ん?……あれ、ハーレム…?」
「折角の日に風邪なんて笑えねぇぞ」
「ここは私の部屋…。………そうか、夢だったのか…」
二十年前ほど昔の、優しい思い出の夢。
寝ていたソファから起き上がり、些か乱れた前髪をかき上げてふぅと溜息を吐いた。
「思い出は…所詮思い出にしかならないのだろうか…」
「ああん?」
突然何を言い出すんだと実兄を訝しげに見やるハーレムの瞳に映し出された彼は、どこか遠くをじっと見つめていた。
「夢を見ていたんだ。ずぅっと昔の夢を。私の誕生日にみんなで祝ってくれた時の思い出がそこにはあったよ」
「だからグンマ達の誘いに乗れば良かったんだよ」
今日がマジックの誕生日だと、グンマを初め、サービスと驚くべき事にあのハーレムですら覚えていてくれた。
…キンタローは忘れていたけれど。
数日前から団をあげてのお祝いパーティを開こうと、実の長子からの申し出があったのだが、それをマジックは丁寧に断った。
例年なら誰かが祝おうと言わずとも、自分からいそいそとパーティの準備をしていた。
けれど今年はお祝いの言葉とプレゼントがマジックの私室にて贈られただけだった。
派手な飾り付けをされた会場も特別なご馳走もない。
せめてものケーキが一切れずつマジックと側近達、それにグンマとハーレムに渡された。
お祝いをして貰う気分になれない理由を、誰もが知っていた。
血の繋がりこそないものの、溺愛していた息子のシンタローは異次元に位置を置く第二のパプワ島に居てここには居ない。
実弟の一人、サービスと実子の末っ子であるコタローは修行中の為やはり不在で。
新たな戦の波も迫っている。
それにコタローは今、マジックがのんびりと私室でまどろんでいる間にも、きっと秘石眼のコントロールを主とした修行に励んでいるのだろう。
まだたったの10歳なのに。
それを思うと、暢気に祝ってもらう気持ちになんてなれっこない。
―――もっとも、私はあの子を4歳の頃に監禁してしまったけどね。
襲い掛かる後悔の波と、それでもまだ戸惑うコタローとの親子の関係。
失われた日々は戻らない。
自分がつけてしまったコタローの心の傷は簡単に癒えるものではない。
コタローを監禁すると決めたあの時の心を今も覚えている。
正しい事とは思わなかったが、他の方法が思いつかなかった。
シンタローの静止の声に敢えて耳を塞いだ。
けれど一歩ずつ、覚束無い足取りながらもコタローに近付こうとしている自分が居るのも確かで。
「来年こそ、みんなにお祝いして貰いたいよ」
今年しなった分、凄いご馳走作る予定だよ、とマジックはふふっと笑った。
「そーだな…」
その時は仕方ねえからオレも参加してやるよ、とハレームも短く笑みを見せた。
ふと視線を向けた窓の外は音もなく静かにゆっくりと雪が舞い降りている。
雪が昔から好きだったシンタローに今年何度目かのこの雪を見せてやりたい。
雪の降らぬ遠い地に居る息子の勝気な笑顔を瞼の裏に映し出した。
きっと彼は元気に暮らしている筈。
何が起きても彼なら大丈夫。
でも
早く帰っておいで。
シンタロー、コタロー。
―――MY LOVEING SONS―――
君が安らげるように ~コタローside~
『待って!待ってよぅ!!』
とっても“大好きな筈の人”が、ボクをココに閉じ込めた。
どうして?
どうしてボクだけ外に出ちゃいけないの?
どうしてボクを一人ぼっちにするの?
ボクの疑問に貴方は「オマエは危険だからだよ」と言った。
ボクは危険な存在なの?
ボクは世界に異質な存在なの?
じゃあ!
じゃあボクは何の為に生まれてきたの!?
『ねえ!答えてよ…ッ』
だけど貴方はもうボクに背を向けて、部屋の外へと歩き出す。
ギギギ…と鈍い音がして、扉が閉められる。
嫌だ!一人ぼっちになるのは嫌だよ…ッ!
扉の隙間は後少ししかなくて、貴方の背中が見えなくなる。
『待って!置いてかいないで!パ―――』
ガバッ!
