日記に書き散らした物をサルベージ。
下に行くほど新しいです。
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?→シンタロー_何よりも強い、その眼差しが好ましいと思う。
総帥の座に就いた彼は、常に未来を見つめている。
それは決してあやふやなものではなく、
明確なヴィジョンとして彼の目には映っているのだろう。
彼の瞳には、私の持ち得なかった光がある。
それは羨ましくもあり、疎ましくもある。
相反する感情が私の中でうねる。
それでもその瞳の先にある未来を、ほんの一欠けらでも共に観る事が叶うのならば…。
この命、捧げよう。
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ハーレム(若)&マーカー(仔)_どうしようもなく、
何もかも嫌になって。
無気力頂点に達して。
このまま辺り構わず物も、人も、壊してやろうかと薄ぼんやり考えてる時。
小さいくせにひんやりとした手が、やけに大人びた仕草で俺を宥めようと伸びてくる。
『言葉より態度で示せ』
と言った俺の言葉を忠実に果たそうとするその指は、慣れない動きに戸惑っている。
この手は人を癒すものでは無い。
命を奪う、それは美しい焔を紡ぐ手だ。
「私は決して貴方のお側を離れません」
これもまた、覚えたばかりのたどたどしい発音。
何処に連れて行っても恥ずかしくないように、徹底的に叩き込んでいる最中の英国英語。
慣れない事をして、慣れない言葉を話して。
そう、こいつは俺の為に必死に生きている。
何故だか、急にそれまでの言いようのない苛立ちは消えていた。
残ったのは尻の痒くなるような感じだけだ。
「…ありがとよ」
ぶっきらぼうに呟いて、艶々の黒髪を乱暴に撫でた。
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ハーレム&シンタロー_花火
「花火が見たい」
空調の効いた寝室で、シーツに包まったままシンタローが呟いた。
「…花火って。カーニバルのか?」
花火と言われ俺に思いつくのは、ド派手なカーニバルとバンバン五月蝿い打ち上げ花火。
「いや、日本の打ち上げ花火」
そこで俺は、ああ、と納得する。
この、一族の中でも毛色の違う甥は長いこと日本に居たから。
「何だ~、日本が恋しくなったのか?」
からかうように言ってやれば、小さく「違う」と答える。
そして、ゆっくりと俺の方に寝返りを打つと、軽く微笑んで居る様な、何とも言えない顔をしやがった。
こいつが俺に対してこんな顔をするのは初めてだ。
何時もは小憎たらしい表情しか見せないからな。
そんな風にちょっと驚いてる俺に気付かず、シンタローは何処か遠い目をしてぼそぼそと話し出す。
思い出話ともつかぬ他愛無い話。
しかし、シンタローにとっては大切な部分に触れているのだろう。
俺は途中、口を挟む事無く辛抱良く話を聞く。
大して長くも無い話の最後、シンタローはまた最初のように呟いた。
「あの夜見た花火みたいにさ、ドーンと咲いて、パッと散れたら良いよな…」
シンタローが何を意図してそんな話をしたのか分からない。
分かってやるつもりも無い。
それでも、俺は持てる限りの優しさってヤツでシンタローの頭をぐりぐりと撫でた。
日記に書き散らした物をサルベージ。
下に行くほど新しいです。
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コージ&シンタロー_
あまりに見事な枝振りに、コージの手が思わずのびた。
シンタローが名前を呼ばれ顔を上げる。
其処には、何処から持ってきたのか分からないが、それは見事な枝振りの桜の枝を持ったコージが立っていた。
「おう、調子はどうだ?」
何時も通りの鷹揚な口調でそう尋ねられ、シンタローもつい、
「相変わらずだ」
と普通に答えを返してしまう。
「いや、そうじゃなくて!!」
ペンを投げ出すと、デスクを回ってコージの側に駆け寄る。
「お前、それ何処から持ってきたんだよ!つーか、こんなトコに持って来るなって!!」
シンタローは一気に捲し立てた。
しかし、当のコージはというと、息の上がったシンタローをチラリと見下ろし、
まるで意に介していないように小鼻を掻いている。
そんなコージの態度に、再びシンタローの怒号が響き渡るかと思われたその時、
コージは桜の枝を片腕で持ち変えると、空いた方の手でシンタローの頭をポンポンと軽く撫でた。
予想もしていなかったその行動に、シンタローの動きが止まる。
「シンタロー…。頑張るのも良いが、たまには息抜きせんと!ほれ、綺麗じゃろ?」
「…!いや!だからって…」
「お前さんは忙しい忙しい言うて、遠征以外にゃぁろくに外に行かんじゃろ?
だったらここに持って来るしかなかろう?」
確かにコージの言うとおり、シンタローは仕事以外のことに割く時間を持ち合わせていなかった。
ガンマ団本部の敷地内にはマジックが植えた桜並木がある。
暦の上では既に春になっており、さぞかし桜も美しく咲いているのだろうが、
今のシンタローにそれを楽しむゆとりは無かった。
無茶な理屈ではあるが、コージの不器用な心遣いが、シンタローにとって何より嬉しいのは事実だ。
「の?ほれ、ここに置いて行ってやるから、少しは休め」
「…アリガト」
くるりと背を向け礼を言うシンタローの頬が僅かに染まる。
シンタローは本当に嬉しいとき、素直に有難うと言えずにわざと素っ気無い振りをする。
そんな姿がコージにはとても好ましい。
コージの知るシンタローだからだ。
どんな重圧にも押し潰されることの無いシンタローだが、これからは事情が違う。
ガンマ団と言う巨大な組織の長になったのだ。
シンタローはきっと変わらない。
それは確信に近かったが、それでも不安は完全に拭いきれなかった。
「そうじゃのぅ…。礼は美味い酒と飯でいいぞ?」
「はぁ?見返り要求すんのかよ?!」
まだまだガンマ団でやって行けそうだ。
コージは小さく笑った。
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2006.04~
copyright;三朗
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