忍者ブログ
* admin *
[1264]  [1263]  [1262]  [1261]  [1260]  [1259]  [1258]  [1257]  [1256]  [1255]  [1254
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

ks



平凡な日常がとても愛しいと知った。

背後からオレを呼ぶ声がする。
全神経がざわめく。
「キンタロー!」
“シンタロー”と呼ばれる男が、機嫌良い顔で近付いてくる。
「その名で呼ぶな。“シンタロー”はオレの名だ」
本来の“シンタロー”と呼ばれるべきはオレなんだ。
「よく言うぜ。もうキンタローって呼ばれる事に大した抵抗感ねえくせに」
「何を根拠に……」
「高松やグンマにキンタローって呼ばれても、オレをシンタローって言ってても、特に嫌な顔しないって言ってたぜ?」
「グンマが、か…?」
「さァ?」
………くそッ。
誰にしろ余計な事を、寄りにもよってコイツに言ったものだ。
「キンタローも今日はフリーでいいんだろ?出掛けよーぜ!」
「…………何だと?」
出掛ける?
誰と?
………………コイツと…?
「……何故貴様と出掛けなければならない。オレは今でも、オマエを殺してやると思っている…」
本心だった。
あの島での戦は終わり、オレの居場所も家族も出来た。
けれど、“シンタロー”を殺す願望は消えない。
コイツと顔を合わせる度、傍に居ずともその存在を思い出す度、「殺してやる」と頭で思うよりも早く、口にしている事に気付いた。
「オレを殺そうと思うのは、何時でも出来るだろ」
本気と思っていないのか?
“シンタロー”はあっさりとオレの言葉を受け流すと、腕を掴み走り出した。
「何をする!?」
「何時でも出来る喧嘩より、今しか出来ない事に時間を当てよーぜ!」
腕を振りほどこうと思えば何時でも出来た。
なのに、オレは、ただシンタローに腕を引っ張られ共に走り出すだけだった。
シンタローが何をしようとするか、その先が知りたかったのかもしれない――――…。
ガンマ団を離れ、オレ達は客の殆ど居ない古い静かなバスへと乗り込んでいた。





時計を気にしなかった為どれだけの時間かは知らない。
オレの感覚では子一時間程度だったかバスで揺れると、シンタローに手を掴まれここで降りぞと引っ張られた。
怒鳴ってやりたかったが、降りて直ぐに視界全てに飛び込んできた青と言う色彩が、負の感情を忘れさせた。
「ここは……」
「ガンマ団から一番近くの海。まだ泳ぐには早ぇけど、こんな日は海がスゲー綺麗だからさ」
癒されるだろ?とシンタローは白い歯を出して笑った。
答えないオレに気にせず、シンタローが海辺へと進んでいく。
オレも黙って着いて行く。
砂場手前の低いコンクリート塀の上にシンタローが腰を下ろす。
無関心にオレは空と海の境界線を見つめていた。
それ以外、見るものがなかったからだが。



「今朝はちゃんと飯食ったか?」
無言が呼ぶ海の波音だけの音世界を、“シンタロー”の思い掛けない問いかけが打ち破る。
コイツは何を突然言うのだろう。
「………貴様には、関係ないだろう」
目を水平線から逸らさずに、“シンタロー”の好奇心を切り捨てるつもりだったが、コイツはなかなかにしつこい男だ。
「関係はあるだろ。赤の他人って訳じゃねえんだから。で?食ったのか?」
恐らく答えるまでくだらない疑問にしがみつく気だろう。
くだらないと思うものに苛々とするのも自分が馬鹿らしく思える。
だから素っ気無く「食べた」と答えたのだが、この男のくだらない質問はこの一つだけでは終わらなかった。
「で、何食ったよ?」
「だから何故答えなければならない」
不快な感情が渦巻き、横に座る男をキツく睨む。
「別にいいじゃねーか。朝飯は一日の基本だからな。ちゃんとしたモン食ってるか気になる訳」
「…………」
他の者ならば引け越しになるオレの睨みも全く気にしていないと言うように、コイツはただ笑っていた。
無邪気な笑顔とはきっとこの笑みの事をいうのだと、思った。



それからも、シンタローは明日の天気はどうだとか、最近面白いと思うテレビ番組がどうだとか、
マジック………叔父貴とまた大喧嘩してティラミスに怒られたとか、満月まであと何日だとか、
他愛もないお喋りを一方的に続け、オレは完結に聞かれた事だけを答える。
が、途中から、シンタローの片道通行の話題に、短くだか自分から話を繋げていた。


日も西に大分傾き、青の世界が紅に変わる頃、オレ達は帰路に着いた。
今日の一日は、最低限度の生活と“シンタロー”と海に言っての談話のみ。
勉学を学ぶ時間すら様々な要因が絡み合った疲労感から出来なくベッドに潜る羽目になった。
シンタローとの会話には、生きていく上で実になる話題は何一つ無かったと言うのに、
何故か心の奧で満たされる何かを眠りの淵で感じる。
千の知識を学び取るより大切な何か。
その正体とキッカケを認めたくはない。
勘違いも甚だしいと満ちる気持ちと否定の思いの間で、深い眠りにこの身を預けた。
PR
BACK HOME NEXT
カレンダー
04 2025/05 06
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
最新記事
as
(06/27)
p
(02/26)
pp
(02/26)
mm
(02/26)
s2
(02/26)
ブログ内検索
忍者ブログ // [PR]

template ゆきぱんだ  //  Copyright: ふらいんぐ All Rights Reserved