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 イタタマレズニ ヘヤヲ デタ。

 午後になると「おやつの時間」と称して、グンマが強制的に俺やキンタローに休憩を仕向けにやってくる。
 ただのあいつの自己満足かと思っていたのだが、ヤツに言わせると「そうでもしないと二人ともずーーーーっと仕事しっぱなしで倒れちゃうでしょ!」という一見正論とも思える理由を振りかざしてくるのだ。
 更にキンタローを先に説得してラボから連れ出して来られた日には、あいつにまで働きすぎを強調される始末だ。
 人の事を言えるのか、と切り返そうにも今から休憩に向かうヤツ相手では分が悪すぎる。
 しかして、単なる趣味だとしか思えない甘い茶受けの洋菓子とゴールデンルールで淹れられた薫り高い紅茶が用意され、しばらく山積みの決裁待ち書類から強制開放される時間が訪れることとなる。
 毎日毎日律儀に守られるこのルール。グンマは嬉々としてやってくるし、キンタローもそのまま受容しているように見えるが、俺は未だに日課として馴染み切れない。

 あの島に居た頃だって、やることが山盛りある中、強引に遊びに巻き込まれたり、突発事項は人の都合を考えずに舞い込んで来て、その都度振り回されながらもどうにかやってきたのだから、そんなに簡単にペースを崩される筈はないんだ。
 そう信じていたのだけれど、どうやら煩雑さがどうのという類のものではなかったらしい。

 多分、時としてそこに混ざるのが引退したアイツであったり、美貌の叔父であったり、はたまた、いつもはどこに居るのかわからない金遣いの荒いもう一人の奔放な叔父であったりするのも一因なんだろう。
 美貌の叔父はともかくとして、他の二人のどちらが揃ってもロクなことはないが、両方揃えば、どこが休憩だよ、と突っ込まずには居られない騒ぎに発展しかねない。
 下手に付き合うくらいなら、仕事詰めの方がマシなんじゃないかってくらいの騒がしさ。そして場合によっては破壊がオマケについてくることもある。

 珍しく、そんな厄介なメンバーが、もれなく一揃い居合わせた日のこと。
 賑やかではあるけれど、どことなく長閑な穏やかな空気が紅茶と甘い洋酒を含んだ菓子の匂いと共に室内を満たす。

 こめかみに木の杭を打ち込まれるような、がんがんという痛みが鈍く響き始めた。
 その音と周囲の和やかな笑い声、雰囲気が、薄紙一枚隔てて鬩ぎ合い、心の奥底から言い様のない不快感を呼び覚ます。

 きらきらと光る金色。明るい空の青色。
 それはとても綺麗で、幼い頃に焦がれた色。
 自分の持っていない色。

 今の自分が今のままでいい、と思っているし、それは間違いないことで。
 俺の24年間は俺のものだから、誰に恥じるものでもないのだけれど。

 それでも、その間に得てきた諸々のものは全て本当は他の誰かが享受すべきものだったのでは、と涌き上がってくるこれは。
 ふと思いついただけの疑問のようでいて、ずっとこの4年間、思い続けてきたものかもしれない。
 考え始めればキリがなく、こめかみを鈍く叩く杭。

 誰にも気付かれることのない痛みに眉を寄せ、自分に向けられる暖かな視線から目を背ける。
 寄せられる好意にいつでも不機嫌を装ってきたから、多分誰も気付かない。
 気付かれずに目の前で流れていく会話に適当に相槌を打ちながら、頭の端にこびりついた考えは止まることなく流れ続ける。

 24年間自分だと思っていた身体は、
 今の身体にしたって、
 受け取ってきた愛情にしても、
 全て本来受け止めるべき誰かがいたはず。

 そう。
 この魂でさえ、

 普段なら考えもしないような、
 普段なら忘れていたようなことが一気に膨れ上がる。
 胃の奥に固いしこりが生まれ、喉元目掛けて競りあがり、零れそうになる呻き。
 それもこめかみの痛みと眉間の皺に掻き消され、唇を噛むにも至らない。

