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ss





キミと共にあるために





お前と共に笑いたい。
お前と共に泣きたい。
喜びも悲しみも全部全部お前と一緒にありたい。





それは叶う事などない願い。



『さよなら』






あの時、僕はお前の手を離した。
お前が喜ぶならなんだってできた。
僕に色々なものを与えてくれた友達。






後悔などしていない。
ただ辛かった。
お前と別れるのは、とても辛かった。








お前と共に笑いたい。
お前と共に泣きたい。
喜びも悲しみも全部全部お前と一緒にありたい。

そんなこと無理だと知っている。
お前には大切なものがいっぱいあるから。








僕はお前の手を離した。











お前は言ったことは全て守ってくれた。
今度は僕がお前を守る番。
後悔などしていない。
ただ辛いだけ。
そう…ただ辛いだけだ。









それは叶う事などない願い。











だから今度出逢ったときは、いっぱいわがままを言おう。
ずっとずっとへばりついて、どこに行くもずっと一緒で。
泣いて、笑って!!
もう二度と手を離さないと、お前が僕の一番だと叫んでやろう!!













そう、それは叶う事などない願い…





















「お~い、ヒーロー…って待ちくたびれて寝ちまったか?」
夕暮れ時大きな樹の下、自由人と呼ばれる人間界の王者は愛息子を抱き上げ、帰路につこうと歩き出した。
「…パーパ?」
その暖かい腕の中で幼い少年は父親の存在に気づいた。
まだ寝ぼけているのか、微かに目を開けて自分を呼ぶ息子にシンタローは笑顔を見せる。
「起きたか。寝ていてもいいんだぞ?」
「パーパ…」
「?」
ヒーローはシンタローにしがみついた。
「どうした?怖い夢でも見たか?」
「…パーパ、どこにも行かないか?」
シンタローは驚いたように目を開き、そしてやさしく細めた。
「どこにも行かないよ。ヒーローがパーパと一緒にいたいって思う限り、パーパはお前と共にいる。」
その言葉を聞いてヒーローはシンタローに抱きつく。
「ヒーローはパーパが一番大好きだぞ!!」
シンタローはヒーローを抱きとめながら笑った。

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だったらいいなぁって…(またかよ)
同ネタ多そう(またかい)


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s























キミに再び逢うために






「本当に良いのかシンタロー」
ジャンの問いかけにシンタローは笑った。
「はぁ?何いまさら躊躇してやがるんだ?それに、それが望みで俺に接触してきたんだろ?何を悩む?」
「・・・・・・」

ジャンは、シャーレに入った赤いカプセルと水をシンタローの前に置いた。
それは永遠をとめる薬。
身体に入れば、それは溶けて吸収され、彼の時間を止めるだろう。

金髪の美しい男が死んだ。
その日からジャンは狂いだした。
そしてある計画を思いついた。

チャンネル5計画。

しかしそれを実行するには、どうしても必要なものがあった。
強い身体。
ジャンは試作品を作り、研究を重ねた。
何度も失敗した。
試作品はみな『それ』に耐えられなかった。
しかしある日気づいた。

自分の身体であれば『それ』に耐えられることを。

だが自分は『それ』を実行するもの。
自分以外の自分の身体が必要であった。

だから彼に目をつけた。
自分と同じ身体を持ち、自分と同じ永遠の時間を持て余していた彼に。

彼も大切なもの失いすぎていた。
そんな彼の心につけ込んだ。
『それ』は大切なものを守るための計画だと。
表向きのきれいな部分だけをかざして。

彼は話を聞いて嬉しそうに笑った。
『やっときたか』と…
それは自分には理解できない言葉だった。
その意味を聞いても、彼は答えようとはしなかった。


だが、ここにきてジャンは少しだけ迷いをもっていた。
自分の元主人の大切な者であり、何よりあの美しい男の甥である彼を使うことに。
あの美しい男は自分を許さないのではないか?


「この薬を飲めば仮死状態に、いや…正確ではないが、脳死の状態になる。やめるなら今のうちだぞ…」
「俺は一度言ったことは通す主義なんだ。くだらないこと言ってないで、さっさとよこしやがれ」

ジャンはシンタローに薬を渡した。
シンタローは何の躊躇もなくそれを飲み下す。

それを見てジャンは重い口を開いた。
「俺は…俺はお前に言ってないことがある…」
シンタローは笑った。
「何わかりきったこと言ってやがるんだ?それくらい知ってるさ。」
「シンタロー…」
「勘違いするな。俺はお前に利用されるんじゃない。俺がお前を利用するんだ。」
ジャンが怪訝な顔をする。
「とにかく、その何とか計画ってやつを、早く実行してくれよ。早くないとあいつが生まれてきちまう。」
「生まれてくる?」

シンタローは幸せそうに笑った。
「俺の友達だった男だ」
その言葉を発したとたん、シンタローは倒れこんだ。
それをジャンが支える。

『シンタロー』は身体だけ残し消えた。






あれから何年の月日が過ぎただろう。
ジャンは組織保存液の中の自分と同じ顔の男を見ていた。
今日この男が再び目を覚ます。
まったく違う作られた存在として。

「博士!三男の組織保存液を抜きます」
「ああ…」

大型のカプセルから、液体が抜かれる。
濡れた黒髪が、あり日の彼と何も変わらない艶やかさをかもし出す。

利用されるのではなく、利用するのだと言った彼。
友が生まれてくると言った彼。

彼も狂っていたのかもしれない。

その友が自分の元主人であるかは確認のしようも無いが…
せめてそうであることを願いたかった。

それが唯一あの美しい男に許されるすべのような気がして。


カプセルの中の男が目を開いた。
プログラムされていた言葉を発する。
「マスターJ、あんたが俺の主か?」
ぶっきらぼうな言葉。
『シンタロー』の色をできるだけそのまま残した。
もし本当に彼が友と再び出会うことができたとき、すぐにわかるようにと。

赤い服を着て、その力で世界の全てを救おうとした男。
その姿が不意に思い出された。
燃えるような紅い男。

「マスターJ?」
「…紅…それがお前の名前だ。覚えておけ。」



どうか彼が友に再び出会えるよう、せめてもの餞に。












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だったらいいなぁ…なんて。
同ネタ多そうだな…






sm
19-不死身  

「父さん!」

考えるよりも先に体が動いていて、

「消えろ…消えろニセ者!」

声の主に身体を奪われていた。

俺はあの時、一度死んだのだ。

 

