ホシウミ湖の近くで、コタロー様をどうやったらガンマ団に連れ戻せるか、アラシヤマと仕方なく一緒に行動をしていた時のことだべ。アラシヤマは、
「お星様――ッツ!届けわてのバーニング野望vv」
と叫んでいたので、オラは、
「アラシヤマぁ、大体は想像つくけど、お前の野望ってなんだっぺ?ほら、空見てみっぺ。お星様は願いを聞き終わんねーよーに流れまくっとるべ。それって、絶対叶わないんでねぇべか?」
とアラシヤマに言った。するとアラシヤマは、
「何を言ってはるんどすか。これやから、顔だけのお人は・・・。わての野望が叶わないわけおまへんやろ。まぁ、昇進は別にお星様に願わんかて、わての実力でどうとでもなりそうどすけど、問題は、シンタローはんどすな。ガンマ団にいた時かて、毎日欠かさずバーニングラブvって言ってましたのに、全然手ごたえがおまへん。一体いつになったら心友になれるんやろか」
と言ったので、オラは呆れた。
(こいつ、根暗やけど頭だけはいいと思ってたのに、考え直した方がいいべか?)
どうして、オラがアラシヤマなんかにこんな親切に教えてやらなきゃなんねぇんだべと思ったが、まぁ、オラはトットリほどアラシヤマが嫌いでもないので教えてやることにした。
オラは可愛い女の子以外の野郎はアウトオブ眼中だから、好き嫌い以前にアラシヤマの事なんかどうでもいいけど、一応こいつも数少ない同期の“仲間”のうちに入るし、しょうがないべ。
「おめ、シンタローにそがいなこと言っとるんだべか?そりゃ、野望も叶わないはずだっぺ。そもそも、おめさ、友情というところでまちがっとるべ。オラぁ、トットリのことはベストフレンドやと思ってるけど、トットリにラブなんて言ったことないっぺ。“ラブ”は、親友やなく恋愛の意味で好きな人に言うもんだべ」
アラシヤマは、しばらく悩んでいたが、
「でも、わてはホモやおまへんえ?男をみても、全然可愛いとか思いまへんしな!あっ、シンタローはんは別やけど!!」
「・・・その、別という所がヤバイんでねぇべか?ガンマ団の外には可愛い女の子がたくさんいるっぺ。おめ、一生友達できなさそうだから、親友よりも恋人を探した方がいいと思うべ。オラほどでなぐても、おめさはそんなに顔が悪いわけでねぇから、そのうち好きになってくれる女の子もいるはずだっぺ?」
と、オラは親切にもアドバイスしてやったが、アラシヤマは煮え切らない態度だった。
「わては、髪が長くて、料理が上手で、笑顔が可愛くて、少々俺様体質でも根っこの所で優しい子がええんどす・・・」
(こいつ、明らかに特定の人物を思い浮かべて言っとるべ。なんだか、惚気られてるようで嫌になってきたべ)
「アラシヤマ、オメさ、結局ホモだべ。そういや、木にもシンタローとの相合傘彫ってたっぺ。オラには全く分からねぇが、シンタローを好きなら好きで仕方ねぇんでねえべか?」
と正直に思ったことを言ってやると、アラシヤマは何やら
「うーん・・・。まぁ、恋人と親友が一緒でもええですやろ。むしろ、一生一緒にいるということを考えた場合、一石二鳥どすしな・・・」
とかブツブツ言っており、その後、
「じゃぁ、今から野望は少し変更どすな!お星様――!!やっぱり、シンタローはんをわての恋人にということも願い事に追加しといておくんなはれ~!」
と、叫んでいた。
「――――アラシヤマ。もう朝だから、お星様はいなくなってるべ。結局、野望は叶わないんじゃ・・・」
とオラが言うと、アラシヤマは
「あんさん、ほんまに顔だけで頭が軽いでんな!お星様は見えなくても、ちゃんと空の向こうにいるんどすえ?だから、わての野望は叶うんどす――!!」
そう言った。
オラを馬鹿にするアラシヤマの性格の悪さにかなりムカついたが、まぁ、こいつの野望が万が一叶ったりしたら、オラもお星様に何か願ってみてもいいかと思った。
何故か、ミヤギさん視点です。でもアラシン!(と言ってもいいのかなぁ・・・)
