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3.薬






今となっては悪夢とも言える夢を見た

疑うことなく自分のモノだと信じていた愚かな過去――






初めてその姿を目にした時から特別だった愛しい子供。
ずっと望んでいたものが、やっと自分の元になったのだと歓喜した瞬間。

この子供が受ける愛情も、この子供が向ける愛情も――全て私のものだけでいいと思い、自分の手で育てあげると心に決めた。
自分と同じ金と青を持つ子供であったなら、おそらく執着などしなかったであろう。

望んでも手に入らなかった輝きが自分の元へ舞い降りたことに、柄にもなく何かに感謝をしたい気持ちになったことは嘘ではなかった。

大切に大切に育て、誰よりも深く愛し見守り続けてきた。
例え『うざい』と罵られようが構わない。
怒りという感情でも、この子供の意識が自分のみに向けられることに安心していた。

口では何とでも言いながら、私の事を父として好いていてくれていることは充分に分かっている。
私とは違い、非情になりきれない甘い思想を持った男に育てたのも自分だ。

だから愛しい子供は一族にはない『何か』をもって他人を惹き付ける。
威圧的なものではなく、誰もが魅了される光のように。
私が囚われてしまったように――無自覚に色々な人間を魅了する。

愛しくて愛しくて愛しすぎて、誰にも触れさせないように、誰にも見られないように閉じ込めてしまえるものならばそうしたい。
親子以上の愛を我が子に感じている自分を、異常だとは思わない。
何故ならあの子は生まれた時から自分のものだと思っているから。
その身体も心も――全て何一つ余すことなく私のものだと信じて疑っていない。

本人の意思など関係ない。
それをあの子が不運だと言うのであれば、生れ落ちた場所が悪かったのだから諦めろとしか言えない。
何も望んでいなかった私に『心』と『欲』を与えたのは誰でもないあの子自身なのだから。



自分でもよく我慢が出来ていると感心する。
愛しい者を目前にどうして手を出さずにいられるのか。

それはあの子の心の中はまだ真っ白で、誰にも染められてはいないから。

団内に女性がいないのはその所為もある。
何か一つでも間違えて、あの子が要らない感情を覚えてしまっては困る。
同姓同士で愛し合う輩も団内には多いが、私の目が光っているその中であの子に手を出そうなどと考える愚かな者はいない。

『恋愛』というものをあの子が知る必要はない。
必要なのはあの子には私がいると言うことを自覚させること。

ただ、それを知るのは今は未だ早い。

気付いた時には手遅れで――。
逃げようがないほどまでに私の檻に閉じ込めた状態で、あの子にそれを自覚させねばならない。
その為ならば何を犠牲にしても構わない。


大切な大切な愛しい我が子。
凍りついた私の心を解かしてしまったのはあの子自身。

誰にも渡さない。

誰にも触れさせない。

こんな感情を持っている父親を、あの子はどう思うだろう。
この想いを伝えてしまったら、あの子はどんな反応を示すのだろう。

『正気か?』と言って苦しそうな顔でもするだろうか?
嬉しいとは思わないにしても、私の手の中から逃げ出そうとする事を諦めてくれるだろうか。


――いや、あの子は怒るだろう。

本気で私を軽蔑して、尚更逃げ出そうとするに違いない。
そうなると少々気に入らないが、そうなることにより手を出すきっかけが出来るかもしれないと思うと、それも悪くないと考えてしまう。

その時の事を考えるとゾクゾクする。
負けん気の強い黒い瞳に絶望の色が浮かぶのも良いかもしれない。

最近特にあの子は反抗的だから、日に日にその想いが強くなってきている。
それなのにあの子はその事に気付かぬまま、自分自身の首を絞めていくのだ。



楽しいね。
実に愉快だ。
一日でも早くに、お前が私のものになることを願っているよ。



そうして私は今日もまた、暗い想いを胸に秘めたまま愛しい子供に囁きかける――。








「シンちゃん、今日こそパパと一緒にお風呂に入ろうね!」
「うっせーー!近付くなこの変態親父ッ!!」
「シンちゃんったら言葉が乱暴だよ?メッ!」
「何が『メッ』だ!!ちくしょーッ!誰かこの馬鹿に付ける薬を開発してくれーーッ!!」
「あはは~酷いなぁシンちゃん。『馬鹿につける薬はない』って日本の言葉で言うじゃない。パパはシンちゃんが大好きなだけだよ」
「俺は迷惑してんだっての!いい加減に子離れしろよッ!!」
「無理無理~~」
「無理って言うなーーーッ!!」



――無理に決まってるでしょ?

