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作・渡井

騒がしい総帥室




「シンちゃんひどいよ、パパを置いていなくなるなんて!」
マジックの声が大きく響いて、思わず固まったのはシンタローと、そしてキンタローもだった。
敗因は3つ。
1つ目は、普段ならさすがにノックするはずのマジックがしなかったこと。
2つ目は、普段なら気づくはずの人の足音に気づかなかったこと。
3つ目は―――これが最大の原因だったが―――普段なら忘れないはずの鍵をかけ損ねていたこと。
これらはすべて、その日の戦勝パーティに起因していた。


手ごわい敵対国の軍部独裁政府を打ち倒し、事後の処理がすべて済んだところで、ガンマ団本部では大々的に戦勝パーティが催された。
総帥の短いが心のこもったねぎらいの言葉で幕開けし、酒瓶が程よく開いて盛り上がったパーティは、特戦部隊が乱入してきたあたりからむしろ乱れ上がっていた。
歓声や怒号や悲鳴の中、シンタローはやっとのことで血の繋がらない父親や自称心友を振り切って、キンタローの肘に触れることに成功した。眉を上げたキンタローは瞬時に意味を理解し、人ごみに紛れてお互い別々の扉から抜け出した。

大仕事が終わった高揚感と、心地よい疲れと、アルコールによる適度な酩酊。シンタローの部屋に着いた途端、それらが若く健康な身体にごく限定的に作用したことは否めない。
少なくとも、マジックが来るかもしれないなんて考えが浮かぶほどの理性は、すっかり失われてしまっていた。

しかしいくら父も酔っ払っているとはいえ、目の前の光景はどう説明したらいいものであろうか。
下半身こそかろうじてシーツに隠れているものの、上は2人とも真っ裸で。
おまけにキンタローはシンタローの身体に覆い被さっていて。
ついでにシンタローの両腕はキンタローの首に巻きついていて。
とどめに互いの胸や背中にあからさまな痕跡をつけた状態で。
「何か言い訳できるならしてみろってんだ」
翌日の総帥室、デスクに肘をついて憮然とするシンタローの前で、声もなく笑い転げているのは特戦部隊の隊長である。
「で、兄貴が黙って扉閉めてよ」
ようやく椅子に座り直して、ハーレムは涙を拭いながら訊ねた。
「お前らは続きしたのか?」
「ドア越しに親父がわんわん泣いてんのが聞こえてくるんだぜ。アンタそれでその気になるか?」
渋面で逆に問われて、ハーレムはまたひっくり返って笑った。
「道理で兄貴が真っ青な顔で暗雲漂わせてるわけだ。そりゃ『可愛いシンちゃん』のそんな姿見ちまったらなあ」
「親父が悪ィんだよ。急に開けるから」
「んでキンタローはどうしてんだ」
「俺を嫁にするために、親父への挨拶考えてる」
これ以上ひっくり返りようがなかったか、ハーレムは今度は肘掛をばんばん叩くことで我慢したらしい。
「あいつ、いつの間にそんなボケ覚えやがった?」
「教育したのがボケ2人だからだろ。俺のせいじゃねえ」
「いいんじゃねえのォ? 兄貴だって他の男や見も知らねえ女に持ってかれるくらいなら、一族の方がまだマシだろ」
心底嫌そうな顔で反論しかけて、シンタローは欠伸を噛み殺した。目ざとく見つけた叔父がにやつく。
「続けなかったわりに眠そうじゃねえかよ、坊主」
「寝不足なんだよ」
「ほお?」
「んな顔すんなオッサン。キンタローが一晩中しゃべり続けてたんだ。打掛とドレスのどっちがいいだの、指輪はどこで買うかだの」
「そんで、どうした」
甥の気性を良く知る特戦隊長のけしかけるような質問に、シンタローは短く吐き捨てた。
「ベッドの外に蹴り出した」
総帥室に、再びハーレムのバカ笑いが響いた。


