父の日記念~グンマ編.2~
コンコン☆★
「はい、開いてますよ」
がちゃ
「たっか松ぅ~vv」
「おや、グンマ様どうなされましたか?」
満面の笑みで高松の研究室に飛び込んできた青年に対し、男は今まで熱心に向かっていた研究レポートから目を離し、
くるうりと回転椅子を青年の方に向けました。
青年は何故か両手を後ろに隠しているようです。
そろりそろりと高松に近付いていきます。
「えへへv今日は父の日でしょう?だから―――」
「ああ“シンちゃんロボット(等身大)”の件ですか。マジック様、さぞかし喜ばれていらっしゃいましたでしょう?」
「それがねー!シンちゃんが眼魔砲で―――って!違うよ!!その話しじゃなくって!」
もぉ~~!と怒って見せますが幼い顔立ちな為か、元々の気質か、迫力というものがありません。
それに怒っているというよりは拗ねているという感じです。
「はいはい、では何の御用でしょうか?」
駄々を捏ねる愛息子を見つめるようなその笑みは、ドクターを知る者ならば目を丸くして驚くのでしょう。
いつもはどこかクセのある笑みを浮かべ、周りからは『マッド・サイエンティスト』とまで呼ばれているのですから。
グンマは後ろに隠していた物を、パッと高松の眼前に差し出しました。
「はいvコレ」
「薔薇・・・ですか・・・?」
見たこともないほどの美しさを称えたその黄薔薇。
これがどうしたんでしょうか?と、状況が攫めない高松は首を傾げます。
「今日は父の日でしょう?」
「はぁ・・・」
さっぱり分かりません。父の日=目の前に突き出された黄薔薇の花束から導き出される答えは・・・?
「だから高松の為に、ぼくが栽培したんだよ♪」
「え・・・?」
まだイマイチ分かっていない高松に少し溜息が出ました。
普段はとっても勘がいいのにこんな時はとても鈍い大事な人。
「だって!ぼくにとって高松はお父さんみたいなものだもの☆★」
「グンマ様・・・」
「だからあげたいの!貰ってくれる?」
「グンマ様・・・!」
そっと震える手で大切な・・・とても大切な黄薔薇を受け取ります。
ふと、温かい水が頬を伝いました。
「高松~ぅ?どうしたの~??」
今度はグンマが分からないと小首を傾げました。
いつでも胸を締め付けるのは復讐に身を任せた結果。
復讐・・・結局それが何になったのたでしょう?
子ども達には何の罪もないのに・・・それを・・・。
結果、良かったものの、一生実の親を実の親と思わず知らずに。
けれどこうして無条件で許してくれる。
温かい手がこうして優しくこの凍った胸を溶かしてくれる―――。
光が、差し込んでくる―――。
「ありがとうございます・・・グンマ様・・・」
込み上げてくるのは真実の言葉。
父の日記念~キンタロー編~
出せ
出せ
出せ・・・。
早くここから、俺を解き放て・・・。
俺が本来居るべき場所へ―――。
消えてしまおうか・・・。
どれ程の月日が流れたのだろう・・・。
暗い闇の中、たった一人きりで、俺は気の狂いそうな時を生きている。
ぼんやりと考えるのはその事だけだ。
それしか俺には何もない。
ニセモノの記憶だけが俺に与えられたもの。
しかし“体験”は入らない。
何も出来ない。
触れない。
そして俺は誰にも知られない。
俺の過ごす筈だった時をニセモノが生きる。
ニセモノすら、俺を知らない。
俺は本来居るべき場所へ行く時を、世界の覇王となる時を待ち、生きている。
しかし・・・もう、どうでもいいと思うようになった。
憎しみの感情はいつしか諦めという感情に鎮圧される。
覇王となる筈だった俺が諦めを知るなどとはな・・・。
少しの微笑。
消えてしまおう。
この身体もニセモノにくれてやる。
待つには疲れた・・・。
消えて・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
―――・・・?・・・何だ・・・?
この闇の中、確かに灯る筈のない光が見えた。
光は男の姿へと形成を果たす。
誰だ?ニセモノから送られる記憶を掘り下げても見知らぬ男。
少しばかりか、俺と似た男だった。
男は微笑んだ。
どこか哀しそうに・・・。
・・・・・・哀しい・・・?哀しいとは何だ・・・?
男は口を開いた。
―――まだこちらに来てはいけない。
なぜ。
―――必ず時が来るのだから。
そんな保障、一体どこにある。どうすれば現の世界へと、居るべき場所へ行けるのか分からないのに。
―――私は知っているから。
何だ?お前は神だとでも言うのか?
―――そんな高貴な生き物ではないさ。敢て言うなら堕天使・・・だろうか。
堕天使・・・?没落した天使か?
―――こちらに来てはいけない。私の分まで幸せになれ。私のたった一人の―――。
何だ?最後の言葉は雑音などない筈のこの空間に、しかしかき消された。
―――いつでも私はお前の事を見守っているよ・・・。
待てっ。お前は誰だ・・・!?
―――いつか、また会おう。
男は光の粒子へとその身を散らす。
お前は・・・誰だ・・・?
そしてこの凍った俺の胸に飛来したこの想いは一体・・・?
