ある日の午後、総帥室でアラシヤマが、
「シンタローはーん!わてと京都に旅行に行きまへんか??今は秋やから、お寺さんとかの紅葉が綺麗どすえ??食べ物も美味しいものがたくさんありますしナ!!」
と、京都のガイドブックを見せ、熱心にシンタローを旅行に誘っていた。
シンタローは、
「うーん・・・」
と、どうしようか迷っているようであったので、アラシヤマはもう一押しと、
「シンタローはん、わてら、心友ですやろ??一緒に旅行ぐらい」
アラシヤマが、そう言いかけると、
「もちろん、駄目ーッツ!!」
と、突然、マジックが片腕に等身大シンちゃん人形を抱えたまま、バンッと総帥室のドアを開けて入ってきた。
ツカツカと総帥机の前までマジックは歩いてくると、アラシヤマを無視して、
「シンちゃん!下心のある野郎と2人きりで旅行になんか行っちゃ危険だヨ!それでなくてもシンちゃんはすごく可愛いんだから変な虫からは自分で身を守らないと!!」
マジックは、そう力説したが、一方でシンタローは、
(親父、俺の性別とか年齢とか、他にも何か色々と根本的に間違ってねぇか・・・?)
と、遠い眼をして、マジックの言葉を聞き流していた。
すっかり2人に存在を無視されていたアラシヤマが、おどろおどろしい空気を背後に背負い、
「―――前総帥、もしかして、変な虫ってわてのことどすか?いくら前総帥で、シンタローはんのお父はんといえども聞き捨てなりまへんなぁ。ま、とにかくシンタローはんはわてと旅行に行きますさかいに!そうどすな?シンタローはん!?」
「アラシヤマなんかと旅行にいかないよね?シンちゃん!?アラシヤマと何処かに行くぐらいなら、パパと温泉に行こうよ。もちろん、源泉のお湯を使った温泉だよ♪」
「あっ、ドサクサに紛れて美味しい案を出しはりましたな!?シンタローはーん!わてもシンタローはんと2人っきりで温泉に行きとうおます!!温泉に入るときは髪型は下の位置のお団子で!!」
「お団子か・・・。やっぱり、パパはお団子よりもバレッタで髪の毛をとめて欲しいな♪バレッタはイルカさんとかクマさんとかの形のヤツでvvv」
「うーん、バレッタも可愛いおすけど、やっぱりお団子でっしゃろ?位置が下というのがポイントどすえ?大人の色気どす――!!」
2人はそれぞれ何かを妄想し、鼻血を垂らしていたが、
シンタローは、机に手をつき、突然椅子から立ち上がると、
「テメェら、さっきから黙って聞いてりゃ好き勝手言いやがって・・・。出て行きやがれ――!!眼魔砲ッツ!!」
と、2人に向かって眼魔砲を撃った。
眼魔砲の衝撃で外開きのドアが開き、
「シンタローはーん!!わてとの京都旅行考えといておくれやす~!」
「シンちゃ――ん!!パパと一緒に温泉に行こうよ~」
という言葉を残して、アラシヤマとマジックの2人の姿は完全に見えなくなった。
シンタローはドアを思いっきり閉めると、再び何事も無かったかのように書類を読み始めた。
「アイタタタ・・・。シンタローはんは、やっぱり容赦ないどすなぁ」
眼魔砲で廊下まで吹き飛ばされたアラシヤマが頭をさすりながら身を起こすと、
「だらしないぞ。アラシヤマ」
彼の前にはマジックが立っていた。先ほどまでのふざけた雰囲気は微塵も感じられず、冷たい目つきでアラシヤマを見下ろしていた。廊下には人気はなく、辺りは静まり返っていた。
アラシヤマは、団服の裾を払って立ち上がるとマジックに相対し、
「前総帥、いくら自分の子どもでも私生活にまで口出しするのは、親馬鹿すぎとちゃいますか?シンタローはんはもう大人どすえ?」
と言った。
マジックは、1つ溜息をつくと、
「―――アラシヤマ、シンタローに付き纏うのは、もう止めろ」
と言い、それを聞いたアラシヤマは、
「それは、命令どすか?マァ、ガンマ団の総帥に男の恋人がおるやなんて知れたら外聞も悪うおますし、世継の問題もありますしな」
と、口元を歪め、皮肉っぽく言った。
それに対しマジックは、
「命令ではなく、忠告だ。ガンマ団は、いずれはコタローに継がせる。・・・半分はシンタローのため、半分はお前のためなんだよ、アラシヤマ。お前こそ、シンタロー1人に固執して生きるよりも、もっと他の生き方も選べるはずだ」
と、静かに答えた。
マジックの声は硬質でほとんど感情が感じられなかったが、ほんの一瞬だけ、わずかに情らしきものがのぞいた。
アラシヤマは黙ってマジックの言葉を聴いていたが、不意に彼の周りを取り巻いていた刺々しい雰囲気がスッと消え、アラシヤマは困ったようにバリバリと頭を掻いた。
「あ~、前総帥。わてはもう既にシンタローはんに所属しているんどす。シンタローはんはわてのものやないけど、わてはシンタローはんのものやと、わて自身が勝手に決めました。わては、シンタローはん以外、何もいりまへん」
「―――もし、お前が死んだり、居なくなったら、シンタローはどうなる?」
マジックが無表情にそう訊くと、アラシヤマは真摯な顔をし、
「わては、一応ガンマ団ナンバー2で他の奴らより死なへん自信がありますし、絶対にシンタローはんのもとにかえってきます。それに、万が一わてが死んでもシンタローはんには、それを乗り越えてほしいと思います。シンタローはんやったらそうできるとわては思いますえ?」
と答えた。
マジックは顎に手を当て、無言で考え込んでいたが、アラシヤマを見ると、
「一応、シンタローの周りに居ることは許すが、今日、私がそう決めたことを後悔させるような真似だけは、絶対にするなッツ!!」
そう一喝し、その場から去っていった。
アラシヤマはその場に立っていたが、マジックの姿が完全に見えなくなると、廊下にしゃがんで溜息をつき、
「―――やっぱり、マジック前総帥は威圧感が違いますな。あまり敵にまわしとうないお人どす。なんや今日は、えらい疲れましたわ・・・」
と呟いた。アラシヤマは、数秒しゃがんでいたが、不意に立ち上がると、
「さて、シンタローはんの顔を見てから帰るとしますか。もうそろそろ、行っても怒られへん頃合でっしゃろ」
と言うと、総帥室の前まで歩いて行き、ドアをノックした。
謝るべきことは非常にたくさんあるかと思うのですが、とりあえず、京都行きたいっす~!!
えーっと、マジシン風味ですが、このマジックさんはどちらかというとシンちゃんに対して
恋愛的な感情を抱いているというよりは、父親としての部分が大きいと思います・・・。
アラとシンちゃんのお付き合い(?)は100歩譲って認めてはいるのですが、
もし、万が一アラがシンちゃんを裏切ったら、アラを始末しようと思っています。
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