コタローがおやすみなさいをしに来た。
この天使の笑顔(パジャマ姿で更に良し!)で「おやすみなさい」と言われる夜はぐっすり安眠出来るってもんだぜ。
何時もはその後直ぐに親父やグンマやキンタローのトコにも寝る前の挨拶をして回るんだが、
「絵本を一冊読んでやるよ」と誘ったら喜んで好きな絵本を抱えてオレの膝に飛び乗った。
その為絵本一冊分、他の連中に「おやすみなさい」をするのが遅れたが…。
コタローがふと質問をしてきたのは、絵本を読み終わって直ぐだった。
「ねえお兄ちゃん」
「なんだい?」
「グンマお兄ちゃんって、お酒いっぱい飲む人だっけ?」
「は?………あ、いや、アイツは酒に強くない筈だし好んで呑んだりするヤツじゃないぞ?……それがどうかしたのか?」
「うーん…」
オレの膝の上で足をぱたぱたさせながら子首を捻る。
「さっきね、ここに来る前にグンマお兄ちゃんと会ったの」
「どこで?」
「廊下で。お買い物しにお外に行ってたんだって」
へー、この時間に珍しい。
「いっぱい色んなお酒を持ってたよ。ビニール2袋に窮屈なくらい」
グンマが、酒を沢山……?
「他には何か買ってなかったか…?」
う~ん、と唸りながらコタローが数十分前の記憶を手繰り寄せると首を横に振った。
「お酒だけじゃなかったかなァ。お菓子とか無かったと思う。珍しいよね~、グンマお兄ちゃんがお酒あんなに買い込むなんてさ」
コタローを部屋まで送ったその足でグンマの部屋に走った。
嫌な予感が心臓を揺さぶる。
途中で多分自室に戻るところだろうキンタローと角で衝突しかけた。
短く謝って走り去ろうとしたが、手首を掴まれた。
「待て。どうしたんだ。何かあったのか?」
「離せってッ。グンマの様子がおかしいみてぇだから様子見に行くんだよッ」
「グンマが?」
どう変なのか問い詰められる。
説明するまでこの手は離してもらえそうに無いな。
仕方なくコタローから聞いた話をそのまま聞かせる。
伝え終わってまた走り出そうとするオレを、再びキンタローが引き止めた。
「オレも行こう」
「え、何で」
「オレも何かが引っ掛かる」
グンマの部屋に着くのに1分も掛からずに着くが、戸はビクともしない。
「鍵が掛かってやがる…ッツ!!!」
「夜は皆そうしてるだろう」
キンタローの言葉を無視して戸を乱暴に叩くが、中から反応はない。
ドンドンドン!!!!!
「グンマ開けろ!」
「中に居ないのか…?」
キンタローが不信がるが、グンマは絶対中に居る。
グンマがこの時間に行くとすれば自室か開発室くらいだが、コタローが見た大量の酒を開発室に持っていくとは考え難い。
酒を呑む誰かの使いってのも考えたが、グンマに酒を、しかも大量に頼むヤツはいないだろ。
ハーレムでも使いなら特戦部隊の誰かにやらせるだろうし、親父は酒の種類にかなり拘っていやがるから、
呑むのは特注ばかりでどこかの店で買ってくることはない。
まさかあの過保護ドクターがグンマに大量の酒を買わせるってのは間違いなく無い。
グンマは、この部屋に居るッ。
「ちっ…!面倒くせェ……………眼魔砲ッッツ!!!!!!」
至近距離から放ち、扉を吹き飛ばした。
目的は扉の破壊だけだから威力は微小だ。
キンタローの呆れたような溜息を無視して入るが、部屋には明かりが点いていない。
グンマは居た。
寝ていない起きている。
けど……
小さくパチンと音がして照明が点く。
キンタローが明かりを点けたのは振り返らなくても分かる。
明るくなった部屋。
ベットサイドのにグンマは座り込んでいた。
……………………………………大量の酒ビンに囲まれて。
「きゃはははははははは☆☆☆♪♪♪」
「ゲッ!?」
「グンマ…!?」
「シンちゃんキンちゃん今晩はぁ~!もー駄目だよぅ☆扉壊しちゃ!」
顔だけじゃなく体も真っ赤になって、グンマが壊れたようにケラケラ笑い続けていた。
空になっている酒ビンが数本。
オレやキンタローならともかく、グンマが飲みきれる量じゃない筈。けどここにはグンマしか居なかったなら……。
「グンマ…、まさかここに転がっている酒、全部オマエ1人で呑んだのか…!?」
「そうだよう!他に居ないでしょ?うふふふvvだってシンちゃんもキンちゃんもぉ~、ボクを放ったらかしにして遊んでくれないしぃ!
