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11

月の雫

いつもよりも大きな衝撃。
その爆発音に驚くが、慣れてしまっていて直に作業を開始した研究員をよそになぜかグンマだけは何かを感じ取った。
それが何かはわからなかったが、ただ何故か、そう何故かあの従兄弟が絡んでいるような気がして、今まさに動かそうとしていたロボットのリモコンを研究員からもぎ取ると部屋から飛び出した。

数日前に、彼らの叔父であるサービスがあの島に行った時、手詰まりだと思った。
シンタローがあの叔父に弱いことは知っている。憧れであるあの叔父に説得されたらきっと戻ってくるだろうと簡単に予測できた。
それに切り札がある。
コタローの秘密。
グンマはサービスの失われた片目についてはシンタローからそれこそ耳にたこが出来るくらい聞いていた。
もし、秘石眼の危険性をあの叔父から再度諭されたら、それに応じる可能性はきわめて高かった。
それでも、どこかで信じていた。

彼があの島で生きることを。

しかし、それはいつものように極秘情報を傍受して裏切られたことを知った。
そのときに、あるひとつの思いが浮かび、グンマを呆然とさせた。
そのことを考えないようにと、帰って来たならば自分も会わせてもらおうと思いながら過ごした数日。
総帥室とは違う、どこか別の場所で起きた爆発音を頼りにそちらに向かう。
かなり奥まった場所から聞こえた気がしたそれに、グンマはいやな予感がする。
そういえば、コタローの情報が最近頓に少なくなった気がした。
グンマは、シンタローがあの島にいる限り奪われる必要はないと思って現状維持をしたのだと思っていたが、もしかしたら違うのかもしれない。
「いったい何が…」
日頃の運動不足がたたり、体が思うように動かない。
ようやくのことで、エレベータに乗り込み、息を吸い込んだ瞬間。
大きな何かを感じた。
先ほど感じたような刹那的な何かではなく、抑えることを知らないような力強い何か。
そこから感じられる悪意にぞっとしながら、今まで気がつかなかったことに驚く。
その力は間違いなく一族のもの。しかし、こんなに周辺にまき散らかすかのような力は初めてだった。
その力を受けて、グンマはただならぬことが起きたことを改めて意識した。


大きな穴が開いていた。
焦げた匂いと、希薄な従兄弟。
すっかりとげとげしさがなくなった彼はそんな姿になっても“彼”であることに気がつき、グンマは何かが剥がれ落ちるのを感じた。
当たり前のことが、ようやく分かった気がした。
「それでは、行きますかの」
漫才がひと段落着いたところでこれまた希薄なふくろうが号令をかける。
行き先は、あの島。
なにやら複雑そうな顔をしているシンタローを尻目に、グンマは勢いよく手を上げる。
「僕も行くね」
無邪気な台詞とあまりにも当然という雰囲気に頷きかけた皆はそんなグンマを凝視する。
たった一人、何事にも無関心な叔父を除いて。
「お前、何考えてんだよ!」
「そうですよ、何かあったらこの高松、どうしたらよいのか…」
「グンちゃん、これは遠足じゃないんだよ?」
三者三様の言葉に、無邪気に首を傾げる。その仕草からは、彼が何も考えていないようにしか見えない。
「何で皆心配してるの?ただあそこに行くだけでしょ?」
「あのな~――」
「ほら、早く行こうよ~」
何かを言おうとするシンタローを制し、にこりと笑うと高松の手を取る。
「もちろん、高松も行くよね?」
「――ええ、当たり前じゃないですか」
一瞬の返答の遅れに、しかし気がついたのはグンマのみ。
「って、お前ら待てよ!」
さくさくと進む事態に当事者がはたと気がつき、慌ててその後を追いかけてた。


