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6.ケンカ  ※『5.約束』の続きです。






お互いがお互いを気にしてるのに、どうしてそれを見せないのかな?

言葉にするとか、態度に表すとか――凄く簡単なことだと僕は思うんだけどな。



+++



「グンマー、仕方がねぇから差し入れに来てやったゾ」

シュン、と自動ドアが開いて、赤い総帥服を着た俺様なシンちゃんが現れた。
真っ白な箱を片手に、研究室内をキョロキョロと見渡してる。
「シンちゃんありがと~~vv」
箱の中身が間違いなくリクエストしたものだと確信している僕は、これでもかというくらいの笑顔でシンちゃんを出迎えた。
「何か相変わらずごちゃごちゃしてんなココ。ちゃんと掃除してんのかよ?」
色々な資料や機具が散乱しているのはいつものことで、シンちゃんは研究室に来るたびに必ず今の言葉を口にする。シンちゃんはもともと綺麗好きだし片付け魔だから、どうやらこの散らかりまくっている研究室の状態が気に入らないらしい。
「あはは~、してるヨ!その為にちゃんとお掃除用具買ったんだし」
本当はお掃除ロボットを開発したかったんだけど、皆で反対するもんだから作れなかったんだ。
「…それはあの片隅で埃を被っているもののことか?」
シンちゃんが部屋の隅っこを指差した。
「え~と、一ヶ月前くらいに…した、かな?」
「…その後はしてねぇのかよ!?」
――汚ねェ!!とシンちゃんはあからさまに嫌そうな顔をした。
「そ、それよりも!シンちゃんの差し入れ、早く食べたいなぁ~v」
これ以上突っ込まれないように話を誤魔化して手を差し出すと、シンちゃんは「ああ」と言って箱を手渡してくれた。
「わ~~いvプリンだ~~~ッvvvありがとうシンちゃん!大好きッvvv」
早速箱を開けて、中身がリクエスト通りな事を確認して喜んだ。
「もっと人数居んのかと思って多めに作ったんだけどな」
「うん、今日はね皆出払ってて少ないんだ~。いいよ、僕が全部食べるから」
「ばーか、太んぞ。二、三個にしとけ。後は持って帰ってコージ達にでもやるよ」
確か今日の夕方に戻ってくる筈…と、シンちゃんが言うのに対してすぐに反論した。
「えー、じゃあキンちゃんと半分こするから全部置いて行ってよ~」
「ばーか、お前しかいねーじゃん」
何処にキンタローが居んだよと、シンちゃんが僕を睨んだ。
「え?居るよキンちゃん。ホラ」
沢山の本の山に埋もれるようにして座っているキンちゃんに、シンちゃんは気付いていなかったようで。
僕が指差した方を見て、少し驚いていた。
「なんだ…居たのかよ」
ボソっと呟いたシンちゃんの声に、キンちゃんが反応した。
「俺は此処の研究員だ。居て何が悪い」
「別に悪いなんて――」
ジロリとシンちゃんを一睨みした後、すぐに本に視線を戻してしまったキンちゃんに、シンちゃんは困ったような顔をして、言おうとした言葉を飲み込んだ。
「キンちゃん、シンちゃんが差し入れ持ってきてくれたよ。一緒に食べようよ」
室内に気まずい空気が流れてしまい、僕はそれを何とかする為に殊更明るい声でキンちゃんを誘った。
でもキンちゃんからの答えはある程度予想できていたもので――。

「後でいい」

此方の方を見向きもしないでそう言ったっきり、邪魔するなと言わんばかりの顔をして本に意識を戻してしまった。
「あ――…グンマ」
「…なに?」
シンちゃんはそんなキンちゃんに怒るわけでもなく、ポリポリと頭を掻いて溜息を一つ零して――。
「俺、戻るわ。…邪魔して悪かったナ」
何処か寂しそうな目を見せながら苦笑いした。
「シンちゃん…」
一緒に食べていかないの?とは聞けなかった。
シンちゃんが傷付いているのが分かったから。
本当は差し入れは口実で、キンちゃんと少しでも喋れたらと思って来たに違いないシンちゃんに、キンちゃんのとった態度はあまりにも冷たくて――歩み寄る隙すらもないと諦めてしまっている。
「じゃ、な」
「あ…」
何か言葉をかけなくちゃと、思案していた僕を置いてシンちゃんはあっさりと部屋を出て行った。
持って帰ると言っていたプリンは全て置いたまま――。
「シンちゃん…」
僕は溜息を付いた。
折角お喋りする機会を作れたと思っていたのに、それが失敗に終わってしまった。
それどころかシンちゃんに哀しい顔をさせてしまった。
喧嘩どころか会話の余地すらない――これは全く持って不本意な事だ。

