忍者ブログ
* admin *
[1265]  [1264]  [1263]  [1262]  [1261]  [1260]  [1259]  [1258]  [1257]  [1256]  [1255
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

鳥籠<前編>







「約束したのに。…ずっと、傍にいるって。」

病院の霊安室のなか、ベットの横の椅子に腰掛けながら、
そう呟いたのは黒髪の美しい女性。

そして、今は永遠の眠りについたその人は、
見目奪われるような金髪の美しい男性。
けれど、生前見られていたその見事な碧眼はもう二度とその光を
映すことはない。

二人は夫婦だった。

夫がキンタロー、妻がシンタローという名前だ。

シンタローは、夫と出会った時、記憶喪失だった。
今もそれ以前の記憶は無くしたままだ。

シンタローには理由はわからなかったが、
キンタローは彼女をつれてまるで何かから逃げるように生活していた。

ひとつの場所には留まらず、転々と住居を移しながら。

けれど、シンタローはそれでもかまわなかった。

感情を表すのが苦手な夫だったけれど、
やさしく、穏やかに自分を愛してくれた。
何より大切にしてくれていた。

彼がいてくれればそれでいいと、そう思っていた。

けれど、別れは突然やってきた。

彼は、銃殺された。

犯人はいまだに不明。

どうしようもない喪失感がシンタローを襲った。


「愛してるって、言ったじゃないか。俺を、守ってくって、言ってくれたじゃない…っか!」

感情を表すのが苦手な彼だったけれど、
大切なことは確かな言葉でくれた。

けれど、もう彼は二度と、自分を愛してると、言ってはくれない。

そのたくましく、暖かい腕で、自分を抱いてはくれない。

穏やかに見つめてくれたその碧い瞳が開かれることも、もう永遠に無い。


思い出すのは優しく愛されたその記憶ばかり。

何よりも大切なそれが、もう二度とくることの無い思い出だと思うと、
自然に彼女の目から涙が溢れだす。


「愛してる…っ!お前のことを、誰よりも…!!!!」

彼女は冷たくなってしまった夫の体にすがりついていつまでも泣いていた。









翌朝、シンタローは夫の事件を担当している刑事に聞いた。

現場に、ある暴力団のタイピンが落ちていたということを。

そして、なるべく下手に事件に首を突っ込むことのないようにと注意を受けた。





火葬を終え、今は小さな箱の中に入って帰宅をしたキンタローを
呆然と見つめながら、シンタローは呟いた。

「…お前を撃ち殺したのは、眼魔組っていう暴力団かもしれないんだって…。」

「刑事さんは下手に首を突っ込むなって言ってやがったけど……。」

「どう気持ちを切り替えようとしても、許せそうに無いんだ。お前を奪った奴のことを。」


「お前はきっと反対するだろうけど、でも、俺はやる。」


「お前のカタキは必ず討つ…!」




シンタローはそう言うと、二人が幸せな生活を送った最後の家を出た。

それが、すべての始まりだった。














二人の側近を連れ、眼魔組組長マジックは久しぶりに自分のシマの
クラブに来ていた。


「あらまぁ、随分ご無沙汰じゃない、旦那」

店のママとおぼしき着物を着た女性が、しなを作り、マジックに寄り添う。

「ああ、調子はどうだい?相変わらず君は美しいが。」

それに、笑顔で答えながら、マジックはその女性の肩を引き寄せる。

「相変わらず上手なんだから。ああ、そう言えば最近入った新入りの子が
なかなかの器量良しでねぇ。評判になってここ最近繁盛させてもらってます。
紹介してませんでしたわね?シンちゃん、ちょっといらっしゃい!」

ママがそう呼ぶと、他の客の接客をしていた長い黒髪の女性が
二人の傍へ来る。
真っ赤なスーツに身を包み、スラリとした長く白い足を短めのタイトスカートから
惜しげも無く見せている。
その美しい女性に、不覚にもマジックは見とれていた。

