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愛していると言ってくれ

「…素直になる薬…ですか…?」

新入団員は決して近寄ってはいけないと言われている魔の研究室。

コポコポと不気味な音をたてる液体や、薄茶色く変色したホルマリン漬けの壜の森の中に、アラシヤマはにっこりと笑って「お願い」ポーズをとっていた。

「そうどす。なんちゅーか、日ごろ隠している本当の心を出さずにはいられんようになる薬なんてあらしまへんかなーと思うて」

くねくねと不気味なしぐさを繰り返すアラシヤマを前に、高松はそっとため息をついた。

誰に使うのかは容易に想像できる。
どうせ眼魔砲で吹き飛ばされて、医務室に運ばれる目に遭うのだろう。憐れなことだ。

「…使用目的によっては、ないこともありませんが…」

「ホンマどすか!」

アラシヤマの目が輝きに満ちる。

「だから、使用目的に寄っては、と言ったでしょう」

「そんなん…。使用目的なんて、わてはシンタローはんの本音を聞いてみたいだけなんどす」

アラシヤマは赤らんだ頬を少女のように押さえて言った。

「…ほら、シンタローはんてば、今流行のツンデレやさかい、素直になりとうてもなれまへんのや。もちろんシンタローはんの心は言葉にせんでもわてにはわかっとります。せやけど、愛する人から愛の言葉を聴きたいっちゅーのは当然でっしゃろ?」

「……私は時折、あなたの妄想力が発電にでも使えるんじゃないかと思うときがありますよ…」

高松の嫌味にもめげず、アラシヤマはえ?と曖昧な笑顔を返した。

「…まあ、いいでしょう。ようするに貴方の妄想を現実のものにしたいというわけですね」

高松はアラシヤマに背を向けると、薬品棚から紫色の小瓶を取り出した。

「いややわ、ドクター。何聞いてますのん?わては『素直になる薬』が欲しいと…」

タン、と高松は小瓶をテーブルに置いた。

「これが貴方の欲しがっている『素直になる薬』です。これはまだ新総帥にも報告していない薬なんですけどね。4万円でどうですか?」

アラシヤマはニヤリと笑って懐に手を伸ばした。

「フフフ…わての取引カードは4万円なんてもんじゃないどすえ…」

取り出したのは、1枚のCD-ROM。

「グンマ&キンタローの『一緒にシャワー』シーン連射160枚画像どす!」

「なッ…何ィ…!!!」

高松の鼻元からは、早くも赤い鮮血がほとばしっている。

「アンタ…、一体なんでそんなもんを…」

高松はヨロヨロとROMに手を伸ばす。アラシヤマは意地悪げにその手を遠ざけた。

「フフ…わての存在感のなさを甘う見んで欲しいどすな。シャワー室が満杯のときに、隣にいたわてがあのボケ二人に気付かれんように写真取るなんて造作もないことどす!」

アラシヤマは勝ち誇ったように高らかに笑い声を上げた。


* * * * *

「えーと…原液を2、3滴わての体に降りかけてから、残りを相手に飲ませるんだったどすな」

ROMと引き換えに薬を手に入れたアラシヤマは、自室に戻って高松から聞いた使用法を反芻した。

『薬を振り掛けるときは地肌につけたほうがいいですよ、服を脱いだらお終いですから。それと、体につける薬の作用は24時間ですから、24時間以内に相手に薬を飲ませてくださいね』

何故アラシヤマまで薬をつける必要があるのかは、「素直になる」相手を特定させるためらしい。

『誰彼かまわず素直になっても大変でしょうが』

もしかしたら軍事用に開発されていたものなのかも知れない。安全かつ作用を調整できる自白剤、といったところだろうか?

