日記に書き散らした物をサルベージ。
下に行くほど新しいです。
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サービス×シンタロー
『おじさん…』
私の腕の中のこの子供は、怯える動物のように身体を震わせる。
『何も怖がることはないんだよ…』
出来る限り優しくその耳元に囁くと、おずおずと私に視線を合わせた。
深く艶やかな漆黒の瞳。
それは“彼”にとても似ているけど、似て非なる色。
私はこの瞳を見ると、どうにも心落ち着かない。
『おじさん、俺…』
尚も言い募る彼の唇をそっと指先で封じる。
指先を掠める吐息。
甘い甘い、これは毒だ。
『何も言わなくていい』
不安と期待が綯い交ぜになった瞳を覗き込み微笑む。
『私はお前を愛しているよ』
――そう、孤独に苛まれるお前を受け入れてあげよう。
異端のその髪も、瞳も、身体も。
『だから、私だけを愛しておくれ』
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シンタロー_不機嫌
気に喰わねぇ!!
俺は誰だ?
ガンマ団総帥のシンタローだ!
それも、イキナリ据え置かれたお飾り総帥じゃねぇ。
…まぁ、流石にオヤジと比べられると見劣りするかもしれねぇが、
自他共に実力を認められて総帥になったんだ!
確固たる信念、ってやつもある。
だのに、やれ二言目には
『無茶はするな』だの
『少しは休め』だの
『お前を守る』云々…。
いや…、あいつの気持ちも分かるんだ。
でもよ、そうやって俺を甘やかすあいつこそ無理してるんだよ。
ちったぁ肩の力抜いて、俺にも甘やかされろよ。
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シンタロー&キンタロー_エスケープ
「シンタロー!!一体何処に居る?!」
普段は決して取り乱すことの無い従兄弟が、必死に俺を呼ばわっている。
その声はどこか必死で、ちらりと悪い気もするがそれに気付かぬ振りをして歩を早める。
大体、何処に居ると問われて素直に答える奴はほとんど居ないだろう。
逃げている身であるなら尚更だ。
俺は此処にくる途中見つけた裏道に滑り込むと、後ろも見ずに駆け出した。
夕暮れ時の街中を軽やかに走る。
方々で夕餉の食材を商う声が聞こえてくる。
人々の声、熱気。
ああ、なんて“生きて”いるんだ。
走りながら目にした顔は、男も女も皆、生を謳歌していた。
この国が根底にどんなに渦巻くものを隠しているか、彼らは知らないのだろうか。
そして、そのどろどろとしたものを一掃するために、俺が、俺たちが何をしようとしているか。
気が付けば、街のはずれに立っていた。
古代の城壁を思わせる重厚な壁が途切れ、舗装されていない剥き出しの道へと続く。
そこは活気に満ち溢れた人々を守る街への入り口であると同時に、
まるで彼らが隠しているものを暗示するような鬱蒼とした森の入り口でもあった。
「…こんな所に居たのか」
やれやれと、これ以上ないくらいに聞きなれた溜息が背に掛けられた。
「今夜は一旦、艦に戻るぞ」
彼は俺を咎めない。
俯き押し黙った俺の肩に触れ、軽く促す。
彼は嘗て俺であった所為だろうか、何も言葉に出さずとも俺の気持ちを察す。
それは時に俺を苛つかせたが、慣れてしまえばこれ以上無いほどの心地良さを与えてくれた。
けれど、その心地良さが今はかえって辛い。
「…シンタロー。夕食の後、一杯付き合えよ」
「…ああ」
俺は短く息を吐き出すようにそれだけ応えると、重い足取りで元来た道を引き返す。
2.3歩歩き、思い出したように振り返る。
やけに綺麗な夕日がその身を暗い森に沈める間際、俺の目を射た。
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S&S_馨
その日、一日の激務を終えて自室に戻ると、ふと嗅ぎ慣れない匂いが鼻先を掠めた。
およそシンタローの生活とは程遠いこれは…。
香水。
シンタローにその名は分からぬが、それでもどこか記憶の端に掛かる香り。
それは紛れも無く、彼の人が好んだものに間違いない。
あの島での出来事以来、彼は意識的にシンタローを避けている節があった。
お互い新しい生活の多忙さもあったが、それでも時間を作ろうと思えば不可能ではなかった。
彼が抱えていた過去、そして複雑な想い。
全てが明らかになって、そして新たな現実が、道が彼の前に開かれた。
シンタローがそうであったように、彼もまたその道を自ら受け入れ歩みだした。
それでも、彼はシンタローの事を忘れた訳では無かった。
その証拠に、こうして時たま彼の不在を狙ったように部屋を訪れては数時間を過ごして行くようだった。
残り香が残る程に。
彼が何を思い、シンタローの部屋を訪れるのか。
それはシンタローには解らない。
けれどだからといって、彼を問い詰める気にもならなかった。
上着をソファーに投げ捨て、勢い良くベッドに倒れ込む。
「あ…」
柔らかな香りが、一層強くシンタローを包み込んだ。
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2004.3~
copyright;三朗
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