報告の終わり際、ふと、アラシヤマが思い出したように、
「シンタローはん、この前団員に統計採った結果が出たんどすが、今見はります?」
シンタローに数枚の紙切れの束を差し出した。
「今、忙しーんだヨ。そこに置いとけ」
「ほな、これだけは言わせておくんなはれ。『ガンマ団のよいところは』の回答の第一位が、『総帥がシンタローはんであること』どすえ~♪わても、そう思いますわ」
「フーン」
「あれ?そんなに嬉しそうやおまへんナ」
「そんなこと、ねェよ」
アラシヤマは何やら思案している様子であったが、口を開いた。
「シンタローはん、時々、戦場で何の為に戦こうとるのか分からんでパニックになる若い奴らがおりますわな。わて、そんなヤワなもんは兵士に向いてないと思います。でも、多かれ少なかれ、どんな若い団員にもそういう部分はあると思うんどす」
シンタローは、黙ってアラシヤマの言葉を聞いていた。
「何で、そいつらがやっていけると思います?―――それは、あんさんが総帥やからです。何の拠り所もない連中にとって、あんさんは神様以上の存在なんどす」
シンタローは、アラシヤマの方を見ない。しかし、アラシヤマはシンタローから視線を逸らさなかった。しばらく無言の状態が続いたが、アラシヤマは
「でも、」
と言葉を区切ると、シンタローから視線を外し、床を見た。
「わては、あんさんが神様やないいうことを知っとります。・・・それは、わてだけやおまへんけど」
続く言葉をアラシヤマは、言おうかどうか迷っているようであったが、
「もしも、もしもの話どすえ?シンタローはんが何もかも嫌になったら、わてだけのものになってくれはります?わては、どんな弱いあんさんでもかまいまへん」
そう、小声で聞いた。
シンタローは、アラシヤマの方に向き直ると、
「そんな日は、一生来ねーよ」
とキッパリと言った。
アラシヤマは苦笑いすると、
「やっぱり、シンタローはんどすな。もし、Yesやったらどうしようか思いましたわ。でも、もちろんさっきのもわては本気どしたえ?一応忘れんといておくんなはれ」
「もう忘れたッツ!」
「し、シンタローはんッツ!酷うおます~!!」
「はーい、はいはい」
シンタローはウザそうに手を振った。
アラシヤマは部屋を退出する際に、ふと踵を返し、座っているシンタローの傍まで来ると、
「シンタローはん」
「なん・・・」
キスをした。
「これで、今から遠征に行っても死なへん気がしますわ。ごちそうさまどしたvvv」
「死ねッツ!眼魔」
「ほな、失礼しますえ~」
眼魔砲を撃とうとすると、既にアラシヤマは外に出た後であった。
シンタローは机の上に置いてあったアンケート用紙をクシャクシャに丸めると、思いっきりドアに向かって投げつけた。
プロポーズ、になっていますでしょうか・・・?(大汗)また大空振りでしたらすみません(汗)
これで、アラシン30題を完了しましたが、素敵お題を書かせて頂くのは本当に楽しかった
です・・・!ほんま、うちのサイトの原点です!ありがとうございます(涙)
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士官学校を卒業し、約半年が過ぎた。
「あぁ。まだ、わて、生きているんどすなぁ・・・」
激しい市街戦が終わり、あちらこちらと崩れた瓦礫が残る中を集合場所までノロノロと歩きながらアラシヤマはぼんやりとそう思った。
ガンマ団では、ゆくゆくは幹部になることを期待されている士官候補生にひととおりの戦闘経験を積ませておくという方針を採っており、士官学校終了後1年間は様々な現場に送り込まれる。
その段階で死んでしまったらそれまでであるが、幹部ともなると、広い知識やどんな状況に遭遇しても冷静に対応できる能力が求められるのである。
また、幅広く現場を体験することで、個人の適正を見極めるということも想定されていた。
アラシヤマは以前から特殊能力を高く評価されており、暗殺部門に配属されることが既に決定済みであったが、その彼とても例外ではなかった。
「むざむざ、死ぬ気もあらしまへんけど。だいたい、力の無い方が悪いんどす。こっちかて、生きるか死ぬかの瀬戸際なんやから、たくさん敵を殺しても仕方がないんどす」
常々そう思っていたはずであったが、撤収用の軍用ヘリに乗り、窓によって小さく切り取られた空の青さを見るともなしに見ていると、気分が沈んだ。
(シンタローは、どないしてますやろか・・・)
半年前に卒業して以来会っていない、ライバル(アラシヤマが勝手にそう決めているだけであったが)の顔がふと、浮かんだ。
(シンタローは甘うおますし、敵を殺したら泣いてそうどすなぁ・・・。たぶん、誰かたまたまそばにおる奴とか、甘い父親とか叔父貴に慰めてもろうとるんやろうけど)
アラシヤマは、誰か顔がわからない男に慰めてもらっているシンタローを想像すると、何故かたいへん胸がムカついたが、自分ではそれがシンタローの甘さに対する不快感だからだと思った。
また、自分とは違ってシンタローには家族がいるということに気がつくと、(認めたくはなかったが)少しシンタローが羨ましくなった。
(わ、わては、誰に慰められへんくてもこれまでやってきたし、今だって大丈夫どす。甘ちゃんなシンタローよりもずっとずっと強いはずどす!!・・・なんで、わてがこないにシンタローの事を考えなあかんのやろ)
そう思い、シンタローのことを頭から追い払おうとしても、シンタローの怒った顔や悔しそうな顔、ツンとした顔ばかりが浮かんでくる。
(そういや、わて、シンタローから笑いかけられたのって、初対面の時しかないどすなぁ…。他の奴には、ニコニコと笑顔を大安売り(←アラシヤマ比)しとりますのに)
そう思うと、アラシヤマはますますムカついた。
(シンタローがわてに向かって笑いかける所を見るまでは、わて、悔しゅうて絶対死ねまへんなぁ。あっ、そうや!もし、シンタローがわてに笑いかけてきても、無視してやりますえ!!)
