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作・斯波



僕には帰るところがある
それでも時には寂しくて
涙が出そうになるんだ



青空の向こうまで



上を見ると負けたくなくて、口惜しいのを我慢して笑わなきゃと思う。
自分の無力さに歯軋りして見上げた空は、その青ささえもが何だか無性に腹立たしかった。


俺はフェンスに凭れたまま、青い空にぽかりぽかりと浮かんだ雲を眺めている。
むしゃくしゃした気持ちは容易には治まりそうになかった。
―――親の七光りで総帥になったひよっ子。
俺の耳にはまだ、澱のようにこびりついた言葉が残っている。

それは些細なことだった。
敵国と停戦して交渉の席に着いたのはつい先刻のこと。
いつもなら停戦交渉には補佐官である従兄弟も同席するのだが、同時刻に賓客が来るとあって
その場には居なかった。まあ第三者の立ち合いもあるし、ほぼ話は決まっていたからその日の奴の不在は別に俺にとってはマイナスでも何でもなかった。
仲介に入ったのは友好国だが、まだ戦うと気炎を上げる敵国を宥めるのに苦労していた。
その友好国とて親父の代には一戦交えたこともある元敵国だ。ガンマ団の方針が変わったことを納得させるのに俺がどれだけ骨を折ったことか。
そんなことを思いながらも交渉はガンマ団に有利に進んだ。どれだけ意地を張ろうともう相手側に戦闘を続ける余力は無いのだから当然だ。
相手国の代表は仲介国への義理もあって一応は俺に対して慇懃無礼な態度を装っていた。
だが交渉が終わって皆が席を立った時、背を向けた俺の耳に届いた言葉があった。
―――親の七光りで総帥になったひよっ子のくせに。
聞こえよがしに吐き捨てられた言葉にきっと一瞬形相が変わったのだろう。振り向いた俺と視線が合ったその代表は可哀想なくらい怯えた顔色になった。
俺は拳を握りしめたまま、その男を睨みつけていた。血が、煮えたぎっていた。
総帥になって四年、必死でガンマ団総帥としての実績を積み重ねてきたのに、いつまで俺は世界最強の覇王だった親父の影扱いされるんだろう。
こんな相手にまで陰口を叩かれねばならないほど、俺は侮られているのか。
「シンタロー総帥・・・!」
震えた声で仲介国の外交官が名前を呼ばなければ、俺はそいつを撃っていたかもしれない。
その声の必死さが、眼魔砲を撃ちかけていた俺の理性を呼び覚ました。
(こんなところでキレてどうすんだ、シンタロー)
「―――では後の事は事務方レベルで詰めて頂きます。本日はご足労でした」
「・・し・・承知致しました・・」
それ以上は口を利かず、俺は背を向けた。

風は無いのに、雲はゆっくりと流れてゆく。
咥えたままの煙草の先からも、紫の煙が静かにたなびいている。
こんな思いを、もう何度繰り返してきただろう。
敵国には憎まれ、味方である筈のベテランの幹部達からも実力を怪しまれて陰口を利かれる。
そんなの何て事はない。俺はここで生きる、というよりは他の生き方なんて出来ないから、このガンマ団を良くするためなら大抵の事は辛抱できる。
それに、伊達衆を筆頭にした若い幹部達は俺を信じてついてきてくれているのだ。
そう決めてはいても、思いがけない時に投げつけられる言葉に少しは心も揺れる。
俺は祖父や親父が歩んできた道を変えたくてその跡を継ぎ、そして今の地位を勝ち取った。
だけどその間にいろんなものを失くしてきたんじゃないのか。
自分がやりたいことと、自分には出来ないこととが、思い通りにいかなくなっている。

―――僕は誰よりも強くなるんだ!

