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11

月の雫

いつもよりも大きな衝撃。
その爆発音に驚くが、慣れてしまっていて直に作業を開始した研究員をよそになぜかグンマだけは何かを感じ取った。
それが何かはわからなかったが、ただ何故か、そう何故かあの従兄弟が絡んでいるような気がして、今まさに動かそうとしていたロボットのリモコンを研究員からもぎ取ると部屋から飛び出した。

数日前に、彼らの叔父であるサービスがあの島に行った時、手詰まりだと思った。
シンタローがあの叔父に弱いことは知っている。憧れであるあの叔父に説得されたらきっと戻ってくるだろうと簡単に予測できた。
それに切り札がある。
コタローの秘密。
グンマはサービスの失われた片目についてはシンタローからそれこそ耳にたこが出来るくらい聞いていた。
もし、秘石眼の危険性をあの叔父から再度諭されたら、それに応じる可能性はきわめて高かった。
それでも、どこかで信じていた。

彼があの島で生きることを。

しかし、それはいつものように極秘情報を傍受して裏切られたことを知った。
そのときに、あるひとつの思いが浮かび、グンマを呆然とさせた。
そのことを考えないようにと、帰って来たならば自分も会わせてもらおうと思いながら過ごした数日。
総帥室とは違う、どこか別の場所で起きた爆発音を頼りにそちらに向かう。
かなり奥まった場所から聞こえた気がしたそれに、グンマはいやな予感がする。
そういえば、コタローの情報が最近頓に少なくなった気がした。
グンマは、シンタローがあの島にいる限り奪われる必要はないと思って現状維持をしたのだと思っていたが、もしかしたら違うのかもしれない。
「いったい何が…」
日頃の運動不足がたたり、体が思うように動かない。
ようやくのことで、エレベータに乗り込み、息を吸い込んだ瞬間。
大きな何かを感じた。
先ほど感じたような刹那的な何かではなく、抑えることを知らないような力強い何か。
そこから感じられる悪意にぞっとしながら、今まで気がつかなかったことに驚く。
その力は間違いなく一族のもの。しかし、こんなに周辺にまき散らかすかのような力は初めてだった。
その力を受けて、グンマはただならぬことが起きたことを改めて意識した。


大きな穴が開いていた。
焦げた匂いと、希薄な従兄弟。
すっかりとげとげしさがなくなった彼はそんな姿になっても“彼”であることに気がつき、グンマは何かが剥がれ落ちるのを感じた。
当たり前のことが、ようやく分かった気がした。
「それでは、行きますかの」
漫才がひと段落着いたところでこれまた希薄なふくろうが号令をかける。
行き先は、あの島。
なにやら複雑そうな顔をしているシンタローを尻目に、グンマは勢いよく手を上げる。
「僕も行くね」
無邪気な台詞とあまりにも当然という雰囲気に頷きかけた皆はそんなグンマを凝視する。
たった一人、何事にも無関心な叔父を除いて。
「お前、何考えてんだよ!」
「そうですよ、何かあったらこの高松、どうしたらよいのか…」
「グンちゃん、これは遠足じゃないんだよ?」
三者三様の言葉に、無邪気に首を傾げる。その仕草からは、彼が何も考えていないようにしか見えない。
「何で皆心配してるの?ただあそこに行くだけでしょ?」
「あのな~――」
「ほら、早く行こうよ~」
何かを言おうとするシンタローを制し、にこりと笑うと高松の手を取る。
「もちろん、高松も行くよね?」
「――ええ、当たり前じゃないですか」
一瞬の返答の遅れに、しかし気がついたのはグンマのみ。
「って、お前ら待てよ!」
さくさくと進む事態に当事者がはたと気がつき、慌ててその後を追いかけてた。