ミヤギさんの言葉がよく分からなくて、偽者ですみません・・・。
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ある日の午後、総帥室でアラシヤマが、
「シンタローはーん!わてと京都に旅行に行きまへんか??今は秋やから、お寺さんとかの紅葉が綺麗どすえ??食べ物も美味しいものがたくさんありますしナ!!」
と、京都のガイドブックを見せ、熱心にシンタローを旅行に誘っていた。
シンタローは、
「うーん・・・」
と、どうしようか迷っているようであったので、アラシヤマはもう一押しと、
「シンタローはん、わてら、心友ですやろ??一緒に旅行ぐらい」
アラシヤマが、そう言いかけると、
「もちろん、駄目ーッツ!!」
と、突然、マジックが片腕に等身大シンちゃん人形を抱えたまま、バンッと総帥室のドアを開けて入ってきた。
ツカツカと総帥机の前までマジックは歩いてくると、アラシヤマを無視して、
「シンちゃん!下心のある野郎と2人きりで旅行になんか行っちゃ危険だヨ!それでなくてもシンちゃんはすごく可愛いんだから変な虫からは自分で身を守らないと!!」
マジックは、そう力説したが、一方でシンタローは、
(親父、俺の性別とか年齢とか、他にも何か色々と根本的に間違ってねぇか・・・?)
と、遠い眼をして、マジックの言葉を聞き流していた。
すっかり2人に存在を無視されていたアラシヤマが、おどろおどろしい空気を背後に背負い、
「―――前総帥、もしかして、変な虫ってわてのことどすか?いくら前総帥で、シンタローはんのお父はんといえども聞き捨てなりまへんなぁ。ま、とにかくシンタローはんはわてと旅行に行きますさかいに!そうどすな?シンタローはん!?」
「アラシヤマなんかと旅行にいかないよね?シンちゃん!?アラシヤマと何処かに行くぐらいなら、パパと温泉に行こうよ。もちろん、源泉のお湯を使った温泉だよ♪」
「あっ、ドサクサに紛れて美味しい案を出しはりましたな!?シンタローはーん!わてもシンタローはんと2人っきりで温泉に行きとうおます!!温泉に入るときは髪型は下の位置のお団子で!!」
「お団子か・・・。やっぱり、パパはお団子よりもバレッタで髪の毛をとめて欲しいな♪バレッタはイルカさんとかクマさんとかの形のヤツでvvv」
「うーん、バレッタも可愛いおすけど、やっぱりお団子でっしゃろ?位置が下というのがポイントどすえ?大人の色気どす――!!」
2人はそれぞれ何かを妄想し、鼻血を垂らしていたが、
シンタローは、机に手をつき、突然椅子から立ち上がると、
「テメェら、さっきから黙って聞いてりゃ好き勝手言いやがって・・・。出て行きやがれ――!!眼魔砲ッツ!!」
と、2人に向かって眼魔砲を撃った。
眼魔砲の衝撃で外開きのドアが開き、
「シンタローはーん!!わてとの京都旅行考えといておくれやす~!」
「シンちゃ――ん!!パパと一緒に温泉に行こうよ~」
という言葉を残して、アラシヤマとマジックの2人の姿は完全に見えなくなった。
シンタローはドアを思いっきり閉めると、再び何事も無かったかのように書類を読み始めた。
「アイタタタ・・・。シンタローはんは、やっぱり容赦ないどすなぁ」
眼魔砲で廊下まで吹き飛ばされたアラシヤマが頭をさすりながら身を起こすと、
「だらしないぞ。アラシヤマ」
彼の前にはマジックが立っていた。先ほどまでのふざけた雰囲気は微塵も感じられず、冷たい目つきでアラシヤマを見下ろしていた。廊下には人気はなく、辺りは静まり返っていた。
アラシヤマは、団服の裾を払って立ち上がるとマジックに相対し、
「前総帥、いくら自分の子どもでも私生活にまで口出しするのは、親馬鹿すぎとちゃいますか?シンタローはんはもう大人どすえ?」
と言った。
マジックは、1つ溜息をつくと、
「―――アラシヤマ、シンタローに付き纏うのは、もう止めろ」
と言い、それを聞いたアラシヤマは、