「あ!居た居たキンタロー!」
「ああ、シンタローか」
「お前どこ行ってたんだ?朝からいなくなって」
「父さんの墓参りだ」
「ああ・・・今日は父の日だったか。ルーザー……叔父さん……も、さぞかし喜んでいるだろうな♪それで何か墓に備えたか?」
「ああ、勿忘草と生前好んだらしい酒をな」
「勿忘草?」
「その花が好きだと高松から聞いた」
「何か伝えたか?」
シンタローの質問攻めに苦笑いだけ、今度は返しておいた。
あの暗闇で出会った父さん。
そして哀しい別れをした父さん。
まだ、そちらには行けない。
この大地の上、あの時は知り得なかった、父さんが指し示した未来が、俺を導いてくれるるから―――。
* 怠慢心、得することなかれ *
お盆がくる。
お盆がくる前にやらねばならぬ事、それは大掃除。
普段酒瓶中心に散らかりに散らかりまくる特戦部隊の家――――【SISIMAI HOUSE】も、
お盆に備えての準備が行われようとしていた。
「掃除はロッド、おめぇがやれ」
「マジっすか!?つかなんでオレなんですか!そんなのは家事が得意なマーカーとか・・・」
「見て悟れ。オレはお盆料理を作るのに忙しい」
リキッドに負けず劣らずのフリフリが微妙に眩しいマーカーは、
今にも二十分ほど舌が痺れるような熱さで煮たるニシメを掻き混ぜたお玉を右手に光らせている。
投げたろかッと、彼が狙う先は数寸違わずロッドだ。
大掃除までマーカーに押し付けようものなら、確実にお玉投げつけられて、火傷して怯んだ隙に殺られる。
しかし家庭的なことに関しては怠情なロッドは、大掃除なんて面倒極まりない事は絶対にやりたくないのだった。
せめて誰か一緒に手伝ってくれればと内心愚痴る。
「隊長は何すんすか」
何もなければ大掃除を手伝って欲しい。
出来るならば一担に引き受けて欲しい。(まず無理な願い)
二人でやれば1/2楽出来る。
パートナーが自分以上に怠情なハーレムというのは心許無いが。
「あ?オレは酒調達係。最高に上手い酒、かっぱらってきてやんぜ♪」
買うんじゃないのか。と、常識的に突っ込みを入れてくれるものは、【SISIMAI HOUSE】の住人の中で皆無だ。
何故なら食材物品のかっぱらいは、彼らの日常茶飯事。
「オレが調達係になっても・・・」
掃除なんて面倒極まりない事は、やはりやりたくないロッドは取り繕い笑いに手はゴマすりで上司に申し出だ。
「ロッドくぅ~ん。ハーレム隊長様の役割分担決めに文句があるのかなぁぁあ~?」
優しげな笑顔に紳士的な口調にブンブン振り回している鉄球。
潔く掃除しなきゃ、あれ投げつけられて殺されるんだろうなオレーと、半分石化しかけながらも
「モンクナンテないですよ、ははは・・・」
と顔では笑顔、言葉半分カタカナ、心では呪詛を吐きながらも渋々掃除を始めた。
―――あ~、めんどくせぇ。
大掃除開始3分経過しない内に、やらないのと殆ど変わりないほどに掃除のペースが下がっている。
―――どうせまた散らかすんだから片付けたって意味ねぇのに。俺は片付けるより散らかす方が向いてるっての。
大体掃除なんてモンは、マーカーや前はリキッドが…。
長々と脳内で続いた愚痴が一瞬ピタリと止まる。
―――リキッド…?そうだぜ。そうだよな!こういうのはリキッドにやらせりゃぁいいんだ♪オレってあったまいーv
結局は他力大本願ロッド。
哀れリキッド。
そうと決まれば膳は急げだ。
「あの~、隊長ぉ。ちょっとオレ、出掛けてきますね」
「あぁ~?掃除全然終わってねぇじゃねぇか」
やる事やってから遊びに行けと爛々に輝く秘石眼が語る。
「そ、掃除に必要なものなんスよ!ソレを取りに行きたいんですってばっ!!」
「とか言って、ホントはバックレる気だったら承知しねえぜ?」
信用ならないと右手の平に徐々に集まる気が恐喝する。
ちょっとでも失言すれば殺られる危機を背中の冷や汗に感じながらも、手を前で組み、ハーレムに近寄る。
「隊長、オレの瞳を見てください…」
「あぁん?」
彼の瞳はきらきらとお星様を入れたように光り少し潤んで、頬は少し染め、足は内股、(本人意識は)甘い吐息、
背景はピンクの薔薇とバブルトーン、ハーレムとの顔距離は10cm。
少女漫画のヒロインが想い人に勇気を出して告白するシーンによく似ている。
「オレを し・ん・じ・てv」
ウフvと、ポーズは維持したままウインク一つでハートを飛ばす。
可愛い女の子やちみっ子ならされる相手も胸キュンキュンvvな行為も、
いい歳した逞しいマチョメーンではハッキリ言っておぞましい事この上ない。
「~~~~ぁ~、わぁ~った。。。行ってこい!」
少々気持ち悪くなったのと、どうでもよくなってきたのとで、ウザったそうにハーレムは外出許可を出した。
「じゃ☆行ってきますね」
「あ、おい待てよ!一体どこに何を取りに行くんだ?」
やはり部下の目的が気になる。
掃除に必要なものは一通り【SISIMAI HOUSE】に揃っているのに何が他に必要なのか。
「ん~……」
くるりと振り返った笑みは企みさを含んで。
「家事全般秘密兵器ってトコスかぁ~?」
「家政夫は只今貸出禁止中だよ」
「お盆前の大掃除で忙しいからな」
ちみっ子二人に突きつけられた現実は、あまりに無情でした。(ロッド限定)
「えぇー!?」
「自分の家くらい、自分で始末せんか!」
「お盆まで時間ないんだし、帰って早く掃除した方がいいんじゃないのー?」
さっさと帰れよモードで来訪者を冷たくあしらうちみっ子Sの背後で、
早朝からたった一人の大掃除と格闘していた暗雲背負うリキッドが小声で口を挟む。
「…お前らのその台詞、そっくりそのままオレが言いたい事なんですけどね」
「「チャッピー」」
「あぉ~ん!」
ガプッツツ
「ぎゃあああああああああ!!!すみませんすみません失言でしたーーーー!!!!!」
「シミ一つ、埃一つ残ってたらどうなるか」
「「分かってるな、家政夫」」
頭から血飛沫を豪快に噴出し右往左往するリキッドに対し、悪魔っ子の言葉が重なる。
「重々承知ですぅぅぅううぅぅぅ~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!」
「なぁ…、ちょっとだけリキッド貸してくれてもさ~ぁ~~~?」
きっぱり断られてもロッドは引き下がらない。