「あれ?」
気付くとそこはきれいな花畑。
「どうしてこんな所にいるんだっけ?」
頭は霞がかかったようにぼんやりとしていた。
「早く行かないと…。」
けれど何故だか、「行かなければ」と言う焦燥感だけがやけにはっきりと頭にあった。
しばらく花畑を行くと前方から、低くて深みのあるどこか懐かしさを憶える声がした。
「何処へ行くんだい?」
声に顔を上げれば目の前には大きな川があり、向こう岸に人影が見える。
「何処へ?…どこだろうな。でも行かなきゃならないんだ。」
頭がぼんやりしてどうにも考えられない。
だが、とにかく行かなきゃいけない。
焦燥感は膨らむばかりだ。
「君はこちらに来たいのかい?」
向こう岸の人が尋ねる。
言われて気付いた、確かに俺の足は向こう岸へと進んでいるようだった。
気付いた瞬間、早く向こう側へ行きたいと強烈に思った。
「そうみたいだ。なぁ!船とか橋とかねぇの?」
俺の焦った声に、
「…何故?」
向こう岸の人は静かに尋ねる。
「何故って…?そっちに行きたいからだよ!」
「何故?君はこちらに来てはいけないのに?」
この時は 意味がわからなかった。
「帰りなさい。君にはまだ役目がある。」
向こう岸の人が手を空にかざした。

空が輝く。
長い金髪が空の光を弾いた。

「…もう来る事はないだろうけど。」

その言葉を聞いたのを最後に俺の意識は沈んでいった。


あの後、いろいろあって俺は生き返った。
アレが臨死体験ってやつだったんだな、と今ならわかる。
そしてあの言葉の意味も、

『もう来る事はないだろうけど』

手をかざし、光の中でそう呟いた金髪の人


「じーさん…アンタは知ってたんだな?」

(あの一回だけが人としての俺に許されたチャンスだった事)

一族のために作られた墓地。
俺はそう言って、携えていた白い花束の内の1本をじーさんの墓に供えた。
空からの光が、きらきらと備えた花を金色に見せていた。
俺は、他の墓にも白い花を一本一本供えていった。

ついに手には最後の一本だけが残された。
「アンタにはこれだ。親父。」
父親の墓にだけ、紅いバラの花を供えてやる。
「派手なアンタのイメージじゃねぇもんな、白い花はヨ?」
真紅のバラは真っ赤な総帥服を着ていた父親のイメージにぴったりだった。

どれほどの刻が過ぎたろう。
それこそ、ジャンの言うように気が遠くなるぐらい長い年月を俺は過ごしていた。
たった一度の機会は運命を知らない俺が人間だった頃。

「あの時成仏してればって思わねぇこともねぇよ。けど少なくともアンタが死ぬまではそばに居てやれたし…」

マジックの墓の前でしゃがみこんでいると、
「シンタロー!!」
墓地の入り口で、紅い服を着た金髪の少年が俺を呼んでいる。
「アンタのこれからも見守ってやれるからな。」

たとえ自分だけが時の中に残されたとしても、 あなたを思い守って生きていけるのならば幸せー
漆黒の髪を翻し、新たな絆に歩を進めた。


 

☆おまけ☆
「シンタロー。」
「ん?」
「ご先祖様のお墓…。一つだけバラを供えていたよね?」
「ん?あぁ。それがどうかしたか?」
「…真紅のバラの花言葉って知ってる?」
「…。」
「…大事な人だったの?」
「お子ちゃまには関係ねぇ~だろ?」
「むっ。シンタロー!」
「あんだよ?」
「そんな奴僕が忘れさせてやるからな!」
「なっ?!」

そう叫んだ少年に掠めるように唇を奪われ、あっけに取られている間に逃げられた。

「…アンタ、生まれ変わっても俺を振り回す気なのか…?」
(勘弁してくれよ…。)
そう思いながらも俺は微笑んでいた。

以前の貴方とは違うけれど、ここに在る貴方の魂が愛しい。

 

◇あとのあがき◇
不死身設定だったならば… シンタローさんは、生き返ってから不死身になったってことだろうから、そこらへんのとこを書こう…
というよりライオンパパが出したかっただけです(爆)
いやほらよく言うじゃないですか?「キレーな花畑で死んだじーさんが…」(おい)
正確にはシンタローさん2度3度と死んでるんですがね…
アスとかジャンとかの辺りは死んだというより、吸収された(?)ってほうがしっくりくるかなと…
そこらへんはまたおいおい書いていきたいなぁと思います。
あ、最後に出てきた少年は一応マジックパパの生まれ変わり…らしいです;(えぇー)
生まれ変わりと思ってるので「マジック」ではないんですが、魂レベルで好きだ!ということで…(CLA〇PのWish4巻的展開で…)

○ちなみに明日使えないぷちトリビア?○
真紅の薔薇の花言葉は愛情、情熱、愛嬌、美など。
作中の白い花は百合です。花言葉は純潔、威厳、高貴、偉大など。
他にも色んな言葉がありましたが話に合いそうなものだけ挙げてます。
ギリシャ語で百合は白い、ケルト語で薔薇は赤い、を表す単語が英名の由来だそうです。
へぇ~、へぇ~・・・

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sms
「真紅のバラの花言葉って知ってる?」

渋面になった顔を見上げながら尋ねる。

「・・・。」

むっつりと黙ったまま答えてくれない。

「大事な人だったの?」

さらに問いを重ねる。

「お子ちゃまには関係ねぇ~だろ。」

心なしか頬を赤くした顔で答えてくる。

(素直に大事な人だって答えればいいのに)

少しむっとした私は、ちょっとした悪戯を思いつき実行した。

「そんな奴僕が忘れさせてやるからな!」

(無理だよ、きっとお前は忘れはしない)

「なっ!!」

触れるだけのキスをしてその場から一目散に逃げる。
光で満ちた墓地を後にした。

 

****

 

