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+ 追 懐 ─ 記憶の破片 ─ +

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「ねぇ、シンちゃん。印象に残っているキスって聞かれたら、一番に頭に浮かぶの、なぁに?」


 今日は日付かが変わる前に総帥室を出るゾと意気込んで、俺がキンタローと二人で仕事をしていたら、フラリとグンマが現れた。久しぶりに顔を見たなと思って声をかける前に、アイツの開口一番はそんな台詞だった。
「…オメェは何しに来たんだよ?」
 仕事の邪魔をすんなという意味を込めて口にした台詞はかなり低く響く。俺の隣にいたキンタローは動作を止めて無言のままグンマに視線を向けていた。
「もう一週間以上研究室に籠もってたら疲れちゃって息抜きしに来たの…ちょっとだけ会話に付き合ってよ」
 息抜きなら総帥室じゃなくて休憩室へ行けと俺は思ったが、ここんとこグンマが詰めて熱心に何かやってるのは知ってたから、頭に浮かんだ言葉は飲み込んでやった。
「会話って…で入ってくるなりいきなりそんな話題かよ…」
「さっき休憩室に寄ったら他の研究員達がそんな話で盛り上がっていたから、僕、シンちゃんに聞いてみようと思ってね」
「…何で俺なんだ?」
「シンちゃんだったら何か面白そうな話してくれそうだからさ」
 グンマはこともなげにアッサリとそう言い放つ。お前の中で俺ってどういう類の人種になってんだよとか思いながらグンマを見ると、いつになく目をキラキラさせながらこっちを見ていた。俺は本気でげんなりしてくる。
 ったく、面白そうな話ってなんだよ。
 こいつは俺に何の期待をしてんだか。
「キンタローにでも聞けよ」
 俺は突き放すようにそう言ってやった。
「キンちゃんのは予想がつくからいいよ」
「予想?」
「シンちゃんのことしか言わないでしょ」
 何じゃ、そりゃッ!!
 俺の突っ込みは音声となって口からは出ていかず、変わりにゴンッと激しく机に頭をぶつけた。
 痛ェ。痛すぎる。頭もだけど、他にも色々。
 勢い良く机にぶつけた額を掌でさすっていると、キンタローが近寄ってきて額にあった手を取られた。ぶつけたところを確認するようにマジマジと見つめてくる。
「何をやっているんだ?シンタロー」
 お前もな───グンマの前で何喋ってんだよ…。
 少し呆れた様子でこっちを見てくるキンタローを、俺は軽く睨んでやった。
 そもそもお前、顔近い。んなに距離詰めてこなくてもいーじゃねーかよ。またグンマに何か言われんだろーが。
「ねぇねぇシンちゃん、いーじゃん、減るもんじゃないんだし」
 キンタローとは反対側から傍に寄ってきたグンマが俺の腕を掴んでだだをこねる。
 キンタローのこの行動とか距離に対する突っ込みはねぇーの?とか俺は思いながら、二人の従兄弟に挟まれた。何だかなぁと思いながら交互に見やると、キンタローは何考えてんだか表情からはいまいち判らなかったけど、グンマの目はいつになく輝いている。
 そんなに聞きたい話かねぇ、とか思いながら、頭の中で記憶を辿ってみた。
 印象に残ってるのねぇ───。
 言葉を反芻させていた俺は、無意識の内にキンタローを見る。キンタローも俺をじっと見つめていたから、優しい青色と視線がぶつかった。
 実はグンマに言われた瞬間、頭に浮かんだものが一つだけある。
 あまりにも鮮やかに蘇ってくれた記憶だったから、正直ちょっと驚いたけど、俺にとっては大切な思い出の一つなんだなと少し照れくさく思った。
 相手は勿論キンタローなんだけど、今みたいな関係になる前の話だ。
 だから、所謂、恋人同士のってわけじゃねぇーけど、真っ先に思い浮かんだわけだから、今でも大切な記憶の一つとして俺の中に残っているわけだ。
 あの時は───大分煮詰まってたんだよな、俺。
 俺は頭の中に浮かんだワンシーンに思いをはせる。
 今でも思い出すと暖かな気持ちになれて、俺の口元にはふっと笑みが浮かんだ。