「それは、命令どすか?マァ、ガンマ団の総帥に男の恋人がおるやなんて知れたら外聞も悪うおますし、世継の問題もありますしな」
と、口元を歪め、皮肉っぽく言った。
それに対しマジックは、
「命令ではなく、忠告だ。ガンマ団は、いずれはコタローに継がせる。・・・半分はシンタローのため、半分はお前のためなんだよ、アラシヤマ。お前こそ、シンタロー1人に固執して生きるよりも、もっと他の生き方も選べるはずだ」
と、静かに答えた。
マジックの声は硬質でほとんど感情が感じられなかったが、ほんの一瞬だけ、わずかに情らしきものがのぞいた。
アラシヤマは黙ってマジックの言葉を聴いていたが、不意に彼の周りを取り巻いていた刺々しい雰囲気がスッと消え、アラシヤマは困ったようにバリバリと頭を掻いた。
「あ~、前総帥。わてはもう既にシンタローはんに所属しているんどす。シンタローはんはわてのものやないけど、わてはシンタローはんのものやと、わて自身が勝手に決めました。わては、シンタローはん以外、何もいりまへん」
「―――もし、お前が死んだり、居なくなったら、シンタローはどうなる?」
マジックが無表情にそう訊くと、アラシヤマは真摯な顔をし、
「わては、一応ガンマ団ナンバー2で他の奴らより死なへん自信がありますし、絶対にシンタローはんのもとにかえってきます。それに、万が一わてが死んでもシンタローはんには、それを乗り越えてほしいと思います。シンタローはんやったらそうできるとわては思いますえ?」
と答えた。
マジックは顎に手を当て、無言で考え込んでいたが、アラシヤマを見ると、
「一応、シンタローの周りに居ることは許すが、今日、私がそう決めたことを後悔させるような真似だけは、絶対にするなッツ!!」
そう一喝し、その場から去っていった。
アラシヤマはその場に立っていたが、マジックの姿が完全に見えなくなると、廊下にしゃがんで溜息をつき、
「―――やっぱり、マジック前総帥は威圧感が違いますな。あまり敵にまわしとうないお人どす。なんや今日は、えらい疲れましたわ・・・」
と呟いた。アラシヤマは、数秒しゃがんでいたが、不意に立ち上がると、
「さて、シンタローはんの顔を見てから帰るとしますか。もうそろそろ、行っても怒られへん頃合でっしゃろ」
と言うと、総帥室の前まで歩いて行き、ドアをノックした。
謝るべきことは非常にたくさんあるかと思うのですが、とりあえず、京都行きたいっす~!!
えーっと、マジシン風味ですが、このマジックさんはどちらかというとシンちゃんに対して
恋愛的な感情を抱いているというよりは、父親としての部分が大きいと思います・・・。
アラとシンちゃんのお付き合い(?)は100歩譲って認めてはいるのですが、
もし、万が一アラがシンちゃんを裏切ったら、アラを始末しようと思っています。
「私の息子はおまえだけだ・・・。おまえさえいればいいんだ!」
マジックはそうシンタローに告げ、動揺したシンタローが自己卑下した言葉を勢いで言ってしまった時に、マジックは初めてシンタローを殴った。
普段、自分に甘い父親の姿ばかりを見ていたシンタローにとって、そのことはかなりのショックであった。
「もう、父さんなんか知るか!家出してやるッツ!!」
そう言って、シンタローは総帥室を飛び出した。シンタローは心のどこかでマジックが追ってくるかと少し期待していたが、誰も追っては来なかった。
シンタローは、泣きそうな顔を誰にも見られたくなかったので、1人になれる場所に行こうと思った。なるべく人に会わずに行ける人気のない場所を考えた末、結局仕官学校内図書館の裏手の階段に行くことにした。
門は閉まっていたが、シンタローは門を乗り越えて学校内に入った。
放課後であったせいか校内には生徒が居らず、シンタローは誰にも会わずに目的地まで辿り着くことができた。シンタローは膝を抱えて階段に座った。
家に帰らない決意を固めたものの、シンタローにはこれと言って行く当てはなかった。叔父のサービスがいれば、もちろんサービスの所に行くのだが、あいにく彼は現在ガンマ団には居なかった。
