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1.「叔父」と「甥」






「なぁ、俺と寝てみねー?」

いつものように兄に金を集りに行ったその部屋で、唐突に言われた一言。

一瞬何を言われたのか理解出来なかったが、やけに冷静な顔をしている相手の姿を見ているうちに、その言葉は脳内へと到達した。

「…一人じゃ寝られねーってか?相変わらず甘いガキだな」

へ、と馬鹿にするように吐き捨てて言うと、『ボケるなよ』と返された。

「イミ、分かってんだろ?茶化さねーで返事しろよ」

妙に大人びた口調でそう言う甥の姿に、ゾクリと背筋に何かが走った。

コイツは確か先日15だか16の誕生日を迎えたばかりのガキで――そこまで考えて思い止まる。
同じ世代の頃の自分の行動を思い出したからだ。
我慢の聞かない餓鬼とはいえ、かなり色々な『遊び』をしていた。
それを考えるとこの甥―シンタロー―の言動も、年頃の男の台詞と思えばおかしくはない。

だが――。

(兄貴が許すか…?)

溺愛して止まないシンタローの色事を。
今の口調から言うと、どう考えても『初めて』とは言い難い。
それが女相手なのか男相手なのかはわからないが、男である自分を誘う時点で少なくとも一度は男を相手にしたことがあるのだろう。

そう考えるとますます疑問に思う。

異常なまでに実の息子に執着を見せる兄が、常日頃からその息子に悟られないように二十四時間監視をしていることを自分は知っている。
その日その日の訓練内容から一日の食事内容まで、逐一漏らさずに見ている様子に思い切り呆れ返った記憶も新しい。
受けている授業の教師から交友関係にあたるまで、息子に近付く全ての人間をチェックしている事もわかっていた。

そんな中で、この甥っ子が誰かと関係することなど可能だろうか――?

それにもう一つ疑問に思う点がある。

コイツの性格はあまり触れ合う機会のない自分でも分かる。
情に厚く真っ直ぐな男。そんなコイツが『遊び』で誰かと関係するとは思い難いのだ。

四六時中見張っていて、息子に必要以上に近付く人間を排除しようとする兄。
馬鹿正直で心根が甘く、人を傷付けるのが嫌い筈の甥。
そしてそんな甥が見たこともない歪んだ笑みを浮かべながら、唐突に自分に提案したとんでもない内容――。


「――――-ッ!」


ゾワッ。

一瞬にして背中に嫌な汗が吹き出た。


(まさか――、)


スウッと頬に伝う汗も拭わないままに、シンタローの顔をまじまじと見つめた。


「オマエ…まさ、か…」


『兄貴と――』


――言葉は最後まで出なかった。
だが、中途半端な自分の言葉への返事は聞かなくても予想がつく。

「…さぁ?」

シンタローがニコリと笑う。
その笑みが聞きたくもない答えを教えてくれる。

「――で?アンタの答えは?」

恐らく真っ青になっているだろう自分に向かって、シンタローはさらに笑みを深めた。

「な…」

「アンタのそんな顔、初めて見んな」

楽しそうに笑顔を浮かべる甥っ子にクラクラきた。
何を考えているのかわからない。

「『何を考えてる?』って顔だな」

「――ちッ、」

勝手に人の顔色を読むんじゃねぇと言いたくなった。
何故今この部屋に自分とコイツしかいないのだと、今更ながらにこの状態を呪う。

「別に大層なことなんて考えちゃいねーよ。ただちょっとした嫌がらせにはなるだろーな、って事ぐらいだ」

誰に対しての嫌がらせなのかは聞かなくても分かる。

「で、どーすんの『叔父さん』?」

わざとらしく『叔父』を強調する黒い笑みに胸焼けしそうになる。
昔はムカつくくらいに真っ直ぐな瞳をしていた筈なのに、歪んだ愛情の所為でそれが濁ってしまっていた。
この子供は兄の手で愛され護られ――そして歪んでしまった。