 親父の跡を継いでからのことで、お世辞にも総帥業に慣れてきたとは微塵も言えないほど俺は酷い状態で、毎日の変化を追いかけていくことに精一杯だった。だけど総帥がそんなにアップアップしてたら部下に示しがつかないし、無駄な不安が広がるだけだから、表面上は体裁を取り繕って、何とかカッコだけはつくように踏ん張ってた。
 自分の信念に従ってやっていきたいのに、しがらみが多すぎて上手く動くことが出来ない。
 手探り状態から抜け出せなくて、そんな自分の情けなさに、足掻いて、藻掻いて、気付けば何もかもを苦しく感じることしか出来なくなっていたような気がする。
 力の抜き方が判んなくて、目の前に積み上がったものは何でも難しく考えてたし、何においても自分が先陣切ってやってかなきゃなんねぇと思ってた。トップがしっかりしなきゃ団が纏まンねぇだろって言い聞かせて、とにかく気張って過ごしてた。周りが心配してくれる声は一蹴してたし、今ならそんな自分を本当にどうしもねぇーヤツだなって思えるけど、あの時の俺には無理だった。判ってる、判ってるって言いながら、誰の声も俺の中には届いていなかった。
 改革なんて甘いもんじゃない。
 理想と現実はギャップがあるって、よく聞く言葉だから解っていたつもりだったのに、それは本当につもりで、俺は何一つ解っちゃいない甘ちゃんだったと思った。
 それでも一つ褒められるとすれば、生憎と俺は、十ある内例え十失敗したって投げ出すような根性は持ち合わせていなかったから、ちゃんとついてきてくれたヤツ等がいるんだと思う。
 もっとも、それら全て、今だから思えることだけどな…───。
 体を動かすことを主体とした生活を送ってきたから、頭だけを使うっていうのが悪かったのか、いつの頃からか頭が痛むようになってきていた。
 放っときゃ治ンだろとか思っていたけど、悪化する一方で、それでも休む気になれなくて、毎日焦燥感ばかりが押し寄せてきた。
 その時、キンタローとはまだ仕事上の良きパートナーって感じで、今みたいに特別な関係じゃなかった。
 だから余計に特別なような気がして、覚えているのかも知れない。
 あの日は、やっぱり朝から頭が痛くて苛ついていた。
 そんな余裕がない状態で頭使っても良いアイディアが浮かぶわけもなく、それでも考えをまとめたくて、空いた時間に何となく一人になれるところを探してた。
 適当にフラフラして、団の敷地内の裏手もいいところ、人工的に植えられた植物が各々存在を主張しているような少し鬱蒼とした、つまり訪れる人がほとんどいない建物の裏に辿り着いて、俺が芝生の上に転がってた時だ。
 何でキンタローが俺を探し当てられたのか疑問だったけど、今思えばキンタローだから俺を見つけられたのかもしれない。
 気配で誰が来たのかわかったけど、誰とも会話をしたくなかった俺は、寝たふりを決め込んだ。
 言われるのは小言か心配のどっちかだろうと決めつけて、耳を塞ぐ準備まで出来ていたような気がする。
 だけど、キンタローはそばに寄ってきて俺の傍に屈むと、何も言わずに安堵の息を洩らした。
 ズキリと心が痛んだ。
 溜息つかれた方がどれだけマシだったか。
 強がって、差し伸べられる手全てをはね除けるしか出来なくて、そんな小さな自分が情けなく思えた。
 でも今更起き上がることも出来なくて、早くここから消えろなんて薄情なことを考えていた。酷ェ話だ。
 多分、キンタローは俺が起きていたことに気付いていたと思う。あれだけ緊張した空気を醸し出しゃ、誰だって狸寝入りにゃ気付くだろうと普段の俺なら判るはずなのにな。どんな些細なことにでも、とにかく必死だった。
 目を瞑っていたからコイツがどんな顔をしながら俺を見ていたのかは今でも判らない。
 キンタローは、ただ、じっと傍にいた。
 いや、いてくれた、の方が正しいのかもしれない。
 長い時間そうしていたのか、それとも実際には短い時間だったのか細かいところまでは判ンねぇけど、俺はキンタローが何を思ってここにいるのか全然判らなくて、色んな不安が頭の中を過ぎっていった。
 考えをまとめるために一人ここに来たはずなのに、どんどん焦りが生じていく。
 苛々した感情もつのっていった。
 頭も痛かった。
 耳鳴りもする。
 最初から上手くいくことなんてないのは判っていたはずなのに、現実は想像以上に重くて、何もかもが嫌になりそうになって、そんな俺が一番嫌だった。
 投げ出す気は毛頭ないのに、現状にしがみつくことしか出来なくなっている、余裕なんて微塵もない俺。
 また頭がズキリと痛む。
 負けンな。
 それでも、混乱していく。
 頭が痛い。
 ざわつく音が耳障りだ。
 キンタロー、頼むから、早く、どっか行ってくれ。
 頭の中がグルグルしだして、目を瞑ったままの現状がしんどいと思いながら、キンタローの優しさすら鬱陶しく感じた。
 そんなとき、一際近くにキンタローの気配を感じたと思ったら、額に一つ口付けを落とされた。



