2.初めての
【Side:キンタロー】
『大切な人との記念日に贈り物としてどうですか?』
ショーウィンドウに飾られていたものに心を惹かれて眺めていると、店員が笑顔でそう言った。
見ていたものは赤い宝石が埋め込まれたピアス。
高価なものとはいえない小さな宝石だったが、シンプルなそのデザインはシンタローに似合うだろうと思って見ていた。
あらためてその従兄弟の顔を思い浮かべた後に、もう一度ピアスを見る。
(やはり似合うな…)
思い浮かべた上で納得した。
そんな思いを読んだのか――。
「如何ですか?」
念を押すように店員がもう一度商品を勧めてきた。
断る理由はない。
「貰おう」
そう答えると、店員は笑顔で「ありがとうございます」と言った。
【Side:シンタロー】
「やる」
そう言われてポンと投げられたものをキャッチした。
「何だコレ?」
手の中の小さな箱を物珍しげに眺めていると、金髪の従兄弟が『開けてみろ』と言う。
細いリボンが掛けられている華奢なつくりの箱を開けると、中にはピアスが入っていた。
「ピアス?」
思わず首を傾げると、キンタローは『お前のだ』とさらりと言った。
「お前が買ったの?」
――今日、何か特別な日だっけか?と尋ねると、キンタローは「いや」と答える。
「偶然見つけて似合うと思った」
「ふーん…」
ふわふわの生地に埋もれるようにして並んでいるピアスを手にとってみる。
綺麗な赤い石だ。派手ではない装飾は確かに嫌ではない。
「気に入ったか?」
そう聞いてくるキンタローの目には、はっきりと『気に入らないはずがない』と書いてある。
相変わらずだなと思いながらも礼を述べた。
「ん、まぁな。サンキュ…でもよォ」
とりあえず貰った事に対する礼をしてみたものの、一つだけ問題点があるのだ。
「何だ?」
真顔で聞き返すキンタローは、はたしてそれに気付いているのか――。
「俺さ、ピアスの穴、開けてねーんだけど」
一番根本的な事だった。
だが、貰ったこれを付ける為には耳に穴を開ければならないだろう。
ホラ、と髪を掻き揚げてキンタローに耳を見せてやる。
今まで特に付ける必要性を感じていなかったので、開けていなかっただけなのだから、これを機に開けてもまぁいいかと考えてもみた。
そんな俺に、キンタローは、「知っている」とたった一言で答えた。
そう答えるということは、準備の良いこの男のことだ、穴を開ける道具も用意してきたのだろう。
「んじゃ、折角貰った事だし付けてみるか」
そう言ってキンタローに手を差し出すと、何故かキンタローは不思議そうな顔をした。
「なんだ?」
「いや、『なんだ?』じゃなくて…穴開けなきゃ付けれねーだろ?だからその道具」
出せよと手をさらに突き出すと、予想外の返事が返ってきた。
「そんなものはないし、あける必要はない」
「―――はぁ!?」
きっぱりと言い切ったキンタローに、思わず間の抜けた声を出してしまった。
「お前の身体の何処であろうと傷付ける事は許さん」
「許さんって…お前ね」
俺は思わずガクリと肩を落としてしまった。
この男は一体何を考えているのだろうと心の底から思う。
「人にピアスを渡しといて、付けるなってか?じゃあ何のためにくれたんだよ」
「お前に似合うと思ったからだ」
「付けねーと似合うもクソもねーだろ?」
――お前、矛盾って言葉知ってるか?
