外の空気を吸いに、久し振りにお散歩なんてものをしてみた。
当ても無くただ気ままにぶらぶらと歩いていく。
でも一つだけ後悔した。
白衣、脱いでくるんだったよ…。
5月も半ばになると、太陽が出ている時間は夏の気配を感じる熱が空気の中に充満していて暑い。
ここで脱いで簡単に畳んで手に持てばいいかな…なんて思いながら進める足は止めずに散歩を続けていたら、
広大なグラウンドが見えた。
ガンマ団員の運動場……だったっけ?
ボクは使用した事ないけど、確かそう聞いた事あるような気がする。
結構遠くまでお散歩してたみたい。
そろそろ戻ろうかなぁって思ったけど、グラウンドで誰かが居るのに気付いて顔をそっちに向けた。
ランニングシャツに紺色の短パン、それからランニングシューズ姿でストレッチをしている。
小走りで彼の傍に近付いた。
「何してるの?シンちゃん」
「グンマ?珍しいな。オマエがここら辺にくるなんてよ」
「ちょっと散歩してたの。それでシンちゃんは何してるの?」
汗一つ全くかいてないから、過去形じゃなくて未来系で問いかけた方が良かったかも。
「今度の第七十七回・ガンマ団全員長期リレーの為の特訓しようと思ってさ」
七十七回って言うけど、実際そんなにやってるのかなぁ?
少なくともボクは一度も参加した事がないよ?
やりたくないからもあるけど、リレーって士官学校時代―――ボクとシンちゃんが学部が違ったけど。
シンちゃんは戦闘部隊系でボクは研究・開発部系―――は、体作りの時間………一般の学校でいうところの体育ってのかな?
……の時何度かやらされたけど、最高で1200メートルリレーだった。
今回のは、青の一族主催の元行われる大規模なもので、上位入賞者へのご褒美も凄いらしいけど、走る距離も凄いみたい。
50キロ………って聞いたのは気の所為にしたいよ…。
ボクの記憶だと、青の一族主催のリレー大会は今回が初めてだと思う。
「今年からシンちゃんの意向で全員強制参加になったよね。ボク、走るの苦手なのに~…」
「少しは日を浴びて健康的な事をしろって。いっつも開発部に篭もってたら苔生えてくるぞ苔!」
「こ、苔はないよぉ~!」
言い方ちょっと酷いョシンちゃん~!
「だったら文句言わねえで意欲的に参加しやがれ!コタローだって参加するんだぞ!!」
う…、怒鳴らなくてもいいでしょお~…。
ちょっぴり涙目になりつつ、話しながらストレッチを終えたらしいシンちゃんと、近くに置いてあるアイスボックスやタオルの山とか、
多分リレーの特訓に必要なものが幾つか置かれているのをちらりと見る。
想像するに何時間も特訓する気みたい。
「それにしてもシンちゃんやる気満々だね。シンちゃんなら特に練習しなくても上位に入れると思うけど…」
ボクと違って、昔からシンちゃんは運動神経抜群だから。
総帥に就いてからは昔ほど体を動かす事はなくなったけど、時々キンちゃんやジャンさんと組み手をしてるみたいだし、
総帥自らが戦地に赴いたりもするからそんなに身体が鈍ってもいないと思う。
「一位にならなきゃ意味ねえんだよ」
「それって…、総帥としての威厳をかけて?」
シンちゃんの瞳の色が余りに強くて、ボクは少なからず不安で哀しくなった。
けどそれは殆ど杞憂だったみたい。
「も、あるけど、キンタローと賭けしてるんだよ」
「賭け?」
まさか……、シンちゃんまでハーレム叔父様みたいに賭け事好きになったのかな。
親戚二人が賭け事に夢中になった果てに破産、なんて未来は嫌だよぉ~…。
「一位になった方が負けた方のいう事1つ聞くっていう賭け」
なんだ、金品絡みじゃないんだ。ちょっとほっとした。
「で、二人とも何をお願いするかもう決めてるの?」
「多分ナ」
「多分?」
「オレはもう決めてるけどよ、キンタローのは聞いてねえしオレも自分のを話してない」
「ふーん。当日ゴールした後のお楽しみって事だね」
まァな、とシンちゃんは笑ってつま先で地面を軽く蹴った。
「んじゃ、ちょっくら走ってくるぜ!」
シンちゃん凄いワクワクしてる。
自分が一位になるって信じて疑ってないんだ。
その自信が凄く羨ましくて、眩しい。
信じていてでも自信に溺れる事無く努力も決して怠らない従兄弟を、ボクが密かに誇りに思ってるんだよ、知ってる?
……でも、シンちゃんとキンちゃんの賭けって…………
「意味あるのかなぁ…」
「は?」
走り出そうとするシンちゃんに背を向けての小さな呟きが聞こえたのか、聞き取れなかったのか、
シンちゃんが素っ頓狂な声を出して振り向いた。
ボクも一度だけ振り向いて、「無理しちゃ駄目よ」って声を掛けて、それっきりでその場を後にした。
二人の賭けは無意味じゃないのかな。
だってボクには、シンちゃんとキンちゃんがお互いに何をお願いするのか、分かっちゃてるもん。
言うとシンちゃんきっと怒るから言わないけど、賭けにはならないよ。
どっちが勝っても結果は同じ賭けなんてさ。
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