リキッドを借りれなければ、結局自分があの家(誰かがたまに掃除しなければ通常、普通の家より当社比60%は汚い)
を掃除しなければならない。
それはあまりにめんどくさ過ぎる。
「もー、ホントしつこいなぁ」
「しつこい男は嫌われるゾ、ナンパイタリアン」
「ナンパを軽薄すんなよ。なんたってナンパ出来て一人前の男、なんだぜぇ?」
「お前の脳内世界でか」
パプワの南極気温の突っ込みにも
「全各国男子共通」
自信たっぷり当然だとばかりにキッパリと短く答える。
「えー、それホントなのぉ?」
それでもちみっ子Sはロッドに対しいかにも嘘だろ口から咄嗟に出たでまかせだろと赤青両秘石眼が疑いの眼差しを向ける。
しかしハグ癖持ちイタリアンは少しもたじろがない。
「これは大マジだって。オレはガキの頃から周囲の大人に言われてきたんだよ。
お前らだってナンパの一つや二つ出来なきゃ一人前の男にはなれねぇぜ?」
軽い口調ながらその熱弁ぶりから、どうやらその場任せの嘘八百ではないらしい事は分かる。
「ボクは前にオットコ玉を取ってきたよ。だからナンパしなくたって完全無敵な一人前だもん」
「あれは一人前の“男の子の証”だろ?一人前の“男”の証がナンパ。っつーか、正確には真の男になる為の第一関門ってトコだな」
「へぇ~」
「そもそもナンパってーのはなぁ……」
深々とまではいかないが、興味有り気にロッドの話に耳を傾け始めた二人に、更にあっつく寧ろ暑苦しくナンパの心得を説く。
もう本来の目的はすっかり時の彼方へ忘れ去られている。
十数時間後、ナンパについて語りに語りまくって一種の爽快感を感じながら大掃除の事などすっかり忘れたまま帰宅したロッドが、
邪悪な笑みを浮かべた不機嫌際絶頂ハーレムに瀕死の重症を負わされる羽目になるが、
あまりにグロテスクな内容なのでそこは省略しておく。
ちなみに。
最後まで忘れていたGは、茄子と胡瓜に割り箸を刺し、無表情無言で茄子牛と胡瓜馬を作っていた。
「っておい!Gの仕事はそれだけかよ!?」
全身に酷い傷を作ってボロボロ状態のロッドがバンッ!とテーブルを両手で叩く。
ジ~~~ンと腕を伝い、痛みが回って言葉にならない悲鳴を上げながら痛みにのた打ち回る。
「それだけだ」
「ならオメーが掃除やりゃあ良かったじゃねぇか!!!せめて手伝うとか名乗り出ろよ!」
「手伝う暇などなかった。茄子牛と茄子馬を徹夜して各5万ずつ作ってたからな」
「なんでんなに作る必要があんだよ」
「パプワからのバイトだ。お盆の祭りで使うのだそうだ」
「一個幾らで作ったんだ?」
「一個ではない。十個で五円だ」
「まるで主婦の内職作業だな、ソレ」
特選部隊の輝かしい未来は、まだ当分訪れそうになかった…。(合掌)
* 綺麗にすればするほど汚れるシルク *
パプワ島から脱出不可能となってしまった特選部隊'sはその日の内に、誰が大工さんになったのかしかし
「絶対ハーレムは手伝ってないよね!せいぜい設計図の文句言うくらいだね」
な一軒家を建てて比較的(←ここ重要)のどかに暮らしていた。
先程も他人のの物漁り&いい物があったらもちゃんと無断で盗み、誰か居たら料理はご馳走になるという日課もきちんと済ませてきたし。
とても居心地が悪そうな命名:獅子舞ハウスでは、近所のパプワハウスからかっぱらってきた
やけにデカイ『白●恋人』を溶かしてケーキを作ろうはりきるロッドが、箱ごとお鍋に水を張り火付けを開始した。
箱ごと入れるなんて、どうやらこのイタリア人はカレーすら作った事がないんだろうなぁと容易に予想がされた。
獅子舞ハウスの大黒柱らしからぬ大黒柱ことハーレムは、
同じくかっぱらってきた北海道名産『木彫りの熊』を人喰い熊だ何だと喚きながら胴着に着替えて殺人技を繰り出していた。
何故か口の中に某少年漫画(原作者同じ)の聖獣が居た。
えらくこの熊が気に入ったらしい。
ただの置物の筈の『木彫りの熊』は白目を剥いて泡を口から吹いていたのだが、それは錯覚だと決め付けた。
『木彫りの熊』をかっぱらってきた実の犯人Gは、無言無表情で何かを一心不乱にやっている。
縫い物だった。
しかもあの道産子テディベア(=『木彫りの熊』)に着せるつもり満々で手早く素早く愛情込めて、
背景にバブル乙女トーンを背負って素敵な想像をしながら表情はしっかり崩さず縫っていた。
Gの見た目に全然合わない趣味を知っている仲間は誰も驚きはしないが、
獅子舞ハウス窓から「ストーキング?」と言われても可笑しくはない覗き見をしていた刺客約二名は、
もしちょっとした大ピンチさえ抱えていなければ驚愕のあまり現実逃避しそうだった。
しかもその縫いもの―――服はどう見てもシルクのドレスっぽい。
暫く第三者から見てストーキングもどき行為を行っていた刺客二名は、
刺客の片方の師匠であるマーカーがぽつりと漏らした素敵な一言にメロメロになった為、
すたこらさっさとその場からBボタンダッシュして逃げた。
さわやかな笑顔が素敵だった。
やはり家庭科1っぽいロッドではケーキは作れず、脱退したにも関わらず未だに下っ端として使っている
(彼ら曰く)元同僚である可愛いリキッドにケーキを作らせよう!と皆の腹の虫とよ~く相談し、
リキッドの想いは完全無視の体制で決定された。
訪問する際、彼だけの呼び名・人喰い熊を「リキッドに自慢してやろー♪」と、
よいしょとハーレムは持っていこうと縄を体に巻きつけ引っ張っていった。
絶対リキッドはこんなエセテディベアよりくまのプーさんの方がいい!と主張する事間違いなしですよと
マーカーの脳裏を過っていくが、スルーするに100万点を決定された。
触らぬ神に祟りなし。
関わらぬ獅子舞に祟り(多分)なしだ。
その前にそのエセテディベアや『白●恋人』はリキッドの所からかっぱらってきたのだから、
見せびらかすと言っても「俺達盗んじゃいましたvv」とわざわざ白状しにいくものだと誰も気付かないのはついうっかり☆★である。
(としておこう)
自分がかっぱらった筈の道産子テディベアをうっかりしっかり隊長に持っていかれそうになったGは、
やっと完成したドレスを放り投げて止めたが、溜めなし眼魔砲直撃の前に敗れ去った。
パプワハウスに到着するまでに、瀕死の重傷を負いながらも何とか見える所の傷や血を拭い、
売りにもしているいつものクールフェイスで決めたGだが、先程ストーキングもどきをしていた顔“は”良い刺客二人組みの、
