寒くて目が醒めた、ひとりの夜。
Home alone.
定まらない視界と不明瞭な意識の中、どうしてこんなに寒いのかと考える。
無意識に伸ばした右腕が、ひやりとしたシーツの上をあてどもなく走った。
さらさらとした布の上には何も―――自分以外の、誰もいない。
ああ、そういえば。
あいつはなんとかっていうおぞましいファンクラブの出張講演でいないんだっけ。
俺を置いて、そんなくだらないものにうつつを抜かしてるバカ。だからこんなに寒いんだ。
抱き締めてくれるはずの腕はない。
いつもなら、嫌と言うほど強く縛り付ける彼の腕。
離せ、と言っても決して緩められることのない力強さが今は酷く恋しくて。
冷える体を毛布にくるんでシーツに鼻をこすりつける。
かすかに残る、彼の残り。
体の奥がうずいたが誤魔化すつもりで目を閉じた。
体温を求めて両手を伸ばしても、誰にも届かないから。
両腕が寂しいと訴えてくるから。
仕方なく、自分自身を抱き締める。
何も無い、空虚な空間を抱き締める。
そうでもしないと、寂しくて涙がこぼれてしまいそうで。
好きだ好きだと言ってくる割には、こうやってひとり、置いていって。
「お前は私をひとりにしてはいけないんだよ」って言うくせに。
アンタは俺を置いていくんじゃないか。
アンタこそ、俺をひとりにしちゃいけないんだ。
何も判ってない。バカ。アホ。変態。エロ親父。ごくつぶし。あれ? これはちょっと違うな。
ろくでもないことばかり考える、ヒトリノ夜。
**************
パパがいないと寂しいくせにそれを認めない意地っ張りシンちゃん。
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今日はパパと一緒にお買い物に行った。
お店ですれ違う人たちにじろじろ見られて恥ずかしかった。
確かに世界一かわいい美少年と、やたらデカいおっさんが歩いてたら見たくもなるよね。
『美しさは罪。』美貌のおじさまに教えられたことを思い出す。
Dad, give me a dream day.
晩ごはん用の食材を買い終えた後のこと。
「何か欲しいものはある?」
「欲しいもの? 世界とか?」
「それはシンちゃんに止められたから無理だよ。まったく、お前は本当にパパ似だね」
「そこでため息をつかないでよ。こっちだって好きでパパに似たわけじゃないよ。とにかく、何なら買ってくれるのさ」
「うーん…無難にお菓子とか?」
「わかった。じゃあ選んでくるよ」
「別にお菓子とかじゃなくてもいいのに…シンちゃんに似て無欲な子だねぇ」
「これがいい」
「……………………………………………………………」
「無意味に長い沈黙はやめてよね、パパ」
「あ、ああ、ごめんね。ちょっとフラッシュバックしてたものだから」
パパは僕の手の中にあるお菓子の箱をまじまじと見つめた。
変なものを選んだつもりはないけどなあ。
「M&Mを箱ごと持ってくるなんて豪快な子だね。昔ハーレムも同じことをしていたよ。コタローに敬意を表してパパ似は撤回して、ハーレム似にしてあげよう」
「そんなわけのわからない敬意はいらないよ。パパに似てる方が幾分かマシに思えるからパパ似でいいよ」
「節々に引っかかるところがあったけど、まあいいよ。お菓子はみんなで分けなさいね」
「えぇぇぇえ!? 僕のなのに! 僕が買ってもらったのに!」
「だめー。グンちゃんやキンちゃんとわけっこしなさい。みんなで食べると、もっとおいしいから、ね?」
老人がウィンクしたってかわいくないよ。
そういうのは、僕みたいな美少年がやってこそ、サマになるんだから。
「…はぁ~い」
しぶしぶ返事をすると、いいこいいこと頭をなでられた。
「もう、子ども扱いしないでよ」
「お前はまだ子供じゃない。ほら、おうちに帰るよ」
荷物は二つ。両方ともパパが持った。
だから、パパの両手には、何かが入り込む隙間はないわけで。
言いたかったことも、言えなくなってしまう。
「片方は僕が持つ」
「そう? …じゃあ、こっちを持って」
僕のお菓子が入った袋。他にネギとかが入っている。箱ごと買ったM&Mががさがさと音を立てていた。
早くおうちに帰ってわけっこしよう。
「はい」
すっ、と差し出された手。
「手、つないで帰ろう」
それは僕が言いたかったこと。
言い出せなかったこと。
この人にはわかっているのだろうか。僕がしてほしいこと、したいこと。
全部、お見通しなのかもしれない。
だってさ。どんなに否定したって僕はまだ子供だから。守ってくれる手がほしい。
「…ん」
ひんやりとした手は、ごつごつとして大きかった。
「コタローの手はあったかいねぇ」
熱さと冷たさが混じりあい、その部分が溶けていくような感じがする。
パパと僕の、境界線が消えていく。
「パパの手が冷たすぎるんだよ」
右手にはビニール袋。左手にはパパの大きな手。パパの右手は僕が占領した。今だけは僕のもの。
今だけは、お兄ちゃんのことを忘れてよ。
「シンちゃんともこんな風に歩いたっけなぁ。20年近く前だよ」
やっぱりパパは、お兄ちゃんのことが大好きなんだ。
僕と二人でいる時でさえ、お兄ちゃんの話題ばかり。
パパの頭の中はお兄ちゃんでいっぱい。
僕のことだけを考えてはくれないの?