戦艦に乗り込んで、ようやく何とかシンタローと二人っきりになれ、グンマはニコニコと笑っていた。
「なんだよ、気色悪ぃ」
「え~、シンちゃんとこうやって話すの久し振りなんだもん」
島にいる間、シンタローはパプワの横にずっといたので、二人だけということは決してなかった。
そしてそれ以前のシンタローは、何を話しかけても、むっすりとしていて表情を動かすことすらなかった。それがどれだけ、グンマの心を痛めていたかなんて、きっとシンタローは夢にも思わないだろう。
だからこそ昔に戻れたようで、気持ちを抑えることなんて出来ない。
「ったく俺が死んだっていうのに、酷ぇな」
ため息をつき、壁に寄りかかる。
例えば、人が触れようとすればすり抜けてしまうのに、こうして寄りかかれるというのはなんとも不思議である。
その仕草に少しだけグンマが眉を顰めたが、気がつかせないように笑って言葉を紡いだ。
「でも、あっちに帰れば体があるんでしょ?」
「他にも問題はあるぜ、例えばあの金髪の男とかよ」
コタローを連れて行った男がこれから何をするつもりなのかわからない。
いや、おおよそ予測は出来た。それは、もしあの男が自分と同じ記憶を共有していたとしたらの予測だが、多分あっているだろう。
あの島が、秘石と係わり合いがあるということ。青の秘石があの島にあるということ。
自分が良かれとしたことが裏目に出てしまったことにシンタローは後悔している。
あの島を、巻き込むことだけはしたくなかったのに。
知らず知らずのうちに、手に力が篭る。
「大丈夫だよ、シンちゃん」
しかし、まるで心を読んだかのようにグンマが声をかけた。
「僕の従兄弟はシンちゃんだけなんだから」
椅子に座って足をぶらぶらさせていたグンマは立ち上がると、シンタローの頬に触れるか触れないかの距離まで手を伸ばす。
「シンちゃんはね、僕の自慢の従兄弟だから」
なぜだか照れくさくなり、シンタローはそっぽを向いた。
「何言ってやがる、この前まで俺のことを連れ戻そうとしてたくせによ」
「え~、違うよ。遊びに行っただけだもん」
ぷー、と膨らませた顔はどう見ても同い年には見えない。
あまりにも似合いすぎるその仕草に、本当にそうだったのかもしれない思ってしまい、こらえきれずに笑ってしまった。
「その割には、俺にロボットをけしかけてくるよな」
「だって用事がないと、シンちゃん構ってくれないじゃんかー」
まるで子供の発想である。
グンマは真剣であるが、それゆえにシンタローは呆れるしかない。
大きく溜め息をつくと、頭をぽんっと叩いた。
「そんなことせんでも遊んでやるよ」
「ほんとー!やったー!」
ぴょんぴょんと跳ねながら喜びを表すグンマに苦笑する。
「あ、シンちゃん。じゃあ今度はシンちゃんのお友達をちゃんと紹介してね」
くるりと、振り向いてシンタローに笑いかける。
これから、その島に行くのだからそんなことを言われなくともそのつもりだった。
「当たり前だろ。怖くって泣くんじゃねーぞ」
「うん」
嬉しそうにニコニコと笑い続けるその姿に、シンタローはそんなに嬉しいものかね、と思ってしまう。
しかし、それは半分正しく、半分間違いであった。
シンタローは気付いているだろうか?
これほどリラックスして一族のものと話すのが久し振りであるのかということに。
それが、どれだけグンマにとって嬉しいことであるかということに。

ただ、ほんの少しのことだというのに…


とっさに伸ばした手を引っ込めるわけにも行かず、その先にいた高松の手を取った。
それはきっと自然に見えるだろうと踏んで。
肉体のない彼に触れることが、躊躇われて。そして触れられないという事実が怖くって。
しかし、その行動がもたらしたものは二つ。
高松の意識が逸れていたこと。
シンタローのためならばなんでもしそうなマジックの行動が遅いこと。
否、マジックの方に関してはある程度は分かっていた。
暴走するかもしれないコタローに対してどうするかで、悩んでいるのだろう。
一旦ここから抜け出した以上、マジックがとる方法はひとつ。
しかしそれをシンタローの前で行うことに対して躊躇している。
だからこそ、あの時はとっさに動けなかったのだろう。
ならば、高松は?
一体何が彼の意識を逸らした?
一人で物思いに耽っていると、隣に誰かが座った。
「グンマ様、本当によろしかったんですか?」
「も~、高松は心配性だな~。大丈夫だよ」
とたんに意識を切り替え、いつものように笑うグンマ。
意識して切り替えているわけではない、自然にモードが変わるのだ。
「ですが…」
「それにね、これは僕の感だけど――行かなきゃいけない気がしたんだ」
いつもの笑顔のままなのに、雰囲気が変わる。
はっと高松はグンマを凝視した。
高松は度々、このような場面に遭遇したが今回はいつもとはどこかが違っていた。
気のせいかもしれないし、勘違いかもしれない。
ただそんなときのグンマは、まるで彼の本当の父親を思い出させる。
「さてと、そろそろつく頃だね」
シンちゃんが、桜が見れるって行ってたんだよね~、と笑いながら言うその姿はもはや先程とは別人で。
従兄弟の元へと向かったグンマを見送ると、手のひらを広げる。
うっすらとかいた汗をふき取ると、軽く息を吸い込む。
何かに行き当たったのかもしれないと思うと、グンマの怖さを知ってる分、どうしようもなく気が沈んだ。
それでも誓いを立てたのは真実だから。
一抹の恐れを抱きながら、忠誠を誓った彼の後に従った。