(どうしたら二人とも仲良くしてくれるかなー…って言うか、キンちゃんが見るからにシンちゃんを警戒してるんだよね。…ほんとはすっごく気にしてるくせに…)

――本当にどうしよう?
そう思っていた時だった。

「グンマ」
「ほぇッ!?」

不意に声をかけられて驚いて顔を上げれば、先ほどシンちゃんを睨んだ時以上の不機嫌さを面に出しているキンちゃんが、いつの間にか目の前に立っていた。
「キ、キンちゃんいつの間に…」
気配を待ったく感じていなかったせいか、心臓がバクバク言っている。
対するキンちゃんはとても真面目な深刻そうな顔で、言い難そうに一言呟いた。

「お前に聞きたいことがある」と。

「…聞きたいこと?」
いきなりどうしたの?と此方から聞くよりも先に、キンちゃんは答えた。


「お前はどうして簡単に『好き』と口に出せるんだ?」

「――へ?」


キンちゃんの思わぬ言葉に、僕は固まってしまった。
「…キンちゃん?」
ゆっくりと顔を上げてまじまじとキンちゃんの顔色を伺うと、質問をしたキンちゃんの瞳はどこか苦しげで、僕に縋っているようにも見えた。
あまりにもらしくないキンちゃんのその瞳に、先ほどシンちゃんの寂しそうな顔が浮かんできて――慌てて首を振った。
なんとか安心さえてあげたくて、僕は「あのね」と言ってニコリと微笑んだ。

「『好き』って言って貰えるとキンちゃんは嬉しくない?」
「…それは…」
僕の問いかけにキンちゃんは眉を寄せながらも、戸惑った様子で頷いた。
「シンちゃんに『大好き』って言っても、シンちゃんは僕にスキってって言ってくれないよ。でも、シンちゃんが僕の事を好きでいてくれてるのは分かってるんだ…シンちゃん照れ屋さんだから」
「…!」
あえてシンちゃんの名前を出すと、キンちゃんの目付きが変わった。
ポーカーフェイスをしているつもりなんだろうけど、シンちゃんが関わるとキンちゃんのそれは見事に崩れてしまう。

「確かに何も言わなくても伝わることもあるよね。そういう言葉が苦手な人だっているし。でも僕は口にするのが好きだから。――だから好きな人には好きって言うようにしてるだけだよ」
そう言って笑顔をキンちゃんに向けると、キンちゃんの顔が困惑していた。
何かを考えているように難しい顔をするキンちゃんに苦笑する。
「ねぇキンちゃん、言葉は別に惜しむ必要なんてないって思わない?」

確かにそれが苦手な人はいるけれど。
確かにそれを聞かなくても分かってくれる人はいるけれど。
中にはそうじゃない人もいるから。
言わないままで誤解されるより、言って気持ちを分かって貰えるほうがいいでしょ?

「―――…」
僕の言葉にキンちゃんは何かを感じたらしい。
すっかりと押し黙ってしまった。

多分――いや、おそらく絶対、今キンちゃんの頭の中はシンちゃんのことでいっぱいなんだろう。
先程の冷たい態度も、きっとどうしたらいいのかわからなかっただけなのだ。
それを証拠に、シンちゃんの名前に反応を示し――僕が『大好き』と言った事をとても気にしている。
誰よりも気にしている存在なのに、お互いがお互いをどう扱ったらいいのか分からずに、ひどく回りくどい事ばかりしている。