「だけどシンちゃんはやんちゃだったから、すぐに私の手を振り解いて、どこかへ行ってしまうんだ」
夕日に照らされたパパの顔は、少し寂しそうだった。
「でもお前は違うね。こうして私の手を握っていてくれる」
ほら、とつないだ手を揺らす。
「ありがとう」
お前は私から逃げないでいてくれる。
あの子と違ってお前は私に真っ向から立ち向かってきて、力の限り抗う。
「お前だけが、本当の私を見ているのかもしれないね」
秋の風が僕達の間を駆け抜けた。
**************
vsマジックならシンタローは逃げ、コタローは立ち向かっていくと思うのです。
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やっとおうちに帰ることになったのはいいけれど。
大丈夫かな。
誰も傷つけないでいられるかな。
お兄ちゃんたち、おかえりって言ってくれるかな。
パパはなんて言うだろう。もしかしたら、何も言わないかもしれない。
昔みたいに冷たいまなざしで見返されるだけかもしれない。
だけど僕は強くなったよ。
だから、今度は。好きになってもらえるかなあ。
Dad, never let go of my hand.
冬のにおいがする、半年振りに帰ってきた懐かしい場所。
発つ前には青々としていた木々も今ではすっかり黄色くなっている。
もう何年もこの場所へ帰ってきていないような、そんな錯覚に陥った。
「コタローちゃ~ん!」
記憶にある間延びした声。
タラップを降りると金髪の兄が一番に出迎えてくれた。
問答無用で抱きしめられて頭をなでられ、ほおずりされる。
甘いお菓子の香りの中に混じる薬品のにおい。
ああ、この人のにおいだ。
ここを発つ時も同じにおいをさせていたっけ。
「おかえりなさーい!」
しばらく見ないうちに大きくなったね、みたいなことを言われたよ うな気がする。
声だけを認識することはできたけど、内容まで理解することはできなかった。
僕の意識はただひとりに向けられていた。
赤い服を着た父親。
僕の眼はその人にくぎづけだった。
黙ってパパは僕に近寄り、着ているものが汚れるのも構わず、その場に片ひざをつく。
びしりと身体がこわばる。
心臓が早鐘のように鳴り響いた。
「おかえり。」
静かにそう言って手を差し伸べるパパに、怯えながら手を伸ばした。
もしかしたら、振り払われるんじゃないかと思ったから。
きゅ、と強く握り返されて、目の前の人は立ち上がり、僕の手を引いた。
ひんやりとしたその手。
今まで必死になって求めていた手を、やっとつかむことができて。
その安堵感に僕は声を張り上げて泣いた。
泣きじゃくる僕に驚いた兄と従兄弟の顔がちらりと見えた気がした。
パパは足を止めてかがんで僕を抱き上げようとした。
抱きづらいのか手を離そうとしたけれど、僕が意地でも離さないのを察知して、パパは手をつないだまま片腕だけで僕を抱き上げた。
パパと、僕の手。
離してしまえば、もう二度とつながれることはないような気がした。
だから力いっぱいその手を握り締める。振り解けないほど強く。
血がにじむほどつめを立てて手を握る僕にパパは何も言わなかった。
許されている、と感じて。
僕はますます声をあげて泣いた。
**************
二人きりの部屋に響くのは僕の嗚咽だけ。
ちらりと室内を見回したけれど、お兄ちゃんグッズにまみれているところを見る限り、ここはパパの部屋なんだろう。
お兄ちゃんばかりで埋め尽くされた部屋。
僕の入り込む隙間なんか1ミリもない。
シンタロー人形はあってもコタロー人形はない。あるはずもない。
わかっていたはずなのにまた涙がこぼれてきて、パパの服に顔をうずめた。
ふるえる僕の背中をパパは黙ってなでていた。
相変わらず手はつないだままで。
どれくらい時間がたったのかわからなくなった頃。
僕はぐったりとパパに身をあずけたまま、小さな声でその人を呼んだ。
「…パパ。」
「なんだい。」
「呼んだだけ。」
呼びたかっただけで何の用もなかった。
僕が呼んだら返事を返して欲しかった。
ただ、それだけのこと。
「…コタロー。」
「何?」
「呼んだだけ。」
10歳児と同じことをする53歳のこの人は。
やっぱりアヒル好きで天才と何の紙一重な兄の父親なんだと思った。