そう思った後、ふと気がつくと、アラシヤマはさっきまでの沈んだ気持ちがどこかに行ってしまっているのに気づき、苦笑した。
(まぁ、万が一、わてが死ぬときは、家族の代わりにシンタローが傍におってもええですやろ。なんといっても、わてが認めた唯一のライバルどすしなv)
ヘリコプターは、そろそろガンマ団の敷地内に到着しようとしていた。
ガンマ団の兵士なら誰でも、年に1回は「里帰り」のための休暇がもらえる。
どうやら、長期にわたって戦い、疲れた兵士の士気を上げるためらしい。
アラシヤマは京都に1人で帰省してはみたが、特に待っていてくれる家族も帰る家もあるわけではないので、宿に荷物を置いた後一人でぶらぶらと京都の町を歩いてみた。
丁度、その休暇の時期と京都の祭りの時期が重なっており、どこもかしこも祭りのお囃子が聞こえ、浴衣や法被を着た楽しそうな人々が道をたくさん歩いている。
京の町は活気に溢れていた。
アラシヤマは、最初は自分も楽しい気分であったが、歩いているうちにだんだんと気分が沈んできた。
(あれ?一体なんですのん??去年までは楽しかったのに。わては、1人には慣れとるはずやし、京都はわての故郷ですやん。言葉かて、わてと同じ言葉を話す人ばかりですし。食べ物かて、京都は最高どす!!ここが一番落ち着くわてのふるさとのはずですのに・・・)
なんとはなしに、ふと、人の流れを見ていると、一組の家族連れが目に留まった。
浴衣を着た4歳ほどの元気そうな男の子が若い父親に肩車されており、父親の傍らには浴衣を着た若い母親が歩いている。
「お母はん!リンゴ飴買おて??ええやろ?」
「お父はん、ええですやろか?」
「ええよ。買おたりなさい」
「しょうがないどすなぁ。ほな、1個だけですえ?」
たった、それだけのやりとりであったが、アラシヤマの目にはひどく幸せそうな光景に映った。
その後、どうにも祭りを楽しむ気にはなれず、アラシヤマは1人、宿に戻った。
休暇が終わったのでガンマ団に帰省し、帰省したことを新総帥に報告に行き、シンタローの顔を見た途端アラシヤマはホッとして力が抜けた。
「なんや、シンタローはんの傍が一番落ち着きますわ」
「なんだよ、それ」
「いえ、こっちの話どす。ところで、シンタローはん、来年の休暇の際はわてと一緒に京都に行きまへんか?わてが色々案内しますえ?京都は料理も美味しゅうおますし」
「なんで、お前と2人で行かなくちゃなんねぇんだヨ。でも、京都か・・・。ちょっと行ってみてぇナ」
「そうでっしゃろ!あっ、祭りの季節でしたら、ぜひ、浴衣を着てくれまへんか?(シンタローはんの浴衣姿、可愛ゆうてたまらんですやろなぁ・・・)わてにとって、新ふるさとと、旧ふるさとが揃えば怖いもんなしどす!!」
「なんだかよく分からねぇが、・・・お帰りアラシヤマ」
「ただいま、シンタローはん」
―――――あなたが、わたしの、新しい“ふるさと”なんです―――――
アラシヤマとシンタローが他国の元首との密談に行った際の帰り道、隣国の政情が悪化し、来る際に用いた空路が使えなくなった。しかし、シンタローがガンマ団に戻らない訳にはいかないので、急遽、海からのルートで帰ることにしたが、それにはどうしても密林を少しの距離だが越えなくてはならなかった。密林はこの国に所属しており、現在この地域での戦闘は行われてはいなかった。
元首は総力を挙げた警護で海まで送り届けるとシンタロー達に言ったが、なるべく目立つ行動は避けたかったのでそれは断った。また、この国の地形を偵察するという点でも自分達のみでの行動の方が都合がよかった。ガンマ団の密使は2人を含めて6人であったが、いずれも戦闘のプロであり、密林越えなど朝飯前であった。
3組に別れ、それぞれ別のルートで海辺の港町まで出る事にし、明日のお昼に港に集合するという約束で解散した。
アラシヤマとシンタローの2人は必要最低限の装備で、針葉樹林帯の中を歩いていた。
「シンタローはん、戦闘の無い密林越えなんて久々どすな」
「あぁ。それにしても、やっぱ、ジャングルとは感じが違うな。陰気な感じだし」
「そうどすか?まぁ、杉とか松ばっかりですしな。これは、夜はものすごく寒うおすな」
時刻が夕方になり、辺りが暗くなってきたので2人は夜営することにした。