学校の友人の所ということも一応考えてはみたが、シンタローはその案をすぐに諦めた。学校でシンタローは多くの友人達に囲まれていたが、彼らとはその場での付き合いであり、彼には実は心を許せる相手というものはいなかった。
父親の威光が士官学校の中でも強く、いつも良かれ悪かれ「総帥の息子」という目で見られていることは、シンタロー自身もよく分かっていた。
シンタローが友人達に一言「泊めてほしい」と言えば、喜んで泊めてくれるのかもしれないが、マジックに睨まれるのが怖くて関わろうとしない可能性もあった。
シンタローは、自分の心に入れた相手から裏切られることがとても怖かった。
さっきのマジックとの事やコタローの事に加えて、現在自分が孤独で無力であると実感したシンタローの目には涙が滲み、シンタローはそれをごまかすように抱えた膝に目頭を押し付けた。
夕方になり、辺りはだんだんと薄暗くなってきた。
アラシヤマは学生食堂から寮への帰り道、近道をしていた。その近道というのは食堂から寮までの最短距離であるが、梢の間を通り抜けるという無茶なものであったのでほとんど誰も使用していなかった。
「よっと。ここで木立は終わりどすな。ここから寮までは後ちょっとやさかい、楽なもんやわ」
そう言って、図書館の裏手に出たアラシヤマは木から飛び降りた。
いつのまにか、辺りはすっかり暗くなっていた。
(ん?何やろ?人ですやろか??全然動かへんけど・・・。まぁ、殺気は感じへんから外部からの侵入者というわけでもおまへんやろ)
そう思ったアラシヤマが、確かめようと階段の方に向かうと、座っていた人影がバッと顔を上げた。
「あっ、シンタローやないか。こんな所で何してますのや。アレ?もしかして泣いとったん?ええ年してみっともな~」
アラシヤマは、シンタローからあからさまに無視するか怒って突っかかってくるかどちらかの反応が返ってくると思ったが、予想外にもそのどちらでも無かった。
シンタローは、力なく再び膝の上に顔を伏せた。
いつもと違う様子のシンタローの姿に焦ったアラシヤマは、
「あ、あんさん、どないしましたん?具合でも悪いんどすか?」
と声を掛けたがシンタローは顔を上げようともせず返事もしない。焦れたアラシヤマは、さらにシンタローに近づき無理やり顔を上げさせようとした。
アラシヤマがシンタローの顔を無理やり上げさせると、少し離れていたときには分からなかったが、近くで見るとシンタローの頬は涙で濡れていた。
アラシヤマはシンタローの涙を見て思わず固まってしまったが、シンタローは怒ったような顔をし、
「触んじゃねェヨ!!とっとと、失せろ!」
と、アラシヤマの手を振り払った。
その対応にムッとしたアラシヤマは、
「へェー。あんさんは他人の親切にそんな対応をするんどすか。もう、俺は知りまへんえ?」
そう言って、その場を後にした。アラシヤマは寮の方に向かってしばらく歩いてはみたが、さっきのシンタローのことが頭から離れず、気になって仕方がない。
「あ゛―――!!もう!なんでわてが、こんなにシンタローなんかのことを気にせなあきまへんのや!!まぁ、このままほっといても寝覚めが悪うおますし、しょうがない。戻りまひょか」
そう言うと、アラシヤマは走ってシンタローがいる場所へと戻った。
シンタローが居なくなっている可能性もあり、少し心配であったがシンタローはそのままさっきの場所から動いていなかった。
「シンタロー、こんな場所にずっと居ってもしょうがないやろ。家に帰ったほうがええんとちゃうか?ホラ、これで顔拭きや」
と言って、たまたま持っていたタオルをシンタローに差し出した。
アラシヤマの声を聞いたシンタローは、まさかアラシヤマが戻ってくるとは思わなかったらしく、あっけにとられたような顔をしてアラシヤマを見、思わずタオルを受け取った。
タオルを受け取ったものの、シンタローは再び俯いてしまった。