「それでシンちゃん」
ハーレムの次に部屋を訪れたのは、2人の関係を知る紙一重の天才博士だった。
「お式はどこでするの?」
「挙げねェよ」
長い足を組んでガリガリと頭をかき、シンタローはうなだれた。
「だってキンちゃんは腹くくったみたいだよ。この際、本部での式になってもいいって」
「そんな腹は切れ。介錯くらいならしてやる」
「シンちゃん冷たーい。キンちゃんが好きなんでしょ?」
「そ、そりゃ……す―――好きだけどよ。話を進めすぎっつうかその前に男だぞ、俺は。結婚できるわけねェだろ」
「世界には同性同士の結婚を認める場所があるんだよ。ガンマ団の権力で、そこに住所を移しちゃえばいいじゃない」
こういうときだけ頭の回るバカ息子に、シンタローは絶句しかけて唇を尖らせる。その仕草は子どものようだった。
「んだよ、別に親父にバレただけじゃねーか」
「そ、おとーさまにバレただけ。あのおとーさまにね」
だから問題なのである。
ため息をつくシンタローに、グンマはやや同情の眼を向けた。
「気持ちは分からないでもないけどさ……シンちゃん次第なんだから、何とかしてよね。おとーさま朝からうっとおしいよ」
「まったくだ……」
「頼んだよシンちゃん!」
頼まないでくれ頼むから、などとぶつぶつ呟くシンタローに、グンマも一緒に深い深いため息をついた。


「シンタロー!」
「帰れ」
入れ替わりに入ってきたのは、いつもなら顔を見ただけで休まる、でも今は絶対に見たくない恋人だった。
「研究室に閉じこもってろっつったろ」
「しかし」
「はいはい帰った帰った。俺は結婚も婚約も結納もする気はありません」
畳み掛けられ、手で追い払われてキンタローは落ち込んだ。犬ならば耳をべったりと伏せているところだ。
「やはり俺では駄目なのだな……俺が青の一族だからか? おまえと敵対したから? だが俺はお前を愛している、いいか、お前のことだけを」
「うぜえ、帰れ」
「シンタロー!」
「いちいちうるせェ! 俺は誰とも結婚なんかしねえ、お前ともお前以外の奴ともだ。いいな?」
ギッと音を立てそうなほど鋭く睨まれ、キンタローは渋々黙った。
ようやく静かになりそうだったそのとき、大きく扉が開いた。
「シンちゃん!」
「それ以上近づいたら眼魔砲」
「伯父貴……」
「はっキンちゃん! もしかしてまた最中!?」
「ンな訳あるか―――ッ!!」
全力の突っ込みを受け流し、マジックこと事態の張本人はキンタローの手を取った。
「キンタロー……私の息子はわがままで自己中心的で、いつまでも親離れ出来ないパパ大好きっ子だけれど」
「おい! 後半捏造したろ!」
「だけど本当は素直で愛らしい、甘ったれの子どもなんだ」
「おいィ! どんなヴィジョンだよそれ!」
「誰にもあげたくないけど、渡したくなんかないけど!―――あの子の幸せのためだ。シンタローを任せたよ」
「伯父貴……いや、お義父さん!!」
がっしりと手を握り合う2人をよそに、シンタローはティラミスに頭を下げていた。
「お願い、私を3日間だけ逃げさせて……」

ちなみにチョコレートロマンスの管理記録によると、この後の総帥室には、噂を聞きつけたドクター高松とサービス、ジャン、特戦部隊、伊達衆などが訪れ、合計24発の眼魔砲が乱れ飛んだという。

ガンマ団総帥は本日も元気で賑やかな仲間に囲まれ、楽しい一日を送っている模様である。


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もう二度と鍵をかけ忘れることはないと思います。
強化期間中に勢いでアップ。

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作・斯波




 午後の紅茶




今日のお客様はおとーさま。
ダージリンをストレートで淹れて、それだけ。
おとーさまは紅茶の香りを楽しむのが大好きなんだ。話題といえばシンちゃんのことばかりで、だけど僕はその話を聞くのが楽しくて仕方がない。
伯父様だと思って見ているのと、僕の父親だと思って見ているのとでは全然違う人だった。
僕が今この秘石眼を使わずにいられるのはおとーさまのおかげ。
「ねえグンちゃん、次にシンちゃんにプレゼントするのは何がいいかな?」
「シンちゃんが一番欲しいものはね、―――」
言いかけてやめた。
「えっ、何なのグンちゃん! 教えてよお願いだから」
泣き出すおとーさまを見てるのは楽しい。
僕もたまには意地悪をするんだ。



