15.偶然
最近全然会っていない。
誰にかと言うとキンタローにだ。
俺の遠征には大抵くっついてくるキンタローだが、今回は研究会と重なってしまい其方の方へ行ってしまった。
キンタローは俺の補佐を勤めてるとはいえ、一人の研究員だ。
どちらかと言えば補佐の方が副業なわけだから、そっちを優先したところで俺はとやかく言うつもりはない。
別にガキじゃねーんだし、数日会えないくらいで『寂しい』と思うつもりもなかった。
しかしだ。
会えない日が、二週間ともなると話が変わってくる。
当初研究会が終われば、俺の後を追うと言っていたキンタローだが、突然それが出来なくなった。
プログラムにバグが出たとか言って、結局キンタローは本部に留まることになってしまったのだ。
仕方のないことだから別にいいかと、俺だって最初は思っていた。
どうせもう少しで自分も本部に戻るのだ。
帰ったらきっと疲れているであろうキンタローの為に、美味い食事でも作ってやるかと意気込んでもいたんだ。
だが――。
帰ろうとした矢先に、取引先の相手に引き止められる事になってしまった。
理由は『五日後にある祭りを是非見て行って欲しい』というものだった。
勿論俺は角が立たないようにやんわりと断りを入れてみた。
しかし相手側は、世話になった礼にどうしてもその祭りを楽しんで貰いたいのだと言って聞かなかった。
どうやらその祭りは五年に一度しかない祭りらしく、『是非』と懇願されて――俺は折れてしまった。
取引先の頭領とも言える男には小さな子供がいて、何故かその子供に気に入られてしまった俺は、その子供からも『一緒にお祭りを見ようよぅ』と言われて、断る事が出来なくなってしまった。
何故ならその子供は、未だ眠り続ける大切な弟と同じくらいの年齢で――俺はどうしてもその子供の望みを叶えてやりたいと思ってしまったのだ。
まぁ、そんなわけで――…。
一週間だった滞在が、それに五日増え、それプラス本部までの往復日数を足すと丁度二週間になってしまった。
南国のあの島から戻ってきて、これだけの間キンタローと離れていたことは初めてだった。
まだ打ち解けていない時ですら、気付けば視界に入ってきていたキンタローに二週間も会っていない。
そのせいもあり、俺は滞在している間にしょっちゅうキンタローの事を思い出していた。
是非にと言われて見た祭りは、言われるだけあって素晴らしい物だった。
温かな子供の手を引いて、色々な所を歩き回るのは楽しかった。
でもそんな中でも思うのはキンタローのことばかりで――。
キンタローと見て廻りたかった。
キンタローにも見せたかった。
そんな思いばかりが胸の中にモヤを作っていた。
とにかく俺は自分でもよくわからないが、キンタローがいないと何かが足りない気がして落ち着かないのだ。
当たり前のように傍にいたヤツがいないのはすっきりしない。
――俺ってこんなヤツだったか?
そう思ってもおかしくないくらい、キンタローのことばかり考えていた。
だから帰りの艦の中でも、『もっとスピード出せ』などと無茶な事を言ってどん太を困らせてしまった。
「シンタロー総帥に敬礼」
本部到着後。
いつも通り大袈裟な人数での出迎えに、内心呆れながらも隊員達に目を走らせて見るが、案の定その中にキンタローの姿はなかった。
『お疲れ様です』と出迎えたティラミスにそれとなく聞いてみると、どうやら研究室にほぼ缶詰状態でいるらしいことがわかった。
一目でも見れば多分すっきりするだろうから、すぐにでも研究室の方へ足を向けたかったが、自分は総帥である以上帰ってくるなり好き勝手な行動を取るわけにはいかない。
とりあえず片付けるものを片付けてしまわないと、自由になれない。
ならばさっさと片付けるまでだと、俺はひっそりと溜息を付いて総帥室へと向かった――。
+++
「シンタロー様、本日はお疲れでしょうからもうお休みになられては?」
チョコレートロマンスに声をかけられて、時計を見ると時刻は既に二十時を回っていた。
帰ってきたのが夕方だったから、五時間近く書類に集中していたらしい。
ちょっとのつもりだったのにとんだ誤算だ。
「…そうだな、今日は止めにすっか」
ん、と背伸びをして席を立つ。
途中でコーヒーを何度か飲んだが、流石にそれだけで腹が膨らむ筈もなく、俺の腹は空腹を訴えていた。
…今から作るか?
