+ 虜 +
--------------------------------------------------------------------------------
優しい、穏やか、慈しむ、懐かしむ───笑顔。
先程シンタローが浮かべた微笑は、一体どれにあてはまるのだろうか───。
グンマに言われたとおり、過去が気にならないわけではない。
過去どころか今現在だって俺は気になる。
今の表情は誰を想ってのものだったのか。
何を想ったときにお前がそんな顔をするのか。
自分以外のものを思うときの彼の優しさを感じる瞬間は好きだが、それと同じくらい憤りを感じてしまう。
ただの嫉妬だと判っていても、感情がコントロール出来ない時もあるんだ。
「お前だよ、キンタロー」
頭の中であらぬ考え事をしながらも今日の業務をきっちりと終えた俺は、笑いを堪えたシンタローの声で我に返る。いやに近くで彼の声がすると思ったら、いつの間にか腕でしっかり捕まえていた。
あまりの至近距離に俺が驚きながら慌てて離すと、シンタローは堪えきれずに吹き出した。
グンマが来てから業務が脱線してしまい、結局日付が変わっても総帥室で仕事をしていた俺とシンタローは、予定から一時間遅れでやっと仕事を切り上げることが出来た。
そして総帥室から出ていこうというときに、俺は無意識の内にシンタローの腕を掴んでいたようだ。
「お前、俺の腕掴みながら難しい顔してずっと固まってるし、何事かと思ったんだけど……ビンゴだろ?」
シンタローは目元に笑みを湛えながら、俺が考えていたことなどお見通しだと言わんばかりの得意げな表情を浮かべている。
「ビンゴと言われても…」
「誤魔化すなよ。どーせ、さっきのグンマの話が気になってんだろ?」
俺は誤魔化したつもりなどなかったが、楽しそうな声でそういうシンタローから視線を逸らした。
指摘は正しい。
お前の口から聞きたくないのに、その心の中は気になる。
と、そこまで考えてから俺はもう一度シンタローを見た。
「お前……さっき俺と言ったか…ッ?!」
少し声を荒立てて問い返すと、シンタローは声を上げて笑い出した。
何がおかしかったのか俺には判らなかったが、笑ったままのシンタローにむっとして、先程離した彼の腕をもう一度掴んだ。俺の問いに答えろと眼で訴えながらじっと見つめていると、笑いながら姿勢を崩していたシンタローは、俺の視線に気付き顔を上げてこちらの方を向く。目にうっすら涙を浮かべながら尚もおかしそうにしていた。
「何がおかしい?」
「お前…反応…遅ェーよ」
笑いながら途切れ途切れに台詞を言うと、シンタローは直前までの笑みとは打って変わって柔らかな笑顔を浮かべて、空いているもう片方の手で俺の頭を撫でた。
「本当、時々可愛い反応すんよな、キンタローって」
俺の反応のどこが可愛いんだと反論しようとしたが、目の前にあるシンタローの笑顔にのまれた。
俺はいつだってシンタローの豊かな表情には敵わない。
ひとを射抜くような鋭い視線を向けてくる闇色の眼が、何故こんなにも暖かさを感じるものに変わるのだろう。
いつもの難しい顔が、どうしてこんなにも見惚れるような笑顔に変わるのだろう。
俺はしばらくの間、目の前の笑顔を見つめながら大人しく頭を撫でられていたのだが、あまりにも長く見つめすぎたのか、シンタローが視線を少し泳がせて離れていった。それに合わせて、俺も、再度掴んだ手を離した。
視線だけは逸らさず、俺は青い眼にシンタローの姿を映し続けていると、彼は少し離れた位置からこちらを向き照れたような笑みを浮かべた。
そういうお前の方が可愛い反応をしていると、俺は思うんだが…───。
「あー…まぁ、そういうわけだ」
「…どういうわけだ?」
「だから、お前ってのは本当って話だよ」
