キミに再び逢うために
「本当に良いのかシンタロー」
ジャンの問いかけにシンタローは笑った。
「はぁ?何いまさら躊躇してやがるんだ?それに、それが望みで俺に接触してきたんだろ?何を悩む?」
「・・・・・・」
ジャンは、シャーレに入った赤いカプセルと水をシンタローの前に置いた。
それは永遠をとめる薬。
身体に入れば、それは溶けて吸収され、彼の時間を止めるだろう。
金髪の美しい男が死んだ。
その日からジャンは狂いだした。
そしてある計画を思いついた。
チャンネル5計画。
しかしそれを実行するには、どうしても必要なものがあった。
強い身体。
ジャンは試作品を作り、研究を重ねた。
何度も失敗した。
試作品はみな『それ』に耐えられなかった。
しかしある日気づいた。
自分の身体であれば『それ』に耐えられることを。
だが自分は『それ』を実行するもの。
自分以外の自分の身体が必要であった。
だから彼に目をつけた。
自分と同じ身体を持ち、自分と同じ永遠の時間を持て余していた彼に。
彼も大切なもの失いすぎていた。
そんな彼の心につけ込んだ。
『それ』は大切なものを守るための計画だと。
表向きのきれいな部分だけをかざして。
彼は話を聞いて嬉しそうに笑った。
『やっときたか』と…
それは自分には理解できない言葉だった。
その意味を聞いても、彼は答えようとはしなかった。
だが、ここにきてジャンは少しだけ迷いをもっていた。
自分の元主人の大切な者であり、何よりあの美しい男の甥である彼を使うことに。
あの美しい男は自分を許さないのではないか?
「この薬を飲めば仮死状態に、いや…正確ではないが、脳死の状態になる。やめるなら今のうちだぞ…」
「俺は一度言ったことは通す主義なんだ。くだらないこと言ってないで、さっさとよこしやがれ」
ジャンはシンタローに薬を渡した。
シンタローは何の躊躇もなくそれを飲み下す。
それを見てジャンは重い口を開いた。
「俺は…俺はお前に言ってないことがある…」
シンタローは笑った。
「何わかりきったこと言ってやがるんだ?それくらい知ってるさ。」
「シンタロー…」
「勘違いするな。俺はお前に利用されるんじゃない。俺がお前を利用するんだ。」
ジャンが怪訝な顔をする。
「とにかく、その何とか計画ってやつを、早く実行してくれよ。早くないとあいつが生まれてきちまう。」
「生まれてくる?」
シンタローは幸せそうに笑った。
「俺の友達だった男だ」
その言葉を発したとたん、シンタローは倒れこんだ。
それをジャンが支える。
『シンタロー』は身体だけ残し消えた。
あれから何年の月日が過ぎただろう。
ジャンは組織保存液の中の自分と同じ顔の男を見ていた。
今日この男が再び目を覚ます。
まったく違う作られた存在として。
「博士!三男の組織保存液を抜きます」
「ああ…」
大型のカプセルから、液体が抜かれる。
濡れた黒髪が、あり日の彼と何も変わらない艶やかさをかもし出す。
利用されるのではなく、利用するのだと言った彼。
友が生まれてくると言った彼。
彼も狂っていたのかもしれない。
その友が自分の元主人であるかは確認のしようも無いが…
せめてそうであることを願いたかった。
それが唯一あの美しい男に許されるすべのような気がして。
カプセルの中の男が目を開いた。
プログラムされていた言葉を発する。
「マスターJ、あんたが俺の主か?」
ぶっきらぼうな言葉。
『シンタロー』の色をできるだけそのまま残した。
もし本当に彼が友と再び出会うことができたとき、すぐにわかるようにと。
赤い服を着て、その力で世界の全てを救おうとした男。
その姿が不意に思い出された。
燃えるような紅い男。
「マスターJ?」
「…紅…それがお前の名前だ。覚えておけ。」
どうか彼が友に再び出会えるよう、せめてもの餞に。
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だったらいいなぁ…なんて。
同ネタ多そうだな…
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