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13

月の雫

つかの間の休息は秘石眼から発せられる痛みによって、終わりを告げられた。
シンタローが戻ってきてから、重傷の為に暫く床に伏せていたトットリ、全身に大火傷を負ったアラシヤマと決して平穏無事ではなかったが、それに乗じて敵が攻めてくるということがなかった。
しかし今、この眼の痛みが何かを知らせようとしているようだった。これから始まる、何かを。
「とりあえず、高松を探すか」
ぼろぼろと涙を流し始めたグンマを見て、やれやれと立ち上がるシンタローのズボンを慌てて掴む。
「僕も~」
何とか立ち上がり、よろよろと歩く姿にシンタローがため息をついてその肩を持った。
「ったく、大変なのに我侭言うんじゃねぇよ」
「へへへ~」
歩くのを支えてもらったグンマは上機嫌だ。
眼が痛いにもかかわらず、うれしそうに笑っている。
あまりの浮かれぶりに、手を離してやろうかと、思っていると話し声が聞こえた。
それはその場にいた全員に聞こえたところから、空耳ではないらしい。
「あ、高松の声だ!」
どこにいるのかと耳を澄まそうとした瞬間、グンマの声によって遮られる。
あまりのタイミングの良さに、それが意図的であることに気がついたものはいない。
自分の父親の名前が聞こえてきたからだ。
グンマは父親を知らない。それは生まれる前に亡くなったから。
だから不思議だった。今、このタイミングでその名が出てきたことに。
幸い色々あったものの、グンマの涙によってその話し合いは中断され、さらに拍車をかけるかの様にサービスが止めを刺したためジャンはどこかに消えていった。
「ああ、グンマ様!御可哀想に」
一族全体が眼を痛めているという時に、両目から涙を流す。
そのことに、グンマは罪悪感を感じた。なぜか両目が痛いことも不思議だが、そのことを突っ込んでくるものはいない。
ちらり、とシンタローのほうを見るが気にしているわけでもなく、ほっとする。
「どうかしたのかよ?」
不機嫌そうな声に、慌てて眼にタオルを当てる。
「わ~ん、高松~!シンちゃんが因縁をつける~!」
「ちょっとあんた、グンマ様が何をしたって言うんですか!グンマ様は目が痛いんですからいたわるのが当たり前でしょう?」
その後も口喧嘩は続いていたが、手が出る様子もなさそうなので、グンマは眼の痛みが引くことを祈りながらタオルの位置をずらす。
そしてひと段落もついたころには、痛みもある程度収まり、そして漸く先ほどの疑問について整理することが出来た。
「ねぇ、高松。お父様ってどんな方だったの?」
そのときの二人の言葉に気がつくべきだったのかもしれない。
自分の目の痛みよりも、もっと重大なことに。


