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smc



やっとおうちに帰ることになったのはいいけれど。
大丈夫かな。
誰も傷つけないでいられるかな。
お兄ちゃんたち、おかえりって言ってくれるかな。
パパはなんて言うだろう。もしかしたら、何も言わないかもしれない。
昔みたいに冷たいまなざしで見返されるだけかもしれない。




だけど僕は強くなったよ。


だから、今度は。好きになってもらえるかなあ。









Dad, never let go of my hand.









冬のにおいがする、半年振りに帰ってきた懐かしい場所。
発つ前には青々としていた木々も今ではすっかり黄色くなっている。
もう何年もこの場所へ帰ってきていないような、そんな錯覚に陥った。


「コタローちゃ~ん!」
記憶にある間延びした声。
タラップを降りると金髪の兄が一番に出迎えてくれた。
問答無用で抱きしめられて頭をなでられ、ほおずりされる。
甘いお菓子の香りの中に混じる薬品のにおい。
ああ、この人のにおいだ。
ここを発つ時も同じにおいをさせていたっけ。
「おかえりなさーい!」
しばらく見ないうちに大きくなったね、みたいなことを言われたよ うな気がする。
声だけを認識することはできたけど、内容まで理解することはできなかった。
僕の意識はただひとりに向けられていた。





赤い服を着た父親。
僕の眼はその人にくぎづけだった。





黙ってパパは僕に近寄り、着ているものが汚れるのも構わず、その場に片ひざをつく。
びしりと身体がこわばる。
心臓が早鐘のように鳴り響いた。

「おかえり。」

静かにそう言って手を差し伸べるパパに、怯えながら手を伸ばした。
もしかしたら、振り払われるんじゃないかと思ったから。




きゅ、と強く握り返されて、目の前の人は立ち上がり、僕の手を引いた。
ひんやりとしたその手。
今まで必死になって求めていた手を、やっとつかむことができて。
その安堵感に僕は声を張り上げて泣いた。




泣きじゃくる僕に驚いた兄と従兄弟の顔がちらりと見えた気がした。
パパは足を止めてかがんで僕を抱き上げようとした。
抱きづらいのか手を離そうとしたけれど、僕が意地でも離さないのを察知して、パパは手をつないだまま片腕だけで僕を抱き上げた。



パパと、僕の手。



離してしまえば、もう二度とつながれることはないような気がした。
だから力いっぱいその手を握り締める。振り解けないほど強く。
血がにじむほどつめを立てて手を握る僕にパパは何も言わなかった。
許されている、と感じて。
僕はますます声をあげて泣いた。




**************




二人きりの部屋に響くのは僕の嗚咽だけ。
ちらりと室内を見回したけれど、お兄ちゃんグッズにまみれているところを見る限り、ここはパパの部屋なんだろう。

お兄ちゃんばかりで埋め尽くされた部屋。
僕の入り込む隙間なんか1ミリもない。

シンタロー人形はあってもコタロー人形はない。あるはずもない。

わかっていたはずなのにまた涙がこぼれてきて、パパの服に顔をうずめた。
ふるえる僕の背中をパパは黙ってなでていた。
相変わらず手はつないだままで。









どれくらい時間がたったのかわからなくなった頃。
僕はぐったりとパパに身をあずけたまま、小さな声でその人を呼んだ。
「…パパ。」
「なんだい。」
「呼んだだけ。」
呼びたかっただけで何の用もなかった。
僕が呼んだら返事を返して欲しかった。
ただ、それだけのこと。
「…コタロー。」
「何?」
「呼んだだけ。」
10歳児と同じことをする53歳のこの人は。
やっぱりアヒル好きで天才と何の紙一重な兄の父親なんだと思った。
…僕もこの人の子供ではあるんだけど、無性にそれを否定したくなるのはなぜだろう。




「……今度から1回呼ぶごとに千円もらうからね。」
「ひどいなあ。パパはお金なんてかけてないのに。」
「パパが子供じみたことをするのが悪いんだよ。」
「ふーん。ねぇ、コタロー。」
「千円。」
「コタロー。」
「二千円。」
「コタロー。」
「三千円。」
「コタ…」
「さっきからなんなのさ。」
泣きすぎたせいでがんがんする頭を動かして、やっとのことでパパと視線を合わせた。




僕をじっと見つめる秘石眼。静かな色をたたえた両目は穏やかささえにじませている。
対して僕はきっと目も鼻も真っ赤になっていることだろう。

「コタロー。私はお金を払ってでもお前を呼ぶよ。」

「お前は私の息子なのだから。」

「どんな障害を設けられようとも、何度だってお前の名を呼ぶ。」

「お前に誓うよ。私はお前の父親になる。誰にも文句は言わせない。シンタローやお前を含め、他の誰にも、ね。信じられないならそれで構わないよ。それがそのまま、私がお前にしたことへの罰になるのだし。」


「……………」
「……コタロー。返事をして?」
「…なに、パパ。」

「私はお前が好きだよ。」




言葉が刺さる。
的確に僕の心臓をえぐる。
そう形容するしかないほど衝撃的な。




「こんなこと言っても、きっと信じられないよね。」
苦笑して、パパは呆然とする僕のほおをくすぐった。
信じられないわけじゃない。
パパは今まで僕に嘘をついたことなんか一度もなかった。幽閉されていた、あの頃でさえ。
だからこそその言葉には真実味があって、怖いくらいに嬉しい。
「……お金はいらない。でも何回だって呼ばせてあげる。ありがたく思うんだねっ。」
ばふっと音を立てて総帥服に顔をうずめた。

恥ずかしくて、でも嬉しくて、ふたつが混じってわけがわからなくなって体中が熱い。
顔だけじゃなく耳も赤くなってるのがわかった。

ぽふ、と頭にのせられた手が髪をすいてゆく。
「あはは、コタローはサービスみたいだねぇ。女王様って言葉がぴったりだよ。」
笑われたのがくやしくて、思いっきり手に力をこめた。







今度こそ。
今度こそ僕の手を離さないで。つなぎとめていて。
再びこの手が離されることがあれば、その時こそ、本当に僕は壊れてしまうから。







「……ずっと、こうしていてくれる?」

お願いだよ、パパ。わかって。
僕がどういう思いで話しているのかを。

「…もちろん。」
つないだままの手が、強く握られて、
「お前が振り払っても、二度と離さないさ。」
覚悟するんだね、とパパが耳元でささやいた。
「愛情表現はいいけど、過剰なやつはお兄ちゃんだけにしてよ。」
「はっはっは。私はショタコンじゃないからその点は心配ないさ。そっちはシンちゃんが専門だよ。」


こつん、とおでことおでこをくっつけて。
僕とパパとの約束を心の中で繰り返す。
「僕もパパのこと、嫌いじゃない。」
パパのことを信じていないわけじゃないけど、やっぱりまだ心のどこかが揺らぐから。
今はこういう言い方で許して。

「ありがとう、コタロー。その言葉だけで私は救われる。」
僕の前では見せたことのない表情で、パパは笑った。









 僕達はこんなにも似ているのに、どうしてか遠回りばかりして。
 争って傷つけあって、なのになぜか互いが気になって、完全に憎むことはできなかった。
 それから何年もかけてやっとこうして同じ場所にいられる。
 親子っていうには程遠い関係で、僕もパパもどう接したらいいのか戸惑ってる。
 でも、もう一度やり直せるチャンスをくれた人がいるから。
 その人に誇れるように、後悔しないように。
 お兄ちゃん達と、おじさん達と、パパと僕で。
 家族になろうね。




**************




ありえねぇ…



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