はっとしてボクは飛び起きた。
はぁはぁと息が激しく乱れていた。
キョロキョロと周囲を見渡すと、ボクを包むのは見慣れた薄い暗闇。
「え…、あ……夢…?」
部屋―――と言っても家に一部屋しかないから家と言ってもイイケド―――に一つある窓から差し込む月明かりのおかげで、少し離れた台所も大体見える。
ボクと赤い服を着た男の人以外何も見えなかった、あの漆黒の暗闇じゃない。
「はぁ…」
安心したからなのか、溜息を吐いて膝に両腕を置いて頭を下げる。
その拍子に額を伝って雫が膝上の掛け布団を濡らした。
びっしょりと嫌な汗をかいていた。
発汗した所為か、酷く喉が渇いている。
お水、欲しい。
「どうした?ロタロー」
声がしたと思ったら、むっくりと隣の影が起き上がった。
「パプワ君。あ、ゴメンね。起こしちゃった?」
眠そうな様子もなくぱっちりとした大きな瞳でボクを見つめる、ボクのきっと初めての友達。
「怖い夢でも見たのか?」
パプワ君はいつも殆ど表情を変えることはないけど、実は結構表情あるんだよ。
よく見てなきゃ気付かないだろうけど。
今も心配そうな顔してる。
その声も、とても優しかった。
コクンと頷くボクの頭に温かい感触が触れる。
「よしよし。大丈夫だぞ。ボクが付いてるからな」
母親が愚図る我が子にするように、パプワ君は背伸びをしてボクの頭を撫でてくれた。
ボクの大好きな温度に心から安心出来る。
もっとその温度を感じたくて、自然にパプワ君に抱きついた。
パプワ君は相変わらず「よしよし」と言いながら頭を撫でてくれる。
時々「安心しろ」とか「大丈夫だぞ」とか言いながら。
「有難う、パプワ君」
どれくらいそうしていたんだろう。
すっかり落ち着いてきたボクはやっと喉の渇きを感じて、水を飲みに行った。
水を溜めている桶は直ぐそこなのに、パプワ君は一緒についてきてくれた。
やっと喉も潤って眠る時、何も言わずボクの手を握ってきた。
「あったかい…」
「ロタローの手もあったかいぞ」
「なら温めあいっこしようねv」
ふふっと笑って少し握る力を強くした。
君がボクにしてくれるように、ボクは君に何が出来るだろう。
ボクは君のような凄い力はないけれど、君がしてくれたようにボクはずっと君の傍に居て、温めてあげたい。
強い君だけど、悲しい時もきっとあるだろうから。
その時は、何があってもこの手を差し出すよ。
だから。
だから、ずっと。
ずっと一緒に―――。
君が安らげるように ~パプワside~
『コタローって誰だ?』
『オレのかっわいーい弟!』
『ブラコン』
『るっせー』
『……シンタロー…』
『んだよ』
『コタローが好きか?』
『そりゃもースッゲー好きだぜ!可愛い可愛い弟だもんなッ』
『…そうか』
『?…なんだ突然。変なヤツ~』
“世界で一番好きなのかと、誰よりも一番好きなのかと、
……ボクよりコタローが好きなのかと、とっても恐くて聞けなかったんだ”
すやすやと穏やかな寝息をたてながら、やっと夢の中へ潜り込んだコタローに、安堵の溜息をほっと吐く。
コイツは夢見が悪くて、よくさっきみたいに真っ青な顔で目を覚ます。
海のような蒼い目に涙を溜めながら。
でもこれでもまだマシになった。
パプワ島に来た頃は毎日その調子だったが、最近では滅多にこんな事は起きない。
時々ふと思い出したように辛い夢を見ている。
ボクはその夢を知っている。
それは夢じゃない、過去の現実だった。
コイツが今は閉まい込んだ、悲しい昔の話。
コイツとコイツの―――そしてシンタローの父親の男とは、四年前に近付いたように見えた。
きっと一歩は近付いたんだ。
でもまだコタローは恐がっている。
あの男を、と言うより、また一人ぼっちになる事を。
コタローは極端に一人になるのを嫌がる。
一歩でも先に進むボクの後をまるで必死についてくる。
大丈夫だぞ、コタロー。
お前とボクは友達なんだ。
お前が何時か、シンタローが居るだろうボクはまだ見ないあの場所へ帰るまでずっと傍にいてやるから。
一人ぼっちの寂しさを、ボクも知っているから。
「ん…、パプワ君……」
起きたのかと顔を覗くと、ただの寝言だったようで、幸せそうな顔で安眠を貪っていた。
安心したようなコイツの様子にほっとする。
シンタローが第一のパプワ島に流れついてからずっと、楽しかったけど何時だって小さな不安がボクの心に付き纏っていた。
シンタローはよく“コタロー”の名を口にした。
大好きだと。可愛いと。会いたいと。
その度に生まれてくるモヤモヤとした気持ちを、最初は正体が分かずただ持て余していた。
初めて感じた感情だったから。
ボクは島のみんな大好きだが、シンタローは特別だった。
初めての人間の友達。
ずっとずっと人間の友達が欲しかった。
その願い事が叶って一年以上共に過ごした日々はとっても楽しかった。
だから余計に楽しい分、コタローを想うシンタローに不安を感じたんだと思う。
コタローという存在が、何時かシンタローを帰してしまう。
そう思うと凄く嫌な気持ちになって、今思えばコタローの事は嫌いじゃなかったけど好きにはなれなかった。
そのコタローと今では友達になって、一緒に暮らしてる。
守ってやりたいと願う。
コタローの事、好きか嫌いかと聞かれたら、ボクは迷わずこう言うぞ。
「大好きだぞ。ボクとコタローは友達だ」
誰からとか何からとかじゃなく、コタローを怯えさせる全てのものを跳ね除けたいって思う。
怖い夢を見たら寝付くまで手を握ってやる。
怖い夢も吹き飛ぶような、お前がまだ知らないもっと楽しい場所にも連れて行ってやるぞ。
だってお前はボクの大好きな友達だから。
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「ついに完璧なる成功ですよ!」
僕らの素敵なマッド★サイエンティスト・変態科学者・グンマのお守り(保護者)・鼻血・・・・・・・・・・・・・まあ色々言われ方はあるが、
彼、Dr.高松は今日も飽きずに研究室に引きこもり怪しげな笑いを洩らしながら、更に怪しげな研究に心血を注いでいた。
誰も居ないのにビシッ!と片手に物体Mを高々とぶら下げて高笑いを始める。
こんな姿と物体Mを見たら、小さな子どもは泣き出すだろう。
大きな大人は腰を抜かすだろう。