…僕もこの人の子供ではあるんだけど、無性にそれを否定したくなるのはなぜだろう。
「……今度から1回呼ぶごとに千円もらうからね。」
「ひどいなあ。パパはお金なんてかけてないのに。」
「パパが子供じみたことをするのが悪いんだよ。」
「ふーん。ねぇ、コタロー。」
「千円。」
「コタロー。」
「二千円。」
「コタロー。」
「三千円。」
「コタ…」
「さっきからなんなのさ。」
泣きすぎたせいでがんがんする頭を動かして、やっとのことでパパと視線を合わせた。
僕をじっと見つめる秘石眼。静かな色をたたえた両目は穏やかささえにじませている。
対して僕はきっと目も鼻も真っ赤になっていることだろう。
「コタロー。私はお金を払ってでもお前を呼ぶよ。」
「お前は私の息子なのだから。」
「どんな障害を設けられようとも、何度だってお前の名を呼ぶ。」
「お前に誓うよ。私はお前の父親になる。誰にも文句は言わせない。シンタローやお前を含め、他の誰にも、ね。信じられないならそれで構わないよ。それがそのまま、私がお前にしたことへの罰になるのだし。」
「……………」
「……コタロー。返事をして?」
「…なに、パパ。」
「私はお前が好きだよ。」
言葉が刺さる。
的確に僕の心臓をえぐる。
そう形容するしかないほど衝撃的な。
「こんなこと言っても、きっと信じられないよね。」
苦笑して、パパは呆然とする僕のほおをくすぐった。
信じられないわけじゃない。
パパは今まで僕に嘘をついたことなんか一度もなかった。幽閉されていた、あの頃でさえ。
だからこそその言葉には真実味があって、怖いくらいに嬉しい。
「……お金はいらない。でも何回だって呼ばせてあげる。ありがたく思うんだねっ。」
ばふっと音を立てて総帥服に顔をうずめた。
恥ずかしくて、でも嬉しくて、ふたつが混じってわけがわからなくなって体中が熱い。
顔だけじゃなく耳も赤くなってるのがわかった。
ぽふ、と頭にのせられた手が髪をすいてゆく。
「あはは、コタローはサービスみたいだねぇ。女王様って言葉がぴったりだよ。」
笑われたのがくやしくて、思いっきり手に力をこめた。
今度こそ。
今度こそ僕の手を離さないで。つなぎとめていて。
再びこの手が離されることがあれば、その時こそ、本当に僕は壊れてしまうから。
「……ずっと、こうしていてくれる?」
お願いだよ、パパ。わかって。
僕がどういう思いで話しているのかを。
「…もちろん。」
つないだままの手が、強く握られて、
「お前が振り払っても、二度と離さないさ。」
覚悟するんだね、とパパが耳元でささやいた。
「愛情表現はいいけど、過剰なやつはお兄ちゃんだけにしてよ。」
「はっはっは。私はショタコンじゃないからその点は心配ないさ。そっちはシンちゃんが専門だよ。」
こつん、とおでことおでこをくっつけて。
僕とパパとの約束を心の中で繰り返す。
「僕もパパのこと、嫌いじゃない。」
パパのことを信じていないわけじゃないけど、やっぱりまだ心のどこかが揺らぐから。
今はこういう言い方で許して。
「ありがとう、コタロー。その言葉だけで私は救われる。」
僕の前では見せたことのない表情で、パパは笑った。
僕達はこんなにも似ているのに、どうしてか遠回りばかりして。
争って傷つけあって、なのになぜか互いが気になって、完全に憎むことはできなかった。
それから何年もかけてやっとこうして同じ場所にいられる。
親子っていうには程遠い関係で、僕もパパもどう接したらいいのか戸惑ってる。
でも、もう一度やり直せるチャンスをくれた人がいるから。
その人に誇れるように、後悔しないように。
お兄ちゃん達と、おじさん達と、パパと僕で。
家族になろうね。
**************
ありえねぇ…
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12月24日。
今日はクリスマス・イヴでもあり、僕の誕生日でもある。
長い間、誕生日を祝ってもらった記憶はないけれど、ふと懐かしさを感じた。
それはきっと、僕が閉じ込められる前の話。
昔のことを掘り返しても、仕方ないのはわかってる。
でも。
僕はまだ。
Dad, please love me tender.