 俯けば頬にかかる自分の黒い髪。
 彼らの持つそれとはまったく違う。
 目を背けた先の天井の色は無機質な灰色で、瞼の裏に常に思い描く楽園の青には程遠く。

 青の鮮やかさとの落差に溜息が漏れる。

 幼い頃に焦がれたあの色と、彼らが互いにあまりにも優しくて。
 そこに俺も居て当然という顔をしたりするから。

 俺だけが黒い髪で、俺だけが黒い瞳。
 違うことに意味なんかないと彼らは笑うのだけど。

 それでも、時々重くなるんだよ。
 こいつらの頂点に立って、俺がやりたいことをやる、ということが。
 あの叔父との反目を呼んだということが。
 青い瞳と金色の髪の一族を率いるのが黒い俺であることが。

 あんたが着ていた赤い服を引き継いでも、どこかが違っていて。
 黒い髪により禍々しく映える赤。

 それが俺なんだとわかってはいるけれど。
 笑顔を作りながら、眉を顰めながら、
 どこかでこいつらは結局俺とは違うんだ、と自分の中で膨れ上がる違和感は押さえようもなく。

 常の疲労を言い訳に、ソファから立ち上がると口の端に軽く笑みを掃いて見せる。
 多かれ少なかれ俺を気遣う表情に曇るであろう、あいつらを安心させるために、気休め程度にしかならないかもしれないが、疲れているのも事実だし。
 案の定、親父の顔にはかなり大袈裟な「心配」という文字が浮かび上がる。あんた、ほんっとに引退してから親ばかに拍車かかったな。

 居た堪れずに部屋を出た。
 室内の暖かな空気とは対称的な、ひんやりとした廊下の空気。
 ようやくこめかみの痛みをそのまま溜息にして大きく吐き出せば、視界に闇が下りてくる。
 仕事に戻る気にもなれず、屋上へと足を向けて階段を上っていく。
 高層階の屋外には強風が吹き荒れるが、頭上を仰げば青い青い空が広がっていた。
 まるであいつらの瞳の色や、あの南の楽園の高い高い空の色には敵わないけれど、それでも透き通った青。

 ああもう。
 大好きだよ。お前ら皆。
 一緒に居るのが苦しくなるくらいだ。
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15

月の雫


あの島から帰ってきた。
――皆で。
色々なことがあり、変わってしまったことがあったのに、現実に戻ればグンマには研究が待っていた。
しかし、そうやってすぐに日常に戻れるものは希少だった。
まずは、シンタロー。
大きな地震の後、島の住民達がどこかへと旅立ったことを知り、暫く呆然としていた。
彼がここに戻ってきたのも、あの島に残っていても肝心の少年達がいないからであって決してこちらにいたかったからではないだろう。
ろくに食事をとろうとしないのも気がかりのひとつ。
そして、もう一人の従兄弟。
彼もまた何をして良いのか分からず、相変わらず無表情にトレーニングルームにて筋トレをしている。
それぞれが思い悩む中、平和に見えるのはグンマだけだと誰もが思っていた。