「あんさんがこのまま帰らへんかったら、親馬鹿の理事長がえらい心配しますやろ。さっさと帰りますえ?」
アラシヤマがそう言うと、理事長という言葉を聞いたシンタローは勢いよく顔を上げ、
「あんなヤツ、心配なんかしてるわけねぇヨ!!」
と吐き捨てるように言った。
「・・・何があったんか知りまへんが、朝までここに居るわけにもいかんやろ」
「家に帰るぐらいだったら、ここに居る!」
「・・・しょうがないどすなぁ。なら、俺の部屋に来まへんか?」
それを聞いたシンタローは、戸惑ったような顔をした。どうにも決めかねているようなので、アラシヤマは無理やりシンタローの腕を掴んで立ち上がらせた。
「ホラ、とっとと行きますえ?」
そう言ってシンタローの手を引き、アラシヤマは寮に向かった。シンタローは手を引かれるまま素直についてきた。
(いつもこんなにしおらしかったら、可愛げがありますのになぁ・・・。って、えッ!?わて、今シンタローのことちょっと“可愛い”とか思わへんかったやろか・・・。わてはホモやおまへんし、シンタローのことを可愛いと思うやなんて、絶対何かの間違いどす~!!)
アラシヤマが(顔には出さなかったが)心の中で色々考えている間に、2人は部屋の前に着いた(ちなみに、普通は2人で1部屋だが、アラシヤマは1年間謹慎処分であったことと特異体質のせいで1人部屋である)。
アラシヤマがドアを開けて部屋の中に入ると、シンタローは戸口の所に立ったまま入ろうとしない。
「遠慮せんでもええんどすえ?」
そう声を掛けると、シンタローはオズオズと部屋の中に入ってきた。所在無さげにしているシンタローをアラシヤマはベッドに座らせ、自分は机の椅子に腰掛けた。
「あんさん、何も食べてへんのやろ?もう食堂も炊事場も閉まってますし、カップ麺ぐらいしかないどすが、食べはる?」
シンタローは黙っていたので、アラシヤマは勝手にカップ麺を作りシンタローに押し付けた。
シンタローが食べ終わると、アラシヤマは片付けながらシンタローの風呂をどうするか考えた。
(うーん、共同風呂は却下どすな。シンタローは明らかに泣いてたと分かるような顔してますし。そもそも、総帥の息子がこんなとこに居るやなんてバレたら大事ですしな。まぁ、シャワーだけでもええですやろ)
そう結論付けると、アラシヤマはシンタローに部屋のシャワーを使うように勧めた。 シンタローに着替えを渡し、アラシヤマが入れ違いに入ってシャワーを浴びて出てくると、シンタローは疲れのせいかベッドの壁際にもたれて眠そうであった。
「眠いんどすか?眠いんやったら、ちゃんと布団の中に入って寝なはれ」
そうアラシヤマが言うと、シンタローはモソモソと布団に入ったが、ふと気づいたように
「オマエは?」
と聞くと、
「わてのことはええんどす。なんや知らんけど、あんさん疲れてるんやろ?はよ寝や」
シンタローは、眠いながらもしばらく考えていたようであったが、
「じゃ、一緒に寝よーぜ」
と突然、いい案を思いついたように言った。
アラシヤマは、非常に動揺した。
(な、何言い出しますのん!?わて、今まで誰かと一緒に寝たことなんかおまへんで!!普通、この年にもなって男同士で一緒に寝るとかありえまへんやろ??)
色々と心の中で葛藤があったようであるが、悩んだ末アラシヤマは結局シンタローの横に入った。シンタローはアラシヤマが悩んでいる間にすでに眠ってしまったようである。
(普段生意気やけど、こうやって見てみると、シンタローの顔は幼いどすなぁ・・・。あれッ、また、わて、シンタローのことちょっと可愛いと思わんかったやろか!?気のせいどす、気のせい・・・)
アラシヤマが、念仏のように「気のせい」と唱えていると、不意にシンタローが寝返りを打ち、「んー」と言いながら猫のようにアラシヤマの肩口の方に擦り寄ってきた。
(か、可愛いおす!!って、シンタローは男でっせ――!?しっかり!負けるな、わて~!!)