「おやすみ、コタローちゃん」
「暖かくして寝るんだぞ」
「はーい!」
久しぶりに目が覚めると、僕にはお兄ちゃんがいた。
ちょっと言葉が足りないね。正しくはお兄ちゃんが増えたんだ。
シンタローお兄ちゃんと、グンマお兄ちゃんと、キンタローさん。
僕にとって一番親しいのはもちろん、一番最初のお兄ちゃん。
だけど今お兄ちゃんはここにはいない。
僕の代わりに船から落ちて、今はどこにいるのかわからない。
でもきっと生きてるはずだから、大丈夫。
あの島で僕が暮らしていたあの場所に。
そう、思ってる。
だから、お兄ちゃんは今日のパーティーにもいなかった。
当たり前なんだけどそれがすごく寂しい。
どれだけ鼻血出してて変態でブラコンでも、僕の居場所を作ってくれるのは、お兄ちゃんだけだと思うから。
そしてもうひとり、パーティーを欠席した人がいる。
僕と同じ月に生まれたあの人。
パパ。
パパは、お兄ちゃんが帰ってくるまで総帥を代行するんだってサービス叔父さんが言ってた。
僕の記憶の中にはっきりと残ってる、赤い総帥服を着て。
1週間ほど前から出張だか遠征だか行ってるらしい。
いつ帰ってくるかは知らないけどさ。
本当のことを言うとそれを聞いて僕はほっとした。
パパが僕のことをどう思ってるかわからないから。
青い眼が怖い。
冷たい光を宿した青が。
愛情の欠片も見当たらない、パパの両目が。
僕だって同じものを持ってるはずなのにね。
考えることに疲れて、僕は広すぎるベッドにもぐりこんだ。
**************
……夢を見てる。
僕はそう自覚した。
それは僕がまだ小さい頃の夢。
お兄ちゃんと僕と二人で、庭で遊んでいた。
『コタロー、鬼ごっこしよう!』
僕がうんとも嫌だとも言わないうちに、鬼ごっこは始まった。
なぜか僕が逃げて、お兄ちゃんが鬼になっていた。
『待て待て~!』
穴という穴から体液を垂れ流すお兄ちゃんが怖くて、必死で逃げたのを覚えてる。
でもしょせん子供と大人だから、すぐに捕まったんだよね。
まったく。子供相手にむきになるなんて、大人気ないよ。
『コタローは足が速いなぁ!』
そう言って抱き上げられて、頭をよしよしとなでられた。
守られていると思った。
大きくて温かい手。あの頃はそれが僕のすべてだった。
お兄ちゃん手の感触はずっと残ってる。
そう、この手はちょっと冷たいけど、こんな感じで――――……?