キンちゃんとシンちゃんは本当に似たもの同士で、それが少し羨ましい。
でも、そんなキンちゃんはシンちゃんに素直に好きと言える僕が羨ましいんだろうね。
シンちゃんは敵意はすぐに察してくれるけど、遠回りな好意には疎いから。
それはシンちゃんに好意を示している人間の殆どが、激しい意思表示をしているから。
だからシンちゃんは奥ゆかしいと言える好意には慣れてなくて、極端にそれに気付かない。

ねぇキンちゃん、僕はやっぱり二人に仲良くして欲しいよ。
二人がお互いに気にし合ってるならなおのこと。


「キンちゃんはシンちゃんのこと、どう思ってるの?」
「………アイツは…俺の獲物だ」

僕の問いかけにキンちゃんは暫く考え込んだ後、ボソリとそう呟いた。

――違うでしょ、キンちゃん。

不器用なんだなぁと思う。
僕は仕方がないと苦笑して、シンちゃんの持ってきた差し入れの一つを取り出した。
「じゃあキンちゃんはシンちゃんが作ってくれたお菓子、要らないね?」
全部僕のー♪と笑うと、キンちゃんがハッとなって「駄目だ」と言う。
「駄目?どうして?キンちゃん、シンちゃんのこと殺したいくらいにキライなんデショ?」
前に『殺す』って言ってたじゃない――だったらキライなシンちゃんが作ったお菓子なんて食べたくないでしょう?
そう言ったら、キンちゃんの顔が泣きそうに歪んでしまった。

意地悪しすぎたかなと思ったけど、キンちゃん自身が自覚してくれないと、いつまでたってもシンちゃんとキンちゃんは仲良しにならないし。

「別に…嫌いなわけじゃ…」
キンちゃんが顔を歪ませたまま、シンちゃんの作ったお菓子を見つめている。
「だって『獲物』だって言ってるじゃない」
「それは…ッ」
必死な様子で何かを言おうとしているキンちゃんは、続く言葉が出て来ずにもどかしそうに唇を噛んだ。
これが限界かな?そう判断して、僕は立ち上がって腕を伸ばし、キンちゃんの頭をヨシヨシと撫でた。
「…グンマ?」
「キンちゃん、シンちゃんは『モノ』じゃないよ?キンちゃんの言う『獲物』って、キンちゃんがシンちゃんを独り占めしたいってことじゃないの?」
訝しげな顔をしたキンちゃんに、優しく伝える。
「ねぇキンちゃん、キンちゃんはシンちゃんのこと嫌いじゃないなら、どう思ってるの?」
「それは…ッ」
「どうして僕に『好き』って言う言葉を簡単に口に出すんだ?って聞いたの?」
「グンマ…」
「キンちゃんが簡単に言えないことを僕が言って、それが羨ましかったからじゃないの?」
僕はキンちゃんの頭を引き寄せて、そっと抱き締めた。
キンちゃんは僕よりも大きいから、ちょっと背伸びをしなくちゃいけなくて大変だったけど、大人しくされるがままにしててくれたから、ちゃんと抱き締めてあげれた。
抱き締めているとキンちゃんの戸惑いが伝わってくる。

本当は簡単なのにね。
今のこの姿を、僕じゃなくてシンちゃんに見せればいいだけなのに。

でも多分、これが最後だと思うから。
キンちゃんが僕に弱みを見せるのは。
これからはきっと―――。

僕は抱き締める手に少しだけ力を入れて、優しくキンちゃんに囁いた。


キンちゃんがシンちゃんに本当に伝えたい言葉は何?

『獲物』や『殺す』――そんな言葉じゃないはずでしょう?

冷たい態度をとることでもないでしょう?

キンちゃんはシンちゃんにどうして欲しい?