仄暗い廊下を進む。
遥か昔に打ち捨てられたはずの研究棟。
破棄されたはずの施設は秘密裏に今も存続している。

「経過は良好のようですね」

施設の一室、白い蛍光灯の光の下で白衣の男と顔を合わせる。
定期的な検査だ。

「あぁ。おかげであの子と楽しい日々を送っているよ。」

少年にしては大人びた口調。
これが本来の私だ。

「それもこれもお前が研究を成功させたおかげだ。」

目を細め白衣の男を見る。

「興味深かったからですよ。不死は我々科学者にとっては永遠のテーマですから。」

そう言う男も今や不死者だ。

「だが、これで終わりではないのだろう?高松。」

我々は、今やありあまる時間を手にしたのだ。

「ええ。今度は他のテーマで研究を進めて行こうと思っています。」
「他のテーマ?」
「物質の根源。惑星の持つ力。遺伝子。特異な能力。」
「・・・テーマはつきないようだね。」
「探究心がなくなれば研究者は終わりですよ。」

口元を歪めて男は笑う。

「・・・そろそろ、戻る。」
「そうですね。あまり長くここにいるのは良くないでしょう。」

ここには狂気が淀んでいる。

「マジック様。忘れてはいけませんよ。我々は共犯者だ。」

「共犯者?永遠を望むのはいけない事かい?」

「いいえ。神をも恐れない貴方様らしいお答えです。」

さらに口元を歪め男は嗤う。

見据えた瞳に狂気が見えた。

 

はたしてそれは、その男の物なのか、男の瞳に映る私の物なのかー

 


◇あとのあがき◇
19-不死身を読んでから読まないと意味不明だと思われます・汗
読んでも意味不明かもですが・滝汗
ほんのりチャンネル5をにおわせてみたりなんかして・・・
sg
幕間劇


 シンタローは、ガンマ団本部のとあるフロアの一室、通称『子供部屋』にいた。 
 この強大な暗殺者組織の総帥である父、マジックが、その職務に就いている間、シンタローはここで時間を過ごすのが常だった。
 今年で十歳になる息子を猫可愛がりして何処へ行くにも連れ歩き、暇さえあれば動物園だの遊園地だので遊ばせるマジックだが、自分の目が届かない時間、本部をただの子供が自由にうろつくのはさすがにはばかられるものらしい。決してこの部屋を出てはならないとシンタローは厳命されている。
 錠鍵は掛けられていないが、彼は命令を破ったことはなかった。与えられた言葉そのものが鍵の役目を果たしていたのだから。
 目の前には大きな鏡。それに映る己の姿を、彼は複雑な面持ちで見やった。
「………」
 くんっと軽く髪を引いてみる。父を筆頭とする一族の、他の誰も持ち合わせぬ黒い頭髪と……瞳。有り得べからざる、存在。
 父や叔父は可愛がってくれるが、他人が自分をどう噂しているのか、もう何年か前からシンタローは知っていた。
『出来損ない』――
 父が優しいのも、一種の不具者である息子への憐憫の故である、と。口さがない者は、血のつながりの有無まで取り沙汰している始末だ。 
 マジックに連れ歩かれるたび己に向けられる、好奇の視線。そして「あれが――あれでマジックの息子なのか」という不審の声は否応なくシンタローの心を切り刻んだ。勿論水面下で囁き交わされるだけのものではあったが、彼にはそれで充分だったのだ。
 自分にもっと力があれば……誰が見てもあの父の跡継ぎたる資格を持っていたら。そうしたら――。
 誰にも何も言わせないのに。「総帥も物好きな……情に流されて、何の力もない異端者を後継者とするとは」という、マジックに対する陰口などたたかせないのに。父を安心させてあげられるのに……。
 そこまで至ってもなお、自己よりマジックをかばおうとするところが、他に拠り所を持たない少年の手いっぱいの想いであるかもしれなかった。
 シンタローは鏡の中の自分を睨みつけた。
 その時、扉が小さな音とともに開いた。
「やっほー、シンちゃん、遊ぼっ」
 振り返ったシンタローの視線の先に、笑顔の少年が立っていた。ずっと幼い頃から天分を発揮して、既にここで半人前ながら科学スタッフの仲間入りをしている、同い年の従兄弟だ。
「グンマ……」
 いつものこととて、そのままグンマは子供部屋に入ってきた。
「お勉強の手があいたから来ちゃった。ね、何して遊ぶ?」
 シンタローはグンマをわずかに目を細めて見つめた。
 写真でしか見たことのないルーザー、そして一族の長であるマジックによく似た顔立ち――。
「どしたの、シンちゃん、ボーッとして」
 きょとんと首を傾げて、グンマは従兄弟の顔を覗き込んだ。伸びかけの淡い金髪がさらりと流れる。シンタローを映す、碧い瞳。
 ――象徴を全て具えた、その姿。
 何故こいつは、自分の欲しいものを当たり前の顔をして持っているのだろう? その多幸に気づきもせずに。
 ……どうして。
 頭の片隅でそう考えた瞬間、突き上げる衝動にシンタローの意識は飲み込まれていた。
「……ょう……」
「シン、ちゃん……?」
「……畜生ぉーッッ!!」
 吠えるように叫んで、シンタローはグンマの胸ぐらを掴み上げた。
 勢い余って、二人は床に転がり込んだ。
「おまえなんてッ!」
「やだっ、何するのさ!」
 抗うグンマを押さえ、シンタローは拳で殴りつけた。続けて従兄弟の頭髪をがばりとひっ掴む。
「痛いよォ! やめてよ、シンちゃん!」
「どうしておまえでなきゃいけないんだ!」
「な……何言ってるの? シンちゃん、ねえ! 一体どうしちゃったの!?」
 グンマには、シンタローの豹変の意味など判ろうはずもない。少しでも身を守ろうとするだけで精一杯だ。その従兄弟に、生まれながらの異端者である少年は激情の塊ごと言葉を突き立てた。
「全部持ってるくせに! 目も、髪も、顔も、力も! 何でおまえだけッ! おまえなんかがっ!!」
 シンタローは掴んだ金の髪を荒くひっぱった。
「畜生! おまえの髪の毛よこせ! よこせよおぉーっっ!!」
「痛いってばぁ! やだやだやだッ!!」
 グンマは必死に身をよじって暴れた。シンタローから逃れようと懸命に抵抗する。めちゃくちゃに振り回した腕が、シンタローの頬に当たった。
 ほんの半瞬力がゆるんだ隙に、グンマはシンタローの下から抜け出し、後ずさった。
「……っ」
 グンマはぼろぼろと涙をこぼしながら、姿勢を立てなおそうとするシンタローをねめつけた。
「ばか! シンちゃんなんか大っ嫌いだ!!」
 怒鳴って、グンマは身を返し、部屋を飛び出していった。
 シンタローは扉の向こうを凝視していたが、やがておさまりきれない感情をぶつけるように、爪の食い込んだ握り拳で床を殴りつけはじめた。
 何度も、……何度も。それ以外の動きなど、まるでできないように。
「……だって……ッ……!」
 その唇から洩れた声と同時に、涙の粒が床にぽたりと落ちた――。


