何の感情も映さない目で僕を見下ろしている人。
疎ましいとも愛しいとも思わない、
僕の存在などどうでもいいのではないかと思わせる雰囲気が怖かった。
決して無関心なわけではないはずなのに、僕のことになると興味も関心も失ったように
表情を露にしないで接してくるこの人が今でも恐ろしい。
「お前が生まれるまで、」
一言も発することなく見下ろしていた人が、思いついたように口を開いた。
「私は独りだったよ」
その目は僕を見つめたまま一時として逸らされることはない。
そして目を合わせた僕自身にも視線を外すことを許さない。
目を逸らすことすら必要のない強さ。たった二つの目が僕のすべてを支配する。
逃げ出したいのに動けない。無意識に発せられる威圧感が体を縛りつけた。
「……どうして? パパの傍にはお兄ちゃんがいたじゃない」
やっとのことで声を絞り出せば、目の前の人は困ったように目を細めた。
別に困るようなことは言っていない。
本当に僕なんかいなくても、この人にはお兄ちゃんがいれば事足りていた。
この人はいつもお兄ちゃんばかりを見ていたし、
僕のことなど気にかけている様子はなかった。
たとえ兄がいなくても獅子舞や美貌の叔父がいるのだから、独りではないはずなのに。
それなのに、僕が生まれるまで独りだったと言う。
「そうじゃなくてね」
「………」
何かを考える時には片手を顎の下に添え、首を傾げる。
その様はお兄ちゃんによく似ていた。
血の繋がらない兄のほうが僕なんかよりこの人によく似ていると思った。
「私と同じ子が生まれたでしょ」
「…それって僕のこと…?」
「そう。お前も私と同じように両目に秘石眼を宿して生まれた」
ゆっくりと手が伸びて、冷たい指先が僕の目尻を撫でる。
目の形を確かめるように僕の目の周囲を辿っていく。
まるで自分のものであるかのように、遠慮なく触れてくる冷たい手。
嫌でも指の動きを追ってしまうのは、まだこの人に心を許していないせいだ。
「だから私だけじゃないって思ったんだ」
覗き込んだ目に僕の姿が映っていた。
綺麗だ、と思った。
僕の目にもこの人の姿が映りこんでいるのだろうか。
「両眼に破壊の力を持って生まれたお前なら、私の苦しみを理解できると思えたんだ」
すらりと長い指先が目元を離れ、頬を伝い、最後に髪を撫でた。
「私は生まれてから長いこと独りだったけれど、お前が生まれてから私は独りじゃなくなった」
僕の存在がこの人の孤独を救えたのかはわからない。
でも、この人が独りじゃないと感じられたのなら
僕が生まれてきたことにも意味があるのだと思った。
この人が僕を必要としていたことが嬉しかった。
何かを殺すことしか出来ない、忌まわしい両眼。
兄が秘石眼を欲しがっていたことは知っている。父が溺愛している、黒髪の兄。
その兄でさえも共有することの出来ない苦しみを僕はこの人と分かち合える。
僕がこの人と共有できるものはそれだけしかないから。
ひとつくらい、僕が独り占めしたっていいよね。
「だからお前も独りじゃないよ」
「……そうだね」
パパは僕がいるから独りじゃない。それは僕にとっても同じ意味を持つから。
「僕もパパがいるから独りじゃないね」
何度目かの誕生日。それは恐れていたはずの両目がすごく大切になった日のことだった。
**************
両目が秘石眼の苦しみはこの二人しか判らないものですよ、多分。
戻る
広告 あなたの未来予想図を叶えます!! 通販 花 無料 チャットレディ ブログ blog
PR