味も素っ気もない携帯食を食べ終わり、この辺りは非戦闘地域ではあるが一応用心のために焚き火の火を消すと、周囲は真暗になった。
しばらく無言でいた2人であるが、アラシヤマが、ふと、何かに気づいたようであり立ち上がった気配がした。
「何だよ?」
シンタローも、思わず立ち上がると、アラシヤマは、
「シンタローはん、ホラ、あの西の方角がちょっと赤うなってますやろ」
と、言った。
シンタローがそっちの方角を見てみると、確かに針の先ほどの大きさで、赤い火の手が上がっているのが見えた。
「この国からでも見えるやなんて。また、新たに戦いが始まったみたいどすな」
アラシヤマの静かな声がした。
シンタローは、何も答えず元の位置に座った。
闇が動く気配がし、アラシヤマも元の位置に戻ったようであった。
また、しばらくの間沈黙が続いたが、アラシヤマが突然ポツリといった。
「シンタローはん。あんさんは、“炎”という言葉から何を連想します?」
彼は、その言葉からいくつか思うものがあったが、一番アラシヤマが期待していなさそうな答えをあえて言った。
「人間」
案の定、アラシヤマは驚いたようであった。
「えっ!?人間なんどすかぁ??」
表情は全然見えなかったが、シンタローにも驚いている気配は伝わってきた。
「そう。もし、炎が無かったら煮炊きしたり暖をとったりすることはできねぇダロ?それに、パプワ島の生物は別として、火を扱えるのは人間だけだし」
シンタローの目はやっと闇に慣れてきたが、アラシヤマの表情はよく分からなかった。
「―――やっぱり、シンタローはんは、優しおすなぁ」
シンタローは、何となく今、アラシヤマが泣き笑いのような表情を浮かべているのではないかと一瞬だけ思ったが、結局それは分からず終いで、シンタローはその場の雰囲気を断ち切ろうと、
「もう、寝る」
とだけ言った。
アラシヤマは、
「どしたら、わてが添い寝をー!!」
と言い、それはすっかりいつもの調子であったので、シンタローは思わず、
「眼魔砲」
と、アラシヤマに向けて少々手加減して眼魔砲を撃った。
シンタローは本当に眠くなったので、アラシヤマが眼魔砲のダメージから立ち直るのを待たずに眠ってしまったが、夢現の状態のときに、すぐ近くで気配がし、
「シンタローはん、ありがとうございます」
と言われたような気がした。
補足説明ですが、アラとシンちゃんは高台にいます。
シンちゃんが言いたかったことが、うまく表現できずにすみません・・・。
(―――間に合わへんッツ!!)
河童のキムラが設計した“特攻☆殺死亜夢”とかいう、ふざけた名前の突貫ステージが崩れ、シンタローはんが燃え滾っている油の海へ今にも落ちそうになっていた時、不覚にも、わては一瞬体が動かへんかった。
シンタローはんが、死んでしまうんやないかという恐怖に、思考が停止し、体が凍りついた。
その非常に長くも短くも思える一瞬、呆然としていたわての横を、何者かの影が走り抜け、シンタローはんの手を掴んだ。
それは、リキッドだった。
・・・わてのみたところ、リキッドは、シンタローはんに特に恋心を抱いているとかいうわけではないようどすが、シンタローはんを兄貴分として認めている。
そして、シンタローはんも、リキッドの恋愛的なものを含まない純粋な好意を、なんだかんだいいつつも嬉しそうに受け入れてはる。
わてが思うに、シンタローはんは、あんな弟が欲しかったんやないやろか。
―――コタローはんは、どっちかというと、もう自分の子供に近いものがあって、兄弟喧嘩とかできるようなものやおまへんしな。
わては、今回の事で、リキッドに1本も2本も取られたような気がした。
リキッドは、頭は大変悪うおますけど、ガムシャラさがある。
それは、わてが、若い頃に持っていたもので、今はもう持っていないものかもしれへん。
「シンタローはん、ご無事どしたかぁ~~~~♡」
と、わてはシンタローはんの方に駆け寄りながら、
(わても、うかうかしてられまへんな。シンタローはんのことに関しては今以上に全力で取り組まへんと!)
と、決意を新たにした。
久々に短め&アラ視点1人称ですが、私の考え方がバリバリ出ていますです・・・。
そして、これって、アラシンと言ってええものでせうか??すんまへん。