『馬鹿につける薬』――そんなものあるわけがないんだから。
まぁ、あったところでそれを付ける気なんてさらさらないけど。
今の私の存在理由がお前なんだから。


でも、まぁ。


もし私が、どうしてもその薬を付けなければならない状況になったら――。



その時はお前を殺して私も一緒に死のうかな。



お前を愛する心を持たない私――そんな私に生きている価値はないからね…。





Ⅱ.






「―――ッ!!」

全身を襲う圧迫感で目が覚めた。
あまりの重い圧力に身体がすぐに動かない。
寝そべったまま深く深呼吸をし、ゆっくりとした動作で身を起こす。
そしてあたりを見回して、未だ夢の中ではないかを確かめる。

室内は真っ暗で暗闇にまだ慣れていない瞳では、自分の手元すら見えない。
どうやら夜明けまではまだまだ時間があるらしい。

シーツを握り締めている自分の手が、妙に汗ばんでいて気持ちが悪い。
そこで初めていつも抱き締めているものがないことに気付いた。
キョロキョロと辺りを見回すと、それはベットの下に落ちていた。
「ああ――ッ!ごめんね、シンちゃんッ!!」
慌てて拾い上げたそれは、愛しい子供を模った可愛らしい人形。
自分の寝相は悪くないし、例え眠っている最中に手放したとしても、それがすぐに落ちてしまうほど狭いベットでもない。
それなのに床に落ちてしまっていた人形に、夢見が悪かったのはこれの所為だと思った。

「シンちゃん…」
いとし子の名を呼ぶだけで胸が温かくなる。
そしてそれと同時に締め付けられるような痛みも感じる。


――あの頃は当然のように思っていた。

シンタローという存在の全てが自分のものであると。
あの子の全てが自分のもので、それが自然だとただ信じていた。
反抗されようと憎まれ口を叩かれようと、最終的にあの子にとって一番根深い位置に立つのは自分で、あの子が最後に必要とする人物も自分であるように育ててきた。

親子だとか血の繋がりだとか――そんなものは関係ない。
そんなものがなくともあの子は私のものだ――そう思ってきた。


だが、実際はどうしたことか。


あの島で起こった出来事が全てを変えた。

赤の番人。
青の番人の影。

そんなことは今となってはどうでもいいことだ。
重要だったのは、自分とあの子の間に血の繋がりがなかったということ。
その事実が自分の踏み固めてきたもの全てを崩してしまった。


『親子だとか血の繋がりだとか、そんなものは関係ない』――?


なんだかんだと言って絆や感情を重んじるシンタローは、血族という繋がりをもって自分の傍からは離れられないのだという自信が、無意識のうちにあったのだろう。

本当の親子ではなかった――その事実は確実に自分の自信を打ち砕いてしまった。




何ということだ。
関係ないと言っていたくせに。

結局、血の繋がりを一番気にしていたのは自分自身だったのだ――。




『髪の色が違っても秘石眼がなくともおまえは私の息子だ』――口にすればあの子は安心したような、嬉しそうな顔をした。

あの時の言葉に嘘はない。

でも心の中に出来てしまった穴は塞がらない。
その空洞に名前を付けるとすれば、それは『恐怖』。

あの子が私の元から離れていくかもしれない。
あの子の中の一番の存在が私でなくなるかもしれない。

揺ぎ無い自信は血の繋がりがなかったということだけで、あっさりと壊れてしまった。

表面上は今まで通りにしていても、内面はあの子を失う恐怖でいっぱいだ。
あの頃のようにあの子の心を押さえつけてでも押し付けていた愛情を、今はもう表に出す事は出来ない。
何がきっかけであの子が離れていくかがわからない。


先の見えない恐怖に怯えるなど――自分はいつの間にこんなに弱くなってしまったのか―…。


必要以上に『パパ』と口にしてあの子に伝える。

あの子の父親は私であると間違いなくそう思わせるように。
無くなってしまった血の繋がりという確かな絆を、少しでも埋めるように。
あの子の中の『マジック』という存在が、少しでも大きくなるように。



――だって、『父親』でない自分など、あの子の中には存在しないのだから――。



出来るなら戻りたい。
夢で見た、最悪な関係であったかもしれないあの頃に。
あの子にとっては鬱陶しい存在であった私も、あの頃は自信に満ち溢れていた。
今のようにあの子の言動や行動の一つ一つに、焦りを覚えることなどなかったあの頃に戻りたい。


しかしそれは無理な話で――。


あの島から戻ってきた私達の関係は、確実に少しずつ崩れ始めている。

あの子の様子が少しずつ違ってきている。

時折何かを言いたそうな目で見てくる時がある。
何を求めているのか知りたい反面、恐ろしくて聞けない思いもある。
だからいつものようにわざとふざけて誤魔化して――あの子の本心を言わせないようにしてしまう。


だって、その口から『必要ない』と言われてしまったら?