そう尋ねれば、キンタローはムッと顔を顰めて『馬鹿にするな』と怒った。
「今のお前の発言が矛盾してるって言ってんだよ。わかれよな」
「そうかもしれんが駄目だ」
「――ナニが?」
「穴を開けることだ」
「………」
――本当はコイツ、阿呆なんじゃねーの?と思ってしまった。
口に出して言えば余計に煩くなりそうなので言わないが、正直呆れてしまっている。
「お前、俺にコレ付けてほしくねーの?」
ピアスを目前に翳して見せてやると、キンタローは暫く考えた後に頷いた。
「確かにこれはお前に似合うと思ったから買った。いいか、この俺がわざわざ宝石店で立ち止まってまで、お前に似合うと思ったんだ」
「二度言うな」
相変わらずな言いぶりに、とりあえずツッコミを入れる。
「だからお前がコレを付けている姿は見たい」
「なら穴は開けていーんだな?」
キンタローのその答えに念を押してみたら、キンタローはやはり駄目だと言った。
「お前の身体が傷付く事は許さんと言った。誰であろうとお前には傷付けさせん。それがお前自身であったとしてもだ」
キンタローは本心でそう思っているらしく、頑として譲ろうとしない。
「だーかーらーーッ」
堂々巡りだと脱力する。
キンタローは頭がいいくせに、時々本当に理屈の通らない事をムキになって言う。
自分としてはせっかく貰ったのだからそれを身に付けて、『見たい』と言ったこの男にその姿をみせてやりたいのだが――。
何かいい解決策はないのかと思案してみると、一つだけ思い当たるものが出てきた。
「なぁキンタロー、それじゃあお前が開けてくれよ」
「―――何!?」
俺の提案に、キンタローがおかしな顔をした。
意味が分からなかったのだろう。ならばきちんと説明してやればいいだけのこと。
「その『傷付けるのは駄目』ってやつは、どーせお前だけは『例外』なんだろ?」
俺の身体に傷付けるのは誰であっても許さないとキンタローは言ったが、南国から此処へ戻ってきた当初はそのキンタローに、幾度となく命を狙われ傷付けられた。――勿論同じだけやり返しはしたが。
「だからさ、お前が俺の耳に穴を開けてくれりゃーそれでいいじゃんか」
――我ながら良い案だと、俺はニヤリと笑ってキンタローを見た。
【Side:キンタロー】
シンタローが心底困っているのは分かった。
自分でも無理を言っていることくらいはわかっていたが、理屈ではないのだ。
渡した赤い石は確実にシンタローに似合うだろうから付けて欲しいと思っている。
しかしながらそれを付けるためにはシンタローの耳に穴を開けなければならないというのだ。
――それだけは絶対に嫌だった。
総帥という立場になってもシンタローと言う男は、率先して戦場へ出向く事が多かった。
誰一人死なせないという信条を掲げるのが悪い事だとは思わない。
ただ、その為に誰かを庇ったりすることで、アイツは身体に傷を増やしていった。
正直俺はその傷を見る度に腹を立てていた。
シンタローを傷付けていいのは自分だけだと思っていたからだ。
だから傷を見る度に苛々して、つい喧嘩を売ってしまっていた。
口に出しては一度も言わなかったが、俺以外の誰かに付けられた傷をいつまでも残しておくなと言いたかった。
今思えばそれは『嫉妬』と言える感情で――。
誰が付けても――誰が触れても嫌なのだ。
シンタローという男の身体にも心にも残るのは俺だけでいいと、今ははっきりとそう思っている。
だからそれがシンタロー自身であったとしても、耳に穴を開けるのは許せない。
赤い石は必ずシンタローに似合う。
何せ俺が見立てたのだから。
自分が選んだものをシンタローが身に付けるのだと思うと嬉しくなる。
だが――その所為でその身体に傷が付くとわかり、自分は見立てを誤ったのだと知った。
シンタロー自身はどうやら気に入ってくれたらしく、今すぐにでも穴をあけようとしているのが分かる。
『駄目だ』と言った俺に対しとても不満そうだ。
けれど譲るわけにはいかなかった。
ピアスを渡す前にどうしてこのことに気付かなかったのだろうと後悔している。
こうなれば無理矢理にでも取り返して、別のものを贈ればいいと思っていた時だった。
「なぁキンタロー、それじゃあお前が開けてくれよ」
暢気な声でシンタローがそう言った。
『お前は例外なんだろ?』――そう言って顔を覗き込まれて、一瞬だけ固まってしまった。
――この男は突然の行動が多すぎる。
人の気も知らないで嬉しそうにニコニコしながら覗き込んでくる姿にくらりときた。
『可愛いから止めてくれ』と、俺の口からでも言わせたいのかと思う。
勿論本人は無意識の行動なのだから、余計にタチが悪い。
「キンタロー?」
「ッ!」
どうしたんだ?と言うシンタローの声で我に返った。