今日のお客様は高松。
どんな紅茶を淹れても意味がない。
どうせすぐに鼻血を撒き散らして台無しにしちゃうんだから。



今日のお客様はシンちゃんとキンちゃん。
同い年のこの従兄弟二人と居るときが、僕は一番安らいでいる。
シンちゃんはウバ。
キンちゃんはアールグレイ。
もう何年来違う紅茶を淹れたことはない。二人とも好みがはっきりしていて浮気はしないんだ。
キンちゃんはシンちゃんにベタ惚れに惚れていてそれを隠そうとしているみたいだけど、はっきりいってそれが成功した試しはない。
シンちゃんが何か話しかけると、
「何だ」
と間髪入れずに返事するけど、大抵、いつもシンちゃんの顔に見惚れていて、それを自分でも気が付いていない。
シンちゃんの方もキンちゃんに物を言うときは微妙に声の質が変わる。
どことなく甘い声になる。
僕はそれに気づいているけど、別に不快じゃない。
ラブラブなんだなあ、と感無量なだけだ。
僕にもいつか、こんな恋人が出来たらいいな。



今日のお客様はアラシヤマ。
同い年なのだけれど、何だかアラシヤマの方が年上みたいに思える。
暗いとか変わり者とか言われてるけど、僕はアラシヤマが嫌いじゃない。
アラシヤマが来る日は僕は何もしないんだ。お茶にうるさいアラシヤマは自分で淹れるから。
それも紅茶は嫌いだからって自分で持ってきた中国茶を淹れてくれる。
お菓子もアラシヤマが持ってくるから僕はまるでお客様みたいに悠々としてるんだよ。
その日も一日、新しい拷問と暗殺方法の話で盛り上がった。



今日のお客様はベストフレンズ。
シンちゃんとキンちゃんとはまた違ってほのぼのしてる二人が僕は好きだ。
トットリはミヤギに依存しきっているように見えるけど実はそうじゃない。
ミヤギがどうして欲しいのか、自分にどうあって欲しいのかいつもちゃんと考えて動く。
淹れる紅茶は二人ともミルクたっぷりのセイロンで、お茶受けはいつもミヤギが持ってくる「萩の月」。美味しいんだけど、たまには違うものも食べたいよね。



今日のお客様はコージ。
紅茶の味が分からないというコージは宇治の緑茶が好みだ。
だけどお茶会の時くらいは日本刀は部屋に置いて来て欲しかったりする。
でもまだ一度も言い出せない僕です。



今日のお客様はハーレム叔父様と特戦部隊。
何を淹れても一緒なのは高松と同じで、だってすぐにブランデーをドクドク入れちゃうから。
挙げ句の果てにロッドとマーカーが喧嘩を始めてGが泣き出して、ハーレム叔父様はといえば競馬雑誌に悪態を吐いちゃ部下に眼魔砲をぶっ放してる。
見てる僕は十分楽しいんだけど、一体この人たち何しにお茶会にやってくるんだろう?



今日のお客様は眠り続ける僕の弟。
上手に淹れたオレンジ・ペコを枕元にそっと置く。
苺の乗ったショートケーキは僕がシンちゃんに教えて貰って作ったものだ。
あの島から帰ってきて一度も目を覚まさない弟に時々僕がこうやってお茶を持ってくることは、シンちゃんにもおとーさまにも言っていない。
両目に秘石眼を持つこの綺麗な弟は、僕たち青の一族の縺れ絡まった運命をその一身に背負って生まれてきたようなものだ。
眠りながらも少しずつ大きく育っている弟がその力を使う日など来ませんようにと僕は願う。
(もうこれ以上秘石なんかに振り回されるのはごめんだ)

「―――早く帰っておいでね、コタローちゃん」

運命と戦い続ける人々のために。
明日はどんな紅茶を淹れようか。


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グンマは可愛いグンマも純粋なグンマも頭のいいグンマも好きです。
腹黒グンマだって大好きです。

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作・渡井


ハッピーデイ・ハッピーメイ




「キンタロー、ちゃんと考えてきたか?」
総帥室に入ったら、シンタローがとびきりの上機嫌で訊ねてきた。黒い眼は子どものように輝いているし、両方の口端がクッと上がっている。
シンタローはこの顔が一番似合うと思う。
「ずっと考えてはいるんだが……これといって思い浮かばないんだ」
「つっまんねー奴。1つくらいないのかよ?」
今日はシンタローの誕生日だ。ということは、俺の誕生日でもある。