そんな中、ふらりとシンタローがグンマの元を訪ねてきた。
「今暇か?」
「うんっ!」いきなりドアが開き、首だけを覗かせて問いかける従兄弟に慌てて手に持っていた工具を置くと、彼の元へとパタパタと近づいた。
「どうしたの、こっちにくるなんて珍しいよね?」
なにもシンタローだけでなく、大抵の団員は研究棟へ来ることはない。
研究員のようにここに詰めているものでもなけば、こんな奥まったところに顔を出すものがいないからだ。
独立した建物にあることも要因のひとつだが、マッドドクターの呼び名を持つグンマの育て親に会いたくないという、至極まともな理由が大半であろう。
「んー。確かお前、F-2区の鍵持ってたろ。借りれるか?」
F-2区というのは今いる建物の横にある、温室のひとつ。
研究棟とはいうが、このあたりにはいくつもの建物がある。
シンタローの言う温室も、中はいくつも分かれており、温度設定が定められているところだ。
「…ねえ、僕も行っていい?」
最近なにやら考え込むその姿を見かけるようことが多かったが、それが何を思っているのか分からず、グンマはただ見ているだけだった。
だから唐突に現れた彼が、何かを思いついたのか気になった。
「別に構わなねぇよ」
「じゃあ、ちょっと待っててね」
大急ぎで鍵を保管している引き出しをかき回す。
その場所は建てられた時期が古く、また利用頻度が低いこともあり、ドアが電子化されていない。
あの建物の以前の管理者よりグンマが引き継いだもの。
しかしバイオに関しては興味がないため、高松に管理を任せ、グンマは名目上の管理者でそこへ赴くことはあまりない。
程なくして鍵を見つけると、じっと見つめる。
「どうかしたのか」
動きの止まったグンマを不審に思い、声をかけた。
ゆっくりと顔を上げ、ふわりと優しい笑みを浮かべるとつかつかとシンタローに近づく。
何事かと眉を寄せるその手を取り、そこに鍵を握らせる。
長い間放置されていた鍵は冷たく、くすんだ色をしていた。
鍵とグンマと交互に見比べていると漸くその口が開いた。
「あげるよ、シンちゃんに」
この鍵は必要ないから。
鍵ごと手を包み込んだと思うと、一度も聞いたことがない優しい声が聞こえた。
「けれど、ここは…」
「僕のものじゃないよ。本当ならキンちゃんのものだし」
そう、元々はルーザーの研究室だったところ。
現在は我が物のように扱っているのは高松で、怪しげなバイオ植物も育てているが、昔の名残か、世界各国の植物が植えられている。
「それから、今はお父様のものだよ」
言外に、己の望みを告げる。
きっと気が付かれることはないだろうけれども、どうしても伝えたかったのだ。
何事にも捕らわれない彼が好きだったから。
未だに混乱しているシンタローは、居心地が悪く眼を逸らした。
この従兄弟は以前と変わってしまった。
髪を切った後、よく笑うようになった。そう、笑い方が変わった。
自分で何でも出来るようで、そのくせすぐに他人に頼るようなところがあったのに、今では自らの分野だけでなくガンマ団にある総ての研究員を束ねるべく頻繁に他の研究室に足を通わせている。
しかし、それは言外にガンマ団を、実父の跡を継ぐ気はないと表明しているようなもの。
前に進んでいく従兄弟は、きっと翻す気はさらさらないのだろうと、なぜかシンタローは分かっていた。
「行こっか」
顔を向ければ、笑っている従兄弟。
何が彼を変えたのか、とても不思議だった。


がちゃり、と原始的な音がする。
ドアは普通のものと違い、外の熱に影響されないように分厚くなっている。
そのため開けるのに苦労するが、ドアからあふれる熱気が心地よい。
「ここのドアも換えたいな~」
「好きにしろよ」
結局そうしたならばあの鍵の意味がなくなるのだが、発想があまりにもらしくて笑った。
熱帯の気候を模した温室にはガンマ団周辺では見かけることのない木々が植えられている。
暫く、二人とも無言で歩いた。長い間歩いた気もするが、実際は短かったかもしれない。
草を踏む音だけが耳に届く中、不意にシンタローが足を止めた。
その後ろを歩いていたグンマもつられて足を止める。
「…シンちゃん?」
仕方なく、声をかける。
グンマはどんな無茶を言われてもかまわないと思っていた。
たとえそれが、彼が目の前から去っていくことでも。

実際、あの島にいるときから覚悟していた。
この従兄弟がここで生きていくのだろうということ。
自分とは違う世界に行ってしまうのだと。
それでも笑ってくれるなら、それでいいと思った。
少し前の彼のような表情はもう見たくなかったから。


今彼がここにいるのは、奇跡。
あの子供が手を離してくれたから起きたこと。
何故きっちりと結ばれていたそれを離してしまったのかは知らない。
ただ、それが一番良い方法だと思ったのだろう。
あの子供は聡いから。


「綺麗だな」
「うん」
彼は振り返らない。
けれども、それでいい。
彼が今欲しいのは、話を聞いてくれる誰か。
だから、このままでいい。


「悪ぃ」
「…何が?」
息を整えて、泣かないように準備する。


「俺は、ここから始めようと思う。俺の楽園を」


一瞬にして、止まった。
彼は、なんと言った?
それは、そうその一言は。
望んだもの。
望んではならないと、抑えていた答え。
あの少年を追いかけるものだと思っていた自分がいた。
だから。