特に大きな筆を持った変なお兄さんの所為で大洪水大地震な一騒ぎが起き、気付いたら『木彫りの熊』は消えてしまった。
代わりにコケシ4体が表れ、日本伝統物には興味ねーよッなGは無表情を貫きながらも、「折角作ったドレスが!」と
悲しみの嵐が心中で暴風中であった。
しかもコケシと言うのは漢字にすると『子消し(=我が子を消す)』から由来されている不吉な代物だった。(本当)
翌日、獅子舞ハウスの台所の隅っこ一角に、とても綺麗なシルクの雑巾が何枚も折り重なる事となる。
* 偽パプより一年以上前に書いたのにパクったみたいで沈むorz *
「ぎゃー!!!」
「もぉ~!どーしてくれるんだよ家政夫!!」
「何年家政夫しとるんだ。お前は」
「俺は本来家政夫じゃねえーッッ!」
チャッピーを頭にぶら下げて―――正確にはチャッピーにガブリと噛まれている―――痛さから来る悲鳴をあげ、
血を迸らせながら室内中を駆け回っているのは、パプワハウスの家政夫ことリキッド。
確か彼はジャンの代わりに赤の秘石の番人として第二のパプワ島に居座っている筈・・・・・・なのだが。
「僕の服、全部洗っちゃったってどういう事さ!」
実際のところ、外敵が“今現在”はいない第二のパプワ島での彼の立場は、完璧に“家政夫”であった。
ぷんすかと高飛車に怒っているコタロー―――現在は訳ありで通称ロタロー―――は何故か大波にでも攫われた後のような濡れ鼠だ。
原因は十数分前に遡る。
今日も一日元気に遊びに熱心だったパプワとコタローそれにチャッピーは、先程まで断崖絶壁付近で鬼ごっこをしていた。
断崖絶壁付近なんてとてつもなく危ないのだが、まだ第二のパプワ島に来たばかりのコタローならばともかく、
すっかりこの島に馴染んだコタローは、パプワと共に行動して早四年ともなるリキッドですら危険だと思う事をパプワと共に気にせず行う。
子どもは順応性が高い。
加えてコタローはパプワを絶対的に信頼している。
出会ったばかりの頃は生贄されていた事すら良き思い出―――と言うより、恨みはしっかりと覚えている彼にすれば珍しく、
すっかりと忘却の彼方のようだ。
今日も自分の興味を最優先し、特に深い意味はなく断崖絶壁で鬼ごっこをしたのだ。
勿論コタローだって断崖絶壁から落ちてしまえば危ない事は百も承知だ。
だからギリギリの所までは近寄らなかったのだが・・・。
「あー!とんだ災難!!」
「あそこは突然ああいう事がよく起こるんだ。今度から気をつけような。ロタロー」
「だったら最初から言ってよぉ。パプワ君~」
「その前に断崖絶壁なんかを遊び場にするんじゃありません!」
すっかり口調がシングルファザーのそれになっている事に、リキッド本人が気付いているかはともかく。
コタローがこのような濡れ鼠状態になってしまった理由は、断崖絶壁から海へと真ッ逆さまに落ちてしまった――――・・・・・・からではない。
秘めたる力を内蔵してはいても、特別鍛えている訳ではない小さな身体があの高さから海へと転落すれば、
海はコンクリートの硬度を持ち待ち構え、悪ければ命がない。
「でもホントビックリした!だって突然の大津波が襲ってきたんだもん」
「でもまあ、波に攫われなかっただけでも良かったな」
「どこが良いんだ――――は・・・・・・クシュッ!!」
大津波に襲われ、その勢いにより後方へと弾き飛ばされたコタローが背後の大岩に激突しかけた時、
見事パプワがロタローをキャッチした為怪我はなかったが、下着まで濡れてしまい非常に気持ちが悪い。
誤って服だけでなく、下着も全て洗ってしまったリキッドに対して悪態をつくコタローが何度目かのくしゃみをした。
濡れた服を着たままでは、いくら熱帯南国でも体温を奪われ風邪を引いてしまう。
服は下着ごと脱ぎ捨てて、とりあえずタオルと毛布で身体を包み込んだ。
「もぉ~!服が乾くまでずっとこうしてろって言うの!?」
まだ日は高い。
もっと遊んでいたいがタオル一枚姿で遊ぶのは如何なものか。
リキッドの服では試すまでもなく合わないし、パプワのは服ではなく腰ミノだ。
パプワは好きでも流石にその格好は拒否したい。
「ワシが丁度良いものを持っておりますが」
「うわっ!どこから沸いてきたんですか近藤さんッ!!」
「まるで人をボウフラのように言わなくともいいでしょうが。リキッドさん」
「ああ・・・、すみませんッス。・・・・・・で、一体何のようなんです?」
「ロタロー君にぴったりの服を持ってますので、お貸し致しましょうかと思いましてなぁ」
「・・・・・・・・・何故ロタローにピッタリの服を近藤さんが持ってるんですか」
心戦組で一番小柄な沖田の服だとしてもコタローにはサイズが大き過ぎる。
コタローに合う=子供服を持っているなんておもいっきり妖しすぎる。
「そんな事は別にどう「近藤さんってば、前々からコタロー君に色々着せてみたいって言ってましたしね」
近藤の台詞を、爽やかなハニーフェイスを持って沖田が遮った。
彼も近藤同様にょっきり生えて・・・・・・・・・・・・・・・・・・もとい、突然前振りも無しの登場だが、本日二度目となれば誰も慌てる事もない。
コホンと一つ咳払いをして本題に戻そうとする近藤。
「まあまあ。とにかくロタロー君の服が乾くまでには時間が掛かるでしょうから、それまでこれを着れば良いでしょう」
「!!!!!……こ、これはッ!!」
またまたどこから取り出したのかコタローの目線に持ってきたその服は、
ふんだんに使われているフリルに胸の部分には可愛らしい大きなリボンと、加えて服の至る所にも小さなリボンが飾られている。
うっすらとピンクに色づいたふわふわなホワイトドレスは正しく、
「ピンクハウス・・・・・・・・・・・・ッスね」
着る趣味はなくともファンシー好きなリキッド。加えて超有名ブランド服だ。
一目見て分かるピンクハウスものだと分かる。
分かるが何故近藤が持っているのかが非常に疑問で――――――・・・・・・はないか。
スクール水着や猫耳メイド服を(沖田に着せようと)購入経験のある彼ならば、
ピンクハウスだろうがゴスロリだろうが所有していても全く不思議でない。
「ソージに着せようと思ったんですが、通販申し込みをする前に知られてしまいましてな」
やはりか、セクハラ親父。
その後は説明を受けるまでもない。