<後書>
私のところの高松はグンマを皆のように馬鹿とは考えていないとと思います。
敬いながらも恐れている、そんな形でしょうか。
唯一、本当のグンマを知っている人。
でも多分全貌は知らないので、その部分が怖い。
本質を知っている分、暴走しないと分かっていてももしも、が怖いんでしょうね。
その上、裏切り行為を働いているから更に二倍。

触れる云々については次回。
何がグンマから剥れたかはそのうち…

わーい、課題がたまるたまる~。




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10

月の雫

それはいつからだろうか。
気が付いていた、彼らの関係。
仲の良い、友であり従兄弟である彼らの関係がいつの間にか変貌していた。

力の無い彼はその強さに憧れ、その強さを妬む者にあるときは自分を通して、またあるときは偶然を装って報復を果たしていた。
持ち得なかった色に劣等感を持っていた彼は、自らの父を目指すことによってその力を変え、やがてその方向性を失っていった。
そして、彼らの進む道をただ見ることしか出来なかった自分が、ある時ついに道を示した。

それが、数ヶ月前のこと。



帰ってきたらまず、研究室にいるはずのグンマの元へと向かう。
「グンマ様~!お元気でしたか?」
しかし、応えは無い。
勝手にロックを開け、中に入るが誰もいない。
おかしいと訝しみ、探してみるがどこにも見つからない。
「…シマネ」
留守を任せていた自分の部下に極力抑えた声で問いただす。
先ほどから様子のおかしかった彼は、名を呼ばれただけですくみ上がる。
「グンマ様はどこにいるんです?」
落ち着いたトーンの中に、どす黒いオーラを感じる。
「あの、その、実は――」

「一人で、あの島に向かったんですか」
説明を受け黙り込んだ高松は、確認を取るでなくポツリと一言呟いた。
あの日以来、高松はシンタローに会っていない。シンタローに日本支部での爆発を教えたとき以来…
そしてガンマ団を脱出したことを知った。秘石を持って逃げた彼がどのような動きを見せるのかと続報を気にしていた。
しかし、ある島に行ってからそこから動こうとしない彼に、じれったくもこのまま戻ってこなければよいと思っていた。
幸せになれるのであれば、それでよいからだ。
第一、危険であるコタローから離れられるというのだから心配事のひとつが解消されるというもの。
しかし、そこにグンマが向かったとなれば別だ。
ここ数年、仲の悪かった二人が会ったならば、きっとグンマが無事であるはずがない。
「…どうやら、命が惜しくないようですね、あなた」
物騒な台詞をメスを携えながらいわれ、覚悟を決めたシマネ。
しかし、そこに救いの手が差し伸べられた。
「高松~!!」
唐突にドアが開き、泣きながら入ってきたのはいわずと知れた、グンマ。
そのまま高松に抱きついて子供のように泣きじゃくる。
「どうなされたのですか?」
優しくあやす手に落ち着いたのか顔を上げたグンマは総帥よりも先にあの島で起きたことを語り始めた。


そして、見ることができた彼の姿。
その姿は、ある親友を思い出す。
本部にいたときよりも強く感じるのは、同じように南国の風を纏っていたからだろう。
違うものだと信じる身にはとても辛い、感覚だった。
それでも、生き生きとしているその様に安堵したのも事実。


親友に似ていることで、救われたのは自分なのかもしれない。
グンマを守りながらの逃走は安易に出来た。それは彼らがこちらを傷つけるつもりがないからだろう。
それが、益々高松の傷を癒していくようだった。
「シンちゃん、元気だったでしょ」
あっけらかんに笑うその姿はただ無邪気にしか感じられない。
しかし、高松は知っている。この笑顔の下に隠されている、怖いほどの決意を。
もし誰かにたずねることが出来るのならば、彼はこう聞いただろう。
生まれつき善悪の区別をつけることがなかったものと、常識を知りなおかつそれでも罪を負おうとしようとしているもの。どちらがより罪深いだろうか、と。
恐らく、グンマは何かを掴んでいるのだと高松は確信している。だからこそ、自分をあの島へと連れて行ったのだと。
「高松?」
「いえ、なんでもありませんよ」
不安そうに見上げてくる被保護者に笑いかける。
その性格ゆえに、秘石眼を持たぬその瞳に一族として軽んじられている青年は、しかし誰よりも怖い存在だ。
「大丈夫ですよ」
そして知ってしまってからの高松の立場は変わってきた。
「総て私に任せた下さればいいんですよ」
彼に、何かをさせてはならない。
それが高松の結論だった。
もしも誰かにグンマのことを知られた場合、その神輿に祭り上げられないとは限らない。
誰よりも怖いとはいえ、世間から隔絶されたグンマはまだまだ甘いところがある。そして研究一筋だったその体は純粋な力には敵う事がない。
だから、遠ざける。彼を傷つけると思われる総てものから。
「うん、分かった」
その答えがどれだけ虚しいものだと知っていても。