「―――っぅ」
「グンマ?」
シンタローが振り向く姿が、翳んでいた。


きっと、もう使われなくなると思ったから、鍵を渡した。
あの島と、彼と繋がっていたいと少しでも思っていたかったから。


「泣くなよ」

困った顔で、シンタローが頭を撫でてやるが、その涙が止まることはない。
「お前の、居場所を取っちまって悪いな」
でも、決めたから。
その言葉に、頭を横に振ることで答える。
居場所なんて、どうでも良かった。
自分があの父親の跡を継ぐつもりはなかったし、なによりどんなことをしても自分が変わるわけではないと分かったから。
たとえ名前が変わっても、親が違っても、自分は自分なのだと。


漸く涙がひいて、眼が赤いままグンマは笑った。
「お帰り」
「…なんだよ」
いきなりの言葉に、どっと力が抜けた。
「気にしないでよ」
「大体、何で泣いたんだよ。わけわからねーよ」
「あはは」
言うつもりはなかった。
きっと、怒るだろうから。
「それで、これからどうするの?」
せがんで我侭を通して手をつないでもらった。
こんなのはいつ振りだろうか?
嫌がりながらその手を握る彼の眉間には皺が寄っている。
「ん、そうだな~。取り合えず親父の跡をついで…」


彼の声が、耳に優しい。


この胸の中の誓いは、きっと変わることがないだろう。


彼のためならば、僕は何だってしてみせよう。
幼いころ、僕を守ってくれるといった彼のために。









<後書>
いかがでしたでしょうか?
初めての長い話ということでしたが、これでお終いとさせていただきます。

書いている最中で、自分の中のグンマさんが変わっていくのが分かり、そのため、読みづらいところも沢山あったと思います。
ただ、シンタローさんが大好きなグンマさんを書こうとしていただけなのに、いつの間にかグンマさんが大好きになっていく自分に笑ってしまいました。
もし、この話を読んで、グンマさんを好きになってくれる人がいたらなと思います。


ここまで読んでくださった皆様、感謝の言葉でいっぱいです。本当に長々とありがとうございました。

14

月の雫

心と頭が連動してくれない。
ぐるぐると回るこの気持ちは、一体どう処理するべきなのだろう。
これは意地とかではなく、受け止められないからだと分かって呆然としてしまう。

従兄弟じゃなかったとか、血が繋がっていないとか関係ない。
このまま帰ってしまえば解決すると思ったがやはりそういうわけにもいかなかった。
今までの、シンタローという人物は影だという。
知らない人が知らない声であざ笑うかのように、いや、実際にこちらを見下していたのだろう。
でもそんなことは、問題じゃない。
必要なのは、こんな知らない人からの評価じゃなくって、笑っている彼からのもの。
番人だろうが、影だろうが関係ない。

従兄弟の“シンタロー”は彼だけなのだから。


鶏の背に乗り、空を飛ぶ。
頬に当たる風が気持ちよく、少しだけ気分が軽くなった。
一番の要因は彼が戻ってきたからだけど。
それでも全快しない理由は、何か言いたげにしている視線があるからだろう。
そして、もう一人の、本当の従兄弟。
どうやら高松の説明に納得したらしい従兄弟は、しかしまだシンタローに拘っている。
それは今の彼に何もないからだろう。
幸いシンタローが取り合わないから、笑って済ませられるといったところか。
ただ、グンマもそれどころではないというのが現状だ。
頭の中が整頓できずにいるのは確かだ。
否、してしまうのが怖いのだ。
「おい」
シンタローから声をかけてくれるなんて、常ならばないことなのに、なぜか心はざわついたまま。
「顔色悪いぞ」
頬に触れる手が、彼がここにいることを教えてくれる。
暖かい手。
言葉に出せない一言が頭に過ぎり、ふわりと笑う。
その手に、自分の手を重ねることにより、彼がここにいることを確認する。