「さあ、貴方の名前を決めましょうねv」
物体Mを愛しそうに見つめ、話しかける。
その度物体Mは、暇なのか足をゆらゆらと動かしていた。
「ケンタッキー、ホワイトフィッシュ、マンダーラガンダーラ、クララ、春巻き・・・おやおや気に入らないんですか?」
次々と物体Mにいい名を授けようと並べてみるがどうもその中のどれも嫌だと、足をバタつかせて訴えている。
何故最後だけカタカナじゃないのかは謎だった。
次々とあげていった名前に一貫性がないのは更に謎だった。
「それじゃあ―――」
「朝練はここまでにしとこーぜ!」
「シンタロー、まだ一時間しかやってないっちゃ」
「馬ー鹿!今日は筆記テストがあんだろ。言っとくが力があるだけじゃガンマ団では生き残れないぜ?」
「すっかり忘れてたべ!」
「なぁーに!当たって砕けろじゃけんのぉ!!」
「そないな事言うて・・・ほんまに砕けたら意味ないでっせ?」
ゴンッ
見事にシンタロー+ローカル三人衆の拳骨が、朝っぱらから不吉なことを言った京都人の頭に同時にHITした。
根暗な京都人は地に沈んだ。
「さーて!少しでも勉強しとくか!」
シンタロー達は年齢で言えば高校生。
普通の高校ではなく、ガンマ団の訓練校でもテストからは逃れられないのだ。
必死に詰め込めるだけ知識を詰め込んで迎えたガンマ団特別筆記テスト。
しかし誰も一問も解けなかった。
とりあえず成績TOP(らしい)グンマですら分からない箇所が多過ぎだ。
それにも呆然としたが、目の前の【転校生】を紹介され、勉強し過ぎて頭がイカレてしまったのかと皆は思った。
「転校生だ!気にするな」と涙目で言ったガンマ団員(筆記テスト監視者)に紹介された転校生は、
「大根だべ」
「人参にも見えるべ」
「・・・Dr.高松に押し付けられ―――・・・今日から入れて欲しいと頼まれた、新しい諸君の仲間、名前は股んGO!君だ。
何でも朝鮮人参と練馬大根で出来たDrの最高傑作らしい」
気にするなと言われても無理だ。
朝鮮人参と練馬大根で出来たこの物体を仲間だ転校生だの言われても。
しかも
「筆記テスト受けとるどす・・・」
与えられた机にどっかりと座り、テスト開始の合図と共に手らしき部分で鉛筆を握りざっざかと問題を解き始めた。
しかもこんな難し過ぎる問題に臆することもなく鉛筆を進めていく。
―――高松が作ってたのってこれ?
―――あんのマッドサイエンティスト!!
―――大根のクセに問題解くの早いっちゃね!
―――人参じゃなかったべ。
―――シャーペンじゃないんじゃのう。
―――友達になってくれるでっしゃろか?
そんな事考えてる暇があったら手元の問題をさっさと解こうとすればいいのだが。
一週間後の結果は皆、悲惨なものだった。
常に95点以上はキープするグンマですら50点である(それでも高得点の方)。
何と平均点5点である。
「情けないですねぇ、グンマ様はともかく」
馬鹿にした溜息をわざと洩らしながら近づいてくるのは股んGO!の生みの親・高松。隣には噂の股んGO!が控えていた。
しかもちゃんと服も装着済み。
「こんな内容習った記憶がねえよ!」
テストをビシッ!と突き出す。
「4点ですか。平均点いってないじゃないですか。股んGO!なんて100点ですよ」
ぴしっ
空気が凍った。
「まあ、あったま悪い君達には難しかったですかね。
何せ担当と交渉して今回のテスト内容は英国の一流大学の医療関係に関するテスト問題に変えさせていただきましたから」
―――解ける筈ないじゃねーか(だべ・だっちゃ・じゃけん・どす)!!!!!
まだ習ってないどころか9割以上の内容は、今後も習う予定のない代物であった。
何でもない事のようにさらっととんでもない事を言うDrに並みならぬ殺気を向けるシンタローとカントリーズ。
と、同時に、自分はこんな変態生物(=股んGO!)に劣ったのかとの激しい悔しさが沸き起こり握りこぶしが
ただ行き場をなくして震えていたのだった・・・。
癒しの手
いつも、部下の前では決して少しの弱音も見せない。
僕の叔父様はそんな人―――。
マジック総帥―――僕の叔父様がシンちゃん奪還の為、パプワ島と言う場所に行って来た。
僕は絶対連れて帰ってきてくれると、微塵も疑いはしなかった。
だけど、帰ってきた軍艦をいくら見渡しても大好きな従兄弟の気配すら、なかった―――。
悲しかった。
でも、きっと叔父様は僕以上にガッカリしているんだと思う。
だから責める事なんか出来やしない。その代わり、
「今度は僕にシンちゃんの奪還をさせて」
と頼んだんだ。
戦闘向きではない僕に叔父様は目を丸くし、考え込んでしまったようだ。
―――僕ってそんなに頼りないの・・・?じゃあ僕はガンマ団にとってどんな存在?
必要か、否か。
「・・・そうだね、グンちゃんも優秀なガンマ団員。今すぐには許可を出せないけど、検討してみるよ」
「わ~いvv」
両腕を万歳させて喜ぶ。
子どもっぽいって自分でも思うことはあるけど、昔からの癖というか・・・なかなか直らない。
ふと、叔父様が柔らかい顔になって尋ねた。
「そろそろ戻らないと、高松が心配するんじゃないかな?」
「あ、そうだ!じゃあまたね叔父様!絶対僕、パプワ島に行くからね!」
「分かったよ」
急いで総帥室から出る―――・・・出ようとしたんだ。
「はぁ~・・・疲れたなぁ・・・」
ふと漏らした一言。
何故か強く耳に入った。
居た堪れなくなって踵を返した足を180度ターンさせて、叔父様の元へと戻る。
「どうしたんだい?何か忘れ物でも?」
「ううん、叔父様・・・」
僕は思いっきり背伸びをして、叔父様の頭を何度か撫でた。
「グンちゃん・・・」
「お疲れ様、叔父様」
「ありがとう。本当にグンちゃんは優しいね・・・」
淡く微笑む叔父様に笑みを返して、今度こそ総帥室から退出する。
「おやすみ、叔父様」
「ああ、おやすみ」
帰る廊下で叔父様の言葉がフラッシュバックする。
『ありがとう。本当にグンちゃんは優しいね・・・』
たったあれだけの事なのに、叔父様は僕に優しいと言った。
そしてその時の瞳が強く焼きついて離れない。
人を簡単に死に至らしめる魔性の瞳。
呪われた秘石眼―――。
いつだって自信に満ち溢れていた彼は、一体どれだけの傷を背負っているのだろう?
