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dss
君の救いになりたいよ

例えそれが僕の役目ではないと分かっていても――







例えば帰ってきた時に交わされる挨拶。
例えばリビングで寛いでいる時の空気。

今まで何ともなかったことが、そうじゃなくなっていることに気付いた。
いつも通りにじゃれ合う(?)時ですら――何かが違っている。

――どうしたの?

そう聞きたいのに、何故か聞いたら駄目な気がして聞けない。


せっかく帰って来てくれたのに。

あんなに大好きだったあの子の傍ではなく、僕達の元へ。


せっかく元通りになると思っていたのに。
最近やけに不自然な態度。
僕やキンちゃんをはじめ、他の人と接している時は、そんな顔、しないのに。


どうして?


ねぇ、シンちゃん。


どうして――おとーさまと一緒に居る時だけ、あんなに哀しい瞳をしているの?






6.糸






「シンちゃん、大丈夫?」

「何が?」

突然の僕の問いかけに、黒い瞳が此方を向いた。

「うーんと…」

『何が?』と聞かれて戸惑う。
僕自身もよく分かっていないから。
分かっているのは、ある一人を対象にシンちゃんがシンちゃんらしくないということだけ。
今だってそう。僕に対する瞳はいつもと同じなんだ。
だから余計に困ってしまって――。

「えと、ね、大丈夫?」

――それしか言えなかった。

「お前のほうが大丈夫かよ?」
「むぅッ、そんな目で見なくても…」
ジロッと白い目で見られてたじろいでしまう。
見られる要因は分かっていたから、大袈裟な反論は出来なかった。
「へんなやつ」
シンちゃんは苦笑しながらそう言うと、頬を膨らました僕の頭を優しくくしゃりと撫でてくれた。
普段なら『馬鹿じゃねーの』という言葉と共に拳骨の一つでもやってくるけど、僕の態度に何かを思ったのか、シンちゃんの僕を見る目は優しかった。

シンちゃんは人の『本気』を読み取るのが上手だ。
普段は口が悪くってちっとも優しくなくて、短気でいつも暴力を振るったりするくせに、本当に困っている時や本当に辛い時はふざけたりなんかしないで、本気で心配してくれるし、本気で相談に乗ってくれる。
皆はシンちゃんの事を『俺様』とか言っているし、シンちゃん自身もそれを認めているけれど、本当はそうじゃない。


自分自身のことしか考えない人間が、あんなに沢山の人に慕われるわけがないのに。
自分自身のことしか考えない人間が、あんなに沢山の人を救う事なんで出来ないのに。


シンちゃんは沢山の人の心を救ってくれた。
おとーさまをはじめとする僕達青の一族を。
殺し屋と言う殺伐とした団体の中に生きる人達を。

だからシンちゃんは皆に愛されてる。
シンちゃんが一番望んでいるのはあの子の傍だと言うのを分かっていて、総帥という鎖で捉えて離さないくらいに。

シンちゃん自身が今の道は自分で選んだのだと言っていても、僕達は知っている。
時折酷く切なげに遠くを見ていることを。
あの優しさに溢れた島を思い出し、懐かしく思っていることを。

だからシンちゃんが突然いなくならないか、心配でたまらない。

シンちゃんが個人的に何かを望むことは、実は凄く少ない。
『何かをしたい』『何かが欲しい』――そんな欲求を聞くことは殆どない。
シンちゃんはいつも誰かの為に頑張っている。
そんなシンちゃんが望む事があるのなら、僕はそれを出来るだけ叶えてあげたいと思ってる。

――あの子の傍に帰りたいという願い以外なら。



ねぇシンちゃん、どうしておとーさまの目を見て話さないの?



『アイツが真面目に俺に向き合うなんざ、そうそうねーからな』――あの日のシンちゃんの言葉が蘇る。



あの日――シンちゃんの本音を聞いたあの日から、何が変わってしまったの?



『…どんなに本気にさせようとしたって――アイツはすぐに逃げるんだから…』



あんなに哀しい瞳をしたシンちゃんは初めて見た。
あんなに辛そうなシンちゃんの声は初めて聞いた。

大人として自分を見てくれないおとーさまに腹を立てているの?

違う。
違うよね?
そうじゃない。
もっと――もっと何か別のもの。



ねぇシンちゃん、僕はあの後におとーさまに会ったんだよ。

おとーさまは相変わらずふざけた事を言っていたけど、どうしてかな僕にはふざけているようには聞こえなかったんだ。
シンちゃんと向き合ってあげてと言おうとしてたんだ。
でも言えなかった。――言ったら何かが壊れるような気がして、怖かったんだ。
一体何が怖いって言うんだろうね?僕達仲良しな親子なのに。

僕はシンちゃんもおとーさまも大好きだよ。

だからシンちゃんが今辛い想いを隠しているのなら、それを見つけて助けてあげたいって思ってる。
でもシンちゃんはそれを許してくれないでしょう?
シンちゃんは人の心配はするくせに、自分の事になると本気で逃げるから。
心配をかけることが嫌なんじゃなくて――自分の心に踏み込まれる事が怖くて――…。

本当は様子の変だったおとーさまのことも、シンちゃんに教えてあげたいけど。
きっとあの時のことは教えたら駄目なんだと思う。
おとーさまの言っていた『本気』は、シンちゃんの望んでいる『本気』とは違う気がするから。


おとーさまの『本気』はきっとシンちゃんを傷付ける――。


だから言えない。
だから言わない。
でも言わなかったらシンちゃんはきっといつまでも苦しいままなんだよね。


…僕はどうしたらいいかな?