「それが事の顛末か」
彼は6つの碧眼を知っている。
そのどれもが違う色を宿しているが、その中でもっとも深く激しい色を持っているのは目の前に君臨している覇者だけだろう。
「ええ。グンマ様が望まれましたので」
しかし、その視線を受けても怯まず、笑っていられる自分も相当の狸なのだろう。
島に向かったのはグンマが帰ってきてから直。必要なものだけを揃えて、そのまま出発したのだ。総帥の許可も得ず。
「自分のしたことが命令外のことだということは分かっているのか?」
「どこがです?私はグンマ様の望まれたことをしただけ。そしてグンマ様はシンタロー様を連れ戻すために私を連れて行ったのですよ」
内心はともかく、伊達に年を重ねてきたわけではない。平常心を装い受け流す。
普段であればその態度に笑って許すマジックだが今回だけはそうもいかない。
マジックを常でいられなくするものが、あの島にはあるのだから。
「……今回は許そう。しかし、次はないと思え」
「ええ、分かっていますよ。私も命が惜しいのですからね」
心持引き締まった口元に、ようやく怒りを納めたマジックだったがふとある疑問を思い出した。
それは1年以上前の不可解な出来事についてだ。
「ひとつ、尋ねるが…」
「なんです?今回の成果については報告した以上のものはありませんよ」」
「いや、グンマのことだが――本当に秘石眼はないのだな?」
その問いに、眉をひそめる。
あの瞳に関してならば、ある程度の研究は進められているものの一族の感知能力に比べればまだまだ拙いもの。つまり、彼らが感じたのでなければ他のものが分かるわけがない。
「ええ。もしかしてグンマ様からも何か感じ取られたのですか?」
だとしたら状況は一変する。
シンタローが本部からいなくなったということを知っているものは実は一握りしかいない。
混乱を恐れたための処置だがそれもここまで長期化すると隠すことが困難になってきている。
そこへ今まで秘石眼を持っていないとされていたグンマにその反応があったとしたら?
悪条件が重なりすぎている。
それは誰よりもグンマの好まぬ展開だ。
そんな心中を知ってか、ゆっくりと頭を振る。
「いや、只気になっただけだ」
そして手で退出を促され、高松は一抹の不安を抱えながら戻るべきラボへと向かった。


このとき、二人は知る由もなかった。
それは過去にそのような例がなかったからといえるだろう。
そう、彼は一族の中でも稀に見る、否、もしかした始まって以来の逸材であることを。








<後書>
お待たせしたのに、なぜかミドル二人のお話…
いやはや、日記のままでやったほうが楽だったな~と思いつつ、結構熱中してます。
…ついてきている人が少ないと分かっていても、楽しいものは楽しいんですよ。

趣味に走って申し訳ないと思うのですが、まだまだ続きます(でも、後少しかな?)
最終目標は、髪を切って弟分が出来た頃までを目安に。


…前にグンマ様はあの島が手に入れたものに自分の意思を伝える勇気みたいなことを書きましたが、もしかしたらそれ以上のものを手に入れたのかもしれないと思う、今日この頃でした。


9

月の雫

不意に止まった、ガンボット。
まさかコントローラーが壊されるという事態を想定していなかったため、稼働時間のことを忘れていた。
「コンセント貸して~」
朗らかなその声に対し、帰ってきたのはドスの聞いた声と拳だった。