「…いや、何でもない。気にするな」
さりげなく身体を離すように一歩だけ下がる。
「――で、開けてくんねーの?」
人の気も知らないで、ピアスを片手に耳を見せるシンタローに溜息が零れた。
(コイツは本当にわかっていない…)
頭痛すら覚えると文句を言いたくなるほどだ。
「駄目だと言っている」
きっぱりと言い切ってやった。
確かにコイツに傷を付けていいのは俺だけだが、それとこれとは話が違う。
「なんでだよ?」
返答が不満だったのだろう。
だが自分はどうやってもコイツが望む返事はやれない。
眉を顰めているシンタローに無言のまま手を伸ばし、髪を払って隠れていた耳に触れた。
「ッ!」
不意打ちの行動にシンタローはビクッと肩を竦めたが、お構いなしでその耳たぶをやんわりと撫で上げる。
そして――ひんやりとして柔らかな、この触り心地のいい耳に穴が開くことを想像して、やはり駄目だと実感して念を押す。
「いいな、穴を開けることは許さん。ピアスは別のものと交換してくる」
呆然とするシンタローの頭を引き寄せて、その耳元に息を吹きかけるようにして囁く。
「―――ッ!!」
ビクリとまたシンタローが揺れた。
この反応は好ましいと思いながら手を離すと、シンタローは弾かれたように素早く離れて行った。
「てめ…ッ!何しやがる!?」
「ただ話をしただけだが?」
――何か問題でもあったか?と、何もなかったような顔でそう言ってやると、シンタローは『グッ』と言葉を詰まらせた。
本当に分かりやすいヤツだ――思わず苦笑する。
こんな反応をされるものだから、必要以上に構いたくなるのだと――俺がそう思っていることなど、コイツは知らないのだろうなと、口には出さずにそう思った。
【Side:シンタロー】
…結局ピアスの穴は開けないままになった。
キンタローの人を喰った態度にだんだんムカついてきて、意地でも開けてやると宣言したのだが、それがどうやら拙かったらしく、何故かそのまま押し倒される羽目にあってしまった。
そしてそのまま――ま、まぁ、その、なんだ…い、色々あって――///、とッ、とにかく!!うやむやにされてしまったのだ。
「ちくしょー…」
口からは文句しか出てこない。
今思い出しても腹が立つ。
キンタローはクールに見えて内面は俺よりもねちっこいと思う。
さんざん弄られて焦らされて、『絶対に開けない』と誓うまで解放されないままひたすら責め続けられて――最終的には意識が朦朧とする中、誓約書まで書かされてしまった。
たかだかピアスの穴一つで大袈裟すぎるにも程があるだろーが。
呆れて物も言えやしない。
「ぜってーに納得いかねぇゾ…」
俺は今、ベットの中から抜け出せない状態でいる。
さっさと素直にピアスを諦めれば良かったのだが、意地もあって抵抗しまくったのが悪かった。
朝まで続いた責め苦に(朝まで抵抗した自分も偉いと思う)、身体が全く言う事を聞いてくれない状態だ。
腰は痛いし頭は重いし身体はだるいしで散々だ。
「元はと言えばピアスなんか買ってきやがるから…ッ」
キンタローがピアスではなく他のものを買ってきていれば、おそらくこんなことにはならなかった筈だと恨み言を述べた所でもう遅いのは分かっているのだが――。
「クソッたれ…」
どうしても文句を言いたかった。
――本人の前でそれを言えば、また酷い目に合わされそうなので、本人がいない今しか言えないが…。
そして今回の原因たるその当人はと言うと――朝起きて俺の身を綺麗にした後に、ピアスを持ってさっさと部屋を出て行ってしまった。
今頃はピアスの石と同じ石をあしらった、別の商品を物色しているだろう。
そう思うと胸がモヤモヤとした。
「…別にピアスはピアスで貰っといたのに…」
キンタローが初めて自分に買ってきたものだった。
ただ似合うと思ったからと、そんな理由で。
その気持ちは本当に嬉しかったから、例え身に付けないとしてもあのピアスは手に持っていたかった。
こういうところは本当に気が回らないと思う。
もう少し此方の感情を読み取ってくれてもいいだろうに――そこまで考えて、ふと我に返り顔が熱くなった。
「うわ…ッ、なんだコレ…!めちゃくちゃ恥ずいじゃねーかよッ!!クソッ!!キンタローの野郎ッ!!」
――何でこの俺様が乙女思考に走らなきゃならんのだ!!
苛立ち紛れに枕をドアへとぶん投げた。
ボスッと鈍い音を立ててドアにぶつかる枕に、少しだけ鬱憤が晴れた気がした。
「…帰ってきたら絶対一発ぶん殴ってやっからなッ!!」
心にそう誓う俺は、その時はまだ知らなかった。
キンタローが交換してきた品物に、また頭を悩ませる羽目になるなど――。
【Side:キンタロー】
「――ッくしゅ!!」
「風邪ですか?最近流行っていますからねぇ」
