この世界は光か闇か
「……別に、この世界をどうこうしようなんて、思っちゃいないよ」
はるか昔から現在に至るまで、世界を変えられた奴なんかいない。世界を良くした奴もいないし、悪くした奴もいない。人は悪くなったと思いたがるみたいだけど、それが事実だ。世界は、今のままで十分に完成されているんだ。
「俺は世界を良くしたいんじゃない。それは不可能な話だ。俺は、ただ……このありのままの世界を笑って受け入れる人が増えてくれればいいと願っている。それだけなんだ」
どこか遠くを見るような目で、甥は言う。その美しくも清澄な瞳は、実際私の親友の決して持たざるものであり、この世界で前を見て生きていかねばならない者の、強さと確かさを備えていた。
「……私はいつでも、どんなことがあっても、お前の味方だよ、シンタロー」
私は微笑みながら言う。甥よりも幾分か長い年月を生きている私には、甥が覚悟しているよりもはるかにその道則が困難であろうことが見えていた。だが、今この場でそのことを口にして、甥の意気を挫くこともない。未知の領域に乗り出そうとしている甥の不安が、私の同意ごときでいくらかは解消されるのなら、それで十分なのだろうから。
「……ありがとう、サービス叔父さん」
甥は、蕾が花開くようにあでやかに笑った。私ももう一度優しく微笑んで、甥の額に祝福の口づけを落とした。
半ば《青の一族》でありながら、その負の部分を全く受け継がない甥が、羨ましくも、誇らしくもある。この子は絶対に、我々兄弟のような過ちを犯すことはないのだろう。
それと同時に、私のような──我々のような《古い青の一族》の人間は、もう必要がないのだろうと──そうならなければいけないのだと思い、一抹の寂しさを覚えた。
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(07.04.14.)
「……別に、この世界をどうこうしようなんて、思っちゃいないよ」
はるか昔から現在に至るまで、世界を変えられた奴なんかいない。世界を良くした奴もいないし、悪くした奴もいない。人は悪くなったと思いたがるみたいだけど、それが事実だ。世界は、今のままで十分に完成されているんだ。
「俺は世界を良くしたいんじゃない。それは不可能な話だ。俺は、ただ……このありのままの世界を笑って受け入れる人が増えてくれればいいと願っている。それだけなんだ」
どこか遠くを見るような目で、甥は言う。その美しくも清澄な瞳は、実際私の親友の決して持たざるものであり、この世界で前を見て生きていかねばならない者の、強さと確かさを備えていた。
「……私はいつでも、どんなことがあっても、お前の味方だよ、シンタロー」
私は微笑みながら言う。甥よりも幾分か長い年月を生きている私には、甥が覚悟しているよりもはるかにその道則が困難であろうことが見えていた。だが、今この場でそのことを口にして、甥の意気を挫くこともない。未知の領域に乗り出そうとしている甥の不安が、私の同意ごときでいくらかは解消されるのなら、それで十分なのだろうから。
「……ありがとう、サービス叔父さん」
甥は、蕾が花開くようにあでやかに笑った。私ももう一度優しく微笑んで、甥の額に祝福の口づけを落とした。
半ば《青の一族》でありながら、その負の部分を全く受け継がない甥が、羨ましくも、誇らしくもある。この子は絶対に、我々兄弟のような過ちを犯すことはないのだろう。
それと同時に、私のような──我々のような《古い青の一族》の人間は、もう必要がないのだろうと──そうならなければいけないのだと思い、一抹の寂しさを覚えた。
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(07.04.14.)
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