「こちら、最近入った子でシンタローって言うの。男名でびっくりしちゃうでしょ?
だから源氏名つけなさいって言ってるんだけどこの子聞かなくて。」

苦笑いを浮かべながらママはそう言った。

「ということは、本名なのかい?」

驚いた顔をしながらマジックがシンタローに問いかける。

「…ええ、そうです。シンタローといいます。以後お見知り置きを。」

そう言ってシンタローは深ぶかと頭を下げた。
けれど、その手は血がにじむほどキツク握りしめられていた。

『この男がキンタローを殺した組のボス…っ!』


「こちらこそよろしく。…いきなりこんなこと言うとびっくりされるだろうけど、
君のことが気に入ったよ。よかったら私の専属になってもらえないかな?」

シンタローの肩に手を置きながら、マジックは何食わぬ顔でそう言った。

「ちょっ…!旦那、いくらなんでもそんな急に…!」

マジックのその申し出に、慌ててママが口を挟む。

「…俺でよければ喜んで。」

それを遮るように、シンタローはそう言った。

見るものすべてを惹きつけるような妖艶な微笑みで。


シンタローにとってそれは願っても無い申し出だった。
元より眼魔組の縄張の店に入ればいつか、彼に近づくチャンスが
あると思っていた。

それがこんなに早く思惑通りに進むとは思っても見なかった。





















「………っ!…好き勝手に使いやがって…。」

眼魔組組長、マジックに見染められ彼の邸宅で愛人として暮らすようになった
シンタロー。
ここに連れてこられてもうひと月ほどになっていた。

マジックのシンタローに対する愛情は異常なほどであった。

邸内から出ることを禁じられ、毎夜夜伽をさせられる。
他にも自分と同じような愛人がいるかと思えば、
彼の傍にいるのはちょっと変わった美青年ばかりだった。

しかも、その夜の生活がまた異常だった。

夫のキンタロー以外と関係を持ったことが無いシンタローだったから
なおさらだったのだろうが、マジックの性癖はある種恐ろしいものがあった。

気を失うまで抱かれたり、見たことも無いような性具で一晩中弄ばれたりした。

それでもシンタローはマジックの異常な行為に耐え、チャンスを伺っていた。

その日も、朝まで離してもらえず、目を覚ましたらすでに日が上っていた。


「シンちゃん、起きてる?」

ノックもせずに彼女が寝ている寝室に入ってきたのは、
マジックの息子だというグンマだった。

「ああ、今起きた。」

「そっか、丁度良かった。食事持ってきたんだけど、食べられる?」

ベットの上でぐったりしていたシンタローに、ガウンを手渡すと、
グンマはベットサイドのテーブルに食事を並べた。
(作ったのは組の舎弟の者だが。)

グンマはシンタローがこの邸宅に連れたこられた頃から
事あるごとに彼女を気遣い、いろいろと良くしてくれていた。
マジックの息子でありながら、気性が穏やかなためか、
家業とはあまり関係無いらしい。
一度、自分は科学者だと言っていたが。

ゆっくりとだが黙々と食を進めるシンタローを眺めながら、
グンマは口を開いた。

「ねぇ、シンちゃん。今までお父様の手前聞けなかったんだけど、
ひとつ、聞きたいことがあるんだ。」

「…なんだよ?改まって。」

食事している手を止めて、シンタローはグンマを見た。

「…キンちゃんは、どうなったの?」

「お前、キンタローを知ってるのか!?」

沈痛な面持ちで問いかけたグンマに、シンタローは声を荒げた。

「知ってるも何も、キンちゃんは僕たちの従兄弟じゃないか。」

不思議そうにそう言うグンマ。

その言葉に、戸惑いを隠せないシンタロー。

『僕たちの従兄弟』彼は確かにそう言った。

「僕たちって、どういうことだ?俺とアイツは従兄弟同士だったのか?」

「え、シンちゃんもしかして記憶が…?」

シンタローのうろたえ方に、グンマは今更だがうすうすと悟った。

「う…ん。そうだよ。キンちゃんはお父様の弟の息子だよ。」

「…お前は俺のことも知ってるのか?だったら教えてくれ、俺は一体誰なんだ!?」

グンマの肩を掴み、そう問いかけるシンタロー。

「それは…。」

「…よけなことを言ってくれたね、グンちゃん。」

グンマが口を開こうとしたとき、いつの間にそこにいたのか、
マジックがドアの傍から口を挟んだ。

「お…お父様……。」

グンマの顔が青ざめる。

「…いいよ、私が教えてあげよう。シンちゃん、君は私の子供なんだよ。」

「…!?何、言ってやがる、そんな…馬鹿な。」

マジックの言葉に、驚き、うろたえるシンタロー。

「嘘じゃない。お前は私の『息子』だ。」

狼狽しているシンタローに構わず、マジックは続けた。

「息子だと?アンタ俺の体をあれだけ好き勝手に扱っておきながら見てなかったのか!?
この体のどこが男だってんだ!!」

その言葉にシンタローが切れた。

「お前に真実をみせてあげる。…ついてきなさい。ああ、グンちゃんもね。」

そう言うと、マジックは部屋を出た。

グンマにかけてもらったガウンを着なおしてシンタローも彼に続く。

グンマも、うつむきながら二人に続いた。








マジックに案内されたどり着いたのは、この邸宅の地下室だった。
冷たいその部屋の中は薄暗く、とても不気味だった。

シンタローはそこで見てしまった。

自分と同じ顔の男性が、部屋のベットに横たわっているのを。

「…なんなんだよ、こいつは一体……」

恐る恐る後ろについていたマジックに問いかけるシンタロー。

「ただ、寝ているだけみたいだろう?だけどこの子はもう生きてはいない。
この子はね、君の本体なんだよ。」

「どういう…意味だ?」

「君は、この子の細胞から造られたクローン体なんだよ。」



目の前のこの男は今何といった?

俺が、造られたと?

生まれたのではなく。


頭部を鈍器で殴られたような衝撃をシンタローは受けた。

「…じゃあ、なんで、俺は女性としてここにいる?こいつはどう見ても男だろ?」

絞りだすように、どうにかそれだけを彼に問いかける。

「この子が気にしていたからね。親子である上に、同性での行為を。」

いとおしそうに、ベッドに寝ている男の髪をすきながら、シンタローにとっては
虫酸が走るようなことを事もなげにマジックは言い放つ。

「…だから、性別だけはいじらせてもらったんだよ。そこにいるグンちゃんと、
キンちゃんに頼んでね。」

そう言いながら、マジックはついてきていたグンマを見た。
その視線に耐えきれず、視線をそらすグンマ。

「なん…だって?キンタロー…?」

先ほどよりもなおシンタローにとっては衝撃的な事実だった。

「そうだよ。君を造ったのは、グンちゃんとキンちゃんの二人だ。」

その言葉を聞いた途端、シンタローは激しい頭痛に襲われた。

それは立っていられないほどだった。

「いっ…!…ぁっ!!」


痛みに耐えきれず、倒れたシンタローを後ろにいたグンマが支える。

「シンちゃん!!」


激しい痛みの中で、シンタローは思い出していた。
自分が失った、いや、封じ込められていた記憶を。

 

 

 

 
PR
BACK HOME NEXT
カレンダー
04 2025/05 06
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
最新記事
as
(06/27)
p
(02/26)
pp
(02/26)
mm
(02/26)
s2
(02/26)
ブログ内検索
忍者ブログ // [PR]

template ゆきぱんだ  //  Copyright: ふらいんぐ All Rights Reserved