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2.ドライヴ






真実の扉は行方知れずで

いつまでたっても出口は見えない――






「今日はいい天気だね。こんな日はゆっくりとドライヴでもしたらいいと思わないかい?」

「一人で行け」

――朝っぱらから阿呆な事をぬかすな馬鹿親父。
笑顔で誘うマジックを冷やかな目で見ながら、シンタローはきっぱりと言い切った。

「うう…ッ、シンちゃんってば冷たい…」
「俺の今の状態を見て、平気でンな事をぬかす方が悪い」

とっとと出て行けと言わんばかりに、シッシと手を振るシンタローの目の前には、大量の書類が置いてあった。
どれもこれも重要かつ急ぎの用件ばかりで、できるだけ今日中に目を通さなければならない。
そんな自分の何処に外へ出る時間があるというのか――。
(最も――時間があったとしてもマジックと二人きりでドライヴに行くつもりはないが)

「じゃ、じゃあパパが手伝ってあげるヨv二人でやれば早いでしょ?午後からでも一緒に出かけよう?」
ね?と打開策を練るマジックにシンタローは苛立った様子で首を振った。
「これは俺の仕事だ。手は借りねぇ」
またしてもはっきりと言い切って書類を広げる。
細かい文字で記された内容はあまり良い報告とは言えないもので、シンタローは解決策を練ろうと意識を集中させた。

だが――。

「シンちゃ~~~んッ!!パパは淋しいよッ!!昔はあんなに素直で可愛くて父親想いの優しい子だったのに、どうしてそんな意地悪を言うの?」
シンタローの苦悩などお構いなしにマジックが後から覆いかぶさってきた。
「ぐえッ!!」
体重を掛けられてシンタローの身体がぐしゃりと潰れた。
そしてその衝撃で持っていた書類を思わず握りつぶしてしまう。
「シンちゃ~~ん、パパと一緒にお出かけしようよ~~!折角久しぶりに帰って来てくれたのに、シンちゃんったらお仕事ばっかりでちぃーーっともパパと遊んでくれないんだもん!たまには親子水入らずでお出かけしようよ~~」
ね、ね?と甘えた声を出しながら、それでもシンタローが暴れないようにしっかりとその身体を押さえ込み、頬擦りをしてくるマジックに、案の定シンタローは切れた。
「どけーーーーッ」
しかしながら思いの外マジックの力が強く、シンタローは懇親の力を持って振りほどこうとしているのだが、それが上手くいかない。
「パパと一緒にお出かけしてくれるって約束してくれたら離してあげるv」
「ふざけんなーーーーッ!!」
「シンちゃんったら照れ屋さんv」
苛立ちを隠す事もなく怒鳴り声を上げるシンタローだが、マジックにとってはそれすらも甘い睦言に聞こえてしまうらしい。

「シンタロー様…」

一向に先に進む事のない仕事と、時と場所を選ばない親子のやりとりを見るに見かねてティラミスが重い口を開いた。

「なんだい?シンちゃんは今大事な話を――」
「アンタは黙ってろ!!――何だ?」
救いの手と言わんばかりにシンタローが目を輝かせてティラミスを見た。
しかしそれは救いの手ではなく――…。

「後は私共にお任せ下さい。どうしても総帥のご意見を頂かなければならないもの以外はなんとか致しますので」

「―――はぁッ!?」

「えらいぞティラミスvvv」

ティラミスの言葉を聞いたと同時に部屋に響いた大きな声。
――勿論前者はシンタローで後者はマジック。

「なッ、な、何言ってんだヨ!!これは今日中に…ッ!!」
「はい、ですから私共で出来うる限りを処理させて頂きます」
「俺じゃねーと駄目なんだろッ!?」
「それは勿論そうなのですが…中にはそうでないものも混じっております。先程目を通しましたが、早急なものは既に処理を終えられているご様子ですし、残りは明日でも何とかなるでしょう」
焦るシンタローとは反対に淡々と返答をするティラミス。
その目にははっきりと『今日は仕事にならないでしょう?』と書いてあった。
「ほ~らシンちゃん、ティラミスもこう言ってくれてることだし今日はパパと一緒にね?」
シンタローの外出許可が出た事が余程嬉しいのか、マジックの機嫌はますます上昇していく。
シンタローの身体をがっちりと押さえたまま、引きずるように椅子から降ろすと『さぁ行こう!』とドアに向かって歩き出した。
「待て待て待てーーッ!!俺は行かねぇって言ってるだろーが!!仕事中だッ!!アンタのワガママなんかには付き合わねぇぞッ!!!」
「シンタロー様…」
離しやがれと大声を上げながら暴れるシンタローを、ティラミスが困ったように見つめている。
「大体ティラミス!お前何余計なこと、この馬鹿に言ってんだよ!!」
「『馬鹿』ってパパのこと?傷付いちゃうよシンちゃん」
「うるさい!!馬鹿を馬鹿って言って何が悪い!!――って言うか、離せ!!!」
「諦めてくださいシンタロー様。シンタロー様が頷くまでずっとこのままですよ?」
「グ…ッ」
長年マジックに付き添ってきたティラミスだからこそ確信を持って言えたその台詞に、シンタローは声を詰まらせた。
「そうそう、だから諦めてお出かけしようねv」
「アンタが言うなーーッ!!」
どうやってもシンタローとの外出を諦めないマジックに、シンタローの悲痛とも言える叫びが響いた…。