そう思って、それも面倒だなと思い直す。
一人で作って食っても美味くないことはよくわかっている。
「そーいやキンタローはメシ食ったのか?」
ふと思う。
缶詰状態だと聞いたから、きっとグンマや他の研究員達が差し入れの一つや二つしているだろうが、キンタローは熱中すると周りが見えなくなり、食事をしないことがざらにある。
いつもであれば、それに気付いた自分が何か作って持って行き、無理矢理にでも口に入れるのだが、今回は離れていたのでそれが出来なかった。
「…ちゃんと生きてるだろーな」
急に不安になる。
「…様子、見てみるか…」
予定よりも大幅に会いに行く時間がずれてしまったが、顔を見るくらいならば邪魔にならないだろう。
そう思って俺は一族の住居地区とは逆の方向に向かって歩き出した。
キンタローに会ったらとりあえず『ただいま』を言おう。
アイツはそういう挨拶をやけに気にするから。
そうすれば絶対に『おかえり』と返してくれる。
自分の『ただいま』を言う相手がキンタローであることが嬉しい。
早く『おかえり』と言って欲しい。
そうすれば会えなかった二週間の隙間があっという間に埋まるだろうから。
(――なんか俺、恥ずかしくねェ?)
なんでたった一人の人間に会おうとしているだけで、こんなにわくわくしているのだろう?
この感覚は、昔遠征に行った父親が帰って来る時に感じていたものに似ている。
自分にとって大切な人に、久しぶりに会える喜び。
会う寸前まで胸が高鳴る楽しい時間。
(…ま、いっか)
会いたいのは本心だし。
会えなくて落ち着かなかったのも本心だし。
…本当は帰ってきて一番に会いたかったという想いも本心だ。
『ただいま』と言って『おかえり』と言ってもらって『いつも通り』に戻りたい。
「俺の帰る場所だからな!」
『うん』と、自分に納得させるようにして深く頷いた。
見慣れた通路を歩き、研究室に直行しているエレベータへと足を運ぶ。
この通路を左に曲がれば目的地だ。
と、そこへ――。
ピンポーン♪
エレベータの止まる音が聞こえた。
本部の堅苦しいイメージに不似合いなその音は、ヤメロと言ったのにグンマが無理矢理設定したものだ。
(研究員か?)
研究室から直行のエレベーターだから、おそらく研究員の誰かだろう。
ついでだ、そいつが降りたらそれに乗ってキンタローに会いに行こう。
そう思って誰かが降りてくるのを待つ。
と言っても、エレベーターを降りた瞬間に総帥が立っていれば、いくら団員とは言え一般の研究員には刺激が大きすぎるだろうから、その事を考慮して通路の端から俺はこっそり覗き見している。
――正直な話、ただ俺自身が疲れていて、誰かと話すのが億劫なだけだったりするが。
シュン――エレベーターの扉が開いた。
中から人影が現れる。
「――!!」
俺は思わず目を見開いた。
何故ならエレベーターから出て来た人物が、会いに来たその人であったからだ。
キンタロー、そう呼ぼうとして思い止まる。
久しぶりに見たキンタローは少しだけやつれているようだった。
やはり食事をきちんと取っていないのだろう。おそらく睡眠も。
俺が同じ事をしていると物凄く怒るのに、勝手なヤツだと思う。
だが、それよりも――。
(すげーな!マジで偶然ってあるもんだ!!)