胸を張って言えたガキの頃にもう一度戻りたいと、俺は心から思った。


だから強く、もっと強く。
俺はもっと強くならなければ。
俺が命を預かっている馬鹿共のために、何ものにも揺るがない強さが、俺には要る。

数分の間にも雲は動く。
音もなく、風もないのにゆっくりと形を変えて流れる。
行き先も知らないのに、何も怖れず、何にも逆らわず、雲は流れてゆくのだ。

(もっと真っ直ぐに生きなきゃ)

誰にも後ろ指をさされない男になるため、強く真っ直ぐに俺は生きたいと思う。
口惜しさに涙をこらえてるのは、きっと俺一人じゃない。


「―――こんなところに居たのか」
静かな声が響いて、俺はフェンスから身体を離して振り返った。
眩しそうに眼を細めながら、同い年の従兄弟が歩いてくる。
「交渉は無事に終わったようだな。こっちの客も今帰ったところだ」
「そうか、御苦労さん」
「何をしている。サボりか?」
「いい天気だからさ」
「ああ、本当だな。俺もちょっと息抜きしていくか」
「おまえがそんな事言うとせっかくの天気が崩れそうだな」
俺の言葉にくすっと笑ってキンタローは俺の隣に凭れた。
高い空の上では鳶が輪を描いている。いつもと変わらない秋の空だった。
キンタローは煙草に火をつけた。
「シンタロー」
「ああ?」
「何か、あったのか」
俺も新しい煙草を咥える。
「・・・別に、何にもねェよ?」
「―――そうか」

そうだ、たいしたことねェ。
ただ強くなりたくて、強い男になりたくて走り続けたあの頃からは多くを失ったけれど、それが一体何ほどのことだというのだろう。

離れてゆくもの。
離したくはないもの。
人生なんて、思い通りにいくことばっかりじゃない。
だけどそれが悲しいからってもし自分を偽ったら、きっと余計寂しくて涙も涸れ果てるだろう。

―――それでも俺が一番大切に思うものは、こうしてちゃんと俺の隣に居る―――

「なあ、キンタロー」
「何だ」
「願わくば真っ正直に生きたいもんだなあ。自分の思ったとおりによう」
「何を言っているんだおまえは」
キンタローはにこりと笑って俺を見た。

「おまえは、真っ直ぐだ。おまえと分かたれて、初めてちゃんとおまえ自身を凝視めた時からそう思っていた。俺は確かにまだ長くは生きていないが、それでも確かに言えることがある。おまえみたいに真っ正直な男を、俺は他に知らない」

四年前には敵として対峙した俺の半身だが、やっぱり。
キンタローがいねえと俺は駄目なんだなあ。
こいつの澄んだ青い瞳を見ていると、俺はどんなときも俺でいられると思うのだ。
「シンタロー、俺はな」
黄金色の髪を振り払いながらキンタローは風のように微笑う。
「自分がどれだけ凄い男なのかも知らないで迷いながら生きているおまえが好きだ。だから」

―――いつまでも今のままのおまえでいてくれ。

小さな囁きは青空をゆく白い雲のように流れて、消えた。

(さっきまでは青空が鬱陶しく思えたのに)
青い瞳を凝視めていると、自分にはちゃんと帰る場所が在るような気がする。
キンタローが隣に居てくれれば、きっと俺は何処までも強く真っ直ぐ歩いていける。

「・・・そろそろ行くか、キンタロー」
「ああ」

空の上では、白い雲が俺たちに笑いかけていた。


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紳士も天然も好きですが、
1番格好良いのはやっぱり補佐官としてのキンちゃんだと思います。