シンタローは「誕生日ってのは騒ぐ口実のためにあるんだ」と言う。
だから桜が散って花見が出来なくなり、かといって七夕にはまだ早い時期、飲み会の名目を探すのが難しい5月と6月の誕生日が一番、”趣旨として正しい誕生日”なのだそうだ。
誕生日の趣旨はよく分からないが、グンマやシンタローや俺の誕生月が5月であることに、シンタローが満足しているならそれでいい。
「いい加減に決めろよな、もう当日じゃねえか」
一族はもちろん、伊達衆を筆頭としたガンマ団員も、プレゼントやバースデイカードを送ってくれたり、祝いの言葉をかけたりしてくれた。夜には秘書課あたりが手配して、パーティの真似事となるだろう。

そして寝る前にはシンタローが少し照れくさそうな顔で、俺の手にプレゼントを押し付けて部屋に帰ろうとする。
それを引き止めて俺からのプレゼントを渡すのが、俺がこの世に再び生まれたここ数年の恒例行事となっていた。


プレゼントは毎年ささやかなものだったが、携帯電話の話になったときシンタローがニッと笑った。
「俺、新しいケータイが欲しいんだよな。今のやつ、ちょっと写真撮るとすぐメモリが一杯になっちまう」
「お前のは撮りすぎだ。コタローの寝顔ばかりそんなに撮ってどうするんだ」
「100枚でも200枚でも撮れるのが欲しい。お前なら作れんだろ、誕生日にはそれ寄越せヨ」
その代わりお前が欲しいものをやる、と約束されたのが先週である。

それから一週間、シンタローは毎日訊ねてくる。
「聞いてんのかキンタロー?」
デスクに肘をついてシンタローが不審そうな視線を向けてきた。
「聞いている。俺の欲しいものだろう」
「あんま高いもんは駄目だぞ」
主夫経験豊富な庶民派総帥は、きっちり念を押してくる。
俺は少しだけ苦笑いして、腕を組みシンタローを見下ろした。


「お前は知っているんだろう? 俺の欲しいものなど」


欲しいものなど決まっている。多分ずっと前から決まっていた。
口に出さなかっただけで。


シンタローは一瞬その眼を光らせて、喉の奥で笑った。
「高いもんは駄目っつったろ、キンタローさん」
「そうだったな」
二人揃って、うつむいて笑い声を噛み殺す。

「開発課から内線が入っております。グンマ博士がお呼びですが」
「すぐに行くと伝えてくれ」
遠慮がちに顔を出したチョコレートロマンスに答えて歩き出した俺を、シンタローの陽気な声が呼び止めた。
「動画もめいっぱい撮れるんだろうな?」
「動かない寝顔を動画で撮る意味が分からないんだが」
「コタローじゃねえよ」
振り向いた俺に、シンタローは肘をついたまま口端を上げた。
ああ、俺の好きな笑い方だ。
「俺を部屋に連れ込んで、めためたに緊張してるテメーを撮ってやる」
「悪趣味だぞ、シンタロー」
「誕生日にかこつけて口説くよりは趣味がいいぜ?」
一言もなかったから、前を向き直って片手だけ挙げた。開発課に戻らないとグンマを待たせてしまう。


 それに、夜までに動画のメモリについて検討しなくてはならないから。


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言外に口説くキンちゃんと、言外に了承するシンタローさん。
以心伝心なキンシンが大好きです。
シンタローさんキンタローさんハッピーバースデイ。

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作・渡井

Don't you say, I don't say




「シンタロー、入るぞ」
デスクに肘をついてぼんやりしていたら、キンタローの落ち着いた声がした。慌てて片手にペンを持ち、仕事中を装う。
「開発課の企画書類を持ってきた。いま手は空いているか?」
「おう、構わないぜ。どれがグンマのでどれがお前のだ」
「ピンクの付箋がついているのがグンマの企画したものだ」
「それ全部却下」
見もしないで言い放つと、キンタローの口元が少しだけ緩んだ。
「そう捨てたものでもないぞ、これなんかはデザインさえ変えれば十分に実用に適している」
俺の前に書類を置いて、指で押さえる。少し顔が近づいて、視線が合った。
キンタローが何か言いかけたのを遮って、俺は書類を持って立ち上がった。
「ちょっと休憩。グンマんとこ行って茶でも飲むかな。お前も来るか?」
「……ああ」
一瞬遅れて返事をし、俺の後をついてくる。背中にもの言いたげな気配を感じて、俺は真っ直ぐに前を見続けた。