自分の出生とそして本当の自分の父親を聞いて、怒りよりも彼の居場所を奪ってしまったという事実のほうがショックだった。
嘘だと否定する声が心の中で大音量で鳴り響いているが、片隅にある冷静な部分が肯定をし始めている。
なぜ、いまさらそんな話をする?
きっと駒としての価値がなくなったから。シンタローが本当にルーザーの息子であり、総帥のあとを継いだときにでも言うつもりだったのだろう。
しかしシンタローが番人であるならば、関係はなくなる。
なぜ、ここに高松がいない?
きっと、もう一人のシンタローの元へ向かったのだろう。本当の、敬愛なる師の息子を迎えに。
考えてみれば、シンタローに対する態度はグンマを除いた他の人たちとどこか違った気がする。
それもこの取替え話を聞けば合点がいく。
段々と声は収まり、ただ虚しさだけが残った。
結局、自分のしてきたことがどれだけ意味の為さないことだったかということが浮き彫りになったというだけだ。
昔から叔父であるはずのサービスがシンタローだけをかまっていてもグンマは少し寂しいと思っても、彼が認められていると思えば心から喜べた。
しかし、それがもし復讐のためだと言うのなら、誰も彼を見ていなかったということではないか?
結局はただの人形としか、他の誰よりもひどい扱いを彼に強いてきたのだ。
そんなことにも気がつけず、驕り高ぶっていた自分が悔しかった。
「…高松」
わかっていたはずだった、あの保護者がコタローを閉じ込めるのに一役買っていたということに。
それでもそれは命令だからだと信じていたかったが、きっと心の中ではこの愚かな喜劇を楽しんでいたのだろう。
そうとは知らずに、シンタローに強くなってほしいと思っていたグンマなど、彼らの望んだ以上に滑稽なものだったに違いない。
けれども、そんなことが問題ではない。
見抜けなかった自分が悪いのだからと、ある程度の諦めがつく。
そんな些細なことではなく一番大切なことは、彼らのしたことが成功していたとき、いったい誰が傷ついていたかということだ。
煙が上がってから暫く経つ。
それでも、グンマには関係なかった。
一方、話を切り出したサービスは、その異変がいったい何なのか対処できずにいた。
いまさら家族として仲良くするなど考えられなかった。
あの二人は大切なものを奪ったのだから。
しかし今、この目の前にいる甥から感じる圧力は何事であるかわからなかった。
先ほどまで泣いていたはずだった。自分が信じていたものの名前を呼びながら。
確かにこの甥に対して、高松は何かと眼をかけていた。そして本当にルーザーの息子であるかのように研究者としての道を歩み始めた。
しかしサービスが知っている限りでは、まるで夢を見るような発明をし、失敗作しか作っていない、悪く言うならばそれこそ出来損ないだった。
一族の特徴である、金と青を持っているにも拘らず、その力の恩恵に恵まれず、そして弱弱しい性格。
もし、マジックがおよそ一族の子供とは思えないグンマが息子だと知ったら。
何よりもガンマ団、そして一族の血を重んじるマジックにどれだけの衝撃を与えることが出来るかと、いつも考えていた。
ショックに打ちひしがれる姿を見て、この甥に対して多少の罪悪感を感じたものの、それよりも今この場にいないジャンや下の爆音のほうが気になった。
高松もまだ戻らない。
だから一度下に降りようかと思った瞬間、じわりと力を感じた。
ありえなかった。
生まれてから何度も検査を受け、何度も陰性という結果になったと聞いている。
サービスもこの甥から今までこの甥が一度も力を使っているところを見たことはない。
秘石眼を持っているならば、感情が高ぶった際には青く光り、さらにはその力によって物を破壊したりすることがある。
しかし、グンマにいたっては今までそんなことはなかったはずだ。

「…叔父様」
一段と負荷が増す。
「なんだい?」
努めて平静に、しかしグンマを見ることが出来ずにる自分に驚きを隠せない。
一体、何におびえているというのだろう?
得体の知れない、しかしよく知っているこの力の正体。
「僕は、ずっと信じていました。叔父様はシンちゃんを裏切らないって」
俯いていたその顔がゆっくりと持ち上げられる。
「でも違ったんですね。叔父様たちは、最初からシンちゃんを裏切っていたんだ」
顔がその瞳がサービスを捉える。
「僕は、あなた達を――」
「僕達も行くぞ」
思わぬ声にグンマのその先を言えずに、思わず声の主にそのままの眼を向けてしまった。
しかし、パプワは怯むこともなくその視線を受け止めた。
「どうかしたのか?」
「でも、シンちゃんを待つんじゃないの?」
戸惑いを隠せないグンマからは、最早先ほどのような圧力は微塵も感じない。
「僕は皆を安全な場所に連れて行くと約束したからな。だから行くんだ。お前はどうする?」
「うん…」
ちらり、とグンマはサービスのほうへと目線を向けるが、そこにあるのはいつものように空色の瞳があるのみ。
まだまだ非難の色は浮かんでいるところから、サービスと行動することを望んでいないことがありありとわかる。
「そんなに嫌いなんだな」
「まあね」
それでもどこか抵抗があるのは、きっと。
「シンちゃんは、そんなこと思わないんだろうけどね」
今更、血の繋がり等気にしていないだろう、シンタローは裏切られたと思ったとしても関係ないことだ。
「だから、いいんだ」
そう、きっと彼は望まない。グンマが筋違いの復讐をすることを。
それにここで仲間割れをしても仕方がないのだから、とすぐに気持ちを切り替えたのだ。
「パプワ君、ありがとう」
「ははは」
二人はチャッピーと共に爆音が相変わらず響く場所へと足を向けた。
サービスも漸く立ち直り、その後を追いかけようとしたが、ちらりと振り返ったグンマの目に足を止めてしまった。
力は感じないのに、確かに蒼く光る両の眼が、まだこちらを赦していないと語っていた。





<後書>
え~、山場?
グンマさんの怖さに漸く気がついた一番最初の人です(別名犠牲者)
日記と違うのは私自身があの展開に疑問を持ったからです。す、すみませ…
こっちのほうが自然な気がしたので変えました。

次は従兄弟ズ(トリオ)が揃います。(予定)


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