戦艦に乗り込んで、ようやく何とかシンタローと二人っきりになれ、グンマはニコニコと笑っていた。
「なんだよ、気色悪ぃ」
「え~、シンちゃんとこうやって話すの久し振りなんだもん」
島にいる間、シンタローはパプワの横にずっといたので、二人だけということは決してなかった。
そしてそれ以前のシンタローは、何を話しかけても、むっすりとしていて表情を動かすことすらなかった。それがどれだけ、グンマの心を痛めていたかなんて、きっとシンタローは夢にも思わないだろう。
だからこそ昔に戻れたようで、気持ちを抑えることなんて出来ない。
「ったく俺が死んだっていうのに、酷ぇな」
ため息をつき、壁に寄りかかる。
例えば、人が触れようとすればすり抜けてしまうのに、こうして寄りかかれるというのはなんとも不思議である。
その仕草に少しだけグンマが眉を顰めたが、気がつかせないように笑って言葉を紡いだ。
「でも、あっちに帰れば体があるんでしょ?」
「他にも問題はあるぜ、例えばあの金髪の男とかよ」
コタローを連れて行った男がこれから何をするつもりなのかわからない。
いや、おおよそ予測は出来た。それは、もしあの男が自分と同じ記憶を共有していたとしたらの予測だが、多分あっているだろう。
あの島が、秘石と係わり合いがあるということ。青の秘石があの島にあるということ。
自分が良かれとしたことが裏目に出てしまったことにシンタローは後悔している。
あの島を、巻き込むことだけはしたくなかったのに。
知らず知らずのうちに、手に力が篭る。
「大丈夫だよ、シンちゃん」
しかし、まるで心を読んだかのようにグンマが声をかけた。
「僕の従兄弟はシンちゃんだけなんだから」
椅子に座って足をぶらぶらさせていたグンマは立ち上がると、シンタローの頬に触れるか触れないかの距離まで手を伸ばす。
「シンちゃんはね、僕の自慢の従兄弟だから」
なぜだか照れくさくなり、シンタローはそっぽを向いた。
「何言ってやがる、この前まで俺のことを連れ戻そうとしてたくせによ」
「え~、違うよ。遊びに行っただけだもん」
ぷー、と膨らませた顔はどう見ても同い年には見えない。
あまりにも似合いすぎるその仕草に、本当にそうだったのかもしれない思ってしまい、こらえきれずに笑ってしまった。
「その割には、俺にロボットをけしかけてくるよな」
「だって用事がないと、シンちゃん構ってくれないじゃんかー」
まるで子供の発想である。
グンマは真剣であるが、それゆえにシンタローは呆れるしかない。
大きく溜め息をつくと、頭をぽんっと叩いた。
「そんなことせんでも遊んでやるよ」
「ほんとー!やったー!」
ぴょんぴょんと跳ねながら喜びを表すグンマに苦笑する。
「あ、シンちゃん。じゃあ今度はシンちゃんのお友達をちゃんと紹介してね」
くるりと、振り向いてシンタローに笑いかける。
これから、その島に行くのだからそんなことを言われなくともそのつもりだった。
「当たり前だろ。怖くって泣くんじゃねーぞ」
「うん」
嬉しそうにニコニコと笑い続けるその姿に、シンタローはそんなに嬉しいものかね、と思ってしまう。
しかし、それは半分正しく、半分間違いであった。
シンタローは気付いているだろうか?
これほどリラックスして一族のものと話すのが久し振りであるのかということに。
それが、どれだけグンマにとって嬉しいことであるかということに。

ただ、ほんの少しのことだというのに…


とっさに伸ばした手を引っ込めるわけにも行かず、その先にいた高松の手を取った。
それはきっと自然に見えるだろうと踏んで。
肉体のない彼に触れることが、躊躇われて。そして触れられないという事実が怖くって。
しかし、その行動がもたらしたものは二つ。
高松の意識が逸れていたこと。
シンタローのためならばなんでもしそうなマジックの行動が遅いこと。
否、マジックの方に関してはある程度は分かっていた。
暴走するかもしれないコタローに対してどうするかで、悩んでいるのだろう。
一旦ここから抜け出した以上、マジックがとる方法はひとつ。
しかしそれをシンタローの前で行うことに対して躊躇している。
だからこそ、あの時はとっさに動けなかったのだろう。
ならば、高松は?
一体何が彼の意識を逸らした?
一人で物思いに耽っていると、隣に誰かが座った。
「グンマ様、本当によろしかったんですか?」
「も~、高松は心配性だな~。大丈夫だよ」
とたんに意識を切り替え、いつものように笑うグンマ。
意識して切り替えているわけではない、自然にモードが変わるのだ。
「ですが…」
「それにね、これは僕の感だけど――行かなきゃいけない気がしたんだ」
いつもの笑顔のままなのに、雰囲気が変わる。
はっと高松はグンマを凝視した。
高松は度々、このような場面に遭遇したが今回はいつもとはどこかが違っていた。
気のせいかもしれないし、勘違いかもしれない。
ただそんなときのグンマは、まるで彼の本当の父親を思い出させる。
「さてと、そろそろつく頃だね」
シンちゃんが、桜が見れるって行ってたんだよね~、と笑いながら言うその姿はもはや先程とは別人で。
従兄弟の元へと向かったグンマを見送ると、手のひらを広げる。
うっすらとかいた汗をふき取ると、軽く息を吸い込む。
何かに行き当たったのかもしれないと思うと、グンマの怖さを知ってる分、どうしようもなく気が沈んだ。
それでも誓いを立てたのは真実だから。
一抹の恐れを抱きながら、忠誠を誓った彼の後に従った。












<後書>
私のところの高松はグンマを皆のように馬鹿とは考えていないとと思います。
敬いながらも恐れている、そんな形でしょうか。
唯一、本当のグンマを知っている人。
でも多分全貌は知らないので、その部分が怖い。
本質を知っている分、暴走しないと分かっていてももしも、が怖いんでしょうね。
その上、裏切り行為を働いているから更に二倍。

触れる云々については次回。
何がグンマから剥れたかはそのうち…

わーい、課題がたまるたまる~。




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