もう、恐れるものはない。
彼はここに在る。


皆、気がつくべきなのだ。
「僕の従兄弟はシンちゃんだけだ」
だって、君は違う。
24年間、閉じ込められていたという彼に対して、グンマは手厳しい。
彼がしていることは無駄に時間を空費しているだけ。
今までの自分のようになって欲しくないから。
過去を振り返るな、なんてことは言えない。
過去があるからこその人であり、その積み重ねが認識されることだから。
だからこそ、気がついて欲しい。

名前とか、誰の子供であるかが重要なんじゃない。
本当に大切なこと。

おそらくは生死をかけた戦いに、グンマがついていくことに困惑された。
戦闘に不向きである以上残るべきだといわれたが、どうしても自分の目で見たかっのだ。
「それに、もう一人のシンちゃんが行くのに何で僕が行っちゃいけないの?」
そう、この島を破壊しようときた彼も行くというのに、自分を止める理由などないはずだ。
「あのなぁ…」
「何か問題でもあるの?」
「在りますとも!もしグンマ様に何かあったらこの高松…!」
「僕はもう、ルーザー叔父様の息子じゃないよ」
その一言で押し黙るのをみて、息を大きく吐く。
しかし気にかかっているのは一人、否二人。
「何で君は行くの?」
不意に声をかけられ、虚に突かれたのように驚く。
もう一人の従兄弟はしかし、何も言うことができないのか口を幾度か動かしただけで何も言わない。
誰も何も言わない。
それは彼が叔父たちと戦う理由がないことを知っているからだ。
「ね?」
にこり、と今までと態度を一変させたグンマに皆があっけに取られる。
その様子をしってかしらずか、グンマは胸を張って続ける。
「彼が行くなら、僕も行くよ。僕だってこの島を守りたいんだから」
何がどのようにして繋がっているのかわからない。
その沈黙を破るかのように、シンタローがグンマの頭をぐしゃりとかき混ぜた。
「ったく、自分のことは自分で何とかしろよ?」
「うん!」


いってやりたかった一言がある。
その力ゆえに彼を悩ませ、自分の家族達が数奇な運命をたどった。
生まれてついたその能力に身を滅ぼしたもの、蝕まれ今もなお縛られているもの。
――死んでからも開放されぬその魂。
「僕達は、石ころのおもちゃなんかじゃない」
知っていた、この力を。
総てを破壊してしまうほどに大きく、それゆえ無意識に抑えていた力。
怖かった、争うこと、奪うことが。
けれども、今は違う。
逃げることによって避けていたこの力を今。


道を開くために使おう。



――始めて見たその光は、とても綺麗で、悲しい色だった。










<後書>
捏造部分が薄いです。
グンマさんってば、一族対決のときが一番男前だなと思います。
PAPUWAでは、仲のよい家族をやっていますが、このあたりではちと違う感じ。
彼が守りたいのは、シンタローさんしかいないので(笑)

