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まだ笑っていられる



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「ぅ……」
 込み上げる嘔吐感が堪えきれずに声を漏らす。
 同時にぱたぱたと透明な液体が口端からこぼれた。
 胃液が逆流したかのような感覚と、喉を通る不快な味に眉をしかめる。
 口を抑えて、汚れてしまった手を無造作にシャツで拭うと、 自身を落ち着かせるためにゆっくりと息を吐いた。
「ちっ……」
 いつからこんなに軟な体になってしまったのだろう?
 働きすぎだと言われたときも、こんなことで倒れるわけないと笑い飛ばした。
 それがどうだ?
 今同じことが言えるのか?
 プレッシャーだの、ストレスだの……そんなものに振り回されて。
 体を少し酷使しただけでこれだ。
「弱っちくなっちまったもんだ」
 ガンマ団総帥が聞いて呆れると自嘲する。
 眠ることを忘れたかのような忙しい日々が、まるで自分を押しつぶしていくようで……。
 家の外壁に背を預け、彼は小さく笑った。
 笑おうとして崩れた。
「けっ……」
 それが分かってしまって、だから悪態をつく。
 慣れてきた生活が急に戻せるはずもなく、心地良いはずの夜が、 眠れずに怖いとさえ感じる。
 輝く星明りの中で、ただひたすらに早く明けろと願うばかり。
「……お、起きてたんですか」
「…………」
 問いに彼は答えなかった。
 答えたくもなかった。
 顔も向けぬまま、まるでその存在にさえ気付かなかったかのようにして。
 それでも話しかけてきた青年は、構わないというように続けた。
「眠れないんっスか?」
「…………」
「……あの……起きてます?」
「…………っるせぇ」
 あまりにしつこいのでボソリとそれだけ呟いて突っ撥ねる。
「す、すみません」
 それきり青年は何も言わず、 しかし立ち去るでもなく彼の横に腰掛ける。
 謝るくらいなら戻ってくれた方が楽だと思った。
 それをわざわざ口にするのも面倒で、彼も何も言わない。
 どれぐらい続いたのか、青年の口が少し動く。
「……あ、あの……」
 彼にはほんの短い時間だったが、おそらく青年には絶えられないほど長いものだったのだろう。
「……ぁんだよ」
 仕方なく答える。
 そうでもしないと、青年はいつまでたっても戻っていきそうにないと思ったから。
 しかし、次に青年が紡いだ言葉はそんなことを忘れさせた。
「辛いっスか?」
 聞いた瞬間は意味がわからなかった。
 だが、頭は徐々に言葉を理解する。
「……見てやがったな」
「え、いや、その……す、すみません」
 青年は途中から現れたのでない、おそらく最初からいたのだろう。
 特戦部隊にいただけあって、気配で起きたのかもしれない。
 何にしろ嫌な場面を見られてしまったと、彼は舌打ちする。
「あの、俺、聞きますから」
 突然何を言い出すのだろう。
 いつになく真剣な眼差しで、青年は言う。
「俺なら、聞けます」
 ……ああ。そうか、と彼はようやく理解した。
 自分ならば、もう団と関わりのない自分ならば聞けるのだ、と。
 彼の溜め込んでいるもの全て―――。
「……お前が?」
 くっと口の形が歪む。
 最初は同情のようにも聞えた。
 だが――。
「なっ、何っスか!!」
 青年の顔があまりに真剣で、馬鹿みたいに心配そうに見つめてくるから。
「お前に助けてもらうほど落ちぶれてねぇよ」
 逆におかしくなってしまった。
 考えていたことが馬鹿らしいとさえ思えてくる。
 勿論、青年は不服そうにしていたが。
「頼りにならないですか」
「全然な」
 その一言が余程堪えたのか、目に見えて明らかに肩を落とす。
 それに苦笑しながら、彼は青年の頭に手を置いて、 そのままガシガシとかき回すように撫でる。
 例えてみれば犬を撫でている時のように。
「何するんっスかー!」
「まあ、心意気は褒めてやるよ」
 いつの間にか不快感は消えていた。
 それが青年のおかげかどうかは知らない。
 彼は立ち上がり笑った。

 今度は、崩れなかった。







END





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後書き

力になりたい。
でもその人は望まない。

……ヘタレめ。

2004(April)


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