はっとして目を覚ますと、やっぱり頭をなでる手があって。
視線をそろそろと動かせば見覚えのある赤い服が目に飛び込んできた。
「ひっ」とのどを鳴らし、反射的に飛び起きてその人を見つめる。
「……ごめんよ、寝てたのに。驚かせたかい?」
僕の反応を怪しむでもなく、目の前の人は淡々と口を開いた。
それに対して、僕はこくこくと無言でうなずく。
まさかこの人がいるとは思わなかった。
どくどくと波打つ心臓をなんとか落ち着かせようとして、今更ながら平静を装う。
ベッドの横で椅子に腰かけ、僕を見下ろす人と目を合わせた。
以前のような剣呑なものではなく、かといって感情が読み取れるわけでもない、その両目。
「………パパ、」
小さく呼ぶと、パパは首を小さくかしげて笑った。
何か言わなくちゃ。そう思うほど言葉はでてこない。
口の中が接着剤でくっついたみたいに動かない。
パパはパパでじっと僕が話すのを待っている。
何か、何か、この沈黙を壊す呪文を言わなきゃいけないのに。
ガチガチに緊張する体のどこかで、青の力が揺らぐ。
ああ。
僕はまだ。
この人が怖い。
暴走しそうになる力をなんとかして押さえつける。じっとりと汗をかく体が気持ち悪い。
ここで力のコントロールができなければ。
また、あの場所に戻されちゃうかもしれない。
必死になっている僕へ向かってパパの手が伸びてきた。
体が硬直して。
手も足も、何かに縛り付けられたみたいに動かない。
目をきつく閉じたその瞬間――――
きゅ、と抱きしめられた。
そのことを理解するまもなく、耳元で小さくパパは言った。
「ごめんね」
いろいろな意味が込められているのであろうその言葉に、驚くほど簡単に体の力が抜けた。
それと同時に、あふれそうだった青の力も落ち着きを取り戻す。
冷たいとばかり思っていたパパの腕はすごくあったかくて、理由もなく安心した。
あれだけ、憎みあっていたはずなのにね。
それとも、そう思っていたのは僕だけなのかなあ?
「さあ、もう寝なさい。起こしてすまなかったね」
パパはそっと立ち上がってキルトを掛けなおしてくれた。
「それと――――コタロー、お誕生日おめでとう」
そうささやいたパパの声はすごく優しくて、僕は思わず目を見開いた。
パパからそんなこと言ってもらったことは少なくとも僕の記憶の中には、一度だってない。
初めて。
パパが僕に。
おめでとうって言ってくれた。
どんな高級なプレゼントよりも、数え切れないお祝いの言葉よりも。
パパがくれたその言葉が一番嬉しかった。
『お誕生日おめでとう』
それってさ、生まれてきてくれてありがとうって意味なんでしょう?
パパ。
僕はまだあなたが怖くて、どう接したらいいのかよくわからない。
どうしたらパパと仲良くなれるのか全然わからない。
だけどさ。
僕ね、パパのこと、嫌いじゃないよ。
だからパパも僕のこと嫌いにならないで。
お兄ちゃん達の次でいいからさ。
僕を好きになって?
いつもこうやって頭をなでて、ただいまのハグをして。
時々でいいから一緒に遊んで、手をつないでどこかに出かけて。
ごくたまになら、ほっぺにキスも許してあげるよ。
僕の一番近くにいなきゃいけないのはパパなんだよ。お兄ちゃんじゃだめなんだよ。
誰も、パパの代わりのはなれないんだ。
パパから「好きだよ」って言ってもらえたら、僕はやっと僕のことを許せると思う。
いろんな人を傷つけて、数え切れないほどの物を壊してきたけれど。
パパの言葉ひとつで僕は救われる。
僕はここに居て生きていてもいいんだって思えるんだよ。
だからお願い。僕のことも好きになって。
「パパ、明日もお仕事なの?」
開きかけた扉の前で足を止め、パパは僕を振り返る。
「うん。午後からね。……何か用事でもあるの?」
「じゃあ今日は一緒に寝てあげるよ!」
ぴょん、とベッドから飛び降りて、背の高いパパを見上げた。
一瞬目を丸くしたけれど、パパはにっこりと笑った。
お兄ちゃんに向けるのと同じ種類の笑顔じゃないけど、僕だけに向けられたその笑顔が心の中にある壁を少しずつ、ゆっくりと壊していく。
「寂しいなら素直にそう言えばいいのに。パパがいくらでも添い寝してあげるよ」
「何言ってんの。寂しいのはパパのほうでしょ。毎日お兄ちゃんの写真眺めて、鼻血の洪水起こしてるの知ってるんだからね。それから夜中にお兄ちゃんの部屋に入って、肺いっぱいに部屋のお兄ちゃんの匂いかいでから寝てることも」
「ちょっとちょっとコタロー。鼻血の件は周知の事実だからいいけどね。後半のソレ、誰から聞いたんだい?」
「ナマハゲ。」
「ふぅぅん……」
ちょっとだけ、パパの秘石眼が光ったような気がしたけど、たぶん気のせいだろう。
僕は左手にまくらを持ち、右手をパパに引かれて部屋を出た。
次の日、獅子舞がめこめこにパパに干されたらしいということを聞いたのは、また別の話。
**************
親子になりかけの二人。
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楽園の風景
世界は一度壊れ。
そして再生したらしい。
かつてはこの地を捨て宇宙に楽園を求めた事もあったという。
宇宙とは真っ暗な夜空の事を言うのか。
そもそもあんな所に楽園など本当に存在するものか?