高松もすでに人体実験を済ませ、効果を確認しているということだから、安全性は問題ないだろう。

問題は…。

「これをどうやってシンタローはんに飲ませるか、どすなぁ…」

アラシヤマは紫色の小瓶をちらりと見てから、自作の『シンタロースケジュールメモ』に手を伸ばした。

「あ、明日は夜にマジック様との会食がはいっとるやないどすか」

シンタローとマジックの会食は月に一回程度の恒例になりつつある。

ほとんどマジックがシンタローと食事を取りたいためだけに、「引継ぎで伝え忘れたことが」だの「団のことで気になることがあって…」だのと、無理やり仕事をからめてはシンタローを呼び寄せているのだが、仕事と言われてはシンタローは無視できない。

会食は明日の夜8時。

秘書であるチョコレートロマンスとティラミスはまだ残っているかもしれないが、ちょうどいいタイミングだろう。

「フフ…、こないに早うチャンスが巡ってきはるとは、ロマンスの神様もわての味方みたいどすなぁ」

アラシヤマはシンタローのスケジュール表にチュっとキスをした。

* * * * *

「じゃあ、俺はさっさと戻ってくるつもりだけど、お前は仕事終わったら先あがってていいからな」

「はい、わかりました」

バン、とドアを閉めて、シンタローは総帥室を離れていった。
大股でずかずか歩くのは、イライラしているときの彼のくせだ。

「フフ…マジック様との食事がそんなに嫌なんどすかなぁ…ホンマ子供みたいで可愛らしわぁ」

アラシヤマは長い髪をなびかせて去ってゆくシンタローを物陰に隠れて見つめていた。

ずんずんと遠くなっていく姿が、どうしようもなく愛おしい。

どこもかしこも素敵なわての王子様どすわ…。

物陰に隠れたまま、ホゥとため息を付く。

シンタローの姿がすっかり見えなくなったところで、アラシヤマは総帥室のドアを叩いた。


「どなたですか?」

「…わてや、アラシヤマや」

アラシヤマが名前を告げると、チョコレート色のドアがスッと開いた。

「どうしたんです?総帥は今出られていて不在ですよ?」

部屋にいたのはティラミスだった。

「そか…。あんさんだけか?」

「ええ、チョコレートロマンスは先にあがりました。で、何か御用でしたか?」

「ちょお、シンタローはんに直接渡したいもんがあったんやけど、ほな、また出直しますわ」

くるりとアラシヤマは向きを変え、部屋を出るふりをした。

「ああ、そうや。申し訳ないんやど、水をもろうてもええやろか?急いできたさかい、喉がカラカラなんや」

「そんなに急いでたんですか?どうぞ、そこにウォータースタンドがありますからご自由に。紙コップはそこのゴミ箱に捨ててくださいね」

ティラミスは壁の端に取り付けられたミネラルウォーターのタンクを指差した。

「おおきに…」

アラシヤマはティラミスをちらりと見てウォータースタンドに近づいた。

ティラミスはすでに仕事に戻っていて、アラシヤマを気にする様子はない。

アラシヤマは自分の分の水を紙コップに注いでから、手に隠し持っていた小瓶の中身を素早くタンクに流し込んだ。

総帥室にこのウォータースタンドがあるのはチェック済みだった。
総帥室には給油設備も付いているが、この部屋ではコーヒーや紅茶を入れるときもこのタンクの水を使っている。

薬の原液はすでにアラシヤマの首筋に塗りこんであった。

あとはこれをシンタローはんが飲んでさえくれれば…!!

アラシヤマは小さくガッツポーズをとった。

「あれ?水もうありませんか?」

ウォータースタンドから動かないアラシヤマを不審に思ったのか、ティラミスが声をかけてきた。

「いや、まだまだ仰山ありますえ。ほんま、生き返ったわ~」

アラシヤマは手にしていた水を一気にあおると、空になった紙コップをくしゃりと潰してゴミ箱に捨てた。

「シンタローはんは今日戻られますのやろ?」

「ええ、今日はマジック様とお会いになられてますが、小1時間ほどで戻られると思いますよ」

ティラミスは手にしていた書類から目を離さずに答えた。

アラシヤマは少しだけ安心して胸を押さえた。

シンタローのスケジュールはだいたい把握しているとはいえ、予想外の予定が入らないとも限らない。

ひとまず、この総帥室に戻ってくるのなら、24時間のうちに一度も水分を取らないということはないだろう。

アラシヤマは空になった壜をポケットの中で握り締めた。

「ほいたら、失礼しますわ…」

「総帥にはアラシヤマさんがお話があったようだとお伝えしておきますね」

軽く会釈をするティラミスにわずかに罪悪感を覚えつつ、アラシヤマは総帥室をあとにした。

* * * * *

……さて、どのくらいのタイミングでうかがったらええもんやろか…?