ここまでお付き合いありがとうございました。
一応、次で最後、というか後日談風になります。
…いつからかいてたっけこのシリーズ…
13

月の雫

つかの間の休息は秘石眼から発せられる痛みによって、終わりを告げられた。
シンタローが戻ってきてから、重傷の為に暫く床に伏せていたトットリ、全身に大火傷を負ったアラシヤマと決して平穏無事ではなかったが、それに乗じて敵が攻めてくるということがなかった。
しかし今、この眼の痛みが何かを知らせようとしているようだった。これから始まる、何かを。
「とりあえず、高松を探すか」
ぼろぼろと涙を流し始めたグンマを見て、やれやれと立ち上がるシンタローのズボンを慌てて掴む。
「僕も~」
何とか立ち上がり、よろよろと歩く姿にシンタローがため息をついてその肩を持った。
「ったく、大変なのに我侭言うんじゃねぇよ」
「へへへ~」
歩くのを支えてもらったグンマは上機嫌だ。
眼が痛いにもかかわらず、うれしそうに笑っている。
あまりの浮かれぶりに、手を離してやろうかと、思っていると話し声が聞こえた。
それはその場にいた全員に聞こえたところから、空耳ではないらしい。
「あ、高松の声だ!」
どこにいるのかと耳を澄まそうとした瞬間、グンマの声によって遮られる。
あまりのタイミングの良さに、それが意図的であることに気がついたものはいない。
自分の父親の名前が聞こえてきたからだ。
グンマは父親を知らない。それは生まれる前に亡くなったから。
だから不思議だった。今、このタイミングでその名が出てきたことに。
幸い色々あったものの、グンマの涙によってその話し合いは中断され、さらに拍車をかけるかの様にサービスが止めを刺したためジャンはどこかに消えていった。
「ああ、グンマ様!御可哀想に」
一族全体が眼を痛めているという時に、両目から涙を流す。
そのことに、グンマは罪悪感を感じた。なぜか両目が痛いことも不思議だが、そのことを突っ込んでくるものはいない。
ちらり、とシンタローのほうを見るが気にしているわけでもなく、ほっとする。
「どうかしたのかよ?」
不機嫌そうな声に、慌てて眼にタオルを当てる。
「わ~ん、高松~!シンちゃんが因縁をつける~!」
「ちょっとあんた、グンマ様が何をしたって言うんですか!グンマ様は目が痛いんですからいたわるのが当たり前でしょう?」
その後も口喧嘩は続いていたが、手が出る様子もなさそうなので、グンマは眼の痛みが引くことを祈りながらタオルの位置をずらす。
そしてひと段落もついたころには、痛みもある程度収まり、そして漸く先ほどの疑問について整理することが出来た。
「ねぇ、高松。お父様ってどんな方だったの?」
そのときの二人の言葉に気がつくべきだったのかもしれない。
自分の目の痛みよりも、もっと重大なことに。


自分の出生とそして本当の自分の父親を聞いて、怒りよりも彼の居場所を奪ってしまったという事実のほうがショックだった。
嘘だと否定する声が心の中で大音量で鳴り響いているが、片隅にある冷静な部分が肯定をし始めている。
なぜ、いまさらそんな話をする?
きっと駒としての価値がなくなったから。シンタローが本当にルーザーの息子であり、総帥のあとを継いだときにでも言うつもりだったのだろう。
しかしシンタローが番人であるならば、関係はなくなる。
なぜ、ここに高松がいない?
きっと、もう一人のシンタローの元へ向かったのだろう。本当の、敬愛なる師の息子を迎えに。
考えてみれば、シンタローに対する態度はグンマを除いた他の人たちとどこか違った気がする。
それもこの取替え話を聞けば合点がいく。
段々と声は収まり、ただ虚しさだけが残った。
結局、自分のしてきたことがどれだけ意味の為さないことだったかということが浮き彫りになったというだけだ。
昔から叔父であるはずのサービスがシンタローだけをかまっていてもグンマは少し寂しいと思っても、彼が認められていると思えば心から喜べた。
しかし、それがもし復讐のためだと言うのなら、誰も彼を見ていなかったということではないか?
結局はただの人形としか、他の誰よりもひどい扱いを彼に強いてきたのだ。
そんなことにも気がつけず、驕り高ぶっていた自分が悔しかった。
「…高松」
わかっていたはずだった、あの保護者がコタローを閉じ込めるのに一役買っていたということに。
それでもそれは命令だからだと信じていたかったが、きっと心の中ではこの愚かな喜劇を楽しんでいたのだろう。
そうとは知らずに、シンタローに強くなってほしいと思っていたグンマなど、彼らの望んだ以上に滑稽なものだったに違いない。
けれども、そんなことが問題ではない。
見抜けなかった自分が悪いのだからと、ある程度の諦めがつく。
そんな些細なことではなく一番大切なことは、彼らのしたことが成功していたとき、いったい誰が傷ついていたかということだ。
煙が上がってから暫く経つ。
それでも、グンマには関係なかった。
一方、話を切り出したサービスは、その異変がいったい何なのか対処できずにいた。
いまさら家族として仲良くするなど考えられなかった。
あの二人は大切なものを奪ったのだから。
しかし今、この目の前にいる甥から感じる圧力は何事であるかわからなかった。
先ほどまで泣いていたはずだった。自分が信じていたものの名前を呼びながら。
確かにこの甥に対して、高松は何かと眼をかけていた。そして本当にルーザーの息子であるかのように研究者としての道を歩み始めた。
しかしサービスが知っている限りでは、まるで夢を見るような発明をし、失敗作しか作っていない、悪く言うならばそれこそ出来損ないだった。
一族の特徴である、金と青を持っているにも拘らず、その力の恩恵に恵まれず、そして弱弱しい性格。
もし、マジックがおよそ一族の子供とは思えないグンマが息子だと知ったら。
何よりもガンマ団、そして一族の血を重んじるマジックにどれだけの衝撃を与えることが出来るかと、いつも考えていた。
ショックに打ちひしがれる姿を見て、この甥に対して多少の罪悪感を感じたものの、それよりも今この場にいないジャンや下の爆音のほうが気になった。
高松もまだ戻らない。
だから一度下に降りようかと思った瞬間、じわりと力を感じた。
ありえなかった。
生まれてから何度も検査を受け、何度も陰性という結果になったと聞いている。
サービスもこの甥から今までこの甥が一度も力を使っているところを見たことはない。
秘石眼を持っているならば、感情が高ぶった際には青く光り、さらにはその力によって物を破壊したりすることがある。
しかし、グンマにいたっては今までそんなことはなかったはずだ。