――それを哀れに思ってしまったのが間違いだった。


「…いいぜ、誘いに乗ってやる」

「―――ッ!?」

するりと出てきた己の言葉に、『しまった』と思うよりも手が動いていた。

強い力で、何故か驚く甥の手を掴み引き寄せる。
するとその身体はあっさりと手中に収まり、視界に黒髪が広がった。
顎に指をかけて上向かせれば、自分で誘っておいたくせにその瞳は何処か不安げに揺れている。


ムカつく人物を思い出させる黒髪。
年を追うごとに『アイツ』に似てきたと、『アイツ』を知る者なら誰もがそう思うだろう。


兄はそれを分かっていて、この可哀想な子供を溺愛している。


「言っとくが誘ったのはオメーだぞ、ガキ」


保険のような一言を告げ、そのまま有無も言わさず噛み付くように唇を重ねた――。






+++++






『後悔先に絶たず』


後悔なんざしねーと豪語するほどに、己の生きたいままに行動してきた自分が、この言葉をしみじみと思わせられる日が来ようとは思っていなかった。

流石に兄の仕事場でもある総帥室で事に及ぶわけにも行かなかったから、少し遠いが自分の艦の自室へと連れて来た。

自分の傍らには、ぐったりとした様子で横たわる甥っ子。

勿論服なんてものは最初に全て脱がせてしまったから、真っ裸の状態である。
その身体には嫌がらせとも当て付けとも言える、自分が付けた沢山の鬱血。
そしてシーツに染みる白と赤の液体。

