忍者ブログ
* admin *
[1282]  [1281]  [1280]  [1279]  [1278]  [1277]  [1276]  [1275]  [1274]  [1273]  [1272
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

rr






--------------------------------------------------------------------------------



忘れないで



--------------------------------------------------------------------------------



 島は今日も、ただ天気がいい。
 日差しは暖かというより暑く、チリチリと肌を焼く。
 しかし、リキッドの顔は青かった。
 例えるなら凍死寸前の顔。
「あの……シンタロー、さん……?」
 呼びかける声に答えはなく、目の前の人物は、ただ静かに地面に横たわっている。
 意外に長い睫毛は伏せられたまま、開くことがない。
 青い顔をさらに青くして、リキッドは即座にその胸に耳を押し当てた。
 ……呼吸で小さく上下しているのが分かる。
 安堵の息が漏れた。
「っはぁ~……良かった……って良くねぇよ!!」
 自分で自分にツッコミを入れ、不安を押し退けようとする。
 よほど強く打ち付けたのか、彼が目覚める気配はない。
「ああ、もう、俺の馬鹿……!」
 項垂れて、深くため息をつく。
 どうしてこんなことになるのだろう、と。
 倒れたままの彼を引きずり、木へと寄りかからせる。
「痛ぇ……」
 忘れていた痛みが、今になってズキズキと主張してくる。
 触るとかなり大きいコブができていた。
 そのくらいですんだのだから、良かったといえるだろう。
「どうしよ……」
 シンタローの意識がないのは、状況から言うまでもなくリキッドのせいである。
 このまま起きるまで待つか、起こすか……どちらにしろ、即眼魔砲が飛んできそうだ。
「シンタローさん?」
 もう一度呼びかける。
 やはり答えはない。
「俺があんなとこから落ちたから……」
 そう言って、シンタローを寄りかからせた木を見上げる。
「足滑らせるなんて、情けなすぎるよなぁ~」
 しかも落下地点に丁度良く(悪く?)シンタローがいたのは、リキッドにとって幸運だったのか、不運だったのか……。
 ともかく、故意だろうが過失だろうが、彼に頭突きをかましてしまったのだから、ただでは済むまい。
「都合良く忘れてくれないかなー……なんて……」
 妙なことを期待してみる。
 強い衝撃により、一時的に記憶の混乱が起きるというのは良く聞く話だ。
「ってそんなの困るだろ!!」
 首を大きく振って、瞬時に打ち消す。
 彼が今までのことを忘れてしまうだなんて、縁起でもない。
 起きるのを待って、謝ろう。
 そう決めた時、かすかにシンタローの瞼が動いた。
「んっ、痛ッ……」
 声に全身がビクリと震えた。
 ついに起きたのだろうか。
「シ、シシシ、シンタローさんっ?」
 声まで震えている。
 脳は謝れと指示を出しているが、口は上手く動かない。
「……あぁ?」
 これから起こることが目に浮かぶ。
 罵倒→眼魔砲→星になる自分。
 帰って来るのにどれくらいかかるだろうか、と言う計算まで考え始めたリキッドに、シンタローの声が響いた。

