+ 接 触 +
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シンタローは挑発すれば必ず乗ってくる。俺はそう考えて、計算通りに仕掛けた。
普段、シンタローは俺のことをからかってくることが多い。だから少しだけ仕返しをするつもりで、仕事後の別れ際に、部屋の中へ引きずり込んで口付けた。
軽く触れて終わりにするつもりだったのが、シンタローが思いの外、挑戦的な反応を示したので、最初の接触から勢いづいたものになってしまった。それでも俺の行動を予測していなかったシンタローが明らかに腕の中で固まったのを感じると、してやったりと思い、そこで満足───するはずだった。
重ねていた唇を俺が離そうとするよりも先に、我に返ったシンタローが胸を押して離れようとした。だが俺はそこで急に離れ難くなり、腕に力を込めて引き留めるように強く抱き締めた。
俺はシンタローを捕らえているこの状態に興奮を覚えたのかもしれない。
味わったことのない感覚が、少しずつ覚醒していくのが判った。
目覚める感覚なのに、だんだん思考が鈍くなっていく。
結局、相手を簡単に解放することが出来なくなり、俺は重ねただけの唇では物足りなくなってきた。
軽く身を捩ったくらいでは俺の腕から逃れることが出来るはずもなく、シンタローが俺の腕から逃れることに意識を集中させるとその隙をついて更に深い関わりを求める。
「…ァ……ッ」
俺の舌が入り込むと度を失ったシンタローの体がビクリと跳ねた。
だが俺はそれに構わず、逃げる舌を追い詰めていく。
極上の獲物を仕留める寸前にある悦楽のような感覚に俺も酔わされて、行き場を失った舌を絡め取り、嬲り、ゆっくりと口腔を犯していた。相手がシンタローだということが、俺をよりいっそう高揚とした気持ちにさせてくれた。名前が判らない心地よい感覚に酔いしれていく。
拒むように俺の胸を押していたシンタローの手が、いつのまにか俺の上着を握りしめていて、それに愉悦するような感覚が心を支配していき、俺の中にある何かを呼び起こそうとする。
俺が良い気分になって唇を味わっていると、シンタローが苦しそうに眉根を寄せていることに気付く。仕方なく解放してやると、シンタローは少し俯いて酸素を取り込む。俺の支えがないと立っていることがままならないのか腕の中から逃げようとはしなかった。伏せられた目元が快楽に潤んでいるのは明かで、その艶に焦がれた俺は、結局束の間の解放しか出来なかった。
「シンタロー…」
低い声で名前を呼び、僅かに俯いていた顔を上に向けさせると、衝動的に体を押し付け狂おしいほど口付ける。
「……ンッ」
体に熱が篭もっていき、だがその解放の仕方が判らずに、俺はただシンタローを感じたくて、止め処なく沸き上がる激情の渦にのまれていった。
シンタローが欲しい。
そうだ、俺はシンタローを欲している。
今のままでは物足りない。
もっと、もっとシンタローを感じたい。
壁に背を預けて俺を受け止めていたシンタローは、それだけでは支えにならないようで縋り付くように腕を伸ばしてくる。その姿に名前の判らない感情を感じて、俺は崩れ落ちていきそうになる体を腕で抱き留めるられるように腰に手を回した。そのままもどかしさに手を動かすと、シンタローの膝がガクリと折れる。体の重みが腕に加わり、シンタローも必死に体勢を留めようと手を伸ばしてきたのだが、俺も体を支えきれなくてずるずるとその場に崩れ落ちていった。
俺はそれでもシンタローを離すことが出来なかった。
お前が欲しい、シンタロー。
そばに膝を突いて覆い被さるように唇を重ねたまま、これ以上進むことが出来ない苛立ちとともに俺を支配している感情を伝えようと懸命になる。
シンタローとの接触で体に走った電撃が、まだどこかで眠っていた回路を起動させたのか。
今まで感じたことのない何かを感じながら、その意味も判らずに、俺はただシンタローを求めた。
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