「シンちゃん・・・早く帰ってきて・・・」
親子喧嘩は絶えずとも、叔父様を本当に癒せるのは君だけなんだから。
「絶対捕まえるからね」
叔父様の為、ガンマ団の為、・・・そして僕の為に。
パパン生誕祝い(注:微マジシン有り)
「本日12/12はマジック先生のお誕生日vよって!今年からこの日は真・心戦組の祝日とする!」
「え~、だったら昨日にでも言ってくれればよかったのに~」
「それにしてもホント、山南さんはマジックが好きなんっすね~」
「敵側の人間に好意を持っているのは大問題なんですけどね、本来」
「愛に敵味方は関係ないよ山崎君vv」
いえ、大有りですから。
口で言ってもどうせ無駄な事は百も承知なので、心中でおもいっっっっきり突っ込みを入れる。
「“愛”って、山南さんってモーホーってヤツなの?」
「やー、ありゃぁ“ミーハー女子高生がアイドルにきゃーきゃー黄色い歓声あげてお熱”って方が近いだろ」
「あの手に持ってるバカデカイ箱って差し入れかな」
サンパチが指差したシュガーピンクの大きな箱からぷぅうんと甘い匂いが漂ってくる。
「これかい?」
ウキウキと箱を指して見せる。
「マジック先生のバースデーケーキだよv今から超特急でガンマ団に届けに行く予定だよvv」
「まさか…手渡しで贈る気じゃないっすよね?」
「手渡しに決まってるじゃないかvv」
いや待てってそこ、敵地だから。
本当に彼はマジックの事となると盲目で、普段の聡明さはどこへ投げてしまうのだろうか。
「今頃ガンマ団で盛大に祝ってる最中でしょう。そんな中に行かれたらどうなるかお考えください」
言葉には『手渡し禁止。どうしても贈りたかったら郵送しろ』が含まれている。
「手渡ししたかったんだけどね~」
「祝いか~、盛大に祝うより青の一族って縦の関係が強烈らしいから、団を上げて祝うより一族内だけで祝うんじゃねーの?」
「祝って嬉しい年じゃないけどね~」
あはははははと酷い台詞をさらりと言う彼らに
「お前達減給」
山南が影を背負って帳簿にマイナス棒を入れていた。
「一族って言うと、あの鼻血いっぱい出した巨大な生き物に乗ってた獅子舞ヘアーの男もそうなんだよね?あとガンマ団現総帥のシンタローでしょー。それから…」
「…シンタロー………?」
一人はしゃぎ回っていた山南の動きがピタリと止まる。
同時にメラメラと炎を燃え上がらせ始め、どんどん大きくなっていく。
「わ!バカ!山南さんの前でシンタローの名はご法度だって!」
「あ、ゴメンッ」
ハジメに言われてシンパチは慌てて口を塞ぐが、出た言葉は戻ってこない。
「シンタロー…マジック先生の愛をフルで受けている男……」
箱のケーキも今頃黒焦げになってるんじゃないのかと山崎が心配せずに思うほど、炎は勢いを増していく。
「嫉妬の鬼と化してるよ~」
「こりゃやべえかも…」
上司の剣幕にシンパチとハジメが冷や汗を背に感じながら後退し始める。
「おのれシンタロー――――――ッッツツツ!!!!!」
ゴウッ!!!
炎の勢いが最大限に達する。
「うわヤバい!!!」
「逃げろッ!!」
「マジック先生が生まれし今日を貴様の命日にしてくれるわッツ!!!」
ゴオオオオオオオオオオオオッッッツツツツ!!!!!!!!!!
「うわ~~~~~~~~!!!!」
「あっちぃ~~~~ッツ!!!!」
「………」
オマエはアラシヤマか!とツッコミが入りそうな勢いで炎が四方八方燃え広がり、山崎たちまでをも巻き込んだ。
山崎だけはどこから用意したのか、完全断熱スーツを着込んでおりいつものポーカーフェイスで小脇に消火器を抱えている。
「見ておれシンタロー!!!」
山崎が消火器を元凶へ発射させるまであと、3秒。
「ん~v今日もパプワ島は快晴だねぇ♪」
洗濯物がよく乾く。
目元を手で覆い影を作り、さんさんと輝く太陽を見上げる爽やかな笑顔。
真・心戦組との戦いや己の安否を知らぬ家族を中心としたガンマ団の事は大きく気掛かりながらも、パプワ島での生活は彼にとって幸せと位置付けられるもの。
毎日が何かと命懸けだが。
ここがきっと一番自分が真っ直ぐにありのままでいられる場所なのだ。
最新技術が詰まった箱の中で書類に埋もれたり憎悪渦巻く戦場で指揮をとるよりも、軍服を脱ぎ捨てラフスタイルで緑溢れる森や透き通る青が輝く海、
そして空の下、この島の一筋縄ではいかない住人達や尊大な態度をとる10歳の少年と過ごすこの日々が、当たり前の日常であると思えてしまう。
何時かはこの島から出なければならない事を知っている。
それを選んだのは誰でもない彼。
何時かまたこの島から離れる日が来てもきっと大丈夫。
親友であるあの子どもは言ってくれたから。
何時でもこの島は自分を受け入れてくれる、と。
そして子どももずっとシンタローと友達だと、口にはしなかったけれども確かに伝えてくれたから。
「シンタローさぁ~ん。今日の夕飯何にします?」
食器を洗い終わったリキッドが大きな籠を背負っている。
「あ~、そうだなぁ…。今の季節、日本なら鍋!ってトコなんだがパプワ島は常夏だしな…」
「ああ、鍋、いいっすねーv」
次の日は雑炊に出来て朝食作りは白米炊くだけですしとは思っても決して口にしない。
もしそんな事言うものならお姑さんからどんな叱咤の嵐が飛んでくるか知れない。
「ボクも鍋でいいぞ」
「じゃ、鍋にすっか」
パプワの一声で鍋に決定。
「んじゃ、何の鍋にするかだなー」
ドドドドドドドドッッ……
遠くで土煙のあがる音が聞こえる。
「肉がたっぷり入ったのがいいっすねーv」
すっかり鍋に夢中な彼らは気付かないというか完全無視をしている。
「野菜も沢山入れろよ」
ドドドドドドドドドドッッツ!!!