「もう来んじゃねえよ」
泣きながら帰ってゆくその背中に、シンタローはやれやれとため息をついた。
親父も何考えているのだか。
グンマがやってくるとは、考えていなかったため些か驚いたのは確かだ。しかし、いくらなんでも従兄弟が来たくらいで帰るつもりなど毛頭無い。
「仲が良かったのか?」
いつものようにチャッピーの背中に乗りながら、こちらを見上げる視線に少しだけ考え込む。
「ま、昔はな」
14のときに士官学校に行ったシンタローと同じく14のときに研究施設を廻るようになったグンマとはそのときから徐々に距離が出来ていた。
そういえば、誕生日でもないのに時々、怪しげな包みが届いていたことを思い出す。
開ける気がなかったため放置していたもの。
自分より屋敷に戻る機会があったグンマはそのことも根に持っているかもしれない。
「ったく、仕方ねぇな」
こうして会うのも久し振りなのに、話さなかったことを少しばかり気にかけている自分に苦笑する。
「また来るといいな」
ガンボットが暴れた跡がそこらにあるというのに、無表情に見上げながらそんなことを言う。
「また壊されるかもしれねぇのによく言えんな」
呆れながらもその頭を撫でてやる。
そんなことをいいつつも、気になっていると分かっているパプワは口端を少しだけ持ち上げた。
「賑やかなのは好きだぞ」
率直なその意見に、困ったような顔でシンタローは笑った。
賑やか、を通り過ぎていると思うのだがこの島ではまだ許容範囲内らしい。
「時々ならいいかもな」
そういいながら、最後に喧嘩したのはいつだったかとふと思い出してみた。






ぼろぼろになりながらも、早速無事に残った日記に先程の勝敗について書き込む。
シンタローに負けたわけではないが、負けは負けだ。
「シンちゃんのバーカ」
負けた悔しさはあるものの、不思議と心が温かかった。顔が綻ぶのを止める事が出来ない。
「いばりんぼー、自己チュー」
残さず書いてしまえば、残るのはすがすがしい気持ちのみ。
まるで、昔のようだった。
くだらない発明を、と呆れていた。少し前までは一瞥するだけで何の反応も示さなかったというのに。
元気になってもらおうと送った何種類もの曲を詰めた目覚まし時計も、スイッチを押せばくるくると回り出すガンボットも、総て包みを開けられることも無く放置されていたことをグンマは知っている。
久し振りに怒られた。昔はおっかなくって仕方が無かったのに、今はそこに嬉しさが加わった。
きっと、この島がシンタローを変えてくれたのだろう。
そう思うと、心の中でなにかがちくりと痛んだが、気が付かない振りをする。
ぼこぼこに殴っておいて、座り込んで盛大に泣いていると手を差し伸べられた。
『ほらよ』
ぶっきらぼうなその言葉。
いつも、そうだった。喧嘩した後はそうして立ち上がるのを助けてくれた。
暖かい手は優しさを象徴しているようで嬉しかった。
「――お帰りなさい」
悔しくって、言えなかった言葉。
大切なものをその手に掴むことがきっと出来たのであろう彼に伝えたかった言葉。




総帥であり、父親であるマジックは、秘石眼を持って生まれなかったものの、眼魔砲を撃つことの出来るシンタローに多大なる期待とを背負わた。
そのことがシンタローに抜けることの無い迷路に閉じ込めた。
もがきながら傷ついて、そんな姿は見ていられないものがあった。決して超える必要の無いその壁を、皆が当然のように押し付けた。
その筆頭がここ数年姿を現さない二人の叔父、サービス。
シンタローに眼魔砲を教えた、シンタローが尊敬する人。修行中に何を告げたのかは知らない。しかし、そのことがより一層シンタローの退路を断ってしまったことだけは解っていた。
背負わされたシンタローには関係ない夢を、各々ぶつけていった。
そのことが、どうしてもグンマには赦せなかった。
何も知らされずに、ただ背負うことだけを望まれた従兄弟――
そんな彼に、グンマは知って欲しかったことがある。


完璧である必要は、どこにも無いということ。
一人である必要は無いということ。


きちんと彼を受け止めてくれる人がいるということ。完璧でなくとも、誰も責めたりしないということ。



最後の一言を書き終え、そっと日記を抱き締める。
シンタローがいなくなった日に書いた日記よりも長くて、楽しいことの書いてある日記。


彼を受け止め、彼がありのままでいられる場所が出来たこと。



「寂しいけど、仕方ないよね」
ちょっと笑いながら、先程走ってきた方向を見つめる。
そろそろ、帰らないと高松が帰ってくるまでに間に合わない。
不幸な助手に命の危険が迫る前に帰ってやらなくては。
大急ぎで船に乗り込むと指示を出す。
先程のように複雑な笑みではなく、零れるような笑みを浮かべながら。


きっと彼が自分の意志で、呪縛から逃れようとするだろう。それは、確かな予感。
証拠は、彼の表情。たったそれだけの証拠だがグンマを信じさせるには十分すぎるモノ。
その結果がどうなろうがグンマには関係ない。
ただ、シンタローさえ真っ直ぐに生きて行ければいいのだ。
それが、グンマの望み。