+++



「シンちゃん、来て良かったデショ?風が気持ちいいね~~v」
「…暇人め…」
オープンカーを走らせながら上機嫌のマジックに、シンタローは深々と溜息を付いた。
「失敬な。パパはシンちゃんとお出かけするためにいっぱいお仕事を片付けてきたのに」
「アンタは片付けたのかもしんねーが、俺はまだ仕事中だったんだよ!」
人の都合はお構いなしか!?と言い返せば、マジックは清々しい顔で素直に頷いた。
「だってシンちゃんはいつだってヒマじゃないでしょ?寝てる時以外はずっとお仕事してるもんッ。だから多少は強引にしなくちゃ♪」
「『もんッ』――って、アンタいくつだよ!?」
シンタローはがくりと項垂れた。

「でもね、シンちゃんに休息が必要だったのは事実だからね。ドライヴに関係なく今日のお仕事はもうオシマイ」
『ネ?』と可愛らしく(気色悪いが)言うマジックのその目は笑っていなかった。
「ちッ…」
シンタローは舌打ちする。

(またガキ扱いかよ――)


いつものように笑顔の裏に隠れている本気。
その『本気』には強制的な力がある。

そしてその力にシンタローは逆らえない。
それは本能のように絶対的な力でシンタローを支配していた。
シンタローが余程の無茶をしたりしない限り、マジックはそれを表には出すことはなかったが。

やんわりと真綿で首を絞められるかのような、生温い愛情で包まれてきたシンタローがその事に気付いたのはいつだっただろうか――。


「シンちゃん、怒ったのかい?」
舌打ちの後、無言になったシンタローをマジックが不安そうに見つめていた。
「最初から怒ってんだろ」
何を今更と睨み返せば、マジックは苦笑した。
「そうだけど…今怒ってるのは違うでしょ?」
「気のせいだ」
苛々とした様子でシンタローは吐き捨てた。

まただ、と思う。
何故この男はこんなに自分の心情に悟いのか。
自分が嘘を付くのは得意ではない事くらい、シンタローはよく分かっていた。
しかし他人に心の奥の本心を悟られるほど子供でもないつもりだ。
それなのに当然のようにマジックはシンタローの心を読み取る。

確かにシンタローは幼い頃からずっとマジック一人の手で育てられてきた。
だからといって、親というものはそこまで子供の事を理解出来るものなのだろうか――?

常日頃から『異常』だと言われ続けてきたマジックとシンタローの親子関係。
まだ本当に血の繋がった親子だと思っていた時から、心の中の疑問の一つにはなっていた。

『普通親はあそこまで子供に干渉したりはしない』
友人達からそう言われる度に、マジックの思いが重くなっていた。
『反抗期』の時期ですら同じように構われて、ますますそれが重みを増していくのに、マジックは必要以上にシンタローを刺激した。

いつまでたっても子離れ出来ないどうしようもない親。

いつしかそう思い諦めようとした矢先に、自分達に血の繋がりがないことが分かった。
それでも自分を『息子だ』と言ってくれたマジックに、心の底から嬉しく思ったのは事実だった。
今までと全く変わらずに接してくれる事に対して安心したのも――。
パプワ島での出来事があまりにも衝撃的すぎて――シンタローの中の疑問は、今まで心の奥底に眠ってしまっていた。

しかしながらその疑問は突如として目を覚ました。
日を追うごとに違和感を覚えるマジックの『愛情』。

確かに血の繋がりはなくとも、過ごしてきた二十数年の歳月は血の繋がり以上の繋がりを築いてきたと思う。
でも『おかしい』と思ってしまった。
本当に血の繋がっていたグンマに対して、マジックはあまりにも普段と変わらなかった。
それは決して悪い意味ではなく――あくまで自然体といった感じで。
血の繋がりがあるなしに関係なく、父親としての愛情をマジックはグンマに与えている。

つまり、自分――シンタローに与えるものとは違う『普通』の愛情を。


(普通――?『普通』って何だよ?一体何が違う――?)


考えてみたって分からない。
シンタロー自身すら曖昧にしか分かっていないのだから。
『違う』ことは確かなのに、何が違うのかがわからない。
そんな答えの見えない『何か』が、いつでもシンタローの胸に引っかかっていた。

『アイツは――親父の中ではいつまでたっても俺は『シンちゃん』のままなんだろーな』

先日グンマに思わず零してしまった言葉。
あの時は深く考えていなかった。ただ素直にポロリと出てしまっただけだ。
しかし今になってその意味を考えてみる。
あの言葉の奥に秘められていたものは『シンちゃん』=『子供』という図式だけだったのだろうか?
言葉に言い表せない『何か』が影を潜めているのはわかっているのに答えがでない。