音は段々近づいてくる。
「あとはうどんに豆腐にかまぼこに赤身魚にそれと…」
ガサリと葉音が聞こえたと同時に、草の陰から長身の影が刀を振りかざしながら飛び出した。
「シンタロー―――――!!!!!」
…平穏な日常の一コマは打ち破られた。
「出たな!変態マニア!!」
「誰が変態でマニアだ!」
「や、親父マニアかもしれないっすよ」
「ヤツも十分“親父”側だろ」
「じゃあ変態親父マニアの親父か」
「酷い事をあっさり言う野蛮人達めぇ~~~~…」
怒りで肩と拳をふるふる震わせている山南からは以前として炎噴出中だが、これは嫉妬のというより怒りの所為らしい。
「そぉ~れっ!」
ジャバッ
「うわっ!!」
突然バケツいっぱいの水を勢いよくパプワから浴びせられる山南。
「何をする子ども!」
「火事にでもなったら大変だからな」
「そういう貴様は普段から家の中で火を振り回してるだろうが!!」
人の事は言えないと言えないだろうとちみっ子相手に本気で怒りを見せる彼は誰の目からも大人気なかった。(言ってる事は間違ってないが)
「シットロト踊りは神聖なものだからナ。火は欠かせないし使うのはボクだから問題ない」
「理由になるか!大体近頃のガキがああ言えばこう………って待てぇい!シンタロー!!」
「んだよ、うっせえなぁ…」
無関係とばかりにこの場を立ち去ろうとしていたリキッドと同じくらいの大きさがある籠を背負ったシンタロー(withリキッド)が、山南の止めにウザったそうに振り向く。
二人の(一方的な)喧嘩はキリがなくて、これでは日が暮れてしまいそうだ。
まだ他の家事も残っているのだから、早く夕食の材料を集めなくてはならない。
「敵前逃亡する気か!武士道に恥じるヤツめ!」
「や、オレ、武士じゃなくて総帥だし」
現在休職中だけどと心中で付け加える。
一方の山南は聞いちゃいなかった。
「こんな男にマジック先生は…マジック先生はぁあああ!!!」
あああぁぁぁああぁぁぁ!!!!!と絶叫をあげて頭を抱えている。
嫉妬の炎再び。
「で、オッサンは一体何しに来たんだよ」
「オッサン言うな!それを言うなら貴様も28…」
「30まではおにーさんなんだよ」
そうなのか?
思っても口にしないヤンキー20歳。(生きた年数は24歳)
「ちっとも話が先に進みませんね」
どうでも良さ気な山崎の呟きに山南がハッとする。
血圧は上げたまま再び刀を構え、腰を沈めて飛び掛る体勢に入った。
「今日の目出度き日を、シンタロー、貴様の命日としてやる事を有り難く思え!」
「有り難き日ぃ~?」
今日は何かあったっけ?とリキッドとパプワに面を向けるが、二人はさぁ?と首を傾げるだけだった。
「惚けても無駄だよ。その大きな籠が何よりの証拠!」
シンタローとリキッドの両者が背負っている食料調達用の籠を刀で指す。
「この籠が何だってんだよ」
「その籠沢山に美味な食材を詰めて、ご馳走やらケーキやら作ってマジック先生に食べて貰う気だろう!
ご馳走はともかくケーキは!メインのケーキは私がマジック先生にプレゼントするんだよ!」
「二個あってもいいじゃないですか」
「何を言う!例え種類や味が違うものでも同じプレゼントを贈るなどインパクトに欠けるではないかッ」
ぎゃあぎゃあと勝手にあーでもないこうでもないと騒ぐ山々コンビ―――山南が一方的に騒いでるだけに見えるが―――を、
時間も無駄に過ぎていくだけだし、もうこのまま放って置いて鍋の食材集めに行きたかったが、彼らの会話に気になる幾つかの点が気になる。
特に何故マジックにケーキを贈る贈らないの話が出ているのか?
「あのー、この籠は鍋に入れる食材を探しにいくんだけど。今晩のメニューの」
何かを勘違いしているらしい山々コンビに一応の説明をしてあげるリキッドの言葉に山南は
「鍋ケーキ…!?」
気色悪い!そんなものをマジック先生に食べさせる気かと鍋ケーキの見栄えと味を想像して真っ青になった。
「ちっがう!ケーキは関係ねぇよ。鍋!純粋に鍋」
山南の想像に激しい脱力感を覚えながら、すかさずツッコミを忘れないリキッドはすっかりツッコミ役が定着してしまっている。
「つーか、何でオレが親父にケーキをやらなきゃならねーんだよ」
「誕生日と言えばケーキだろう!それともオマエの国ではケーキが誕生日のメインではないのか?」
「そりゃ誕生日って言えばケーキなくちゃ始まらねぇよ」
「だから私はマジック先生がこの世に降臨された今日の日に!」
どんとケーキを突き出す。
確かにそれは冒頭で出てきたケーキ(の箱)だが、あれだけの炎に包まれながら焼け焦げた後が全くないのはお約束か。
「こうして敬愛の心をたっぷり込めた手作りケーキを用意したのだよ!