「あ」
島から離れて暫くしてからグンマはあることを思い出した。
しかし、直にどうでもいいと思い直す。
たったひとこと、伝え忘れたというただそれだけ。


“また来るね”



それだけのことだから。






<後書>
シンタローさんさえ幸せならばそれでいい、グンマさん。
まだまだ問題が山済みだと知っていても、とりあえずシンタローさんが笑っているならいっか、とか思っていそうです。
一族のしらがみから何とか助けたいと思っていても、弱気になっていたのと、シンタローさんに意地を張られると思って何も出来なかったんじゃないかなと。


ではでは、次は近いうちに~。



8

月の雫


最後のねじを締め、ほっと一息ついた。
2ヶ月前に大爆発を起こしてしまったが、そんな些細なことを気にしていては成功することも出来ない。
数ヶ月前にシステム点検に借り出され、一時ガンボットの製作を中断せざるを得なかった。
システム点検の際にはまさか自分がちょくちょくマザ・コンに介入していることがばれたのかと思ったが、シンタローが逃げたことが噛んでいたらしい。
マジックもシンタローがコタローの行方を知らぬまま逃げたとは考えなかったらしい。そのため何らかの方法でマザ・コンに侵入して情報を得たのではないかと踏んだらしい。
しかし、事実を知っているグンマにしてみれば見当違いもいいところだということを知っている。だからといって教えてしまえば高松の身に何が起きるかは想像が出来るため、その命令に従い、丁寧に調べた。
流石に心臓部ともいえるマザ・コンを任せられる人間は限られており、そのためグンマ一人で行うことになった今回の作業。それでもその間、外からの情報は滞ることなくグンマの耳に届いていた。
そして、ハッキングされた形跡が無いこと、セキュリティの強化が終了したことを報告したときには、送られた刺客――ミヤギとトットリという名前らしい――が帰ってきていないという事態にマジックが荒れているという話も聞いた。
それでもそんなことを気にせずに、ガンボットの製作に取り掛かった。
久し振りすぎて、配線を繋ぎ間違えてショートしたことを除けば、順調であったといえるだろう。


南の島にいるというシンタロー。コタローの居場所がわかっているというのに、何故そんなところにいるのかがグンマには理解できなかった。もしかしたらその情報は偽者で、南の島に向かった刺客は帰ってこないのではなく、帰ってくることが出来ない状態なのかもしれない。シンタロー自体は別の場所でコタローを救出するための準備を図っている可能性もあるのではないのか?
そんな疑問も、このガンボットが完成するころにはわかることだろう。
先日、マジックがシンタローを迎えに行った際にグンマも同行する様に言われたのだが、ガンボットが後一歩で完成するということを言い訳に残った。
最新の情報では団内ではシンタローの次に強いというアラシヤマという刺客を送ったらしいが、彼からの連絡も無い。


「まだ、大丈夫」


グンマは信じていた。
抜け出したシンタローは、自らの幸せを掴むことが出来ると。ここに、ガンマ団に戻ってくるときは、コタローの傍にいると。
刺客からの連絡が無いのは、総帥が怖いからだろうと安易に予想された。
失敗は赦されない以上、連れ戻すことが出来ないのにも関わらず、連絡を入れるという命知らずなことはしないだろう。
大体、シンタローの同期である以上敵うはずが無い。
そして、全くの連絡が無いことに苛立った総帥自らが出向いたのだ。
良くも悪くも、父親であり総帥であるマジックが出向いたのならば詳しい詳細がわかるだろう。力の差は圧倒的であるからこそ、もしそこにシンタローがいるのならば連れ戻されるのだろうから。
必要最低限の物以外置いていないこの部屋は無機質で、壁にぶら下がっているコルクボートだけが色彩を放っている。
昔のものから最近のものまで無秩序に写真が貼られている。その中にはシンタローと一緒に何枚もある。
幼い頃に一緒にとった写真は二人でにっこりと笑っていて、高松とマジックが鼻血を流していたことを憶えている。
そのときのような笑顔を取り戻して欲しいと願いながら、グンマはガンボットの起動スイッチを入れる。
とたんに眼のところに設置したランプが灯る。
一先ずは起動したことにほっとしつつ、動作確認を行う。
左右の腕を動かすたびに、ギギギ、という機械音が響く。音の割にはスムーズに動くことに満足すると次は左右の足を動かしてその場で足踏みをさせる。これもこちらが指示したように動くことを確認すると電源を再び落とした。
「とりあえず、充電しておかないとね」
コンセントに充電コードを差込んでおく。動ける時間はただ動かすだけならば1時間程。この後でテストを重ねて正確に測る必要があるだろう。
と、そこでアラームが最新の情報が入ってきたことを報せた。
慌てて端末を立ち上げ、手馴れた仕種で易々と介入する。どうやら南国へと向かった総帥の戦艦が数日中に帰還するとのこと。
そして、シンタローがその島にいること。
グンマは十分過ぎる事実を手に入れたことをほっとすると、ガンボットを動かす手はずを整えた。