 高松は己の研究室で、幾人かの助手を相手に、次の実験についての大まかな指示を与えていた。
「……で、その際には……」
 そこに、入室許可を請う声も何もなく、いきなり人影が飛び込んできた。
「うぇーん! 高松ーっ!」
「グンマ様!?」
 驚いて見る高松に、グンマは走ってきた勢いのまま抱きついた。
「うわぁーん! ひっく、ふえーん!」
 しがみついて泣いているグンマを左腕で支え、高松はちらりとスタッフたちを一瞥した。もう一方の手を軽く振って、退出するよう動作だけで促す。
 一礼して助手たちが去っていった後、高松は小さく息をついて屈み込んだ。まだ百三十センチにも身長の足りないグンマと、目線の高さを合わせるためである。
「うぇっ……ぐすっ……高松ぅー」
「どうなさったんです。またシンタロー様と喧嘩になったんですか?」
 高松は97パーセントの確信を持って優しく訊ねた。
 高松に涙を拭ってもらって、グンマはこくんと頷いた。
「うん……。でも、でもね、ぼく何にもしてないんだよ。ぼくがお部屋に遊びに行ったら、シンちゃんがいきなり殴ったの」
「それは……。よほどシンタロー様の機嫌が悪かったんですね。お可哀相に、グンマ様」
 高松はグンマを抱き寄せた。グンマは黒髪のかかる首に腕を回した。
 実際、来訪者がない限りずっと一人きりであの部屋に閉じこめられていれば、シンタローでなくともフラストレーションがたまるのも無理はない、と高松は思う。それがマジックの方針で、そうすることでしか、息子を周囲の好奇の視線から守ることができないのは判るが、だったら初めからこんな場所に連れてこなければいいのだ。
 かなり辛辣な感想を、高松は被保護者をなだめながら内心でだけ投げかける。
「でねっ、シンちゃんがね、僕の髪の毛をよこせって言ってぎゅっとひっぱってきたんだ。すごぉく痛かったの……どうしてすぐいじめてくるのかな……」
 グンマは保護者に訴えた。高松はその発言内容にはっとして反復した。
「グンマ様の、髪?」
「うん、そう。ぼくは全部持ってるくせに、って……。全然意味が判らないよ、そんなの」
 高松はそこでシンタローの心理状態を理解していた。一族の象徴を何一つ持たぬ彼と、正反対の同年者……。幼い心では処理できないもどかしさの発露。
 ああ、きっと彼はよく似ている。……決して声には出さない呟きを高松はおし殺した。
 グンマは腕に力を籠めた。
「ぼく、シンちゃん嫌い! 乱暴なんだもん」
「駄目ですよ、そんなことをおっしゃっては」
「だって、意地悪だもん、嫌いだ!」
 むくれたような少年の声に、高松はため息をついて、ごく静かに問い返した。
「『本当に』、シンタロー様をお嫌いですか?」
 手を離し、不思議そうにグンマは高松を見た。
 幾秒か、視線が交差する。口先だけの虚偽はそこには許されなかった。
 グンマはうつむいて、ぶんぶんと首を振った。
「……そんなこと、ない……」
 自分の感情を見極めるように逡巡してから、彼は語を継いだ。
「――好き」
「でしたら滅多なことをおっしゃるものではありませんね。従兄弟でありお友達、でしょう、シンタロー様は? 私のグンマ様は、そのような大切な相手をけなす言動をなさる方ではなかったはずですよ」
「だけど……」
 口籠もったグンマは、突然顔を歪めた。幾分乾きかけていた瞳から、また涙があふれた。
「グンマ様」
「どうしよう――ぼく……」
 口を開くそばから、透明な雫が頬を伝って落ちてゆく。
「ぼく、シンちゃんに『大嫌い』って……ひっく、言っちゃった……よォ……」
 小さな刺が突きささる痛み。勢いで心にもないことを口にしてしまったと悔やんでも、一度顕わになった発言は、消し去ることはできない。グンマは口喧嘩ですらないその些細な一言の重みを認識させられる。
「シンちゃんの方がぼくを嫌いになったらどうしよう……そんなの、やだ……。ほんとは、好きなのに……大嫌いなんて、言っちゃっ……、から――」
 泣きながら喋るせいでむせかける少年の背を、高松は優しくさすった。
「大丈夫ですよ。グンマ様がシンタロー様をお好きだと思っていらっしゃる限り、シンタロー様だって、グンマ様のことを本気で嫌いになどなりません。……私の言葉は信じられませんか?」
「ぼくが高松を信じないわけない!」
 即答で叫んで、グンマはまたこほこほと咳き込んだ。
 軽く背中を叩かれて、まだ涙は止まらないままようやく深呼吸する。眼前で微笑む黒髪の保護者は、グンマにとっては物心ついた頃からずっと、一番の安心感を得られる存在だった。
「よかった。判っていただけましたね。でしたら、質問を変えましょう」
 あくまでも穏やかに、高松は金髪の少年に話しかける。
 総帥の一番上の弟に付き随いその反乱に加担するなどという、かつての自分が為したことを思えば、永遠に引き離されても仕方なかったのに、今、自分はグンマの実質上の保護者であり教育係を許され、任されて、ここにいる。なれば、グンマの持ち前の素直な気性と利発さをたわめることなく、まっすぐに健やかに伸ばし育てるのが与えられた責務であろう。
「グンマ様は、シンタローさまに対して悪いことをしてしまったとお考えですか?」
「思ってる……」
 消え入りそうな声でグンマは呟いた。高松はそれへにっこりとしてみせた。
「でしたら、シンタロー様に謝らなくてはいけませんね。悪いことをしたのなら、『ごめんなさい』と――ちゃんと告げることが、まずしなくてはならないことですよ。まあ……シンタロー様の方も、いきなりグンマ様に乱暴を働いたことは謝罪されるべきだとは思いますが、それは別問題ですから」
「許して、くれるかな……シンちゃん。それに――」
 あんな風に別れてきたのだ、気まずくて、また会いに行くのも気が引ける。そんな心情を飲み込み、グンマは高松の着衣の端を掴んだ。
「あの、高松は一緒に来てはくれない……?」
 おずおずと窺う碧い瞳に、高松は笑みを深くした。
「おやおや、もう十歳だというのに、甘えん坊ですね。他の時ならばいつでもどこでもご一緒しますが、今だけは承知いたしかねます。私が出て行っては、グンマ様のずるになってしまう。きちんとお一人で謝らなくては」
「………。うん」
 微かに首肯して、グンマは唇を引き結ぶ。それが彼の決意の意思表示だった。
 高松は、被保護者の頬をそっと撫でた。いつもはアンティークドールのようにすべらかな頬は、今は乾かない涙で湿り気を帯びている。
「それでは、頑張るあなたにご褒美を」
 つと立ち上がると、高松は事務机の方へ向かった。引き出しを開けて、中から何かを掴み出す。グンマはじっとその姿を見つめていた。
 すぐに戻ってきて、今度は膝をつかずに、高松は少年の手を取った。
「シンタロー様と一つずつ分けて下さい。仲直りの魔法がかかっていますからね」
 悪戯っぽく目を細め、まだ小さな掌に、二つの包みを載せてやる。それはグンマが好きなキャンディだった。
 グンマは載せられた小ぶりのいちごミルク味の飴を、目をしばたたいて見やってから、きゅっと握り締め、涙を残したままぱっと微笑った。
「ありがとう、高松! 大好き!」
「私も、グンマ様のことは大好きですよ。さ、いってらっしゃい」
 高松は細い肩を押して促した。触れる手に、最後の勇気を後押しするように。
 はっきりと頷き、グンマは飴を握った手を胸元に当てて、そのままぱたぱたと駆け出した。勢いは同じでも、入ってきた時とは足取りがまったく違う。
 小さな背中を見送ってから、高松はぽそりと独語した。
「――と、言ったものの、また泣かされて帰ってこなければいいんですけどねぇ……」
 そして彼は、少年の保護者から科学者としての顔に戻って、退出させたスタッフを再び呼び戻すべく連絡を取り始めた。