だからと言われても直前の話とは繋がっていなかったのだが、俺が突っ込むべきところはそこではなかった。
「俺には身に覚えがない」
素直な感想をはっきり述べると、シンタローは悪戯な笑みを浮かべた。
「キスの?」
「それはたっぷり身に覚えがある。俺が言いたいのはそこではない」
俺の台詞に、またシンタローは笑った。
自分の行動を振り返り、それを一言で表せば、穏やかとは無縁だと言い切ることが出来る。
俺は感情を抑えられずに口付けることが多いから、シンタローが浮かべた表情を思うと、相手が俺だとは到底思えなかった。
「シンタロー…ふざけている場合ではない。お前にとってはただの記憶の一片かもしれないが、俺にとってはそうではないかもしれないんだ。いいか、お前は軽い気持ちで浮かべただけの記憶かもしれないが、俺にとってお前との記憶は…」
「軽い気持ちじゃねーって」
俺の台詞を遮るように口を挟んだシンタローに、俺はドキリとした。
彼は口元に笑みを浮かべたままであったが、俺に向けた視線には今までとは違う何かが込められている。
「…シンタロー?」
その視線の意味を知りたくて、俺は名前を呼ぶことで問いかけた。
だがシンタローは無言のまま俺から視線を外すと、くるりと背を向けて窓越しに外を見る。
それから少しだけ、沈黙が流れた。
お前は、今、何を思う?
俺はシンタローの背中に流れ落ちる漆黒の髪を見つめながら、次の言葉を待った。
「良い天気だな」
「真夜中だぞ」
「天気に昼夜は関係ねーだろ。晴れてンと月かと星が綺麗に見えンだよ」
「月とか星?」
「そうそう。だから…───偶には月夜のデートとかどーよ?」
そんな誘いを俺が断るわけもなく、頷くことで了承すると、シンタローがまた笑った。
そして直ぐに二人揃って、今日の用は済んだ総帥室を後にした。
シンタローに続いて建物から外へ出ると、先程彼が言ったとおり、真っ黒に染まった空には丸い大きな月が浮かんでいた。はっきりとした黄色が印象的な月だった。頭上から放たれる光は優しく感じる。深夜一時過ぎの外は真っ暗だと思っていたのだが、月の光は想像以上に明るい。
総帥室を出てから一言も言葉を交わすことなく敷地内をかなりの距離歩くと、植物が鬱蒼と群をなしている場所に辿り着く。
ガンマ団本部敷地内のいくつかの場所には、こうやって人工的に植えられた植物があったな、と思いながら闇に沈んだ緑に眼を向けていると、シンタローが立ち止まった。
ふっと天を仰ぎ、降り注ぐ月明かりを浴びると、夜闇の中でも彼の表情がはっきりと浮かび上がる。
描かれた光と闇のコントラストに俺の胸は締め付けられた。
その顔に浮かんだ穏やかで優しい表情を見て切なくなった。
今、お前は誰を想っているのだろうな、シンタロー。
シンタローが想いをはせる誰かを考えると、俺の心は締め上げられるように苦しくなった。
どんなときでも自分だけを想ってほしいというのは、俺の我が儘だ。
俺は、何故こんなにも欲深いのだろう。それが、ひとの性というものなのだろうか。
傍にいれば、触れたくなる。
触れてしまうと、欲しくなる。
願いが一つ叶えば、そこからまた一つ願いが産み落とされていくという、抜け出すことが出来ないループ。
はじめは、近付くことが、ただ楽しかったんだ。
俺の傍にいてくれるシンタローの気持ちを疑ったこともない。
だが。
何かが苦しい。
感情は理屈でないと判っているはずなのだが、好きだという気持ちも膨れ上がると辛くなる一方だ。
俺はだんだん自分の感情を抑えることが出来なくなり、シンタローの傍に一歩近寄った。自分に意識を向けたくて、何かを掴み取るように手を伸ばす。
「お前、覚えてねぇ?ココ」
目の前の体を引き寄せて力任せに抱き締める前に、シンタローが俺を振り返った。
