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avn
願わくば君のもとにて

桃源郷は桃の花の咲き乱れるところだが、桜の群生でも充分にその趣がある。

むせ返るような桜の花の中、アラシヤマは非現実的な感覚を覚えていた。

「…お伽話の中にいるみたいやわ…」

美しい夢のような光景に、思わずホゥッとため息がでる。

ハラハラと舞い落ちる花びらをぼんやりと眺めていたら、鋭い蹴りがアラシヤマの後頭部を直撃した。

「ッッたぁ~!!何しますのん、シンタローはん」

頭を押さえながら振り返ると、アラシヤマが愛してやまない暴君が睨みおろしていた。

「時間がねぇんだよ!さっさと下見して帰んぞ!」

シンタローは満開の桜の群れ目もくれず、ずんずんと先を行く。

シンタローが見ているのは桜ではなく、キンタローが開発した座標軸レーダーだ。

それを寂しく思いながら、アラシヤマはシンタローの後に続いた。


* * * * *


アラシヤマとシンタローが訪れているのは、日本にほど近い無人島だった。

長いこととある富豪が所有していたが、代替わりを機に手放したのを団が買い取ったらしい。

島は長期間に渡って対立状態にあるD国とガンマ団日本支部のちょうど中間に位置している。

ここに基地を作れば、物資供給の重要な拠点になる。
D国との戦争はこの春に入って激化していた。

基地建設を急ぐシンタローが、自ら偵察に行くと言ってきかないので、たまたま本部に待機していたアラシヤマが無理矢理ついてきたのだった。


しかし、こないに綺麗なとこやったなんて。

小さな島ではあったが、地形の高低差の関係か、浜風にさらされてない箇所がある。

そこには、辺りが霞むほどの桜の木が植えられていた。

シンタローに蹴りあげられても、顔はどうしても上を向いてしまう。

思わず木の根につまずき、転びそうになった。

「ボサッとしてんじゃねーよ」

シンタローが少し先から刺々しい声を出す。

アラシヤマは小走りにシンタローに近付いた。

「しっかし、ほんまに綺麗なとこどすなぁ。しかもシンタローはんと二人きり。夢のようですわ」

普段なら殴られてもおかしくないアラシヤマの台詞。

しかし、シンタローは座標軸レーダーから目を放さなずに無視を決め込むだけだった。

…やっぱ、あのことを気にしてはるんやろな…。

シンタローの横顔をちらりと見る。

険しい、けれどどこか悲しげにも見える複雑な表情。

ピリピリとした空気が肌を通して伝わって来ていた。


3日前、ガンマ団が新体制に入って初めての死者が出た。

アラシヤマは何か言おうとして顔を上げたが、何も言えることはないのだと思い直した。

「…桜っていやあよ」

シンタローがふいに口を開いた。

「坊さんの歌だっけ、桜の木の下で死にたいって歌があったよな…」

シンタローは足元に散らばる花びらを見つめている。

「…短歌どすな、西行法師の」

有名な歌だ。

願わくば
花の下にて春死なむ
その如月の望月のころ


「…死に場所ぐらい、てめぇで決めさせてやりたかった」

シンタローの顔は見えない。
見せないようにしている。

けれど、その表情はきっと少しだけ歪んでいるのだろう。

泣きだす前の、寸前の顔。

今の台詞が、シンタローが言えるギリギリの弱音なのだ。


ああ、何かもう。
たまらんなぁ…。

数多くの兵士の命を道具にする、戦争屋のトップに君臨してもなお。

名も無き兵士の命に心を砕く彼。


そんな彼の弱さこそを愛おしいと思うのはおかしいのだろうか?


シンタローは花を踏み締めて先を急ぐ。

アラシヤマは何も言わず、その後に続いた。


願わくば。
どうか花の下よりも貴方の下で。


そうすれば、きっと一生。

貴方に忘れられることはないだろうから。



ハラハラと舞い落ちる花びらを踏み込んで、アラシヤマはシンタローの足跡をなぞった。



END

2007/03/13up
2007/06/15改正




































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