「―――オイ…」

ピクリとも動かないが、確実に起きているだろうシンタローに声をかける。
返事はしなかったが、気だるそうにゆるゆると此方を向いた。
その顔には幾度にも伝った涙の跡。

「オメェ…嘘付きやがったな?」

全てをヤるだけヤり終えてから言う自分も自分だと思ったが、どうしても確認せずにはいられない。


触れる度に異様に反応を示し、必要以上に縋り付いて来た腕。

余裕のある顔をしながらも、始終震えていたその身体――。


「テメー、初めてじゃねーかッ!!」

バン、と大きな音と共に自分の枕に穴が開いた。
敗れた布からフワフワと飛び出る羽毛が鬱陶しい。
しかし今はそれどころじゃなかった。

「…誰も経験あるなんて一言も言ってないぜ」

言われて確かにそうだと気付くが苛立ちは収まらない。
苛々とした自分とは違い、やけに落ち着いている声。
何処か冷めているようにも聞こえるのは気のせいではない。

「…テメー…野郎が好きなのかよ?」

――誘われなければ手は出さなかった。
なのにコイツは男である自分を誘った。

ギロリと睨めばシンタローは一瞬キョトンとした後に、可笑しそうに笑い始めた。

「はッ!ンなわけあるかよ。相手すんなら女の方が良いに決まってんだろ。誰が好き好んで突っ込まれ役なんかするかよ」
――言っとくけど俺、童貞じゃねーからな。

そこまで言って『気色悪い事言ってんじゃねーよ』と、シンタローは顔を顰める。

「なら――」

『何故?』――そう言おうとした心を読んだのか、此方を見る目付きが不意に変わった。
ふざけたものではなく――やけに冷めていて、酷く痛々しいものへと――。


「どーせあと何年もしねーうちにヤられるんだ。…男だから処女もクソもねーケドよ」

――ゆらりと黒い瞳が揺れる。


「…初めてが実の父親だなんて洒落になんねーにも程があるだろ?狂ってくれと言われてるよーなモンだからな」


「―――ッ!!」

自嘲気味に笑うその姿が、あまりにも儚く見えて息を呑んだ。


「アイツ――…親父はマジで俺んコト抱くつもりなんだろうな。いつでも身の危険を感じるよ。アイツ…冗談のように振舞ってはいるけど――目が笑ってない…」

そう言ったその一瞬だけ、シンタローの瞳が泣きそうに歪んだ。
ただ、それもほんの一瞬の事で…。後はひたすら冷めた――いや、乾いた笑みを浮かべ続けていた。

「オメー、いつからそんな風に笑うようになった…」

幼い頃はそれこそ純粋に笑う子供であったのに。
こんな笑い方をするにはまだ早すぎる子供だというのに…。

「別に。『周り』の大人を見本にしてるだけだ」

「手本にするにゃー最悪な環境だな」

ケッ、と吐き捨てるように言うと、シンタローは『そうだな』と、やはり乾いた目をしながら笑った。



「…俺は未だ、狂うわけにはいかないんだ…」

「……」

何かを考え込むようにポツリと出た言葉に眉を顰めた。

おそらくはたった一人の弟の事を思っているのだろう。
それがなければとっくに狂っていると、言われなくてもその瞳がそう語っている気がした。

父親の歪んだ愛情をその身一つで受け続けてきたこの子供が、既に壊れ始めていることに兄は気付いているのか――…。


「――何故『俺』を誘った」

普段は毛嫌いをして近寄りもしなかったくせに、何故今この時に他の誰でもなく自分を選んだのだろう。
父親に対する抵抗であるこの行為に、何故父親の身近な人物である自分を誘ったのか――。

その疑問に対する答えは、あまりにも予想外の言葉であった。

「だってアンタ――俺の顔、嫌いだろ?」

「――!!」

ニヤリと笑った甥っ子のその言葉に、心臓が大きな音を立てた。

「―――ッ…」

驚いた様子を隠しもせずに、じっとその顔を見るとその瞳は先程とは違い、何故か生き生きとして見える。

「今日はよくアンタのそんな顔、見るな」

はは、と明るく笑われるが、何が可笑しいのか分からない。
悩む自分に、目の前の甥っ子はひとしきり笑った後にふと、その笑みを止めて真っ直ぐに此方を見てきた。
それは本当に『真っ直ぐ』としか表現の出来ない瞳で、久方ぶりに見るこの甥っ子の『本当』の瞳のような気がした。

「アンタだけだよ…この顔を見て、不愉快そうにした『身内』は」

フワリと自然な笑みを浮かべてシンタローが笑う。

「…なん、で…オメーはそれでそんなに嬉しそうな顔が出来るんだ」

ジワリと嫌な汗が浮かんだ。
妙に喉が渇いて、掠れた声しか出てこない。

「アンタの俺を見る目が、親父やサービス叔父さんが俺を見る目とは違うから」

「―――!」

考えないようにしていた事を、ズバリと言い当てられた瞬間だった。

「はは、またその顔」

固まる自分に、シンタローは困った顔をした。
そしてまた瞳を揺らし――いつもとは違った重い空気を乗せた声で小さく呟いた。

「…俺が気付いてないとでも思った?」

「シンタロー…」

静かすぎるその声に、何も言えずにただその名を呼ぶ。

「俺を愛する事で俺じゃない誰かを手に入れようとしてる、俺にとっちゃあ重荷でしかない愛情より、アンタの真っ直ぐな怒りの方が、俺には心地良いよ。…なあ――アンタ達は俺を通して誰を見てるんだろうな?」