またやってしまうところだったと、シンタローに関して理性がきかない自分を少しだけ呪った。
「…ここ?」
会話をするには少し近い距離にいる俺に対して、シンタローは何も言わなかった。
気付いているのだろうな、お前は。
「そ。俺が腐ってた時なんだけど…」
「……覚えていない」
「やっぱなぁー…」
シンタローはまた柔らかな笑みを浮かべる。
笑み、と一言で表せばそれだけで終わってしまうのだが、シンタローが浮かべるものは種類が豊かだ。
だから直ぐに俺の意識はシンタローが浮かべる表情に奪われた。
「さっき、ここでのことを思い出してたんだ」
「……ここで何かあったのか?」
「お前が恐ェ顔しながらずっと拘ってるから、話の種に連れてきてやったんじゃねーか」
少し乱暴な言い種だが、笑みを含んだシンタローの言葉は優しく響いた。
「俺が総帥になってまだ日が浅い頃の話だから、もちろんお前との関係も今みてぇーなのじゃなかったけどな」
言葉を続けるシンタローの雰囲気が暖かくて、彼の優しさに触れるたび、俺の中の幼い感情は宥められ、また荒立てられる。穏やかな気持ちと荒々しい感情が混在して、心が締め上げられるように苦しくなっていく。
「どーした?キンタロー」
苦しくて、シンタローの言葉を聞きながらも俺が目を閉じると、お互いに手を伸ばせば触れられる距離にいたため、シンタローが優しく俺の髪を梳いてくれた。
お前はそうやって俺に穏やかな感情を向けてくれるのに、俺はなかなかお前に対して冷静になれない。
触れる指が心地よくて目を閉じたまま、俺は小さな声で返事をする。
「何でもない…」
「そーか?」
シンタローはそれ以上特に何も言わず、そのまま何度か俺の髪を梳くと手を離した。
シンタローが好きだ。
俺はそう思いながら、一呼吸置いて目を開く。
そして、心の中とは違う、会話の中で疑問に思ったことを口にした。
「俺と今のような関係ではなかったのに、俺達はキスをしたのか?」
「お前がココにくれたんだよ」
シンタローの台詞にどこかと思えば、その指は額を指していた。
「まぁ、それだけが印象強かったってわけじゃねーんだけどな。そん時にくれた一言と一緒に覚えてンだ。痛いところ突かれたし………覚えてねぇ?」
シンタローの額への口付け。
覚えていないかと問われて、俺は記憶の糸を手繰り寄せようとして、案外あっさりその記憶に辿り着いた。
眼を閉じて横になっていたシンタローに一つ口付けを落とした。
「あれは………ここだったのか?」
俺が周囲を見回しながら呟いた言葉にシンタローは少し呆れた顔をした。
「何で全然場所を覚えてねぇーんだよ…」
「俺はお前だけを追いかけているから、周りの記憶が残らないときがある」
「何だよ、それ。じゃぁ、どーやっていつも俺ンとこに来てンだよ?」
「判らない。でも俺はお前の所には行ける」
「ったく、訳判ンねーぞ、キンタロー」
そういうシンタローの声は楽しそうだった。
「まぁ、とにかく、あの時はお前に救われたから…」
シンタローが続けた台詞に俺は首を横に振った。
「買い被りすぎだ…」
記憶の破片を一つ見つけたら、残りを思い出すのは簡単だった。
あの時のシンタローを一人にしたくなかったというよりも、お前を見ている俺が言いようのない不安に駆られて傍から離れたくなかった。
見つけたお前は目を閉じても尚、辛そうに、苦しそうに、眉を顰めていたから、それが和らぐことを願いながら口付けた。だが途中から、頭の中を占領しているものと自分をすり替えられたらいいのにと思っていた。
ガンマ団はお前だけのものじゃない───こんな巨大な組織の何もかもを一人で背負うなと心底思いながらも、傍に俺が居るのに、お前の眼に映らないのが嫌で思わずこぼれ落ちた言葉だ。
全てが、俺のためなんだ。
「そーかな?でもあの時の俺はお前に助けられたのも事実だぞ」