アラシヤマは結局、その夜一晩中眠れなかった。
朝になりシンタローが起きると、すでに起きていたアラシヤマは非常に疲れた顔をしていた。
シンタローは少し不思議に思いつつ、着替えながらアラシヤマに礼を言った。
「ありがとナ。オマエ、案外面倒見がいいんだな。俺、弟が生まれるまで1人っ子みたいなもんだったから、なんか兄貴ができたみたいっつーか、」
「出て行っておくんなはれ」
「えッ?」
「俺は、シンタローと一緒にいるとすごく疲れましたえ?もう、あんさんの面倒をみるのは懲り懲りどす」
その言葉を聞いたシンタローは、一瞬泣きそうに顔を歪め、しかし、すぐにいつものシンタローに戻った。
「あぁ、そーかよ。俺もオマエのことなんか大っ嫌いだ!世話かけたな!!」
そう言うと、シンタローは振り返らずにアラシヤマの部屋の扉を思いっきり閉めて出て行った。
残されたアラシヤマは、
「これで良かったんどす。だって、わてはホモやないですもん・・・。シンタローはライバルなんどす」
と言いながら、その日の授業の用意をし始めた。
もう、そろそろ夜も明けようかという時刻、薄暗がりの中でアラシヤマは隣で眠っているシンタローの髪を撫でていた。シンタローも気持ちよかったのかその行為を止めさせようとはせずに、そのまま眠っていた。
アラシヤマは、
「 シンタローはん。あんさん、どうして髪伸ばしてますのや?切りまへんの?」
と、寝ているシンタローに戯れに話しかけた。
シンタローは、
「ん――」
と、生返事をしながら、アラシヤマに話しかけられたのが煩わしかったのか、タオルケットを全部自分の方へ引き寄せ、そのままタオルケットにくるまってアラシヤマに背を向け、丸まってしまった。その様子は非常に子どもっぽく、可愛かった。
アラシヤマが面白がって、
「シンタローはーん!どうして髪切らへんのどすかぁ?」
と、しつこく聞くと、シンタローは、
「・・・さっきから、うるせェ。パプワが切るなって言ったからナ」
と眠そうに言うと、頭からタオルケットを被って、もう何も質問を受け付けない状態に入ってしまった。
その答えを聞いたアラシヤマは、自分がしつこく訊いたせいであるにもかかわらず、結構なショックを受けた。
(シ、シンタローはん?それって、「彼氏が、“髪の長い子が好みだから、切るな”って言うから伸ばしてるのvv」とか何とかいう女の子みたいどすえ??・・・シンタローはんの中では、わてより、あの秘石眼の子供の方が男として地位が上ということですやろか??そ、そんなアホな!!そやかて、前にわてがシンタローはんの髪を切ろうとしたとき、えらい怒らはったしなぁ・・・。それに、わての頼みを一度も素直にきいてくれたことはありまへんしな。まァ、意地っ張りなとこも可愛ゆうおますけどvv今日の夜も最初は素直やありまへんどしたけど、最後の方になると、悔しそうにしつつもわてに縋り付いてきましたしな!(何かを妄想中)・・・やっぱり、可愛ゆうてたまりまへんわ~vvv―――って、うっかり本題から逸れるとこどしたわ。うーん、まぁ、このまま悩んどってもしょうがないどすし、シンタローはんが起きたら聞いてみまひょか)
アラシヤマはそう結論づけると、
「シンタローはーん。毛布の1人占めはズルイどすえ~。わても入れておくれやす~~」
と言いながら、タオルケットに1人くるまり向こうを向いて寝ているシンタローにくっついて、眠りについた。
朝、シンタローが目覚めると、すでに起きていたアラシヤマが何やら深刻そうな顔をしていた。
アラシヤマが、
「シンタローはん、朝方のわてとの会話覚えてはります?」
と聞いてきたが、シンタローにはアラシヤマが眠いときに何やら話しかけてきて非常にウザかった記憶しか残っていなかったので、
「あんだよ?」