毎度のようにざっくりと頭が胸かを一突きにされ、未遂に終わったのだろう。
沖田が駄目ならと、密かにコタローにも着せてみたいvと目論んでいたらしい。
「末期ッスね」
「ロリコンだな」
「わう~」
リキッド、パプワにチャッピーがやや眉を顰めて漏らした言葉は、近藤の背中にちくちくと刺さる。
それよりも深あぁ~~~く刺さっているのは沖田の愛刀・菊一文字だが。
明らかに即輸血ものの血が床を汚し、血の持ち主である本人は己の血の海に沈んでいる。
今更の光景なので誰も突っ込み入れない。
掃除が大変だな~とリキッドが溜息をついたくらいで。
先程から黙ったままのコタローはと言えば、じ~っとピンクハウス系服と見つめ、少ししてふっと息を漏らす。
「まぁ、しょうがないか。コレでも」
「えッ!いいのかよ!?ロタロー!」
「だってこれしかないんじゃしょうがないでしょ。いつまでもタオル一枚巻いて毛布に包んで動けなのはヤだし。
それに僕ってば女の子の服でも着こなせる程可愛いし、ビジュアル的には何の問題もないよ」
「ロタロー……。前々から一部で噂にはなっていたが、お前って実はオカマの気があるんじゃ―――ゲフッ!!!!」
どこにそんな力があったのか、コタローが片手で投げたちゃぶ台(食器類諸共)がリキッドの顎に炸裂し、
禁句を漏らしたリキッドはお花畑を見た。
明らかに衝撃ショックが引き起こした幻覚だった。
同刻。
パプワ島上空では、見慣れない巨大アザラシが真っ赤なコートを着込んだ可愛い女の子を乗せて飛行中であった。
パプワ島は南国島だ。
対してアザラシは北欧の生き物。
よって女の子とアザラシは≪地上≫からの来訪と直ぐに分かる。
第一、パプワ島で女性と言えばウマ子くらいであるし。
まるでサンタクロースのようなコスチュームの女の子は、正しくサンタクロースの娘であり、パプワ様のお嫁さん候補No.1のくり子。
巨大アザラシはお馴染みのツトム。
しかし≪地上≫からは特別隔離をされたパプワ島に、そう容易くは辿り着けない筈なのだが。
「今日は恋人ならば甘くて熱い夜を二人きりで過ごすメリークリスマスですわvパプワ様vv」
遠距離恋愛中の10歳児の思考回路は相変わらずに逞しかった。
パプワ様vへの愛の力でここまで辿り着いたのであろうか。
アーミン作品の女性は逞しいしネ。
※菊一文字:本家本元である“新撰組”一番隊組長・沖田総司の愛用刀。かなりの名品。
「ですが………まだ156cmになっておりませんので直接会う事は、くり子には許されませんッ!」
パプワハウスから少し離れたポイントに着陸をすると同時に、突然泣きながらレースのハンカチ涙を拭い、
その場に横崩れにしゃがみ込んだ。
どうやら完全に自分の世界へとトリップしているらしい。
しかし復活もすんごい早かった。
「で・す・が!パプワ様に―――も含めて子どもにプレゼントを贈るのはサンタの役目ですわ♪
確かに私はまだサンタクロース見習いの身。
ですからサンタ修行も兼ねましてパプワ様“だけ”にプレゼントをこうして持って来たんですわv」
片手に綺麗にラッピングされたハート型の箱を大きく空に掲げながら、誰も聞いていないのに一人言い訳を述べ始める。
パプワ島に来たのはサンタ修行の為と言ってはいるが、彼女の浮かれモードからしてパプワに会うのが目的なのは明白だ。
本人は全く気付いていないようだが、これだけ大きな声を出していれば
扉もないパプワハウス内には彼女の声はしっかりと聞こえていて当たり前で。
「誰だ?」
「パプワ様!!」
最初に顔を出したのはリキッド。
次いでパプワと後ろにはチャッピー。
その他ぞろぞろ後ろから続くが、くり子にはパプワしか見えていない。
パッと周囲にパステルカラーバブルトーンが広がり、ピンク中心の可憐な花が宙を緩やかに飛び交う。
―――ああ、ますます素敵になられて。その筈ですわ。
最後の往来から四年も経っていますものね………。
外見全く変化のないパプワだが、恋する乙女には当社比60%増しにカッコ良く見えるらしい。
くり子の瞳に映るパプワは何故か等身が実際より1.5倍はあり、硬質の黒髪も落ち着いていて、
さらに瞳は三白眼ではなく少女漫画おなじみのキラキラとして見えている。
ウマ子とは違う、恋する乙女フィルターだ。
「なぁに?パプワ君のお友達なの?」
少し遅れてひょっこりと顔を出したコタローを視界に入れた瞬間、くり子の背後に落雷が落ちた。
漫画でキャラクターの心に衝撃的な事があった時、大きなショックを表すあの雷だ。
「!!!??女の子!?」
パプワとコタローを見るくり子の心境は、まるで恋人の浮気現場を目撃した彼女という表現がピッタリだ。
くり子SWEETDREAMが激しい音を立ててガラガラと崩れ落ちてゆく。
過去三度、くり子は第一のパプワ島を訪れた事があるが、
見覚えは全くないコタローを女の子と勘違いしてしまっているらしいのも無理はなかった。
元々コタローは女顔であり、しかも今はピンクハウスを着ている。
今のコタローはどこからどう見ても、非常に可愛らしく育ちも良さそうなお嬢様そのものだ。
その子が当たり前のようにパプワに寄り添っている。
くり子の胸にふつふつと湧き上がる嫉妬心が爆発するのに時間は全然かからなかった。
「あ………………………………、あんまりですわぁ~~~!!パプワ様ッ」
「くり子?お前156cmになってか「大波に攫われたりお魚さんの群れに押し潰されそうになりながらも
命がけで会いに来ましたのにィー!」
やはりこの島に辿り着くのは非常に困難なものだったらしい。
新生ガンマ団の面子ですら命からがらものだった第二のパプワ島にそれでも辿り着けたのは、パプワを思う乙女心が成せたのだろう。
あと、ツトムの必死の特攻(違)があってこそ。
パプワの問いかけも遮って激しく嘆くくり子の勢いは益々ヒートアップをし、留まる事を知らない。
状況は更に悪化の一途を辿る。
「この四年の空白の時間にパプワ様が浮気をしていましたなんて~ッ!」
「落ち着けく「言い訳なんて聞きたくありませんわ!!くり子はいつでもどこでも何をしていましても
パプワ様の事を想っておりましたのに!!うわああああぁぁん!!!パプワ様の馬鹿ぁ~~~!」
「あ!」
誤解なのだと引きとめようとしたパプワだが、くり子は猛ダッシュをかけ、泣きながら去ってしまった。