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作・斯波



誰かの思惑に左右されることなんか一生ないと思っていた。
他人がどう思おうが俺は俺だと思っていた。
あいつを、好きになるまでは。



FAVORITE



「へえ、使ってくれてんだ」
背後で明るいグンマの声がする。
「シンちゃん、今までシャンプー変えたことなかったのに」
「・・・ああ、うん」
俺は書類をめくりながら言葉を濁した。
暇だと言って総帥室に遊びにやってきたグンマは、相手をしない俺には構わずに俺の髪を弄り始めた。さっきまでは三つ編みにして遊んでいたが、今は丁寧にブラシで梳いている。
昨日洗った髪から匂いを嗅ぎ取るところはさすがに開発課の責任者というべきだろうか。
いや、単に匂いに敏感なだけかもしれない。
とにかくグンマが言っているのはブルガリアの薔薇のエキス入りだという触れ込みでグンマ自身が俺にくれたシャンプーのことで、この間貰ってからは専らそれを使っている。
「良い匂いだもんね」
嬉しそうに言ってくれるが、俺がいきつけのサロンで調合させているシャンプーをやめてこの薔薇の香りのシャンプーを使っているのはそれが理由では無い。

―――いい匂いだな・・・しつこくなくて気に入った。
そう言って笑ったあいつの顔が、鮮やかに脳裏を過ぎった。

もともと俺は他人がどう思おうがあんまり気にしない性質だ。
好きなものは好き、嫌いなものは嫌い。
服や靴を選ぶ時にも、雑誌なんかは見ないし店員の意見も聞かない。
そんな俺にしては異例中の異例だと言ってもいいと思う。

(髪に顔を寄せたあいつが何だかとっても幸せそうに眼を閉じたから)

だからこのシャンプーに変えたんだなんて、口が裂けたってグンマには言えやしない。


「シンちゃん、髪伸びてきてるよお」
「そうか?」
「僕が言うのも何だけど、これだけ長いと鬱陶しくない?」
「そーだな・・・」
「僕のリボンで結んだげようか」
「すいません、それだけは謹んで遠慮致します」
「いっそ切っちゃう? その方が活動的でしょ、シンちゃんのお仕事には」
「うーん・・・」
確かに髪を伸ばす理由なんかないのだ。
士官学校に入るまでは普通に切っていたし、戦うにも書類を捌くにもこの長髪は邪魔なだけで。
「そうだよなあ、この際切っちゃうかなァ・・・」
そう呟いた時、不覚にもまたあいつの声を思い出した。

―――髪、切るなよ、シンタロー。

何で、と訊いた俺にあいつは笑って、俺を抱くときにこの髪が乱れるのが好きなんだと言った。
あけすけな答えに真っ赤になった俺を抱き寄せて、あいつは耳許で囁いたのだ。

おまえが上になって見下ろしている時に、その髪が俺の胸に流れ落ちてくるのが好きだ。
黒い髪が白いシーツの上で生き物のようにくねる様が好きだ。
顔に被さってくる髪を鬱陶しそうに払うおまえの仕草が好きだ。

素直じゃないおまえが俺に抱かれて乱れるとき、その激情を表すように揺れて俺を誘う。
それを見るのが、俺は好きなんだ―――。


「シンちゃん?」
怪訝そうな声に慌てて我に返る。グンマはいつの間にか俺のデスクの前に立っていた。
「悪い、何か言ったか?」
「そろそろ戻るね、って言ったの。部下からデータが上がってくる頃だから」
「ああ、御苦労さん」
「ねえ、シンちゃん」
書類に落としていた視線を上げてぎょっとする。
グンマの顔に浮かんでいるのは、小さい頃習った言い回しを思い出させるような笑みだった。
――― He is grinning like a Cheshire cat.
「今度はトワレをあげるよ」
「は? トワレ?」

「キンちゃんの、好きそうなヤツ!」


グンマ、と俺が怒鳴るのと扉が閉まるのとはほぼ同時だった。

廊下で一人笑っている従兄弟の顔が眼に見えるようで、俺は思わず舌打ちした。
「ちっ・・お見通しかよ。―――」

綺麗に梳かれた髪をすくいあげてみる。
(・・・だって仕方ねえよなあ、あいつが好きだって言うんだから)

そういえば最近キンタローがしているネクタイも、俺の好みに合わせたものだった。
(互いに影響しあって、好きなものがどんどん増えて)