 その瞬間、全ての音が止んで、頭の中に静寂が訪れた。



 キンタローの唇は、結構長い時間、俺の額に触れていた。
 訪れた静寂は驚いたことからかもしれなかったけど、だんだん頭の痛みが引いていくのが判って、最後はただその触れた箇所の暖かさを静かに感じていた。
 キンタローが唇を離した時には、頭痛も苛々も大分納まっていて、焦りよりも冷静な思考の方が勝っていた。
 横になった俺を上から覗き込んだままの姿勢でキンタローはしばらくじっとしていたが、やがて一言口を開く。
「ガンマ団はお前だけのものじゃないんだぞ」
 周りが見えなくなっていた俺には十分な一言だった。
 キンタローはもう一度額に口付けをくれて起き上がると「待っている」という台詞を残して戻っていった。
 俺はしばらく転がったまま、キンタローの一言を真正面から受け止めて、頭の中で何度も繰り返した。
 ガンマ団はお前だけのものじゃない。
 俺は閉じていた目を開くと苦笑を浮かべながら「カッコ悪ィ…」と呟いて、勢い良く起き上がった。
 頼る、頼らないじゃなくて、新たな組織はみんなで作り上げていくものだ。
 勿論、総帥である俺にしか出来ないこともたくさんあるけれど、そういった局面で矢面に立っていけばいい。
 今でも煮詰まると思い出す言葉。
 思い出す記憶。
 忘れない暖かな感触。
 あれから周りが見えなくなることは大分なくなった、と思う。焦りがないわけじゃないけど、突っ走りがちな俺には良い薬になる言葉だった。
 組織は中に属する人間がいて成り立つものだから、俺一人で気張るなって意味だったんだろうけど、俺には反論が出来ない台詞だった。何でコイツは俺が素直に聞けるような言葉が判るんだろうと、情けなくも少しだけ泣きそうになりながら、本当に素直に反省をした。
 戻るときはばつが悪くてどうしようかと思ったけど、キンタローはさっきのことには一切触れてこないで業務の指示を仰いできたから、俺も普通に業務に戻れた。
 今までキンタローからは色んなキスをもらったけど、あれだけは特別だと思う。
 今みたいな関係になる前だから特別に思うのかな?
 人の優しさに触れられたような気がして、凄く温かかった。
 きっと俺は今までも、しんどい時に色んな仲間からそういう手を差し伸べられてきたんだと思う。
 はね除けることしか出来なかった自分に、ただ、泣き笑いにも似た苦笑をするしか出来なかった。





 印象に残っているキスは、キンタローが額にくれた一つの口付け。

 今くれるような甘さを含むようなもんじゃないけど、きっとこれからも俺は絶対に忘れないと思える。
 そーいや、結局、あの時はキンタローの言葉に救われたのに、礼も何も言えないまま、今に至る。
 そう思いながら過去から現在へ意識を戻してキンタローをもう一度見ると、優しい青色の眼───が不機嫌を顕わにして俺を睨んでいた。
 何だよ?
 次いで、大きな電子音が鳴って、驚いた俺は傍にいるグンマに視線を向けた。
 グンマは俺の横で携帯を構えていた。ってことは、今鳴った音って、携帯カメラか?
「…何してんだ?」
 突然鳴った音にビックリした俺は眼を瞬く。
「きゃーっシンちゃん、すっごくイーお顔!!何思い出してたの?思わず写真に収めたくなるような貴重でレアな顔してたから、僕、携帯で撮っちゃったー!」
 いや、撮っちゃったって何だよ?イーお顔って、親父みてぇなこと言ってんじゃねーぞ、グンマ。
 グンマは操作していた携帯をポケットにしまうと、また目を輝かせて俺に迫ってくる。
「僕の質問を考えてくれてたんだよね?誰との記憶?ねぇねぇ、シンちゃん、教えてよー!聞きたーいっ」
 グンマは両手で俺の腕を掴むと、満面の笑みを浮かべながらも興味津々の呈で捲し立ててくる。
 誰との記憶って…そりゃ───。
 俺が口を開く前に、いつの間に背後に回ったのか、キンタローの手が伸びてきて俺の口を塞いだ。
「あ!ちょっと、キンちゃんッ」
「俺は聞きたくない」
 キンタローの声はずいぶん低くて、機嫌が悪くなっているのがよく判った。
 お前、何怒ってんだよ?
 俺は口を塞いでくるキンタローの手を何とか引き剥がした。したら、どさくさに紛れてキンタローは両腕を絡めて緩い力で俺を抱き締めてくる。
「…キンタロー…」
 俺は抗議の意味を込めて呆れた口調で名前を呼んだ。グンマが見ている前で何やってんだよ、お前は。
 だけど、そんな俺の様子を二人の従兄弟はあっさり無視しやがった。
 仲間はずれにすんなよ、コノヤロー。
「キンちゃん、ヤキモチ焼いたんでしょ?」
「……………」
 は?ヤキモチ?
「いーじゃん。過去の話なんだからさぁ」
「過去でも何でもシンタローにあんな顔をさせたヤツの話なんて聞きたくない」
 あんな顔って、どんな顔だよ?
「えー、でも、シンちゃんの過去って気になるでしょ?」
「……………俺は聞きたくない」
 キンタローはもう一回そう言うと拘束する腕に力を込めてきた。
 あのなぁ、キンタロー。
 お前なんだけどサ、その相手。


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