一日目。
親子になる練習。
まずは抱きしめるという会話から始めよう、とお兄ちゃん(バカな方)が言っていた。
それを実践している僕らは結構真面目な部類に入ると思う。
「いたたたた」
「あ、ごめん」
慌てて手を離すその人は、ちょっと困ったように眉根を寄せていた。
「ったくもぅ! パパは馬鹿力なんだから少しは手加減してよ!
僕はお兄ちゃんみたいに死んでも生き返るような芸当は出来ないんだからね!」
「んー、がんばってみるよ。なかなか力加減が難しいね。
ハーレムやキンちゃんとか丈夫にできてる人間で練習してこようかな」
「………それはやんなくていいよ。ほら、もう一回」
「え? でも痛いんじゃないの?」
「いいから!」
「我侭なコタローだねぇ」
焼きもち焼いたなんて言わないけど、パパと一緒に本当の親子になりたいから。
四日目。
「おいで、コタロー」
昔は冷たかったその声が、今ではほんの少しだけ暖かいような気がする。
「ん、」
両手を伸ばせば軽々と抱き上げられて、甘い香水のにおいに包まれる。
膝に抱き上げられる感触も、落ちないように体に回される大きな腕も。
求めてやまなかったあの日の願望。
九日目。
「うわあああぁぁぁぁぁぁあっっ!?」
「…驚いた?」
「今の悲鳴でわかんないの!?」
「いやあ……そんなに驚かれるとは思わなかったし」
イライラして地団駄を踏みながら、背の高いパパを見上げた。
「あのねえ! 足音とか気配もなく背後から抱きつかれたら誰だってびっくりするよ!」
「そうなの? だからシンちゃんによくタメなし眼魔砲受けるのかー」
家にいるときくらい普通にしていてほしい。でなきゃ家中が眼魔砲で穴だらけになっちゃうよ。
二十日目。
ふわりと僕を包んだ両腕に体をもたれさせる。
お互い大分慣れてきたんじゃないかと思う。
しばらく無言でいたけれど、パパのひとことですべてぶち壊し。
「コタローのにおい、変わった?」
「自分の体臭なんてわかんないよ」
ウソだよ。最近気づいた。パパの香水のにおいが僕に移ってること。
それだけ僕達は近い存在になれたってことなのかな?
「なんかコタロー……親父くさいよ」
「アンタのにおいだよッ! 加齢臭ッッ!」
あれから一ヶ月。
「パパ!」
呼んで走って抱きついて。大きな体は揺らぐことなく僕の体を受け止める。
そのまま抱き上げられ、この人の目線の高さを感じた。
いつもパパはこうやって一番高い場所から僕らのことを見下ろしているんだろうか。
でも、それだけじゃないことをちゃんと知ってる。
呼びかければ、体をかがめて視線を合わせてくれるようになったこと。
そのことがどれだけ嬉しいか知ってるかな?
「今日のおやつはなにー?」
「ショートブレッドにしようかなと思ってるんだけど…」
腕を首に回してうなずけば了承の合図。
ちょっと長くなった金髪が鼻をくすぐる。
「……でも紅茶はペコがいい」
ゆるゆると髪をすく指先が優しい。
背中をなでる手が暖かい。
「わかってるよ」と告げられる声がひどく甘い。
僕の居場所はここなのだと。
いつかその声で教えて。
**************
いつかこんなふうになれたらいいなあという願望。
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