休 暇
『あ~~、ダリィ』
執務の合間、それも欠伸を噛殺しつつ漏らした小さな呟き。
それが全ての始まりだった。
気が付けば俺は、真っ青な海原が見渡せる瀟洒なテラスで、優雅にシェスタをきめこんでいた。
「…おい、キンタロー」
「ん?何だ、シンタロー」
ドロドロに不機嫌な俺の呼び声に眉一つ動かさず、俺の側で専門書を読んでいたキンタローが顔を上げる。
「俺の記憶に間違いが無ければ、自分の部屋のベッドに入った筈だが…」
そう。
俺は確かに、唯一安らげる自室のベッドに潜りこんだ筈だった。
しかし気が付けば、潮風薫るテラスで寝そべっていた。
これに疑問を持たない人間がいるだろうか。
良くらオーバーワークを続けていたとしても、ごっそり記憶が飛ぶような疲れ方はしていない。
そこまで俺も柔ではない。
決して無い。
そんな俺の苦悩を他所に、真実を知っている筈のキンタローは涼しげな顔で事も無げに言い放った。
「ああ、その事か。さすがにドクターの睡眠薬は効き目バッチリだな」
チュドーン…ッ!!!!
豪快に眼魔砲をぶっ放す。
「こらテメェ!!キンタロー!!!一体何を考えてやがる!!!
つか、薬盛ってココまで連れてきたのはどう言う訳だっ!!事と次第によっちゃあ、もう一発眼魔砲をくれてやるっ!!!!」
一気に捲し立ててやると、目の前のキンタローはふぅと小さく息を吐き、そして俺を抱きすくめた。
そして、聞かん気の子供を宥めるように、背中を軽く叩く。
その仕草が余計に怒りをさそうと気付かないのだろうか。
もう一度怒鳴ってやろうとしたとき、キンタローがボソっと呟いた。
「シンタロー、お前が疲れたと言ったから…」
「え?」
「普段、滅多にそんな事は口にしないお前が言うのだから、相当なものだと思ってな…」
その言葉に、俺は動きが固まる。
もしかして、キンタローは俺のぼやきを聞いてこんな事を…?
「お前は俺が休めと言っても聞く耳を持たんからな。悪いとは思ったが強硬手段を取らせてもらった」
そしてキンタローは「悪かった」と、俯いた俺の額に軽くキスをした。
何だか、どうしようもなく、申し訳無い気持ちと、恥ずかしさがこみ上げて来る。
普段からグンマを組んで、何をしでかすか解らない奴だが、今回のこの行動は俺の事を思っての行動だ。
それに、キンタローがこんな場所に俺を連れ出すからには、僅かな時間で仕事の調整をしたと言う事で…。
「…キンタロー」
「何だ?」
「…その、すまない」
俺の言葉にキンタローはフッと笑うと、俺の背に回した腕に力が篭る。
「そういう場合は“ありがとう”だ」
「ああ、そうだな」
ありがとうの意味を込めて、向かい合った頬にキス。
「折角貰った貴重な休暇だ。満喫させてもらうか」
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◇ ◇ ◇
キンシンバカップル(笑)
置いてきぼりを食らったパパは、グンちゃんに泣き付いてる筈。
20050503
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