そう―――そういうのもきっと、悪くない。





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「STAY WITH ME」で使っていたシャンプーです。
キンちゃんには何が何でもシンちゃんの長髪を死守して
いただきたいと思います。


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作・斯波



ほんとの気持ちは言葉じゃ言えない
だけど分かってほしいから
今日もあなたを求めてる



泣きたいきもち



「今、何してんの」
携帯を耳に当て、返事を待つ。
「そっか。学会、明後日だもんな」
論文が進んでないんだとあいつは言った。
今必死で資料を読み漁っているところらしい。
「大変だな。電話なんかしてる場合じゃないな」

―――じゃあ切るよ。おやすみ。

通話切ボタンを押した瞬間、涙が零れそうになった。


本当は逢いたかった。
寂しくて寂しくて、電話越しの声なんかじゃ我慢できなくて。
逢って抱きしめて欲しかった。
それが無理なら、せめて側にいて欲しかったんだ。

ベッドに寝転び、眼を閉じる。
鼻の奥が熱くなってくるのを必死で堪えた。

「逢いたいなんてこの俺様が、・・・言える訳、ねェだろ。―――」


いつでも全てがうまくいく日ばかりじゃない。
俺の方針に従ってくれる部下ばかりじゃないし、成功する任務ばかりじゃない。
聞かない振りをしていても陰口は聞こえてくるし、見ないように努力していても、冷たい目は俺を追ってくる。

そんな時に逢いたいのはやっぱり、あいつだけだった。


もう一度携帯を取り上げ、リダイヤルを押しかけて思いとどまる。
(邪魔しちゃいけないよな)
もしかしたら俺以上に忙しいかもしれないあいつを困らせたくはない。
あいつは俺を慰めるために存在してる訳じゃない。


それでも、時には我が儘が言いたくなる。
(全部放り出して俺だけを見てくれ)
電話なんかで気持ちが伝わる訳がない。
(俺のことだけを考えてくれ)
いっそ泣き喚くことが出来れば、このやるせなさを伝える事が出来るだろうか。

でも泣けない。
ここで泣いてしまったら、俺は際限なく弱くなってしまうから。


その時遠慮がちにドアがノックされた。
「・・・?」
立っていって扉を開ける。
外を見た途端、俺は目を丸くした。
ノートパソコンと分厚いファイルを持って立っていたのは、キンタローだった。


「な・・何? どうしたの?」
「入っていいか?」
「そりゃいいけど―――おまえ論文書いてるんじゃ」
「その事で来たんだ。おまえの部屋にある資料が必要になってな」
さっさと部屋に入り、本棚を探す。俺は呆気にとられてその後ろ姿を見守っていた。
すぐに目当ての資料を探し出して、キンタローは振り返った。
「ついでだから、ここで論文を書いてもいいか?」
「え・・・?」
「邪魔はしないつもりだが。―――」

キンタローの手の中にある資料を見て、思わず笑い出しそうになる。
(それ、おまえの部屋にもあるだろ)
ちょっとだけ眼を逸らして返事を待っているキンタローの耳は、うっすらと赤くなっていた。

「・・・仕方ねえなあ。別に俺は構わねェけど」
「そうか、悪いな。先寝てくれてていいから」
「まだ大分かかりそうか」
「多分、朝までには終わる」


ああ、―――朝までずっと、側に居てくれるってことか。


俺はくすっと笑ってもう一度ベッドに寝転がった。
泣きたい気持ちは、嘘のように消えていた。




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すっかり立ち直ったシンちゃんに、タイピングの音がうるさい! と
夜中に怒られなければ良いのですが。


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作・渡井
絵・斯波

ミニチュア・ゲーム


明け方、妙な夢を見た。

俺は小さくなっていた。子どもになっているのではなく、本当に小さくなっているのだ。
髪を伸ばし総帥服を着たままなのに、身長はせいぜい7、8センチ。手足が短く、人形というより(言いたかないが)親父がいつも抱えている俺のぬいぐるみのようだ。


