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kk



そこは重圧に潰されそうな場所。
けれど空に一番近い場所でもあった。

積まれる書類を慎重にこなしていく。
一人きりではない。
秘書の二人が傍で総帥に渡す書類を確認したり、経費の計算と対策、方向性の論議を静かに交わしている。
シンタローの身体は休息を求めているが、知らぬ振りで仕事をこなし続ける。
時々、シンタローの体調を考慮して、秘書二人が休憩を提案するが、シンタローは「必要ない」と、首を縦に振ろうとはしなかった。
その度に小さく吐かれる溜息を、目先の事に手一杯のシンタローは気付けない。
ただ、目の前の“総帥の義務”に神経を集中する。
…………キンタローが入室してきた事にも、気付けないくらいただ真っ直ぐに。
「………はァ…」
「………………………あ……?キンタロー、来てたのかよ」
直ぐ傍まで近付いて一分、彼の一心不乱っぷりに呆れて溜息を小さく洩らすキンタローに、シンタローがようやく気付く。
来訪の用件を聞こうとする前に、キンタローが秘書二人に声を掛けた。
「二人共、仕事中に悪いが少し席を外して貰えるか」
「「え…」」
「はァ!?」
キンタローを除く三名が、どういう事かと目を丸くする。
構わずにキンタローは話を進めていく。
「時間はそれほど取らせないつもりだ。………シンタローが本当に利口な者ならな」
「な…ッ!?」
馬鹿にされたとしか思えないキンタローの言葉に、言葉が一瞬詰まる………が、火山のような速さで頭に血が上昇した。
「何が言いたいんだテメエ!!喧嘩売るなら後に……ッ」
「落ち着け」
詰め寄るシンタローの肩を抑えて、顎で秘書達を外へと促す。
彼らはキンタローの意図を素直に理解し、頼むように頷くと足早に部屋を後にした。
二人きりの部屋に漂う重苦しい空気。
早く終わらせなければと急いでいる仕事に水を差され、強い苛立ちが、シンタローの胸の中でぐるぐると渦を巻く。
ドッカリと椅子に座り、ガシガシと髪の毛をかき上げる。
キンタローの意図が、シンタローには分らない。
時々常人ならぬ天然な言動を取るキンタローだが、理由無くシンタローの仕事の邪魔をする男ではないのはシンタローも分ってはいる。
けれど、突然の来訪突然の小馬鹿とも取れる発言に突然の強制的仕事中断の理由が読めなかった。


沈黙を先に破ったのはキンタローの方から。
「いいか、シンタロー。オマエが休まなければアイツ等も休めないのだぞ。それを分っているか?」
「何でだよ!別にオレはアイツ等に休むなとは言ってないぞ!?前もって休める時には休んでおけとも言っている!!」
キンタローが一歩、一歩とシンタローに近付く。
遂には二人の距離は吐息が絡むほどの。
シンタローの髪の一房を掬い取り、口付けるようにキンタローは自分の唇に近付けた。
「だが、総帥のオマエが休憩も取らずにいて、アイツ等が休めると思うか?逆を考えろ、シンタロー」
「逆?」
「アイツ等が長時間仕事をしている。その時オマエは休息を取る事は出来るか?」
「…………っッ」
「出来る」と言い切るつもりだった。
けれど出来ないとも知った。


考えてみる。
一つの小さな会社があると仮定する。
自分はそこに勤務していて、会社と言ってもオフィス一つだけのこじんまりとしたスペース。
勤務の合間に皆で休憩を取る。
その時に誰か1人がまだ仕事を続けている。
自分が相手に「休みましょう」と声を掛けるも、その相手は「はい」と言うが休む気配はない。
一生懸命作業を続ける相手を残して、自分又は自分達だけはゆったりと休憩を取れるだろうか?
きっとその1人の為にゆっくりと出来ないだろう。
これは仮定世界の話だが、シンタローはこの話の「相手」に当たる。
自分に出来る限りの事を「相手」はしているつもりで、その他大勢又は他の1人かもしれないが、少なからず気を使わせてしまうのだ。
シンタローに情を持つ者なら余計に、自分もシンタローの義務に合わせようと努めようとするだろう。
では、今自分が一途に職務をこなそうと精一杯を尽くすのは、他のものに反する事なのか?
それは恐ろしい想像だった。
総帥として進んだこの月日を丸々否定されるも同然なのだから。
空気が重さを増していく。
苦しかった。
息が出来なくなると思うくらいに。
突然視界が真っ暗になる。
一瞬の戸惑いの後、キンタローに両手で目隠しをされたと理解した。
「今度は一体何の真似だよ!キンタロー!!」
キンタローの来訪からずっと主導権を握られているようで、シンタローの中でちりちりと苛立ちが火の粉のように飛んで散る。
「シンタロー、空は今、何色だ?」
「は?」
今日のキンタローは突然の連続だ。意図を知らせず疑問だけを正面からぶつける。
戸惑うシンタローを他所に、キンタローは彼に問う。
「今、空はどんな風だ?晴れか?雨か?曇りか?夕方か?快晴か?それとも夜か?答えろ、シンタロー」
「……意味分ッかんねえよ!くだらねえ遊びだったら離せ!!」
「空が今、どうなっているのか分からないのか?」
「んな事、ねえ……ケド…」
言葉とは裏腹に声は明らかに動揺に縮こまっているのが知れる。
「なら言ってみろ。そうしたら、解放してやる。約束だ」
「…………」
今日の空は何色だったか?雲は浮いていたか?
「………………………雲が……まばらにある、…晴れ……」
深い溜息が、シンタローの背後から聞こえてきた。シンタローの両目が視界を開放され、空を捉える。
「見てみろ」
「……………っ」
空は、泣きそうな子どもの様子を持った灰色の曇りで覆われていた。
「ガンマ団では、この部屋が空に一番近い場所だ。だが、オマエは空の色にも気付けなかった」
「だから何だってだよ!?空とオレの仕事と何か関係あるってのか!!」
デスクワークが主な最近は、天気が快晴だろうと台風だろうと職務に何も関わりなくいた。
キンタローの回りくどい言い方に腹部のそこがジクジク熱せられるのを感じた。
「近くにあるものに気付けないのはどうかと思っただけだ」
その熱を冷ます冷水のようなキンタローの言葉が、容赦無く核心に迫る。
「こんなにも近い空にも、傍に居た秘書にも、そしてこのオレにも気付けなかっただろう?」
「………それが本音か…」
「………………」
今度はキンタローが沈黙を作った。
「今全てに目を向けろとは言わない。だが、このオレにくらいは気付け。そして頼り切ればいい」
お互いの背に手を回し、身体を預けるような抱擁を交わす。
キンタローの背中越しに見える、近くに感じる錯覚を起す空。
灰色で重く、それはまるでこの部屋のようだったけれど、灰色の中に青の切れ目が走っているのに気付いた。
あの青い切れ目から、きっと青空が広がっていくだろう。
空は解放を称えるだろうか?

手を伸ばせば、空に届く気がした。
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