おとーさまもシンちゃんも両方大好きだよ。
でも護りたいのはシンちゃんなんだ。
今まで沢山僕を救ってくれたから。
僕にできる事なんて、些細な事でしかないけれど、少しでも力になりたい。

ねぇシンちゃん。
シンちゃんはどうしたい?

おとーさまと昔のように戻りたいの?
おとーさまに何を望んでいるの?
おとーさまと何があったの?

シンちゃんの為に何かしたいのにしてあげられない――ごめんね、僕は無力だね。

シンちゃんとおとーさまの関係は酷く複雑で、僕にはそこに入る隙間すらない。
ただ見ているだけしか出来ないよ。

二人の間の空気が少しずつ壊れ始めていることに、シンちゃんは気付いている?
そしてその空気を壊しているのがシンちゃん自身だということも――。


シンちゃん。

シンちゃん。
シンちゃん――。

僕はシンちゃんを助けたいよ。
どうしたらいつものシンちゃんに戻ってくれるの――?





「グンマ…?」
「――ッ!」

不意に目の前に現れた、真っ黒な瞳に心臓が止まりそうになった。

「シ、シンちゃん…ッ!?」
慌てて飛び退くと、シンちゃんがホッと息を付いた。
「突然黙り込むから何事かと思ったぜ」
お前やっぱり今日はヘンだと笑いながらも、シンちゃんの瞳は僕の事を心から心配していた。

ほら、こんな時でさえ――自分自身が傷付いている時でさえ、人の心配ばかりしている。

「…ごめんね、何でもないよ。ちょっとぼーっとしちゃった」
へへ、と笑って見せると、シンちゃんは一瞬怪訝そうな顔をして、それでもそれ以上は聞いてこなかった。
言わない事を無理に聞き出さないのもシンちゃんの優しさだ。

「シンちゃん」
「何だヨ」
「んと、ね…」
自分から話し掛けておいて、言葉に詰まってしまう。

何を聞いても駄目なような気がしたし、何を言ってもシンちゃんを傷付けるような気がした。

「今日、夕飯にオムライスが食べたいな~って…」
だからどうでもいい話をした。それ以外に何を言えばいいか分からなくて。
「はぁ!?真面目な顔して言う事かよ」
シンちゃんは呆れた顔をしている。
やっぱり僕とお話する時は『いつも』のシンちゃんだ。
「うん、駄目?」
下から見上げるようにしてシンちゃんを見ると、シンちゃんは大きく溜息を付いた後に「しゃーねーな」と言って頬をぽりぽりと掻いた。


ああ――こんなにも普通なのに。

僕とシンちゃんは本当にいつも通りなのに。
たった一人の存在が現れるだけで、シンちゃんはシンちゃんでなくなる。




シンちゃんの周りにはいつもぐるぐると色んな糸が絡まっていて。




あの子なら――そう、あの子ならそんなシンちゃんの絡まった糸を解くことが出来るんだ。。
僕やキンちゃんや叔父さま達ではなく、南の島のあの子なら。
二人の間に何があったのかと――僕では聞けないことでも、あの子にならシンちゃん自ら話をするのだろう。
それが僕には悔しくて堪らない。

帰ってきてくれたシンちゃんが遠い。
この前、やっと歩み寄れたと思ったのに、また遠ざかってしまった。

ただ見ているだけしか出来ないなんて辛い。
見守る優しさもあるけれど、見守ろうと思うことと、見守るしか出来ないということは違う。
僕はシンちゃんを助けたいんだ。

それでも――やっぱり僕がそれを口にするということは、シンちゃんを傷付けるということで…。



「シンちゃん…」

「どうしたんだよ?お前、今日変だぞ?」



ただ名前を呼ぶことしか出来ない僕に、シンちゃんは困ったような顔をした。



ごめんね、シンちゃんの救いになれなくて。

ごめんね、シンちゃんの支えになれなくて。

ごめんね、シンちゃんを縛る糸を解いてあげられなくて。



「何かあったのか?俺で良かったら話してみろよ。聞いてやるから」



何も言わずに泣きそうになる僕の頭を、シンちゃんがそっと撫でながら言ってくれた。



その手が思った以上に温かくて――僕は胸が詰まって何も言えなくて、ただ俯くしかなかった。






END


2007.03.29

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