「シンちゃん、チョコレートあげるね~」
いつもは見下ろしているグンマがデカい。
奴が渡してきたのは台形で上にアルファベットなんか書いてある、ごく普通のチョコレートだが、今の俺には巨大な塊だ。
(もっと小さくしてくれよ)
そう頼んだのに、グンマは聞いていない。名前を呼びかけて気づいた。
喋っているはずなのに声が出ない。聞いていないのではなく、グンマには聞こえていないのだ。

「こんなに食べられないよ」
不意に長い指が伸びてきて、チョコレートを取り上げた。
だいたいここはどこだ、と周りを見渡すと、グンマがいつもお茶会に使っているテーブルだった。そう言えばカップやソーサー、銀色のポットが置いてある。
指はそのまま俺を摘み上げた。
(何すんだっ)
思わず大声で叫んだけれど、やっぱり音にはならない。だが目の前に現れた顔にほっとした。
(サービス叔父さん!)
「これなら大丈夫かい?」
大きくても美貌に変わりはない。いつ見ても叔父さんは綺麗だ。
細かく砕かれたクッキーの欠片を貰って、俺はサービス叔父さんの手の上に座り込んだ。

「シンちゃん、かっわいい~」
「どれ、俺にも見せろや」
(げ、ナマハゲも居んのかよ)
視界に割り込んできたのはもう1人の叔父で、俺に手のひらを差し出してきた。
「シンタローを潰さないでくれよ、ハーレム」
「そりゃ分かんねーなァ。ほれ坊主、こっち来い」
俺はちょっと考えてから、ハーレムの手のひらに飛び乗った。
いつまでもサービス叔父さんの手に乗っかっているのは悪い気がしたし、それに口調こそ乱暴だが、ハーレムは優しい男だと知っている。
ぐりぐりと俺の頭を撫でた人差し指は、予想通り温かかった。


(シンタロー!)
しばらくハーレムの手の上にいたら、下の方からいきなり呼ばれた。そこにいたのも小人だった。
(キンタロー…お前もかよ…)
(お前もか、じゃない。そんなところで何をしているんだ、早く降りて来い!)
「キンちゃんもお腹空いちゃったの?」
何か、笑える。こいつってば小さくなってもスーツにネクタイ締めて革靴なんだな。

(そこは危ない、俺のところに来いと言っているだろう)
苛々と右足を踏み鳴らしているが、8センチの3頭身では紳士の威厳も何もあったもんじゃない。
それに、俺は知ってるんだ。
俺がサービス叔父さんに懐いたり、ハーレムと喧嘩してっと、お前すぐに妬くんだよな。

(何でだよ、お前もこっち来てみろって。楽しいぜ)
両手をついて見下ろし、にやりと笑ってやったら、キンタローはものすごく不機嫌な顔をして俺に背中を向け、とうとう座り込んでしまった。
ちょっとやり過ぎたか?
ハーレムを見返ると、すぐにテーブルに降ろしてくれた。俺はキンタローに駆け寄って、隣に座る。
(なあ、怒った?)
顔をのぞきこもうとすると、キンタローはぷいと横を向き、また俺に背を見せる。
ほんっと、可愛い奴。
(キンタロー、こっち向けよ)
裾を掴んで甘く呼んでやる。あ、こいつとは会話できてる。いま気づいた。
しょうがねえ、特別サービスだ。

(俺が好きなのはお前だけだぜ?)