後から慌ててツトムがその後を追い掛ける。
「ねぇ。今の女の子誰?何か厄介な誤解をしたみたいだけど追いかけなくていいの?」
「ん~……」
表情こそいつもの無表情だが、かなり困ってしまったらしいパプワにコタローが声を掛ける。
思い込みの激しいくり子だ。
例えコタローが女の子じゃないと理解しても
「パプワ様が同性愛に走ってしまったなんてショックですわ~!!」
とさらに自体をややこしくするだろう事は目に見えている。
それでも、
「取り合えず追いかける」
「僕も行くー」
「えッ!ロタローは行かない方がい「「LET‘S GO!!」」
リキッドのストップを遮り(故意ではない)、くり子の後を追いかけるWちみっ子と一匹の姿はもう見えない。
「ロタローまで行ったら余計誤解を生むんじゃねぇの?原因になってんのがロタローだし」
今更手遅れだろうと仕方なく彼女の件は切り上げ、
未だパプワハウス内で行われている≪沖田の近藤殺人コント≫を何とかしなくちゃなと慣れた風情で家に戻った。
案の定リキッドの予想は大当たりし、十数分後、森の奥から少女の怒鳴り声と鳴き声が絶え間なく響いた。
流星群に 願いを込めて
いつも回りには友達がいる。
チャッピーもじいちゃもいる。
だからその時、じいちゃが言った言葉の意味は分からなかった。
「パプワは寂しいと思った事はないか?」
「さびしい・・・?」
南の丘の大樹の枝にじいちゃとチャッピー座って、 沢山の星の雨を見ていた。
『りゅうせーぐん』って言うらしい、この星の雨は。
「さびしいって何だ?」
「感情の一つじゃ。嬉しいとか悲しいとかのな。 ・・・じゃが、知らなければ、まだいいんじゃよ」
「気になる。じいちゃ」
寂しいっていう感情や、 どうしてじいちゃがこんな事を突然言い出したのかを。
じいちゃは僕の目をじっと見て暫くじっと考えていたみたいだったが、ゆっくりと話してくれた。
「お前には友達が沢山おる。 ・・・しかし・・・お前と同種族は・・・おらん・・・」
僕が人間と言う種族だと言う事は知っている。
チャッピーは犬でじいちゃは梟。
違うけど、自分と同種がいないからってじいちゃが言うさびしいと言う感情は湧いてこない。
同種はいないけど友達はいっぱいいるから。
「さびしくないぞ。じいちゃ」
「・・・なら・・・いいんじゃ」
僕の頭を優しく撫でて、帰ろうと促した。
家への帰り道にじいちゃが空を見上げて言った。
「この流星群に願い事をすれば、 いつかパプワの本当の願い事を叶えてくれるんじゃ」
僕がいい子にしていれば、とじいちゃは言った。
でも僕は特に願い事なんてない。
・・・・・・・・・・・本当に・・・?
「僕と同じ生き物がこの空の下、どこかに居る・・・?」
じいちゃが居る。
チャッピーがいる。
島の仲間はみんな僕の友達だ。
・・・だけど、じいちゃが言う前から僕はきっと本当は欲しかったんだ。
僕と同じ人間の友達が欲しい―――!
コトコト グツグツ
「・・・」
「パプワ、やぁ~と起きたのか。 珍しいな、お前がこんなに遅く起きるなんてよ」
「シンタロー」
あの日、帰り道の密かな願いが目の前に居る。
僕と同じ人間の友達。
コイツが来てから、一気に人間が増えた。
コイツを狙って沢山の人間が―――。
あの日、シンタローを連れてきてくれたのは、あの時じいちゃと見た流星群かもしれない。
だけど、沢山の人間を連れてきてくれたのは目の前のコイツだ。
「ん?どうしたパプワ。早く布団しまっちまえよ。朝食できたぜ☆★」
僕に向けられる笑顔。
その度に胸に湧き上がるこれは、 これも友達の感情?温かな何かが生まれるのが分かる。
「パプワ・・・?具合でも悪いのか?」
「何でもない。それよりめーし飯めし!!」
「はーい。はいはい。早く布団をしまう!」
ふと思い出した。
そうだ今日は流星群。
僕の願いを叶えてくれたあの日の―――。
流星群、どうかずっとシンタローが・・・このまま―――。
けれど夜を待たず、僕の願いは連れ去られてしまった。
消えたシンタロー。
じいちゃ・・・この気持ちがさびしいなのか・・・?
初めてさびしいという感情を覚えた日、僕は今までの胸の熱さの正体を知った。
シンタロー、お前が帰ってきたら―――その時は―――・・・。
津軽ちゃんはぴば(2/6)SS
僕が再びあの組織に呼ばれたのは、まだこれから猛暑がやってくる夏の手前。
ガンマ団員になって、まだ数える程しか属していなかった僕に初めての指令が下されたのは今から約4年前。当時僕はまだ6歳だった。
指令内容は『秘石を持って逃走したガンマ団総帥の息子を倒す事』。
生死については問われなかったけど、指令を出したのがターゲットとなる人の実父なのだから、
生かして倒し、ガンマ団に秘石と一緒に連れ戻してこいという事なんだなって判断出来た。
初めての団員としての仕事は、けれど最後の団員としての仕事になるんだってあの頃は思った。
任務、失敗しちゃったから。
シンタローさんやパプワ君が強かったから、負けを認めたんじゃない。
“今の”シンタロー様の居場所はここなんだって思ったから。
何時かはマジック総帥のもとに戻るんだろうけどって。
実際そう遠くない未来に思った通りになった。
彼は父の後を継いで総帥になったんだ。
趣旨は微妙に変わったらしいけど。
任務が失敗した僕はもうガンマ団には戻れない。
ううん。戻りたくない。
あの組織が嫌なんじゃなくて、シンタロー様と本物のコタロー様に変装したパプワ君の抱擁を見ていたら、急にお母ちゃんに凄く会いたくなったから。
・・・恥ずかしい話けどね、これが一番の任務撤退理由。
故郷に戻った僕は、お母ちゃんと毎日お米を耕して幸せに暮らすようになった。
とっても幸せだったんだ。
「ずっと笑顔なお前が居てくれたら、わは他になも望まないのよ」
何気ない会話から、いつの間にかそんな話に移行した。
稲を刈る手を止めてお母ちゃんが僕の泥だらけな頬をそっと撫でた。
「お前の幸せがあたしの幸せなんだばってら」
「わの幸せも同じ!お母ちゃんとず~っと一緒に居たいんずや!」
何だか無性にその言葉が嬉しくて、興奮気味にお母ちゃんにそう言った。お母ちゃんは僕をそっと抱きしめながら、変わりない穏やかな声で続ける。
「わんつかの時間でも一緒に居られたら良いね」
「うん!」
いつそんな話をお母ちゃんとしたっけ?