自室に戻ったアラシヤマは、ベッドに横たわってその後の行動のことを考えていた。

1時間ほどで戻ると言うてたけど、戻ってすぐに水飲むかどうかはわからんし…。早くに行き過ぎて警戒心もたれたら元も子もないやろしなぁ…。

早く「素直な」シンタローに会いたいのはやまやまだが、ここは念には念を入れて明日の夕方くらいがいいだろう。

同じ部屋で勤務するティラミスやチョコレートロマンスも薬を飲んでしまう可能性は大いにあるが、アラシヤマ以外には効果は出ないということなので、仕事に支障をきたすことはないはずだ。


…ああ、でも…。早うシンタローはんに会いたいわぁ…。

「素直な」シンタローはなんて言ってくれるだろうか?

『お前は生涯の心友だぜ…』

『お前がいないと俺は駄目なんだ…』

『愛してる。ずっと一緒にいてくれ…』

「………くはぁ~~!!!たまりませんわぁ~~!!!」

アラシヤマはゴロゴロとベッドの上をのたうち回った。

コンコン。

ふいに、アラシヤマの部屋のドアがノックされた。

…空耳か?

アラシヤマは転がるのを止めて、じっとドアを見つめた。


コンコン。


やはり、誰かがドアをノックしている。

…誰やろ…?わての部屋に人がくるなんて。


ドアを開けると、そこにはティラミスが俯いたまま立っていた。

「へ!?ティラミス…?」

あまりにも意外な客人に、アラシヤマは素っ頓狂な声を上げた。

「なッ…どうしたんどすか!?」

「……」

ティラミスは顔を上げないまま、アラシヤマに抱きついた。

そのまま部屋の中に押し込まれ、バランスを崩したアラシヤマは仰向けに倒されてしまった。

「…った~…、何しますのん…?」

床に手をついて半身を起こすと、再びティラミスがアラシヤマの首元に抱きついてくる。

「ちょおっ…!何してますのんや!?」

額を押さえて引きはがすと、潤んだティラミスの瞳がじっとアラシヤマを見つめた。

「…私も…どうすればいいのかわからないんです…。貴方が…貴方が好きなんです!!」

「……!!!」

ティラミスの突然の告白に、アラシヤマは目を白黒させた。

…まさか、こいつも「素直になる水」飲んでしもたんじゃ…!

アラシヤマが動転している間にも、ティラミスはアラシヤマに口付けようと、唇を差し出してくる。

「…ほあッ…!」

すんでのところでティラミスのキスを避けると、アラシヤマは部屋を飛び出して外から鍵をかけた。

『ア、アラシヤマさんッ…!!』

部屋の中からはティラミスの悲痛な叫び声が聞こえている。

「…き、気持ちは嬉しいんやけど…、わてはシンタローはん一筋やさかい。堪忍したってや…」

扉ごしにティラミスに声をかけて、アラシヤマは自室を離れた。

…しっかし…、ホンマ、あせってしもたわ…。


アラシヤマはティラミスを閉じ込めた自室に戻ることも出来ず、深夜の官舎内をうろついていた。

あのティラミスまでもが自分に惚れていたなんて。

ティラミスとは、総帥室に行ったときに、たまに会話する程度だったが、そんな熱烈な思いを寄せられていたとは気がつかなかった。

「…美しいって罪なんやなぁ…。でも、わてにはシンタローはんがおるさかい…堪忍や…!」

堪忍、とはいいながらも、生まれて初めて受けた愛の告白に、アラシヤマは喜びを隠せなかった。

『好き』という言葉の甘い感触…。
でも、シンタローへの愛を貫きたい…!!

…ああ、わてはどうしたら…!

いつのまにか、官舎のエントランスまで来てしまったらしい。
明り取りのフランス窓からは、月の光が入り込んいる。

「…なんだ、オメーかヨ。迎えに行く手間が省けたぜ」

ぼんやり浮かび上がる月の光に、長身の男の姿が浮かび上がっていた。





→(2) に続く





















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