 シンタローは服の袖で強く目を擦った。
 はふ、と息をついて、たくさんのぬいぐるみとクッションの間に入り込む。こうすると少し落ち着く気がした。
 嵐のような激情が去った後に残るのは、虚脱感と自己嫌悪だ。
 従兄弟のことが嫌いなわけではない。なのに、いじめてしまった。どうしてなのか気持ちを抑えることができなかった。
 もう、グンマは来ないかもしれない。いや、きっと来ないだろう。乱暴者で、何より明らかに一族の出来損ないである自分など、戯れにかまう気すらなくして、愛想を尽かしてしまったに違いない。
 シンタローは膝を抱えて、半ば顔を埋めた。
「っ……」
 また泣きそうになって、唇を噛む。
 駄目だ、いい子でいなくては。いつ父が戻ってきてもいいように、その時にいつでも笑って「おかえりなさい」を言えるようにしていなくては。父に不安や心配を与える要素は、一つでも少なくしておかなければいけないのだ。自分は、存在すること自体で大きなマイナスを背負っているのだから。
 懸命に自己に言い聞かせ、シンタローは膝を抱える腕に力を入れた。
「あ、の……シンちゃん?」
 不意に、控えめな呼びかけが発された。ぴくりとして見上げると、音もなく半開きにされた扉の向こうから、先ほど泣いて逃げていった従兄弟が顔を覗かせていた。
「グンマ――」
 もうやってこないと思ったその姿に、シンタローは大きく目を見開いた。
「……何で、来たんだよ」
 口から滑り出た言葉と声は、己の心情を裏切るものだった。
「またいじめられたいのか?」
 ――違う。こんなことを言いたいわけではないのに。来てくれてとても嬉しいのに。脅すようなことを言えば、従兄弟はまた逃げてしまう。
 案の定、グンマはびくっとして扉の陰に隠れてしまった。
 その様子に、シンタローは重ねた手を強く握り締めた。俯いて、殆ど叫びに近く言葉を投げる。
「行っちまえよ、弱虫グンマ! 二度と来るなッ!」
「……、…よ」
 呟きが、微かに届いた。
 え? と思う間もなく、扉が大きく開けられ、同い年の従兄弟は子供部屋の中に踏み込んできた。
「駄目だよ、ぼくは帰らない」
 グンマの背後で扉が滑るように閉ざされる。三歩ほど進んで、彼はその場に立ち止まった。
「ぼく、シンちゃんと喧嘩するの嫌だよ。ぎゅうって胸が痛くなって、悲しくて、自分がすごく嫌な奴になったみたいで、だから。喧嘩なんてするより、仲良くしていたいよ、その方がずっと気持ちいいもの!」
 そこまで一気に喋って、淡い金髪の少年は大きく息をついた。虚をつかれて呆然とシンタローはそれを仰ぎ見た。
 グンマは息を整えてから、はっきりと黒髪の従兄弟に視線を向ける。
「だって……だって、ぼくはシンちゃんのこと、好きだから」
 グンマは、胸元で握った手に少し力を籠めて、大きく息を吸い込んだ。
「だから、ごめんなさい! さっき、大嫌いなんて言っちゃってごめん。言うつもりじゃなかった。ほんとは、大好きだよ……? 信じて、くれる?」
 シンタローは、その場に立つ従兄弟をじっと見上げた。口からでまかせを、と一蹴するのは簡単である。だが、グンマがそのような部分で白々しい嘘をつけるような性格ではないことくらいは、生まれてからの十年間の付き合いで知っていた。真実の気持ちと発言が一致しないのは、つい今、自分も経験したばかりだ。
「………」
 黙り込んだまま、シンタローはグンマを見つめた。黒い瞳にさらされて、次第にグンマの表情が再びおどおどとしたものに変わってゆく。
「えっと、やっぱり、信じてもらえないかな……。もう……許して、もらえないかな――」
「……、俺も、いじめてごめん」
 今度は、思う言葉は自然に出てきた。小声だったが、かろうじて相手には届いたらしい。翳りかけていたグンマの表情が、一瞬にして晴れ渡る。
「うんっ!」
 これで貸し借りなしだね、と微笑む顔は、やはりマジックやその兄弟の血筋であることを疑う余地もなかったが、今はさして腹も立たなかった。
「そっちへ行ってもいい?」
 シンタローが座り込んだスペースを、グンマは指差した。ぶっきらぼうにシンタローが頷いてみせると、嬉しげにクッションのひとつを避け、グンマは左隣に腰を下ろした。
「えへへ、シンちゃんの隣、嬉しいな」
 特に擦り寄るでもなく、ただ傍に一緒に座ってにこにこしている様子に、シンタローは喉まで出かかった「ベタベタするなよ」という台詞の行き場を失って鼻白む。
 グンマは、シンタローと同じ姿勢になるように片腕で膝を抱き、それから、ずっと握っていた方の手を開いた。
「高松からもらったんだ。一緒に食べよ? 仲直りの印だよ」
 膝から腕を離して、白地にいちごの模様が描かれた包装のキャンディを一つつまみ、グンマはシンタローに差し出した。
 一瞬ためらってから、シンタローはそれを受け取った。にっこりとして、グンマは残った一つの包み紙をくるりと捻ってめくり、小さな三角形をしたピンクのキャンディを口に含んでもごもごと舐めた。
 シンタローは、更に躊躇した後、真似るようにいちごミルク味の飴玉を口に放り込んだ。
「ちょっと溶けてる。グンマ、おまえずっと握ってただろ、これ」
「だって、シンちゃんと仲直りできますようにって祈りながら持ってたんだもの」
 グンマはてらいもなく告げて、キャンディの甘酸っぱさを味わう。届いた祈りは、何にも勝る誇りだった。
 ふん、とわずかに鼻を鳴らし、しかしそれ以上突っ込むことはせずにシンタローはそこにいた。
 飴を舐めきるまで、そのまま二人は相手の存在と穏やかな沈黙だけを感じながら、何も話さなかった。