と聞き返した。
「あんさん、わてよりも、パプワはんの方が男として好きって言ってましたえ?」
とアラシヤマは言ったが、シンタローには全くそんなことを言った記憶はなかった。
「そんなこと言った覚えは全くねぇゾ。本当にそう言ったのかよ?」
とシンタローが不審に思いながら聞くと、アラシヤマは、
「正確には、パプワはんが切るなと言ったから髪を伸ばしてるって言ったんどす。わての頼みは絶対きいてくれまへんのに、どうしてあの子どもの頼みやと、素直にききはるんどすか?」
と言った。
シンタローは、その答えを聞いて非常に呆れた反面、悪戯心が湧いたので、こう言って浴室のほうに向かった。
「そりゃ、お前よりもパプワの方が、ず―――っと、好きだからナ」
(まぁ、友達としての好きだけど。それに、お前の頼みって、「シンタローはーん!新しい体位試してみまへんか?」とか「シンタローはんに似合うと思うてエプロン買うてきましたさかい、裸エプロンしてくれまへん?恋人の裸エプロンは男のロマンどすえ~!!」とかそんなのばかりじゃねぇかヨ。・・・今思い出してもムカつくゼ。マァ、即、眼魔砲してやったけどナ。)
シンタローが浴室から部屋に戻ってくると、アラシヤマは壁際で体育座りをして落ち込んでいた。
その様子は、茸が生えそうなほどジメジメしており、非常に鬱陶しかった。
アラシヤマは、地の底を這うような声で、
「――――シンタローはーん。わてより、パプワはんの方が好きって本当どすかぁ?」
と言ったが、シンタローは、落ち込んでいるアラシヤマが鬱陶しくなったので、タオルで髪を拭きながら、
「あぁ。本当だ」
と答え、ソファに座ってTVをつけた。
アラシヤマはショックを受けたようでさらに落ち込んでいたが、しばらくすると立ち直ったようであり、急に立ち上がると、
「シンタローはん!!」
と叫んだので、アラシヤマを放っておき、TVに集中していたシンタローはビクッとした。
「なッ、何だヨ?驚かせんじゃねーよ!」
アラシヤマはソファに座っているシンタローの方に近づき、
「わて、やっとわかりましたえ?いくらわてよりあの秘石眼の子どもの方が好きどしても、わては子どもには出来ん方法であんさんを夢中にさせてみせますさかい、覚悟しといておくれやす!ほな、善は急げと言いますし、さっそくvvv」
と言って、シンタローをソファから抱え上げ、ベッドの方に運んだ。
「ギャ――――ッツ!!降ろせ―――!!眼魔・・・」
「おっと、今眼魔砲されたら困りますさかい」
そう言って、アラシヤマはシンタローを抱き寄せ口付けた。
「んっ・・・」と言って、力が抜けボンヤリしているシンタローをベッドの上に横たえ、
「明るいどすけど、別にかまへんですやろ?あぁー、わて、一遍明るいとこでやってみたかったんどす~vvvその方が、シンタローはんの可愛えぇ顔がはっきり見えますしな!ほな、いただきますえ~」
その後、アラシヤマはシンタローに1ヶ月間無視されていたらしいが、周囲の人々は「またか・・・」と思い、誰もその理由を知りたいとは思わなかったそうな。
☆おまけ☆
アラ:「シンタローはーん。ちなみに、髪を伸ばし始めたのはどうしてどすか?」
シン:「あぁ。いろいろあるけど、サービス叔父さんに憧れてっつーか。叔父さんも“シンタロー は髪を伸ばしても似合うね”って言ってくれたし」
アラ:「(そういや、シンタローはんはサービスはんにえろう弱いどすしな)わてと、サービスはん では、どっちが好・・・」
シン:「美貌のおじ様!!」
アラ:「ま、まだ最後まで言ってないですやん!!それに、そないにキッパリ断言しはらんでも・ ・・(泣)」