「…グンマ…」
「ね、キンちゃん…それが答えだよ」
キンちゃんの声がなんだか泣きそうに聞こえた。
「一回でいいからシンちゃんに『殺す』じゃなくて『好き』って言ってみてよ。そうしたら全部がいい方に向くよ」
「…シンタローは…俺の話を聞いてくれるだろうか?」
不安そうな声。
「大丈夫でしょ。ホラ見て」
シンちゃんの持ってきたプリンの箱を指差した。
本当は今日だってシンちゃんはキンちゃんの様子を見に来たようなものだし――口にするのはちょっと悔しかったのでそれは言わないでおく。
「プリンがどうか――…一つだけ違うものが入ってるな」
キンちゃんの言うとおり、箱の中には沢山のプリンの中に一つだけ違うものが入っていた。
「コーヒーゼリーみたいだね。キンちゃん用でしょ」
「…何故?」
それが俺のだと言い切るんだと、キンちゃんが不思議そうな顔をする。
「シンちゃん、キンちゃんが甘いもの好きじゃないって知ってたよ。僕がプリンおねだりした時に言ってたもん」
「それがどうしたというんだ?」
首を捻るキンちゃんに『わからないの?』と少し呆れてしまった。
「甘いものが苦手なキンちゃんのためだけに、シンちゃんがわざわざ一つだけコーヒーゼリーを作ってくれたんだよ?」
「――!」
僕の言葉にキンちゃんが目を見開いた。
「シンちゃんがキンちゃんのこと嫌いだったらそんなこと絶対にしないでしょ?」
もう!言われなくても分かってよと、キンちゃんを睨むと、驚いた事にキンちゃんの頬が少しだけ赤くなっていた。
「……キンちゃん、もしかして嬉しいの?」
じっと顔を見つめると、キンちゃんは同じように僕をじっと見た後に、面白いくらいに素直に頷いた。
「そうらしい…」
ボソッと呟いて徐にコーヒーゼリーを手に取って、それを見つめるキンちゃんの姿は何処か異様だ。

「…そのコーヒーゼリーをきっかけに、シンちゃんに話しかけてみたら?」
大事そうにコーヒーゼリーを手に持つ、今のキンちゃんならきっとシンちゃんと話が出来るだろう。
「そう、だな」
何かを決意したように、キンちゃんが力強く頷いた。
「膳は急げダヨ!頑張って。――出来ればケンカしないようにね?」
僕は促すようにバンっとキンちゃんの背中を叩いた。
「ああ…」
今までに見たことのないような清々しい笑顔を浮かべて、キンちゃんはコーヒーゼリーを机の上に置いた。
「いいな、これは俺のだ。シンタローが俺の為に作った、俺のためのものだ。何があっても食うなよ?」
「あはは~、二度言わなくても食べないよ。それにそのコーヒーゼリー甘くないんでしょ?」
僕にはあま~いプリンがたっくさんあるから大丈夫だよと、笑うとキンちゃんは安心したようにコクンと頷いて部屋を出て行った――そう、出て行く間際に「ありがとうグンマ」と一言残して。


「ほんとに世話のやける弟達なんだから~」

僕はクスクスと笑って、キンちゃんが置いて行ったコーヒーゼリーを見た。

「次に三人揃う時は、仲良くお話出来るかな?」

キンちゃんから歩み寄ってくれれば、絶対にシンちゃんはそれを拒否しないから。

「さてと、僕は一人でさみし~くシンちゃんの作ったプリンでも食~べよっと♪」

言った内容とは裏腹に、僕の心は温かかった。

思いも口に出来ないまま、喧嘩にもならない関係なんて悲しいと思う。
少しずつでもいい――二人が本当に仲良くなって、僕達が誰にも負けないくらいの仲良し家族になれれば、それでもう何も怖い事はない。


その日が一分でも早く来る事を願って、僕は白い生クリームにスプーンを入れた。






――余談だけど、この時は本当にただ仲良しになればそれで良いって思ってたんだよ?


まさか、ねぇ?
キンちゃんの言う『好き』が、僕の言う『好き』と違った意味を持ってるなんて誰が思うのさ。

あー…でも僕達の一族ならそれも有かぁ。
そんな風に妙に納得しちゃう自分がちょっと悲しかったりした。
ま、お互いが幸せならそれでいいんだけどね!


今度から僕は痴話喧嘩に巻き込まれるのかな?





…そう思ったら少しだけ、げんなりした。






END


2006.05.12
2007.08.サイトUP
…書いた日の日付見て吃驚です(笑)。
お題5の続きになるようにちょびっとだけ修正入れた記憶はあったのですが…。
何気にサイト内の確認をしていて、「あれ…?お題⑤の続き、書いてなかったっけ??」とファイルを探したら出てきました。
何でかは覚えてませんがUPするのを綺麗さっぱりと忘れていたようです…。

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