それなのに貴様も…ッ、よりによって貴様も同じものを贈ったとあってはマジック様の私への感激が薄れてしまうかもしれないだろうが!!」
「親父の誕生日………じゅーにがつじゅーににち…」
そもそも山南は例えケーキでなくとも、マジックの愛を熱烈に受けまくっているシンタローが彼の父親に贈り物をする時点で気に喰わないのだ。
もし、シンタローがマジックにプレゼントを贈ったら―――
『父さん…、誕生日……おめでとな』
『嬉しいよ、シンちゃん』
ちゅv
『んっ…やめろって////』
『パパからの感謝の気持ちだよvそれともシンちゃんはパパのキスは嫌いかい?』
『え…っ、べ、別に嫌いじゃねー…よ。………でも…』
『でも?』
『どうせするなら…唇にして欲しい…』
『大歓迎だよ』
『んん…ッ』
「うがー!!!許すまじシンタロー!!」
「っつーか誰だよソイツ!ゼッテーキスなんかさせねえよオレは!!!」
贈り物から甘い甘い甘過ぎるマジシン妄想を勝手に繰り広げ、勝手に怒り狂っている山南を懇親の力を拳に込めて、シンタローが頭を殴る。
「それがもしも、私とシンタローの両方がケーキを贈ったら……」
デカイタンコブを作りながら感覚は痛みを感じていないのか、山南は更に(被害)妄想を拡大していく。
『マジック先生vお誕生日おめでとうございますvv』
『ああケーキか。しかもこれは手作りだね?…とっても嬉しいよ、山南君』
『マジック先生…』
『山南く『父さん!誕生日のお祝いにケーキ作ってみたぜ♪』
『な…ッ!?貴さ『シンちゃんvv有難うvvvvv』
『あ、でも山南のプレゼントもケーキか…。じゃあオレのは要らない、よな……』
『そんな事はないよ!山南君のケーキは幹部の連中にあげて、パパはシンちゃんのケーキを食べるよ!!』
『え!?ちょ…!マジック先生!!??』
『悪いねー山南君。だって二個もケーキは食べられないから。しかもケーキは長持ちしないし。勿体無いから幹部に連中に配ってきてくれないかな。
私はこれからシンちゃんと二人きりでv私の私室でvvシンちゃんの愛情たっぷりケーキを食べるからvv』
『じゃーな、山南のオッサン!』
『待ってくださいマジック先生ー!!!!!』
『ケーキ後のデザートは勿論シンちゃんだよねv』
『ばーか、ケーキがデザートだろ////』
『シンちゃんの方が甘くて美味しいの、パパ知ってるもんvv』
『エロ親父…』
『はは、今更今更』
『うわッ。開き直りやがった…』
『はははははは』
『あははははは』
『ま…マジック先生―――!!!カムバッ~~~ク!!!!!』
「って言うか今日はマジック様の誕生日だったんですね」
リキッドがへぇ~と声を漏らす。
青の一族ではないリキッドが知らなかったのは当然として、親子であるシンタローがああそうかという風にポンと手を打ってから発せられた言葉はなんとも儚いものだった。
「あ、親父の誕生日って今日だったっけか。すっかり忘れてたぜ」
「忘れてただと…?よりにもよってマジック先生のお誕生日を忘れていたと…?」
「だってよ、12月は忙しいから…うっかりしてたぜ。クリスマスやら大掃除やらあるし、何よりコタローの誕生日もあっからよ」
あはは~と乾いた笑いには罪悪感(大げさな…)は欠片ほどにしか感じない。
「…キリストと弟の誕生日は覚えていて、父親の誕生日は忘れていたと…。
暦に入っていない世の慣わしは覚えていて、マジック先生の誕生日は忘れていたと………?」
肩をふるふると震わせながら呟かれる声色は限りなくグレーだ。
そして
ブチッ!!!
ついに何かが切れる音がした。
冒頭から切れっぱなしだった山南の怒りが臨界点まで達したのだ。
山崎が(努めずとも)冷静な顔で止める間もなく、欠陥をデカデカと浮き出させて刀を振りかざす。
―――マジック先生の寵愛を一心に受けていながらもこの男は…!