「…叔父様」
一段と負荷が増す。
「なんだい?」
努めて平静に、しかしグンマを見ることが出来ずにる自分に驚きを隠せない。
一体、何におびえているというのだろう?
得体の知れない、しかしよく知っているこの力の正体。
「僕は、ずっと信じていました。叔父様はシンちゃんを裏切らないって」
俯いていたその顔がゆっくりと持ち上げられる。
「でも違ったんですね。叔父様たちは、最初からシンちゃんを裏切っていたんだ」
顔がその瞳がサービスを捉える。
「僕は、あなた達を――」
「僕達も行くぞ」
思わぬ声にグンマのその先を言えずに、思わず声の主にそのままの眼を向けてしまった。
しかし、パプワは怯むこともなくその視線を受け止めた。
「どうかしたのか?」
「でも、シンちゃんを待つんじゃないの?」
戸惑いを隠せないグンマからは、最早先ほどのような圧力は微塵も感じない。
「僕は皆を安全な場所に連れて行くと約束したからな。だから行くんだ。お前はどうする?」
「うん…」
ちらり、とグンマはサービスのほうへと目線を向けるが、そこにあるのはいつものように空色の瞳があるのみ。
まだまだ非難の色は浮かんでいるところから、サービスと行動することを望んでいないことがありありとわかる。
「そんなに嫌いなんだな」
「まあね」
それでもどこか抵抗があるのは、きっと。
「シンちゃんは、そんなこと思わないんだろうけどね」
今更、血の繋がり等気にしていないだろう、シンタローは裏切られたと思ったとしても関係ないことだ。
「だから、いいんだ」
そう、きっと彼は望まない。グンマが筋違いの復讐をすることを。
それにここで仲間割れをしても仕方がないのだから、とすぐに気持ちを切り替えたのだ。
「パプワ君、ありがとう」
「ははは」
二人はチャッピーと共に爆音が相変わらず響く場所へと足を向けた。
サービスも漸く立ち直り、その後を追いかけようとしたが、ちらりと振り返ったグンマの目に足を止めてしまった。
力は感じないのに、確かに蒼く光る両の眼が、まだこちらを赦していないと語っていた。





<後書>
え~、山場?
グンマさんの怖さに漸く気がついた一番最初の人です(別名犠牲者)
日記と違うのは私自身があの展開に疑問を持ったからです。す、すみませ…
こっちのほうが自然な気がしたので変えました。

次は従兄弟ズ(トリオ)が揃います。(予定)