そして何で今それを思い出したんだろう?
「津軽君?どうしたんだい、具合でも悪いのかい?」
「何でもないだ。飛行機の乗るのは久し振りでわんつかばし酔いだんだばってもう元気だ。ティラミスさん」
最後と思われていたガンマ団任務は、4年の時を越えて2度目の仕事が与えられた。
任務失敗したあの時に自然消滅したと思っていたガンマ団員の僕は、まだ生きていたらしい。
お母ちゃんと再び離れ離れにはなったけど、そんなに長い間じゃないから、今は寂しくないよ。
でも早く帰りたいな。そしてぎゅうって抱きしめてもらいたい。
まだ、甘えていたい。
昨日の夕方頃、2度目の任務を僕に依頼する為にと迎えにきたのは総帥秘書のティラミスさん。
余程の事がガンマ団にあったのだろう。
いつもは子どもの僕を気遣ってか笑顔でいる人だけど、時折険しい顔も見せる。
青森からガンマ団本部までの移動手段は団の小型飛行機。
機内で僕の任務内容は知らされた。
『コタロー様がお戻りになるまで、コタロー様に成り済ます事。主にシンタロー様の精神安定保持の為』
確かに、あの島でシンタロー様のコタロー様への溺愛っぷりは深く知れた。
居なくなったと知ったらパニックを起こしてしまっても不思議はない。
でも今度もシンタロー様を上手く誤魔化せるだろうか。
4年前は自信あった事が、少し大人に近づけば消極的な考えになっちゃうって本当だね。
ティラミスさんは僕を研究室の方角へ連れて行った。
てっきりマジック様の所へ行くと思っていた僕は少し驚いたんだ。
「マジック様は只今手が放せぬ状態です。ご子息のグンマ様からこれからの説明を受けてください」
そうか。グンマ様がコタロー様の実兄なんだっけ。
色々僕が居なくなっていた間に、団内は回転していったんだね。
手が離せない状態かぁ。
ああそうか、マジック様はコタロー様の事で色々調べたりしているんだよね、きっと。
研究棟の渡り廊下で見知らぬ(殆どの団員の顔知らないんだけど)研究員二人が眉に深い皺を刻みながら話している。
すれ違い様に聞えた会話は―――
「―――と言われているのだろう。コタロー様が逃げたって」
「シンタロー様はご帰還されたのだろう?マジック様は―――」
・・・・・・・・・。
逃げた?
逃げたって、何?
「ティラミスさん」
彼等の姿が曲がり角に吸い込まれたのを見届けてから疑問を口にしてみた。
「さきたのひどだじ、おがしい事ば言うんだべ。逃げたって、コタロー様の家はココなのに」
逃げたなんておかしいでしょう。
コタロー様は、実父のマジック様と今は“本当の親子”になったのでしょう?
「なのに人聞きが悪いだべ。マジック様の耳に入ったらどれだけご立腹なされるか」
自分の子が『逃げた』なんて言葉を言われたら、親がいい気分する筈ないもの。
故郷のお母ちゃんの顔と言葉を思い出す。
「?・・・どしたんだんずな?」
見上げると、ティラミスさんの顔がみるみる青くなって、まるで―――気付かぬ振りを続けていた大罪を、眼前に突きつけられたかのような面。
ねえ、どうしたの?
ねえ、どうしたの?僕は何か可笑しな事を言ったのでしょうか?
ねえ、僕、何か―――。
キンノコトノハヲクチニシマシタカ。
6cmの時間~くり子ちゃんはぴばSS~
3月3日は雛祭り。
そしてある少女のお誕生日であり、“ある事”の確認の日でもある。
ドキドキドキ
期待と不安で、一年に1度の自宅身長測定をする北欧生まれ育ちの女の子。
まだ少女の域を抜け切らない彼女は、天国に一番近い南国の楽園で運命の出会いを果たした。
南国の王者である少年に一目惚れし、156cmになったらお嫁さんにしてくれるという約束までしてもらえた。
ずっと好いた人のもとで暮らしていきたかったが、彼女はまだ幼過ぎた為、父親と共に故郷へと涙ながらに想い人が守護する島から去って行った。
少女の父親はサンタクロース。少
女はサンタクロースの娘で、名前はくり子。
156cmになれば、晴れて彼のもとへ行ける。
今度こそ同じ屋根の下で枕二つに布団はひ・と・つvの暮らしが出来る。
―――やや不純さが見え隠れするが、その日を夢見て、早く156cmになれるように努力してきた。
牛乳を飲んだり、適度な運動をしたり、これは身長が伸びる!と噂が立った物事には何でもチャレンジしてきた。
それもひとえに愛しの未来の旦那様の為に。
その並々でない努力結果を、毎年自分の誕生日の朝に計ってみる。
最初は1日ごとに計っていたのだが、1日では1cmも伸びは見られず、現れない努力結果に落胆しやる気は削がれるので、
【上手なダイエットとは!】の本を見ていた、最近お腹の肉のぶよぶよ感が気になるくり子パパが
「くり子のお誕生日の時にだけ計るようにしてみたらどうかな」
と提案した為、その日から毎年3月3日にはドッキドキの身長検査をするのが通例となった。
あの島にくり子が赴いたのは3度。
あれっきり、彼女は話題には毎日上らせはしても、4度目はなかった。
でも、何時か、165cmになったらきっと―――。
「パパー!」
笑顔で勢い良く父親の胸に飛び込んできたくり子。
数年前は片手で抱えてもそれほど苦ではなかった小さな体も、今では両手持ちでも少し重い。
背に手を廻して答えの見える問いをする。
「どうしたんだい、くり子。ニコニコしていい事でもあったのかい?」
「あのねあのね!身長がね!150cm台にのったの!!」
「・・・そうか。もう直ぐだね、156cm」
楽しみだ。そう口にはするのに、声のトーンが低い父親。
どうしたのかと、不思議そうな瞳で肩に乗せていた頭を下げて視線を合わせる。