『他人のくせに』と言われてしまったら?


――それこそ理性が弾け飛ぶ。
感情が暴走し、あの子自身ですら私を止める事が出来ないだろう。
そして私はあの子の全てをめちゃくちゃにしてしまう。



――それだけは嫌だ。
今の自分は、あの頃の自分と比べてあまりにも違ってしまっている。
初めて心の底から欲しいと願った光を、自身で踏み潰すような真似だけはしたくない。


血の繋がりがないとわかった時から、ますます手放したくないと思うようになった。
血の繋がりがないとわかった時から、ますます遠ざかって行くと思った。


秘石を盗んで家出した時は不安などなかった。
なのに今は同じ場所にいても、不安が常に付き纏う。

苦しそうな瞳で見られるたびに。

真面目な声で『父さん』と呼ばれるたびに。

あの子が自分の手元から離れて行くことばかり考えてしまう。


「シンタロー…」
人形に向かって名を呼ぶ。

自分の作った人形は、いつも口元に笑みを浮かべて自分を見てくれる。


どうしてあの子を愛してしまったのだろう。

どうしてあの子じゃないと駄目なのだろう。


周りには自分を心から好いてくれている者がいるというのに。


求めているのはたった一人。


自分のあの子に対する愛情が、親子のそれであったならきっと何もかもが上手くいく。
血の繋がりなどなくとも、あの子と私には深い繋がりがあるのだと自信を持って言える。
なのに私が抱いているのは親子以上の愛情で――その所為で何もかもが上手くいかなくなるのだ。


『愛しているよ』
冗談交じりでそう言っては、白い目で見られたり眼魔砲が飛んできたりする。


そんな冗談ばかりの関係が辛い。
そんな冗談ばかりの関係を壊したくない。


あの子が私のことをどう思っているのかを知りたくて、でもそれを聞くのが怖くて知りたくない。

ちぐはぐな思いばかりが脳内に浮かんでは消えていく日々。


どうしたらこの泥沼から抜け出せるのか――答えは簡単なのにわからないふりをしている。


わかることはただ一つ。
あの子が自分の元から離れて行くことだけが怖いということ―…。



『ちくしょーッ!誰かこの馬鹿に付ける薬を開発してくれーーッ!!』

不意に蘇る夢の中のシンタローの声。



ああそうだね。
そんな薬があればいい。

お前を見る私の目が、父親としてお前を見ることが出来る――そんな薬。

お前を愛していない私なんて価値がない。
それは過去の自分自身が思ったこと。
そして今現在もそう思っていること。


でも。
でも今は――。


「…私はそれ以上に…臆病になってしまったよ」


ポツリと呟く。
腕の中には相変わらず微笑んでいる可愛らしい人形。

あの子を愛していない自分には価値がないと思っていた昔。
あの子を愛しているからこそ、あの子にとって不要な人間でいたくないと願う今。

もし本当にあの子を愛する気持ちが消えてしまう薬があるのなら、きっと今の自分なら飲むだろう。
あの子を愛していない自分はいらないと思う。
確かにそう思っているが――それ以上にあの子が私の想いに気付いて離れて行くことが怖い。


「シンちゃん…愛しているよ」

抱き締めた人形に口付けを落として囁けば、その声は虚しく室内に響くだけで胸の空洞はちっとも埋まらない。


この空洞を埋めるのはたった一人しかいないけれど。
その一人に自分の想いを伝えるわけにはいかなくて。


「シンちゃんはパパを本当に必要としてくれているかい?」


人形相手に馬鹿なことを聞いている自覚はあったが、聞かずにはいられなかった。



早く夜が明ければいい。
夜が明けてリビングに行けばあの子がいる。
朝食の用意はいつもあの子がしてくれる。


朝の光の中であの子を見れば、こんな不安は消えるから。
ぎこちない態度でも、それでもいつものように振舞おうとしてくれているから。
そんなあの子の前にいれば、自分はまだあの子にとって必要なのだと思えるから。

今までだったらこんな時は夜中だろうがあの子の元へと走った。
それが今では出来ない。

だから早く夜が明けて欲しい。
『親子』でいられる温かい部屋の住人になりたい。



「今夜はもう眠れそうにないね…」



愛しい子供の姿をした人形を抱き締めて、自分に言い聞かせるように呟いた――。









2006.05.30
2006.08.29サイトUP


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