妙にむず痒くなってくしゃみをした俺に、昨日の店員が苦笑した。
「――いや、そういうわけではないのだが…」
「それでは誰かに噂をされているのかもしれませんね」
そう言われて瞬時に思い浮かんだのは、先程まで共に居た従兄弟の姿。
「…そうかもしれんな」
昨日(というか今日の朝まで)散々なことをしてやった自覚は充分にあった。
素直に諦めればいいのに、意地でもピアスを付けると言い張るものだから、此方もついムキになってしまった。
結果的には諦めさせる事が出来たのだから、自分としては全く問題ないのだが、おそらく当人はそうではないだろう。
今頃、自分に対する恨み言でも吐いていることは安易に想像出来た。
意地っ張りで素直ではなが、それでも自分の心を占めている従兄弟の、その拗ねた顔を思い出していると自然と口元が緩む。
あの赤い石を付けさせる事が出来ずに残念だったが、それと同等に似合うものを探せばそれでいいと、ショーケースを眺めていると――ある一角に目が留まった。
じぃっと眺めていると、店員が「あぁ」と笑顔になる。
「本日からのフェアなんですよ」
――デザイナーが一つずつ丁寧に作った、当店オリジナルの自慢の商品です。
そう言われてますます興味を持った。
ショーケースの中には数は多くないが、何種類かの指輪が並んでいた。
中に埋め込まれた石は、あの気に入った赤い石ではなかったが、指輪に合った品の良い形をしていてどの商品も目を引く。
指輪も悪くない――そう思った。
あまり大きな石でなければ邪魔にはならないだろう。
指輪を付けている姿を見たことはないが、これならばきっと似合う。
そう考えて店員を呼んだ。
「なんでございましょう?」
「悪いが昨日買ったピアスとこれを交換してくれ。勿論追銭はする」
ケースの中の指輪を指差して言うと、店員は「あぁ、そういうことですか」とよくわからないことを言った。
「此方がご入用だったのでしたら、昨日のうちにお伺いしておけば良かったですね。申し訳ございません」
「?…いや、それは別に構わんが」
「サイズは如何致しますか?」
「サイズ?」
サイズと聞かれて一瞬何のことだと思ったが、すぐに指に合ったサイズが必要だと言う事に気付いた。
アイツと俺とはほぼ同体型であるから、俺の指に合わせればいいと思う。
「ああ、このサイズにしてくれ」
そう言って指を差し出すと、店員は「サイズを測らせて頂きますね」と俺の指に触れる。
「もう一つのサイズは如何しましょう?それと内側にお名前を彫る事も出来ますが」
「?」
俺の指のサイズを測った後、店員がにっこりと笑って言う。
どういうことだと思ったが、あらためてショーケースを眺めると、どうやらケース内の商品は全てペアリングであることが分かった。
シンタローに贈る分だけで良かったのだが、ペアのものを一つだけくれと言うのも気が引ける。
「サイズは同じにしてくれ」
揃いで同じものを持つ事に子供じゃあるまいしと、抵抗を感じないわけでもなかったが、相手がシンタローならばいいかと思い店員にそう告げると、何故か店員は酷く驚いた顔をした。
「お、同じサイズで?」
目をぱちぱちさせながら確認されて、不審に思いながらも頷く。
「ああそうだ。それと名前は――『キンタロー』と『シンタロー』だ」
「…『キンタロー』様と…『シンタロー』様…ですか?あの…『シンタロー』様は…男性の方で…?」
「――何か問題でも?」
睨んだつもりはなかったが、店員にはそう見えたのかもしれない。
「いッ、いえ!畏まりました!!そ、それでは『キンタロー』様と『シンタロー』様でお名前を入れさせて頂きます!」
ビクリと怯えた様子でそう言うと、慌てて奥へと引っ込んで行ってしまった。
「……?」
同じサイズであることに何故あんな顔をされなければならないのかと、少々不満に思いながらももう一度ショーケースを見る。
たった今選んだこの指輪を、シンタローは喜んでくれるだろうか?
自分が見て趣味の良いデザインだと思ったのだから、おそらくシンタローから見てもそう思うはずだ。
指に付けたその様子を思い浮かべると胸が温かくなる。
――きっと気に入ってくれるだろう。
誰かに物を贈る事がこんなに楽しいとは思ってはいなかった。
勿論贈る相手にもよるのだろうが、自分は今確実に満足している。
早く渡したいと、心からそう思っている。
「あ、あの…お客様申し訳ございません」
先程の店員がおずおずとやってきた。
言い難そうに口を濁らせる店員に話を促す。
話を聞くと、同じサイズのものはすぐには揃わないといった内容だった。
受注生産のような形になるから少し時間がかかるのだと言う。
小さいサイズであればすぐに渡せると言われたが、それは断ることにした。