シンタローはこんなことを深く考えてしまう自分もおかしいと思う。

何がそんなに気になるというのだろう。
マジックはただ単に『親馬鹿』なだけで、それ故に自分を溺愛していると――そう思ってしまえばいいだけのこと。
なのにそれがどうしても出来ないのは――。


「シンちゃん?」

――心配そうに覗き込む顔。

いつの間にか車は停まっていた。
辺りは静まり返っていて、広い割には人気のない道だなと、どうでもいいようなことを思ってしまった。

「シンちゃん、大丈夫?」
もう一度名を呼び、シンタローを真っ直ぐ見つめるマジックの顔は何処か不安そうにも見える。
「…ナニが、だよ」
シンタローの心臓がドクリと大きな音を立てた。
「だってシンちゃんいきなり静かになっちゃうから」
話しかけても返事してくれないし――そう言うマジックの口調はいつものような、ふざけたものではなかった。
「…考え事、してただけだ…悪ィ」
ここで謝るのも変だなと思いながらも、思わず謝罪の言葉が次いで出た。
「パパの事でも考えてくれたの?」
その言葉にヒヤリとした。
「ぬかせ」
シンタローはかろうじてそう返して、逃げるようにマジックとは逆の方向を見た。

道のりを全く見ていなかった所為で現在地が何処なのかわからなかったが、小高い丘のようなところで停まったらしい。目の前には青空が広がっていた。

「……良い天気だな」

ボソリと呟いたシンタローに、マジックが「うん」と頷いた。
シンタローは振り向く事が何故か怖くて、景色を楽しむふりをした。

こんなにも綺麗な空を見ながらも、シンタローの頭の中では理解不能の『何か』が埋めいていた。
ぐるぐるぐるぐる――出口のない感情が胸の中を走り回る。

『シンちゃんはおとーさまと喧嘩したいの?』

不意にグンマの声が蘇る。

(喧嘩…?)

シンタローの口元が僅かに歪んだ。
自分に対して絶対に『本気』にならないマジック。

(違う――喧嘩をしたいわけじゃない)

自分はただ、この男が何を考えているかを知りたいだけ。

嫌というくらいに此方の事を見通す『父親』。
そして自分に『何か』が違うと思わせるその態度。
何もかもがわからない。

(でも――)

シンタローは青空を見上げて目を細めた。
太陽の光が必要以上に眩しく感じられる。


「シンちゃん」

「…何だよ」

後から声をかけられて、また自分が黙り込んでしまった事に気付く。

「また…パパと一緒にドライヴしようね?」

シンタローはマジックに背を向けていた。
だからマジックがどんな表情をしながらその言葉を言ったのかは分からない。
ただ――やけに哀しげに聞こえた。

「今、してんじゃねーか」
シンタローは出来るだけいつもどおりの口調で答えた。
「そうだけど、今日だけじゃなくって――」
「気が向いたらな」
マジックの言葉を最後まで言わせずにシンタローは付け加える。

「パパはいつでも乗り気だよ?」
マジックの声がいつものようにおちゃらけたものへと変わった。
「アンタが乗り気でも俺はそうじゃない!」
シンタローはくるりと振り返ってマジックの頭に手刀を繰り出した。
「痛いッ!!」
簡単によけられるはずなのに、それをあえてマジックが喰らったことにシンタローは何故か安心した。
「オラ、いつまでココで停まってんだよ!?」
何グズグズしてんだと文句を言えば、
「えぇ!?パパが悪いの?」
シンちゃんが呆っとしていたからなのに~~と不満げに返される。

いつもと全く変わらない口調に、先程感じた哀しげな響きは感じられなかった。

「じゃあこの先に美味しいパスタの店があるから、一緒にお食事しようねv」
「へいへい」

にこにこと嬉しそうな顔をしながら車を発進させたマジックを横目に、シンタローはいつのもように呆れた顔をした。


「本当に良い天気だね」
ご機嫌な様子のマジックに、シンタローは青空を見上げて「ああ」と返す。

シンタローはマジックの横顔をちらりと盗み見してみるが、先程とは違いきちんと目は笑っていて――その顔からは何も読み取る事が出来ない。


走る車の上には青空が広がっていて、清々しいまでのその青はマジックの青とは違う色だと言うのに、シンタローには同じに見えて――ズキリと胸に痛みが走った。




自分は一体何をしたいのか。


何を望んでいるのだろうか――。



(ちくしょー)


考えれば考えるほど分からなくなっていく。

今の関係に何の不満があると言うのだろう?



『シンちゃんはおとーさまのこと、好きなんだね』



何処からか先日のグンマの声が聞こえてきた。

血の繋がりがなくとも親子だと言ってくれたマジックには感謝した。
今までと変わらずに『異常』と呼ばれるスキンシップをしてくるマジックが鬱陶しいとも思っている。
そしてそれが嫌ではない自分がいることも分かっている。

――なのに何かが『違う』と言っている。


何が違うかなんてわかりもしないくせに。




(ちくしょー…)




考えても考えても答えは出ずに――




シンタローは酷く泣きたいと思っている自分に気付いた――。






END


2006.04.29
2006.08.25サイトUP

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