「お前のためというよりも俺のためだぞ。全然、優しくない…」
俺がそう吐き出したら、シンタローは宥めるような微笑を向ける。
「いーんだよ。原動力なんてそんなもんだろ?全部他人のためだなんて、動く方が辛くなんだから。結果として相手が救われてりゃ万事オッケーだと思う。難しく考えなんよ」
シンタローは言葉を続けながらゆっくりと足を動かし、近くに植えられていた木に背を預けた。自然光を避けた彼の表情が判らなくなる。
「でも、お前にぐらいは優しくありたい…」
「そう思ってくれるだけで十分だよ、キンタロー」
言葉だけが優しく響いた。
暗闇に紛れてしまったシンタローの顔が見えなくて、俺は傍へ寄ろうとしたのだが制止された。
「そこにいろよ」
「何故だ?」
「キレイだから」
「……………?」
シンタローの台詞の意味が判らず、だが俺は言われたとおりにその場から動かなかった。
彼の眼が俺を映していることが判ったから、何となく動くことが出来なくなったのだ。
「こんな機械ばっかのとこでも、少し自然を感じられると見えるものが違ってくるよな。お前の金髪が月明かりを反射してキラキラしてる。肌も白いから闇の中に何か浮かび上がるようで、ちょっと幻想的」
「それは男が貰っても嬉しい賛辞じゃない」
「でも褒めてんだから有り難く受け取っておけよ」
楽しそうに言葉を口にするシンタローに、同じ台詞を返そうとした。
先刻この場所に二人で来たとき、月光下のお前が俺の眼にはどの様に映ったか。
お前は時々、俺の心臓を強く締め上げて苦しくなるほど、ドキリと感じさせるような表情をする。
そういうときは、何故こんなにもお前のことが好きなのだろうな、と俺は思う。
何度口にしても伝え足りない。
お前が好きだ、シンタロー。
俺はこんなにも簡単に全てをお前に奪われる。
だけど、お前は───。
「あン時の俺はさ、そんな日常のふとした瞬間にも眼を向けらンなくて、とにかくしんどかった」
会話をするよりも自分の感情に捕らわれて、シンタローに焦がれる気持ちで言葉が喉に詰まった俺よりも先に、シンタローは静かな口調で話し出した。
淡々とした口調がまるで他人の過去を語るようで、俺には辛く聞こえる。
「…シンタロー…」
「でも、何か、お前の言葉は素直に入ってきたんだよな……優しい言葉は縋るよりも突っぱねちまう性格だからかな?お前が自分のためだって言った行動が、俺にとっては楽だったよ」
返す言葉が見つけられずに、俺はシンタローの言葉を黙って聞くことしか出来なかった。
気の利いた言葉一つもかけることが出来ない。
「俺がピリピリしてたからだろうけど、誰も俺のことを面と向かって怒らなかったしな。お前が咎めるような口調で言った一言が、救いになった」
それは俺が傍にいるというのにそれすら気付いてくれず、全然こっちを見ないお前に対して意図せず責めるような口調になってしまった過ぎない。
「トップがしっかり方針を決めねぇとガンマ団全体の足元がぐらつくからダメなんだけど、それでガチガチにしちまうと俺の独擅場になっちまうから、それもまたダメなんだ。周りに頼り切りでも困るし、一人突っ走り続けるだけでも迷惑だしな。その辺の匙加減が全然判ンなくて、今だって手探りなところがあんだけど…」
それでもお前は寄りかかることなく立ち続けている。
「サンキューな。ずっと礼を言いそびれてたんだけど…」
本当に、礼など言われるようなことは、何一つしていない。
黙ってシンタローの台詞を聞いていた俺は、ゆっくりと足を動かして傍へ近寄った。
「あ、動くなって言ったのに」
シンタローの言葉は無視をして、ただ彼を抱き締めたくて傍へ寄ったのだが、そこで躊躇いが生じて俺の手は彷徨い、シンタローが背を預けている太い木の幹に触れた。