「俺、おまえだったらよかった」
 甘さの名残が口の中から消えてしばらくしてから、ぽそっとシンタローは呟いた。
「え? そんなの駄目だよ!」
 グンマはきょとりとまばたきして従兄弟の発言を否定した。
 シンタローは即断の返答を予測していなかったがゆえに、不快そうに眉を寄せることになる。
「何だよ、やっぱりおまえも俺のことバカにしてるのか? 俺みたいな出来損ないじゃ、おまえの立場は務まらない? それとも、自分が俺みたいになるのが嫌なのかよ?」
「ちっ違うよ!」
 一旦落ち着いたシンタローの機嫌がまたぞろ降下するのに焦った様子で、グンマは強く首を振った。聞き入れてもらえるうちに、素直な気持ちを話さなくては再びこじれてしまう。
「そんなこと思ってない」
「じゃあ、何で駄目なんだ?」
「だって、シンちゃんがぼくだったら、ぼくはぼくと友達っていうことになっちゃうじゃないか。そうするとシンちゃんはシンちゃんで……あれ?」
 とっさに的確な表現が出てこずに、グンマは己でも首を捻るような台詞を口にする。自分はありのままのシンタローが好きなのだと、そのシンタローと友達でいたいのだと、そう言いたかったはずなのだが。
 シンタローの、眉根に寄せていた皺が消える。
「………」
「シン、ちゃん?」
 おず、と名を呼ぶグンマの前で、シンタローは面食らってたっぷり十秒ほど黙り込んでから、突然ひくひくと肩を揺らした。
「……ぷっ」
 おかしそうにシンタローは笑い出していた。笑い転げる、に近かったかもしれない。
「グンマ、おまえ、すっごいバカ! 頭いいかもしれないけどすげえバカ!!」
「そ、そんなに笑うことないだろ。ぼくだって変なことを言ったって思ってるんだから!」
 げらげらと笑う黒髪の少年に、拗ねた様子でグンマは口をへの字にしてみせた。しかし、同時に、シンタローが自分といてこんなにも笑ってくれることが嬉しかった。根っからの侮蔑でも、自嘲でもなく、心底楽しそうに。
 それを見ているうちに、いつしかグンマもつられて笑っていた。
「もうっ、バカバカ言う方がバカなんだよ、シンちゃんてば知らないの?」
「だったら二人でバカでいいや、どうせ従兄弟なんだし。あー……苦し」
 笑いすぎて息を切らせながら、それによって滲んだ涙をシンタローは指先で拭き取る。一人でいた間の惨めな気持ちは、いつの間にか消し飛んでいた。
 気恥ずかしくてまだ口には出せなかったが、ありがとな、という内心の声は伝わると信じたかった。
 笑いの衝動が完全に治まってから、ふとシンタローは目を眇めて中空を見つめた。グンマは、ぽて、と膝に頭を載せて、隣を眺めやる。
 シンタローはゆっくりと右の掌を広げて宙にかざした。室内の明かりにほんのり透けて、指先が赤みを帯びて見える。まだ小さな手は、己が受容できる現実の狭さを表すようだった。
「早く、大人になりたいな」
 シンタローは、ぽつりと語を紡いだ。殆ど独り言に近かったかもしれない。
「そうしたら――」
「……そうしたら、今よりもっといろいろ強くなって、今悲しかったり苦しかったりすることも平気になって、大切な人たちを困らせたり悲しませたりせずに済むようになるのに。うんとたくさんのことを手助けできるようになるのに」
 思っていたことは、自分自身ではなくその傍らから聞こえた。ぎょっとして、シンタローは部屋の空間から己の左横に目を落とした。真顔のグンマの、透き通った碧い瞳とぶつかる。
 シンタローと目線を見交わして、少しだけグンマは笑った。
「これは、ぼくが思っていること。一緒、だったかな」
「何で、おまえ……」
 なぜ判った、という台詞は、グンマの、微笑んではいても真剣な瞳に打ち消された。シンタローはそのまま目を反らせなくなる。
「ぼく、同じことを高松に言ったことがあるよ。……シンちゃんの一番大切な人は、マジックおじ様だね」
 シンタローは、立てた膝に頭を載せたままこちらを見るグンマに、知らず頷いていた。
 こんな風に思うのは、自分だけだと思っていた。一族の異端者で、何の秀でた能力も持たないただの子供で、それゆえに大事な相手を失望させてしまうことが悔しくて。大人になれば……いわれのない非難や中傷を撥ね退けられるほど、誰にも負けないほど強くなれれば、今までの借りを全部返すことができる――。
 それは、自分だから思うことのはずだった。己が望んでも得られぬものを生まれながらに全て与えられ、誰からも認められて育ってきたはずのグンマが、自分と同じ心情を抱くなど、考えも及ばなかった。
「高松には、『急いで大きくなる必要はないんですよ。多くのことを一つずつ覚えて大人になればいいんですから』って言われてしまったけどね」
 グンマは、くすり、と喉の奥だけで笑った。
「その時は何となく、そんなものなのかって思わされてしまったけど……でも、やっぱり早く大きくなりたい。ぼくは、ぼくがいることでどれだけ高松に負担を与えているんだろうって、いつも思ってる。……でも、思っていても、それでも大抵困らせてしまうんだ。さっきだって、困らせてしまった。判っているのに駄目なんだよ」
 だから――と、グンマは語を続けた。
「大人に、なりたいな……今度は逆に、大事な人たちを守れるくらいに」
「うん……」
 素直にシンタローは首肯した。そうだ、誰にも文句を言わせないほど、誰よりも強く。こんな小さな頼りない手ではなく、早く大人になって、何でも受け止められるように。
「ね、シンちゃん」
 突如、がば、とグンマは頭を起こした。
「何だよ?」
 ぱちぱちとまばたきするシンタローに、グンマは今度は明快な笑みを向けた。先ほどまでの、透明でいて張り詰めた雰囲気は消え去っている。気配に呑まれたなどとは認めたくなかったが、シンタローはそこでようやく普段の調子を取り戻すことができた。
「どっちが早く大人になれるか、競争しようか」
「競争? おまえと?」
「そう。……ああ、勿論、年齢のことじゃないよ」
 顔の前で可愛らしく指を立てて振ってみせるグンマを見つめ、しばらく考えてからシンタローは殊更意地悪く笑った。
「そんなの、勝負にならないだろ。俺が勝つに決まってるんだから」
「えー! 何でさ。ぼくの方がいろいろできるようになるよ」
「甘ちゃんグンマが俺に勝とうなんて千年早い。おまえはびーびー泣いて隠れてるのがお似合いだ」
 シンタローは、ベーっ、と舌を出して、決して本気ではなくからかう。グンマはぷうっと頬を膨らませて黒髪の従兄弟をねめつけた。
「もう! 謝りになんて来るんじゃなかった。やっぱりシンちゃんなんて好きじゃない。日記に書いてやるッ」
「日記がどうした、バカグンマ」
 軽口を叩きながら、シンタローは目を細めた。
 そうだ、決して負けない。父も、叔父も、グンマも――いつかみんなに胸を張れるようになってみせるのだから。みんなに、自分という存在を真実認めさせてみせるのだから。
 少年の決意は、ゆっくりと己の胸の深くへ染みとおっていった。