12

月の雫

着いた途端に生き生きとし始めた彼に、ほっとしつつも一抹の寂しさを覚える。
きっと、先ほど来たときには要点だけを言ったのだろう。少年とシンタローの会話はとても暖かい。
「ちゃんとメシは食ってたのか?」
「当たり前だろう。なんせ」
「育ち盛りだもんな」
屈託のない笑顔。朗らかな、笑顔。
視線を合わせるために屈み込んでいるその姿は、この島での彼のあるべき姿。
柔らかな雰囲気は、それが一朝一夕で出来たものでないことを如実にあらわしている。
否、時間だけではない。一緒に過ごしてきた長さでいえば、グンマとの方が明らかに長いはずだ。
問題はいかに過ごしてきたかだ。
そのことがあまりにも悔しくて、屈みこんでいるシンタローの隣に強引に座り込む。
「シンちゃん、紹介してくれるんでしょ?」
「僕はお前のことを知っているぞ。グンマって言うんだろう」
ごく自然に、けれどもあからさまに邪魔をしたのに、返ってきた反応はあっけらかんとしたもの。
素直な反応に、拍子抜けすると共にちくりと針が刺す。子供相手に自分は警戒し、そして嫉妬している。
「うん、僕も知っているけどちゃんと挨拶するのは初めてだからね」
「うむ。中々礼儀正しいな。どこかの誰かとは大違いだ」
誰を対象にした嫌味かあからさまに漂わせたその一言は、しかし結果通り相手に届いたというのにパプワはじぃっとグンマを見つめる。
その視線は、ごく純粋に見ているようにも、そして何かを判別するかのような、心の奥底をのぞかれている気分になる。
「コンニチハ」
けして不自然ではない、しかし人形のような完璧な挨拶。
視線に負けたわけではない。ただ、緊張している自分がいる。
「うむ、これからよろしくな」
なのに、その返事はとても素直。気がついているはずなのに、と思うのは買い被りだったのかとその緊張を解きへらりと笑うと小さな手が指し伸ばされた。
「そのほうがいいな」
「…ありがとう」
気を緩めてしまったこと、そしてそのことに気が付かれた事に反応するものの笑ってその手をとった。
この、小さな手が変えたものがどれだけグンマにとって大切なものであるかと思えば、何もいえなくなる。
感謝の気持ちを込めて軽く握りなおすと、分かっているよといわんばかりに微笑まれた。
たったそれだけで、自分が完敗したことがよく分かった。
そしてそのお陰で振り切ることが出来た。

―――気がした。


祠から地下通路を通って抜け出す。
グンマの中には彼が帰ってこないという不安はない。
否、それは嘘だと自分をあざ笑う声がどこかから聞こえた。
“確かに、シンタローは帰ってくるだろう。しかし、それは本当に、自分の知っているシンタローだといえるのか?”
その声は囁いてくる。
あのジャンという番人と融合したら、そこにいるのはシンタローなのかそれともジャンなのか。あるいはまったく別の人格なのか。
あれ程、彼の体を望んでいたのに今では精神のままでいいからそばにいて欲しかった。
シンタローが体をなくした後。触れられないことで彼がこのままではないかという思いが生じ、躊躇いが生まれた。
双方が傷つくならば、伸ばした手を引っ込めればいいと思っていた。
でも、パプワと話すシンタローを見てよく解ってしまった。
必要なことは、きちんとコミュニケーションを取れること。そして、相手を思う気持ちがそこに存在することなのだと。
なんて簡単で、難しいことなんだろうか。
そのさじ加減を、パプワはごく自然にやって見せた。
結果は瞭然としている。

「ねえ、高松」
体力のないグンマを気遣いながら隣を走っている高松に声を掛ける。
「僕は、この島に来てよかったと思っているよ」
走っているせいでいつものようなトーンでは話せなかったが何とか笑うことが出来た。


たとえ、赤の番人でもなんでも。
シンタローが従兄弟であると、グンマはこれから先も思えるだろう。


そしてなにより。

心が決まった。


彼のためならば、何でもできる気がした。
今まで見たいに隠れてではなく、堂々と。

それがたとえ嫌われる結果になったとしても。
離れていくかもしれなくとも。




笑顔でいてくれるとするならば、それでいい。







<後書>
ようやく二人が顔をあわせましたグンマさんとパプワ君。
仲は良いでしょう。きっと。
このときにはすでに戦闘モードに入っていたので、グンマさんも戦いに参加する決心はついていたかなと。


相変わらず、ぶつ切りですみません…


次は、え~と。

…ようやくサービス叔父様との話し合いかな?(昔、日記で書いていたのですよ)

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