帰還早々、マジックはグンマを呼び出した。
手が届く位置にあったものを逃がしてしまったことが応えており、すぐさま仕事をする気になれなかった。そこにグンマが新作ロボットが完成したという報告がなされていたので、休憩がてらに聞いてみようと思ったのだ。
「お久し振りです」
ティラミスにこの部屋に通されると、開口一番に挨拶をしてグンマはマジックに会釈をした。
「元気にやっていたかい?」
いつもの優しいマジックであることにほっとしつつ、グンマは頷く。
ある程度、恐れていたこととして以前のように威圧感で圧倒されているのではないかと思っていたのだが、そのような事態に陥らずにすんだことに緊張が解れる。
「これが今回開発したガンボットです」
この数日で一生懸命纏めた報告書には詳しい数字が記載されている。寝る暇を惜しんで取られたデータは完璧に近いといえるだろう。
それもこれも、目的のため。
「ふ~ん、ならこのロボットは完璧なんだね」
「はい」
2,3質問をされ、資料と照らし合わせながら答えると、マジックはおもむろに一枚の書類を取り出した。
「じゃあ、グンちゃんにはシンタローを連れ戻してもらおうかな」
「わかりました」
さらりと重要なことを言ったというのに、グンマは驚くこともせず、はっきりと頷いた。
こうなることを、予期していたかのように。
「今度こそ、シンちゃんに勝ってみせます」


一枚の通達書と共に研究室に帰ってくると、早速準備を進めた。
ガンボットのメンテナンスをするために必要な道具を纏めていると、インターフォンが鳴った。
まだなにかあったのかと思い、ドアの鍵を開けると、そこには見覚えのある顔があった。
「私、Dr高松の研究室にて助手を務めているものです」
敬礼と共に自己紹介する彼は、現在、研究室に不在の高松の変わりに留守を預かっているものだった。
「なに?どうかしたの?」
高松からなにか連絡があったのかと首を傾げる。
「シンタロー様を連れ戻しに行かれるというのは本当でしょうか?」
「うん、そうだよ」
にっこりと笑ってそう答えるとさっさと部屋の中に戻ってゆく。
その様に慌てた彼は、そのまま研究室内に入ってゆくと、荷物の整理に追われているグンマの説得を開始した。
「せ、せめてDr高松がお帰りになってからでも遅くないのではないのでしょうか?」
「駄目だよ、叔父様から直接受けた命令だし」
暗に、逆らったらどうなるか解るでしょ、と匂わすと流石に彼も押し黙る。
命令を破ったものへの厳しい処罰は有名であるため、いくら高松が恐ろしかろうと思わず躊躇してしまうほどだ。
「大丈夫。ただシンちゃんに会いに行くだけだし」
ガンボットを積んでゆくということはおくびにも出さずに朗らかに答える。
元々、ここには資料などが置いてあるだけなので、ただシンタローを追いかけていくということしか聞いていない彼はしぶしぶ引き下がった。
大体、青の一族であるグンマに逆らうことなど、一介の研究員が出来るわけではない。
「それに、なにかあったらちゃんと僕から高松に言うよ」
それでは遅いのだが、結局、彼は自分の研究室に帰っていった。
なんとか説得できたことに安堵すると、申し訳なさそうに去っていった彼に頭を下げる。たとえ、どう言おうとも保護者である高松は彼に酷い仕打ちをすることだろう。しかし、それでもグンマはその島に行かなければならない。
今回、連れてゆくガンボットは、3年前とはパワーもスピードも段違いだ。きっといい勝負が出来るだろう。
しかし、そんなことはグンマには関係なかった。





さあ、望むものは見れるだろうか?

















<後書>
まだまだ、先は長いと見せかけて、実は短い(かな?)
マジックさんはきっと、久し振りにシンちゃんとスキンシップが取れたからそんなに怒ってないじゃないかなと。しかも久し振りにご飯も食べれたことだしね。

つーか、絶対このグンマさん強いって(パプワ島に行って変わったんじゃなくって、元の素がでてきたってことですか?)
さてはて、ようやく、ようやく次はシンタローさんとグンマさんのツーショットになるか?