俺は地上と自分がいる天上界以外のものは知らない。
そのはずなのに。
楽園を思い浮かべると固定的で強烈なイメージがある。
見たこともない赤や緑の鮮やかな草花。
透き通るような青い海と
吸い込まれるような青い空。
動物の騒がしい声。
そしてその中心にいる…
「髪伸びたな。切らないのか?」
「ああ…まぁ何となくな…で?何のようだよ兄貴…」
思考を止められたせいか、はたまた彼の性格なのか。
リキッドは不機嫌そうに自分の髪を一まとめにしながら
兄を振り返った。
「天帝のことだ、地上に下ろす期日が決まった」
「……俺は反対したはずだぜ」
「決定事項だ、変更はない。それを伝えに来ただけだ」
リキッドは振り返ることなく、兄が部屋から出る音を聞いた。
幼い弟を地上に下ろすと言う。
表面上は地上を見守るため。
真の目的は魔人の目を欺くためなどと言っていたか。
戦い以外のことはサッパリで理屈など知らない。
しかし地上人が自分であれば、いきなり現れた見知らぬ子を育てようと思うか?
答えはNOだ。
心優しい種族とはいえ、大きな戦争の後。
警戒され殺されるかもしれない。
リキッドは血がにじむほどに拳を握り締めた。
世界が反転する。
体に激痛と圧迫感。
地をなめるように体を押さえ込まれ、腕をねじり上げられている。
不意打ちとは言え自分がこれほど簡単に押さえ込まれるものなど兄たちでもなく
「お前さ…受身ぐらい取れよ…」
あきれたような声が上からかけられたと思うと圧迫感がすっとなくなった。
声の主に心当たりはない。
だが相当なやり手である事は量られる。
完全臨戦態勢に入り、片手を地に付け声の主に向かい蹴り上げた。
ところがソノ足は空を切り、すばやく手を声の主の足で払われ、
また世界は反転した…
その瞬間見えたのは
青空に浮かぶ酷く眩しい太陽の逆反射、
姿は見えない、声の主のシルエットと
光に照らされ輝く長い黒髪…?
ドン。
また襲う激痛。
だが先ほどとは違い衝撃が少ない。
「あれ…俺の部屋?」
あわてて声の主を探すが、そこには自分以外のものは何もなく。
そして今の自分の現状はと言うと、
椅子から転げ落ちたような格好。
ような…というよりまさしく、それしか考えられない状態だ。
どうやら、居眠りをして夢を見ていたらしい。
リキッドは大げさにため息をつくと、自分の間抜けさにあきれ
頭をかきながら立ち上がり、顔を洗いに水場へと移動した。
外は日が傾きかけ、鮮やかな夕日が照らしていた。
今日の深夜、弟を地上へ下ろす。
不安な気持ちは消えない。
水場につき顔を洗おうと水面を覗き込んだ。
そこには心配で歪んだ自分の顔があった。
弟は本当に大丈夫だろうか?
地上に下ろしてしまえば、何が起ころうと手を差し伸べる事は出来ない。
たとえ目の前で弟に危害が加えられたとしても指をくわえて見守る他ないのだ。
あの日…弟がいなくなった悪夢のような日…
あれから何度も何度も後悔し、そして誓った弟を命に代えて守ると。
それなのに!!
リキッドは乱暴に顔を洗った。
ひたすらがむしゃらに。
そしてどれほどの時間がたったのか。
この心の不安は洗い流される事などなく。
自分の顔から落ちる水滴は水面を揺らし
そこに映る自分の顔をただ眺めた。
水面に映る自分の姿。
ソノ姿が夢の中の男と被って見えた。
あれは自分自身だったのか?