「親不孝息子ぉぉぉおおおッッツツツ!!!!」
「なんだよ!オレが親父の誕生日祝おうが忘れていようが、結局気に入らねえんじゃねえかよ!!」
突進してくる山南をギリギリのところで避けながら、手の平に気を集中させる。
「刺身になれッツ!!」
「喰らえ眼魔砲ッツ!!」
気合だけでも吹き飛ばされそうな両者の力と力が激しくぶつかり合い、周囲に爆風が立ち上る。
「何時になったら食材取りに行けるんだ?」
爆風を受けながらも、半目で両者を見守りながらリキッドが呟く。
「アイツらの事は放っておけばいいだろう。お前一人で食材取ってこい」
「ハァ~?なぁパプワ。オマエってシンタローさんには甘いんじゃねぇか?」
オレと比べて、とガックリ頭を垂れ下げる。
確かにパプワとシンタローの絆は深い。
一緒に過ごした時間よりも離れ離れになっていた時間の方が遥かに長くても関係なく。
きっと四年間共に暮らしてきた自分よりも、ずっと。
空しさを感じながら、一人で食材探しに繰り出すことを甘受したリキッドにパプワが投げた言葉は、想像するだけ恐ろしく、
「勿論、食材探しをサボったシンタローはお仕置きだゾ!」
お姑さんに心底同情してしまうのだった。
「パパ!お誕生日おめでとう!!」
「叔父様おめでとうvv」
「おめでとう御座います、マジック様」
「おめでとう、兄さん」
「一応祝ってやるよ、兄貴」
「みんなありがとう。とっても嬉しいよ」
「はいコレ!オレからのプレゼント!!」
「有難うvシンちゃんvv」
「ボクはこれね。ねぇねぇ開けてみて叔父様♪」
「とっても嬉しいよ、グンちゃんv」
「兄貴」
「ん?何だい?まさかハーレムもプレゼントくれるのかい?」
「兄貴」
「…?だから何なんだい、一体」
「起きろよ、マジック兄貴」
「起きる…?」
「兄貴…おい兄貴!こんなトコで寝てると風邪引くぞ!おいコラ!!」
「…ん?……あれ、ハーレム…?」
「折角の日に風邪なんて笑えねぇぞ」
「ここは私の部屋…。………そうか、夢だったのか…」
二十年前ほど昔の、優しい思い出の夢。
寝ていたソファから起き上がり、些か乱れた前髪をかき上げてふぅと溜息を吐いた。
「思い出は…所詮思い出にしかならないのだろうか…」
「ああん?」
突然何を言い出すんだと実兄を訝しげに見やるハーレムの瞳に映し出された彼は、どこか遠くをじっと見つめていた。
「夢を見ていたんだ。ずぅっと昔の夢を。私の誕生日にみんなで祝ってくれた時の思い出がそこにはあったよ」
「だからグンマ達の誘いに乗れば良かったんだよ」
今日がマジックの誕生日だと、グンマを初め、サービスと驚くべき事にあのハーレムですら覚えていてくれた。
…キンタローは忘れていたけれど。
数日前から団をあげてのお祝いパーティを開こうと、実の長子からの申し出があったのだが、それをマジックは丁寧に断った。
例年なら誰かが祝おうと言わずとも、自分からいそいそとパーティの準備をしていた。
けれど今年はお祝いの言葉とプレゼントがマジックの私室にて贈られただけだった。
派手な飾り付けをされた会場も特別なご馳走もない。
せめてものケーキが一切れずつマジックと側近達、それにグンマとハーレムに渡された。
お祝いをして貰う気分になれない理由を、誰もが知っていた。
血の繋がりこそないものの、溺愛していた息子のシンタローは異次元に位置を置く第二のパプワ島に居てここには居ない。
実弟の一人、サービスと実子の末っ子であるコタローは修行中の為やはり不在で。
新たな戦の波も迫っている。
それにコタローは今、マジックがのんびりと私室でまどろんでいる間にも、きっと秘石眼のコントロールを主とした修行に励んでいるのだろう。
まだたったの10歳なのに。
それを思うと、暢気に祝ってもらう気持ちになんてなれっこない。
―――もっとも、私はあの子を4歳の頃に監禁してしまったけどね。
襲い掛かる後悔の波と、それでもまだ戸惑うコタローとの親子の関係。
失われた日々は戻らない。
自分がつけてしまったコタローの心の傷は簡単に癒えるものではない。
コタローを監禁すると決めたあの時の心を今も覚えている。
正しい事とは思わなかったが、他の方法が思いつかなかった。
シンタローの静止の声に敢えて耳を塞いだ。
けれど一歩ずつ、覚束無い足取りながらもコタローに近付こうとしている自分が居るのも確かで。
「来年こそ、みんなにお祝いして貰いたいよ」
今年しなった分、凄いご馳走作る予定だよ、とマジックはふふっと笑った。
「そーだな…」
その時は仕方ねえからオレも参加してやるよ、とハレームも短く笑みを見せた。
ふと視線を向けた窓の外は音もなく静かにゆっくりと雪が舞い降りている。
雪が昔から好きだったシンタローに今年何度目かのこの雪を見せてやりたい。
雪の降らぬ遠い地に居る息子の勝気な笑顔を瞼の裏に映し出した。
きっと彼は元気に暮らしている筈。
何が起きても彼なら大丈夫。
でも
早く帰っておいで。
シンタロー、コタロー。
―――MY LOVEING SONS―――
君が安らげるように ~コタローside~
『待って!待ってよぅ!!』
とっても“大好きな筈の人”が、ボクをココに閉じ込めた。
どうして?
どうしてボクだけ外に出ちゃいけないの?
どうしてボクを一人ぼっちにするの?
ボクの疑問に貴方は「オマエは危険だからだよ」と言った。
ボクは危険な存在なの?
ボクは世界に異質な存在なの?
じゃあ!
じゃあボクは何の為に生まれてきたの!?
『ねえ!答えてよ…ッ』
だけど貴方はもうボクに背を向けて、部屋の外へと歩き出す。
ギギギ…と鈍い音がして、扉が閉められる。
嫌だ!一人ぼっちになるのは嫌だよ…ッ!
扉の隙間は後少ししかなくて、貴方の背中が見えなくなる。
『待って!置いてかいないで!パ―――』
ガバッ!