「揃った時点で引き取りに来るから連絡してくれ」
そう答えて名刺を渡すと店員はもう一度『申し訳ございません』と言って頭を下げた。
仕上がり予定日を聞いて店を出ると、日が大分高い位置へと来ていた。
もうそろそろ昼食時だろう。
シンタローは今起き上がれない状態なので、早く戻って昼食を作ってやらねばと思う。
指輪の事は内緒にしておいた方がいいだろう。
どうせならば現物を見せて驚かせたい。
代わりの商品を取り寄せてもらったとでも言えば、すぐに渡せなくとも納得するはずだ。一月まではかからないと言われたから、来月に遠征の予定が入っているがその前には渡せそうだ。
もう一度シンタローがあの指輪を付けている様子を思い浮かべて見る。
「…うむ」
――間違いなく似合うな。
我ながらいい見立てをしたと満足する。
そうしてシンタローのことを思い出していると、無性に本人に会いたくなって――俺は岐路を急ぐ事にした。
誰かに物を贈るなど初めてで、俺は何処か浮かれていた。
それが大切な相手へのものだから尚更嬉しくて。
だから―――。
宝石店のショーケースに貼られていたポップには全く気付いていなかったのだ。
そう――後日その指輪を渡した時に、シンタローに怒鳴られることになるとは、その時は夢にも思っていなかった――。
END
2006.05.07
2006.08.20サイトUP
【Side:キンタロー】
『大切な人との記念日に贈り物としてどうですか?』
ショーウィンドウに飾られていたものに心を惹かれて眺めていると、店員が笑顔でそう言った。
見ていたものは赤い宝石が埋め込まれたピアス。
高価なものとはいえない小さな宝石だったが、シンプルなそのデザインはシンタローに似合うだろうと思って見ていた。
あらためてその従兄弟の顔を思い浮かべた後に、もう一度ピアスを見る。
(やはり似合うな…)
思い浮かべた上で納得した。
そんな思いを読んだのか――。
「如何ですか?」
念を押すように店員がもう一度商品を勧めてきた。
断る理由はない。
「貰おう」
そう答えると、店員は笑顔で「ありがとうございます」と言った。
【Side:シンタロー】
「やる」
そう言われてポンと投げられたものをキャッチした。
「何だコレ?」
手の中の小さな箱を物珍しげに眺めていると、金髪の従兄弟が『開けてみろ』と言う。
細いリボンが掛けられている華奢なつくりの箱を開けると、中にはピアスが入っていた。
「ピアス?」
思わず首を傾げると、キンタローは『お前のだ』とさらりと言った。
「お前が買ったの?」
――今日、何か特別な日だっけか?と尋ねると、キンタローは「いや」と答える。
「偶然見つけて似合うと思った」
「ふーん…」
ふわふわの生地に埋もれるようにして並んでいるピアスを手にとってみる。
綺麗な赤い石だ。派手ではない装飾は確かに嫌ではない。
「気に入ったか?」
そう聞いてくるキンタローの目には、はっきりと『気に入らないはずがない』と書いてある。
相変わらずだなと思いながらも礼を述べた。
「ん、まぁな。サンキュ…でもよォ」
とりあえず貰った事に対する礼をしてみたものの、一つだけ問題点があるのだ。
「何だ?」
真顔で聞き返すキンタローは、はたしてそれに気付いているのか――。
「俺さ、ピアスの穴、開けてねーんだけど」
一番根本的な事だった。
だが、貰ったこれを付ける為には耳に穴を開ければならないだろう。
ホラ、と髪を掻き揚げてキンタローに耳を見せてやる。
今まで特に付ける必要性を感じていなかったので、開けていなかっただけなのだから、これを機に開けてもまぁいいかと考えてもみた。
そんな俺に、キンタローは、「知っている」とたった一言で答えた。
そう答えるということは、準備の良いこの男のことだ、穴を開ける道具も用意してきたのだろう。
「んじゃ、折角貰った事だし付けてみるか」
そう言ってキンタローに手を差し出すと、何故かキンタローは不思議そうな顔をした。
「なんだ?」
「いや、『なんだ?』じゃなくて…穴開けなきゃ付けれねーだろ?だからその道具」
出せよと手をさらに突き出すと、予想外の返事が返ってきた。
「そんなものはないし、あける必要はない」
「―――はぁ!?」
きっぱりと言い切ったキンタローに、思わず間の抜けた声を出してしまった。
「お前の身体の何処であろうと傷付ける事は許さん」
「許さんって…お前ね」
俺は思わずガクリと肩を落としてしまった。
この男は一体何を考えているのだろうと心の底から思う。
「人にピアスを渡しといて、付けるなってか?じゃあ何のためにくれたんだよ」
「お前に似合うと思ったからだ」
「付けねーと似合うもクソもねーだろ?」
――お前、矛盾って言葉知ってるか?
