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冷たい熱

アラシヤマが風邪をひいた。

興奮すると炎を発する異常体質である奴にとって、風邪をひくのは至極珍しいことらしい。

「で、高松にとっつかまって人体実験受けてるって?」

「だっちゃ」
「んだ」

人もまばらな午後。
ガンマ団内のカフェテリアで遅いランチを取っていたシンタローは、ミヤギ&トットリコンビからその事実を初めて聞いた。

「ふーん、馬鹿は風邪ひかねえっていうけどな」

シンタローは、食べかけていたパスタを口に押し込んだ。

「でも、もう三日も監禁されてるべ…」

ミヤギが心配そうに呟く。この顔だけしか取り柄のなさそうな東北人は、意外と面倒見もいい。

「ぼかぁ、アラシヤマなんかどうでもいいっちゃが、ミヤギ君が気にしすぎるけん…、シンタロー、様子見に行ってくれなんだか?」

てめぇらで行けよ、と思いながらも、ガンマ団一不気味な隔離実験施設に近寄る団員はひとりとていない。
ましてやこの二人は、過去に高松にトラウマを追わされている。

まあ、団員の所在を確かめるのも、総帥たる自分の役目だろう。

「…しょーがねぇな…」

シンタローは深い溜息をついた。

* * *

コツン、コツンと足音が響く。

「…さすがに何か負のオーラを感じるな…」

深夜のガンマ団実験施設棟。
リノリウムの廊下を薄青い非常灯が照らしていた。


仕事が一段落してから、と構えていたら、結局片付いたのは日付も変わった時間。
このところいつもそうだ。
明日にするか、と思わないでもなかったが、この時間であれば高松もアラシヤマも休んでいるかも知れない。

見つかると何かと面倒だ。
姿だけ確認して、常識はずれに無体なことをされているのでなければ黙って帰るつもりだった。

隔離実験室の生体セキュリティに手をかざす。

ピッと短い電子音がして、自動ドアが開いた。


部屋のなかにはまだ明かりがついている。
部屋中央のデスクで高松がモニターを眺めていた。

無数のコンピュータと壁一面の薬品棚。
10畳ほどの部屋の奥にはガラス張りの扉があって病室に続いている。

病室の明かりは消えていて中は見えないが、人の気配はあった。

「珍しいですね、新総帥。しかもこんな時間に」

高松はいつもの赤い軍服ではなく白衣を着ていた。
そのせいか、普段よりも医者らしく見える。

「まだ起きてたのか、ドクター」

「こんな珍しい症例を前にしては眠れないですよね」
高松はコンピュータから吐き出されるデータをピンと弾いた。

「どうなんだ?あのネクラは」

「良くはありませんね。風邪の症状ではあるんですが、使える薬が限られているので…」

「?どういうことだよ?」
高松の手に負えないほどだとは思わなかった。
胸にじわりと不安が広がる。

「……普通、風邪が悪化すると熱を出しますよね」

「え?ああ…」

「彼の場合、平常時は発熱をコントロールでき、さらにその発熱量はヒトの限界値を軽く超えています」

「…だからなんなんだ?」

「結論から言うと、通常の人間が発熱する症状が、彼の場合逆に体温が下がってしまうんです」

「はぁ~!?」

変態だ変態だとは思っていたが、そんなとこまでヒト離れしていたとは。

「…ったく、あいつは人間じゃねぇな。でも熱が低いだけなら対して問題はねぇんじゃねーの?」

「ナニ言ってんですか?人間体温下がり過ぎても死にますからね。対処が確立されてない分、危険ですよ」

高松は淡々と答えたが、それは事実なのだろう。
デスクの上の膨大なデータと目の下の隈がその証拠だった。

シンタローはガラスのドアの向こう、暗い病室を見遣った。


ピピッ。


ほぼ同時に何かの電子音がなった。

「ああ、起きましたね。あなたの気配に気付いたんじゃないですか?」

普段ならふざけんなとかなんとか言うところ。
だけど今はそんな気分じゃなかった。

「入っても、いいか?」

「どうぞ。今明かりをつけますよ」

パッと病室が白くなる。
扉の向こうには体中に電子コードを括りつけられたアラシヤマがいた。



「シンタローはん…?わて、まだ夢見てるんやろか…」

喉に炎症を起こしているのだろう。声はカスカスにかすれている。

「オメーはいつでも夢見がちだろーが」

シンタローが答えるとアラシヤマは微かに笑った。

「ホンモンですわ…ゴホッ…」

アラシヤマが急に咳込む。
体に繋がれたコードが咳に合わせて揺れた。

「スゲーコードの数だな」
「ドクターが…データ取るってきかんのですわ…」

「ああ、もういい。しゃべんな。寝てろ」

シンタローは体を起こしかけたアラシヤマの額を枕に押し付けた。

「…ほんとだ。冷てぇナ…」

アラシヤマの額はどきりとするほど冷たい。
額にあてた手をそのまま頬に移動させる。

やはり、生き物らしい体温はなかった。

ふと、頬に置いた手にアラシヤマの冷たい手が重なった。
存在を確かめるように、強く握りしめられる。

「ふふっ…」
ふいにアラシヤマが笑った。

「何だヨ。気持ちワリーな。手ぇ離せよ」

「…あんさんにこないに触れるんやったら、病気になんのも悪ぅないな思うて…」

アラシヤマは心底嬉しそうに笑う。

「ずっと病気やったら、シンタローはんに火傷させる心配もありまへん…」

けれど。
掠れた声、荒い呼吸、渇いてひび割れた口唇は病人のそれ。


「…ばーか言ってんじゃねーよ」

手を振り上げる。
アラシヤマの手はあっさりと離れた。

「…早く直せよ」

それだけ言って、ベッドの側を離れる。

「…おおきに」


病人のくせに、アラシヤマは顔を赤く染めて、特大の笑顔をしてみせた。





→おまけ



二日後。

「シンタローはぁん!!シンタローはんの愛!のパワーですっかり元気になりましたえ~!!」

総帥室に聞き慣れた京訛りが飛び込んできた。
闖入者がシンタローに向かってダイブする。

シンタローはすかさず右手をかざした。

「眼魔砲」

爆風とともにアラシヤマが彼方へと消えていく。

「治ったら治ったでろくなことにならねぇナ…」

ふと、シンタローの腕にチリとした痛みが走った。
右手を見ると袖のところが僅かに焼け焦げ、手の甲がわずかに赤くなっている。

「…チッ。触られてたか」

まあ、いいか。

シンタローはじんわりと疼く火傷をぺろりと舐めた。



END











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