まるで示し合わせたかのように、キンタローに会えた事が嬉しい。
一目見れただけで、心のモヤが一瞬にして晴れてしまった。
ずっと会いたかった自分の半身。
自分の事ながら現金だと思ってしまう。
それでも会えたことがやはり嬉しくて。
「キンタロー、偶然だなッ!今から戻んのか?だったら一緒に帰ろうゼ!!」
俺は自分でも驚く程に明るい声を出して、意気揚々とキンタローの元へと駆け寄った――。
END
2006.10.23
…むー…イマイチ消化不良…(苦笑)。
UPしようかどうか悩みましたが、最近更新出来ていないのでとりあえず…。
いつか修正したいなぁと思いつつ…。
最近全然会っていない。
誰にかと言うとキンタローにだ。
俺の遠征には大抵くっついてくるキンタローだが、今回は研究会と重なってしまい其方の方へ行ってしまった。
キンタローは俺の補佐を勤めてるとはいえ、一人の研究員だ。
どちらかと言えば補佐の方が副業なわけだから、そっちを優先したところで俺はとやかく言うつもりはない。
別にガキじゃねーんだし、数日会えないくらいで『寂しい』と思うつもりもなかった。
しかしだ。
会えない日が、二週間ともなると話が変わってくる。
当初研究会が終われば、俺の後を追うと言っていたキンタローだが、突然それが出来なくなった。
プログラムにバグが出たとか言って、結局キンタローは本部に留まることになってしまったのだ。
仕方のないことだから別にいいかと、俺だって最初は思っていた。
どうせもう少しで自分も本部に戻るのだ。
帰ったらきっと疲れているであろうキンタローの為に、美味い食事でも作ってやるかと意気込んでもいたんだ。
だが――。
帰ろうとした矢先に、取引先の相手に引き止められる事になってしまった。
理由は『五日後にある祭りを是非見て行って欲しい』というものだった。
勿論俺は角が立たないようにやんわりと断りを入れてみた。
しかし相手側は、世話になった礼にどうしてもその祭りを楽しんで貰いたいのだと言って聞かなかった。
どうやらその祭りは五年に一度しかない祭りらしく、『是非』と懇願されて――俺は折れてしまった。
取引先の頭領とも言える男には小さな子供がいて、何故かその子供に気に入られてしまった俺は、その子供からも『一緒にお祭りを見ようよぅ』と言われて、断る事が出来なくなってしまった。
何故ならその子供は、未だ眠り続ける大切な弟と同じくらいの年齢で――俺はどうしてもその子供の望みを叶えてやりたいと思ってしまったのだ。
まぁ、そんなわけで――…。
一週間だった滞在が、それに五日増え、それプラス本部までの往復日数を足すと丁度二週間になってしまった。
南国のあの島から戻ってきて、これだけの間キンタローと離れていたことは初めてだった。
まだ打ち解けていない時ですら、気付けば視界に入ってきていたキンタローに二週間も会っていない。
そのせいもあり、俺は滞在している間にしょっちゅうキンタローの事を思い出していた。
是非にと言われて見た祭りは、言われるだけあって素晴らしい物だった。
温かな子供の手を引いて、色々な所を歩き回るのは楽しかった。
でもそんな中でも思うのはキンタローのことばかりで――。
キンタローと見て廻りたかった。
キンタローにも見せたかった。
そんな思いばかりが胸の中にモヤを作っていた。
とにかく俺は自分でもよくわからないが、キンタローがいないと何かが足りない気がして落ち着かないのだ。
当たり前のように傍にいたヤツがいないのはすっきりしない。
――俺ってこんなヤツだったか?
そう思ってもおかしくないくらい、キンタローのことばかり考えていた。
だから帰りの艦の中でも、『もっとスピード出せ』などと無茶な事を言ってどん太を困らせてしまった。
「シンタロー総帥に敬礼」
本部到着後。
いつも通り大袈裟な人数での出迎えに、内心呆れながらも隊員達に目を走らせて見るが、案の定その中にキンタローの姿はなかった。
『お疲れ様です』と出迎えたティラミスにそれとなく聞いてみると、どうやら研究室にほぼ缶詰状態でいるらしいことがわかった。
一目でも見れば多分すっきりするだろうから、すぐにでも研究室の方へ足を向けたかったが、自分は総帥である以上帰ってくるなり好き勝手な行動を取るわけにはいかない。
とりあえず片付けるものを片付けてしまわないと、自由になれない。
ならばさっさと片付けるまでだと、俺はひっそりと溜息を付いて総帥室へと向かった――。
+++
「シンタロー様、本日はお疲れでしょうからもうお休みになられては?」
チョコレートロマンスに声をかけられて、時計を見ると時刻は既に二十時を回っていた。
帰ってきたのが夕方だったから、五時間近く書類に集中していたらしい。
ちょっとのつもりだったのにとんだ誤算だ。
「…そうだな、今日は止めにすっか」
ん、と背伸びをして席を立つ。
途中でコーヒーを何度か飲んだが、流石にそれだけで腹が膨らむ筈もなく、俺の腹は空腹を訴えていた。
…今から作るか?