7

月の雫

その様子をグンマがリアルタイムで知ることが出来たのは、一重に実力から。
システムの拡張を行った際に、密かに優先コードを作り変えておいたことがどうやら功を奏したようだ。


あの日以来、誰にも内緒にしていることがたくさんある。
まず自分の知らないところで物事がどれだけ動いているか把握することは出来ないと考え、自分に必要な事項のみを集めるようにになった。
一番最初に、グンマは初めてマザ・コンに対してハッキングを行った。
いや、正確にはハッキングとは違うかもしれない。
製作者コードを使って入った以上、コンピュータはグンマのことを侵入者とは思わない。故に、侵入した形跡も無く堂々とアクセスすることが出来た。
そしてそこからいろいろと探っていった。それこそ、重要機密事項ですら覗くことが出来るグンマの前にはパスワードの壁など無いも同然で、何でも閲覧することが可能だ。
そしてどこにコタローが幽閉されているのかがわかった。
この大掛かりな計画に関わった者達も…


調べてゆくうちに、自分が何をするべきなのかわからなくなった。
いや、手段だけならば幾通りも浮かんだ。コタローを助ける方法も、シンタローに誰にも悟られず、総てを教える方法も。
養い人の高松に復讐する方法も、一瞬だけ浮かんだ。流石にその時は、自分がそんなことを考えたことが怖くなり、背筋に冷たいものが走った。
しかし、グンマにはどれも実行に移すことは出来なかった。
最後の一歩を踏み出す勇気が無く、そのままただ時間だけが過ぎていった。



そしてその日、時計のアラームが始まりを教えてくれた。
ただのアラームではなく、ガンマ団本部において何らかの変化があったときに報せるようにと命じておいたプログラムのひとつ。
慌ててグンマは今までの作業を中断し、本部の管理システムに潜り込んで詳細を掴もうとした。
この研究室にはガンマ団のシステム総てを掌握出来るように組み替えてあるため、直にどこに異常が起きたのかがわかった。
総帥室に何者かが侵入した。それまでに何の反応も無いことから、内部の特に幹部クラスの犯行。
ひとつの予感が、グンマの胸に過ぎった。はやる気持ちを抑えて、侵入者の逃走ルートを予測しながらカメラからの映像をチェックしていく。
やがて、ひとつの映像が眼に飛び込んできた。
侵入者として判断された一人の青年。長い黒髪をなびかせ、大事そうになにかを抱えている。
監視カメラから彼の様子を追う一方で、グンマは彼が何をしたのかを調べた。彼を逃がすために、監視カメラに偽の映像を流すことも忘れずに。
彼が建物から飛び出した瞬間、ようやく知ることが出来た。



「行ってらっしゃい。シンちゃん」





『シンちゃんは、何になるのさ』

『俺はそうだな~』

『早く教えてよ~!』

『パパみたいに強くなるんだ』

『強くなってどうするの?』

『そりゃぁ…そうだ』

『なぁに?』

『お前が苛められないように守ってやるよ』

『ホント?約束だよ!』

『ああ、約束だ』



きっと、忘れられている約束。
でもそれはシンタローだけのせいではない。
期待の大きかったシンタローはいつしか目的だけが圧し掛かり、なぜ強くなろうとしたのか忘れてしまったのだ。
単純な父親への羨望が重圧に変わったとき、ただ強く、総帥の息子としての自分に囚われてしまった。
強くなっていく従兄弟をみて、グンマは嬉しい反面、怖かった。
負けるを知らないシンタローが、敵わない壁を知ったときにどうなるのか予測できなかったから。
やがて、シンタローに弟が出来た。年の離れた、小さな赤ん坊。
直になくなった母親の代わりのように、シンタローは愛情を注いでいた。
それだけでグンマは喜びを感じている自分を知った。忘れられていた約束が実った気がしたからだ。
呪縛から抜け出せたのだとほっとした束の間、またしても父親の、総帥の影に囚われてしまった従兄弟と、変わらず何も出来ないままの自分。


そして今。
シンタローの、眼には強い光が宿っていた。



果たして、今度はどうなるのだろうか?





<後書>
エンジンが掛かってきた二人。
シンタローさんはまだ逃げることしか考えていないけれども、今のレールから外れようと頑張っていて、グンマさんはシンタローさんが自分以外の人間にだけれども約束を果たそうとしているのが嬉しいということで。

次は…パプワ島?


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