+ Good Morning ... ? +
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シンタローは、ぱちっと目を開けた。
気分爽快、とてもスッキリした目覚めであった。
眠っていた時間は短いのだが、それは日常茶飯事あることで、その短時間の睡眠でもここ最近の中で一番深く眠れたのが体には良い作用が働いたようである。
『あー…何かよく寝たような気がする』
シンタローは寝転がった状態で、大きく伸びをした。
次の瞬間、もの凄い勢いで起き上がる。
自分がどこで寝ていたかを思い出したのだ。
そして慌ててベッドから飛び降りようとすると、隣にいる男が腕を掴んだ。
予期せぬ出来事に、シンタローは声にならない悲鳴を上げそうになった。
『お…おおおお…起きてッ』
恐る恐る振り返ると、キンタローは横になったままだが、その双眸がしっかりと開いている。お世辞にも穏やかとは言えない青い眼がシンタローを見つめていた。
『…………恐ェー…』
脅されたのにも関わらず勝手に忍び込んで寝ていたのだから、キンタローが起きる前にシンタローは目を覚まさなければならなかった。だが、実際はキンタローの方が早く目を覚ましていたのだ。
これはどう考えても非常事態である───シンタローにとっては。
恐怖を掻き立てる青い眼に見つめられて固まってしまったシンタローだったが、キンタローは寝起きが悪いことを思い出して瞬時に強行突破を決意した。
シンタローは起きて直ぐに活動を始めても大して支障は無いのだが、寝起きのキンタローはシンタローに比べて動きが随分と緩慢なのだ。
そう思い立つと、振り返った体勢を勢いよく元に戻す。そして、この場から逃げるために掴まれた腕を力任せに振り解いた。
否、振り解こうとした。
だが、キンタローが掴んでいる手に力を込めたため、シンタローは振り解くことが出来なかった。
『お前は何時から起きてんだよ…』
シンタローは奈落の底へ落ちた気分になった。これはとても寝起きの力ではない。
青い眼が無言でシンタローを見つめているのが視線でよく判る。この痛いほどに突き刺さる感じは、こんな早朝から秘石眼が光っているのだろうかと考えてしまうほど強烈であった。
あっさり逃亡に失敗したのだが、シンタローは恐ろしくてもう一度振り返ることが出来ない。キンタローに背を向けて再び固まってしまった。
「シンタロー」
しばらく無言の時が流れていたのだが、その沈黙を先に破ったのはキンタローだ。背を向けたまま固まっている半身の名前を呼ぶ。
『声が地を這ってマス…』
これまた穏やかではない声で名前を呼ばれて、シンタローは泣きそうな心を顕わにしながらゆっくりと振り返った。言葉に詰まったままのシンタローを見ると、キンタローは溜息を吐く。
「出て行かなくていい。疲れているだろう…このままもう少し横になってろ」
有り難いお許しの台詞は一際低い声で告げられた。
せっかくのお許しも地を這っていたら再び横になる気にはなれない。
「いや、もう随分としっかり寝させていただきました」
変な語調になりながらもシンタローはキンタローからの有り難い申し出を断ろうとしたのだが、青い眼が嶮しい光を湛えて、顔が恐怖に引きつる。
また無言で見つめられたシンタローは、根負けをして、縮こまりながら再度横になった。
とりあえず目を瞑ってみたものの、まだ凝視されているような感覚が残る。
一度瞑った目を開くと、間近で恐怖の青い眼がまだシンタローを見つめていた。
『恐ェ…』
居心地の悪さに何か言おうかと思ったシンタローだが、この様なキンタローに言える言葉は何もない。
諦めて目を瞑り、無かったことにしようと努めた。
しかし、横にいる半身を包む物騒な気配は一向に消える様子はなく、更に突き刺さるように凝視されている視線もそのままだ。
『………休めねぇーよ、キンタロー…』
自業自得の結果なのだが、後どれだけの時間この恐怖の空間にいなければならないのかと、絶望に埋もれながらシンタローは頭の中で考えたのであった。
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