はっとしてボクは飛び起きた。
はぁはぁと息が激しく乱れていた。
キョロキョロと周囲を見渡すと、ボクを包むのは見慣れた薄い暗闇。
「え…、あ……夢…?」
部屋―――と言っても家に一部屋しかないから家と言ってもイイケド―――に一つある窓から差し込む月明かりのおかげで、少し離れた台所も大体見える。
ボクと赤い服を着た男の人以外何も見えなかった、あの漆黒の暗闇じゃない。
「はぁ…」
安心したからなのか、溜息を吐いて膝に両腕を置いて頭を下げる。
その拍子に額を伝って雫が膝上の掛け布団を濡らした。
びっしょりと嫌な汗をかいていた。
発汗した所為か、酷く喉が渇いている。
お水、欲しい。
「どうした?ロタロー」
声がしたと思ったら、むっくりと隣の影が起き上がった。
「パプワ君。あ、ゴメンね。起こしちゃった?」
眠そうな様子もなくぱっちりとした大きな瞳でボクを見つめる、ボクのきっと初めての友達。
「怖い夢でも見たのか?」
パプワ君はいつも殆ど表情を変えることはないけど、実は結構表情あるんだよ。
よく見てなきゃ気付かないだろうけど。
今も心配そうな顔してる。
その声も、とても優しかった。
コクンと頷くボクの頭に温かい感触が触れる。
「よしよし。大丈夫だぞ。ボクが付いてるからな」
母親が愚図る我が子にするように、パプワ君は背伸びをしてボクの頭を撫でてくれた。
ボクの大好きな温度に心から安心出来る。
もっとその温度を感じたくて、自然にパプワ君に抱きついた。
パプワ君は相変わらず「よしよし」と言いながら頭を撫でてくれる。
時々「安心しろ」とか「大丈夫だぞ」とか言いながら。
「有難う、パプワ君」
どれくらいそうしていたんだろう。
すっかり落ち着いてきたボクはやっと喉の渇きを感じて、水を飲みに行った。
水を溜めている桶は直ぐそこなのに、パプワ君は一緒についてきてくれた。
やっと喉も潤って眠る時、何も言わずボクの手を握ってきた。
「あったかい…」
「ロタローの手もあったかいぞ」
「なら温めあいっこしようねv」
ふふっと笑って少し握る力を強くした。
君がボクにしてくれるように、ボクは君に何が出来るだろう。
ボクは君のような凄い力はないけれど、君がしてくれたようにボクはずっと君の傍に居て、温めてあげたい。
強い君だけど、悲しい時もきっとあるだろうから。
その時は、何があってもこの手を差し出すよ。
だから。
だから、ずっと。
ずっと一緒に―――。
君が安らげるように ~パプワside~
『コタローって誰だ?』
『オレのかっわいーい弟!』
『ブラコン』
『るっせー』
『……シンタロー…』
『んだよ』
『コタローが好きか?』
『そりゃもースッゲー好きだぜ!可愛い可愛い弟だもんなッ』
『…そうか』
『?…なんだ突然。変なヤツ~』
“世界で一番好きなのかと、誰よりも一番好きなのかと、
……ボクよりコタローが好きなのかと、とっても恐くて聞けなかったんだ”
すやすやと穏やかな寝息をたてながら、やっと夢の中へ潜り込んだコタローに、安堵の溜息をほっと吐く。
コイツは夢見が悪くて、よくさっきみたいに真っ青な顔で目を覚ます。
海のような蒼い目に涙を溜めながら。
でもこれでもまだマシになった。
パプワ島に来た頃は毎日その調子だったが、最近では滅多にこんな事は起きない。
時々ふと思い出したように辛い夢を見ている。
ボクはその夢を知っている。
それは夢じゃない、過去の現実だった。
コイツが今は閉まい込んだ、悲しい昔の話。
コイツとコイツの―――そしてシンタローの父親の男とは、四年前に近付いたように見えた。
きっと一歩は近付いたんだ。
でもまだコタローは恐がっている。
あの男を、と言うより、また一人ぼっちになる事を。
コタローは極端に一人になるのを嫌がる。
一歩でも先に進むボクの後をまるで必死についてくる。
大丈夫だぞ、コタロー。
お前とボクは友達なんだ。
お前が何時か、シンタローが居るだろうボクはまだ見ないあの場所へ帰るまでずっと傍にいてやるから。
一人ぼっちの寂しさを、ボクも知っているから。
「ん…、パプワ君……」
起きたのかと顔を覗くと、ただの寝言だったようで、幸せそうな顔で安眠を貪っていた。
安心したようなコイツの様子にほっとする。
シンタローが第一のパプワ島に流れついてからずっと、楽しかったけど何時だって小さな不安がボクの心に付き纏っていた。
シンタローはよく“コタロー”の名を口にした。
大好きだと。可愛いと。会いたいと。
その度に生まれてくるモヤモヤとした気持ちを、最初は正体が分かずただ持て余していた。
初めて感じた感情だったから。
ボクは島のみんな大好きだが、シンタローは特別だった。
初めての人間の友達。
ずっとずっと人間の友達が欲しかった。
その願い事が叶って一年以上共に過ごした日々はとっても楽しかった。
だから余計に楽しい分、コタローを想うシンタローに不安を感じたんだと思う。
コタローという存在が、何時かシンタローを帰してしまう。
そう思うと凄く嫌な気持ちになって、今思えばコタローの事は嫌いじゃなかったけど好きにはなれなかった。
そのコタローと今では友達になって、一緒に暮らしてる。
守ってやりたいと願う。
コタローの事、好きか嫌いかと聞かれたら、ボクは迷わずこう言うぞ。
「大好きだぞ。ボクとコタローは友達だ」
誰からとか何からとかじゃなく、コタローを怯えさせる全てのものを跳ね除けたいって思う。
怖い夢を見たら寝付くまで手を握ってやる。
怖い夢も吹き飛ぶような、お前がまだ知らないもっと楽しい場所にも連れて行ってやるぞ。
だってお前はボクの大好きな友達だから。
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