そう尋ねれば、キンタローはムッと顔を顰めて『馬鹿にするな』と怒った。
「今のお前の発言が矛盾してるって言ってんだよ。わかれよな」
「そうかもしれんが駄目だ」
「――ナニが?」
「穴を開けることだ」
「………」
――本当はコイツ、阿呆なんじゃねーの?と思ってしまった。
口に出して言えば余計に煩くなりそうなので言わないが、正直呆れてしまっている。
「お前、俺にコレ付けてほしくねーの?」
ピアスを目前に翳して見せてやると、キンタローは暫く考えた後に頷いた。
「確かにこれはお前に似合うと思ったから買った。いいか、この俺がわざわざ宝石店で立ち止まってまで、お前に似合うと思ったんだ」
「二度言うな」
相変わらずな言いぶりに、とりあえずツッコミを入れる。
「だからお前がコレを付けている姿は見たい」
「なら穴は開けていーんだな?」
キンタローのその答えに念を押してみたら、キンタローはやはり駄目だと言った。
「お前の身体が傷付く事は許さんと言った。誰であろうとお前には傷付けさせん。それがお前自身であったとしてもだ」
キンタローは本心でそう思っているらしく、頑として譲ろうとしない。
「だーかーらーーッ」
堂々巡りだと脱力する。
キンタローは頭がいいくせに、時々本当に理屈の通らない事をムキになって言う。
自分としてはせっかく貰ったのだからそれを身に付けて、『見たい』と言ったこの男にその姿をみせてやりたいのだが――。
何かいい解決策はないのかと思案してみると、一つだけ思い当たるものが出てきた。
「なぁキンタロー、それじゃあお前が開けてくれよ」
「―――何!?」
俺の提案に、キンタローがおかしな顔をした。
意味が分からなかったのだろう。ならばきちんと説明してやればいいだけのこと。
「その『傷付けるのは駄目』ってやつは、どーせお前だけは『例外』なんだろ?」
俺の身体に傷付けるのは誰であっても許さないとキンタローは言ったが、南国から此処へ戻ってきた当初はそのキンタローに、幾度となく命を狙われ傷付けられた。――勿論同じだけやり返しはしたが。
「だからさ、お前が俺の耳に穴を開けてくれりゃーそれでいいじゃんか」
――我ながら良い案だと、俺はニヤリと笑ってキンタローを見た。
【Side:キンタロー】
シンタローが心底困っているのは分かった。
自分でも無理を言っていることくらいはわかっていたが、理屈ではないのだ。
渡した赤い石は確実にシンタローに似合うだろうから付けて欲しいと思っている。
しかしながらそれを付けるためにはシンタローの耳に穴を開けなければならないというのだ。
――それだけは絶対に嫌だった。
総帥という立場になってもシンタローと言う男は、率先して戦場へ出向く事が多かった。
誰一人死なせないという信条を掲げるのが悪い事だとは思わない。
ただ、その為に誰かを庇ったりすることで、アイツは身体に傷を増やしていった。
正直俺はその傷を見る度に腹を立てていた。
シンタローを傷付けていいのは自分だけだと思っていたからだ。
だから傷を見る度に苛々して、つい喧嘩を売ってしまっていた。
口に出しては一度も言わなかったが、俺以外の誰かに付けられた傷をいつまでも残しておくなと言いたかった。
今思えばそれは『嫉妬』と言える感情で――。
誰が付けても――誰が触れても嫌なのだ。
シンタローという男の身体にも心にも残るのは俺だけでいいと、今ははっきりとそう思っている。
だからそれがシンタロー自身であったとしても、耳に穴を開けるのは許せない。
赤い石は必ずシンタローに似合う。
何せ俺が見立てたのだから。
自分が選んだものをシンタローが身に付けるのだと思うと嬉しくなる。
だが――その所為でその身体に傷が付くとわかり、自分は見立てを誤ったのだと知った。
シンタロー自身はどうやら気に入ってくれたらしく、今すぐにでも穴をあけようとしているのが分かる。
『駄目だ』と言った俺に対しとても不満そうだ。
けれど譲るわけにはいかなかった。
ピアスを渡す前にどうしてこのことに気付かなかったのだろうと後悔している。
こうなれば無理矢理にでも取り返して、別のものを贈ればいいと思っていた時だった。
「なぁキンタロー、それじゃあお前が開けてくれよ」
暢気な声でシンタローがそう言った。
『お前は例外なんだろ?』――そう言って顔を覗き込まれて、一瞬だけ固まってしまった。
――この男は突然の行動が多すぎる。
人の気も知らないで嬉しそうにニコニコしながら覗き込んでくる姿にくらりときた。
『可愛いから止めてくれ』と、俺の口からでも言わせたいのかと思う。
勿論本人は無意識の行動なのだから、余計にタチが悪い。
「キンタロー?」
「ッ!」
どうしたんだ?と言うシンタローの声で我に返った。
「…いや、何でもない。気にするな」
さりげなく身体を離すように一歩だけ下がる。
「――で、開けてくんねーの?」
人の気も知らないで、ピアスを片手に耳を見せるシンタローに溜息が零れた。
(コイツは本当にわかっていない…)
頭痛すら覚えると文句を言いたくなるほどだ。
「駄目だと言っている」
きっぱりと言い切ってやった。
確かにコイツに傷を付けていいのは俺だけだが、それとこれとは話が違う。
「なんでだよ?」