そう思って、それも面倒だなと思い直す。
一人で作って食っても美味くないことはよくわかっている。
「そーいやキンタローはメシ食ったのか?」
ふと思う。
缶詰状態だと聞いたから、きっとグンマや他の研究員達が差し入れの一つや二つしているだろうが、キンタローは熱中すると周りが見えなくなり、食事をしないことがざらにある。
いつもであれば、それに気付いた自分が何か作って持って行き、無理矢理にでも口に入れるのだが、今回は離れていたのでそれが出来なかった。
「…ちゃんと生きてるだろーな」
急に不安になる。
「…様子、見てみるか…」
予定よりも大幅に会いに行く時間がずれてしまったが、顔を見るくらいならば邪魔にならないだろう。
そう思って俺は一族の住居地区とは逆の方向に向かって歩き出した。
キンタローに会ったらとりあえず『ただいま』を言おう。
アイツはそういう挨拶をやけに気にするから。
そうすれば絶対に『おかえり』と返してくれる。
自分の『ただいま』を言う相手がキンタローであることが嬉しい。
早く『おかえり』と言って欲しい。
そうすれば会えなかった二週間の隙間があっという間に埋まるだろうから。
(――なんか俺、恥ずかしくねェ?)
なんでたった一人の人間に会おうとしているだけで、こんなにわくわくしているのだろう?
この感覚は、昔遠征に行った父親が帰って来る時に感じていたものに似ている。
自分にとって大切な人に、久しぶりに会える喜び。
会う寸前まで胸が高鳴る楽しい時間。
(…ま、いっか)
会いたいのは本心だし。
会えなくて落ち着かなかったのも本心だし。
…本当は帰ってきて一番に会いたかったという想いも本心だ。
『ただいま』と言って『おかえり』と言ってもらって『いつも通り』に戻りたい。
「俺の帰る場所だからな!」
『うん』と、自分に納得させるようにして深く頷いた。
見慣れた通路を歩き、研究室に直行しているエレベータへと足を運ぶ。
この通路を左に曲がれば目的地だ。
と、そこへ――。
ピンポーン♪
エレベータの止まる音が聞こえた。
本部の堅苦しいイメージに不似合いなその音は、ヤメロと言ったのにグンマが無理矢理設定したものだ。
(研究員か?)
研究室から直行のエレベーターだから、おそらく研究員の誰かだろう。
ついでだ、そいつが降りたらそれに乗ってキンタローに会いに行こう。
そう思って誰かが降りてくるのを待つ。
と言っても、エレベーターを降りた瞬間に総帥が立っていれば、いくら団員とは言え一般の研究員には刺激が大きすぎるだろうから、その事を考慮して通路の端から俺はこっそり覗き見している。
――正直な話、ただ俺自身が疲れていて、誰かと話すのが億劫なだけだったりするが。
シュン――エレベーターの扉が開いた。
中から人影が現れる。
「――!!」
俺は思わず目を見開いた。
何故ならエレベーターから出て来た人物が、会いに来たその人であったからだ。
キンタロー、そう呼ぼうとして思い止まる。
久しぶりに見たキンタローは少しだけやつれているようだった。
やはり食事をきちんと取っていないのだろう。おそらく睡眠も。
俺が同じ事をしていると物凄く怒るのに、勝手なヤツだと思う。
だが、それよりも――。
(すげーな!マジで偶然ってあるもんだ!!)
まるで示し合わせたかのように、キンタローに会えた事が嬉しい。
一目見れただけで、心のモヤが一瞬にして晴れてしまった。
ずっと会いたかった自分の半身。
自分の事ながら現金だと思ってしまう。
それでも会えたことがやはり嬉しくて。
「キンタロー、偶然だなッ!今から戻んのか?だったら一緒に帰ろうゼ!!」
俺は自分でも驚く程に明るい声を出して、意気揚々とキンタローの元へと駆け寄った――。
END
2006.10.23
…むー…イマイチ消化不良…(苦笑)。
UPしようかどうか悩みましたが、最近更新出来ていないのでとりあえず…。
いつか修正したいなぁと思いつつ…。
PR