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ks







+ 対 話 +

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 風に揺らされる木の葉のざわめきが、得体の知れない不安を煽るように響いた。
 時折吹く少し暖かな風は、普段ならば心地よく感じられるはずなのに、今はその生温さがまとわりつくようで鬱陶しい。空が今にも泣き出しそうなほど曇っているためか、その風が少し不気味にも感じられた。
 ガンマ団本部の屋上には、恐ろしく緊迫した雰囲気が漂っている。この場所だけ急激に温度が下がったかように凍てついた空気にも似たものが、刺すように流れていた。
 建物内から屋上へ出る扉には「立入禁止」の札がぶら下がっているため、普段ならばここへ来るものは皆無と言っていい。だが、今この場には二人の青年がいる。
 どちらも百九十を越える長身で、無駄な肉の一切を削ぎ落としたかのように引き締まった強靱な体躯を誇っている。どちらも見る者の目を引くには十分な程存在感溢れる青年で、並んでもお互いに引けを取らない。
 同じだけ大きな身長と体格、異なっているのは身に付けているもの、そして髪と眼の色だった。
 片方は美しい金糸の髪に涼しげな青い眼を持つ。
 もう一方は、艶やかな長い漆黒の髪と、それと同様に黒い眼をしていた。
 二人の青年は黙ったまま正面に立った相手を殺気立って睨み付けている。
 その気迫はこの上ないほど凄まじいもので、この場の空気がまるで電気帯びたようにピリピリしていた。
 普通の人間が今の二人を見たら、本能に従って即座に逃げ出していることだろう。二人を良く知るガンマ団の団員達も絶対に近寄りたくはないはずだ。

 二人にとって目の前にいる者は、ただ対峙しているだけで気力も体力もすり減らす特別な存在だった。
 少しでも気を抜こうものなら簡単に噛みつかれてしまう。
 そのまま食いちぎられて地に沈む己の姿が容易に想像できた。


 それでも、双方剣呑な眼つきで睨み付け、物騒な雰囲気を纏ったまま一歩も引く様子がない。


 どちらが先に動くのか、どの様に仕掛けてくるのか。
 一瞬の迷いは敗北に繋がる。


 吹き往く風だけが、二人の間を幾度となくすり抜けていった。
 金糸の髪を揺らし、漆黒の髪を靡かせる。


 かなり長い時間睨み合いは続いて、ようやく先に動いたのは漆黒の髪を持つ青年であった。


 黒髪の青年は、風に乗ったかのようにふわりと飛び上がる。
 翼を持つ生き物のように、鋭くも軽快な動作で一気に距離を詰めた。
 そして、空を斬る音と共に突き出された拳はとても重く、一撃でも当たろうものならそれだけで即座に昏倒するだろう。繰り出される攻撃は勢いを増してどんどん激しくなっていくのだが、金髪の青年は何とか紙一重の所でそれらを見事に躱していった。
 容赦なく繰り出される攻撃が拳だけでなく踵も飛んでくると、それを避けたタイミングで金髪の青年が反撃に出る。黒髪の青年の足を素早く払った。そして倒れる体に狙い違わず強烈な一撃を加えようとしたのだが、その前に相手が地面に手をつき一回転して体勢を整える。こちらも鋭く突き出された拳は大きな音を立てて空を斬った。
 だがそれだけでは終わらずに、今度は金髪の青年が容赦ない攻撃を仕掛けていく。
 チャンスがあれば攻撃に転じていかないとやられるのは己になるのだ。
 それが誇張したものではなく厳然たる事実であることを二人は判っていたため、どちらも譲るような真似はせずに攻防を繰り広げていった。
 そんな中、先に攻撃をヒットさせたのは金髪の青年だ。
 手足を使った連続技で何とか黒髪の青年を追い詰めると、腹に一撃加える。
「…グ…ッ」
 その強烈な一撃を食らって青年は倒れるかと思ったのだが、その手を掴んで相手を捕まえると一発殴りつけた。
 横合いから顔面に一撃食らわせる。
「………ッ」
 金髪の青年の唇に血が滲んだ。
 黒髪の青年は更に蹴り上げようとしたのだが、次の攻撃は見事に避けられた。