キンタローが俺に惚れていることくらい知っている。ふとした瞬間に、キンタローはそれを口に出そうとする。だが俺は言わせてやらない。

「どこが実用に適してるだって? またガンボットじゃねえか」
歩きながら企画書を見て口をとがらせると、キンタローがまた少しだけ笑った気がした。
「だが原理は他の開発に応用可能だ。こういう閃きはグンマにはかなわない」
確かにグンマは天才的な頭脳の持ち主ではあるが、それが発揮される分野は限られているし、実用化だの一般化だのという言葉とは縁がない。
アイデアを形に変えることにかけてはキンタローの方が上だと思ったが、口に出すのは止めた。
うっかり誉めたりなんかしたら、キンタローにきっかけを与えてしまう。

俺はこいつに、好きだなんて言われたくないのだ。

グンマは喜んで俺たちを迎え、紅茶を淹れてくれた。少し肌寒い日だったから、カップの暖かさが手のひらに気持ちいい。
グンマがデスクに常備しているクッキーやスコーンをかじりながらとりとめのない話(ミヤギとトットリが喧嘩してとばっちりを受けたコージが大変だった話や、先日帰還したハーレムとまた揉めた話や、親父がウザいという話)をしていたら、開発課の一人が遠慮がちに声をかけてきた。
「申し訳ありません、キンタロー博士、少しよろしいでしょうか」
言葉少なに俺たちの話を聞いていたキンタローが立ち上がり、研究結果を見ながらなにやら真剣に話している。
「キンちゃんはすごいねえ、あっという間にシンちゃんの右腕だね」
にこにこと笑うグンマに曖昧な返事をして、俺は肘をついてキンタローを見た。
ルーザー叔父そっくりの端正な顔立ちに、叔父よりもいくらか精悍な表情を浮かべて、研究員の言葉に頷く。高松が絶賛するほどの美貌だとは思わないけれど(だって俺の方が男前だ)、悪くないのは確かだ。
相手が俺じゃなきゃ、とっくに恋も実ってるだろうに。不憫なヤツ。
「シンタロー、時間はいいのか? ティラミスが気を揉んでいるんじゃないか」
秘書課のことまで考えて、お気遣いも完璧。俺は肩を竦めて休憩を終わらせた。

グンマがまたね、と手を挙げたのに応えて廊下に出たら、キンタローまでついてきた。ため息をこらえ、顔だけ振り向いた。
「どっか行くのか?」
「いや……特に用がある訳ではないんだが」
口ごもった隙にひらひらと指先を振ってやる。
「じゃあ働け、さぼってたら給料やんねーぞ」
軽く肩を叩いて歩き出す。後頭部に強い視線を感じた。
「シンタロー」
呼びかけられれば無視する訳にもいかず、何だ、とうるさそうに答えてみた。
「俺が総帥室に行ったとき、お前もさぼってたじゃないか」
「……俺はいいんだよ」
「整合性がない。納得いかないぞ」
声は明らかに笑みを含んでいて、俺は今度こそ後ろも見ずに歩き出した。これだからこの男は可愛くないというのだ。


顔が良くて、頭が良くて、性格が良くて、何でも出来る男には。
好きだなんて言わせてやらない。せいぜい焦れて悩めばいいんだ。

お前が俺に惚れて、どうしようもないところまで来て、なりふり構わず俺を欲しがるまで。
俺もとっくにお前が好きだなんて、言ってやらない。


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渡井はシンタローさん至上主義なので、シンタローさんが愛されていれば何でも良いのです。

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kwt
キミはキュートな子猫ちゃん















 ガンマ団一多忙な二人の総帥と補佐官。
 本日は久しぶりの一日オフだ。












「今日はおまえはどうするんだ?」
 ついでだからと一緒に摂った朝食時にキンタローに聞かれ、シンタローは決まってるだろ、と答えた。
「一日ずーっとコタローの側にいる。」
「それはいいが、伯父貴もいるだろ? いいのか?」
 キンタローのもっともな指摘にシンタローは顔を顰めたが予定を変更する気はさらさらなかった。
「まあ、それはイヤだけどさ。コタローの顔、ゆっくり見られるなんてめったにないからな。」
 おまえはどうする?
 聞かれて、キンタローは本を一冊取り出して見せた。
「高松に借りた本だ。ちょうどいいから読んでしまう。」
 その厚さはおよそ10cmはあった。字の大きさを見ると、それこそ蟻のようなものがぎっしりと詰まっている。
 シンタローも読書は嫌いな方ではなかったが、さすがにその内容量には辟易して視線を逸らした。
「ま、ゆっくり読書に励め、明日からはまた仕事だからな。」
 そういうことで、シンタローは早速、コタローの眠る病室へと赴いたのだった。