ずっとずっと大きかった父親は、今でも大きいけれどあの頃とは目の合わせる角度が違うと今頃気付いたはっとする。
気付いてはいた。
ただ気に留めなかっただけなのだろうけど。
「くり子も何時かは・・・あと6cm背が伸びたら、パパのもとから巣立っていくんだね」
子どもの巣立ちを素直に喜んであげなければいけないのに、それを越えて込み上げてくるのは未来への寂愁。
娘の確かなる成長は親心的には嬉しいけど、やっぱり巣立ちの娘を思うとどうしても。
「うん」
自分との何時かの別れを愁いている事にやっと気付いた。
そう言えば毎年、父はこんな瞳で自分を見ていたのではなかったのか。
156cmになれたら、直ぐにでもあの人のもとへと飛んで行きたい。
早くお嫁さんになりたい。
「だけど」
父親と離れ離れになるのは寂しい。
きっと今までのように一緒には暮らせないのだろう。
くり子パパはサンタクロースの仕事で北欧から離れられない。
あの人は小さな楽園王者であの島から離れられない。
そしてくり子は156cmになったらあの人のもとへ。
永遠ではないけど、あと6cmでくる別れの刻。
嬉しくて、でも寂しいね。
だから、今は―――
「それまではパパの側に居させてねッ」
まだ貴方の子どもで居させてくださいね。
蜜柑よりこんにちはv~高松はぴばSS~
「・・・何ですかねぇ・・・コレは」
研究室の机に置いてある、茶籠に積まれた蜜柑。
蜜柑とはまた微妙に季節外れな。
美味しそうな蜜柑数個が甘酸っぱい香りを室内に漂わせていた。
蜜柑はいい。
蜜柑自体は別にノープログレム。
蜜柑は特別好きという訳でもないが、好きか嫌いかと問われれば「好き」である。
高松の不快さを引き起こしたのは、その蜜柑・・・・・・に描かれているものだ。
「顔のようですが」
顔。
艶やかな蜜柑全部に、似たような顔が油性マジックで描かれていた。
眉毛と唇がやや太い顔。
「何というか・・・。不気味以外の何物でもありませんねぇ」
率直な感想を漏らす。汚いものでも見るかのようなタレ目付きで顔を少し反らせて凝視する。
ずっと見ていると次第に気持ち悪くなってもきた。
「せめて(*^ワ^*)や(‘v’*)など可愛い顔なら、まだマシだったのでしょうけれど」
「どうしたの?高松」
新作ガンボットの資料を抱えながら入室してきたのはグンマ博士。
今回のガンボットこそ今までで最強最高の出来だと当人は公言しているが、必要なネジが4つ取り付け忘れをし、
また一騒ぎ起こすのだがそれは後のお話なので今は省いておく。
「グンマ様。いえ、この蜜柑なんですが・・・」
「みかん星人がどうかしたの?」
「みかんせいじん!?」
「えー、高松知らないの?みかん星人」
「みかん星人・・・」
※みかん星人とは、フジテレビ、ウ●ウゴルーガ(朝7時10分頃?)に出演していた、
縦にガタガタと小刻みに揺れる、パプワ島に出てきても違和感0な程キモ可愛い蜜柑宇宙人である。
YAHOO検索キーワード【みかん星人】で検索すれば一発でみかん星人ファンページが出てくるので、詳細はそこで調べて欲しい。
「僕が蜜柑にみかん星人みたいな顔描いたのv可愛いでしょーvv」
「ええ本当にそっくりに描けてますね。流石私のグンマ様vとっても可愛らしいみかん星人になりましたよv」
「えへへーv僕って絵心あるからさーvv」
―――おいおい、アンタさっき不気味だと言ってただろーが!そっくりって、見た事ないのにそっくりも何もあるのかよッ
と突っ込んでも、所詮は愛は盲目寝耳に水高松にグンマの誤算である。
グンマが白と言ったら、例え黒いものも高松にとっては白なのだ。
先程の嫌~なタレ目付きを慈愛のタレ視線に変えてみかん星人・・・顔の蜜柑を眺めていたドクター高松の脳裏に(彼だけの)名案が浮かび上がった!
「そうですよ!グンマ様!!」
「えっ?何なにどうしたの?」
「ずっと考えていた事が、みかん星人を見て見事解決したのです!」
世紀末の大発見でもしたかのような得意げな顔で、グンマに(彼だけの)名案を語りだす。
「以前シンタロー様に股んGOくんを新しいお体として贈ろうとした事があったでしょう。
まあ、何故かシンタロー様だけでなく、マジック様やサービスまで直後に眼魔砲打ってきましたので未遂に終わりましたが」
「未遂・・・」
犯罪かよ。
「あれは体だけ、シンプル過ぎた為に拒否されたと思うのです。ちゃんと顔を描いてあげれば問題なかった訳で。
そうですね~、今度シンタロー様に新しいお体が必要になった時にご提供致しましょう♪顔はみかん星人の顔をシンタロー様風に。
髪の毛もついでにつけときましょうか。今のようにストレートに伸ばしたままと第一のパプワ島の時のような一つ結い、グンマ様はどちらが良いと思います?
あぁ、二タイプ作るのも良いですねぇ♪」
みかん星人顔したちょっと妖しく根分かれしたバイオ根っこ人間な中身はシンタロー。みかん星人顔・・・。
てか今度って・・・
今度があってたまるかー!!!!!!!!!
ドガガガガガガガガガガガガンッ!!!
「ゲフッ!!!」
グンマの眼魔砲が高松に直撃した。何時の間にグンマ一人で打てるようになったのか、大きな疑問だ。
「高松ぅ~。ホントにそんな事したら、僕怒るからね~?」
「も・・・もう既にお怒りになっていらっし・・・(パタリ)」
キンタローのサポートなしで眼魔砲が打てたグンマの成長を称えながら、高松の意識は薄れていった・・・。
・・・ごめん。やっぱりお誕生日お祝いなのに不幸オチだったヨ。
PHPプログラマ求人情報 引越しセンター バイク買取 コピー機
PR