いや…違う。
俺はあの人じゃない。
実はあの人物が出る夢は初めてではなかった。
相変わらずあの声の主に心当たりはない。
だが自分がイメージに持つ楽園の風景には確かにあの人がいる。
思えば髪を伸ばすようになったのも、あの夢を明確に見出した頃からだ。
印象に残る長い黒髪。
夢の中の楽園に住む人…
目を瞑り、夢を思い出そうとすると
少しだけ苛立ちが消えるような気がした。
日が落ち。
天帝を地上に下ろす時が近づいた。
リキッドの不安は増すばかりで、
悲痛の表情で弟を見た。
「リキッド…この子の運命を信じろ」
兄達にそう言われ、弟に最後の言葉をかけた。
「強くなれ」と
幼い弟はソノ言葉を理解できたのか出来ていないのか、
嬉しそうに無邪気に笑った。
まるで心配するなとでも言うように。
それからとうとう弟は地上へ下ろされ
その様子を息を呑んで見つめた。
そしてそこへ幼い弟を預ける自由人が現れた。
その姿を見た瞬間息が止まった。
肌があわ立ち鼓動がうるさく耳につく。
その自由人の英雄はまだ若い男だった。
一目で普通の精神状態でないことがわかるような荒れた状態の男なのに。
何故か弟を預ける事への不安は一瞬にして消えていた。
やがて男はすがりつく幼子を受け入れ
まるで元からそうであったように、親子となった。
その情景は酷く懐かしく感じられ
涙が出た。
嗚呼…そうか…この自由人はあの人なんだ。
何故か夢の中の楽園のあの人だと思った。
顔や声など思い出せない。
強烈に記憶に残っている、輝く長い黒髪もこの自由人には無い。
しかしあの人だと確信した。
夢の中の楽園に住むあの人だと。
あれから数年の月日が流れた。
何千年も生き続ける天上人である自分には一瞬の事であるはずの数年が
酷くゆっくりと流れる時間に感じられた。
毎日の日課のように覗く地上の姿。
その視線の先には一組の親子。
弟を地上に下ろしたあの日からあの楽園の夢を見ることは無くなた。
その代わりあの楽園と同じ風景を毎日目にする。
太陽の下を長い髪の男が幼子の手を引き、
周りの仲間と騒ぎながらも幸せに暮らしている。
リキッドはその風景を見守りながら
嬉しいはずなのに寂しそうに笑った。
俺はもうあの楽園に混ざる事は無い。
少しだけそれが残念だった。
世界は一度壊れ。
そして再生したらしい。
かつてはこの地を捨て宇宙に楽園を求めた事もあったという。
宇宙とは真っ暗な夜空の事を言うのか。
そもそもあんな所に楽園など本当に存在するものか?
俺は地上と自分がいる天上界以外のものは知らない。
そのはずなのに。
楽園を思い浮かべると固定的で強烈なイメージがある。
見たこともない赤や緑の鮮やかな草花。
透き通るような青い海と
吸い込まれるような青い空。
動物の騒がしい声。
そしてその中心にいる…
「髪伸びたな。切らないのか?」
「ああ…まぁ何となくな…で?何のようだよ兄貴…」
思考を止められたせいか、はたまた彼の性格なのか。
リキッドは不機嫌そうに自分の髪を一まとめにしながら
兄を振り返った。
「天帝のことだ、地上に下ろす期日が決まった」
「……俺は反対したはずだぜ」
「決定事項だ、変更はない。それを伝えに来ただけだ」
リキッドは振り返ることなく、兄が部屋から出る音を聞いた。
幼い弟を地上に下ろすと言う。
表面上は地上を見守るため。
真の目的は魔人の目を欺くためなどと言っていたか。
戦い以外のことはサッパリで理屈など知らない。
しかし地上人が自分であれば、いきなり現れた見知らぬ子を育てようと思うか?
答えはNOだ。
心優しい種族とはいえ、大きな戦争の後。
警戒され殺されるかもしれない。
リキッドは血がにじむほどに拳を握り締めた。
世界が反転する。
体に激痛と圧迫感。
地をなめるように体を押さえ込まれ、腕をねじり上げられている。
不意打ちとは言え自分がこれほど簡単に押さえ込まれるものなど兄たちでもなく
「お前さ…受身ぐらい取れよ…」
あきれたような声が上からかけられたと思うと圧迫感がすっとなくなった。
声の主に心当たりはない。
だが相当なやり手である事は量られる。
完全臨戦態勢に入り、片手を地に付け声の主に向かい蹴り上げた。
ところがソノ足は空を切り、すばやく手を声の主の足で払われ、
また世界は反転した…
その瞬間見えたのは
青空に浮かぶ酷く眩しい太陽の逆反射、
姿は見えない、声の主のシルエットと
光に照らされ輝く長い黒髪…?