そう言うシンタローの瞳には、誰に対する怒りも持っていなかった。
ただ――『仕方がない』と言って諦めてしまえる、そんな虚しい大人の顔をしていた。

その瞳は痛々しいどころのものではなかった。
諦めを選ぶにはまだ子供である甥が、大人以上に全てを悟った顔をして諦めを見出してしまっているのだ。


今更ながらに深く後悔した。
コイツのどこを見て、『アイツ』に似ていると思ってしまっていたのかと――。


「…なぁ」

ゆっくりとした動きでシンタローの腕が伸びてきた。
身体を動かす事が辛いのか、時折顔を顰めている。

「…なんだよ?」

その弱々しい腕を掴んでやると、思っていたよりも冷たくなっている事に気付き、舌打ちしながら身体にシーツをかけてやる。

「アンタ、そんな顔するヤツじゃねーだろ?…いつもみたくムカつく顔で笑えよ」

心配そうに自分を見ながらそう言う子供の想いが痛かった。
自分の方が傷付いているくせに、他人の事を気に出来るこの子供があまりにも痛々しすぎる。

「…そりゃーこっちの台詞だ、クソガキ」

声が震えるのを押さえがなら、何とか言葉を紡ぐ事に成功した。

「え~、俺?笑ってんだろ、ホラ!」

ニッと口元を吊り上げるその笑みは年相応だ。
しかし――。

「ばーか、目が笑ってねーっての」

その瞳を見るのが苦しくて、誤魔化すように頭を掴みぐしゃぐしゃにかき混ぜた。

「何しやがるッ、ナマハゲっ――痛ッ!!?」

自分に反撃しようと、シンタローが身体を浮かせた瞬間にその動きがピタリと止った。

「馬鹿かテメーは。当分動けねェって言っただろーが」

不慣れな様子におかしいとは思っていたが、苛立っていた所為もあり全く手加減なしで抱いてやったのだから、今のシンタローが起き上がれるはずはないのだ。

「聞いてねーッ」

キッと涙目で睨まれる。

「そうだっけか?そりゃー悪かったな。個人差もあるだろうがな、初めてじゃ相当腰に負担がかかってるだろーから今日一日は起き上がれないぜ」

「今更言うな!!」

「聞いてねーって言ったからわざわざ説明してやったんだぜ?ありがたく聞いとけよ」

恩着せがましくそう言ってみると、甥っ子は吐き捨てるようにクソッたれと悪態を付く。

「ちくしょー…せっかくの休みが台無しだ」

膨れてシーツに顔を埋める様子に苦笑する。

「こーゆーことになりゃあ一日使いモンにならなくなることくらい、予想しなかったのかよ?」

「女は普通に動いてんじゃん」

「そりゃーオメーが下手だったんだろ?」

腰が抜けるほどヨくなかったってことだ。
もしくはオマエのブツが小さすぎて満足できなかったか――。
(ちなみに『今は』そこそこ大きいとは思う)