 







 ―――ついてない。
 30分後、シンタローは舌打ちしながら私邸へと引き上げてきた。
 病室に着いてみると、スケジュールの変更により一日検査ということで、コタローとの面会はかなわなかったのだ。
 コーヒーでも飲もうと、キッチンに向かってサイフォンをセットする。
 琥珀色の液体がこぽこぽ音をたてている間、新聞に目を通していたが特に目新しいニュースはない。
 世の中平和で大変結構なことだ。
 がさがさと新聞を畳み直し、ふと目を上げると自室にいるはずのキンタローが何故かそこに座っている。
 あの大きな本を抱えて。
「飲むか?」
「ん。」
 目を離さず、短く答えるキンタローのカップを取り出し、自分の分と一緒に注いで渡してやった。
 ちょうど、飲みたくなって降りてきたところに自分がいたから待っていたのだろう。
 ちゃっかりしてるな。
 シンタローは苦笑して、自分のマグカップを手にテラスへと移動した。
 スプリンクラーがひゅんひゅん回って、青い地面に水を撒いているのが涼しげだ。
 子供の頃はグンマと二人その飛沫の周りで遊んではびしょびしょになっていたものだ。
 たまに早く帰ってきた父親かたいていは高松に発見されて強制的にシャワーと着替えの後の昼寝、それからかき氷が待っていた。
 自分はみぞれが好きだったが、グンマは練乳と苺という甘ったるいシロップをたっぷりかけていた。
 あれで虫歯にならないアイツの歯って、たいがい丈夫っつーか…。
 風が頬をかすめシンタローは知らず微笑んだ。
 この前まではほんの少し肌寒かったそれが心地よい。
 あー、もう夏だな。
 コタローに新しいパジャマとタオルケット用意してやんないと。
 ずずっとコーヒーをすすって、ふと向かいの椅子を見ると何故かキンタローが座っている。
 やっぱり読書の体勢のままで。
 シンタローは首を傾げたが、そのうち日差しが強くなってきたので室内に戻った。
 居間にカップを置いて、グンマが一週間前から冷凍庫にいれっぱなしのアイスクリームを取りに行く。
 かき氷にはまだ早いが、ひんやりした甘さが、コーヒーで酸っぱくなった口にちょうどいいような気がしたからだ。
 たくさん、買い置きはあるし、ひとつくらい食べても怒りはしないだろう。
 冷凍庫の引き出しを開けて、その容器に印刷された可愛らしい色彩にシンタローはげんなりした。
「バナナ味にストロベリー…、せめて、チョコとかラムレーズンとかシンプルにバニラとかの選択肢はないのか、アイツ。」
 少し、考えて一番マシそうなオレンジをとる。
 某高級アイスのメーカーなので、ほかのものより甘さは控えめだろう。
 アイスクリーム用のスプーンもあるが、冷たい金属が舌にあたる感触がいやので、グンマが捨てようとしたのをとっておかせた木のへらを探して、居間へ戻った。



 