返答が不満だったのだろう。
だが自分はどうやってもコイツが望む返事はやれない。
眉を顰めているシンタローに無言のまま手を伸ばし、髪を払って隠れていた耳に触れた。
「ッ!」
不意打ちの行動にシンタローはビクッと肩を竦めたが、お構いなしでその耳たぶをやんわりと撫で上げる。
そして――ひんやりとして柔らかな、この触り心地のいい耳に穴が開くことを想像して、やはり駄目だと実感して念を押す。
「いいな、穴を開けることは許さん。ピアスは別のものと交換してくる」
呆然とするシンタローの頭を引き寄せて、その耳元に息を吹きかけるようにして囁く。
「―――ッ!!」
ビクリとまたシンタローが揺れた。
この反応は好ましいと思いながら手を離すと、シンタローは弾かれたように素早く離れて行った。
「てめ…ッ!何しやがる!?」
「ただ話をしただけだが?」
――何か問題でもあったか?と、何もなかったような顔でそう言ってやると、シンタローは『グッ』と言葉を詰まらせた。
本当に分かりやすいヤツだ――思わず苦笑する。
こんな反応をされるものだから、必要以上に構いたくなるのだと――俺がそう思っていることなど、コイツは知らないのだろうなと、口には出さずにそう思った。
【Side:シンタロー】
…結局ピアスの穴は開けないままになった。
キンタローの人を喰った態度にだんだんムカついてきて、意地でも開けてやると宣言したのだが、それがどうやら拙かったらしく、何故かそのまま押し倒される羽目にあってしまった。
そしてそのまま――ま、まぁ、その、なんだ…い、色々あって――///、とッ、とにかく!!うやむやにされてしまったのだ。
「ちくしょー…」
口からは文句しか出てこない。
今思い出しても腹が立つ。
キンタローはクールに見えて内面は俺よりもねちっこいと思う。
さんざん弄られて焦らされて、『絶対に開けない』と誓うまで解放されないままひたすら責め続けられて――最終的には意識が朦朧とする中、誓約書まで書かされてしまった。
たかだかピアスの穴一つで大袈裟すぎるにも程があるだろーが。
呆れて物も言えやしない。
「ぜってーに納得いかねぇゾ…」
俺は今、ベットの中から抜け出せない状態でいる。
さっさと素直にピアスを諦めれば良かったのだが、意地もあって抵抗しまくったのが悪かった。
朝まで続いた責め苦に(朝まで抵抗した自分も偉いと思う)、身体が全く言う事を聞いてくれない状態だ。
腰は痛いし頭は重いし身体はだるいしで散々だ。
「元はと言えばピアスなんか買ってきやがるから…ッ」
キンタローがピアスではなく他のものを買ってきていれば、おそらくこんなことにはならなかった筈だと恨み言を述べた所でもう遅いのは分かっているのだが――。
「クソッたれ…」
どうしても文句を言いたかった。
――本人の前でそれを言えば、また酷い目に合わされそうなので、本人がいない今しか言えないが…。
そして今回の原因たるその当人はと言うと――朝起きて俺の身を綺麗にした後に、ピアスを持ってさっさと部屋を出て行ってしまった。
今頃はピアスの石と同じ石をあしらった、別の商品を物色しているだろう。
そう思うと胸がモヤモヤとした。
「…別にピアスはピアスで貰っといたのに…」
キンタローが初めて自分に買ってきたものだった。
ただ似合うと思ったからと、そんな理由で。
その気持ちは本当に嬉しかったから、例え身に付けないとしてもあのピアスは手に持っていたかった。
こういうところは本当に気が回らないと思う。
もう少し此方の感情を読み取ってくれてもいいだろうに――そこまで考えて、ふと我に返り顔が熱くなった。
「うわ…ッ、なんだコレ…!めちゃくちゃ恥ずいじゃねーかよッ!!クソッ!!キンタローの野郎ッ!!」
――何でこの俺様が乙女思考に走らなきゃならんのだ!!
苛立ち紛れに枕をドアへとぶん投げた。
ボスッと鈍い音を立ててドアにぶつかる枕に、少しだけ鬱憤が晴れた気がした。
「…帰ってきたら絶対一発ぶん殴ってやっからなッ!!」
心にそう誓う俺は、その時はまだ知らなかった。
キンタローが交換してきた品物に、また頭を悩ませる羽目になるなど――。
【Side:キンタロー】
「――ッくしゅ!!」
「風邪ですか?最近流行っていますからねぇ」
妙にむず痒くなってくしゃみをした俺に、昨日の店員が苦笑した。
「――いや、そういうわけではないのだが…」
「それでは誰かに噂をされているのかもしれませんね」
そう言われて瞬時に思い浮かんだのは、先程まで共に居た従兄弟の姿。
「…そうかもしれんな」
昨日(というか今日の朝まで)散々なことをしてやった自覚は充分にあった。
素直に諦めればいいのに、意地でもピアスを付けると言い張るものだから、此方もついムキになってしまった。
結果的には諦めさせる事が出来たのだから、自分としては全く問題ないのだが、おそらく当人はそうではないだろう。
今頃、自分に対する恨み言でも吐いていることは安易に想像出来た。
意地っ張りで素直ではなが、それでも自分の心を占めている従兄弟の、その拗ねた顔を思い出していると自然と口元が緩む。
あの赤い石を付けさせる事が出来ずに残念だったが、それと同等に似合うものを探せばそれでいいと、ショーケースを眺めていると――ある一角に目が留まった。