「……誰だ? お前?」

 瞬間、音が聞こえなくなった気がした。
 何を言われたかわからなった。
「え……?」
 馬鹿みたいに聞き返した彼に、シンタローは後頭部を手で摩るだけで、何も言ってくれない。
 まさか、そんなことあるはずない。
 たかがあのくらいのことで――――。
 ちらっとでも自分が考えたことだけに、駆け上る不安は大きい。
 全身の血の気が引いていく気がした。
「シンタロー、さん?」
 確かめるように名前を呼ぶと、彼は怪訝そうな顔をしただけで、やはり返事はしない。
「それが、俺の名前か?」
 いつもの俺様振りなどさっぱり窺えない。
 弱々しい目――――。
「冗談、止めて下さいよ……?」
 頭がガンガンと痛み出す。
 これは先ほどの外傷ではない。
 どうして、どうしてと、疑問符ばかりが浮かんでくる。
 唇が震えて、喉が張り付き、声が掠れる。
「俺が、あんなこと思ったから――――?」
 都合よく忘れて欲しいだなんて。
 決して本心からじゃない。
「嘘、ですよね?」
 泣きそうだった。
 こんなのは、望んでいない――――。
「ああ。嘘」
「へ……」
 けろりと言い切った彼の言葉に、リキッドは固まった。
「ったく、何してんだよヤンキー!痛ぇなー……」
「え、ええ? シンタロー、さんっ?!」
 眉を寄せてリキッドを睨みつけるシンタローは、すっかりいつもの彼に戻っている。
「ぁんだよ」
「お、俺のこと、覚えてます?!」
 喉がごくりと鳴った。
 怖々発したその言葉に、彼はニヤリと笑う。
「その間抜け面忘れるかよ、リキッド」
 途端に顔に血が上った。
「――――っ! からかったんですか?!」
「てめぇが人の頭上に落ちてくんのが悪ぃ」
「なっ……!!」
 子供のように言って、顔を背ける彼を見て、リキッドは確実に隊長と血縁だと感じた。
 いや、向ける感情が違う分、隊長よりも性質が悪い。
 脱力と、安堵と、少しの怒りと……。
 全てが一気に押し寄せて、目の奥が熱くなる。
「俺っ……!ホントに……っ!」
 拳を握って、こんなことで泣いてしまいそうな自分が情けないと思いながらも、抑えられない。
 本当に、たまらなく怖かったのだ。
 忘れられたくない。
「おい……?」
 俯いて震えるリキッドに、流石にやりすぎたかとシンタローは手を伸ばす。
「っ……! シンタローさん!」
 伸ばされたその手ごと、シンタローを包むように抱きすくめた。
 存在を確認するように、強く。
 勢いに押されて、背中を少々打ちつけたが、リキッドは構わない。
「おいっ!」
「ホントに、心配したんですッ……!!」
 強い口調のわりに、リキッドは涙目で、痛いくらいに腕に力をこめてくる。
 そんな風にされればシンタローの負けだ。
 まさかここまで堪えるとは思っていなかった彼は、参ったなとため息を漏らす。
「……おい、悪かったって……」
 多少窮屈な体勢から手を伸ばして、小さく泣くのを耐えるような声が聞こえなくなるまで、背中をさすってやる。
 子供相手にむきになって、どうしようもないな、と自嘲して。
「おら、泣き止め」
 あまり強くない、語りかけるような口調。
 それは子どもに向かう態度。
「泣いてません……」
「じゃあ、重いから離れろ」
「……」
「リキッド」
 肩口に埋められた顔は、不服そうだ。
 まだ、触れていたいと。
「調子に乗ってんな。クソヤンキー」
「はい……」
 そんなことを知る由もないシンタローは、すっかりいつものヤンキー扱いに戻していた。
 渋々ながら彼から離れる。
 温かな人の体温が、腕に名残惜しい。
 離れてしまったリキッドの手が、寂しく宙を掻いた。
 その手で自分の顔を拭う。
 情けない。
 どうしてこんなに――――。
「情けねぇ顔してんな」
 両の頬を挟まれるように軽く叩かれる。
 自分の顔が赤くなるのを自覚して、リキッドは目をあわすことも出来なかった。
「誰のせいですか……」
「ああ?」
「何でもないっス……」
 この人はどこまで行ってもやはり俺様なのだ。
 けれど、
「……忘れねぇよ」
「え……」
「忘れてなんてやらねぇ」
 けれど、こんなにも柔らかい――――。
 それがとても愛しい。
 強そうで弱くて、厳しいのに優しい彼に――――。
 こんなにも思い強く。
 勿論彼はそれを知らないのだけど。
「俺もっ……ですか?」
「さぁな」
 自分がそこに含まれているかどうかはわからない。
 それでも、その言葉一つ一つ、一挙一動、全てが、心臓に響くようで。
 ああ、やはり焦がれているのだと、リキッドは強く思った。
「帰んぞ、リキッド」
「――――っ、はいっ!」
 これからこの人のそばで普通に過ごしていけるのかと、少し不安になる。
 焦がれる、あまりにいつか狂ってしまうかもしれないと。
 もう、どうしようもないほどに。
 この人には忘れないで欲しいと。
 (だって、ホントに好きなんだ。)
 口の中の呟きは、今は決して前を行く彼に届くことなく――――。







END





--------------------------------------------------------------------------------


後書き

伝えたい愛しさがある。
ともに生きる事が出来ないのなら、せめて忘れないで欲しいと。

そんな感じです(何)
自分で理想を語ったそばからそれをぶち壊すなよ私!(申し訳ありません…。)

2004(April)


--------------------------------------------------------------------------------






Back






Powered by FC2.com
PR
BACK HOME NEXT
カレンダー
04 2025/05 06
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
最新記事
as
(06/27)
p
(02/26)
pp
(02/26)
mm
(02/26)
s2
(02/26)
ブログ内検索
忍者ブログ // [PR]

template ゆきぱんだ  //  Copyright: ふらいんぐ All Rights Reserved