「全~~~部、却下」
 総帥室のデスクに座し、シンタローは、傍らに立つ青年にファイルを突き返した。
「どうしてだよッ! シンちゃんの意地悪!」
 返された書類を奪い取って、グンマはむっとした顔を見せる。
「どうしてもこうしても、全然策がなってないんだから仕方ねえだろうが。第一、職務で来ている時くらい『シンちゃん』はやめろ」
「はいはい、じゃあ、シンタロー総帥、ぼくの立案のどこがいけないのさ」
 二十五歳にもなって子供のように口を尖らせる、幼少の頃から変わらない従兄弟に、ガンマ団の新たな総帥は呆れた面持ちを向けた。シンタローの一歩背後には、口を緘したまま、かつてのナンバー2が立っている。どこか微笑ましげにかすかに口元が緩んでいるのは、幸いなことに、無論シンタローには見えていない。
「どこもかしこも、だ。文章自体がなってねえ。そもそもおまえの作戦立案は甘いんだよ。甘い物ばっか食ってるから、脳みそまで砂糖が詰まっちまったんじゃねえだろうな」
 殆ど傲然としてシンタローは胸を張った。偉そうにふんぞり返る、まるで少年のような仕草と、確たる威厳の中間点にその姿はあった。
「ったく、たまに任せりゃこれだ、日頃ウィローにばっか押しつけてたからこんなことになるんだよっ、自分じゃ無理ならキンタローに手伝ってもらっていいから、少しはまともな書類を持ってこいっての」
 シンタローがばしっと告げて睨むと、グンマの表情がぐしゃりと歪んだ。
「シンちゃんの……」
 ファイルを胸に抱き締め、ふるふると震えながら、グンマは大きく息を吸い込んだ。続くものを正確に予測して、シンタローはあさっての方向を向いて耳に指を突っ込む。
「シンちゃんの、バカぁ~ーーーーッツッ!!」
 叫びと共に、グンマはぐるりと振り向き、総帥室から駆け去っていった。
「あーあー、いつもながら見事な逃げっぷり」
 シンタローはひょいと肩をすくめた。背後に控えていたアラシヤマは、気の毒そうな眼差しを、閉まった扉の向こうに投げ、耳打ちに近く呼びかけた。
「シンタローはん……やない、総帥、ちいとは優しゅうしてやりはったらどないどす? グンマ博士は叱って伸びるお人やのうて、褒めて伸びるお人ですやろに。それに、これは博士の専門とは違いますよって」
 わずらわしげに、シンタローは軽く手を振る。
「いいんだよ、たまには。これからフォローするから」
 それより、と、シンタローは傍らを仰いだ。
「ウィローはどうしてるんだよ? 随分落ち込んでたろ、ちったあ元気になってんのか?」
「へぇ、ぼちぼちゆうところどすな」
 アラシヤマは柔らかく微笑した。名を挙げられた、名古屋出身の若者は、彼にとっては旧ガンマ団の当時からある種特別な相手だ。
「パプワ島から帰った頃は笑いもしはりませんどしたけど。最近ははしゃぐことも増えてきましたわ。無理は見え見えどすけどなァ」
「そっか、ならそのうち復帰させられるかな」
 頭の後ろで指を組み、首の筋肉をほぐしてから、シンタローは一度引き出しを開け閉めし、ついと立ち上がった。
「んじゃ、ちょいフォローしてくる。後は任せるから適当にさばいとけよ。手に余ったら追い返してもいい」
「確かに雑務は仕事のうちどすけど……ほんまはこうゆう為におるんとちゃいますのんけどな、わて」
 苦笑しながらも、アラシヤマは請け負って、振り返りもせず手だけひらひらとさせて立ち去る、全てを支える背を見送った。