暗がりの中、シンタローの表情を確かめるように、お互いの吐息がかかる距離まで顔を近づける。
シンタローは文句を言って離れていくかと思ったのだが、何も言わず大人しくその場に留まっていた。
俺が腕で作った意味を為さない檻の中に、今は自分の意志で留まっているだけなのだろう。
「俺は礼を言われるようなことをしていない」
そう言って唇に触れそうになったが、触れるよりも先にシンタローが言葉を口にした。
「言葉は受け取り側によっても意味を変えるからいーんだよ。俺がありがとうっつってんだから、それでいーじゃねーか」
シンタローの手が俺の髪に触れて、くしゃりと撫でた。
「独占欲が含まれた言葉でも?」
「あぁ」
「俺の我が儘しかなくてもか?」
「あぁ」
「俺の…」
「しつこいぞ!俺が良いって言ったら良いんだよ!」
シンタローは少し乱暴な口調で言い捨てると、俺が抱き締めるよりも先に腕から逃れていった。
位置が入れ替わって、先程シンタローに動くなと言われたところに彼が立つ。
降り注ぐ月の光を浴びる彼は、そのコントラストが少し神秘的だった。
漆黒の長い髪は夜闇に溶け込んでいくかと思われたのだが、月明かりのおかげで周囲と隔絶されている。
意志の強い眼が夜空を見上げてそこに浮かんだ月を見つめると、その立ち姿に俺は魅了された。
「…キレイだな」
俺が同じ感想を述べると、シンタローは露骨に嫌そうな顔をする。
「先程、お前が俺に寄越した感想と同じ言葉だぞ」
そのように指摘すると反論出来なかったのか彼は何も言葉を口にしなかったが、そのかわりに背を向けられた。シンタローの広い背中に流れ落ちる漆黒の髪すら俺の眼には眩しく映る。
何も言わずに歩き出してしまったシンタローの後を追いかけるように、俺は続いた。
「シンタロー…俺はお前が好きだ」
「…あぁ」
思わずこぼれ落ちた台詞は、シンタローの耳に届けばそれで良いと思っていたのだが、珍しく返事が戻される。それに対して、また俺は言葉を続けた。
「片時も離したくないと思うくらい、俺はお前に惚れているんだ」
「そうだな…」
「お前が俺以外の誰かを思い浮かべるのが我慢出来なくなる」
「あぁ…」
「誰かと過ごした時間にすら嫉妬する」
「…うん」
「時折、苦しくなるくらい、俺はお前に溺れている」
「…知ってる」
「俺はお前が…」
言葉を口にすればするほど想いが募っていき、歯止めが利かなくなりそうで俺は口を閉じた。あまり言葉にしてもシンタローが嫌がる。
だがこの時は、突然黙り込んだ俺を不審に思ったのか、シンタローが振り返った。
「もう終わりかよ?」
悪戯な笑みを浮かべながらそう言われた俺は、少し驚いて数回瞬きをしてから、シンタローに言葉を返した。
「言われるのは好きじゃないだろう?」
「そーだけど…───偶には聞きたい、お前の声が」
それから建物の中へ入るまで、ただ俺は一方的な想いを静かに綴った。
シンタローはその一つ一つに頷きを返してくれて、それが嬉しかった。
その後、俺達の間に訪れた沈黙で行き場のない想いが膨れ上がり、苦しくなった。
お前がどう思おうと、俺はシンタローを離さない。
部屋へ戻った別れ際、シンタローを強く抱き締めて、俺は有無を言わさず部屋に引き込んだ。
そして俺は感情を押し付けるように手荒く抱いた。
次の日、目が覚めると、シンタローに抱き締められて眠る俺が居た。
縋り付くように伸ばされたお前の腕は、今俺を優しく抱き締める。
そんなお前の傍にいて、一体、何が不安で苦しいのか、俺自身もよく判らない。
鬱血の痕が目立つ彼の胸に、俺は少し泣きたい気持ちになりながら、そっと顔を埋めた。
--------------------------------------------------------------------------------
[BACK]
PR