ドン。
また襲う激痛。
だが先ほどとは違い衝撃が少ない。
「あれ…俺の部屋?」
あわてて声の主を探すが、そこには自分以外のものは何もなく。
そして今の自分の現状はと言うと、
椅子から転げ落ちたような格好。
ような…というよりまさしく、それしか考えられない状態だ。
どうやら、居眠りをして夢を見ていたらしい。
リキッドは大げさにため息をつくと、自分の間抜けさにあきれ
頭をかきながら立ち上がり、顔を洗いに水場へと移動した。
外は日が傾きかけ、鮮やかな夕日が照らしていた。
今日の深夜、弟を地上へ下ろす。
不安な気持ちは消えない。
水場につき顔を洗おうと水面を覗き込んだ。
そこには心配で歪んだ自分の顔があった。
弟は本当に大丈夫だろうか?
地上に下ろしてしまえば、何が起ころうと手を差し伸べる事は出来ない。
たとえ目の前で弟に危害が加えられたとしても指をくわえて見守る他ないのだ。
あの日…弟がいなくなった悪夢のような日…
あれから何度も何度も後悔し、そして誓った弟を命に代えて守ると。
それなのに!!
リキッドは乱暴に顔を洗った。
ひたすらがむしゃらに。
そしてどれほどの時間がたったのか。
この心の不安は洗い流される事などなく。
自分の顔から落ちる水滴は水面を揺らし
そこに映る自分の顔をただ眺めた。
水面に映る自分の姿。
ソノ姿が夢の中の男と被って見えた。
あれは自分自身だったのか?
いや…違う。
俺はあの人じゃない。
実はあの人物が出る夢は初めてではなかった。
相変わらずあの声の主に心当たりはない。
だが自分がイメージに持つ楽園の風景には確かにあの人がいる。
思えば髪を伸ばすようになったのも、あの夢を明確に見出した頃からだ。
印象に残る長い黒髪。
夢の中の楽園に住む人…
目を瞑り、夢を思い出そうとすると
少しだけ苛立ちが消えるような気がした。
日が落ち。
天帝を地上に下ろす時が近づいた。
リキッドの不安は増すばかりで、
悲痛の表情で弟を見た。
「リキッド…この子の運命を信じろ」
兄達にそう言われ、弟に最後の言葉をかけた。
「強くなれ」と
幼い弟はソノ言葉を理解できたのか出来ていないのか、
嬉しそうに無邪気に笑った。
まるで心配するなとでも言うように。
それからとうとう弟は地上へ下ろされ
その様子を息を呑んで見つめた。
そしてそこへ幼い弟を預ける自由人が現れた。
その姿を見た瞬間息が止まった。
肌があわ立ち鼓動がうるさく耳につく。
その自由人の英雄はまだ若い男だった。
一目で普通の精神状態でないことがわかるような荒れた状態の男なのに。
何故か弟を預ける事への不安は一瞬にして消えていた。
やがて男はすがりつく幼子を受け入れ
まるで元からそうであったように、親子となった。
その情景は酷く懐かしく感じられ
涙が出た。
嗚呼…そうか…この自由人はあの人なんだ。
何故か夢の中の楽園のあの人だと思った。
顔や声など思い出せない。
強烈に記憶に残っている、輝く長い黒髪もこの自由人には無い。
しかしあの人だと確信した。
夢の中の楽園に住むあの人だと。
あれから数年の月日が流れた。
何千年も生き続ける天上人である自分には一瞬の事であるはずの数年が
酷くゆっくりと流れる時間に感じられた。
毎日の日課のように覗く地上の姿。
その視線の先には一組の親子。
弟を地上に下ろしたあの日からあの楽園の夢を見ることは無くなた。
その代わりあの楽園と同じ風景を毎日目にする。
太陽の下を長い髪の男が幼子の手を引き、
周りの仲間と騒ぎながらも幸せに暮らしている。
リキッドはその風景を見守りながら
嬉しいはずなのに寂しそうに笑った。
俺はもうあの楽園に混ざる事は無い。
少しだけそれが残念だった。