「シンちゃーんvv」
振り向くとグンマが廊下を全力疾走して突っ走ってくる。
『廊下は走らないでネ☆』と各廊下の壁に貼られた紙などお構い無しだ。
危ないから廊下は走らないようにと言われているがもう一つ。
「バタバタウルセーよ、グンマ」
溜息を大きく吐いて軽く咎めるが、彼の方は聞いちゃいない。
「昨日の写真出来たからあげるね☆はいコレ!」
「もう出来たのか?随分早ぇ~」
「うん。デジカメのデーターをPCに入れて簡単に出来ちゃうからね」
「………グンマがやったのか?」
疑わしい眼差しを向けるシンタローに全く気付かず、グンマは凄いでしょうエヘン!と胸を反らせた。
突っ込みたいところを抑えて、大人しく写真を受け取る。
「随分分厚いな…。これって昨日の分だけなんだろ?」
昨日―――5/5、日本の行事の一つ子どもの日の写真。
だけなのに、渡された写真を収めている袋は分厚くずっしりと重い。
「うん。お父様が頑張って撮ったからね!シンちゃんのだけでも結構な量だけど、
お父様、今年はコタローちゃんやキンちゃんの写真も増やそうって張り切ってるもの」
コタローが目覚めて初めて家族で行った子どもの日は、
シンタローが幼少の頃してもらったものと同じくらいに大規模に行われた。
大きなこいのぼり5つを掲げ、
お茶にジュースにお菓子を沢山用意してコタロー中心に団に所属する者の子ども達も呼べるだけ呼ばれて盛大に祝われた。
シンタローとグンマ、マジック中心に新聞紙でかぶとの作り方を教えるミニコーナーも出来たり
大した盛り上がりようだったのを思い出される。
あまり記憶に残していなかったが、思い出してみればマジックがひたすらカメラやビデオをシンタロー、グンマ、
コタローそしてキンタローに向けていた。
確かにあの調子で撮ったんじゃ、これだけの枚数になるかと理解出来る。
寧ろ少ない気もしてくる。
「じゃあボクはキンちゃんとコタローちゃんにも渡してこなきゃいけないからまたね!」
くるりと足元を翻し、またぱたぱたと走り去っていった。
別に走らんでもいいだろうが……。
貰った写真をアルバムに収めていく。
前に親父から貰ったアルバムは、表紙が『パパとの思い出v』とでっかく書かれた文字とウインクしてる親父の顔、
裏面はぼかしとエナメルで加工されてやたらキラキラしている小さい頃のオレの立ち姿など、
そっち系統(しかもアルバム全て表紙裏表紙が違う。同じのは必ず親父が表紙を飾ってるって事くらい。)
のものばかりなので、闇に葬ってやった。
オレが使用してるのは極シンプルで特に装飾も無い、パステル系のアルバムだ。
貰った写真は一部の例外を抜かして、アルバムにちゃんと収めている。
もうアルバムの数は数え切れない。
親父なんかはアルバム保管庫とかいうトコを設立させてそこに大体保管してるくらいあるらしいから、
親父から見ればまだまだ俺のアルバム数は少なく見えるんだろうな。
昨日の写真を一枚ずつ見ながら、その時の事を思い出して、昨日の事なのに懐かしさを感じた。
始終笑顔全開のグンマ、笑顔と驚きが半々の顔が写されているコタロー、笑ったり何かを話してる最中のが多いオレ、
グンマと対照的に無表情が主なキンタロー。
けど数枚の写真の中にキンタローがうっすら笑っているのも見つけた。
キンタローにとって初めての子どもの日の思い出は、満喫出来たみたいだ。
無表情のようでも、飾りつけやかぶとの作り方、こいのぼりを真剣な眼差しで見つめていた。
かぶと作りに夢中になって、オレがそろそろ止めないか?と声をかけるまで作り続けて20個も作ってしまってた。
キンタローが写っている別の写真も見返してみる。
4年ほどのキンタローの思い出の写真も大分溜まってきた。
オレの写真量に比べたら微々たるものだが、キンタローの思い出がここにある。
思い出は何時かは記憶が薄れてしまうものだ。
けど、写真に撮っておけば残しておける。
それを見て、思い出す事も出来る。
だからもっとキンタローの写真を撮ろう。
オマエとの思い出一つ一つを色褪せないものにする為に。
今度お互いに休みが取れる日に、一緒にどこかへ出掛けよう。
思い出作りのデートだ。
デートの前にまずはデジカメ買わねえと。
グンマにPCで写真作るやり方も教わっておかなきゃな。
親父に負けないくらい、思い出作りを始めよう。
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