夢の中でさえ言えちまうくらい―――俺、こいつに惚れてんだな。
じんわりと胸が暖かくなる。
家族は大切だし、コタローのことは溺愛してる。伊達衆を信じてる。秘書たちに頼ってる。パプワとチャッピーを今も忘れない。
だけど。

(お前が一番いい男だ)

俺にとっては、な。


ゆっくりとキンタローが振り向いた。まだ唇のあたりが拗ねてやがんな。
いつの間にか大きな人間たちは居なくなっていた。あー、夢って好都合。グンマはともかく、尊敬するサービス叔父さんや俺をからかうのが大好きなハーレムの前で、こいつといちゃついたり出来ねーもんな。
お前の機嫌を直す方法くらい知ってんだよ、キンタロー。
そっと目を閉じて、唇を寄せて、誘うように顔を傾けたら―――。

「シンちゃん!!」
(ぎゃーっ!!)
いきなり大きな手で体を掴まれた。
(止めろ、降ろせ、離せーっ!)
「シンちゃん、どこに行ったのかと思ったよ。さあパパのところに戻っておいで」
(ちょっ…シンタロー!)
何でここで親父が出てくんだよ!

親父の手に飛びついて、キンタローががじがじと噛みついている。だけど小人の攻撃はガリバーには大して効果もなく、呆気なく摘み上げられた。
(伯父上、離して下さい)
(何で敬語なんだよ! 男なら戦わんかい!)
「あっはっは、駄目だよキンちゃんオイタしちゃ~」
(テメー俺を親父からかっさらう覚悟で手ェ出してきたんだろうが!)
「シンちゃんは元気だねえ。暴れたら危ないよ」
親父は明るく笑いながら、ぎゅうぎゅうと俺を握ってくる。
「こうやってパパの手の中にいると、可愛いシンちゃんがもっと可愛くなって」
(やめ…っ、苦しっ…)
「ああ、もう、天使みたいだよ!」
ヤバい。鳥肌が立った。
―――天使は止めてくれ、天使は。
押し潰されそうな苦しみに耐えかねて。

拳で叩いたのは、俺を抱きこんで眠るキンタローの厚い胸だった。


「俺は抱き枕じゃねーんだぞ」
朝から思いきり疲れた。キンタローは申し訳なさそうに俺の髪を指で梳いているが、反省していないに決まってる。
一緒に寝るとき、こいつはいつも俺を抱きしめてくる。包み込まれる愛情は悪い気はしないが、だからって苦しくない訳じゃない。
「おかげで変な夢見ちまったじゃねーか」
「夢?」
「…なあ」
俺は上半身を起こし、真剣に問いかけた。
「コタローって可愛いよな」
「? そうだな」
「すげー可愛いよな、もしコタローがぬいぐるみみてーに小さくなったら本当可愛くて仕方ないよな」
「お前、コタローのぬいぐるみを作る気か。遺伝とは恐ろしいものだな」
「作るかバカ。そうじゃなくて、本物のコタローが小さくなったら…今でも可愛いけど、本当、天使みたいだと思うんだ」
「…まあ、可愛いだろうな」
「もし、もしもだぞ、もしも俺が小さくなったら」
わざわざ手で、これくらいの、と具体的に示してやる。

「―――お前、俺でも天使みてーだと思うか?」
キンタローは大きく目を見開いてから、すがすがしい朝に似つかわしい、何とも爽やかな笑みを浮かべた。


「何を言ってるんだ、お前は今だって俺の天使だぞ」
「テメー親父より寒いわボケェェェ!!」


あ、加減し損ねた。
枕で思い切りキンタローを殴り倒して、俺は速やかにベッドを抜け出た。

あーもう、ほんと、朝から夢見が悪いっつうの。




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キンシンSSを考えていた途中で寝たら、手乗りキンシンの
夢を見ました。ねむねむ大王がネタを授けてくれたのでしょう。
斯波が絵を描いてくれたので強奪してきました。


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作・斯波


我を頼めて来ぬ男
角三つ生ひたる鬼になれ
さて人に疎まれよ
霜雪霰降る水田の鳥となれ
さて足冷たかれ



月 光 抄



震えるような肌寒さに俺ははっと眼を覚ました。
どうやら知らぬ間につい、うたた寝をしてしまっていたらしい。
窓際に置いたテーブルの上に並べた料理はもう冷めてしまっていた。
時計を見ると、もう十時を過ぎている。
―――キンタローの奴。
俺は舌打ちをして座り直し、クリスタルのグラスに日本酒を注いだ。
小さな海のように揺れる酒の水面には、黄金色の月が砕けて煌めいている。