『何でだよ?』と聞かれて、つい本音を口にしてしまう。

しまったと思った時には、シンタローの顔に青筋が浮かんでいた。

「…動けるようになったら…ぶっ殺ス」

「腰抜かしたガキンチョが何を言ってやがる」

返り討ちだと額を指で弾いてやると、シンタローは『ちぇッ』と面白くなさそうにそっぽを向いてしまった。
もっと怒るだろうと思っていたから、正直拍子抜けした。


拗ねたその様子は、先程の重い空気を感じさせずに安堵する。
初めて見知った甥の本当の姿を、自分以外の誰かが見たことはないのだろうと、その事実が何処か哀れに思う。


長くなり始めているその黒髪に、自分がアイツの影を見ることはもう二度とない。


だが、兄や弟達は――。



「おい、シンタロー」

そっぽを向いたままの髪に手を伸ばして、そっと指に絡ませてみる。

「…ナンダヨ」

振り向かないままでシンタローは返事をする。


「オメー、俺んトコに来るか?」


偽りのない本心からの言葉だった。

今なら未だ間に合う。
兄が本当にこの子供の心を壊してしまう前に、救い出してやればコイツはコイツのままでいられる。

だが、それに対しての甥っ子の答えは予想通りのもので――。


「俺はまだ、逃げられねーよ…」


それは小さく、消え入りそうな声だった。


「そうか…」

「ああ…サンキュな」


髪に絡ませた指を一旦ほどき、今度は先程とは違い優しくその頭を撫でてやると、シンタローはそっと振り返り、哀しいまでに綺麗な微笑みを浮かべた。



「アンタはもう、『俺』を『俺』として見てくれてんだな」


――それが嬉しいと甥っ子は笑う。



「やっぱりアンタで良かった」

「?」

「『初めての男』」

そう言ってニコリと笑ったシンタローに、何故か胸がドキッとした。
そんな人の心情を知らないで、シンタローは話を続ける。

「なぁ…また誘ったら、アンタは相手してくれる?」

「…突っ込まれんのは趣味じゃねーんだろーが」

「アンタならいーや」

『何言ってやがる』と呆れた顔をして見せた自分に、予想外の甥っ子の言葉。
それは冗談ではなく、純粋にそう思っているのが伺える子供らしい分かりやすい表情で――。

「~~~~~ッ」

思わず頭を抱えてしまった。
不快に思えない自分がおかしい。

「なんだヨー、嫌なのか?」

頭を抱えて唸る俺の行動がおかしいのか、シンタローは楽しそうにクスクスと笑っている。

「それにさ、アンタなら簡単に死なねぇじゃん?」

人の考えなどお構いなしで喋るシンタローのその言葉の裏には、『親父相手でも』という意味が隠れている気がした。

「勝手に殺すな」

クソッと舌打ちをする。
一言『お断りだ』と言えば済む話だというのに、自分の頭はそれを言う事を拒否している。
それはどういうことなのか――。

今日という日に本部に戻ってきたことを後悔してみるが、今更どうしようもないのは事実。

チラリと視線を横に向けると、子供の顔で明るく笑う甥の姿。

人の事を『ナマハゲ』と呼び、悪口を言いまくっていた可愛げのない――だが、先程までの死にそうな面よりも百倍は良い、子供の顔。


「な?俺の相手しろよ」

内容が内容だが、おそらく本人にとって身体を重ねる事など『オマケ』程度にしか思っていないのだろう。
コイツが望んでいるのはそんなことではなく、『シンタロー』自身を見てくれる相手がいると言うこと。

そして間違いなく分かる事は――その相手が他の誰でもない叔父である俺―ハーレム―を指していると言うこと。

「…俺になんのメリットがあるってんだ…」

深い溜息が零れた。
そんなものは考えたって無駄だとわかっているのに。
自分はもう、この子供に囚われ始めている。

「え~?じゃあ『愛しの叔父様v』って呼んでやろーか?」

ふざけた口調にげんなりする。
どこぞの誰かのように呼ばれる姿を想像し、鳥肌がたった。

「ヤメレ」

「…じゃあ、やっぱり駄目なのかよ?」

楽しそうだった表情が一瞬にして曇った。

「誰もンなコトは言ってねーだろ。…仕方がねーからな、お子様の子守はしてやるよ」

「――!!」

不安な色を浮かべるその瞳が気に食わなくて、それを早く違うものにする為にそう言ってやると、一瞬にしてその表情が明るくなった。

「まぁ…だからよ、あんま兄貴には近付くな?」

兄の行動は止めようがないから、言っても無駄だろうが一応釘を刺しておく。

「…おう!」

笑顔で素直に頷くシンタローの頭をヨシヨシと撫でながら、なんだかんだと言って、自分は結構面倒見がいいのではないかと思った。




「しかしなぁ…どーすっかねソレ」

「?」

何が?と首を捻るシンタローの身体には、所有印とも言える鬱血が山ほど付いている。
勿論さっき自分が付けたものだ。

「すぐに消えねーの?」

「すぐに消えたらどーするかなんて思わねーっての」

やれやれと溜息を付く。
最中は頭に血も上っていたし、何よりもふざけた兄に対する嫌がらせの意味もあって、無我夢中で付けていた。それが今になって後悔する事になろうとは。

「いいじゃんこのままで。人前で脱がなきゃいーんだろ?大丈夫だって」

「他人事のよーに言ってんじゃねーぞオメー。兄貴に見つかったらどーすんだ」

「親父の前でも脱がなきゃすむ話だ」

元々脱ぐつもりなんてないし。
そう言ってシンタローは一瞬だけ辛そうに顔を顰めた。

「簡単に言ってくれるな」

「まぁもし見つかったりしたら――そうだな、素直に言うか」

「――は?」

サラリと言われた爆弾発言に目を見開く。

「『ハーレム叔父貴とお付き合いしてマスv』って」

ニヤリと笑う甥っ子に眩暈を覚える。

「テメーなぁ…」

自然と声が低くなるのは仕方のないことだろう。
しかし、そんな脅しもこの甥っ子には全く効かないらしい。
髪を撫でたままの俺の手を掴み、その甲にそっとキスをして――


「せいぜい親父に殺されないように頑張んな?」


嬉しそうに――そして挑発的に不敵な笑みを浮かべた。

そして自分はと言うと――


(ヤベェもんにハマっちまったな…)


思わずその笑顔に見惚れてしまい――素直にそう思ってしまっていた。






問題は山積みだが、この子供が救われるのなら暫くの間見守るのも悪くはない。


その役目を負うのが自分しかいないのならば尚更の事。


どうかこれ以上傷付く事がないように。


これ以上壊れる事がないように――。






END


2006.05.05
サイトUP 2006.08.19

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