シンタローの髪に人工の…………けれどとても美しい花が咲いていた。
「シンタロー、それは何だ」
必須書類をオレの方で纏め、総帥であるシンタローに渡しに来て開けた総帥室の扉の向こうに、
日常的ではないものを見つけ、足が止まった。
見慣れた室内見慣れた男いつもの空気と……………………………………初見のオレンジ色の花。
それが花瓶に活けているのではなく、シンタローの髪に鎮座している。
振り絞った感のオレの問いに目線で気付いたのか、指でその花を軽く突っ突きながら話した。
「あー、これか。髪飾り。お袋の遺品だよ」
シンタローの話のよると、先日マジック叔父貴と一緒にコタローに母親の遺品を見せに行った時、見つけたものらしい。
他にも和装小物は多くあったがその中でマジックが一つ、シンタローに贈ったのが今コイツの頭に咲く人工の花。
白いファーに色彩抑え目のオレンジの花が二つ並べられ、花びらの中から真珠のような玉を並べた装飾がされている。
総帥服のシンちゃんに映えそうだから、とは叔父貴の談。
「それでオマエは叔父貴の言う通り付けている訳か…。意外だな」
意外と思うには二つある。
一つはマジックの趣味的な願いを嫌がりもせず引き受けた事。
もう一つは女物の飾りを嫌悪もせずつける事。
「一度は断ったさ。お袋の遺品だから大切に保管して置きてぇし、けど親父が煩くてさー。
じゃあ一度ならつけてもいいぜって言ったんだよ。別に女装してるって訳じゃねえし」
身に付ける事に嫌悪はないらしい。
……しかし……逆に楽しそうなのは何故なのか。
「眉間に皺寄せて………んなに変かぁ?」
「いや、似合うと思うが……」
「思うが?何だよ……」
ニヤニヤ笑いながらオレの様子を伺っている。
一体何だ…。
「男に花の髪飾りなど似合うものではないと思っていたが………そうでもないな」
グンマや子どものコタローもきっと似合うだろう。
サービス叔父貴も見た目の問題は全く無く、映えるだろうと思う。
「は~…」
シンタローが脱力したような盛大な溜息をディスクの上に吐く。
「どうした」
「つまんね~…」
は…?
「オレが期待してたのはそんなんじゃねーの!!」
期待…?もしかして……
「似合っている、シンタロー。可愛いぞ」
とでも言って欲しかったのか?
実際似合ってはいたし、可愛いと思ったのも本音だ。
「男相手に可愛いっつーのもなァ…。この場合キザかキモイだけだぜその台詞」
余計機嫌を損ねたのか…?
怒っていると言うよりは、期待外れと言った様子だ。
何が不満だと言うんだ。
「書類受け取ったからさっさと行きやがれ。仕事ちゃっちゃと片してこい」
シッシと追い払うように書類をパタパタさせて完全にそっぽを向いてしまった。
勝手に呆れられてるか怒られてるか、理由がはっきりしないので納得がいかず、オレまでイライラが蓄積していく。
「だから何なんだ。何かオレの言葉に失言でもあったのか」
口から出た声は少々怒気混じりだった。
もう一度深く長い溜息を吐いてシンタローが口を開く。
「ただ、オレはさ、オマエの驚く反応が見たかったんだよ」
あまりに小規模の願い。
たったそれだけで怒っているのかコイツは。
第一、最初目にした時驚いたと思うが。
「何時もは見せないお前の顔がもっと見れたら……って思って、こんなものつけて今日一日仕事してたってのに、
オマエは反応薄くてつけた意味なかった」
馬鹿馬鹿しかったと吐き捨てて髪飾りを外そうとするシンタローの腕を掴む。
「……なんだよ」
不機嫌さを隠さずにむっとした目を向けるシンタローの両手首を軽く掴んで、オレンジの花に口付けた。
「キンタロー…?」
「オレが常にオマエに対して強い興味を持つように、オマエもまたオレに対して同じなのだろう?」
ふっと微笑んで今度は瞼に口付けると、背中にシンタローの腕が回った。
「当然、ダロ?」
三度目のキスは熱情のキスへ……。
見せて欲しい 君の全てを
届けて欲しい 君の全てを
許して欲しい 求める自分を―――……
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