今夜は月見でもしようと自分から誘ってきたくせにあいつは来ない。
どうせ開発課の部下にでも捕まっているんだろう。
頼られれば何事も蔑ろに出来ないのがあいつのいいところで、俺にもそれは十分解っている。
俺の方が忙しくてあいつとの約束をキャンセルしたことだって何度もある。

―――だが理性と感情は、また別物だ。

夢の中で聴こえていた唄は、確か昼間アラシヤマが口ずさんでいたものだった。
訊けば昨夜マーカーと約束していたのに、急に袖にされたのだという。
どうやらあのナマハゲに無理矢理つき合わされたものらしいが、日付が変わる頃まで起きて待っていたのに連絡も無かったというので、普段師匠命のあいつもさすがにかなりむくれていた。
その時には笑い飛ばしてやったが、今になってその気持ちが痛いほど解る。

「ふん・・・雨に降られて冷えちまえばいいのさ」
「あいにく今夜はいい月夜だが?」

俺はぎょっと顔を上げた。
ソファに寝そべっていた俺の真上で、待ち焦がれた男の小憎らしい顔が笑っていた。


「おまえさあ、今何時だと思ってんの」
「だから謝っているだろう」
温め直した料理を口に運びながらキンタローが俺に酒を注ぐ。
輝くようなバカラのグラスはこの間デパートで見つけて衝動買いしたものだが、大きすぎず小さすぎず、持った感触も良くて気に入っている。
「帰り際に急ぎの仕事が入ったんだ。どうしても今日中に終わらせておきたくて」
「・・・何で」
「明日呼出を食らうのは御免だからに決まっているだろう」
笑みを含んだ眼差しに凝視められて顔が赤くなるのが自分でも解った。
―――おまえ明日、完全オフだったな?
―――そうだけど。
―――俺も休みを取ったから。
書類を揃えながら耳許で囁かれ、全身をかっと熱い血が駆け巡った数時間前の記憶が甦る。
キンタローがグラスを置いた。

(そういえば最近忙しくてゆっくり逢えてなかったな)

小さな音を立ててソファが軋む。
口移しに流し込まれる大吟醸が、ゆっくりと俺を温めてゆく。
「シンタロー」
「・・んっ」
「さっき呟いていたのは・・俺への恨み言か?」
俺はキンタローの首に手を回して引き寄せた。
長い独り寝に冷えていた手足は、キンタローの温もりで熱を取り戻していた。
「―――違ェよ」

(懲らしめよ 宵のほど)

その気にさせておきながら来ない男。
温かい肌を恋しく思わせておきながら素知らぬ振りの憎い男。
そんなつれない男を、俺は待ったりしない。

(昨夜も昨夜も夜離れしき)

なのに呼吸が乱れるのは、きっと心の中まで照らすような月の光のせいだったと思う。
酒よりも俺は、絶え間なく降り注ぐ甘い口づけに酩酊していた。
「待たせて済まなかった」
「自惚れ・・んなっ・・この俺がテメーなんざ・・待ってる訳ねえだろ・・」
うっすらと開いた瞳に映ったのは、晴れた夜空と黄金色の月光。
そして視線を逸らすことさえ許さぬような青い瞳。

「俺はただ・・月見がしたかっただけなんだよっ・・」

(ただ置いて霜に打たせよ)
ふ、とキンタローが微笑う。

(てめェみたいに不実な男は鬼になればいいんだ)

―――その咎、夜更けてきたが憎いほどに。


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キンちゃんは故意にしろ天然にしろ、
シンタローさんに甘えるのが上手そうな気がします。

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