 ――――そして、やはり、キンタローはそこにいた。
 ソファーに座って相変わらず読書に夢中だ。
 シンタローが戻ってきたことに気づいた様子もない。
 ……いいけどな、別に。
 シンタローは彼にはとうてい理解できない、またしたくもない植物学の研究書に没頭している従兄弟の横にどっかりと腰を下ろした。
 キンタローはちらっとも目を上げない。よっぽどおもしろいらしい。
 アイスクリームのふたを開けて、その中に混ざり込んでいるオレンジ色の粒を警戒しつつ、食べてみると結構美味しい。つぶつぶはオレンジピールを細かく刻んだものらしく、これくらいならシンタローの許容範囲だった。
 それにしても、と従兄弟を横目でちらっと見る。
 さっきから、自分のいるところいくところに着いてくる。
 かといって、話しかけるどころか目を合わそうともしない。まるっきり読書に夢中だ。
 嫌がらせをしているわけでもないだろうに。
 しばらく、考えたシンタローはあの島での生活を思い出した。
 パプワもシンタローが料理をしている時、手伝いもせずに踊っていたり、洗濯物を始めると庭で忙しそうなシンタローに気を遣うこともなくチャッピーとテコンドーの練習をしたりと―――ようするに、いつもシンタローの周りで遊んでいたのだ。
 そして、シンタロー自身も子供の頃、父親が家にいる時は一緒に遊んでもらう時以外でも、その姿が見えるところにいるようにしていた。
 ちなみに、現在はというと、父親がシンちゃんシンちゃんとまとわりついてくるので鬱陶しい。
 キンタローのこの行動は、ようするに小さい子供が無意識に親の近くにいようとするアレなのだ。たぶん。
 シンタローは気づかれないようくすっと笑った。
 クソ重たい本を小脇に、いつのまにかいなくなったシンタローを探して、きょろきょろ周りを見回しているキンタローの姿が目に浮かんで、おかしくなったのだ。
 従兄弟はシンタローの微笑に気づいた風もなく、その目は膝の上の紙の上を熱心にたどっている。
 さすがにネクタイはしめてはいないが、休日だというのにきっちりとした服装をしており、どこから見ても平均以上に立派な成人男子だ。とても、母親を捜してうろうろしている子供のような彼は想像がつかない。
 パプワも必要以上に大人びてこましゃくれた少年だったが、そんなことに気が付いた時、ああ、やっぱりまだ子供だなぁと思って、愛おしいような切ないような気分になったりしたものだった。
 ……今、彼の側にいる生物たちは彼を子供として扱ってくれているだろうか。
 いつも、はあの生意気な子供は好まないだろうから、たまに、でいい。
 甘えることをしない彼が、本当は子供なんだと知ってくれているならそれでいい。









 

 甘さ控えめといっても三分の一ほど食べるとさすがに飽きてきた。
 最初は心地よく感じた甘さも今は舌にまとわりついてくるようだ。
 かといって、食べ物を粗末にはできない主婦根性の染みついたシンタローだった。
 あー、もういいや、グンマ帰ってこないかなー、押しつけるのに。
 24時間甘いものオッケーの舌と胃袋の持ち主の早い帰宅を祈っていたシンタローは、ふとあることを思いついた。
「キンタロー。」
 呼びかけたが、まったく無反応だ。
 よほどおもしろい本らしい。
 好都合だと、シンタローは半分溶けかけたアイスを掬って従兄弟の口元に持っていく。
「はい、ア~~ン。」
 ぱく。
 アイスのしずくが本へ落ちるのを防ぐためか、またはまったくの条件反射か、キンタローはその木のスプーンに食いついた。
「よしよし。」
 シンタローはにんまりと笑って、そのスプーンをゆっくり引き抜く。
 キンタローはというと、口の中の異物をまったく意に介していないように本から目を離さない。
 それをいいことにシンタローは次から次へとキンタローの口元へとツバメの親のようにアイスを運び、彼もおとなしく口を開けた。
 みるみるうちに甘ったるいアイスのかさは減っていき、ついには空っぽになった。
「はい、これでしまいな。」
 うまくいった、とシンタローがひっこめようとした腕が、いきなりがしっと捕まれた。
 キンタローがゆっくりと顔を上げる。
 青い双眸がぴたりと自分を見据えていた。
 その目に何かやばいものを感じたシンタローにキンタローは言う。
「足りない。」
 捕まれている腕と反対側の肩に手を置かれ、シンタローはひきつった。
「いや、だって、もう無い…し…。」
「足りない、と言っている。」
 なら、違うのとってきてやる、という提案はキンタローの口によって塞がれてしまった。
 甘……、とシンタローが顔を顰めるにも構わず、そのオレンジ味のキスはかなり、長く、おまけに後をひくようなしろものだった。







 
 唇が離れると少しだけ顔を赤くしたシンタローはキンタローを睨みつける。
「ガキはおとなしく勉強してろよな。」
「もうした。だから、『おやつ』の時間だろう。」
 しれっと答えると、キンタローはその言葉通り本を閉じたのだった。











end
 
040607


改稿日050924


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