 隙は絶対に逃がすまいとお互いに鋭い視線を投げ付け、激しい火花が散るような睨み合いが始まる。

 だがそれは短い時間だった。
 今度は二人同時に動き出す。
 突き出された拳は寸前の所で躱し、敏捷な動きで蹴りも避ける。
 ずしりと重い攻撃は当たれば相手に強烈なダメージを与えられるはずなのに、どちらも次の攻撃が相手に命中しない。手加減のない攻撃を何度も仕掛けていくのだが、それを簡単に食らってくれるような相手ではなかった。
 次で獲れると思っても寸でのところで逃げられ、距離をあけたかと思えば追い詰められてしまうのだ。
 二人は言葉を交わすことなく、ただ相手を追い詰めることだけに全神経を使って一進一退を繰り返す。
 相手の動きや空気の流れを瞬時に感じ取り、余所見などしている暇も与えずに、ただ目の前に対峙している己の半身だけを追いかけていった。

 風を切る音が何度も続き、それに時折鈍い音が混じり、長いこと二人は屋上で暴れ回った。
 それでも勝負の行方は一向に見えてこない。
 体力は激しい勢いで消耗していき、揃って肩で息をする。それでも決して相手に向かうことは止めない。


 二人はまた同じように幾度となく衝突を繰り返し、屋上に響く激しい音は鳴り止む気配を見せなかった。










「二人とも何やってんのーッ!!」

 如何にして相手を沈めてやろうかと二人が剣呑な目つきで睨み合っているところで、一際高い声が耳を塞ぎたくなるほど大きく響いた。
 瞬間、その場の空気がガラリと変わって、今まであった緊迫した雰囲気が一気に消え失せた。
 二人は揃って声がした方を向く。

 屋上への入り口付近に、金髪の長い髪を一本にまとめた従兄弟が、拡声器を片手に握りしめ呆れた顔をしながら二人を睨んでいた。

「グンマ?」
 今まで二人の青年の身を包んでいた物騒な雰囲気がなくなり、黒と青の眼がきょとんとしながら、突然現れた従兄弟を見つめた。
「もうー…シンちゃんもキンちゃんも何でこんなところで暴れてるの?」
 グンマは呆れ果てた様子で二人の傍まで歩み寄る。
「いやぁー…何でって…なぁ?キンタロー」
 傷だらけになりながらも、シンタローはケロリとした様子でキンタローにめくばせした。
「…色々とあるんだ」
 キンタローはその黒い眼に視線を返しながらシンタローの傍に歩み寄る。
 大きな従兄弟二人が並ぶと、グンマはその前に仁王立ちをして説教を始めた。
「色々じゃないでしょッ!二人が暴れ出すと僕の所に苦情がくるんだから止めてよねッ!!もう…周りの人達が可哀想だよッ!大体から、何でいつも真っ先に手が出るのッ?!」
「んなの、昔からじゃねーか」
「シンちゃんはね」
「俺もだ」
「ちょっとキンちゃんッ!!何シンちゃんみたいなコト言ってるのッ!!」
 小柄な従兄弟にキャンキャン吠えられて、大きな二人は肩を竦めた。
「僕たちには“言葉”ってものがあるでしょッ!!どうして普通に話し合いとか出来ないの、二人はッ」
「あー?立派な話し合いだろ、コレも」
「そうだぞ、グンマ」
「もうーッそうじゃないでしょーッ!!」
 微塵も反省している様子がない二人にグンマがまたもや大きな声で怒る。
 それに対して二人は瞬間的にはばつの悪そうな顔をしたものの、次いで視線を合わせフッと笑みを浮かべると、示し合わせたかのようにその場から走り出した。
「オラッ逃げンぞ、キンタローッ」
 シンタローに楽しそうな声で呼ばれたキンタローが素直に応じて走っていくとグンマは慌てて二人の後に続く。
「あ、ちょっと、まだ話は終わってないんだからッ二人ともーッ待ってよォ~っ」
 飛び降りるように屋上から階段を駆け下り、仲良く逃亡を図った二人の従兄弟を、グンマは必死になって追いかけていった。


 自分が追いかけたのでは二人の従兄弟を捕まえることが出来ないと思ったグンマが、丁度本部にいた身内という名の青の一族を使って二人を捕まえ、再度説教を始めるのはこれから少し後のこと───。


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(Before...「EITHER YOU OR I」)[BACK]



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