「おらよ、いるんだろ。入るぞ、グンマ」
 グンマのラボの扉を殆ど蹴り開けるようにしながら、シンタローは入室した。たとえ錠がかかっていようと、総帥IDは、通常事態においてガンマ団内部フリーパスに設定されている。
 パソコン画面に向かってキーを叩いていたグンマは、ごしごしと目を擦った。
「あ……。明日までには、もっとちゃんとした計画を立てるから」
「おう、期待せずに待っとくぜ」
 軽く答えて、シンタローはグンマの背後に立つ。リボンで髪を束ねた従兄弟の頭を軽く小突いておいてから、シンタローは腕を伸ばしてキーボードの手前まで持っていった。
 ぽとり、と、キーの上にシンタローは小さなものを落とした。
「シンちゃん、これ……」
 グンマは首を捻って振り仰いだ。シンタローはにやりとしてみせる。
「仲直りの印、なんだろ?」
 それは、一粒の飴の包みだった。何十年来変わらない柄の包装紙は、そのまま過去を喚起させる。
「……覚えてたんだね」
 グンマはかすかに笑った。静かな笑みは、年齢に比べて子供じみたそれまでの雰囲気とは一転して、ひどく成熟して見える。これもまた、彼の真実の姿だった。
「もうとっくに忘れたと思ってた」
 呟いて、グンマはキャンディを口に入れた。
 息が詰まるようなあの頃の生活、それは決してシンタローにとっていい思い出ではなかっただろうとグンマは思う。もがいてあがいて、届かないものを追い求めて――、あの時代の自分は異端の意味さえ知らなかったけれど。知らないままに、変わらずシンタローのことを好きだったけれど。血を吐くようなあの日の黒髪の子供の憤りは、一族同士の争いを経験した今ならば理解することができる。
「忘れるかよ。……ともあれ、競争は俺の勝ちだな、泣き虫バカグンマ」
「涙もろいのは特性なんだから如何ともしがたいね。今更そんなことで勝った負けたと自慢そうにしているシンちゃんの方が子供っぽいと思うけど?」
 しらっと受け流し、グンマは机に向き直ると再びキーボードに指を乗せた。
 ――本当は、昔から知っていた。決してシンタローにかなうはずなどないことを。
 グンマは心の内で独語する。膂力の問題ではない、特殊技能でもない。どれほどのどん底へ叩き落されて号泣するはめになろうとも、最後には立ち上がる、その心のありようこそがシンタローの強さなのだと。
 シンタローは、ふん、と鼻を鳴らして、腰に手を当てた。
 画面を覗き込むふりをして、その実違うことをシンタローは考えていた。
 ……今でも忘れはしない。偏った愛情と、幼い己にとって世界にも等しかった周囲によって向けられる視線からの脱出への糸口をはっきりと形にして見つけた日のことを。実際には、それからもずっと、その手に抱えきれない現実に泣き喚く日々が続いたのだけれど。否、今だとて完全に振り切ることができたわけではないのだけれど。
 それでも、遥か遠い光を望むことが可能だったのは、他愛ないほどの一途さを見せられたからだ。
「ああ、コピーを許すから、それ、一通り作り直したらアラシヤマに渡せ。あいつから、ウィローのリハビリに使わせる」
「ここしばらく会えていないけど、少しはよくなったのかな、ウィローくん」
 その専門では別方向だが、組織の枠においては上司の立場を押しつけてしまった後輩の、時にやかましいほどの明るい喋り声を思い返して、グンマは幾分首を傾げた。
「んー、アラシヤマがぼちぼちって言ってたから、だいぶ復調してるんだろ。あいつ、心配性だしな。駄目なら意地でもかばうだろうから」
「そうだね、それなら了解」
 グンマは同意して、見出し項目から訂正をかけていった。
「今度は、生クリームが乗っかったみてえな甘ったるい文章なんか書くなよ」
 シンタローが釘をさすと、金髪の従兄弟は不本意そうに、しかしそれほど嫌でもなさそうに言い返してきた。もっともな言い分ではあったし、これが互いの正しい位置関係であると知っているからだ。
「判ってるよ、ぼくだってそれくらいっ」
「どうだかな、おまえ、根っからバカだしなあ。博士じゃなくてグンマバカせに改称した方がいいんじゃねえのかあ?」
「ちょっと。気が散るだろ! あんまりバカバカ言わないでよ、シンちゃん」
 むう、と短く唸って、置いた指はそのまま、グンマは従兄弟を見上げた。
 光をはじいて揺れる淡い金の髪。疑うことなく向けられる碧い瞳。
 幼い頃どんなに求めても得られなかったそれは、けれど、もうシンタローにとって己を捕らえる牢獄や重い足枷ではなかった。彼方の光を指し示したのはこの従兄弟で、そこまで歩ませたのは今は懐かしい島の生活。そして、心の錠鍵で閉ざされた扉を、手を共に重ねて押し開いてくれたのは、遠く旅立ってしまった、傍若無人なほどの一人の子供。
 人は、変わるのだ。変わらなければならないのかもしれないし、いつの間にか変わってしまうのかもしれなかったが。
「知ってるよ。バカバカ言う方がバカ、なんだろ?」
 そう言って、シンタローはどこか楽しげに笑った。




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