うぷぷ☆☆いーっぱい呑んで元気はつらつー!になろーっと思って!」
「あ…」
「…………」
キンタローと二人して声が詰まった。
そう言えばキンタローと恋人になってから、仕事でもプライベートでもグンマと距離が開いていたのに気付かなかった。
キンタローはオレの補佐になる前はグンマと高松の保護の下に科学の道を歩んでいたが、
俺のパートナーになってからは開発部に顔を出す機会は極減していた。
オレはキンタロー以上にグンマと話す機会が減っていた。
ガキの頃はよく一緒に遊んでいたのに…。
時々夜のお茶会にオレもキンタローも誘われるが、夜は恋人の時間を優先してしまい構ってやれなかった。
グンマはかなり寂しがり屋だ。
甘えん坊のように見えて、本当に寂しい時に寂しいと言わない。
「お酒呑んだらぁ!ぱーって楽しく可笑しくなれるってゆーから♪いーっぱい呑んでみましたぁ☆」
わーvと万歳してケラケラ笑い続ける。が、その身体が突然ぐらりと揺れる。
「おっと!!」
床に倒れる前に受け止めてやると、腕の中のグンマはもうさっきのようにケラケラ壊れたように笑ってはいなかった。
か細い声が声を紡ぐ。
「寂しかった……んだよぅ…」
迷子になった幼い子どものような声で、そのままズルズルと腕の中で崩れ落ちていく。
「シンちゃ……、キンちゃ……ん……。ボク、を……いてかな……………で……ぇっ」
そこまで言うとグンマは深い眠りについていた。
目元が赤いのは酒の所為だけじゃないのは、涙の跡を見れば分かる。
ふ、と息を吐き出す。
オレ自身への呆れ故に。
「…グンマに悪い事をしていたな」
キンタローも屈みこみ、グンマの寝顔を見つめながら頭を撫でた。
「ん…」
触れられた感覚でグンマの身体がぴくりと反応したが、それっきりで熟睡している。
まず起きはしないだろうが、起さないように慎重に身体をベッドに横たえて毛布を掛けてやる。
小さい電気だけを点けて、暫くグンマの傍に二人で居た。
「蔑ろにする気はなかったんだけどな…」
「だが、もしオレがグンマの立場だったなら……きっとオレも同じような事をしたかもしれない」
グンマとキンタローの立場が交換なんて普段なら有り得ないとおかしがるが、今はそんな気分になれない。
誘いを断る度に傷ついた目をしていたのを覚えている。
けど今までのオレは特に気にも留めなかった。
三時のおやつ時間にはコタローも交えて時々付き合ったが、それ程回数は無い。
今のオレにはキンタローというパートナーが居る。
けど、グンマには―――…。
「もっと、グンマの事もちゃんと見なくてはな」
キンタローがオレの肩を抱き寄せて呟くように言う。
「………そうだな。大切な家族だし、な」
キンタローの胸に頭を寄せる。
月が照らす部屋に大きな影が一つ。
オレとキンタローに包まれるようにグンマの影も重なっていた。
「………ん?アレ……?朝……?………~~~~~…ッッツ!!頭痛ぁ~…何でェ?ズキズキするよぉ~…ッツ」
聞き慣れた高い声に覚醒を迫られる。
目を閉じたままでも分かる白い光に、朝が来たのを理解した。
「…って、ええ!?何で!!!??何でシンちゃんとキンちゃんが一緒に寝てるの!?」
………左手が妙に温かいと思ったが、これはグンマの手か…。
「シンちゃんキンちゃん起きて起きて!!!」
「…………ん…」
オレの隣のグンマ……の更に隣から聞こえてくる小さな呻きは、グンマとは対照的な低い声音。
「………ああ、手を繋いで寝ていたのだったな…」
「だから何で!?――――――…!ってッ、頭痛いよぉ~!気持ち悪いよ~~~!!!」
ふえ~んと完全な二日酔いに泣き出すグンマを挟んで、オレもキンタローもやれやれと顔を見合わせて笑った。
賑やかな朝。
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