シン:「美貌のおじ様ったら、美貌のおじ様ッツ!!あッ、この前みたいなことしやがったら許さ ねェからナ!!そういや、依頼の中に1年ぐらいかかる遠征の任務があったしちょうどい いかも・・・」
アラ:「そ、そないに殺生な――!!そんなに長い間あんさんのそばを離れるやなんて、それだけ は勘弁しておくれやす・・・(泣)」
「シンタローはーん!!あんさんの心友が来ましたえ~vvv」
ある日のお昼過ぎ、俺とシンタローさんが昼食後の皿洗いをしている時に、PAPUWAハウスの玄関口でアラシヤマの声がした。何の用事かは知らないが、とりあえずウマ子やキムラではなかったので、正直俺はホッとした。
「チッ。ったく、ウッセーな」
舌打ちをしながら、俺様なお舅さんは洗い物の手を止め、エプロンで手を拭きつつ玄関の方へと向かった。
玄関のほうからは、
「シンタローはん!いつ見てもエプロン姿、可愛いおす――!!今度、わてにもその姿で、」
アラシヤマが何か言いかける声が聞こえたが、間髪を入れずに
「眼魔砲」
・・・何か、爆発音が聞こえ、その後すぐにシンタローさんが戻ってきた。
俺は、(あっ、いつものことだけどお花を供えに行かないとー!!)と思ったので、
「えーっと、この前カムイ用に買ってきた仏壇花(お得セット100円)の残りは、どこへ置いたっけ・・・」
と、残り物の仏壇花を探したが、食器を洗っていたシンタローさんが、
「コラ、家政夫。まだ、全部洗い終わってねェだろーが。どこへ行くつもりだ?―――アラシヤマのことならほっとけ」
と言ったので、俺は(まぁ、いいか)と思い、皿洗いに戻った。
しばらく2人で無言で皿を洗っていたが、どうにも沈黙に耐え切れず、俺は常々気になっていた事があったので、この際シンタローさんに聞いてみる事にした。
「あのー、シンタローさん。なんで、アラシヤマの時は体術で応戦せずにいつも眼魔砲なんすか?」
俺がそう聞くと、シンタローさんは
「面倒い」
―――即答であった。
しかし、どうにもその答えに納得出来なかったので、俺は食い下がった。
「いや、でも、眼魔砲を撃つのも、エネルギーがいるっしょ?俺のプラズマはかなりエネルギーを喰いますよ。それより、体術の方が効率がいいんじゃ・・・」
俺は答えが返ってくるとは期待していなかったが、シンタローさんは洗い物の手を止め、
「ん――・・・」
と、顎に手を当てて考え込んだ。
しばらくそうしていたが、シンタローさんはふと、何かを思い出したようでとても嫌そうな顔をした。
「・・・マァ、アイツも一応ガンマ団NO.2だからナ。スッゲー、ムカつくけど、体術だと3回に1回ぐらいはきかねぇ時があるし。ホラ、接近戦だと敵と距離をとるにこしたことはねぇだろ?それに、アイツはめったなことでは死なねぇし」
「確かに、敵とは距離をとって攻撃できた方がいいと思いますけど、って、アラシヤマはただのストーカーで別に敵じゃないんじゃ・・・。―――いくらアラシヤマが丈夫だといっても、一応人間だし、あまり眼魔砲をやり過ぎると死ぬんじゃないすか?」
俺がそう言うとシンタローさんは、笑顔になり、
「何?今、何か言ったか?」
と、有無を言わさない口調でそう言った。
そして洗い物に戻ったが、これ以上何かを聞けるような雰囲気ではなかった。
俺は、アラシヤマが普段俺様なお舅さんに、あんな顔をさせたということに興味があり、2人の間に何があったかちょっと知りたかったが、今度は自分が眼魔砲をされると嫌なので、黙って洗い物に専念した。
結局、その日1日俺はシンタローさんに無視され、さらに、夕食の味付けが不味いと言って鬼姑にえらく怒られたが、(これって、絶対八つ当たりだ・・・)とかなり理不尽な気がした。
「人の恋路を邪魔するやつは~」という昔からのことわざ(?)がありますよね。
全然、恋路には見えないかもしれませんが・・・。