じぃっと眺めていると、店員が「あぁ」と笑顔になる。
「本日からのフェアなんですよ」
――デザイナーが一つずつ丁寧に作った、当店オリジナルの自慢の商品です。
そう言われてますます興味を持った。
ショーケースの中には数は多くないが、何種類かの指輪が並んでいた。
中に埋め込まれた石は、あの気に入った赤い石ではなかったが、指輪に合った品の良い形をしていてどの商品も目を引く。
指輪も悪くない――そう思った。
あまり大きな石でなければ邪魔にはならないだろう。
指輪を付けている姿を見たことはないが、これならばきっと似合う。
そう考えて店員を呼んだ。
「なんでございましょう?」
「悪いが昨日買ったピアスとこれを交換してくれ。勿論追銭はする」
ケースの中の指輪を指差して言うと、店員は「あぁ、そういうことですか」とよくわからないことを言った。
「此方がご入用だったのでしたら、昨日のうちにお伺いしておけば良かったですね。申し訳ございません」
「?…いや、それは別に構わんが」
「サイズは如何致しますか?」
「サイズ?」
サイズと聞かれて一瞬何のことだと思ったが、すぐに指に合ったサイズが必要だと言う事に気付いた。
アイツと俺とはほぼ同体型であるから、俺の指に合わせればいいと思う。
「ああ、このサイズにしてくれ」
そう言って指を差し出すと、店員は「サイズを測らせて頂きますね」と俺の指に触れる。
「もう一つのサイズは如何しましょう?それと内側にお名前を彫る事も出来ますが」
「?」
俺の指のサイズを測った後、店員がにっこりと笑って言う。
どういうことだと思ったが、あらためてショーケースを眺めると、どうやらケース内の商品は全てペアリングであることが分かった。
シンタローに贈る分だけで良かったのだが、ペアのものを一つだけくれと言うのも気が引ける。
「サイズは同じにしてくれ」
揃いで同じものを持つ事に子供じゃあるまいしと、抵抗を感じないわけでもなかったが、相手がシンタローならばいいかと思い店員にそう告げると、何故か店員は酷く驚いた顔をした。
「お、同じサイズで?」
目をぱちぱちさせながら確認されて、不審に思いながらも頷く。
「ああそうだ。それと名前は――『キンタロー』と『シンタロー』だ」
「…『キンタロー』様と…『シンタロー』様…ですか?あの…『シンタロー』様は…男性の方で…?」
「――何か問題でも?」
睨んだつもりはなかったが、店員にはそう見えたのかもしれない。
「いッ、いえ!畏まりました!!そ、それでは『キンタロー』様と『シンタロー』様でお名前を入れさせて頂きます!」
ビクリと怯えた様子でそう言うと、慌てて奥へと引っ込んで行ってしまった。
「……?」
同じサイズであることに何故あんな顔をされなければならないのかと、少々不満に思いながらももう一度ショーケースを見る。
たった今選んだこの指輪を、シンタローは喜んでくれるだろうか?
自分が見て趣味の良いデザインだと思ったのだから、おそらくシンタローから見てもそう思うはずだ。
指に付けたその様子を思い浮かべると胸が温かくなる。
――きっと気に入ってくれるだろう。
誰かに物を贈る事がこんなに楽しいとは思ってはいなかった。
勿論贈る相手にもよるのだろうが、自分は今確実に満足している。
早く渡したいと、心からそう思っている。
「あ、あの…お客様申し訳ございません」
先程の店員がおずおずとやってきた。
言い難そうに口を濁らせる店員に話を促す。
話を聞くと、同じサイズのものはすぐには揃わないといった内容だった。
受注生産のような形になるから少し時間がかかるのだと言う。
小さいサイズであればすぐに渡せると言われたが、それは断ることにした。
「揃った時点で引き取りに来るから連絡してくれ」
そう答えて名刺を渡すと店員はもう一度『申し訳ございません』と言って頭を下げた。
仕上がり予定日を聞いて店を出ると、日が大分高い位置へと来ていた。
もうそろそろ昼食時だろう。
シンタローは今起き上がれない状態なので、早く戻って昼食を作ってやらねばと思う。
指輪の事は内緒にしておいた方がいいだろう。
どうせならば現物を見せて驚かせたい。
代わりの商品を取り寄せてもらったとでも言えば、すぐに渡せなくとも納得するはずだ。一月まではかからないと言われたから、来月に遠征の予定が入っているがその前には渡せそうだ。
もう一度シンタローがあの指輪を付けている様子を思い浮かべて見る。
「…うむ」
――間違いなく似合うな。
我ながらいい見立てをしたと満足する。
そうしてシンタローのことを思い出していると、無性に本人に会いたくなって――俺は岐路を急ぐ事にした。
誰かに物を贈るなど初めてで、俺は何処か浮かれていた。
それが大切な相手へのものだから尚更嬉しくて。
だから―――。
宝石店のショーケースに貼られていたポップには全く気付いていなかったのだ。
そう――後日その指輪を渡した時に、シンタローに怒鳴られることになるとは、その時は夢にも思っていなかった――。
END
2006.05.07
2006.08.20サイトUP
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